BIOHAZARDirregular PURSUIT OF DEATH   作:ダークボーイ

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第十章 『発動!STARS最終作戦!』

 

『まだ奴らの所在は掴めないのか!』

 

 薄暗い部屋の中に、複数の人間が密談を行っていた。

 よく見ると、それらは一人を除いて全員が高精度のディスプレイを使った双方向通信であり、映し出されている顔はどれもが困惑や焦りを浮かべていた。

 

『今の所バリー・バートンが家族の元を訪れた事と、レオン・S・ケネディが再三に渡ってHCFのスパイの説得を行っている事は分かっている』

『問題は他のメンバーだ!特にリーダーのクリス・レッドフィールドと最強のサムライ、ミズサワ レンの所在を早急に突き止めなくては!』

『フリーメーソンがSTARSに協力しているとの話もあるぞ』

「何も慌てる必要は無いだろう」

 

唯一、そのディスプレイ群を前にして今まで無言だった男が口を開いた。

 

「彼らは間違い無くここに来る。歓迎の用意をしておけばいい」

『しかし……』

「何か問題でも?」

 

 反論しようとした日本人らしい中年男性の映っているディスプレイを、男は冷笑を浮かべながら見据える。

 ただそれだけで、その中年男性は震え上がるようにかしこまった。

 

『い、いえ、こちらも新型タイラント"スサノオ"の調整がまもなく完了します。準備は万全です』

「例の件は?」

『ネメシスーO型の詳細調整要綱はすでに提出済みです。あとはそちらの調整だけです』

「よろしい。他の皆も充分に警戒するよう。近い内に彼らはまた大規模な作戦を展開するだろう」

『了解しました』

 

 皆の返答と同時にディスプレイが消える。それを見た後に、男はおもむろに立ち上がりながら、部屋の照明を点ける。

 部屋の照明が点くと同時に、男の背後にあったブラインドが上がっていき、その向こう側にある物を次第にあらわにする。

 

「もう直だというのに、無粋な輩が来るかもしれません」

 

 男はそれに向かって語りかけながら、窓へと歩み寄る。

 

「いや、これも運命なのでしょうか?それとも彼らに会わせろと?」

 

 そこまで言って、男は微かに微笑を浮かべる。

 

「それもまた一興。せいぜい手厚い歓迎の準備をするか…………」

 

 意味ありげに笑いながら、その男―製薬会社アンブレラ代表取締役ダーウィッシュ・E・スペンサーはその部屋を後にした。

 

 

 

同時刻 フランス パリICPO事務総局

 

「以上が、我々が五年を費やして集めた全データです」

 

 クリスの説明が終わると同時に、室内の秘密裏に召集された世界中の警察の最高責任者がある者は疑惑の、ある者は確信の表情を浮かべながらデータに目を通していく。

 

「はっきり言えば信じられないと言いたい所だな」

 

 列席者の一人が口を開く。

 

「だが、似たようなデータがパリ警視庁とGIGNから届いている。信じない訳にはいくまい」

 

 その人物、パリ警察警視総監は苦い顔で呟いた。

 

「紛れも無く、これは真実だ。ICPOも大分前から世界中の誘拐、人身売買事件に関与している組織の影を追っていた」

「それが、アンブレラだったと?」

 

別の列席者の問いに、ICPOの事務官は無言で頷いた。

 

「この度皆さんに集まってもらったのは他でもない。このデータを元に、全世界でアンブレラの一斉検挙を行う為です」

『!』

 

 事務官の言葉に、クリスと彼を除いた全員が驚愕する。

 

「かりにも軍用生物兵器だ。警察で対処出来るのか!?」

「最低でも対テロ部隊、場合によっては特殊災害の未然阻止として軍の特殊部隊を動かす必要が在るかもしれません」

「軍を動かす事が可能なのですか?」

「これと同じ物が国連の安全保障理事会に提出されております。最悪の場合、国連軍が直接介入する可能性も有りえます」

「だが、一つだけ肝心のアンブレラ総本部は北極にあるというではないか。そこはどこが対処するのだ?」

「そこは、我々が向かいます」

 

 クリスの言葉に、全員が彼へと視線を集中させる。

 

「大丈夫かね?かりにも君達は対テロ部隊ですらないと聞いているが」

「だが、私達は対BOW戦のプロです」

 

 クリスの自信に満ちた言葉に、全員が押し黙る。

 

「決行の日程は?」

「追って連絡する。くれぐれも関係者以外には家族であっても機密にするように」

 

 解散が告げられた後で、各々が席を立って資料を手に室内を去っていく。

 

「少しいいかね?」

「なんでしょう?」

 

 クリスも席を立とうとした時、日本警視庁の警視総監が声を掛けてきた。

 

「STARSに御神渡家の関係者がいると聞いたが、本当かね?」

「サムライの、いやレンの事でしょうか?」

「レン……なるほど彼か」

「ご存知で?」

「恥ずかしい話だがね、二年前に関西SATが訓練とはいえ、たった二人相手に壊滅させられた事が有った」

「それを彼が?」

「彼と御神渡家の現当主がだ。二、三人ばかり病院送りにされたが、彼は痣位しか負傷してなかったそうだ。もっとも、警察の道場でゴム弾とはいえ実銃を発砲したのも彼が初めてだったがね」

 

 レンの予想外のエピソードに、クリスがどう反応したらいいか困っている所を警視総監は楽しそうに笑いながら、肩を叩いた。

 

「まあ、彼がいるならそちらは心配いらないな。よろしく頼むよ」

「は!」

 

 クリスの敬礼に、警視総監も返礼した。

 

 

 

四日後 カナダ

 

「………これで何日目だ?」

「かれこれ半月です」

 

 バリーの問いに、ミリィが答える。

 二人の視線の先では、ベッドの上で座禅のような姿勢のレンが微動だにしないで座っていた。

 

「僅かに食事を取る以外は本当に動こうとすらしないとはな………」

「なんでも呼吸法と瞑想を組み合わせた独自の治療法らしいんです。ただ、その間は完全に無防備になっちゃうんで余程の事が無い限り使えないらしくて」

「まるでヨガだな」

「でも、実際ここ半月の回復は凄いですからね。あと一週間もすれば全治しそうです」

「そうか、なんとか間に合いそうだな」

 

 バリーは先程届いたばかりの資料をミリィに手渡す。

 

「とうとうICPOが?」

「ああ、恐らく世界刑事事件捜査上、例を見ない超大規模な作戦になるはずだ」

「それまでにあの二人が場所ちゃんと特定してくれてるといいんですけど………」

 

 

 

同時刻 北極

 

「寒~~!!」

「言うな!」

 

 ブリザードが吹き荒れる中、分厚い防寒着を着込んだスミスとカルロスの二人はテントの中で震えていた。

 

「とにかく、大分絞れてきたな」

「ああ、間違い無くこの近くのはずだ」

 

 テントの中央に敷かれた地図を二人で見ながら、徐々に小さくなっていった範囲を二人は確認する。

 

「問題はこの間見かけたあいつだな………」

「あれか、間違い無くあいつがここの番人だろ。下手したらサムライの回復を待つしか…!?」

 

 そこで、二人は吹雪の音に紛れて響いてくる唸り声に気付いた。

 

「来やがったか………」

「どうする?」

「逃げられる相手じゃないだろ」

 

 スミスは厳重に包んでいたバーレットM82A1を取り出し、カルロスはAT4ロケットランチャーを準備する。

 そのまま、注意深く外を見たカルロスが敵を確認すると、無言のまま手で左右に分かれるように手でサインを送り、スミスは無言で頷いた。

 カルロスのサインがカウントを数え、0になると同時に二人は外に飛び出した。

 そこには、雪のスクリーンに中に半ば溶け込むような色合いの巨大な影がいた。

 

「でけぇ!!」

「どう見ても天然物じゃねえな!」

 

 それは、体重が1tを軽く超える巨大な白熊だった。

 

「食らいやがれ!」

 

 素早く巨大白熊の右手に回り込んだカルロスがAT4を発射する。

 噴煙を上げながら飛んだロケット弾が相手の右肩に炸裂し、巨大白熊の右腕を半ばまで吹き飛ばす。

 激痛の為か一際巨大な咆哮を周囲に轟かせながら、巨大白熊はその場に立ち上がった。

 

「まだ来るか!?」

 

 いきなり家でも出現したかのようなその巨大さに圧倒されつつも、スミスがM82A1を連射する。

 50口径弾が巨大白熊の体に次々と大穴を穿つが、構わず巨大白熊は残った左腕を振り下ろす。

 

「おわっ!」

 

 スミスは雪原を転げるようにしてそれをかわすが、巨大白熊の攻撃はそのまま二人のいたテントへと当たり、一瞬にしてテントを残骸へと変える。

 

「気を付けろ!食らったらミンチどころかペーストにされるぞ!」

「肉はステーキに限るんだがな!」

 

 片膝を着いた状態で、スミスはこちらを振り向こうとした巨大白熊の肩に銃口を向ける。

 だが、素早く前足を着いた巨大白熊はその巨体からは想像出来ない素早さでスミスの横手へと回り込む。

 

「なにっ!?」

 

 巨大白熊はそのままの勢いでスミスへと襲い掛かろうとするが、寸前で千切れかかっている肩口で炸裂したグレネード弾がその軌道を目標からずらした。

 

「ぼさっとしてるな!食い殺されるぞ!」

「冗談じゃない!こっちが熊ステーキにしてやる!」

 

 AT4を投げ捨て、M4A1を構えているカルロスがアタッチメントにグレネード弾を再装填しながら怒鳴りつける。

 スミスも怒鳴り返しながら、バランスを崩して倒れている巨大白熊へと向けて、立て続けに50口径弾を叩き込む。

 至近距離で撃ち込まれた大口径弾が巨大白熊の巨体を幾度となく震わせる。

 最後の弾丸が尽きると、スミスは警戒したままマガジンを交換しようとして、スペアマガジンがテントの中だった事を思い出して小さく舌打ちする。

 

「やったか?」

「どうだか…」

 

 な、と言い切るよりも早く、雪色の毛皮を深紅に染めながら巨体が周囲一帯に響き渡る咆哮を轟かせながら立ち上がった。

 

「まだ生きてやがる!」

「化け物が!」

 

 カルロスが正確に頭部に狙いを定め、フルオートで巨大白熊の顔面にライフル弾を叩き込む。

 弾丸が片目をえぐり、下あごを貫いてもなお獰猛な咆哮を上げ、巨大白熊は二人を見下ろす。

 

「……男前が上がったじゃねえか」

「オスかこいつ?」

 

 M82A1を投げ捨て、防寒着の下からゾンビバスターを取り出しながらスミスは焦りを感じていた。

 振り下ろされた巨腕を左右へと分かれて避けながら、二人は巨体の両側から弾丸を叩き込む。

 銃撃を意にも介さず、再び前足を地に着けた巨大白熊は素早くスミスの方へと三本足で器用に旋回する。

 

「くたば、!?」

 

 相手の顔面に銃口を向けようとした時、スミスの足が雪で隠れていたくぼ地に取られ、転倒する。

 

「スミス!」

 

 スミスが体を起こすよりも、巨大白熊がその牙を突き立てようとする。

 

(間に合わない!)

 

 とっさにスミスがゾンビバスターを構えてトリガーを引こうとした時、その脇から小さな白い影が飛び出した。

 その影は巨大白熊の顔面に飛び乗ると、そこにへばり付いて執拗にその視界を閉ざす。

 

「……ウサギ?」

 

 その白い影が、一匹のウサギである事に気付いたスミスが首を傾げる。

 視界を閉ざされた巨大白熊が首を必死に振ってウサギを払い落とそうとするが、ウサギは必死になってそれを堪える。

 

「なんで北極にウサギが?」

「どうでもいい!今の内に後ろ足を狙え!」

 

 カルロスの声で我に帰ったスミスがゾンビバスターを正確に後ろ足に狙い、マガジン内の残弾を全て撃ち込む。

 反対側の足にもグレネード弾が撃ち込まれ、なんとか立ち上がろうとした巨大白熊がバランスを崩して後ろ向きに転倒し、その顔面に張り付いていたウサギが素早く離れる。

 なおももがきながら咆哮する巨大白熊の口の中に、カルロスが再装弾を終えたM203グレネードランチャーを向ける。

 

「悪いが、ゲームオーバーだ」

 

 トリガーが引かれ、グレネード弾が的確にその口腔内に飛び込む。

 僅かな間を置いて、炸裂したグレネード弾がその頭部を粉々に吹き飛ばした。

 

「………生きてるか?」

「なんとか………」

 

 凍りかかっている返り血を拭っているカルロスの傍にスミスは歩み寄ると、何気無く先程自分を助けてくれたウサギへと視線を移す。

 

「なんで北極にウサギが?」

「それさっきオレ言った」

 

 ウサギは立ち上がると二人をじっと見、突然向こうを向いて数歩跳ねると再び二人をじっと見た。

 

「……付いて来て欲しいのかな?」

「不思議の国にでも招待してくれるのか?」

 

 お互い顔を見合わせた二人は、今だこちらを見ているウサギの跡を追い始める。

 ウサギは何度となく振り返って二人が付いて来ているのを確認しつつ、先へと進んでいく。

 やがて、一つのクレパスの手前まで来ると、その中を覗きこむような仕草をした。

 

「何か有るのかな?」

「知るか」

 

 二人はそれに習ってクレパスを覗き込むと、そこの遥か奥の方に何かが見えた。

 

「まさか……」

 

 カルロスがポケットからオペラグラスを取り出してそれを覗くと同時に、その目が大きく見開かれる。

 

「見つけたぞ………」

 

 カルロスから手渡されたオペラグラスを覗いたスミスもそれに気付く。

 クレパスの奥には、なんらかの施設の物と思われる通気口が隠れるように備え付けれていた。

 ふと、カルロスはここまで案内してくれたウサギがいつの間にか消えているのに気付いた。

 

「あいつは?」

「……前にレンから聞いた事が有るんだが、オンミョウジが使うシキガミって使い魔は動物の姿をしているんだそうだ」

「あのウサギがそうだとでも?」

「ひょっとしたらな。恐らく20年以上オレ達が来るのを待っていたのかも………」

「…………とにかく、ここの座標を調べて連絡だ」

「ああ」

 

 

 

四日後 日本

 

 深夜の国道を、一台のトラックが走っていた。

 

「くそ、これで三連敗か………」

 

 ラジオから流れてくるナイター結果を聞いていた運転手の男が、馴染みのチームの連敗を知り舌打ちしていた。

 出来ればカーラジオなどではなく、ビールでも飲みながらテレビで観戦したかったのだが、運んでいる物が物だけに夜中にしか運ぶなと厳命されている。

 その苛立ちが、さらなるストレスを呼んで男の気分は滅入っていく一方だった。

 その時、男は後ろから猛スピードで追ってくるバイクに気付いた。

 

「随分と飛ばしてやがるな………」

 

 さして気にもせず、そのバイクが追い越していくのを見ていたが、しばらく行った所で突然バイクはスピンを掛けて急停止すると、それに乗っていた人物が手に持っていた物から光る何かを撃ち上げる。

 

「何だぁ?」

 

 男が首を傾げた瞬間、それは眩いばかりの光を放った。

 

「おわっ!?」

 

 いきなりの出来事に男は急ブレーキを踏んだ。

 法定速度を厳守していた車体は若干の惰性を残し、そして停止する。

 それが、戦場の夜間戦闘で用いられる照明弾だという事を知らない男は突然の出来事に呆然としていた時、乾いた音と同時にフロントガラスに小さな丸い穴が開いた。

 

「いいっ!?」

「Don't move! You are get off slowly!」

 

 それに驚く間もなく聞こえてきた英語に、男は硬直した顔のまま前を見た。

 そこには、バイクに跨ったままサブマシンガンをこちらに構えている赤いレザーベストを着た女性―クレアの姿が有った。

 

「Hully!」

「え?え?」

「ゆっくりと車を降りろ、と言ってるらしい」

 

 真横から聞こえてきた男の声に運転手がそちらを向くと、そこには若い男が一人立って、開け放っていたウィンドウから何かを差し伸べていた。

 ゆっくりとその若い男が手にしていた物を視線で追っていた運転手が、それが自分の首筋に突き付けられた一振りの日本刀である事に気付くと一気に顔面を蒼白に変えた。

 

「わ、分かった………降りる。降りるから、それ離してくれよ……」

「妙な真似をするな。向こうは下手な事したら即座に撃つ気のようだからな」

 

 女性の方を顎で示しながら、若い男は刀を鞘に納める。

 ゆっくりと車を降りた運転手は、その時になってその若い男が墨色の和服姿である事に気付くと全身の血が一気に引いていくような感触に捕らわれた。

 

「あ、あんた、黒いサムライ………」

「それを知ってるという事は、積荷が何かも知ってるな?」

 

 鋭い眼光でこちらを見た男に怯えながらも、両手を高々と上に上げて必死に抵抗の意思が無い事を示す。

 

「く、詳しくは知らねえ!でも、後ろ半分は普通の薬だが、前半分に何かヤバイ物を積んでるって話だ」

「それだけか?ただの運び屋が何で練の、従弟の事を知っている?」

「従弟?」

 

 目の前の男が、社内の裏で手配されていた男で無い事に気付いた運転手が手を少し下ろすが、こちらに銃口を突きつけたままクレアが近付いてくるのに気付くと再び手を高々と上げる。

 

「か、会社の、アンブレラの裏に少しでも関わっている人間全員にSTARSの手配書が配られたんだ!特にあんたそっくりの格好をした男を見つけたのを報告するだけで、スゴイ賞金が貰えるんで覚えてただけだ!」

 

 運転手の目が恐怖を満面に湛えているのを見た若い男は、それがウソでない事を断定すると、女性に銃を下げるように手で促した。

 

「問題はこいつの中身か………」

「残念だけど、そいつは開けられねえぜ」

 

 運転手の男は、コンテナを調べようとした若い男に向けて皮肉気な笑みを送った。

 

「見た目はただのコンテナだが、特殊鋼製の20mの高さから落っことしてもへこみもしない特製品だ。開けるには内部の電子キーに外部から解除コードを入れるしかないが、生憎とオレは持ってない」

「いらん」

 

 若い男は短く言い放つと、半身を引き、鞘に手を添えて居合の構えを取る。

 

「はっ!あんたが例えゴエモンでその刀が斬鉄剣でも斬れる訳が…」

 

 言葉の途中で顎に押し付けられた、まだ余熱の残っている銃口が男の口を強制的に閉ざす。

 それを意にも介さず、若い男は目を閉じ、呼吸を整える。数秒間の間の後、刃が超高速で鞘走った。

 素人目には一撃にしか見えない斬撃が、複数の金属音を周囲に響かせる。

 その余韻が残る中、刀が再び鞘に収められる。

 

「一つ教えておこう。斬鉄剣とは鉄をも斬れる業物を指す事と」

 

 若い男の説明の途中で、ちょうどドアくらいの大きさに斬り取られたコンテナの外壁がゆっくりと外へと倒れていく。

 

「このような技を指す事の二通りある」

 

 こちらに向かってくる若い男の背後で、斬り取られた外壁が音を立てて路面に転がり落ちる。

 これ以上ない位大きな口を開けて絶句している運転手の隣で、銃口を突きつけていたクレアも驚愕の表情を浮かべている。

 

「Are you stronger than REN?」

「なんつってんだ?この姉ちゃん」

「オレにも分からん。今通訳が来る」

 

 ちょうどそこへ、一台のパトカーがゆっくりとこちらへと走ってくると、彼らの間近で止まった。

 

「おまわりさん!ちょうど良かった!今何か妙な連中に…」

「悪いが署で聞こう」

 

 最後まで言わせず、車から降りてきた若い刑事が運転手の男に無造作に手錠を架ける。

 

「危険物無許可搬送の容疑で現行犯だ。詳しい事は後でな」

「ありかよ、そんなの………」

 

 一緒に降りてきた年配の刑事の言葉に、運転手はがっくりと頭を落とした。

 

「で、有りましたか?若」

「これから調べる所です。あと、若と呼ぶのは辞めてくださいよ」

「おお、これはすんません。癖になっとるようで」

 

 笑いながら、年配の刑事がコンテナの中を覗きこみ、途端に表情を険しくする。

 

「うわっ………本物なんですか、これ?」

 

 年配の刑事の後ろからライトを照らしていた若い刑事が中を見て絶句する。

 

「間違いない。これとは違うタイプだが、似たようなのを見た事がある」

 

 若い男がコンテナの中に乗り込み、間近でそれを見る。そこには、冷凍ポットの中に入れられた二体のタイラントが納められていた。

 

「Not go near.Very danger」

「危ナイデスカラ、近寄ラナイデクダサイ」

 

 クレアの警告を、刑事達と一緒のパトカーから降りてきた何故かあちこち傷だらけのシェリーが通訳する。

 

「本物の生物兵器でしたね。確かに近寄らない方が………」

 

 興味深そうに間近で見ていた若い刑事が慌てて身を翻した時、間違って手が傍に有ったスイッチに触れる。

 

「え?」

 

 スイッチの入る小さな音と共に、冷凍ポットに繋がれた機械が次々と点灯していく。

 

「馬鹿!何やってんだ!」

「あ、あのこれって何かヤバイような……」

「No!Wake up pattern!」

「離レテ下サイ!蘇生処置ニ入リマシタ!」

 

 シェリーの警告を聞いた刑事二人が慌ててコンテナから離れ、運転手は猛ダッシュでその場から逃げ出そうとする。

 

「ちょうどいい。生きたまま渡すのは危険だと思ってた所だ」

 

 悠然とコンテナを降りた若い男が、少しだけ離れると身構える。

 

「一体はこっちで受け持つ。もう一体はそっちで。修業の成果を見させてもらおう」

「イエス」

 

 短く答えながら、シェリーが無武装のまま構える。

 そこへ、タイラントがその怪力でコンテナの斬り取られた穴を強引に広げると外へと出てくる。

 その体が全て外に出ると同時に、クレアがフルオートにセットしたMP5A5のトリガーを引いた。

 発射された9mmパラベラム弾がタイラントの巨体を次々と穿つが、銃撃が止むと同時に、先頭のタイラントはクレアへと襲い掛かろうとする。

 だが、的確にその頭部に狙いを定めたシェリーの飛び蹴りがタイラントの体を揺るがせる。

 タイラントが体勢を整えるよりも速く、着地したシェリーが全身を使って跳ね上がるような強力なアッパーカットをタイラントの顎に食らわせる。

 巨体が再びよろめいた所で、続けてシェリーがタイラントの右足のくるぶし、膝、太ももの三箇所に連続してローキックを打ち込むと一度離れて間合いを取る。

 

「SHERRY、Are you safe?(シェリー、大丈夫?)」

「All right、Don't worry CLAIRE(大丈夫、心配しないでクレア)」

 

 マガジン交換を終えたクレアが銃口をタイラントへと向ける。こちらを睨みつけるタイラントへと向けて、シェリーは油断なく構えた。

 後から出てきたタイラントがその瞳で、先に交戦状態に入ったタイラントを見据える。

 何を思考したかは分からないが、そちらへと向かおうとしたタイラントの二の腕が突然斬り裂かれた。

 

「悪いが、お前の相手はこっちだ」

 

 その横手に、血刃を構えた若い男が立っていた。

 そちらを見たタイラントが、突然横殴りの強力なパンチを繰り出すが、若い男は僅かに後ろに下がってそれをかわし、勢い余った拳はそのままコンテナに突き刺さる。

 

「ほお………」

 

 若い男が感心したような声を漏らす中、タイラントは腕を引き抜くと、今度は反対側のパンチを繰り出す。

 今度はそれを横にかわしながら、前へと踏み出した若い男は刃を真横に振るいながら、タイラントと交錯する。

 一瞬の間の後、タイラントの片腕の拳から肩の辺りまでに赤い線が引かれ、次の瞬間にはそれは傷口となってタイラントの腕を二つに裂いた。声にならない絶叫を上げながら、タイラントの体がよろめく。

 だが、すぐにその傷は変化を始めていき、やがてそれは二つの小さな腕へと変化する。

 

「中途半端なダメージはかえって変化を促す、か。資料通りだな」

 

 確かめるように言いながら、若い男は刀を一振りすると、一度鞘に納める。

 

「ならば取る手は一つ」

 

 居合の構えを取る若い男に向けて、タイラントは一つの巨腕と、二つの小腕で押さえ込もうとする。

 

「はっ!」

 

 それが彼を取り押さえるよりも速く、刀が鞘走る。繰り出された刃はその軌道上にある物を斬り裂き、それを過ぎた所で突如としてその軌道を変え、再び相手を斬り裂く。

 連続。

 タイラントが若い男を押さえ込もうとした腕はそのまま空振りになった。

 正確には、肘の辺りで斬られた両腕が自分自身の腕力の勢いで、若い男の両脇に肘から先を残したまま通り過ぎたのだった。

 

「光背一刀流、《光乱舞》(こうらんぶ)」

 

 三本の腕が地面に落ちると同時に、タイラントの全身に先程と同じ朱線が無数に走る。

 若い男がタイラントに背を向けると、無数の肉片と化したタイラントの死体が地面へと崩れ落ちた。

 

「あいつはこんなのばっかを相手にしてるのか………」

 

 そう呟きながら、若い男は懐から取り出した半紙で刀身を拭ってから鞘へと収めた。

 

 

 大きな破砕音と共に、パトカーのボンネットがエンジン諸共砕け散る。

 

「おわっ!?」

「どひいいぃ!!」

「ひえええぇ!」

 

 情けない声を上げながら、パトカーの陰に隠れていた刑事二人と運転手の男が慌てて逃げ出した。

 

「こ、これはもう警察の対処出来る範疇じゃありませんよ!SATか自衛隊か変身ヒーローの管轄です!」

 

 腰でも抜けかかってるのか、若い刑事が地面を転げるように逃げながら悲鳴のような声を上げる。

 

「SATは準備中、自衛隊は動かすと後がめんどい、ついでに変身ヒーローの知り合いなんて居るか?」

 

 呆れ顔でボヤキながら、年配の刑事が懐からニューナンブM60を取り出して構える。

 

「威嚇は……無駄だろうな」

 

 若干躊躇しながら、年配の刑事は発砲。

 弾丸はタイラントの胸に突き刺さるが、タイラントは意にも介さず周囲を見回す。

 

「マシンガンが効かねえんだ!そんなの効く訳無いだろ!」

「そうですよ!専門家に任せましょうよ!」

 

 クレアのバイクの影に隠れている(つもりらしい)運転手の男と若い刑事の言葉に、年配の刑事は舌打ちしながら、残弾を撃ち込みつつ離れる。

 

「嬢ちゃん二人に任せなきゃならないってのは情けねえ限りだな」

 

 年配の刑事が離れると同時に、タイラントに向けて9mmパラベラム弾が斉射される。

 頭部に収束された銃撃の一発がタイラントの片目に突き刺さり、巨体が大きく揺らぐ。

 その隙を突いて、タイラントの右後ろへと近寄ったシェリーの体が旋回しながら跳ね上がり、強烈な後ろ回し蹴りがタイラントの延髄に炸裂する。

 タイラントの体が崩れるように膝をつくと、それに畳み掛けるように着地したシェリーのコンビネーションパンチが脊髄付近に収束して打ち込まれる。

 確実に行動力を奪う事を前提とされた連続攻撃を食らわせてるにも関わらず、タイラントの巨体が立ち上がる。

 そこへ再びクレアが頭部へと向けて銃弾の雨をお見舞いする。

 残っていた方の目も銃弾の洗礼を浴び、脳漿の一部が貫通した銃弾と共に路面へと飛び散る。

 それでもなお、タイラントは闇雲に巨腕を振るい、それがかすったパトカーのルーフが紙細工のように軽々と吹っ飛んだ。

 

「ひょええぇぇ!!」

「おわわわわ…………」

 

 自分達の頭の上をすっ飛んでいったルーフを見たバイクの影の二人が情けない声を上げる中、シェリーはたくみに巨腕を掻い潜りながらタイラントの前へと出る。

 そこでシェリーは呼吸を整え、両拳を腰だめに構える。精神を集中させ、狙うべき一点のみを見据える。

 闇雲に振り回されている巨腕がシェリーにぶつかる瞬間、力強い踏み込みの音と同時に、両拳が前へと突き出された。

 周囲に大きな踏み込みの音が響く。若い男が音のした方を見ると、そこにはタイラントの腹部に両拳を深々と突き刺しているシェリーの姿が有った。

 

「そっちも終わったか」

 

 口から鮮血を溢れ出しながらタイラントが倒れると、シェリーは懐からアンプルケースを取り出し、その中のアンプルをタイラントの死体に注射していく。

 

「それは?」

「T―ウイルス用ワクチンデス。コレヲ注射シテオケバ蘇生ヲ防ゲルラシイ事ガコノ間ノ研究デ判明シタンデス」

「そうか、じゃあ、あそこまでする必要無かったな………」

 

 若い男はすぐ向こうに転がっているタイラントのコマ切れをチラリと見た。

 

「終わりましたか?若」

 

 すでに原形を留めていないパトカーの陰に隠れていた年配の刑事と、バイクの陰に隠れていた(つもりらしい)若い刑事とと運転手の男が、そうっと顔を出してこちらを見た。

 

「大丈夫です。これで捜査令状も取れるでしょう。あと、若と呼ばないでください」

「あ、これはスミマセン」

 

 年配の刑事が謝りながら、携帯電話で手早く鑑識を手配する。

 

「こんなのが作れるような時代になったんですね…………」

「オレも動いてんの見たのは初めてだ」

 

 若い刑事と手錠を架けられたままの運転手の男が、おっかなびっくりタイラントの死体を覗き込む。

 

「研究所に出入りしてたんだろ。他にも大量にいるはずだ」

「知らねえよ。オレは出されたのを持ってくだけが仕事なんだ。それ以上ヤバイ事はさすがにゴメンだ」

「取リ合エズ、コレデニホンデノ調査ハ終ワリデス。後ハヨロシクオ願イシマス」

「ああ、練の奴によろしくな。手早く片付けて帰って来いって」

「伝エテオキマス」

 

 

 

三日後 アメリカ

 

「いいか、野郎共!相手は三つ目だったり、手足が伸びたり、口から火吐いたりするアンデッド系モンスターだ!倒すには動けなくなるまでたっぷりと弾叩き込め!」

『はっ!』

「あの~、ちゃんと資料読んでます?」

 

 訓練前のブリーフィング中のSWAT部隊隊長の思いっきり勘違いしている発言に、レベッカは恐る恐る問い質す。

 

「おう、ちゃんと読んだぞ。各ページ最初の三行ずつな」

「三行……………」

 

 唖然としているレベッカを、副隊長が手招きする。

 

「大丈夫です。他の者はちゃんと全部読んでますから」

「ホントにあの人が隊長さんなんですか?」

「まあ、確かに小隊長以上には絶対出世出来ないって言われてますけど、あれで結構信頼されてますから」

「はあ…………」

 

 どこか釈然としない物を感じながら、レベッカはちらりと横目でSWAT隊長を見る。

 

「スミスの野郎が新人のくせして北極まででしゃばってやがるんだ!こっちをとっとと終わらせて助っ人に行くつもりで気合入れろ!」

『了解!』

「あの、管轄の問題が有りますし、第一どうやって北極まで…………」

 

 たじろぐレベッカの肩を副隊長が叩き、ゆっくりと首を左右に振る。

 

「本当に大丈夫ですか?BOWはとんでもなく危険な存在なんですよ?」

「その点はご心配無く。隊長はあれでも州警察の射撃大会のディフェンディングチャピオンで、熊を拳銃一丁で仕留めた事も有りますから」

「………とにかく、今日中に詳しい決行日時が決定します。けっして油断しないでください」

「任せてください。SWATの誇りに賭けて、任務は必ず成功させます。スミスの事をよろしく」

「はい。本人に伝えておきますよ」

 

 

 

同時刻 イギリス

 

「…………何も話してくれないのか?エイダ」

「何を期待しても無駄よ、職業柄口は堅いから」

「どうしてもか?」

「ええ………」

 

 今まで何回繰り返されたか分からない問答に、同席していた刑事は小さく溜息をついた。

 彼は三日に一度は来てはこのように彼女に情報提供を説得する。結果はいつも収穫無し。

(どういう神経してるんだか………)

 二人共凄腕のスパイだと聞いていたが、これだけ話が平行線を辿ってもお互いまったく引かず、その上口を滑らせもしないのはある意味驚嘆を通り越して呆れる物があった。

 しかし、その日はいつもと少し違っていた。

 

「近日中に、アンブレラに強制捜査が入る。次はHCFにも捜査が入るだろう。事の全容が解明されれば、どれだけの罪に問われるか分からないんだぞ」

「……分かりきってた事よ。今更後悔しないわ」

「………司法取引の話は付けてある。どんな些細な情報でも提供すれば罪は軽くなるぞ」

「一年二年じゃ変わらないわ」

「エイダ!」

 

 思わず立ち上がったレオンが、思い直したように再び座り直す。

 

「………オレはこの後、すぐカナダに行く」

「カナダ?」

「アンブレラの本拠地が判明した。近い内にSTARSがそこに捜査のメスを入れる。ひょっとしたら、会うのも今日が最後かもしれない」

 

 エイダの顔が、僅かに表情を変える。

 

「………一つだけ教えておくわ」

「!」

 

 状況の変化に驚きながらも、同席している刑事が耳を澄ます。

 

「ダーウィッシュ・E・スペンサーのデータは有る?」

「ああ、すでに入手済みだが?」

「彼の実年齢は46歳。だけど、半年前にHCFが入手した彼の顔はどう見ても二十代だったわ」

「!」

「あの、それが何か?」

 

 今一意味が理解出来ない刑事が首を傾げるが、レオンはそれの意味を悟ったらしく、表情を険しくする。

 

「情報はそれだけよ」

「そうか………ありがとう」

「レオン!」

 

 立ち上がって背を向けたレオンに、エイダが思わず声をかける。

 

「………気を付けて」

「ああ………」

 

 そのまま、振り向きもせずレオンは部屋を出た。

 

 

 

「相変わらずだな」

「アーク…………」

 

 玄関近くのイスに、見知った顔が有るのに気付いたレオンはそちらへと歩み寄る。

 

「モテるくせにフラれやすくて、その上、女の扱いは下手くそで切り替えも遅い。学生の頃から変わらないな」

「フラれてばっかのお前よりはいいだろ」

「かもな」

 

 微笑しつつ、アークの手の中の紙コップに入ったコーヒーを飲み干す。それを下げた時、その顔は真剣な表情へと変わっていた。

 

「ついさっき、世界18ヶ国の警察にICPOからの最終決定が降りた。全アンブレラ秘密研究所の一斉摘発作戦、作戦名は"トィンクル・スター(輝く星)"作戦」

「日時は?」

 

 アークはちらりと自分の腕時計を見る。

 

「今からちょうど、70時間後だ」

 

 

 

20時間後 カナダ

 

 極圏へと入ろうとする位置に在る、ついこの間まで何も無かったはずの空き倉庫に、次々とICPO経由のコンテナが届けられる。

 その向こうには、大型のヘリやハリアーまでもが止められ、その周囲には幾人もの人間が忙しそうに動いていた。

 

「届いた順からコンテナの中身をチェックしろ!急げ!」

「得物は大口径か散弾、フルオートが効く物だけにしろ!何が出てくるか分からんぞ!」

「最新型ワクチンの予防接種が済んでない人はこっちに来てくださ~い」

「ボディアーマー、人数分届いたわ!」

「自分の分を各自確保しておけ!サイズを間違えるなよ!」

「50AE弾入ってるのはどれだ!?」

「向こうのコンテナの一番底!誰よ、引っ掻き回して整理してないの!」

「ジョー・ケンド特製カスタムガン十丁届いた!早い者勝ちな」

「とか言いつつ二丁も取るな!」

「なあに?この変なロープ巻いてるコンテナ?」

「オレが封印しておいた武器がまた勝手に送られてきたらしい。手に取ると同時に傍にいる誰かを射殺してしまうコルトSAAだの、三日に一度は人を斬らないと悪夢に悩まされるサーベルだのが入ってるが、使うか?」

「通信機関係全整備完了したぞ。手空いた奴から持ってってくれ」

「今日中に準備を完了しておけ!急げよ!」

「暇な奴こっち来てくれ!ハリアーに給油するのに手が必要だ!」

 

 STARSの面々が慌しく準備を進めていく。

 その傍で、作戦開始時刻をセットしておいたタイマーが、刻々と時を刻んでいた。

 

 

 

作戦発動まで、残る40時間 日本

 

「オンキリキリ、オンキリキリ………」

 

 護摩壇の炎が赤々と周囲を照らし出す中、若い男が唱える呪文が朗々と響く。

 男の前には水を湛えられた大きな鼎(かなえ=儀礼用の金属製の水入れの事)と抜き身の刀に呪符が置かれ、彼の後ろには彼と同じ墨色の小袖袴を着込んだ痩身の中年男性と、衣装は同じだが色だけが燃えるような赤色をしている筋肉質の壮年の男性、はてはこの間の年配の刑事とパリから帰ってきたばかりの警視総監までもが真剣な表情で眼前で行われている儀式を見ていた。

 

「オン!オン!オン!」

 

 呪文を唱えながら、若い男は抜き身の刀を手に取り、空いている左手で刀印を結んで鼎の水に指先を浸し、それで刀身に梵字を書き連ねていく。

 

「我、五行相生の法を用い、金気を用いて相生とし、水気を用いて水鏡と成す!」

 

 若い男は呪文を唱えながら、梵字を書き終えた左手で呪符を数枚掴むと、呪符を一気に刃へと突き刺した。

 

「臨!兵!闘!者!皆!陳!烈!在!前!はっ!」

 

 左手で早九字を切り終えると同時に、刀が上へと持ち上げられ、次の瞬間鼎の水面へと刃の先端が突き刺された。

 水面に刃紋が広がり、数瞬その場に炎のはぜる音だけが響く。

 だが、突然前触れも無く刃に突き刺さっていた呪符が次々と破裂していき、次の瞬間には鼎が木っ端微塵に砕け散った。

 

「ぐっ!」

「若!」

 

 とっさに顔を袖で庇った若い男の傍に、後ろで見ていた者達が駆け寄る。

 

「返されたか?」

「いや……返されたというよりは……弾かれました」

「弾かれた?」

 

 若い男の言葉に、中年男性と壮年の男性が顔を見合わせる。

 

「やはり、土御門家の当主でも見る事すら適わなかったのに、我らでは無理か………」

「ただ、何かとてつもない力を持った何かが、いる事だけは確かです。そう何かが…………」

 

 若い男が沈痛な顔で呟く。

 その場にいる者全員に重苦しい沈黙が降りていく。

 

「くそっ!せめてもう少し時間があればシェリーの奴にもっと色々教えられたのに!」

 

 壮年の男性が歯軋りしながら自分の右拳を左の掌に叩き付ける。

 

「一体、何があるというのだ?北極に…………」

 

 遠くを見ながら、警視総監は小さくそう呟いた。

 

作戦発動まで、残る20時間 カナダ

 

 全ての準備を整えたSTARSのメンバーが、倉庫の中央に集合していた。

 今まで共に戦い抜いてきた仲間達の顔を見ながら、クリスはゆっくりと口を開く。

 

「いよいよ、明日オレ達は今までで最大の作戦に望む。北極のアンブレラ本部の詳細は今現在を持っても、一切が不明だ。おそらく、いや間違い無く明日の作戦は今まででもっとも過酷な戦いになるだろう。無論、危険度の差は言うまでも無い。………よって、作戦の参加の意思は個人の判断に任せようと思う。この作戦参加にする者は、明朝4:30にここに集合してもらいたい。………………以上だ」

 

 クリスの言葉が終わると同時に、皆が解散していく。

 ある者は個室代わりのプレハブの中に消えていき、ある者はその場に残って銃の整備を始める。

 その場に残っていたクレアが何気無くシェリーの姿を探すと、木刀を持ったレンと共に外へと出て行くのが見えた。

 しばし迷った後、クレアは二人の後を追って外へと向かった。

 

 

 

「少しは強くなってきたか?」

「結構ハードでした」

 

 レンの問いに、体中の生傷を見ながらシェリーが苦笑いする。

 

「まさか、布団に包まって石段転げ落ちたり、バネ仕掛けのギブス着けたりはしてないよな?」

「いえ、拳で布団を打ち抜く練習だの、素手で狼犬(狼と犬の混血。純粋な狼よりも凶暴)と戦わせられたりだのはしましたけど」

「……オレの時は木刀で熊だったな」

 

 物騒な事を言いつつ、二人は倉庫からある程度離れた空き地まで来ると、 レンはシェリーに向き直る。

 

「結果を、見せてもらおうか」

「……分かりました」

 

 レンは中に鉄を仕込んで真剣と同じ重さに調節された木太刀を正眼に構え、その峰に手を添える光背一刀流独自の構えを取る。

 シェリーもそれに応じ、両拳を持ち上げてマーシャルアーツの構えを取った。

 

「やる前に聞いておくが、妙な技を教え込まれたりしてないだろうな?」

「時間が有れば教えたいって言ってました。あ、でも格闘技マンガを参考資料だと言ってたくさん読まされましたけど」

「相変わらずか」

 

 レンは微笑しながらも、構えに隙を見せない。

 

「そういえば、従兄の方から伝言貰ってます。手早く片付けて帰って来い、だそうです」

「そうか………」

 

 そのまま、二人は無言で数秒間対峙する。

 後を追ってきたクレアも声を掛けるに掛けられず、その様子を見つめていた。

 だが、沈黙は一瞬にして破られる。

 瞬時に間合いを詰めたレンが、木刀を上段から振り下ろす。

 それを右手によけながら、木刀を握っているレンの右手を狙って肘を突き出すが、レンは僅かに木刀をずらして鍔元でそれを受け止める。

 

「得物を持った相手には攻撃の予備動作に入るより前か、攻撃の後。覚えてきたようだな」

「他にも色々」

 

 シェリーの肘を跳ね上げ、レンの木刀がシェリーの胴体を横薙ぎに狙う。

 それをシェリーはバックステップでかわし、その反動を利用して今度は逆にレンへと一気に詰め寄りながらストレートパンチを繰り出す。

 レンは僅かに身を横に逸らしながら、空いている左手で突き出された腕を掴み、それを引きながら足払いを掛ける。

 

「あっ!?」

 

 バランスを崩したシェリーは転倒しながらも素早く身を丸め、その場で前転すると手早く起き上がってレンへと向き直りながら再度構える。

 

「投げ技は投げられる事よりも投げられた後の方が危険。追撃を食らうよりも早く迎撃体勢を整えるべし」

「そう教わりましたね」

 

 シェリーが微笑しながら、レンの膝へと向けてローキックを放つ。

 その予想以上の鋭さにかわせない事を悟ったレンは膝に力を込めて打撃に備えるが、その蹴りは膝に当たると今度はくるぶし、続けて太ももへと繰り出される。

 太ももに当たる寸前に、レンは木刀で蹴り足を払うと同時に離れて距離を取る。

 

「技を変えずに本質をダメージ狙いから破壊に変えたか。短期間でよく出来た物だ」

 

 ローキックのダメージで麻痺に近いほど痺れている足の感覚を確かめながら、レンは構えを正眼から下段へと変える。

 

「狙うポイントを腱と関節に絞ればいいんです。結構簡単でした」

「そうか………じゃあ少し本気を出させてもらうか!」

 

 言葉が終わると同時に、レンが超高速の連続刺突《烈光突》を繰り出した。

 だが、シェリーはその刺突を全て拳で正面から正確に迎撃する。

 

「光背流拳闘術の《烈光突》を覚えてきたか。まさか全部併せられるとは思わなかったが………」

「多分G―ウイルスの影響が神経にも出てきてるんだと思います。ここ数ヶ月で反射神経も飛躍的に向上したみたいですから」

「鍛えれば鍛える程進化していく訳か。うらやましい限りだな」

 

 レンは間合いを詰めながら上段からの袈裟切りを放つが、シェリーは僅かに身を逸らしてそれをかわす。

 だが、レンは更に間合いを詰めながら手を翻し、まったく同軌道上の斬り上げを繰り出す。

 その攻撃をかわせない事を瞬時に悟ったシェリーが、その斬撃の軌道上に右腕を突き出し、強引に木刀を止める。

 

「胴を斬られるよりは腕一本犠牲にするか」

「速度が乗るよりも早く、鍔元に食い込ませれば斬り落とされる事は無いそうですね」

「それなりに筋肉が付いてればな」

「今度はこちらから行きます」

 

 言い終えるとほぼ同時に、シェリーは大振りの左フックを繰り出す。

 レンはその軌道を見切って僅かに下がってかわすが、シェリーの体はそのまま回転し、続けて右の肘がレンを襲う。

 

「これは!?」

 

 それをかわすと次は左の回し蹴りが、続けて左のラリアットが、右のバックブローが、立て続けにレンを襲う。

 

「《連水月》(れんすいげつ)!」

 

 回転する体から間合いに応じての技を連続して繰り出す、光背流拳闘術の技をシェリーが会得してきた事にレンは内心驚きつつ、立て続けに放たれる攻撃をかわし、逸らし、防御する。

 が、木刀の使えないレンの懐にシェリーは必要に詰め寄り、とうとうさばき切れなかった肘がレンの脇腹に突き刺さる。

 

「やっ!?」

 

 初めて攻撃がまともに命中した事にシェリーは喜ぼうとしたが、肘から伝わってくるゴムのような感触に慌てて離れて再度構える。

 

「いい攻撃だ。だが、懐に入られれば格闘技の方が有利なのは百も承知」

 

 呼吸を整えながら、レンが鋭い目付きでシェリーを見据える。

 

「その程度が効くような柔な鍛え方はしていない」

 

 次の瞬間、シェリーの肌が総毛立つ。レンの体から、明確なまでの殺気が放たれていた。

 

「明日の戦いに参加する資格があるかどうか、試させてもらう。本気で行くぞ」

「……はい」

 

 頬を冷や汗がつたっていく感触を感じながら、シェリーはレンの僅かな動きも見逃さないように全神経を集中させながら、隙を探る。

 

「ちょ、ちょっと二人共!?何考えて………」

 

 その様子を見ていたクレアが慌てふためき止めようとするが、レンの本物の殺気の篭った視線を突き付けられると同時に萎縮する。

 そして、レンが一気に間合いを詰めながら、先程とは比べ物にならない速度の斬撃をシェリーの脳天目掛けて振り下ろす。

 シェリーはなんとか後ろに下がって、からくもそれをかわすが、瞬時に木刀は斜めに跳ね上がり、今度は首を横薙ぎに狙う。

 慌ててシェリーは転倒するような勢いでしゃがみ込むが、その勢いで残ったポニーテールの尻尾の部分が、木刀に触れると同時にキレイに斬り落とされる。

 それに驚く間も無く、体勢の崩れたシェリーにレンの前蹴りが繰り出される。

 両手でそれを受けながら、その勢いを利用してシェリーは後ろへと飛び退り、一度距離を取ってレンと対峙した。

 

(練に勝ちたい?じゃあ、あと三年は頑張る事だな)

 

 日本で言われた事をシェリーは思い出す。

 多少は強くなってきたつもりだったが、それでもなおレンとの圧倒的な実力差に、シェリーは心の底から驚愕していた。

 

(光背一刀流の免許皆伝者クラスになると、木刀だろうが竹刀だろうが真剣と変わらん。どうしても勝ちたいなら、あいつが本気を出す前にどうにかするしかないな)

 

 話には聞いていたが、本当に真剣と変わらない斬撃にシェリーは冷静に対処法を考える。

 

(刃が無いのに切れるのは驚異的なパワーとスピード、そしてバランスが整ってるから。ようは紙の本で指が切れるのと理論上は同じ。そのどれか一つを崩せばただの木に戻る!)

 

 そこで、レンが左手を懐に入れるのが見えたシェリーは、銃撃を警戒して一気に間合いを詰めようとする。

 だが、レンは銃ではなく懐から取り出したペンを弾丸に劣らない勢いでシェリーへと向けて投じた。

 顔面へと向けて飛んできたペンをシェリーは思わず叩き落すが、体勢が崩れた所ですかさずレンの横薙ぎの斬撃がシェリーの胴を襲う。

 シェリーは慌てて急制動を掛けてその斬撃の範囲に入らないようするが、わずかに触れた剣先が衣服を斬り裂き、その下の皮膚に朱線を刻む。

 

「いい判断だ」

 

 ぼそりと呟きながら、レンは手元へと戻した木刀を一瞬動きの止まったシェリーの鳩尾へと向けて突き出す。

 シェリーは真後ろへと転ぶようにしてそれを避けながら、体が地面に付く寸前に片手をついて全体重を支えつつ、ローキックでレンの足元を狙う。

 レンは小さくジャンプしてそれを回避すると同時に、木刀を手の中で反転させて逆手に持ち替え、シェリーへと向けてまっすぐ突き降ろす。

 慌てて転がりながらその場から回避し、起き上がった所でシェリーが見たのは、地面に半ばまで突き刺さった木刀だった。

 

「逃げてばかりか?」

 

 一息に木刀を引き抜きながら、レンはシェリーの方へと向き直る。

 一歩間違えれば即死しかねない程容赦の無い攻撃と、レンの全身から放たれている殺気に、シェリーの背筋を悪寒が走り抜ける。震えだしそうになる両足をなんとかなだめながら、再度構える。

 

(一番有効的なのは攻撃のスピードを落とさせる事、だとしたら………)

 

 頭の中で素早く攻撃法をシュミレートしたシェリーは、構えを一度解くとレンへと向けてダッシュする。

 そしてその体が木刀の攻撃半径内に入ると同時に、いきなり左へと跳んでレンの右手へと回る。

 レンはそちらを向かず、目だけをシェリーの方へと向けて木刀を真横に振るう。

 

(今だ!)

 

 予めそれを見越していたシェリーが、両足に強引に力を溜め込み、一気にジャンプした。

 

「え!?」

 

 ただ固唾を飲みながら二人の戦いを見ていたクレアが思わず驚愕する。

 跳び上がったシェリーの体は、そのままレンの頭上を飛び越え、トンボを切りながらレンの武器を持っていない左手へと着地する。

 

(行ける!)

 

 レンへと振り向きながらシェリーは渾身の右ストレートを繰り出そうとした。

 だが、一瞬シェリーの背筋を悪寒が走り抜ける。とっさに体を捻ったシェリーの左肩口を、突き出された木刀の切っ先がかすめ、斬り裂いた。

 

「外見で判断するなと教えたはずだ」

 

 いつの間にか左手に木刀を持ち替えたレンが、冷徹な眼差しでシェリーを見つめる。

 

「余計な小細工を覚えさせる為に日本に行かせた訳じゃないはずだが?」

「分かってます」

 

 再度距離を取りつつ、シェリーはレンと相対する。

 

(傷はどれも浅い………戦闘には支障は無いけど、例えどんなにスピードでかく乱しても、レンの反応速度はさらにその上。あと残されている手段は……)

 

 シェリーは焦りを感じながら、レンの隙を探るが、どう脳内でシュミレートしても有効的な方法は思い浮かばない。

 

「力が足りぬのならば、明日の作戦に共に行かせる訳にはいかない。残念だが、戦えない体になってもらう事になる」

 

 木刀を右手に持ち替えながら、レンがゆっくりと、だが一切隙を見せない完璧な歩法でシェリーへと歩み寄る。

 その体から一際強力な殺気が発せられているのに気付いたシェリーが、思わず固唾を飲み込む。

 ふとその時、日本で一度だけ見せてもらった、ある技を思い出す。

 

(こいつを扱いこなすには、才能と努力と勘が必要だ。まあ、出来ればの話だが)

 

 見せてもらった時の説明を思い出しながら、シェリーは構えを解き、全神経をレンの微細な動きの監察に集中させる。

 

「シェリー!?まさか!」

 

 それを戦闘放棄かと思ったクレアが思わず歩み寄りそうになるが、シェリーの目がまだ真剣な事に気付くと、黙ってそれを見守る。

 

「…………正気か?失敗すれば死ぬぞ」

 

 それが何か気付いたレンが、問い質しつつもゆっくりと正眼に構えていく。

 

「覚悟、完了です」

「いいだろう」

 

 日本で教えられた言葉を呟きながら、シェリーがレンを真剣な目で見据える。

 それを受けたレンが一部の隙も無い構えから、ゆっくりと摺り足で間合いを詰めていく。ほんの数cmずつに数秒を掛けながら、二人の距離がゆっくりと縮まっていく。

 やがて、木刀の有効攻撃圏内にまで距離が縮まりながらも二人はまだ攻撃しない。

 そして、有効攻撃圏から確実な殺傷圏に入ると同時に、レンの手に握られた木刀が瞬時にその頭上に掲げられ、全力で振り下ろされる。

 全神経を集中させ、レンの僅かな動きをも冷静に観察していたシェリーが、刹那にも満たない時間内で自らの脳天に振り下ろされようとする木刀を、その視界に捉えると同時に、両手が跳ね上がる。

 

 周囲に、破裂音に似た音が響き渡った。

 

 シェリーの額を、一筋の血が流れ落ちる。

 顔面のほんの5cm程前で合唱するような形で合わせられた掌の間に、木刀は挟み込まれて止まっている。

 完璧な白刃取りだった。

 硬直状態はほんの一瞬。

 次の瞬間には、レンの左の貫手と、シェリーの膝がすれ違う。

 シェリーの膝から放たれた変形の発勁、《光破断・狼牙(ろうが)》が木刀を砕くのと、レンの貫手がシェリーの鳩尾に突き刺さるのは同時だった。

 数秒間の間の後、シェリーの体が崩れ落ちる。

 

「シェリー!!」

 

 クレアが慌てて駆け寄り、その体を起こす。

 

「問題無い。一瞬だけ心臓の拍動を停止させて失神させただけだ」

 

 レンが呟きながら、手の中の木刀を見る。

 シェリーの膝が命中した場所の表面を覆っていた木材は完璧に砕け散り、中に仕込まれていた鉄は半ばまで砕けかかっていた。

 

「レン!!シェリーにもしもの事が有ったらどうするの!」

 

 クレアが激怒しながらレンの襟を掴む。

 

「有ったら、じゃない。場合によっては本気で病院送りにするつもりだった」

「どうして!」

「修羅場に行こうとする人間は選んだ方がいい。彼女はまだ若い、死地に向かわせる訳には行かない」

 

 あくまで冷静なレンの口調に、クレアはしばし襟を握る手を緩めなかったが、やがてゆっくりとその手を離す。

 

「………私も、シェリーは置いていくべきじゃないかと思ってた」

「どうやら、その必要は無いようだ。彼女は立派なSTARSのメンバーだ」

 

 失神しているシェリーの顔を見ながら、レンが微笑する。

 

「明日までゆっくり休ませておけ。目が覚めたら、オレが合格だと言っていたと伝えておいてくれ」

「自分から言ったら?」

「生憎と、自分の手で傷だらけにした女の子の前に立つ勇気が無くてな」

 

 本気かジョークか分からない事を言いながら、レンは彼女達に背を向け、その場を後にした。

 

 

 

作戦発動まで 残る15時間 カナダ

 

 5cm四方の画面の中で、赤いパワードスーツを着たコマンドーが爆弾を放り投げる。

 だが、それをジャンプしてかわした黄色いネズミが、お返しとばかりに電撃をコマンドーにお見舞いする。

 まともに喰らったコマンドーがダウンし、再び起き上がろうとした所に、背後から近づいた赤い帽子を被ったヒゲオヤジが火の玉を投げつけ、コマンドーが再びダウンしながら下の階に落ちていく。

 駄目押しとばかりに、落ちてきたばかりのコマンドーをピンク色のボールに手足が付いたような生物が吸い込み、画面外へと吐き出す。

 ライフゲージが無くなったコマンドーのプレイ画面にYOU LOSEの文字が大きく浮かび出た。

 

「……………」

 

 レオンが鎮痛そうな表情で手の中の携帯ゲーム機の画面から目を離した。

 

「相変わらず弱いな。射撃はあんなに上手いのに」

「ホントホント」

「向いてないだけじゃ、あっ!?」

 

 ケーブルで接続された携帯ゲーム機をそれぞれ手にしているアーク、レベッカ、スミスがマイキャラを操作するが、やがてスミスの、次にレベッカの顔が曇る。

 

「オレの勝ちだな」

「むう……」

「相変わらずだな。本番前は遊ぶ、か」

「マジメになるのは本番だけでいいだろ」

 

 レオンの苦笑に、アークが微笑で答える。

 

「レベッカさ~ん、抗生物質のストックどこです?」

「え、無いですか?」

 

 向こうから聞こえてきたミリィの声に、レベッカがその場を離れる。

 

「おいスミス、追加のカスール炸裂弾届いたぞ」

「おう、今行く」

 

 カルロスの声にスミスもその場を離れ、期せずして二人きりになったレオンとアークはしばし無言で向かい合った。

 

「なあ、レオン。お前、この作戦が終わったらどうする?」

 

 おもむろに口を開いたアークの問いに、レオンはしばし考えてから口を開く。

 

「……さあな。そういうお前は?」

「オレか?オレはまた探偵に戻るだけだ」

「そうか」

 

 また、しばし両者は無言。

 

「………もし、この作戦が成功して、アンブレラを壊滅させても、世界にはまだ多くのT―ウイルスが存在する。オレは、この世界から全てのT―ウイルスを消滅させるまで、戦うつもりだ…………」

 

 レオンはそう言いながら、硝煙の染み込んだ自らの拳を強く握り締める。

 

「変わってないな、あの時から」

 

 アークが苦笑しながら、プレイしていた携帯ゲーム機の電源を切り、傍のテーブルの上に置いた。

 

「いつもそうだ。騒動を起こすのはお前、巻き込まれるのはオレ」

「わるかったな」

「いいさ、好きでやってる事だ」

 

 アークは苦笑。それにつられてレオンも苦笑を浮かべる。

 

「そういう訳だから、付き合ってやるよ。最後まで」

「すまない」

 

 アークが差し出した手を、レオンは強く握り締めた。

 

 

 

作戦発動まで 残る10時間 カナダ

 

「…ん……」

「起きた?」

 

 シェリーが目を覚ますと、そこはベッドの中だった。負傷していた個所はきちんと手当てされ、ベッド脇のイスに腰掛けていたクレアが心配そうにこちらを見ていた。

 

「あれ?わたし……」

「レンがね、合格だって」

 

 クレアの一言に、シェリーは一瞬虚を突かれた表情になり、次に心底嬉しそうな顔をしながら跳ね起きる。

 と、同時にその腹から乾いた音が周囲に響いた。

 

「あ………」

「お腹すいたでしょ。冷めてるけど食べる?」

「うん」

 

 クレアが用意しておいた夕食のトレイを受け取ると、シェリーはそれを猛烈な勢いで食べ始める。

 その様子をじっと見ていたクレアが、ふと顔をほころばせる。

 

「どうかした?クレア?」

「ちょっとね………初めて会った時の事を思い出してた」

 

 シェリーの頭を何気無くそっとなでながら、クレアが五年前同じ事をした時の事を思い出す。

 

「なあに?クレア………」

「大きくなったな、って思って」

「もうわたしも17だもん。一人前よ」

「………そうね」

 

 優しく微笑みながら、クレアがシェリーの頭から手を離す。

 

「食べ終わったら、装備を点検してからまた寝た方がいいわよ。明日は早いから」

「うん、大丈夫。準備万端よ」

「そ……明日は、頼むわよ」

「任せて!」

 

 シェリーは、クレアに力強く答えた。

 

 

 

作戦発動まで 残る8時間 カナダ

 

「ダイジョウブ、準備万端心配無用!モオ、オーガだろうが、アナコンダだろうがコワイ物ナシだって。ア?レン?野暮はシナイ方がいいと…」

 

 英語訛りが残るも、やたらと流暢な日本語で長電話しているスミスを、同室のカルロスが銃を手入れしながら呆れた顔で見ていた。

 

「ダ~カ~ラ~、詳しいトコは言えないケド、もう直全部終ワルから。ウン、その時は。じゃあ、Good Night」

 

 電話が切れると同時に、カルロスは溜息をつく。

 

「出撃前夜に彼女に長電話か………のん気な奴だな。しかも、相手があのサムライの妹とは………」

「ん?ユメちゃんはレンと全然似てないぜ?あいつがサムライなら、ユメちゃんは本物のヤマトナデシコだからな」

「ヤマトナデシコねえ…………」

 

 カルロスの脳裏に、芸者風の着物を着て腰に刀を差している間違いまくった日本人女性像が浮かぶ。

 

「ま、どこに女作ろうがせいぜい泣かせないようにするんたな。特にその子泣かせたら確実にサムライに斬られるぜ」

「大丈夫。今の所はレンも認めてくれてるしな。それに絶対泣かせやしないさ」

「そうかい。じゃ、オレも女泣かせないようにしに行くかな」

「お~、せいぜいひっぱたかれないようにな」

 

 含みの有る笑みを浮かべながら部屋を出て行くカルロスにスミスが無責任な声援を送る。

 ちなみに、頬を赤く腫らしたカルロスが部屋に戻ってきたのはそれから21分後だった。

 

 

 

作戦発動まで 残る 7時間 カナダ

 

「こんな所にいたのか」

「おう、一杯どうだ?」

 

 テーブルを囲んで酒盃を手にしているバリー達の元に、クリスが歩み寄った。

 

「悪いが、出撃前はな」

「そうだったわね」

 

 同じく酒盃を手にしたジルが、くすりと笑って杯を傾ける。

 

「パイロットの癖でしたっけ。あ、じゃあコーラでもどうぞ」

 

 なめる程度にしか飲んでなかったレベッカが、クーラーボックスからコーラを取り出して氷を入れたグラスに注いでいく。

 それを受け取って、期せずして旧STARSメンバーが揃ったその場で、クリスは黙って杯を空ける。

 

「………ようやく、この日が来たな」

「ええ、思えば長いような、短いような五年だったわ………」

「オレにとっちゃ長かったぞ。何せ、いつの間にか長女が彼氏作ってやがったからな」

「え?そうなんですか?」

「ああ、次に帰ってきた時に会わせてくれるとさ」

 

 バリーの手の中のついこの間取られた家族の写真を、レベッカが興味深そうに覗き込む。

 

「会ってすぐ殴るなよ。やりそうだからな」

「馬鹿言え。娘との進展度聞いてから殴るさ」

「ダメですよ~娘さんに嫌われますよ」

「そうそう」

 

 しばし、その場を談笑が響く。

 

「まあ、明日生きて帰れれば、だけどな」

 

 クリスの一言に、全員の表情が少し厳しくなる。

 だが、クリスは無言で杯にコーラを注ぐと、それを目上に掲げる。

 

「我らに、勝利を」

 

 それに、三つの杯が奏でる音が重なった。

 

 

 

「まだ起きていたのか」

「うん……寝付けなくて」

 

 部屋を訪れたレンに、ミリィは苦笑しながら応える。

 

「レンこそ、寝なくて大丈夫?」

「オレは多少寝なくても平気だ。それに、この間までずっと寝たきりにさせられてたからな」

「また怪我して寝たきりにならないでね」

 

 再度苦笑しているミリィに、レンは黙って一つの封筒を手渡す。

 

「これは?」

「特別に手配した日本への直行便だ。今すぐ出れば時間までに間に合う」

「レン!?いきなり何を!?」

 

 ミリィが手渡された封筒を見ながら驚愕する。それに構わず、レンは言葉を続ける。

 

「明日は今までとは比べ物にならない激戦になるはずだ。戦闘訓練を受けてないお前をこれ以上危険に晒す訳にはいかない」

「そんな!ここまで来て何言ってるの!?あたしだって…」

「お前一人の体じゃないんだろ?」

 

 レンのその一言に、ミリィの動きが止まる。そして、ゆっくりとベッドに腰を降ろした。

 

「……気付かせないつもりだったんだけど……いつから気付いてたの?」

「疑い始めたのは一月くらい前から、確信したのはここ一週間だがな」

「……そう」

 

 ミリィは無言で自分の下腹部に手を当てる。

 

「もうじき四ヶ月よ。安定期に入ってきてるから、多少は大丈夫よ………」

「だが……」

 

 何かを言いかけたレンの裾を、ミリィは強く握り締める。

 

「いやなの……五年前みたいにレンに迷惑掛けるだけなのは………あたしだって、この五年一生懸命医者の勉強したのは、レンの役に立ちたかったから…………やっと、その時が来たのに、一人だけ帰るなんて出来ない……」

 

 裾を握り締めている手に、雫が落ちる。

 見ると、ミリィの目から大粒の涙が零れ落ちていた。

 

「ミリィ……」

「何も……言わないで。………お願いだから……」

 

 涙ぐむミリィを、レンはそっと抱き寄せる。

 

「レン………」

 

 ミリィは静かにレンにその体を預けていく。力の抜けた手を、レンはゆっくりとはがしていく。

 そして、ミリィの左手をそっと取ると、自らの懐から取り出した物をその薬指にはめていく。

 

「これ…!」

 

 それは、飾り気の無い金色の指輪だった。

 ミリィが問うのと同時に、レンはもう一つの同じ指輪を取り出すとミリィに手渡す。

 

「例え何があっても、オレの命が燃え尽きる時まで、傍にいてくれるか?」

「……はい」

 

 ミリィは涙目で無理に微笑しながら、レンの薬指に指輪をはめていく。

 やがて、お互いの手を強く握り締めながら、その唇がゆっくりと重なった。

 

 その直後、先程まで部屋の様子をうかがっていた気配が遠ざかっていくのを、レンはあえて追わなかった。

 

 

 ドアが開く音で気付いたクレアがそちらを見ると、そこに俯いたシェリーが立っていた。

 

「……どうだった?」

 

 問いにシェリーは無言でベッドに歩み寄る。

 ふと、その足元に雫が落ちているのをクレアは気付く。

 俯いたシェリーの目から、大粒の涙が、一つ、二つ、こぼれていき、やがて両目から大量の涙がこぼれ出す。

 

「そう………」

 

 クレアはそれ以上何も言わず、そっとシェリーを抱きしめる。

 

「う、わああぁぁぁぁーー」

 

 それと同時に、シェリーが嗚咽を漏らしながら号泣する。

 クレアは黙って、シェリーが泣き止むまで彼女を抱きしめ続けた。

 少女の涙と共に、決戦前夜の夜は更けていく………

 

 

 

作戦発動まで 残る 2時間半 カナダ

 

 壁時計が集合時間の20分前を示すと同時に、レンは閉じていた瞳を開く。

 睡眠を一切取らず、己の気を限界まで高める為の瞑想から覚めると、おもむろに新調した装備に手を伸ばす。

 着衣を脱ぎ、下着の上から対衝撃用のアンダースーツを着込む。

両手、両足、胴体にそれぞれ特注のチタン製プロテクターを身に着け、ショルダーホルスターを肩に架ける。

 日本から送られてきたばかりの裏地にケプラー材の縫い込まれた小袖に袖を通し、袴を履いていく。

 厚手のコンバットブーツを履き、無数のマガジンが付いたガンベルトを腰に巻く。

更にそのガンベルトにサスペンダースリングを通し、そこに爆薬内臓のスローイングナイフ(投げナイフ)を刺していく。

 格闘用と滑り止めを兼ねた砂鉄入りのグローブをはめ、額に服と同じ墨色の鉢金が付いた鉢巻を巻く。

 サムライソウルに初弾を装弾させ、マガジンを抜いて追加の一発を装填すると銃に戻し、それをホルスターに収める。

 最後に、大通連を手に取り、静かに腰に挿して全ての準備は整った。

 

「おい、そろそろ時間だぞ」

「準備は出来ている」

 

 ノックして間髪入れずに部屋に入ってきたスミスに、レンは静かに応える。

 

「気合入ってやがるな」

「まあな」

 

 レンの完全武装を見ながら、スミスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「行くか」

「ああ」

 

 言葉少なに、レンは集合場所へと足を向ける。

 その背には、STARSのエンブレムが大きく縫い込まれていた。

 

 

 

 張り詰めた空気の中、準備を整えたSTARSメンバーが集まっていた。

 皆が緊張した顔で、言葉を交わす者も少ない。

 自らの腕時計が集合時刻を刻むと同時に、クリスは周囲を見回した。

 

「来ていない奴は何人だ?」

「シェリーがまだ………」

 

 クレアが顔を曇らせながらシェリーの姿を探すが、どこにもその姿は無い。

 

「………時間だ。今いるメンバーを出撃メンバーとして…」

「すいません!遅れました!」

 

 クリスの言葉の途中で、転げそうな慌てぶりのシェリーが姿を現す。

 

「遅いぞ。時間厳守が…」

 

 そこで、ふとシェリーを見たクリスが言葉に詰まる。

 レンとは色違いの燃えるような紅い色の鉢金付きの鉢巻を額に巻いたシェリーの両目が赤く腫れ、クレアと合わせてポニーテールにされていたはずの髪が肩口で切りそろえられていた。

 それを問い質すよりも早く、クレアがクリスを肘で小突いて小さく首を左右に振る。

 何人かが小さな声で囁きながらレンの方を横目で見たりするが、あえて誰もそれ以上問い質そうとはしなかった。

 

「それでは作戦を説明する」

 

 クリスが用意されていたホワイトボードに簡潔に書かれた地図を指す

 

「部隊はA、B二つのチームに分かれ、Aチームはここの洞窟に偽装された入り口から強行突入。Bチームはこちらのクレパスに偽装された資材搬入口を爆破の後に内部に突入。目的は内部での人体実験の証拠の入手及び製造中のBOWの全消滅、そしてアンブレラ代表取締役ダーウィッシュ・E・スペンサーの逮捕だ。内部の構造、警備状況、その他は一切不明。チーム分けはそこのリストを見てほしい。以上、質問は?」

 

 誰一人無言の中、レンが静かに手を挙げた。

 

「一つ聞きたいが、オレは警官でも軍人でもない。そのダーウィッシュとやらを見つけると同時に斬り捨てるかもしれないが、それでもいいか?」

「それは…」

 

 クリスが答えるよりも早く、レオンが口を開く。

 

「ダーウィッシュ・E・スペンサーには自らの体を改造している疑いが有る。逮捕するか、倒すかどちらかしか無理だろう。逮捕出来ればの話だがな」

「……分かった」

「他に質問は?」

「オレは無い」

 

 他の者からも質問が出ない事を確認したクリスが、隣に立っていたジルとレベッカに目配せする。

 それを見た二人は、用意しておいたグラスを載せたカートと、一本の一升瓶を持ってきた。

 

「こいつは景気付け用にとサムライの実家から送られてきた物だ。希望者は自由に飲んでいってくれ」

 

 グラスに注がれていく日本酒を、レンがいの一番に取るとそれを一口口に含み、刀を抜く。

 鈍く光る刃へと向けて酒を吹き付け、一振りして鞘へと収めると、杯の残りを一気に飲み干した。

 それに続くようにシェリーが杯を取り、真似をして一気に飲み干そうとするが、失敗して大きくむせ返る。

 

「大丈夫?」

 

 慌ててクレアが駆け寄り、シェリーの背をさする。

 

「プ……」

 

 誰かが噴き出すと同時に、緊迫した空気が一転して爆笑がその場を満たした。

 

「アルコール度数40%を越えてるからな。弱い奴は飲まない方がいいぞ」

「お酒なんて飲んだの初めてで………」

 

 レンの言葉に、赤面しながらシェリーが呟く。

 

「それなら止めといた方がいいな」

 

 レオンが杯を手に、少し味わいながらそれを飲み干していく。

 

「そうだな。お酒は大人になってからだ」

 

 スミスがグラス、ではなく一升瓶の方をレベッカから奪うと、その中身をらっぱ飲みする。

 

「てめえ!何一人で大量に飲んでやがるんだ!」

「いいじゃねえか!お前ヘリ操縦するんだから飲むな!」

 

 カルロスとスミスが一升瓶を奪い合う様を皆が笑いながら、杯の中身が空けられていく。

 最後に、クリスが一口だけ酒を口に含み、口を拭うと、その顔が真剣な物へと変わる。

 

「STARS、出撃せよ!」

『了解!!』

 

 全員の復唱が、その場に木霊した。

 

 

 

作戦発動まで 残る 2時間 アメリカ

 

 SWAT達が異様なまでの重武装の準備を進めていく。

 やがて、全ての銃に初弾が装弾され、セーフティが架けられた。

 

「隊長!準備完了しました!」

「おうよ」

 

 出動前にも関わらず、バトワイザーのボトルを手にしていたSWAT隊長がぶっきらぼうに返答する。

 その顔には、酔いの欠片も無く、不敵さと壮絶さを兼ね備えた笑みが浮かんでいた。

 ボトルの中身を一気に飲み干すと、隊長はそれを地面に叩きつけて木っ端微塵にした。

 

「野郎ども!出動だ!」

『了解!!』

 

 

 

作戦発動まで 残る 1時間 イギリス

 

 留置所の壁を、エイダは無言で見つめる。

 時計すら無いその牢の中で、ただ過ぎていく時間を感じながら、エイダはふと遠くを見た。

 

「……レオン………」

 

 その口から漏れた呟きは、誰の耳にも届きはしなかった。

 

 

 

作戦発動まで 残る 30分 日本

 

 初めて迎える大規模な実戦を前に、SAT隊員達は無言で研究所の包囲を固めていく。

 訓練以外で撃った事すらない実弾の込められた銃を握る手に汗を大量にかきながら、所定の位置に着くと皆が緊張した顔で固唾を飲み込む。

 ただ一人、その中にいる墨色の小袖袴に腰に日本刀を挿した若い男が、落ちついた顔で時を待っていた。

 

 

 

 無情に時計は時を刻んでいき、そして、ついに予定の時間を指す。

 世界中でそれを待っていた特殊部隊が、一斉に動き出した。

 

"トィンクル・スター(輝く星)"作戦 発動

 


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