君のコスモは   作:JALBAS

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邪悪な女神ティアマトは、その力で自分と同じ名前の彗星を引き寄せ、世界を滅ぼそうとします。
当然、星矢とアテナをそれを阻止すべく、ティアマトの元へ。
混成獣は元の世界で他の聖闘士達と戦闘中なので、ティアマトにその右腕たる家臣は居ない筈……
ところが、星矢達の前に立ちはだかったのは……




《 第九話 》

 

突然の、彗星落下のニュースで、日本……いや、世界中が大パニックに陥っていた。

慌てて日本を逃げ出そうとする人が押し寄せるため、交通網は大混乱だ。だが、彗星本体が地球に墜ちれば、世界中何処に逃げても助かる保証は無い。逆に落下地点の糸守の住民の殆どは、逃げる事を諦め、この故郷と運命を共にしようとしていた。

世界中の人々は、この突然の彗星の軌道変更の原因が分からない。人間の常識では計りきれない事態だ。だが、俺達はその原因を知っている。邪悪な女神ティアマトだ。奴が、彗星を引き寄せているんだ。

俺と沙織さんは、最初からの予定通り、ティアマトを倒しに御神体に向かおうとする。その時、四葉が三葉の体の沙織さんにしがみ付いた。

「お……お姉ちゃん、どこ行くん?行かんといて!もう、皆助からんのやったら、最後は一緒に居て!」

そう言って、四葉は泣き出してしまう。そんな四葉に、沙織さんはやさしく声を掛ける。

「大丈夫、皆助かります。」

「え?」

「お姉ちゃん達は、皆を助けるために行くのです。だから、心配しないで、良い子で待っていて下さい。」

沙織さんから、アテナの癒しのコスモが発せられる。それは四葉を包み込み、四葉の心に安らぎを与える。

「う……うん。でも、必ず帰って来て……必ずやよ!」

「はい!」

沙織さんは、優しく微笑む。

ようやく四葉を言い聞かせて御神体に向かおうとしたが、玄関を出たところで、今度は宮水としきと鉢合わせになった。彼も、最後の時は家族と共に迎えようと、ここに来たのだ。

「み……三葉……」

沙織さんは、何も答えない。

「ど……何処に行くんだ?まさか……お前糸守を……」

どうやら、糸守を捨てて逃げると勘違いしているようだ。沙織さんは、ようやく口を開く。

「私は、この世界を護らなければなりません。お願いします。行かせて下さい。」

「な……何を言って……」

としきさんは、目線を俺に移して、俺の胸ぐらを掴んで来る。

「き……貴様、三葉を何処に連れて行く気だ?娘に何を吹き込んだ?」

「やめい!としき!」

後ろから声がする。いつの間にか、お婆さんが出て来ていた。

「三葉は、この地に遣わされたお役目を果たしに行くんじゃ!それに逆らう事は、神様の御心に背くことぞ!」

「お……お役目?……まさか……」

彼は、再び三葉の目を見詰める。

「……信じて下さい。この世界は……糸守は、必ず救って見せます。」

全てを悟ったのか、としきさんは俺の胸倉から手を離す。そのとしきさんに向かって、俺は言う。

「おじさん、さおりさ……三葉さんは、俺が命に代えても必ず護る。俺を、信じてくれ!」

としきさんは、穏やかな目になり俺を見詰める。そして、

「君……名前を、教えて貰えるかな?」

「あ……ああ、せい……たき、立花瀧だ。」

「瀧くん……娘を、三葉を頼む。」

「ああ、任せてくれ!」

力強くそう答え、俺と沙織さんは、としきさんの横を駆け抜けて行く。

 

俺達は、宮水神社の裏手の山道を、御神体目指して走った。頂上が近付くにつれて、ティアマトのコスモがどんどん大きく感じられていく。やはり奴は、今持てる全ての力を使い、彗星を引き寄せているんだ。

ようやく頂上に辿り着く。御神体の大木の前に、邪悪な女神ティアマトの姿がはっきりと見えた。両手を天に向かって広げ、巨大なコスモを宇宙に放っている。

「ティアマト!お前の好きにはさせないぞ!」

俺達は、窪地に一気に駆け降りる。

「邪魔はさせんぞ!」

昨日も現れた黒い甲冑軍団が、一斉に飛び出して来て襲って来る。

「貴様らの相手をしている暇は無い!ペガサス流星拳!!」

俺は、流星拳で甲冑軍団を一掃する。そして、ティアマトが居る巨木に一気に近付こうとするが、

「うわあああああああああっ!」

「星矢?」

突然、強烈な一撃を喰らって跳ね飛ばされてしまう。

「な……何だ?」

俺の前に、ひとりの男が現れる。2m近い長身で、俺達の聖衣のような鎧を纏っているが、その輝きはまるで神衣……だとすると、この男は?

「我が名は、ティアマトが夫、キングー。」

「な……何?」

「キングーですって?ならばあなたは?」

沙織さんが、その名に反応する。

「そう、私は“神”である。」

神だと?ティアマトに味方する神が、一緒にこの世界に来ていたのか?

「お前も、世界を滅ぼさんとする邪悪な神か?」

「そう考えるのは、お前達人間の驕りよ。この世界も、人も、神により創造されしもの。アテナを含む神々でさえ、ティアマトより生まれしもの。元々、この世界はティアマトのもの、生殺与奪権はティアマトにある。故に、全ての創造主であるティアマトの行いこそが正義、それに逆らう事こそが悪なのだ。」

キングーは、創造主寄りの正義を振り翳す。

「ふざけるな!そんな身勝手な正義があるものか!」

「そうです。生きる権利は、生きとし生けるものその全てにあります。それを勝手に奪う事など、神といえども許される事ではありません。」

俺と沙織さんは、キングーの正義を真っ向から否定する。

「ならば、我を倒しておのが正義を貫くが良い。」

「言われなくてもそうしてやる!喰らえ、ペガサス流星拳!!」

俺は、キングーに向けて渾身の流星拳を放つ。しかし……

「うわああああああああっ!」

「星矢!」

俺の放った流星拳は、キングーには一発も届かず、全て俺に跳ね返って来てしまう。

「人間ごときの拳など、この私には届かん!」

「お……おのれ……」

駄目だ、いくらコスモを高めても、瀧の体では限界がある。それに、聖衣も無い今の状況で、神を相手にするなど……

 

 

 

磨羯宮では、紫龍とウシュムガルの闘いが最終局面に入ろうとしていた。

「例え昇龍覇の弱点が分かったとしても、そこをお前が突く前に、お前を倒せば良いだけの事。」

「試してみるか?」

「良かろう。」

紫龍は、昇龍覇を放つ構えに入る。ウシュムガルも、技の体勢に入る。

「ゆくぞ!廬山!昇龍覇!!」

「ドラコーンオドゥース!!」

ふたりの必殺拳は、ほぼ同時に放たれるが、

「ぐうはああああっ!」

一瞬早くウシュムガルの拳が決まる。ウシュムガルの右腕が、紫龍の胸を貫いた。

「俺の勝ちだな、ドラゴン……ん……何っ?」

しかし、紫龍はその場に崩れ落ちる事は無かった。そして、紫龍を貫いたウシュムガルの右腕は……

「ぬ……抜けん!どうなっている?」

「掛かったな、ウシュムガル。」

「何?」

「昇龍覇の弱点など、今迄に何人もの強敵に見抜かれている……」

「き……貴様、わざとそこを狙わせて?」

「最初から心臓を狙って来ると分かれば、備える事はできる。これで、お前の拳は封じた。」

「だ……だが、これだけ密着していたらお前も昇龍覇は撃てまい!半端な攻撃では、我が神衣は砕けんぞ!」

「俺の武器は、拳だけでは無い!」

「何っ?」

「俺の右腕には、かつてこの磨羯宮を護った、最もアテナへの忠誠心の厚い誇り高き聖闘士の、魂の剣が宿っているんだ!」

「な……何だと?」

「今こそ唸れ!エクスカリバー!!」

紫龍の右腕の聖剣、エクスカリバーがウシュムガルを切り裂く。

「うぎゃあああああああああっ!」

神衣諸共、ウシュムガルは一刀両断されその場に崩れ落ちる。

「うう……」

混成獣は倒したが、自身も酷く傷付き、紫龍はその場に蹲る。

「?!」

その直後に、紫龍は突然磨羯宮内に立ち込める巨大なコスモを察知する。

「な……何だ?この、強大なコスモは?」

「……流石だな、ドラゴン……だが、もはやこの私と闘う力は残っていまい……」

部屋の隅から、ひとりの男がゆっくりと紫龍に歩み寄って来る。甲冑のような鎧を纏っているが、暗がりで姿は良く見えない。

“ち……違う、この男のコスモは、今迄の混成獣達とは……”

 

 

宝瓶宮では、氷河とラフムが闘い続けていた。

「うおおっ!」

「ぐはあっ!」

ふたりとも、酷く傷付き、コスモも低下していた。しかし、劣勢になるとまたコスモを燃え上がらせ、一進一退の攻防を繰り返していた。

「おのれ……そのような小さな体の中に、どれだけ力を溜めこんでいるんだ?」

「貴様こそ、ただのウドの大木では無いな。ここまで、タフな相手は初めてだ。」

だが、持久戦になれば、やはり不利なのは体の小さい氷河となる。

「このまま、千日戦争に突入するつもりは無い。悪いが、ここで決めさせてもらう。」

氷河は、両手を握りわせ、頭上に振り上げる。

「キグナス最大の拳でも、俺に完全に止めはさせんぞ!逆に、お前が力尽きるだけだ!」

「これは、俺の技では無い。」

「何?」

「我が師カミュよ、また、あなたの技をお借りします。」

氷河の凍気が、急速に高まっていく。

「やらせるか!シルトカール!」

危険を察知したラフムは、床を泥化して技を封じようとする。

「な……何だと?」

しかし、凄まじい凍気により泥は一瞬で凍りつき、氷河までは届かない。

「喰らえ!絶対零度の拳!オーロラエクスキューション!!」

「ぐわああああああああっ!」

これまでに無い凄まじい凍気に襲われ、ラフムは、今度こそ完全に凍りついてしまった。

「お……終わったか……」

疲れ果て、その場に跪く氷河。そこに、

「ぐわっ!」

一瞬の隙を付き、光速拳が炸裂する。氷河は、その場に崩れ落ちる。

「これで、ふたり……」

氷河を倒した男は、そのまま宝瓶宮を後にする。

 

 

双魚宮。

「う……うう……」

瞬は、俯せでその場に倒れている。そこに、ムシュフシュとクルールがゆっくりと歩み寄って来る。

「ふふふふ……ざまは無いな。」

「今、楽にしてやろう。」

瞬の直ぐ前まで来て、ふたりは止めをさそうと拳を振り上げるが、

「な?」

「何っ?」

突如、凄まじい気流が巻き起こり、ふたりの動きを封じてしまう。

「か……掛かったね?」

瞬は顔を上げ、よろつきながらも立ち上がる。

「いくら真空状態を作れると言っても、自分達がその中に入る事はできない。窒息してしまうからね。」

「ま……まさか?」

「お……俺達が、止めを刺しに近づくのを狙って……」

「このまま、僕の起こす嵐に飲み込まれてもらうよ。」

「馬鹿な?」

「そんな事をすれば、お前もただでは済まないぞ!」

「死は、元より覚悟の上さ。でも、ひとりでは死なない!」

「や……やめろおおおおおおっ!」

「爆発しろ!ネビュラストオオオオオオオム!!」

「ぐわああああああああああっ!」

「ぎゃああああああああああっ!」

気流が大竜巻に変わり、瞬も含めた3人を吹き飛ばす。神衣が砕け、ムシュフシュとクルールは神殿の外まで吹き飛ばされる。瞬の聖衣も大きく破損し、双魚宮の床に叩きつけられる。

「う……うう……」

顔を上げ、虚ろな目で遠くを見詰める瞬。

「に……兄さん……あとは、たのみ……」

そこまで言い掛けて、瞬は力尽きる。

そこに、磨羯宮、宝瓶宮を抜けて来たあの男が入って来る。倒れた瞬の前まで行き、呟く。

「……こいつは、俺が手を下すまでも無かったか……」

そう言い残し、双魚宮も抜けて行こうとするが……

「ん?」

既に抜けて来た、後方の宮からコスモを感じて立ち止まる。

「何だ?」

ふと上を見上げると、ネビュラストームで開いた大穴の中を、黄金の光が横切って行くのが目に入る。

「あれは?黄金聖衣か?」

 

 

 

「うわあああああああっ!」

俺は、また自分の放った流星拳をその身に受け、跳ね飛ばされてしまう。

「星矢っ!」

「う……ううっ……」

駄目だ、何度やっても、俺の拳はキングーに届かない。全て跳ね返されてしまう。

「ははははははは!ざまは無いな、アテナ!貴様の下僕は、我が伴侶のキングーに手も足も出ぬぞ!わざわざわらわを追ってここまで来た執念は見事だが、あまりにも浅はかだったようじゃな!」

両手を天に翳し、彗星を引き寄せるコスモを放ち続けるティアマトが、高笑いをする。

「アテナよ、お主も酷い女神よの。」

キングーが、沙織さんに語り掛ける。

「お主がその男をコスモで守らなければ、とっくにその男の体は朽ちていた。このように何度も辛い罰に耐える必要も無かったのだ……」

「黙れ!」

俺は、キングーの言葉を遮る。

「何が罰だ?罰を受けるのはお前の方だ!俺は、お前達の正義を認めない!例えこの体が朽ちようと、絶対に諦めない!」

「そうか?だが、このまま続けても結果は変わらん。直ぐに時間切れとなって、お前達は滅びる。」

確かに、このままじゃ埒が明かない。こうしている間にも、彗星はどんどんこの地に近づいて来ている。せめて、聖衣があれば……

「?!」

その時、突然俺の目の前に、黄金の輝きが出現する。そして、その光の中から現れたのは……

「あ……あれは……」

「射手座の黄金聖衣!」

沙織さんに続き、俺も驚きの声を上げる。

俺達の危機に、黄金聖衣が反応したのか?射手座の黄金聖衣が、次元を超えて応援に来てくれた!黄金聖衣は、瞬く間に俺の体に装着される。

「うおおおおおおおおおおっ!」

俺は、今迄以上にコスモを高める。

「キングー、今度こそ喰らえっ!ペガサス!流星拳!!」

「な……何っ?ぐわああああああああっ!」

遂に、俺の流星拳がキングーに炸裂した。

 






この話での瞬の台詞は、本来は紫龍の決め台詞なんですが、ここでは瞬に使わせてもらいました。
瞬のピンチに、一輝が駆け付けると思われた方もいるかと思います。残念ながら、一輝の出番はまだここではありません。

ちなみにキングーの台詞は、若本規夫さんの声を連想して書いてます(笑)。

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