俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜   作:アドライデ

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Lv.11:ムーンブルクの王女になった。

 

 眩い光が辺りに立ち込め、目を開けるとゆるいウエーブのかかった髪がふわりと揺れる綺麗な少女が目の前にいた。

持っていたラーの鏡は反動で砕け散り、跡形もなく消え去る。

 

 暫くの硬直が互いに起こったが、少女は先に我に返り、自身が元の姿に戻れたことを認識する。

「ああ、元の姿に戻れるなんて……。もうずっとあのままかと思いましたわ。私はムーンブルク王の娘マイコ。私もあなた方の仲間にしてくださいませ。共に戦いましょう!」

「うん。こちらこそよろしく頼むよ」

 身を乗り出すような意気込みに若干戸惑いつつサマルはニヘラと笑い握手をする。

「あら、あなた達、どうしてそんなにボロボロですの?」

 ムーンの疑問は最もである。サマルが説明をしようと口を開きかけるが、すぐに遮られる。

「サマル! ムーンが生きてたんだぞ!」

 漸くその事が実感できて思わずムーンを抱きしめる。

 一夜にして崩壊したムーンブルク城の惨劇を目の当たりにして、生きているものの可能性を見いだせなかった。そんな中で呪われていたとはいえ、ムーンが生存していたのである。嬉しくない訳がない。

「苦労したもんね」

「え、ちょ、どういう事なの!?」

 事情の知らないムーンがあたふたとしている横で、サマルは声に出して笑った。

 

「…そう。生き残りは私だけなのね」

「うん」

 一行は宿屋に泊まり、ムーンブルク城での出来事を大まかに説明する。覚悟はしていただろが、辛いことには変わりない。

「ところで、あなた達の名前なのだけど」

 これ以上、ムーンブルクの出来事から目を背けるように別の話題に逸らす。

「僕の名前はパウロだよ。彼からはサマルと呼ばれているね。こちらはロレン。僕はローレと呼んでいるよ」

「偽名なのかしら?」

 渾名で呼び出した理由はパウロの名前を覚えずに、ずっと『サマル』と呼んでいるからである。サマル曰く、身分を隠す必要があるのでこちらの方が便利だろうと、修正を諦めて楽天的に解釈したらしい。

「僕らの名前は有名だからねー」

「そうなのか?」

 ピンとこないがそうなのだろう。本名と違う呼び名で呼ぶことに納得したムーンは、再び思案する。

「ならば私は…何がいいかしら」

「ムーンはムーンだぞ」

 さも当然のように言うと目をパチクリと瞬きして、微笑む。サマルもムーンが納得してくれたからか同じように笑う。

「そう言うことだね。改めてよろしくね」

「よろしくなんだぞ」

「えぇ」

 改めて握手を交わし合う。三人で握手をしたのでどちらかと言うと円陣を組むような形になった。

その滑稽さが、凝り固まってた何かポロリと落とした気がする。そんなムーンの微笑みだった。

 

 

「行く宛が決まってないのよね?」

 次の日。武器と防具のお店寄りつつ、今後の予定が未定であること伝える。

 ハーゴンを打ち倒すと言う目標はあれど、それがどこにいるのか、わからない。ムーンもそこの情報は掴んではいなかった。

 

 彼女曰く、覚えているのは空から多くの魔物が襲ってきたこと。ムーンブルク王は娘を護り命を落としたこと。娘は呪いにより犬に姿を変えムーンペタの町まで逃れたと言うことだ。

『役に立てなくてごめんなさい』

 震えながら、あの惨状からの手がかりを思い出そうとするも、脳が拒絶する。

『わからないのなら、しょうがないんだぞ!』

『うん。僕たちはまだ何も知らないし、これから知っていけば良いんじゃないかなー』

 互いに笑い合う。元々、ここに来た理由も手掛かりがないから、取り敢えず見に行ってみようという、単純な動機である。

『そうね。地道に探しましょう』

 どこか溜め息つきつつの承諾。焦ってもしょうがない。今見える一歩を踏み出すしかない、何時かは届くと信じて…。

 

「装備できるのないのか」

 男の重装備が主流の店にはムーンが装備できるものが売っていなかった。サマルもここの鎧は無理と言っていたので、戦士として鍛えていたわけではないムーンが着るのは、やはり無理があったと言うことか。

「そう言えば、リリザに聖なるナイフ売ってたねー」

 サマルが思い出したように呟く。聖なるナイフ、攻撃力が値段と比例していたから、役に立たなさそうと買わずじまいだった武器の一つ。200Gが微妙な値段だったが、そこいらにあったひのきの棒よりはマシだろう。

旅に出たことがないムーンの修行も兼ねて、一度リリザの町に戻ることを決めた。

 

「こうやって、戦ってきたんだぞ!」

 まだ旅に出て、そこまで経っている気がしてなかったが、道中の敵を全て一撃で沈められ、身体的成長を実感する。

ムーンには、今回一撃で倒せたが、苦労したことなどの体験談を大まかに説明した。

「そうなのね」

 相槌を打ちつつ、要領の得ない説明を眩しそうに微笑みながら聞いてくれるムーン。

サマルが仲間になって、ただ攻撃するだけじゃなく色んな策略がいることを知った。ムーンが仲間になって、また新鮮な気持ちへと旅が進化した気がする。

 

 ロレンLv.11、遥かなる荒野を目指す。


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