いよいよ、聖域にティアマトの混成獣達が押し寄せて来ます。
アテナの聖闘士VSティアマト混成獣の最終決戦の幕開けです。
当然、瀧も星矢として闘うことに……
入れ替わりから約1ヶ月が経ったその日。とうとう、敵の動きがあった。
聖域の周りに、邪悪なコスモが沸き起こり、それは真っ直ぐ12宮に向かって来ていた。
「とうとう現れたな……」
紫龍が呟く。
アテナ神殿に、今はアテナとなっている三葉を囲み、紫龍、氷河、瞬、そして今は星矢である俺が集まっている。
「雑兵達は何とかなるだろうが、混成獣は他の聖闘士では防ぎきれないだろう。人馬宮までは、突破されると考えた方がいい。」
氷河が言う。
「よし、では俺は、磨羯宮で迎え撃つ。ひとりでも多くの混成獣を倒すつもりだが、後は任せる。」
そう言って、まず紫龍が出て行く。
「なら、俺は宝瓶宮だな。」
続いて、氷河も出て行く。
「僕は、双魚宮だね。アテナは任せたよ、瀧くん!」
そう言って、瞬も出て行こうとする。
「み……みんな行っちまうのか?」
俺は、少し不安になって泣き言を言ってしまう。
「心配しないで、君はこの1ヶ月間、死にもの狂いで修業をした。今は、星矢と比べても見劣りしないコスモを身につけている。自信を持つんだ。」
「あ……ああ。」
「それに、万が一の時は、必ず兄さんが来てくれる。」
「兄さん?」
そう言って、瞬も出て行ってしまった。
「た……瀧くん……」
三葉が、心配そうに俺を見詰める。
「は……ははっ!心配ねえよ、俺も、この1ヶ月で見違えるくらいに強くなったんだぜ!ティアマトの混成獣なんて、俺の流星拳で塵にしてやるよ!」
俺は、三葉に心配掛けないように、目いっぱい強がって見せた。
磨羯宮。氷河の予想通り、人馬宮までを突破して来たティアマトの混成獣が、紫龍と対峙している。その数、8人。
「混成獣は、残り9人だった筈。ひとり足りないな。」
「ふん、アテナの聖闘士ごときに、俺達全員が出向くまでもなかろう。8人でも多すぎるくらいだ。」
先頭の、龍を模った甲冑を纏った男が答える。そして、
「かかれっ!」
その男の号令で、全員が一斉に紫龍に襲い掛かる。
「廬山!百龍覇!」
その軍勢に向かい、紫龍は百龍覇を放つ。無数の龍が、混成獣達を襲う。その一撃は磨羯宮の床も砕き、辺りは粉塵に包まれる。その粉塵が晴れた時、その場に残っている混成獣はふたりだけだった。
「ちっ、足止めできたのはふたりだけか。」
「別に、俺達は足止めされた訳では無い。お前を葬ってから、ゆっくりと後を追おうと思っただけだ。」
「たったふたりでか?」
「言っただろう、アテナの聖闘士ごときに、そんなに人員は割けない。お前ひとりには、ふたりでも多すぎるくらいだ。」
まず、7つの首を持つ海蛇を模った甲冑の男が名乗る。
「俺は、ティアマト11混成獣がひとり、ムシュマッヘ!」
続いて、翼を持つ龍の甲冑の男が名乗る。
「同じく、ティアマト11混成獣がひとり、ウシュムガル!」
対する紫龍も、自分の名を名乗る。
「アテナの聖闘士、ドラゴン紫龍!」
まずムシュマッヘが、一歩前に出て先陣を切る。
「俺は無駄に時間を掛けるのは嫌いだ。一気に決めさせて貰うぜ!」
ムシュマッヘの放つ光速拳が、紫龍に襲い掛かる。
「はあああああああああっ!」
しかし、紫龍はドラゴンの盾で、その全てを防いでしまう。
「何っ?」
「このドラゴンの盾は最強の盾。いかなる拳も、この盾の前では無力!」
「ちっ!」
「次はこちらから行くぞ!廬山!龍飛翔!」
紫龍の闘気が、拳となってムシュマッヘとウシュムガルに襲い掛かる。
「ふんっ!」
「無駄だっ!」
しかし、紫龍の攻撃は、相手の鎧に弾かれてしまう。
「我らの神衣は、ティアマト様から与えられた最強の鎧。そんな攻撃など利かん!」
「ならば、ドラゴン最強の拳で、その最強の鎧を砕いてやろう。」
紫龍は、昇龍覇の構えに入る。
「ぬかせ!こっちこそ、俺の最大の技で貴様の自慢の盾を砕いてくれる!」
ムシュマッヘが必殺技の構えをする。ウシュムガルは、あえて手を出さず静観している。
「ヒュドラーフレイム!!」
「廬山!昇龍覇!!」
ふたりの必殺拳が激突!
ムシュマッヘの拳が、ドラゴンの盾に亀裂を入れる。だが、砕く事はできない。逆に紫龍の拳は、ムシュマッヘを完全に捕えていた。
「うぎゃああああああああっ!」
神衣は砕かれ、ムシュマッヘは磨羯宮の柱に叩きつけられる。
「流石だな。それがドラゴン最大の奥義、昇龍覇か。」
仲間がやられても、ウシュムガルは動揺する様子も無い。
「次は貴様が、昇龍覇の餌食になるか?」
「いいのか?2度も昇龍覇を放って?」
「何?」
「龍の右拳ががら空きになるぞ。」
「……」
ウシュムガルは静観する事で、紫龍の昇龍覇の弱点を見抜いていた。
宝瓶宮では、氷河がふたりの混成獣と対峙していた。
「足止めできたのはふたりだけか?直ぐに倒して、後を追わねばならんな。」
「それはこちらの台詞だ。俺は、ラフム。貴様を含め、残りの聖闘士は全て俺が倒してくれる。」
氷河の倍以上もある巨体で、全体から無数の巻き毛を生やした甲冑を纏った男が言う。
「ならば、アテナの首はこのウガルルが頂くか?」
その横の、獅子を模った甲冑を纏った男が続く。
「俺はキグナス氷河、この凍気を受けて、まだそのような寝言をほざいていられるかな?」
氷河は、コスモと凍気を高めて拳を放つ。
「ダイヤモンドダストオオオオッ!!」
ラフムとウガルルは、一瞬で氷付けになってしまう。だが、
「ぬうおおおおおおおおっ!」
ラフムとウガルルは、気合を発して氷を全て弾き飛ばしてしまう。
「この程度の凍気で我らを倒すなどと、寝言をほざいているのは貴様の方だ!喰らえ、シルトカール!」
今度は、ラフムの攻撃。しかし、ラフムは氷河では無く、床に向かって拳を放つ。
「何?」
すると、床全体が一気に泥沼化していく。泥に足を取られ、動きが鈍ったところに……
「ぬうっ!」
泥の中から無数の巻き毛が飛び出し、氷河を絡め取る。
「何だこれは?」
その巻き毛は、氷河の動きを封じただけでは無かった。その巻き毛に、氷河のコスモが吸い取られていく。
「う……うう……」
「掛かったな?俺の外観を見た奴は、ほぼ誰もが力押しの攻撃を予想する。」
泥沼に半身を遣った、ラフムが言う。
「そのままでも、いずれコスモを吸い尽くされてお陀仏だが、俺達も先を急ぐんでな。」
いつの間にか、大きく飛び上がっていたウガルルが続く。
「獅子の爪で、一気に決めさせて貰うぜ!ライオネルタロン!!」
ウガルルの必殺拳が、氷河に炸裂する。
「うわああああああああっ!」
泥から弾き出され、巻き毛も引きちぎれ、氷河は神殿の柱に叩き付けられる。
「ふん、所詮この程度か?」
ラフムは技を解き、周りは普通の床に戻る。
「アテナの聖闘士等、やはり我らの敵では無い。こんな奴にやられるとは、ギルタブルルもバシュムも混成獣の恥さらしだな。」
ふたりは、そのまま宝瓶宮を抜けようとするが……
『何?』
目の前で倒れていた氷河が、行く手を塞ぐようにゆっくりと立ち上がった。
「ば……馬鹿な?俺のライオネルタロンを受けて、立ち上がるだと?」
「……お前が全力を出せていたら、やばかったかもしれないがな……」
氷河は冷やかに解説する。
「お前達が馬鹿にした俺の凍気で、お前達のコスモは著しく低下している。そんな状態で放った技で、この俺を倒す事などできん。」
「な……何だと?最初に放ったあの技で?」
「今度は、お前達のコスモを完全に絶つ。」
氷河は、再びコスモと凍気を高める。
「受けよ!キグナス最大の拳、オーロラサンダーアタアアアアアック!!」
『ぐわああああああああああああっ!!』
更なる強力な凍気を受け、ラフムとウガルルは再び凍りついた。
「さて、取り逃がした混成獣達を追うとするか。もう、瞬達が倒してしまったかもしれんがな……」
「ぐ……ぐぐ……」
「んん?」
行きかけて、かすかなコスモを感じて氷河は足を止める。
「うがああああああああっ!」
ラフムが、再び氷を弾き飛ばし、その姿を現す。
「な……何だと?」
「ざ……残念だったな、キグナス最大の拳とやらでも、俺のコスモを絶つ事はできなかったな……」
「ば……ばかな?」
「生憎、俺は混成獣の中で最もタフでな……どちらが先にコスモが尽きるか、根競べだなキグナス!」
「ぬううっ……」
氷河とラフムの闘いは、まだまだ続く。
双魚宮。宝瓶宮を抜けて来た4人の混成獣が、一気に駆け抜けていく。その眼前に、ひとりの聖闘士が立ちはだかる。
「ネビュラチェエエエエエン!」
その聖闘士の放つ鎖が、4人の混成獣を絡め取る。
「僕は、アンドロメダの瞬。この鎖を抜けて、ここを通り過ぎる事はできないよ。」
「クックックックックッ……」
しかし、鎖に絡め取られて、動きを封じられた筈の混成獣達は含み笑いをする。
「通り過ぎる事ができない?既にふたり抜けているのにか?」
「何だって?」
すると、4つあった筈の影がふたつ消え、鎖はその場に落ちる。
「ばかな?」
「ここに残った俺達とて、こんな鎖など……」
そう言って、残ったふたりは鎖を引き契る。
「ティアマト混成獣がひとり、ムシュフシュ!」
「同じく、クルール!」
2本の角を生やした蛇の甲冑のムシュフシュ、魚人の甲冑のクルールが名乗りを上げる。
「ならば、君達は僕が確実に止める。行け、チェーンよ!サンダーウェーブ!」
瞬はチェーンでムシュフシュとクルールを攻撃するが、その攻撃は、彼らの甲冑に弾かれてしまう。
「そんな物は、我らの神衣には通用しない。ギルタブルルとの闘いで分かっているのではないのか?」
「勿体つけずに、お前の真の力を見せたらどうだ?」
その言葉に、瞬は覚悟を決め、チェーンを捨てる。
「確かに、生身の拳は使いたく無いなんて、言ってられないようだね……燃え上がれ、僕のネビュラよ!」
瞬の体の回りに、気流が沸き起こる。
「ネビュラストリーム!」
凄まじい気流が、ムシュフシュとクルールを包み込む……と、思いきや、ふたりに近付いた途端に気流は消滅してしまう。
「な……どうして?」
ムシュフシュは、不適に笑い答える。
「無様に逃げ帰ったギルタブルルの手下から、お前の技については聞いている。」
「何だって?」
「気流を自在に操るようだが、それは空気があって初めて可能になる。俺達の合体技は、周囲に真空状態を作り出す。だから、お前の技は俺達には届かない。」
「そ……そんな?」
「いくぞ!クルール!」
「おう!ムシュフシュ!」
『アンドロメダを切り刻め!バキュームシュナイデン!!』
巨大なかまいたちが、瞬を切り刻む。
「うわあああああああああっ!」
アテナ神殿。
玉座に座るアテナの手を、その前に跪いている星矢が握っている。
アテナは俯いて目を閉じ、少し震えている。
ま……また、コスモがひとつ感じられなくなった。誰かが、倒されたんだろうか?
私は、1ヶ月間ここに居て、特にコスモを高める修行をしていた訳でも無い。でも、日に日に、聖闘士さん達のコスモを感じる事ができるようになっていった。瀧くんが修行をしているのも、近くに居なくても感じる事ができた。
ただ、今迄は皆がコスモを高めるのは感じられても、コスモを感じなくなるような事は無かった。邪悪なコスモも感じなしなかったかった。
だけど、今日は違う。邪悪な、恐ろしいコスモがこの聖域を包み込んでいる。その邪悪なコスモが大きくなる度に、聖闘士さんたちのコスモが感じられなくなっていく。皆が、倒されているんだ。それが、感じ取れてしまうのが、辛い……怖い……悲しい……皆、私を護るために戦っているのだから。
「み……三葉。」
瀧くんが、震えている私の手を握り締めて言ってくれる。
「心配しないで、瞬達が、必ず混成獣を食い止めてくれる。万一討ち漏らしても、俺が必ず倒す。絶対に、三葉を護るから。」
違うの、自分が襲われるかもしれない事が怖いんじゃ無い!私のために、多くの聖闘士さん達が倒れていくのが、辛いの、怖いの……もしかしたら、次は瀧くんが……
「?!」
その時、このアテナ神殿に入り込む邪悪なコスモを感じた。真っ直ぐ、こっちに向かって来る。と……とうとう来てしまった。瀧くんが、闘う時が……
「来たか!」
瀧くんも、敵のコスモを感じ取って、私の手を離して玉座の前に立つ。
部屋の戸を蹴破って、ひとりの男が中に入って来る。
え?ひとり?最初は、ふたり分のコスモを感じたような気がしたけど……
こうなると、もう“君の名は。”は殆ど関係無くて、“聖闘士星矢”の二次創作が主流になってしまいます。“聖闘士星矢”の世界に迷い込んだ、三葉と瀧って感じです。
何で混成獣の最後のひとりが一緒に来ていないのか?
まあ、“聖闘士星矢”知ってる人ならもう分かってると思いますが……そう、アテナの
聖闘士側も、まだひとり居ないですからね。