BIOHAZARDirregular PURSUIT OF DEATH   作:ダークボーイ

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※注意 本作はSWORD REQUIEMの正式続編です。SWORD REQUIEMを読まれてからの方がより一層楽しめるかと思います。



第一章 『神剣再び!新たなる戦いへの序曲!』

 ここ数年間何者にも脅かされる事無く積もり続けたホコリに足跡を記しながら、一人の男が寂れた廃工場の中を歩いていた。

 ホコリが積もっているとはいえ、コンクリートで固められているはずの床に、不思議と彼の履いている厚底のコンバットブーツはまったく足音を響かせていない。

 そのまま廃工場のほぼ中心に歩を進めた彼は、そこで足を止め周囲を見渡した。

 彼は黄色人種特有の墨色の髪に、それと同色の小袖袴を着込み、手には更紗の布で包まれた細長い包みを持っていた。

 鋭さと、冷静さを兼ね備えた瞳を持った彼を、この土地の住人達が見かけたら十中八九こう呼んだだろう。

 

"サムライ"と。

 

 その彼の前に、分厚いコートを着込んだ大きな影が現れた。

 

「あんたが、情報提供者か?」

 

 英語での彼の問い掛けに、影は答えず片腕を持ち上げた。

 途端、そこから何かが猛烈な勢いで飛び出し、彼を襲った。

 それが何かを一瞬にして見切った彼は、無言で少しだけ体を横にずらした。

 

「手長か」

 

 日本の妖怪の名を彼が短く言った時には、その軌道を完全に見切られた伸びる腕は彼のすぐ傍を通り過ぎる。

 その時すでに、彼は更紗の包みの口を解いていた。

 伸び切った腕が戻ろうとする時、彼は包みの中の物を掴み、素早く抜いた。

 影が奇怪な悲鳴を上げる。縮んできた腕は半ばから両断されていた。

 

「人ではないようだな」

 

 彼の呟きと、彼が抜いた白刃によって両断され、宙を待っていた腕が血をホコリの上に撒き散らしながら床へと落ちるのはほぼ同時だった。

 

「ならば容赦はしない」

 

 彼は一瞬にして影との間合いを詰めると、手にした愛刀、源清麿(みなもとのきよまろ)を袈裟懸けに振り下ろした。

 振り下ろされた刃は、影の着ていたコートを切り裂き、その中に仕込まれた防弾用のチェーンを露出させる。

 

「あれと同じか」

 

 彼は呟きながら、手首を返して刃を逆にすると、先程とまったく同じ軌道を逆に斬り上げた。

 弾丸をも阻むはずの防弾用のチェーンが、先程の斬撃によって傷付けられた場所と寸分の狂いも無い同じ軌道の斬撃によって、その下の肉体ごと斬り裂かれる。

 周囲に鮮血を撒き散らしながら、影は断末魔の悲鳴を上げて床へと倒れ込んだ。

 彼は刃に付いた血を振るい落としながら、視線を横へと向けた。

 

「助ける気が有るならもっと早く出て来たらどうだ」

 

 刀を鞘へと収めながらの彼の言葉に、うず高く詰まれた廃材の影から銃を構えた一人の男が出て来た。

 

「あんたが本当の情報提供者か?」

「ああ、そうだ」

 

 男は答えながら、構えていたデザートイーグル50AEをゆっくりと降ろした。

 

「何でこんな真似をした?」

「お前が知りたがっている事は危険過ぎる。それを分からせるつもりだった。だが…」

「だが?」

 

 男は彼の姿を上から下まで見て軽いため息をついた。

 

「まさかサムライが来るとは思いもしなかった」

「オレはサムライじゃない」

 

 相手の否定に、男が少し虚を突かれた表情になる。

 

「日本の闇を司る陰陽寮五流派の一つ、御神渡(おみわたり)流陰陽師の一人、水沢 練。それがオレだ」

「オンミョウ?」

 

  聞き慣れない言葉に首を傾げている男に、レンは更なる説明を加える。

 

「この国で言う所のエクソシストだ。そして、オレは五年前のラクーンシティの脱出者でもある」

「!」

 

 後半を聞いた男の顔に驚愕が生まれる。それを見ながらレンはさらに加えた。

 

「教えてくれるんだろうな。五年前の真実を」

「……いいだろう……」

 

 レンが廃工場の外に止めておいたレンタカーに乗り込み、しばらく無言で走った所で、男はようやく口を開いた。

 

「事の起こりは五年前、ラクーンシティの郊外にある屋敷から始まった。そこは多国籍製薬会社であるアンブレラ社の秘密研究所だった。そこではT―ウイルスと呼ばれる物の研究が行われていた」

「T―ウイルス?」

 

 男は頷きながら続けた。

 

「そのT―ウイルスは、感染したあらゆる生物に急激的な進化、成長を促す。ところが、この進化に耐え切れない生物はゾンビ化するという副作用も持っている」

「それじゃあ!?」

「まあ待て。その研究所で起きたバイオハザードによって所員のほとんどがゾンビ化するという事態になったのを、ラクーンシティ警察の特殊部隊STARSの活躍によって事件は収まったはずだった。所がだ、その事に危惧を抱いたアンブレラ社は、ラクーンシティの他の研究所で研究されていたT―ウイルスの改良版、G―ウイルスを強引に開発者であるウィリアム・バーキンから奪取しようと試みた。その際に負傷したウィリアムは有ろう事か自らにG―ウイルスを投与、怪物となって襲撃者を襲った。その時に、襲撃者が持っていたT―ウイルスが下水道に流出し、あの大惨劇の元となった」

「そうだったのか………

 レンは目を閉じてあの時を思い出した。おそらく、下水道で戦ったあの怪物が、その大元となった人物だったのであろう事を今更ながら認識した。

 

「オレはあの時、軍の不可解な行動を目にした。それは何だったんだ?」

「T―ウイルスは元々生物兵器開発用のベクターウイルスだ。軍はそのノウハウを欲しがっているが、アンブレラは頑として渡さない。その為にあの時、軍の特殊部隊がサンプルの回収を行っていた。だが、アンブレラの奇襲によって壊滅したらしい」

「それは知っている。オレはその壊滅した部隊と一緒だったんだからな」

「何!?」

 

 今度は男が驚いた。レンはハンドルを握りながら、その時の疑問をぶつけた。

 

「それじゃあ、あの襲ってきた大男の怪物はアンブレラの生物兵器か……」

「おそらくそれはタイラントと呼ばれるタイプだ。BOWと呼ばれる生物兵器の中でも一二を争う戦闘力を持つ。集団で投下されたら軍隊でも一たまりも無かっただろう」

「確かに、手痛く痛めつけられたからな」

 

 そのまま、二人共しばらく無言のまま車を走らせた。

 

「最後に聞きたい。今、そのT―ウイルスはどうなっている?」

「それを聞けば、お前は後戻り出来なくなる。さっきの怪物はT―ウイルスを探る者を消す為にアンブレラから送られた物だ。これ以上危険を犯す必要は無いんじゃないのか?」

「オレの国の言葉に義を見てせざるは勇無きなり、という言葉が有る」

「?」

 

 突然の日本のことわざに、男が首を傾げる。

 

「人道に劣る行為をしている者を見過ごしては男じゃない、って意味だ。この五年間、オレはあの時の借りを返す為に死に物狂いで修行した。そして、その借りを返す為にオレはアメリカに戻ってきた」

 

 レンの必死の目に、男はしばらく考えてから、閉ざされていた口を開いた。

 

「実はここ五年間、ラクーンシティ同様のT―ウイルスによるバイオハザードがアメリカ、ヨーロッパを中心に大小合わせて10件以上起きている」

「何!?」

 

 驚きのあまり、レンは思わずブレーキを踏んだ。急制動を受けて停止した車内で、男は後を続けた。

 

「それに乗じて、世界中の軍隊、企業の諜報組織がT―ウイルスを奪い合っている。だが、ただ一つだけ、T―ウイルス撲滅の為に動いている組織が在る」

「それは?」

「STARSの生き残りが、世界中から賛同者を集めて密かに動いている。もし、その気があるのなら紹介してやってもいいが」

「あんたもそのSTARSの一人なのか?」

「いや、オレにはある事情が在ってな。生憎と奪う方の組織にいる、とだけしか言えない」

「………そうか、ならそのSTARSのメンバーに会わせてくれ」

「後悔しないか? 今ならまだ聞かなかった事に出来るかもしれないぜ」

「言ったはずだ。借りを返しに来たと」

 

そう断言するレンの横顔を見た男の瞳に、強い闘志が込められた目が映っていた。

 

 

 ある閉ざされた室内に、数人の人影が在った。

 彼らは、大型のスクリーンに映されたある映像を凝視していた。

 そこには、何処から撮ったのかレンを襲った怪物が、一刀の元に斬り捨てられる映像が映し出されていた。

 

「どう見るかね」

 

 影の一つが言った。

 

「まさかSTARSへ協力する者への見せしめのはずが、逆に返り討ちに会うとはな………」

 

 別の影が意見を述べる。

 

「これは未確認情報だが、五年前ラクーンシティに降下させたタイラントの一体を倒したサムライボーイがいると聞いた事がある。おそらく彼の事だろう」

 

 また違う影が述べた。

 

「しかも、彼はCIAのレオン・S・ケネディと接触した。このままではSTARSとの合流は時間の問題だろう」

「危険だ。あまりにも危険過ぎる。これ以上STARSの戦力を増やしては秘密裏に対処する事が不可能になる」

「消去すべきだ。ことごとく我々の邪魔をしてきたレオン・S・ケネディ諸共」

「もし彼らがSTARSと合流するのならば、おそらく空路を使ってヨーロッパに飛ぶだろう」

「ちょうどいい。"イカロス"の実験を兼ねて彼らを襲撃させよう」

「邪魔者を消し、実戦データも取れる。悪い話ではない」

「決まりだな………」

 

 影達は暗闇の中でほくそ笑んだ。

 


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