ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第3話 悪魔のお仕事とはぐれ

 悪魔になって数日間のことを振り返ると、まず少しの期間、夜中に町中の家のポストに簡易魔法陣のチラシ配りをした。

 悪魔だから、そりゃあ人間の欲望を叶えるものだからね。

 それで人間の欲望を叶える代わりに対価を貰う。……それが悪魔との取引ということらしい。

 そして悪魔はこの魔法陣から出現するらしいから、一度試してみた。

 誰で試したかといえば木場で、試してみたら次の日、木場が苦笑しながら魔法陣から現れた。

 とにかく悪魔になりたての俺はこの仕事をしていた。

 そしてつい先日のことだ。

 ちらし配布期間を終え、次に俺は本格的な悪魔家業を開始した。

 ……既に二人を相手したんだけどさ、それがまたすごい人だった。

 なんか、俺が絶賛するような鍛え上げた肉体に世紀末覇者のような風貌をした依頼人……。

 魔女っ子コスプレの漢の子。

 名はミルたん!

 いや、あれは本気で焦った!

 本気で下級悪魔なら殺せそうな威圧感だったもん! つい顔が引きつったよ! 戦慄したわ!

 しかもお願いが魔法少女にしてくれって!?

 むしろ魔法戦士のほうが似合ってるわ!! むしろあんたは魔王だわ!

 なんてツッコミをついにしたら号泣されたのは内緒だ。

 ……とりあえず、腕に数十キロの重りをつけて、毎日棍棒を20000回振りまわしたらいつか、魔法と同じくらいの強力な力を手に入れれると言ってみると、契約を結んでくれた。

 対価は何故か知らないけど持ってた魔法の本……ちなみにこれはとある悪の組織と戦って、手に入れたらしい。

 ……まあ結果論から得られるものは、肉体的な力だけどね?

 ちなみに本気で毎日鍛錬をしているらしい。

 あともう一人は……あれはひどかった。

 見た目はすごいイケメンで、魔法陣から抜け出た瞬間、突然に「むむ……君、脱いでくれないか」とか言ってきた。

 本気で身の危険を感じたよ。

 それからなんか俺の体を触ってきてさ。……まあ結果的にあの人は本気ですごい人だった。

 美術家で、どうやら男の肉体美をかくのが得意らしい。

 そして俺の体を見て、どうしてかは分からないが気に入ったのか、俺の上半身を裸にさせてひたすら絵を描いてたんだ!

 一応、小さいころから鍛えているから体には自信があったけど……

 後から聞いた話ではあのイケメンさんはかなり有名な美術家で、人の絵……特に男の裸画の評価が高いらしい。

 彼曰く、「兵藤君の体は至高だ。……また君にここにきてもらいたい、なに、おもてなしはするさ。……ふふ」とのことらしい。

 ちなみに対価は彼が今までで最も評価された絵……ちなみにオークションにかけたら数百万は軽く超えらしい。

 とにかく経緯はあれだけど俺は契約を二つ取り、今は放課後。

 そして今は部長の前に立っていた。

 

「……前代未聞よ」

 

 部長はなんか呆れたように言う。

 あれ?俺、契約取ったよね?

 

「普通、悪魔と人間はただのビジネス関係なのよ・・・この魔法陣の書いてあるチラシの裏にアンケートを書けるところがあるのだけれどね。……こんな評価、私は見たことがないわ」

「……えっと、そんなに悪かったんですか?」

「逆よ。良すぎるってこと」

 

 ……え?

 それって悪いこと?

 

「一人目の契約者。ミルたん?さんは『こんな親身になってくれた人ははじめてにょ。また彼を呼びたいにょ』らしいわ」

 

 ……部長が少し顔を赤くしながらミルたんの台詞を言う。

 恥ずかしいんなら言わなければいいのに……。

 

「次に二人目の契約者、桐谷圭吾さん。彼からは『あんな素晴らしい体の子は初めてだ。僕は君を専属のモデルにしたいんだが……まぁともかくまた近日中に君を呼ばせてもらうよ。……次は上だけじゃなく、下の方も―――おっと失言だったね』だそ、そうよ……っ!!」

 

 だから恥ずかしければ読まなきゃいいのに!

 でも恥ずかしがって顔を真っ赤にしてる部長は可愛い!

 

「と、とにかくかなり貴方に好印象で、イッセーを専属にしたいと言ってきているのだけれど……正直、貴方には驚かされまくりだわ」

「……俺も驚いてますよ。ってか圭吾さん。なんか危険な台詞をすごく使ってたし……」

「と、とにかく! あくまで仕事なんだから、必要以上に仲良くなり過ぎちゃダメよ? 契約できたのは素晴らしいけど……」

 

 ……何とも言えない表情をしている部長。

 

「ちなみに桐谷圭吾さんって前に祐斗にも召喚の要請が来たのだけれども、契約取れなかったのよね」

 

 ……マジですか?

 まあ木場はそんなに鍛えてる方じゃないから圭吾さんはあんまりに気にいらないかもな。

 

「まあまあ、部長……結果は宜しいんですから良いではありませんか」

 

 すると朱乃さんがニコニコしながら部長を止めてくれる。

 

「それよりイッセーくんのことが非常に気になりますわ。憶測なのですが、彼には非常に素晴らしいな魔力があるようなので……」

 

 朱乃さんは俺の胸元に手を当てながらそう言う。

 ……まあ人間では異常なほどの量ってドライグは言っていたからな。

 悪魔になって更に増えたのか?

 

「恐らく、私の次に……いえ、もしかしたら私以上に魔力が強いかもしれません」

「でも俺は神器を介してなければ魔力は使えませんよ?」

「……うふふ、そう言えば私、イッセーくんのことは何も知りませんわね。神器を持っているそうですが、何故まだ見せてくれないのです?」

「それは私も気になるわ。イッセーの神器……いったいどんなものなの?」

 

 見せたいのは山々だけど、残念ながら今はまだそんなに使えるわけじゃない。

 神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)は割と安定してきたんだけど、最も俺と適合している赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の力が中々安定しないんだ。

 悪魔になった影響だろうか……。とにかく力をうまく使えないせいで割とストレスも溜まってるわけで、ちょくちょくゲーセンのパンチマシーンでストレス解消しているというわけだ。

 

「……まあまたの機会で?」

 

 すると部長は途端に不機嫌になるが、ちょうどその時、部室に小猫ちゃんが入ってきた。

 

「……先輩、タイ焼き一つどうぞ。ここのたい焼き、おすすめです」

「ああ、ありがとう」

「……今度一緒に、クレープ食べに行きましょう」

「ああ、良いけど――お、うま」

 

 小猫ちゃんは俺に紙袋いっぱいに入ってるタイ焼きの一つをくれた。

 中身は……イチゴジャム?

 でも意外といける。……っと、部長と朱乃さんはなんか驚いてた。

 

「「小猫(ちゃん)が他人に自分のお菓子をあげてる!!?」」

 

 ……二大お姉さまと称される二人はそんなことで驚愕しているけど、俺はそんな二人を傍目に小猫ちゃんの頭をつい撫でた。

 

「にゃん♪」

 

 ……何故だか分からないけど、その仕草に俺はぐっときたのだった。

 ちなみにこの後、俺は小猫ちゃんの愛くるしさから数分の間、頭を撫で続けたっていうのは余談だ。

―・・・

 次の日、その日は休日だった。

 とりあえず午前中に鍛錬をして、午後からは気晴らしに街に出ていた。

 気晴らし……そう。自分の中にいつもいた二人の存在がここ最近、ずっといないからな。

 なんていうんだろうな。

 調子が出ないというか、どこか毎日が物足りないんだ。

 

「こういう時は、絶大なまでの癒しの存在が欲しい…………。ん?」

 

 その時、俺は見知った姿を見つけた。

 白いヴェールを頭に被ったシスター服の女の子……あの後ろ姿は間違いなくアーシアだ!

 俺が最近知り合ったシスターさんで、とても良い子というのは間違いない癒しの存在。

 何故かまた道の真ん中で周りをキョロキョロしながら困った様子でいた。

 ……割と人通りが多い町中だからな、おそらくは迷子か。

 俺は少し早歩きでアーシアの元に向かった。

 

「よう、アーシア! こんなところで何してるんだ?」

「……あ! イッセーさん!!」

 

 アーシアは俺の存在に気付くと、小走りで俺の方に走ってくる。……でもそれも束の間だった。

 

「はぅ!!」

 

 ……丈の長いスカートの裾に足を取られ、そのまま額を地面にぶつけた。

 

「ああ……今のは痛かったな。大丈夫か?」

「うぅ……これも神が与えた試練なのでしょうか……」

 

 アーシアは俺が差し伸べる手を控えめに握ると、そのまま立ち上がる。

 ああ……額に赤くなってるな。

 確かアーシアの神器は回復系統だから自分に使えばいいのに。

 

「アーシア、傷は……」

「……大丈夫です。あの力は、他人のために使うものですから……」

 

 アーシアは屈託ない笑顔でそう言う……そっか、アーシアはこういう子だもんな!

 だったら俺がどうにかしてやるか!

 

「アーシア、ちょっと付き合え!」

 

 俺はそう言うとアーシアの手を取って走り出す。

 さすがに俺も人目の多い所で神器を使うわけにはいかないからな!

 そして俺はアーシアを人気の少ない公園まで連れて行き、そしてそこでベンチに座らせた。

 

「……神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)

『Force!!』

 

 俺の胸にブローチ型の神器が発現し、そこから小さな白銀の光が生まれ、音声と共に創造力が溜まる。

 小さな傷を直すぐらいの神器なら今の俺でも作れるはずだ。

 

『Creation!!!』

 

 その音声とともに俺の手元に瓶型の神器、呼称としては癒しの白銀を創造する。

 

「アーシア、少し目を瞑っていろよ?」

 

 アーシアは俺の今までの行為を見て目を見開いているけど、かまわず俺は瓶の栓を抜いて、中の少量しかない白銀の粉を振りまいた。

 するとアーシアの額が、少しずつ治っていく。

 

「あの、イッセーさん……これは、私と同じ力ですか?」

「まあ創ったっていうのが正しいけどな……さて、何かお困りかな?」

 

 俺は初めてアーシアと出会ったときの台詞をそのまま使うと、アーシアはおかしそうに笑ってくれた。

 

「そのイッセーさん……私はどうやら方向音痴みたいです。……また迷子になりました」

「あはは。……俺も大分、方向音痴だから大丈夫だよ。俺はこの町を出たら多分ずっと迷子だ!」

 

 俺は少し笑ってそう言う。

 アーシアも笑ってくれる。…………ああ、癒しだ。

 そう、俺はちょうどアーシアのような存在を今、望んでいたんだ。

 

「じゃあまた連れて行こうか?」

「……いえ、落ち着いたらなんだか帰り道が分かりましたから大丈夫です!」

「そうか? ちょっと残念だな。せっかくアーシアと話せる思ったのに……」

「・・・ッ!!」

 

 俺はわざとらしくアーシアの気を惹くためにそう呟いた・・・流石にバレバレか。

 するとアーシアは突然、ハッとしたような表情になった。

 

「や、やっぱり道を忘れましてしまいました!はう!なんて私は駄目な子でしょう!」

 

 アーシアは演技臭い言葉を紡いでそう言う・・・アーシア、流石にバレバレだよ。天に手を仰いでいるようで俺の方をちらちら見てるし。

 

「じゃあ一緒に行く?」

「はい!」

 

 アーシアは満面の笑みでそう言った。

 

―・・・

 アーシアを教会まで送り届けたその日の夜、俺は部室で少し怒っている部長に怒られていた。

 

「二度と教会に近づいたらダメよ」

 

 部長はいつになく表情が険しく、とても怒っていた。

 流石に他の部員も苦笑いをしたり、相変わらずニコニコしたり、なんかおどおどしてる後輩ちゃんもいたりしている。

 

「良い?イッセー……私達、悪魔にとって教会とは踏み込めばそれだけで危険な場所なの。それこそ、いつ光の槍が飛んでくるかわからないわ」

 

 ……部長は、本当に心配そうな表情でそう淡々と怒る。

 部長は自分の眷属をとても大切にしてるからかな?

 小猫ちゃんの時も、堕天使に平然を装ってたけど明らかに怒ってたし……グレモリーは悪魔にしては珍しく、情愛が深い。

 これは木場が俺に言ってきたことだ。

 グレモリー家は悪魔の中でも情愛が深いことで有名らしい。

 つまり身内を大切にする、か……。

 俺は素直に頭を下げた。

 

「次からは、気をつけます」

「……いえ、私も少し熱くなりすぎたわ。でもこれだけは言わせてちょうだい……。悪魔祓いは私達、悪魔を完全に消滅させる。悪魔の死は無よ。それだけは覚えていて」

 

 そう言うと部長はそれからは何も言わなかった。

 すると朱乃さんは見計らったように、部長に話しかけた。

 

「お説教はすみましたか、部長?」

「朱乃、どうしたのかしら?」

「ええ。―――大公より、はぐれ悪魔の討伐命令が届きました」

 

 朱乃さんの言葉に俺以外の眷属の皆が真剣な顔に変わったのだった。

―・・・

 はぐれ悪魔とは簡単に言えば野良犬のような存在だ。

 はぐれ悪魔とは、眷族である悪魔が主を殺し、主なしという状態になる極めて稀な事件らしい。

 そんなはぐれ悪魔がグレモリ―領であるこの町に潜入していて、毎晩、人間をおびき寄せては喰らっているらしい。

 ……大体は悪魔の転生者が起こす事件だけど、悪魔という絶大な力を持ったからって、主を殺すまでのことなのかよ、と俺は毒づく。

 ちなみにあのスーツの男や小猫ちゃんを襲っていたあの女の堕天使が、はぐれを殺すと言っていたのは、各勢力がはぐれは見つけ次第、殺すようになっているらしい。

 まあ人の害悪になるような存在だろうからな・・・まあそのことに納得はしないけど。

 そして俺たちは、今は廃墟にきている。どうやらここにはぐれ悪魔が潜んでいるらしい。

 

「…………血の匂い」

 

 小猫ちゃんはそう呟く。……ああ、確かに嫌な匂いがぷんぷんしてる。

 

「イッセー、いい機会だから貴方にも悪魔としての戦い方を経験してもらうわ」

「……それは俺も戦えってことですか?」

「ん~……。確かに貴方の力も見てみたいけど、それはいざってときにね―――それとそろそろ悪魔の駒(イ―ビルピース)の各駒の特性と由来をレクチャーするわ」

 

 それは俺も確かに知りたかった!

 ……それといざっていう時のために、俺も力を溜めておくか。

 一応、あれから自分なりに神器なしでの魔力の使い方を練習したから、軽い魔力弾なら打てるだろうから。

 

「人間の世界にはチェスというボードゲームがあるでしょ? 悪魔がどうして人間を転生者として悪魔に変えようとしたのかは話したわね?」

「ええ。悪魔の出生率の低さですよね」

「実際にはそれだけじゃないんだ」

 

 すると木場が部長に代わって話し始める。

 

「三勢力の戦争はね、永遠とも呼べるもので数百年の年月、戦い続けたんだ。もちろん勝者なんかは存在せず、三つ巴の戦いの結果、各勢力の当時のトップのほとんどは死んでいったんだ」

「悪魔はその時に多くの純粋な悪魔を失い、兵力を失いましたわ・・・ですが堕天使や天使との臨戦態勢は消えません。そこで大きな兵力の数は無理ですので、逆に少数精鋭にしようとしましたわ」

「…………それが悪魔の駒(イ―ビルピース)です」

 

 木場、朱乃さん、小猫ちゃんの順番で説明してくれる。

 なるほどね、そんな過去は流石にドライグも教えてくれなかったな。

 それから説明してくれたことは、強い眷属を持ったから次は悪魔が自分下僕を自慢したいがために生まれた、悪魔同士のゲームを模した戦いのこと。

 それを総称して『レーティングゲーム』と呼ばれているらしい。

 あとは駒の種類があり、なんでも『兵士』『騎士』『戦車』『僧侶』『女王』の駒があるらしく、そしてその頂点にあたるのが『王』だ。

 つまり『王』は部長だろうな。

 

「部長、俺の駒の役割は何ですか?」

「イッセーの駒? それなら―――」

 

 ……すると部長は説明の言葉を止めた。

 止めた理由は俺もすぐに分かった。

 

「はぐれ悪魔のご登場ってわけか」

 

 ……俺の視線の先には馬鹿みたいに大きな、上半身は女、しかし下半身は化物のように四足という存在がいた。

 さらに手には槍みたいな獲物……なるほど、これがはぐれか。

 

「不味そうな匂いがするぞ? だがうまそうな匂いもする……甘い、ぎゃ!!?」

 

 すると、突然、はぐれ悪魔の顔に何かが衝突した……

 まあ俺があいつの顔面に軽い魔力弾を放ったんだけどね?

 はぐれを全て否定はしないけど、少なくともこいつの声でこいつが何で主様を殺したのか分かった。

 ―――単に、自分の欲望を満たしたかったから。

 なら俺も容赦はしない。

 

「おい、はぐれ悪魔。なんか言ってるとこ悪いけどさ……。お前が主を自分の欲のためだけに殺したんだからさ―――これは自業自得だ!」

 

 ……おっと、流石の部長達もキョトンとしているな。

 俺が魔力弾を放ったことじゃなく、多分、容赦なく相手の顔面に放ったことをだ。

 

「イッセー、あなた……」

「あ、どうぞ。部長」

 

 俺は一歩引いて部長を前に立たせた。

 

「己の欲を満たすために主を殺したはぐれ悪魔、バイサー。悪魔の風上にも置けない貴方を消し飛ばしてあげる!」

 

 部長は気を取り直したかのように、既に顔に傷を負っているはぐれ悪魔に億さずに言った。

 

「黙れ、小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

 って俺か!

 つーか、部長の台詞をほとんど聞いていないらしい。

 

「祐斗」

「はいっ!」

 

 部長の声に木場は腰に帯剣してた剣を引き抜き、常人には目にも負えないような速度で動いていた。

 

「じゃあイッセー、気を取り直して駒の特性を説明するわ」

 

 すると部長は木場の方を見た。

 当の木場は非常に速い速度ではぐれ悪魔の槍による攻撃を全ていなし、軽くかわしている。

 

「祐斗の駒の性質は『騎士』。あのように騎士になった悪魔は速度が増すわ。……そして祐斗の最大の武器は―――剣」

 

 すると木場ははぐれ悪魔の槍を持った片腕を、一瞬で切り落とした!!

 あれは……俺もかすかに見失うほどの速度だった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 はぐれ悪魔の切断された腕からは血が止まらない!

 そうしている中、絶叫の途中のはぐれ悪魔の足元に小猫ちゃんがいた!

 

「小猫の特性は『戦車』。その力は……」

 

 すると、はぐれ悪魔は小猫ちゃんをその巨体なる足で押しつぶそうとしていた!

 まずいと思い、俺は魔力を放とうとするが……部長に止められる。

 

「大丈夫よ……。小猫は『戦車』。その力はいたってシンプル」

 

 踏まれているはずの小猫ちゃんが、はぐれ悪魔の足をぐぐぐっと持ち上げてた。

 

「馬鹿げた力と、圧倒的な防御力!あんな悪魔じゃあ小猫はつぶれないし、それに……」

 

 部長は小猫ちゃんの方をじっと見た。

 

「……先輩に良いところを見せなきゃ……ッ! 吹っ飛べ、えい……ッ!!」

 

 そしてその小さな拳ではぐれ悪魔の巨体を殴り飛ばした!!

 さ、流石は戦車のパワー……普段の可愛い一面とはすごいギャップだ。

 

「……なんだかやる気みたいだわ」

 

 こっちまで声は届かないけど、部長は嘆息してそう呟いた。

 

「最後に朱乃ね」

「あらあら、うふふ……分かりました、部長」

 

 朱乃さんはそう言うと、そのまま悪魔の方へと歩いてゆく。

 はぐれは木場の切断と小猫ちゃんのやる気の打撃で既に戦闘不能だった。

 っと、あのはぐれが槍を少し動かしているのに俺は気付いた。

 

「おっと!」

 

 はぐれ悪魔は部長に向かって槍を投げてくる!

 ま、警戒していたから俺は部長を引き寄せて、そのまま手の焦点を向かい来る槍に向け、そして魔力弾を放った。

 

「あ、ありがと……」

「いえいえ」

 

 俺がそう言うと、部長は気を取り直して朱乃さんを見た。

 

「あらあら、うふふ……部長に手を出すなんて、おいたが過ぎましてよ!」

 

 すると、朱乃さんの手からビリビリと、電気のようなものが発生する。

 

「朱乃の駒は『女王』。……『女王』は『王』を除いた全ての特性を持つ、最強の駒。最強の副部長よ」

 

 するとはぐれ悪魔の上空で雷雲のようなものが発生し、次の瞬間、そこから激しい落雷がはぐれ悪魔を襲った!

 

「ぐぎゅゅゅゅ…………」

「あらあら―――まだ元気みたいですわねぇ」

 

 ……鬼だ。

 既に瀕死のはぐれ悪魔に、これでもかっていうほど雷撃を浴びせ続けているっ!

 二度、三度、四度!?

 はっきり言って、あの雷撃は一撃一撃が相当強力なはずだ。……そして何より、朱乃さんの表情が

 

「うふふふふふふふ!」

 

 ……笑ってる。

 もう楽しいのがこの距離で分かるくらいに雷撃を浴びせることを楽しんでるよ、あの人!!

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。イッセーがさっきした、魔力による衝撃弾もその一つね。特に彼女が得意なのが雷……そして何より、彼女、究極のSだから」

 

 部長がサラリと告白するけど、寧ろあれを見てそうじゃないって言える人がいるのだろうか……

 

「ふふふふふ!!まだですわ!!」

 

 ほら、まだまだっといったように未だに雷を撃ちい続けているし!

 表情もなんか生き生きしてるし!?

 …………俺はこの人には逆らわないでおこうと決めたのだった。

 

「大丈夫よ、朱乃は味方にはすごく優しいから」

「ならいいんですけど……」

 

 俺は苦笑いでそう呟く。

 

「うふふ。そろそろ限界かしら?とどめは部長ですわ」

 

 すると朱乃さんは雷撃を止め、部長に道をつくった。

 

「何か言うことは有るかしら?」

「……殺せ」

 

 はぐれ悪魔はその一言と同時に、部長の手より極大の魔力が生まれる。

 その魔力は黒と赤を混ぜたような少し気味の悪いオーラを放っており、危険な匂いがプンプンしていた。

 

「そう。……なら消し飛びなさい」

 

 その一言とともに部長から発せられた魔力の塊を受け、はぐれ悪魔は跡形もなく消しとんだ。

 

「……お前も、人間のままだったらこんなことにはならなかったんだろうな」

 

 俺は、誰にも聞こえないような声で小さくそう呟いたのだった。

 そして俺は部長に、一番気に気になっていることを投げかけた。

 

「それで部長。……俺の役割は?」

 

 ……まあほとんどの答えは出てたんだけどさ?

 予感というか、予想というか―――そしてそれは普通に的中した。

 

「『兵士』よ?」

 

 ……笑顔でそう言う部長に、俺は肩を落とすのだった。

―・・・

 はぐれ悪魔の討伐の帰り、部長は俺への召喚についてを話した。

 どうやらまた契約を取ろうとする人間がいるらしく、そして廃棄からそう遠くない家らしいから、俺は徒歩で向かってる。

 歩いて召喚に応じる悪魔っていうこともあって、部長とかは皆、苦笑いしてたっけ?

 とにかく、俺は召喚した人間の家の前に到着した。

 さすがに夜中だからインターホンは不味いか?そう思ったその時だった。

 

「……この感覚は、まさか」

 

 ……この血が凍るような感覚。

 悪魔の天敵が、ここにいる。

 

「もしかして…………っ!!」

 

 俺は嫌な予感を頼りに、その家に土足で踏み入れる。

 正直、予感は外れていて欲しい。

 家の中は明かりがついていなく、そしてリビングは薄暗いライトがついているだけであって、そして……

 

「お前、何してんだ?」

 

 ―――血を出して倒れる人と、それを見下げている白髪の神父服のような服を着ている男がいた。

 

「おぉ~?これはこれは、下種で下種な存在な悪魔くじゃあ~りませんか~」

 

 ……ふざけた口調だ。

 俺の予感は当たってる―――ってことは、こいつが……っ!

 

「お前が、やったのか?」

「ええ? ああ、これでありますなぁ……そう! 俺っちです、はい! こんな悪魔を頼る糞みてえな人間なんかジ、エンドですよ!! 死んで当然、殺されて当然、むしろ俺という至高に殺されたんですからねぇ……感謝感激ぃぃぃ!!」

 

 ……………………こいつは、何を言ってんだ?

 人を一人、その手で殺しているのにそれを当然? 感謝? ―――ふざ、けるな。

 その時、俺の頭の中の理性を縛るネジが……

 ――――いとも簡単に、弾けた。


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