俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜 作:アドライデ
「覚えておくが良い、私が偉大なるカミの使いハーゴン様じゃ」
杖の先端の宝珠が光り、イオナズンが炸裂する。杖で叩くように攻撃してくるだけなのに打撃もキツイ。
負けないとローレを中心に攻撃を仕掛ける。攻撃魔法で傷つくもその痛みを無視して素早く切り込む。フラつくハーゴンに更に追い打ちをかける。
「離れて!」
瞬時に飛び退くと、ムーンが振りかざした雷の杖が降り注ぐ。
「ベホイミ」
サマルが傷付いた体を癒してくれる。
「助かるんだぞ」
「魔力が心もとないんだ」
心なしか余裕のない表情で語る。連携で上手く行っているにも関わらず、どこか空回りしているように感じる。
それもそのはずだろう。傷をあれだけつけて、立っているのがやっとのはずのハーゴン。心理的にまだ余裕があるのだろう、ニヤリと笑う。そして、癒しの魔法陣がハーゴンの周囲に描かれる。
「ベホマ」
一瞬で傷が回復する。そして、ハーゴンのイオナズンが炸裂して吹き飛ばされる。何度繰り返されたか、もう既に覚えていない。
相手の魔力の底が不明で、マホトーン同様、防御力を低下さすルカナンも効果がない。つまり、ローレの攻撃力は固定になるため【ベリアル】で使った戦法はできない。ジリジリと力の盾を使ってばかりで、防戦一方になる。
「どうすれば良いんだ!」
「逆に考えるのよ。ベホマが必要なぐらい傷つけている。相手を倒せるということよ」
いつの間にかばらけていた三人が一箇所に集まっている。
「そうか、相手に回復する隙を与えなければ良い」
サマルの言葉に首を傾げる。それに笑みを深くするサマル。
「良いかい?」
サマルがわかりやすく耳打ちしてくれる。
「何度やっても同じことよ。私の魔力は無限に湧き出る。仲良く加護が発動できないほど痛めつけてやろう」
闇の卵の力か、確かにイオナズンをバカスカ放っているにも関わらず、魔力の衰えは感じさせない。このハーゴンの言葉は正しいだろう。ローレは相変わらず力の盾で自己回復し、隙あらば攻撃するを繰り返している。馬鹿の一つ覚えのように映るだろう。それは承知の上だ。
今、自分の役割は時間稼ぎのそれである。
体力、気力満タン。サマルとムーンの準備も完了。タイミングはローレの攻撃でハーゴンが怯んだその隙。
防戦一方だったサマルとムーンが動き出す。初めにムーンのイオナズンが炸裂する。その爆風に合わせてサマルが詰め寄る。
「お前の攻撃なぞ、痛くもかゆくもないわ」
返り討ちにしてくれるわと杖で殴り飛ばす。ニヤリと笑うサマル。殴り飛ばされたにも関わらず、盾でそれを防ぎ回復する。そこでハーゴンは完全に囮であることを理解する。
「当たり前だよ。僕が決め手になるわけないよ」
ムーンは雷の杖を振り上げると雷がハーゴンに落ちる。一瞬フラつくのを見届ける。最初の段階で効果があったことはわかっていた。ハーゴンが次に取る行動は恐らく回復。それはさせない。ローレは背後から忍び寄り、切り込む、切り込む。
「うおぉぉぉぉーー!!」
一対一だと倒せなかったであろう。こちとら三人だ。負ける気はしない。
「お、おのれ口惜しや……。このハーゴン様がお前ら如きにやられるとは」
ハーゴンは杖で倒れるのを防ぎ、心臓部分をわし掴む。まだかっと、もう一回攻撃を喰らわそうと、剣を振り上げる。
「しかし、私を倒しても、もはや世界を救えまい!」
叫ぶ声に一瞬、体が硬直してしまう。ハーゴンは仰け反り、笑う。
「我が破壊の神シドーよ! 今ここに生け贄を捧ぐ! ぐふっ!」
人ならざる血の色が飛び散り、ハーゴンを取り巻く闇のオーラだけが取り残される。
「どう言う意味だ」
辺りを見回しても何も起こらない。振り上げていた剣を下ろし、未だに渦巻いている黒い気体の塊に手を伸ばす。触れる前に離散し前方に掲げている巨大な邪神の像へ吸収された。
途端、地響きが鳴り響く。立っていられない程の地震。上下左右に揺すぶられる。この建物も耐えきれず柱や床が歪み出す。
とうとう、邪神の像が耐えきれず崩れ落ちる。崩れた先は亜空間のようになっており、そのヒビ割れた先から、一、二…三対、六本の腕が空間を押し拡げる。
「破壊神シドー…」
ハーゴンが信仰していたカミ。緑の竜の鱗、巨大なコーモリの翼、蛇のような尻尾、三対の腕からは鷲の様な鋭い爪、大きな口からは巨大な牙が見える。大きさは人が五人いても足りない程でかい。
これが闇の卵が孵化した姿。知性を持たぬ悪の化身。世界を、全てを、無に帰す究極のモンスター。
「ぐおぉぉぉぉーー!!」
吠えるその勢いですら、その場の全員を傷つける。
「勝てるのか?」
思わず漏れる言葉。
「…………負けると言うことは、ここからこのモンスターを外へ、この世界に放つと言うことよ」
どう言う意味だと思い、サマルを見る。冷汗が止まらないとばかりに、苦笑して説明する。
「つまり、この世界の終わりだね」
なるほど、単純明快である。
「じゃあ、負けると言う選択肢は…」
「ないわ!!」
三人は互いに鼓舞し、顔を合わせて頷き合う。
「いくぞ!」
三方向に散りじりになる。
一箇所に固まっていると、シドーの爪にまとめて餌食になる。よほど緊急以外は自己で回復する。
「ラリホー、マヌーサはダメ、ルカナンは効くわ!」
シドーは言語を話すことはない、我武者羅に破壊を繰り返すだけだ。目の前にいる人ですらただの鬱陶しい蝿のようなものとしか認識していないだろう。
「ベギラマ、マホトーン無意味、スクルトで強化するよ!」
シドーは魔法を使わない、そして効かない。巨大な六本の爪で城の壁ごと砕くように襲い来るだけである。物理なら防御力を上げるスクルトは有効だろう。盾で爪を弾きながら、切り込む。ムーンのルカナンが掛かれば掛かるほど、切り込む時の鱗の抵抗が少なくなる。
鬱陶しいと叫ぶように四方に口から炎を吐き出す。一瞬で呑まれ、辺りは火の海となる。
「…っ!」
ロトの鎧の加護が無ければ、燃え尽き即死だっただろう。力の盾を掲げながら辺りを見渡す。所々で青い癒しの光が見える。皆無事らしい。ホッとして改めてシドーを見る。
「これは…ベホマ?」
正確には自動回復いや、自動修復というべきだろうか。先程、与えたはずの傷が治っている。サマルやムーンではルカナンで下げたと言えども、皮膚の硬さは太刀打ちできない。傷つけられるのはローレだけだ。しかし、この回復では傷つけても傷付けても、治されてしまう。
万事休すか…。
『今こそ、悪の根源であるシドーを闇を打ち払うのです』
不意に聞こえる仲間ではない第三者の声。思わず空を見上げる。
『剣を稲妻の剣を掲げるのです』
混乱の中、言われるがままに稲妻の剣を掲げる。ルビスの御守りが、いや、ロトの御守りも共鳴して、自らの無いはずの魔力が爆発する。
「サマル! ムーン!」
多くの言葉はいらない。杖の宝珠に魔力を組み込み掲げるムーン。指先に魔力を貯めるサマル。一斉に振り上げるそれに稲妻が落ちる。白い稲妻は三人を包み込む。
「ミナディン!!!」
三人の声が重なる。白い光は真っ直ぐに破壊神シドーの元に炸裂する。
ロレンLv.30、終焉の時。
byDQMV