俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜 作:アドライデ
ローレシアの南の祠に着いた。一人の老人が焚き火をしており、奥に鍵の掛けられた扉が見える。
「この世界には銀のカギと金のカギのニつがあり、扉にもそれに合うニつの種類鍵穴がある」
挨拶したら、そう返された。そう言えば、サマルトリアの牢獄にいた人も言ってたな。金と銀、ローレシアのお城にも昔から入っちゃダメって言われていた扉があったことを思い出す。
「まず、銀のカギを見つけなされ。サマルトリアの西、湖の洞窟の中じゃ」
「おぉ、そうなのか」
直ぐ近くにあることに驚く。ならば取りに行こうとサマルに声をかける。
「だがカギを探すのは仲間と二人になってからじゃぞ! 一人では生きて帰れまい!」
「サマルがいるから大丈夫だぞ!」
「僕の名前はパウロだよー」
誰一人として噛み合わない会話をしているが、誰も気にせず。老人に礼を言って、祠を後にする。
敢えて、注釈することから湖の洞窟は、今まで以上に強敵なのだろう。
流石に往復すると距離があり、一日では到着しなかったので、サマルトリアのお城の城下町で一泊することにする。
その前に王に無事にサマルと出会えたことを伝える。
「お兄ちゃん!」
謁見の間から出た廊下で、一人の少女が駆け寄る。サマルの性格を教えてくれた妹君である。
「ねー、あたしも連れてってよお!」
「ダメだよ、お前は」
「お兄ちゃんのいじわるう」
流れるような会話に感動する。抱き付きせがむ妹に、優しくそして少し困ったように頭を撫でる兄。直接の兄弟と言うのが存在しないので、少し羨ましいと思う。
「良いところだな」
「自然は周りにいっぱいあるよー」
漏れた言葉にニコニコと嬉しそうな声が乗る。
「もう! お兄ちゃんは暢気者なんだからあ。ちゃんと平和を取り戻してきてね。じゃなきゃここも滅ぼされるよお」
既に機嫌が直っているのか、妹は腰の手を当てながら、注意を促す。
「それは困るなぁー」
のんびり答えるサマルに溜息をつく妹。仲が宜しいことで。
一頻り家族の団欒を体験した一行は、次の朝早くに出発した。
「これは強いんだぞ」
サマルトリア領の西側森を超えた辺りから、出現する魔物の種類が変わり、より強くなって来た。
厄介なのが、仲間を呼ぶ【ぐんたいアリ】(見た目【アイアンアント】と良く似ているが緑色をしてる)五匹以上だと、一撃一撃が小さくても、複数で攻撃されるとかなり痛く回避も難しくなる。
仲間を呼ばれる前に倒すようにしなければならない。
「ギラ!」
つまり、サマルの攻撃魔法を使うことになる。火炎魔法であるギラは強い。理想は武器で一撃で倒して欲しいが、無理は言わない。
【おおねずみ】(同じ鼠でも【やまねずみ】よりさらに大きく凶暴)もギラ一発で仕留められる。
魔力の温存は必要だが、一度に襲われる匹数により、使うしかない。
剣での攻撃では纏めて相手するのが難しい。なるべく、一撃で仕留めて、集団で喰らうのを避けるしかない。
そんなこんなで、少し道に迷ったが、無事に湖の洞窟に着いた。その名の通り、湖に囲まれたそこは、じっとりと湿度が高く鍾乳洞に近い性質を持つ。勇者の泉の時もそうだが、この辺りは水が多く。先祖がこの土地を選んだ理由が少しわかる気がする。
「どこにあるんだ」
「どこだろうねー」
見つけた宝箱をかたっぱしから開ける。薬草やら毒消し草やら何やらばかりだったが、持っていて困るものはなかった。手に持てる数は決まっているので事前に厳選が必要だが助かる。
デカくて赤い蟻【ラリホーアント】のラリホー(眠りを誘う呪文)の他、【キングコブラ】の毒攻撃は少々ドキドキする。
「キアリー覚えたよー」
そんな時、サマルがニコニコと報告してくれた。キアリーは解毒作用のある呪文。毒消し草の代わりもできるのか。魔法というのは本当に便利だな。
毒消し草の手持ちの数と吟味しながら使おう。
「宝箱があるんだぞ」
随分深部に来たので、期待も高まる。洞窟内の水たまりを超えた先にあったそれは、まさに求めていたものであった。
その直後、それを渡さないとばかりに現れた【よろいムカデ】
その名の通り、硬い甲殻で覆われたその体は剣を弾く。魔法が有効かとサマルの方を向くと攻撃を仕掛け、弾かれる。
「効いてないぞ。魔法は?」
「ごめん。魔力切れたー」
「!?」
なんと、ゴリ押ししかない。【アイアンアント】との戦いを思い出しながら、鋭い牙の攻撃を忌避しつつ、継ぎ目を狙う。
サマルも意識して攻撃してくれるが、力が足りないのか効果が薄い。
なんとか倒せた時、思わず溜息が漏れる。今回ムカデが集団じゃなくて本当に助かった。
何とか目的を達成できそうである。
ロレンLv.7、宝の周りにはご用心。