君のコスモは   作:JALBAS

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いきなり、ギリシャの神殿の中で目覚めた三葉。
そして、周りからは“アテナ”とか、“沙織さん”とか聞いた事が無い名前で呼ばれます。
全く異世界とも思われる環境で、誰も自分の言葉を信じてくれません。
そんな絶望の中、姿は違えど、自分を知る人が現れます。
しかもそれは、自分が想っていたあの……




《 第三話 》

 

「ん……んん……」

顔に当たる陽の光で、目を開ける。日差しの感じからすると……も、もうかなり陽が高いんじゃ?いけない!遅刻?

「え?」

慌てて飛び起きて、茫然とする。

「何処?ここ……」

どう見ても、私の部屋では無い。というか、私の家でも無いし、日本とも思えない。

西洋の、貴族のお屋敷のような豪華なベッドに私は寝ている。壁は全て石でできていて、部屋はかなり広いのだが家具類はあまり無い。電化製品といった類の物は一切無く、当然スマホも無い。

「ま……まだ、夢でも見てるん?」

私は、頬をつねって見る。

普通に痛い、どうやら、夢では無いみたいだけど……

自分の恰好を見ても驚いた。かなり生地の薄い、ネグリジェのような寝間着を着ている。それも、寝相が悪くかなり肌蹴ている。周りには誰も居ないが、慌てて肌蹴を直す。

部屋の奥に姿見があったので、そこまで歩いて行く。姿見の前に立って、その姿を見てまた驚く。

「だ……誰?」

そこに映っているのは、私の姿では無かった。ピンクがかった紫色の長いしなやかな髪に、貴賓に溢れる整った顔立ち、更には、抜群のプロポーション……モデルさんか、それこそ女神様みたい……

その時、部屋をノックする音がする。

『アテナ、お目覚めですか?』

「え?アテナ?」

 

 

俺と瞬は、氷河という男の後に付いて行く。

神殿を出ると。その先には長い石段がある。周りは崖に囲まれ、家などは存在しない。本当に、ギリシャの世界遺産そのものだ。

長い石段の先には、また神殿があり、その神殿を抜けるとまた石段がある。その先にまた神殿が……

移動中に、俺が星矢とかいう聖闘士では無く、日本の糸森町という田舎町に住む平凡な高校生である事を何度も説明した。しかし、瞬も氷河も、ギルタブルルに痛めつけられた後遺症で記憶が混乱していると決めつけ、全く取り合ってくれなかった。

そうして、目的地の最上層の神殿に到着した。彼らはその場所を、“アテナ神殿”と言っていた。

奥に入って行くと、何やら話し声が聞こえて来る。

『いったい、どうされたんですか?アテナ?』

『だから、違うって言ってるやないの?』

男の声と、女の声だ。その女が、このふたりの言う“アテナ”なのか?

奥の間に入ると玉座が有り、そこに、純白のワンピースドレスを身に纏った女性が座っている。その前に、緑色の鎧を纏った男が跪いている。この男も、聖闘士か?

「どうだ?紫龍?」

氷河が、その男に声を掛ける。

「駄目だ、相変わらず“自分はアテナでは無い”の一点張りだ!」

紫龍と呼ばれた男が答える。

俺達も、玉座に近づいて行く。徐々に、“アテナ”と呼ばれる女性の顔が見えて来るが、凄く綺麗な人だ。腰の辺りまで伸びている長いしなやかな髪に、整った顔立ち、その容姿は貴賓に満ち溢れ、まるで女神様かという感じの女性だった……が、しかし……

「もう、いい加減にしてっ!何て言うたら、信じてくれるん?」

何か、言葉が貴賓に満ちていない。表情も、涙目で剥れていて、子供っぽい。何だ?このギャップは?ん……今のこの人の言葉、訛ってなかったか?

「どうしたんですか?沙織さん?」

瞬が、その女性に声を掛ける。

「沙織なんて名前や無い!三葉や言うとるに!」

「三葉~っ?」

『えっ?』

その女性の言葉に、俺が大声で反応したので、瞬達3人は驚いて俺の顔を見る。

俺は、その女性に駆け寄って尋ねる。

「お……お前、三葉なのか?」

「おい!何を言ってるんだ星矢……」

「そうやよ!信じてくれるん?」

紫龍という男が俺を止めようとするが、それを遮ってその女性が反応して来る。

「そ……そうか、俺だけじゃ無かったんだな……」

俺は感激して、少し涙目になる。

「え?」

そんな俺を見て、彼女は少し戸惑っている。

「俺だよ……瀧だよ。」

「うそ……ほ……ほんまに、瀧くん?」

「ああ……」

俺の目から、とうとう涙が流れ出す。すると、彼女の目からも……

「瀧くん!」

「三葉!」

彼女は、玉座から飛び上り、俺に抱き付いて来る。俺は、それをしっかり受け止めて、抱きしめる。

「お……おい!」

周りの3人は止めようとするが、俺達のあまりに感激している様子に、手出しできずに茫然としていた。

 

改めて、俺達は瞬達に、自分達がアテナと星矢では無く、日本の糸守町に住む平凡な高校生である事を説明した。3人共信じ難いようだったが、さっきの俺達の様子が演技では無い事を悟り、やっと状況を理解してくれた。

「しかし、それじゃあ、本物の沙織さんと星矢は何処に?」

瞬が聞いて来る。

「このふたりの言い分を信じれば、入れ替わって糸守って所に居るという事か?」

紫龍が答える。

「分かった、確認してみよう。日本に使いを出そう。」

そう言って、氷河は部屋を出て行く。

「お……俺達は、どうすればいいのかな?」

俺は、瞬と紫龍に尋ねる。

「中身は違っても、その体はアテナのものに他ならない。三葉さんは、元に戻れるまではここに居てもらうしかないね。」

「ええ~っ?」

瞬の言葉に、三葉は不満の声を上げる。それはそうだろう。こんな、殆ど何も無い所にずっと居たら、退屈で死にそうだ。

「心配しないで、あなたは、僕達アテナの聖闘士が必ず護り抜くから。」

いや、そっちの心配じゃ無いだろう。

「瀧くんだったかな?君の方は、少し特訓をしてもらわなければならないだろう。」

紫龍が、俺に言う。

「特訓?」

「元に戻るまでは、君は星矢の代わりだ。アテナの聖闘士としての、勤めを果たして貰わなければならない。今日のようにいつ刺客が襲って来ないとも限らん。」

「うげっ……マジ?」

「その体自体は鍛え抜かれているが、聖闘士の闘いはどれだけコスモを高められるかによって、雌雄が決すると言っていい。君にはまず、コスモを高める術を身に着けてもらう。」

「コスモ?……何?それ……」

「自分の中の小宇宙、精神力や気の力と言った方が解り易いか?」

「そんな物、直ぐに身に付く物なの?」

「普通は無理だろうな……だが、相手は君を星矢だと思って向かって来る。無理でもやるしか無い。できなければ、死ぬだけだ。」

「そ……そんな!」

な……何だよそれ?実際、さっきも殺されかけたけど……何で、俺がこんな目に合わなきゃならないの?

「た……瀧くん……」

項垂れる俺を、心配そうに三葉が見詰めている。

「だけど紫龍、誰が瀧くんにコスモの高め方を教えるの?僕達は、アテナを護らなければならないから、ここを離れられない。」

「それは心配無い、教官には持って来いの聖闘士の、あてがある。」

え?他にも聖闘士が居るの?

「それより瞬、さっきの話は本当か?ティアマトの配下の戦士が、襲って来たというのは?」

「うん、確かに、“ティアマト11混成獣がひとり”と言っていた。」

「いったいどういう事なんだ?ティアマトは、1年前に倒した筈なのに……」

「あ……あの……」

「ん?何だ?」

俺は、話の腰を折って問いかける。

「さっきからやたら“ティアマト”って言ってるけど、何の事?1ヶ月後に最接近する彗星の話?」

「彗星?何だそれは?」

「え?違うの?」

紫龍は、少し俯いて考え込んで、意を決したように顔を上げる。

「もう君も無関係では無くなったから、話しておいた方がいいだろう。ティアマトというのは、1年前に俺達が倒した邪悪な女神だ。」

『め……女神?』

俺と三葉は、揃って驚きの声を上げる。

「確かに倒したんだ。転生するにしても、半世紀近くは掛かる筈……」

「ちょ……ちょっと待って……」

「ん?どうした?」

「め……女神を倒したって……神様を倒しちゃったの?」

「神と言っても、邪悪な神だ。この世を、滅ぼそうとしたな。」

「だ……だけど、人間が、神様に逆らうなんて……」

「何を言っている?アテナも女神だぞ?」

『ええ~っ?!』

俺達は、また揃って驚きの声を上げる。

 

 

 

何とか学校が終わり、私は家に帰って来た。星矢……瀧くんがフォローしてくれたけど、それでもかなり周りを混乱させてしまった。庶民を演じるのが、こんなにも大変だったなんて……

「お帰り!」

妹さんが、玄関まで出迎えに来てくれる。

「ただ今戻り……ただいま。」

いけない、また敬語が出てしまった。

そういえば、この妹さんは何て名前なんでしょうか?まさか、本人に聞く訳にもいかないし……

「今日、お姉ちゃんが晩御飯の当番やよ。」

「え?当番?」

 

私は、台所で固まってしまっていた。夕食の当番と言われても、何をどうすればいいのか分からない。自分で、料理を作った事など無いのだから……

「何しとんの?お姉ちゃん?」

妹さんが、立ち竦む私に聞いて来る。

「いえ……あの……」

「ご飯、炊かへんの?」

「炊く?……どうやって?」

「何ふざけとんの?早く、お米を洗わにゃ。」

「洗う?」

「あ~っ!もう!」

痺れを切らして、妹さんは右手の白い容器の中から、灰色の釜のような物を取り出す。今度は左の方に行って、なにやら屈んでレバーを何度か下げる。戻って来て、私の目の前の流しに釜を置く。中には、白い米粒が沢山入っている。

「これを洗うんやよ!」

何だか分からないけど、言われた通りにしないとまた怒られてしまう。流しの前を見ると、洗剤と思われる容器が置いてある。洗うのなら、これを使えばいいのでしょうか?

私はその容器を取って、米に向かって噴き掛ける。

「あ~っ!何てことすんの!」

「え?だって、洗えって?」

「米を食器用洗剤で洗う人が、何処におんの?」

ま……また、怒られてしまった……た……助けて、星矢っ!

その時、玄関の呼び鈴が鳴った。

「だ……誰やろ?あたしが出るから、お姉ちゃんは、もう何もせんで!」

妹さんは、怒って飛び出して行く。私は、項垂れて、自己嫌悪に陥るだけだった。

 

四葉が玄関に行くと、見慣れない男の子が立っていた。姉と同じ高校生のようだが、面識は無かった。

「やあ、君が、三葉の妹の……」

「四葉です。」

「四葉ちゃんか、突然押しかけて申し訳無いけど、お姉さん居る?」

「居るけど……お兄ちゃん、誰?」

「ああ、ごめんごめん。自己紹介がまだだったね。俺は、立花瀧。お姉ちゃんのクラスメートさ。」

四葉は、きょとんとして瀧を見詰めている。姉の友達は、サヤちんとテッシーしか知らない。というか、親しい友達はそのふたりしか居なかった。そう、瀧が転校して来るまでは。

「で、お姉さんは?」

「え?う……うん、今台所で……」

「そうか、ほぼ予想通りだな。ごめん、お邪魔するよ。」

そう言って、瀧はずかずかと上がり込んで行く。

「え?ちょ……ちょって待って!」

余りの事にしばし呆然としていた四葉は、はっと我に返って瀧の後を追う。

瀧は、どんどん進んで台所に入って行く。

「さお……三葉、」

「せ……瀧くん!」

涙目の三葉が、瀧を見て笑みを浮かべる。

瀧は、三葉のところに近づいて行き、流しの中の悲惨な状態の釜を覗き込む。

「やっぱり……こんな事だろうと思って、来てみて良かった。後は、俺に任せとけ!」

「え?で……でも、あなたのお宅の方は良いのですか?」

「ああ、家は親父がひとり居るだけだった。友達の家に行くって言ったら、じゃあ、勝手に食べてるからゆっくりして来いって言ってくれた。」

そう言って、瀧はいそいそと食事の準備を始める。

「な……何か、手伝う事は無いですか?」

三葉が、申し訳なさそうに瀧に尋ねる。

「いいって、その辺に座っててよ。」

「で……でも、本当は私の当番なのに……」

「じゃあ、テーブルの上に、4人分の食器でも並べててよ。」

「はい!」

その様子を、四葉は台所のドアの陰に隠れて眺めていた。そして、ゆっくりとその場を離れ、電話の所まで移動する。受話器を取り、ある電話番号をプッシュする。しばらく待機音が鳴った後、相手が出る。

『もしもし、名取ですけど。』

「もしもし、サヤちん?四葉やけど……」

『ああ、四葉ちゃん?どうしたん?』

「瀧くんって誰?」

『え?』

「お姉ちゃんの友達に、瀧くんって人が居るやろ?」

『ああ、1週間前に転校して来たんやよ。』

「お姉ちゃんと、どういう関係やの?」

『ど……どういうって……』

「どこまで進んどんの?」

『え?何言ってるん?何で、そんな事聞くん?』

「今、瀧くんが家に来て、お姉ちゃんの代わりにご飯作ってるんよ!」

『え~っ?ほ……ほんまに?』

周りでは、少しずつ噂が広まっていきます。

 






実は、聖闘士星矢とのクロスは、かなり早い段階から構想がありました。
女神ティアマトとか、彗星とか、聖闘士星矢と合わせ易い設定だったんで。
しかし、三葉が星矢と入れ替わってコスモを爆発させて闘うというのは無理があるし、女神アテナと星矢の間に三葉が入り込むのも無理があるので、お蔵入りしていました。
その内、他の主人公と三葉が入れ替わるパターンがマンネリ化し、クロスするにしても展開を大きく変えないと面白く無いと思うようになり、それならいっその事“メインカップル同士を入れ替えてしまえば”と考えてこのクロスが再浮上しました。
たまには、瀧と三葉のラブロマンスも書いてみたかったので。

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