君のコスモは   作:JALBAS

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聖域にいる瀧と三葉。
元はお互いを意識しすぎてうまく接近できなかったふたりですが、“異世界で知っている者は自分達だけ”の環境下で、自然と親密な関係になっていきます。
一方で、糸守のふたり。
見た目は瀧と三葉でも、中身は星矢と沙織。
自然に会話しますし、既に親密な関係です。しかし、傍から見れば、急に瀧と三葉の仲が進展したと見られてしまいます。




《 第四話 》

 

本当に信じられない、驚く事ばかりだった1日も、ようやく終わろうとしていた。

アテナ神殿の奥には、また階段があり、そこを上ると屋上に出られる。屋上には、大きな女神像があり、私達は、その足元に腰掛けて星空を眺めていた。

「綺麗な星空……」

「本当だな……」

糸守も空気が澄んでいるから、星空は綺麗だけど、ここのはもうレベルが違う。

田舎というのとは少し違うけど、ここには自動車も走って無ければ、工場も何も無い。エアコンやテレビや冷蔵庫や、その他の電化製品も全く無い。本当に、純粋に自然の中なのだ。だからより空気が澄んでいて、星がよく見える。これでだけよく見えれば、星座から人や動物の形を連想していたのも頷ける。

こんなロマンチックな星空を、瀧くんとふたりだけで見られるなんて……少しだけ、この入れ替りに感謝かな?

「はあ~っ……」

状況を楽しんでいる私に対して、瀧くんは憂鬱な模様。それもその筈、明日からは、聖闘士としての特訓が待っているのだ。

「ご……ごめんね、瀧くん。」

「へ?何で、三葉が謝るの?」

「だって、聖闘士って、アテナを護るために闘うんやろ?そんなら、瀧くんが特訓せないかんのも、私を護るため……」

きゃっ!何か、言ってて恥ずかしい!私を護るために、瀧くんが闘うなんて……

すると、何故か瀧くんは、きょとんとした顔をする。

「ど……どうしたん?」

「そうか……」

「え?」

「そうだよな?アテナを護るって事は、三葉を護るんだ?な……何か、やる気が出てきた!」

「え?そ……それって……」

「お……俺、がんばるから!星矢って奴のようにこの体を使えるようになって、必ずお前を護るから!」

瀧くんは、手を力強く握って、私に訴える。私は、呆然とその瀧くんを見詰めていたけど、急に恥ずかしくなって、両手を頬に付けて顔をそらしてしまう。そんな私の仕草を見て恥ずかしくなったのか、瀧くんも顔を赤らめて俯く。

「ご……ごめん……つい……」

「う……ううん……あ……ありがとう……」

しばらくの間、沈黙が続く。それを先に破ったのは、私の方だ。

「こ……この間は、ご……ごめんなさい。」

「え?この間って?」

「豊穣祭の舞と儀式……絶対に見に来んでって……」

「あ……ああ、あの事?」

「私、あの儀式嫌いで……凄く恥ずかしくて……あなたに、見られたくなくて……」

「そ……そうだったのか?俺は、てっきり嫌われてるかと……」

「そんな事あらへん!私は、一目逢った時から瀧くんが……」

「え?」

そこまで言って、私はまた顔を逸らしてしまう。自分では見えないけど、多分顔は真っ赤になっている。

「……俺もさ……」

「え?」

「俺も、一目逢った時から、お前が好きになちゃったんだ……」

い……今、何て?

私は、また瀧くんの方に顔を向ける。すると、瀧くんは、優しく微笑んで、私を見詰めている。

「た……瀧くん……」

「三葉……」

ふたりの顔が、少しずつ近付いていき、そして……

 

 

 

「お姉ちゃん!いつまで寝てるん?早く起きないと遅刻やよ!」

四葉さんにまた怒られ、目を開ける。

慣れない寝床と、自己嫌悪で、昨日の夜は中々眠れなかった。とにかく急がないと、また怒られてしまう。私は急いで仕度をして、下に降りる。

「おはよう。」

「お……おはようご……」

お婆さんが挨拶をして下さるので、挨拶を返すけど、つい敬語になりかけてしまうので、変にぎこちなくなってしまう。正座をするとまた足が痺れてしまうので、少しお行儀が悪いけれど、横座りになって食卓につく。すると、突然何かの合図のような大きな音がする。驚いて音のする方に顔を向けると、鴨居にスピーカーが設置されている。

『皆様、おはようございます。』

音に続いて、スピーカーから声が流される。

『糸守町から、朝のお知らせです。』

そういえば、学校の教室にも同じ様なスピーカーがありました。庶民の家には、何処もこのようなスピーカーが設置されているのでしょうか?

『来月20日に行われる、糸守町長選挙について、町の選挙管理委員会から……』

そこで、突然音が切れてしまう。おかしいと思って辺りを見回すと、お婆さんが、スピーカーのコンセントを抜いてしまっている。どうしたのでしょうか?

お婆さんは、そのままテレビの所に行き、テレビの電源を入れ、席に戻る。

「いいかげん、仲直りしないよ?」

四葉さんが、お婆さんに言う。お婆さんは、何も答えないけど、“仲直り”って何のことでしょう?どなたと、仲直りしなさいと言っているのでしょうか?

 

食事が終わり、学校に行こうと玄関に向かう。また、四葉さんに先導されて行くのかなと少し自分が情けなくなっていると、四葉さんが突然、

「じゃあね、お姉ちゃん!ごゆっくり!」

そう言って、ひとりで駆けて行ってしまう。あれ?と思っていると、

「おはよう、三葉。」

星矢……では無く、瀧くんが外に立っていた。

「瀧くん……迎えに来てくれたのですか?」

「ああ、あんまり、ボロを出されたら困るからな。」

「まあ……失礼ですね。」

私は、少し剥れた顔をするが、内心では感謝していた。本当に星矢は、私が困っている時には必ず駆けつけてくれる。

ふたりで学校への道を歩いていると、昨日のように、後ろから呼ぶ声が、

「三葉~っ!」

勅使河原さんと名取さんが、また自転車にふたり乗りして近付いて来る。

すると、瀧くんが私に耳打ちして来る。

「男の方は“テッシー”、女の方は“サヤちん”だぜ。“名取さん”なんて呼ぶなよ。」

「は……はい。」

「挨拶は“おはよう”で切って。“ございます”はいらないから。あ……あと、お辞儀も。」

「は……はい。」

名取さ……サヤちんが自転車を降りて、私に歩み寄る。

「おはよう、三葉!」

「あ……おはよう……サヤちん……」

勅使河原……テッシーの方は、瀧くんの方に行く。

「おす!瀧、」

「おう、テッシー!」

瀧くんのお陰で、挨拶は無事に済んだ。

「あれ?三葉、また、髪結ってないんやね?」

「え?」

そういえば、急いで仕度をしたから忘れていました。な……なんて言い訳すれば……

「ああ、俺が頼んだんだ。俺、ストレートの方が好みだから。」

『ええ~っ?』

また、瀧くんの機転で助かった。でも、少し様子がおかしい。ふたりは、私達から少し離れて、ひそひそ話しを始めてしまう。

「なんや?いつの間にか、随分親密やないか?」

「ほんまやね、昨日も、瀧くんが三葉ん家行って、晩御飯作ったそうやし。」

「な……ほんまか?それ?」

「ほんまやよ、四葉ちゃんが、家に電話して来たんよ。」

少し離れて前を歩いている私は、不安になって瀧くんに尋ねる。

「だ……大丈夫でしょうか?何か、怪しまれているんじゃ?」

すると、瀧くんは、あっけらかんとした顔で答える。

「心配ねえよ、あれは、俺達の関係を勘ぐってるだけだから。」

「勘ぐる?」

「“あのふたりはできてる”とか、“恋人同士なの?”とか、そんなんだよ。」

それを聞いて、私は少し頬を赤らめてしまう。

「あ……でも、良いのですか?本当の瀧くんや三葉さんの関係を、私達は知らないのに……」

「三葉の方は知らないけど、瀧は三葉にぞっこんだよ。」

「え?どうして分かるのですか?」

「悪いと思ったけど、この男を演じるために、瀧の持ち物は全部調べさせてもらった。あいつは1週間ちょっと前に、東京からここに越して来た。つまり、三葉と出逢ったのも約1週間前だ。なのに、スマホの写真には三葉ばかり写っていて、日記にも彼女の事ばかり書いてあった。これでぞっこんじゃ無いってんなら、変質者か暗殺者だよ。」

「そ……そうだったのですか……だけど、三葉さんの気持ちも考えないと……」

「これは俺の予想だが、俺達がこの体に入ってるって事は、瀧と三葉は何処に居る?」

「え?……ああ、そうなれば……」

「そうさ、ふたりは俺達の体に入って、多分聖域に居る。いきなり、普通の高校生が、誰も知る人の居ない、あんな所に放り出されたらどうする?」

「あ……」

私は、昨日感じた、途方も無い不安感を思い出す。

「もしそこに、自分を知る人間が居れば、必ずそいつを頼る。そいつが自分に、好意を持っていてくれてるなら尚更さ。今頃ふたりは、いい関係になっている筈だぜ。」

確かに、そうかもしれません。

 

『 ――― そしてなによりも!』

歩いていると突然、拡声器の野太い声が耳に飛び込んで来る。声のする方を見ると、駐車場の敷地内で、誰かが演説をしている様子。その男の人の上半身に、“現職・宮水としき”と書かれたたすきが掛かっている。更に、後ろには横断幕も掲げられている。

そういえば、朝の放送で町長選挙の事を言っていたような……どうやら、これは町長選の演説のようですね……宮水?……三葉さんと同じ苗字だけど……

「おう、宮水。」

その時、前に居て演説を見ていた高校生の男の子が、私に声を掛けてきた。

「町長と土建屋は、仲がいいんやな、その子供たちも癒着しとるな。それ、親のいいつけでつるんどるんか?」

男の子の隣には、女の子がふたり居る。何やら、嫌味を言っているのだと思うけど、意味が良く分からない。確かに、横では町長選挙の演説をしていて、応援をしている人達の車には“勅使河原建設”と書かれているけど……勅使河原?もしかして、テッシーは勅使河原建設社長のご子息?そして、私……三葉さんは……

「おい、何だよお前?」

そんな事を考えていると、瀧くんが、その男の子に歩み寄って行ってしまう。

いけない!

「瀧くん!」

私が大きな声を出したので、後ろのサヤちん達も、演説をしている人達も驚いて、皆こちらを見ている。もちろん、瀧くんも。

私は、瀧くんの目を見詰め、首を横に振る。瀧くんは、両手を開いて少し上に上げ、“分かったよ”というポーズを取って、その3人から離れる。

「ちっ……」

その3人は、少し不満そうな顔をしたけれど、その後は何も言わず、先に歩いて行ってしまう。それを見送ってから、瀧くんは私に耳打ちをして来る。

「良かったのかよ?あれで?」

「私達が事を大きくしてしまったら、後で三葉さん達に迷惑を掛ける事になります。」

「だけど、あれは昨日今日始まった嫌がらせじゃないぜ。解決してあげた方が、ふたりのためじゃないのか?」

「嫌味の理由は分かっていますか?」

「いや……」

「あの現職の糸守町長の“宮水としき”さんは、おそらく三葉さんのお父さんです。」

「え?……あれが?」

瀧くんは、町長のとしきさんの方に顔を向ける。丁度としきさんもこちらを見ていたので、瀧くんと目が合う。

「な……何か睨んでる……俺の娘に近付くなってか?確かに、三葉の親父かも?」

「その横の、後援会長の勅使河原建設の社長さんは、おそらくテッシーの父親です。」

「ほんと?……あ……そういう事ね?」

「こんな小さな町です。町長の住民への影響力は、凄く大きいのでしょう。それに対する妬みも……」

「だったら、尚更ガツンと言っといてやった方がいいんじゃないのか?」

「また私に、同じ過ちを繰り返させるのですか?」

「あ……」

瀧くんは、ようやく分かってくれたようで、体裁悪そうに頭を掻いている。

「ご……ごめん、あんたもそうだったんだよな……」

「いいえ、悪かったのは私です……あなたに、あんな酷い事を……」

そう、城戸家の令嬢として育てられた私は、我が者顔で毎日を過ごしていた。わがままのし放題で、孤児として城戸家に養われていた星矢達に、酷い仕打ちばかりして……嫌味や、悪口を言う者は、使用人を使って酷く罰していた。

そんな私なのに、星矢はいつも私を護ってくれている。本当にごめんなさい、星矢……

私は少し俯いて、また自己嫌悪に陥ってしまう。そんな私の肩を、星矢……瀧くんは、優しく抱いてくれる……

 

少し離れて後ろを歩いているサヤちんとテッシーは、あまりにもいい雰囲気のふたりに、あっけに取られるばかり……

「こ……これは、相当親密やで……」

「ほ……ほんまに……三葉、いつの間に?」

「こりゃ、後で瀧をシメて聞き出さんとな。」

「やめや!大人気無い。こういう時は、友達なら暖かく見守るもんや!」

「へ……ずいぶん、大人なんやな?お前?」

「あんたが子供過ぎるんや!」

「何やと?」

いきなり後ろで、夫婦漫才を始めてしまう、サヤちんとテッシーであった。

 

 

 

翌朝、アテナ神殿の寝室で私は目覚める。

ここには、スマホのアラームも無ければ、目覚まし時計も無い。朝が苦手な私は、そんな状況下ではいつまでも寝入ってしまうのだが、流石に今迄の自分とあまりにもかけ離れた環境下では、自然と早く目が覚めてしまう。

体を起こし、毛布を捲ると、またネグリジェのような寝間着がひどく肌蹴ていた。私は、慌ててそれを整え、ベットから立ち上がる。自分の体の時はパジャマだったから、こんな上品な寝間着は今迄着た事が無かった。そのまま、姿見の前まで行って自分の姿をじっくりと見る。

しなやかなな長い髪の、本当に顔立ちが良く綺麗な女性だ。まるで女神様そのもの……て、本当に女神様なのよね。でも、その中身が私でいいの?言葉は訛ってるし、礼儀作法は全く知らないし……まあ、貴族とか皇室とかじゃ無いから、人前で話す事は殆ど無いだろうけど。

あ……そういえば、今日から瀧くんは、コスモを高める特訓に入るんだ……大丈夫かな?

 

 

早朝から、俺は特訓のために、闘技場に来ていた。

紫龍に最初に言われた時は、“何で俺がそんなこと”と思っていたが、“三葉を護る”という目標を持ってからは、俄然やる気になっていた。

しかし、それよりも驚いたのはこの星矢の体だ。昨日、ギルタブルルにあれだけ痛めつけられ、歩くのも辛い状況だったのに、一晩寝ただけで殆ど回復している。本当に、聖闘士の体ってのはどうなってんだ?

闘技場で待っていると、ひとりの女性が現れる。この人も聖闘士なのか?緑色の髪をして、顔にはマスクをしている。

「ふっ……どっから見ても星矢なのに、中身は違うんだね?瀧って言ったっけ?」

「は……はい……」

「私は、蛇使い座のシャイナ。私も、何人もの聖闘士を育てて来たけど、星矢の師匠は私じゃ無くて魔鈴だ。本来ならあいつが指導するのが一番いいんだが、生憎あいつは、聖闘士を止めちゃったからね……」

「はあ……」

「私も星矢とは因縁が多くてね、その体に勝手に死なれちゃ困るのさ。だから、ビシビシいくから、覚悟しておきな!」

「は、はいっ!」

こうして、俺の辛く厳しい、特訓生活が始まった。

 






聖域での瀧(in星矢)と三葉(in沙織)のラブシーン。誰かがこっそり覗いているというオチも考えたんですが、そんな事をやりそうなのは星矢くらいで、その星矢は糸守に行ってて不在なので止めました。

もう気付かれたと思いますが、この話は、一晩寝ても入れ替わりは元に戻りません。4人は、ずっと入れ替わったままです。
その理由はまだ明かせませんが、こういう設定なので、“口噛み酒”や宮水家に伝わる“舞”も“組紐”も、この話では、入れ替わりとは何も関係ありません。
あしからず。

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