君のコスモは   作:JALBAS

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瀧の正体と、その目的を知るため、氷河は瀧に襲い掛かります。
しかし、何も知らない瀧は、同じ答えを繰り返すばかり。
痺れを切らした氷河は、標的を三葉に変えようとします。
その時、瀧は……
一方、自分達が異世界に来ている事に気付いた星矢達は……




《 第六話 》

 

「ダイヤモンドダスト!!」

「うわああああああっ!」

バシュムを倒した技が、俺に炸裂する。もちろん、威力は極端に落としてある。それでも、今の俺にはとんでもないダメージだ。

「う……うう……」

俺はまた、その場に倒れ込む。

「や……止めろ!氷河!」

「黙っていろ、シャイナ!お前だって、星矢の居所は知りたいだろう?」

「だが、私には、瀧が嘘をついているようには見えない!」

「それは、直ぐに分かる。」

氷河は、倒れた俺の直ぐ前に立つ。

「さあ言え、お前は何者だ?アテナと星矢を何処へやった?」

「な……何度聞かれても……俺の答えは……同じ……」

地面に突っ伏したままで、俺は答える。

「そうか、なら、女の方に聞くとしよう。」

氷河は、倒れた俺の横を通り過ぎて行く。

女の方?ま……まさか?三葉か?

「ま……待てっ!」

氷河は、足を止める。

「み……三葉には、手を出すな!」

倒れたまま、俺は言う。

「なら、お前が答えろ。」

「だから……俺は、嘘など言ってない!」

「信用できんな。」

「こ……この、分からず屋め!」

俺の中に、得体の知れない力が沸き起こって来る。いつの間にか、俺は立ち上がっていた。もう、立てる力など残っていなかったのに。

「そんな体で立ち上がって、何をするつもりだ?」

「三葉には、絶対に手は出させん!お……お前を、倒してでも!」

「どうやって?」

「こうするんだ!ペガサス流星けえええええええんっ!!」

俺の中で、再びコスモが爆発した。渾身の流星拳を氷河に向かって放つ。

「ふん!」

しかし、俺の流星拳は悉く弾かれてしまう。氷河には全く当たらない。それでも、俺は拳を放ち続ける。

「うおおおおおおおおおおっ!」

そして、最後の最後に、一発だけ氷河の顔面にパンチが当たった。

「ど……どうだ……」

しかし、氷河は微動だにしない。逆に、俺は今度こそ力尽きて、そのまま倒れて意識を失ってしまった。

 

「た……瀧っ!」

シャイナが、瀧に駆け寄る。そのシャイナに、氷河は静かに言い放つ。

「運んで、手当てをしてやれ。」

「え?」

「そいつが、嘘を言っていない事は良く分かった。コスモは嘘はつかん。そいつのコスモは純真で、一点の曇りも無かった。」

「そ……そうか……じゃ……じゃあ、どういう事なんだ?こいつは何処から来たんだ?」

「日本の糸守だろう?」

「し……しかし、糸守なんて町は、日本には無いって……」

「俺達の世界にはな。」

「何?」

「おそらくそいつは、俺達とは違う世界から来たんだ!」

 

 

 

「どういう事だ?沙織さん、ここが、俺達の世界じゃ無いって?」

「パラレルワールド、私達の世界と平行して存在する別世界です。」

「パラレル……ワールド?」

「起源は同じ世界です。ですが、歴史が進むにつれて“もしも”の世界が、枝分かれで生まれていったのです。もしも聖戦が無かったら、もしも人間が生まれていなかったら、そうやって幾つもの世界が、違う次元に無数に増えていった……私たちが居た世界も、今居るこの世界も、その平行世界の中のひとつでしか無いのです。」

「な……何となく、分かるような分からないような……だけど、じゃあ、何で俺達がこの世界に居るんだ?」

「それは……分かりません。」

「だが、こんな事ができるのは、神か何かしかいない!やはり、邪悪な神の策略じゃないのか?」

「……」

しかし、以後は沙織さんは黙り込んでしまい、何も答えてはくれなかった。

 

「どないしたんや?お前ら?」

昼食の時に、テッシーが聞いて来る。

「どないしたって?」

「授業ふけてどこぞ行ったと思や、今度は妙に塞ぎ込んどる。」

「そ……そうか?」

俺は、とりあえずとぼけるしか無かった。

「何処行っとったんや?」

「ちょ……ちょっと、図書室で調べ物をな。」

「もうちょいましな嘘付けや。」

「嘘じゃねえって。」

「じゃあ、何を調べとったんや?」

「それは……ちょって……」

「また、ふたりだけの秘密か?」

「またって何だよ?」

俺とテッシーがそんな言い合いをしている最中も、沙織さん……三葉は、ずっと考え込んで何も喋らない。心配した、サヤちんが声を掛ける。

「三葉?」

「……え?は……はい。」

「ほんまにどうしたん?今日は、全く喋らへんね?」

「は……はい、ごめんなさい。」

だが、三葉はただ謝るだけだった。

 

その日の夕方、俺は人気の無い切り立った崖の前に来ていた。

今夜の夕食当番は四葉なので、俺が代わりに作りに行く必要は無い。それなら、今夜は思う存分特訓ができる。

崖の前に立ち、俺はコスモを高める。

「うおおおおおおおおおっ!」

そして、崖に向かって正拳を放つ。凄まじい轟音と共に、手前の崖は崩れ落ちる。

駄目か?やはり、自分の体の時に比べてコスモが桁違いに低い。それに……

俺は、崖を砕いた自分の拳を見る。赤く、腫れ上がってしまっている。

この体では、これ以上のコスモには耐えられない。決して鈍っているとういう訳では無いんだが、俺達のように、闘うために鍛え上げられた体とは差が有り過ぎる。その上、ここには聖衣も無い……

しかし、何とかこの体で、闘い抜く術を身に付けなければならない。この入れ替わりには、何らかの神の力が関与している。もしそれが邪悪な神によるものなら、必ずアテナを狙って来る。今、この世界に、アテナを護る聖闘士は俺ひとりしか居ないのだから……

「星矢!」

いきなり本名を呼ばれ、俺は振り向く。

「さ……沙織さん……」

そこには、今は宮水三葉となっている、アテナ……沙織さんが立っていた。

「やはり、ひとりで特訓をしていたのですね?」

「へへ……良く分かったな?」

「何年、あなたの無茶を見続けて来たと思っているのです?あなたの考えている事なんて、直ぐに分かります。」

俺は、体裁悪そうに頭を掻く。

「私も力を貸します。」

「え?」

「私のコスモで、あなたの体をガードします。そうすれば、あなたがコスモを高めても、体への負担は少なくなる筈です。」

「だけど、あんたは自分の身も護らないと……あんただって、三葉の体でコスモを全開にはできない筈だ。いざ、あんた自身が狙われたら……」

「ふふ……」

「ん?」

「おかしな事を言うのですね?星矢。そんな時に、いつも身を挺して私を庇ってくれているのは、誰なんですか?」

「あ……そう言われてみれば……そうだったか?」

「ふふふふふ……」

「ははははは……」

俺達は、しばらくの間笑い合っていた。

 

 

 

傷付いた星矢(瀧)は、人馬宮の星矢の部屋に運ばれ、手当てを受けていた。

そこに、瞬に連れられ、アテナ(三葉)が入って来る。

「た……瀧くん!」

ベッドに横たわる星矢を見て、アテナは駆け寄って来る。気を失っている星矢の手を握り、涙を流す。

「瀧くん!しっかりして!目を開けて!」

あまりの剣幕に、ベッドの脇で介抱ををしていたシャイナが声を掛ける。

「心配はいらないよ、気を失っているだけだ。かなり、ダメージは受けているけど。」

しかし、シャイナの言葉など耳に入らないかのように、アテナは泣きじゃくる。

「ごめんなさい!ごめんなさい!私を護るために……」

「いや、別にあんたを護るためって訳じゃ……」

途中まで言い掛けて、シャイナは言葉を飲み込んだ。最後に氷河に向かっていった瀧は、確かに三葉を護ろうとしていたから。

「瀧くん……瀧くん……」

アテナは祈るように呟く、すると、彼女の手が突然光り出し、暖かいコスモが星矢の体を包み込む。

『何っ?』

それを見た、シャイナと瞬が驚きの声を上げる。

暖かいコスモに包まれた星矢は、ゆっくりと目を開く。

「……み……みつは?」

「た……瀧くん!良かった!」

アテナは星矢の首に抱きついて、今度は嬉しくて泣きじゃくる。

「さ……さっきのは?」

「間違い無く、アテナの癒しのコスモ……」

シャイナと瞬は、未だに驚いてアテナを見詰めている。

「ど……どうして、誰にも教わっていないのに、アテナのコスモを……何者なんだ?彼女は?」

「その男もな。」

後ろからの声に、瞬が振り向くと、入り口の所に氷河が立っていた。

「氷河……その男って、瀧くんのこと?」

「そいつは、ティアマトの混成獣と俺に向かって、星矢の流星拳を放った。」

「何だって?」

「誰に教わる事も無くな。」

「そ……そんな?」

「コスモが何かすら知らなかった男が、わずか数日であそこまでコスモを燃やす事ができるようになるなど、常識では考えられん。」

瞬は、驚愕の眼差しで星矢とアテナを見詰める。

“瀧くん、三葉さん、いったい君達は何者なんだ?星矢や沙織さんと、どんな関係が?”

「しかし、そいつは、本当に星矢じゃ無いのか?」

更に、ぽつりと氷河が呟く。

「え?何を言ってるんだ氷河、彼が異世界から来たって言ったのは、君じゃないか。」

「ああ、確かにコスモの使い方はなってないし、持っている記憶が全然違う。別人としか思えないんだが、似てるんだ。そいつは、星矢に……」

「そ……そう言われてみれば、普通に話していれば、何も違和感を感じない。」

「それに、あの強大な敵に臆する事無く立ち向かう闘志、愛する者を護ろうとする時に見せる底力……まるで、星矢そのものだ。」

 

 

その後、ようやく気持ちの落ち着いた私は、アテナ神殿に戻された。瞬さん、氷河さんも一緒に来て、そこに紫龍さんも加わり、私達の世界について色々と聞かれる事になった。

「グラード財団という名を聞いた事は無いか?」

紫龍さんが、聞いて来る。

「いいえ……聞いた事が無いです。」

「ギャラクシアンウォーズという大会は?」

「知らないです。」

紫龍さん達は、私の答えに考え込んでしまう。

「日本だけでは無く、全世界に影響力を持つグラード財団の名前すら知らない……」

氷河さんが呟く。

「ギャラクシアンウォーズだって、あれだけメディアで連日大騒ぎしていたのに、全く知らない何て変だよ。」

と瞬さん。

「彼女達の世界には、グラード財団は存在しない。ギャラクシアンウォーズも行われていないと見るのが正しいだろう。」

紫龍さんがまとめ、更に質問をして来る。

「この場所、聖域については聞いた事があるか?」

「“聖域”という呼び名は、聞いた事が無いです。ただ、この神殿のような建物は、テレビのニュースや歴史の本、観光ガイドなんかでは見た事あります。世界遺産にもなっているし、毎年大勢の観光客が訪れて……」

『聖域が観光地?』

この言葉には、3人とも驚きの声を上げる。

「もはや、聖域どころか、聖闘士すら存在しないと考えた方がいいだろう。もしかすると、神々の聖戦が全く起こらなかった世界なのかもしれない。」

紫龍さんの言葉に、氷河さんも瞬さんも同意して頷いている。

「それじゃあ、星矢も沙織さんも、とりあえず心配は無いと考えていいのかな?聖戦が無いなら、襲って来る敵も居ないだろうし……」

「いや……」

瞬さんの言葉を、紫龍さんが遮る。

「どうにも、彼女達が前に言った彗星の事が気に掛かる。」

「彗星?」

「何だそれは?」

氷河さんが聞いて来るので、私が説明する。

「はい、丁度今、私達の世界で“大天体ショー”として話題になっているんです。1200年周期で、地球に最接近するという彗星で、その最接近の日が、約半月後なんです。日本が、位置的に一番近くになるんで。」

「当然、我々の世界には存在しない。」

紫龍さんが捕捉する。

「何ていう彗星なの?」

瞬さんが聞いて来るので、

「確か、ティアマト彗星って……」

『ティアマト?!』

瞬さんと氷河さんが大声を上げるので、私は驚いて少したじろいでしまった。

「ま……まさか、邪神ティアマトと関係があるのか?」

そう問いかける氷河さんに、

「無関係とは思えん。そもそも、ティアマトの11混成獣が現れたのも、彼女達が入れ替わった日からだ。」

と、紫龍さんが答える。

「しかし、だからと言って俺達には調べる手立ては無い。今星矢達が居ると思われる、彼女達の世界へ行く術も無いしな。」

「ティアマトの混成獣達を全員倒せば、何か分かるのかな?」

と瞬さん。

「分からんが、今出来る事はそれくらいだろう。また奴らはここを襲ってくるだろうから、聖域の守りを固めよう。」

「うん。」

「分かった。」

ふたりとも、紫龍さんの意見に同意する。

 

しかし、その日以降、急にティアマトの刺客は現れなくなり、しばらくは平穏な日々が続いていった……

 






“君の名は。”の原作では、3年の時差での入れ替わりでしたが、この話では完全な別世界での入れ替わりにしました。片や“聖闘士星矢”の世界、片や“君の名は。”の世界です。
どっちが常識外れの世界かと言われれば、当然、“聖闘士星矢”の世界です。
ですので、星矢や沙織さんと入れ替わっても糸守の未来を知る事もありません。糸守自体が存在しないので。
じゃあ、何のために入れ替わりが起こったのか……は、次回はっきりします。

ちなみに、この話の設定では、星矢達が黄金聖闘士に代わり12宮を護っています。
星矢は当然人馬宮。
紫龍が磨羯宮。何で天秤宮じゃないのかというと、アテナ神殿から遠いためです。
氷河は宝瓶宮。
瞬が双魚宮です。
その他の宮はその他大勢の聖闘士が、一応複数人で護ってます。
一輝は前に書きましたが、常駐していません。カノン島辺りで自分を鍛えてます。

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