その上、妖しい奴らに襲われて絶体絶命のピンチに……
そこに、颯爽と登場、アンドロメダ瞬!
原作では強い兄さんに助けられてばかりだった瞬が、今回は助ける側に……
「き……君は?」
「何を言ってるんだ?僕だよ、瞬だよ!」
瞬?そんな人、知らないけど……
「貴様も聖闘士か?」
赤い甲冑の男は、俺を助けた瞬という男に問いかける。
「そう、アテナの聖闘士、アンドロメダ瞬!」
「貴様が、噂に聞くアテナの聖闘士のひとり、アンドロメダ瞬か……よかろう、相手にとって不足は無い。ペガサスがやる気が無いのなら、お前に私の相手をしてもらおうか?」
「あ……あなたは……何者?」
「我が名は、ティアマト11混成獣がひとり、ギルタブルル!」
「な……何だって?そんな馬鹿な?」
「受けよ!サソリの雷、スコルピオンサンダー!!」
また、男の前に光が……今度は、無数の光が俺達を包み込む。
「ローリングディフェンス!!」
瞬という男は、また鎖の渦で俺達を囲む。
「無駄だ!」
「うわああああああああっ!」
「ぬわああああああああっ!」
鎖は砕かれ、無数の光の束に俺達は打ちのめされる。
「ぐっ……」
鎖のお蔭で多少はダメージが軽減されたものの、俺の方は、もう殆ど動けなかった。
「そ……そんな……ローリングディフェンスが、破られるなんて……」
瞬の方は、傷付きながらも立ち上がる。
「我がサソリの雷に、防御は無効。」
「ならば、こちらも攻めるだけだ!サンダーウェーブ!!」
今度は瞬が、鎖で相手を攻撃する。だが……
「ふんっ!」
鎖は、相手の甲冑に弾かれてしまう。ギルタブルルとかいう奴は、びくともしない。
「そ……そんな……」
「我らが神衣は、最強の強度を誇る。聖闘士ごときの攻撃では、傷ひとつ付かんぞ。」
「くっ……」
「もう一度喰らえ!スコルピオンサンダー!!」
「うわああああああああっ!」
「……」
また、先程の攻撃に晒される。今回も鎖でダメージは軽減されているが、俺の方はもう声すら出ない。
「く……」
瞬は、それでもまだ立ち上がる。もう、俺と同じくらい体はボロボロなのに、どうして立てる?何故、そこまで頑張れるんだ?
「何故立つ?もう貴様に、私と闘う術は無いというのに?」
俺が考えているのと同じ事を、ギルタブルルは瞬に言う。
「できれば、生身の拳は使いたく無かった……だけど、僕は負ける訳にはいかない。僕は、この世界を護るアテナの聖闘士だ。アテナの命を脅かす敵には、決して屈しない!それに、今僕が倒れたら、誰が星矢を護るんだ?」
星矢って……今迄の会話の流れから考えて、今の俺?そんな?お……俺のために?
瞬は、何故か鎖を手放し、素手で相手に挑む。
「ふっ……偉そうな事を言って、武器を捨てて命乞いか?」
「燃え上がれ、僕のネビュラよ!ネビュラストリーム!!」
素手の瞬の腕から、物凄い気流が巻き起こり、ギルタブルルの体を包み込む。
「な……何だと?」
「もうあなたは、何もできない!攻撃する事も、逃げる事も。」
「馬鹿な?ぐっ……」
瞬の言葉通り、ギルタブルルは腕一本動かせない。その場に、ただ立ち尽くすしか無かった。
「僕は、本当は誰も傷つけたく無い。だけど、あなたのように、無抵抗の者の命まで奪おうとする者は許せない!」
「ぐっ……ぐおおおっ……」
ギルタブルルは、必死に体を動かそうとする。そして、何かの攻撃をしようと、少しずつではあるが身構えて行く。だが、そこに瞬の、止めの一撃が炸裂する。
「爆発しろ!ネビュラストーム!!」
「ぐわあああああああああっ!」
気流が竜巻に代わり、ギルタブルルは天井を突き破って、遥か彼方まで吹き飛ばされてしまう。
す……凄い……こ……これが、聖闘士?
「うっ……」
闘いには勝ったが、瞬も酷く傷付いている。膝を付いて、その場に蹲ってしまう。
「だ……大丈夫かい?星矢?」
その体制でこちらを向き、俺に声を掛けて来る。て、人の心配してる場合かよ?お前の方こそ大丈夫なのか?
「瞬!星矢!」
すると、神殿の奥側から声がする。そして、今度は白い鎧を身に纏った男が、こちらに駆け寄って来る。
「氷河。」
瞬が、彼をそう呼ぶ。氷河?それ、名前?でも、日本人っぽい名前だな……だけど、この男の顔は、外国人っぽいけど……
「な……何があったんだ?」
「うん、驚かないで聞いて。ティアマトの刺客が、星矢を襲って来たんだ!」
「ティアマトだと?そんな馬鹿な?」
さっきから、やたらと“ティアマト”って言葉に驚いているが、いったい何なんだ?
そういえば、最近やたらニュースでやってる、1200年振りに地球に最接近する彗星が、そんな名前だったような……
「そ……それは確かに不可解だが、こっちも大変だ!」
「え?何かあったの?」
「アテナの様子が変なんだ!」
「アテナ……沙織さんが?」
アテナ?……沙織さんって?
「ん……」
目が覚めて、まず寝床の感触の違いに気付いて目を開けると……
「こ……ここは?」
聖域では無い……天井が、木造で異様に近い。
上半身を起こして、周りを見渡す。見た事も無い、小さな部屋……いえ、昔星矢の部屋に入った事がある。あれは、これくらいの広さだったろうか?でも、家具を見る限りは女性の部屋に思える。それも、日本の……何故、私はこんな所に?
「何呆けとんの?お姉ちゃん。」
急に、声を掛けられる。その方を見ると、右手の襖が開いていて、小学生くらいの女の子が私を見詰めていた。
「お姉ちゃん……って、私の事?」
「他に誰がおんの?寝ぼけとらんで、早よしい!ごはんやよ。」
そう言って、その女の子は階段を降りて行った。
私がお姉ちゃん?じゃあ、あの娘も女神……の訳は無いですよね?
その時、部屋の隅にある姿見に、自分の姿が映った。
「え?」
そこに映っているのは、私の顔では無く、見た事も無い女の子の顔だった。
私は立ち上がって、姿見の前まで行く。高校生くらいの、黒髪の少女の姿がそこにあった。
これが、私?転生……いえ、激しい聖戦も無しに、いきなりそんな事は考えられない……では、何かの試練?他の神々の仕業?
いろいろ考えを巡らせても、答えは出ない。仕方無く私は、壁に掛けてある制服に着替える事にした。ここに掛けてあるという事は、これを着なさいという事なのでしょう。ただ、城戸家の令嬢として育てられた私は、普通の学校には行っていない。だから、こんな短いスカートの制服という物は着た事が無いので、少し恥ずかしい。でも、この姿は自分の姿では無いので、恥ずかしがる事もないのかも……
そんな事を考えながら、制服に着替えて姿見の前に立つ。今の姿には、この制服が良く似合う。まあ、この娘の制服なのだから、あたり前なのですが。
「お姉ちゃん!いつまで掛かっとんの?本当に遅刻するに!」
先程の娘が、怒って1階から怒鳴って来る。
そうか、私は今、この娘になっている。庶民の学校に、行かなければいけないのですね。
あ……でも、この娘、名前は何と?
私は、机の前に行き、持ち物を確かめる。通学用と思われる鞄が置いてあったので、その中を調べる。すると、学生証が入っていた。そこには、“宮水三葉”と名前が書いてあった。
「お姉ちゃん、遅いっ!」
ようやく下に降りて来て、また、妹という娘に怒られた。
「ごめんなさい。」
素直に謝って、その妹さんの横に座る。何故か、妹さんはきょとんとした顔をする。
私、何か変な事を言ったかしら?
食卓には、お婆さんも座っていて、私に挨拶をして来る。
「おはよう。」
「おはようございます。」
これにも、丁寧に頭を下げて返す。すると、何故かお婆さんも、驚いた顔をする。
どうして?普通に挨拶をしただけなのに……
怪訝な顔をされながらも、朝食を食べ終わる。
「さあ、学校行くに!」
そう言って、妹さんは元気に立ち上がる。
「は……はい。」
返事をして、私も立ち上がろうとするけど……
「痛っ!」
何故か、足が痺れて立ち上がれない。そういえば私、正座なんて殆どした事が無かった……
「何やの?こんな短時間で、だらしない……」
文句を言いながら、妹さんは、私の足を揉んで解してくれた。
ようやく足が解れ、妹さんと一緒に家を出る。いきなり方向を間違える私を、妹さんが先導する。何か、どちらがお姉さんか解らなくなってきてしまう。
しばらくして、妹さんは学校が違うので違う道を進む。
「しっかり勉強するんやよ。」
そう言って、妹さんは駆けて行く。本当に、どっちがお姉さんか解らない。
ここからは、道に迷う心配も無い。何故なら、目の前に目指す高校の校舎が見えるから。
本当に、小さな町のようだ。家も少なく、自然に囲まれている。聖域も自然に囲まれていると言えなくもないでしょうけど、向こうは崖ばかりで、木々は少なく民家は無い。
歩いている内に、だんだん不安になって来る。庶民の学校に行くという事もそうだけど、何より、まるで知っている人の居ないこんな所に、ひとりで放り出された事が不安で仕方が無い。私を護ってくれる、聖闘士達もここには居ない。
「三葉~っ!」
その時、後ろから私を呼ぶ声がする。しかし、最初は自分が呼ばれている事に気が付かなかった。
「三葉ってば~っ!」
2度呼ばれて、気付いた。
そうだ、“三葉”というのは私の事でした。
振り向くと、自転車にふたり乗りした男女が、こちらに向かって来る。おそらく、この三葉という娘のお友達なのでしょう。
「おはよう、三葉!」
自転車の荷台に、横座りしている女の子が挨拶をしてくる。ここは、私も挨拶を返さなくては。
「おはようございます。」
私は、ふたりの方をしっかりと向いて、丁寧にお辞儀をして挨拶を返す。
「な?」
「ええっ?」
すると、何故かこのふたりも異様に驚いて、バランスを崩して自転車ごと転んでしまう。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
な……何で、挨拶をするだけでこんなに驚かれてしまうの?わ……私の、何がいけないのかしら?
「いたたたた……」
ふたり乗りということで、それ程速度は出ていなかったので、ふたりとも大きな怪我はしていない。それでも、脚を少し擦りむいているので、私は心配してふたりに歩み寄る。
「だ……大丈夫ですか?」
「だ……大丈夫やけど……」
「な……何なん?三葉、さっきの?」
「え?」
そう言われても、何を驚かれているのか分からないので、答えようが無い。
「……て、三葉!どうしたん?その髪?」
「え?」
私の髪を見て、女の子の方が問い掛けて来る。
ど……どこかおかしかったかしら?ちゃんと、整えて来たんだけど。長い黒髪だけど、本当の私の髪よりは遥かに短い。手入れに、さほど時間も掛からない。
「何も纏めとらんで、そのままやない?」
ああ……そういう事。この娘は、いつも髪を結っていたのね。
「ん……おう!瀧!」
すると、男の子の方が、私の後ろに向かって声を掛ける。振り向くと、別な男の子が、こちらに向かって歩いて来ていた。
え?……でも、この男の子から感じるコスモは……
「あんた、ちょっといいか?」
そう言って、その男の子は私の手を取る。
「は……はい……」
私はそのまま手を引かれ、転んでいるふたりから離れて行く。
「な……何や、瀧?」
「今朝は、えらく積極的やね?」
後ろのふたりは、何やら呟いているが、今の私はそれどころでは無い。
少し離れたところで、男の子は私に小声で語り掛ける。
「あんた、沙織さんか?」
「やっぱり、あなたは星矢だったのですね?」
「ああ……だけど、何なんだこれは?朝起きたら、いきなりこの男の体に入ってた。」
「私もです。」
「もしかして、また邪悪な神の策略か?」
「分かりません。でも、今はこのまま様子を見るしかありません。余計な混乱を起こすのもまずいので、しばらく、この体の人物を演じるしかないでしょう。」
「分かった……俺の事は、“瀧”って呼んでくれ。この男の名前だ。」
「はい。私の事は、“三葉”と呼んで下さい。」
「ひゅ~っ!暑いね、おふたりさん!」
「ふたりだけで、秘密のお・は・な・し?」
後ろから、先程のふたりが冷やかしの声を掛けて来る。
「べ……別に……挨拶をしただけです。ねえ、瀧。」
「あ……ああ、三葉さん。」
「瀧?」
「三葉さん?」
また、ふたりが怪訝な顔をする。
「何やの三葉?いつから、瀧くんを呼び捨て?」
「どうしたんや瀧?いつもは呼び捨てやのに?」
いけない……呼び方が違っていたらしい。
「す……すみません。ちょっと言葉に詰まって……ご……ごめんなさい、瀧くん。」
「あ……ああ、俺も、ちょっと気取ってみただけで……ごめん、三葉。」
『ん~?』
慌てて取り繕ったけど、ふたりは未だに納得できない様子だった。
その後、学校に行っても私が何か話す度に、周りの方々に怪訝な顔をされてしまい、見かねて星矢……瀧くんが、休み時間に私を屋上に連れ出した。
「沙織さ……三葉、多分、話し方が問題だと思うぜ。」
「え?な……訛って無いからですか?」
朝からの会話を聞いている限り、ここの人達の言葉には、この地特有の訛りがある。
「それもあるけど、問題なのは敬語の方だと思う。」
「敬語?」
「さお……三葉、何でも“ですます調”だろ?あんたは元々お嬢様だったから仕方が無いけど、こんな田舎の女子高生が、そんな綺麗な言葉使わないだろ?」
「ああ……それで分かりました。だから、挨拶の時に一番驚かれたのですね?」
これで原因は分かった。だけど……
「ど……どうすればいいのでしょうか?急に話し方を変えろと言われても、私は……」
「確かに、あんたに砕けた話し方は無理だろう。かえっておかしくなるのが関の山だ。俺が何とかフォローするから、挨拶くらいは敬語を止めて、それ以外はできるだけ片言で話すようにしてくれ。」
「分かりました。お願いします、星……瀧くん。」
「ああ。」
私は、そこでほっと一息つく。
「でも、あなたが一緒に居てくれて、本当に助かりました。こんな見ず知らずの土地にひとりかと思って、ずっと不安だったのです。」
「俺も……知っている人間がひとりでも居るってのは、心強い。それに、今は瞬達は居ないんだ。あんたは……アテナは、俺が命に代えても護り抜く!」
「ありがとう、星矢……瀧くん。」
そんな訳で、瀧くん、三葉がふたり揃って、星矢、沙織さんと入れ替わってしまいました。
慣れない庶民の生活に、天然ボケの如く振る舞ってしまう沙織さん。星矢はどこまでフォローできるのか?
一方で、いきなり聖闘士になって刺客にも狙われる瀧くんと、アテナと入れ替わった三葉の運命は?
聖闘士星矢とのクロスなので、敵はもちろん邪悪な神です。
“君の名は。”のティアマト彗星の“ティアマト”は、メソポタミア神話の女神の名前でもあります。
この話の星矢達の敵は、邪悪な女神ティアマトと、その配下の11の混成獣です。