君のコスモは   作:JALBAS

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遂に、ティアマト混成獣との戦闘に突入する瀧。
修業の成果もあって、徐々に瀧が相手を圧倒していきます。
が、敵の罠に掛かりまたも危機に。
しかし、その時……
お待たせしました。遂に、あの聖闘士の登場です。
そして、敵側も、最後の戦士が……




《 第十話 》

 

アテナ神殿では、今は星矢である瀧と、12宮を抜けて来たティアマト混成獣の、闘いの幕が開かれようとしていた。

 

「俺は、ティアマト11混成獣がひとり、クサリク!アテナの首、貰い受ける!」

「この俺の目が黒い内は、アテナには指一本触れさせないぜ!」

「なら、まず貴様から死ねっ!」

クサリクは、正に猛牛の如く襲い掛かって来る。力任せに、パンチの応酬をして来る。

「ぐっ……」

俺はそれを全て防御するが、踏ん張る足元の床が砕け、体は徐々に後退していく。

「た……瀧くん!」

三葉が、心配して声を上げる。

「どうした?でかい口を叩いて、ただ受けるだけか?」

「なら、返してやるよっ!」

奴の動きを凝視し、一瞬の隙をついて顔面に一撃を入れる。

「ぐわっ!」

クサリクは、大きく仰け反って2~3歩交代する。

「どうだ!」

「ふん、少しはやるようだな?ならば、俺の必殺拳でひと思いに殺してやろう。」

クサリクは、何かの技を放つ体勢に入る。

「やらせるか!こっちこそ、俺の必殺拳でお前を倒す!」

俺は、体内のコスモを燃え上がらせる。星矢の記憶を感じ取り、体に染みついた星矢のコスモを絞り出す。青白いオーラが、俺の体を包み込む。

「レイジング・ブル・ラアッシュ!!」

「ペガサス流星拳!!」

共に、数秒間に何発もの拳を打ち込む技のため、有効打が中々相手に届かずふたりの間で拳同士が衝突する。最初は互角の攻防だったが……

「な……何だと?」

俺の流星拳が、徐々に奴の拳を押して行く。

「もっと燃え上がれ!俺のコスモよおおおおおっ!」

「ぐわああっ!」

遂に、俺の連打が奴に炸裂し、クサリクは大きくバランスを崩す。

「とどめだ!」

「瀧くん!危ない!」

「え?」

三葉の声と同時に、背後から攻撃を受ける。

「マッドドッグクラーッシュ!」

「ぐはああっ!」

完全に無防備な背後に強烈な一撃を受け、俺はその場に崩れ墜ちてしまう。

「ぐ……ぐふ……」

 

星矢(瀧)を倒した黒い影は、クサリクの横に降り立つ。狼を模った甲冑を身に纏っている。

「俺は、ティアマト11混成獣がひとり、ウリディンム。」

「瀧くん!」

アテナ(三葉)は、慌てて倒れた星矢に駆け寄る。

「瀧くん!しっかりして、瀧くん!」

そんなアテナを余所に、ウリディンムはクサリクに声を掛ける。

「大丈夫か?兄者?」

「ああ、いいタイミングだ。もう少し遅れたら、やばかったかもな?」

「卑怯やよ!闘ってる最中に、後ろから狙うなんて!」

アテナは、目に涙を浮かべながらふたりを責め立てる。

「ふん、何寝言を言っている、戦いに卑怯もへったくれもあるか?」

「油断する方が悪いのさ、さて、止めを刺してくれる。」

ふたりは、倒れた星矢にゆっくりと歩み寄って来る。

「だ……だめっ!」

アテナは、星矢を庇ってその体の上に覆い被さる。その時、アテナの体から眩い光が放たれる。

「な……何?」

「な……何だ?この巨大な、それでいて、全く威圧感の無いコスモは?」

アテナの体が、星矢ごと金色のオーラに包まれる。

「ちいっ!」

クサリクは、アテナと星矢に向かって攻撃を放つが、

「ぐわっ!」

攻撃は、光の壁に弾かれてしまう。

「こ……これが、アテナのコスモ?」

「だが、我らが主ティアマト様のコスモに比べれば取るに足らん!同時に攻めるぞ!ウリディンム!」

「おう!兄者!」

『ぐおおおおおおおおおおっ!!』

クサリクとウリディンムのコスモを高めた同時攻撃が炸裂する。

「きゃああああああっ!」

この攻撃に、光の壁は砕かれ、アテナも少し吹き飛ばされてしまう。

「み……三葉……」

アテナの身を心配する星矢だが、ダメージが大きくて立ち上がる事ができない。

「ウリディンム、ペガサスは動けん。アテナから先に殺るぞ!」

「おう!」

ふたりは、倒れたアテナに向かって歩き出す。

「や……やめろ……」

星矢は、力の無い声を上げる事しかできない。

その時、先を歩くクサリクの頬を何かが霞めた。

「ん?」

頬が少し切れ、血が流れ出す。

「何だ?」

足元を見ると、羽のような物が床に刺さっている。

すると突然、部屋全体を巨大なコスモが包み込む。思わず、狼狽えるふたり。

「な……何だ?この、とてつも無く巨大で、攻撃的なコスモは?」

コスモは感じるが、人影は見えない。

「誰だ!姿を現せ!卑怯者!」

『……ふっ、1対1を装って、隙を付いて騙し討ちをする三下が、他人を卑怯者呼ばわりするとは笑止千万!』

「な……何だと?」

『そんなに見たければ、見せてやろう俺の姿を……』

部屋の奥に、突如炎が吹き上がる。そして、炎の中から、ひとりの男がゆっくりと現れる。

 

「う……うう……」

俺は、動けない体で首だけを何とか動かし、そのコスモの主を見る。鳳凰を模った聖衣を纏った聖闘士の姿が、そこにあった。

「俺は、フェニックス一輝!」

フェニックス……あいつが、瞬の言っていた“兄さん”か?

 

「ほう、貴様が、ブロンズ聖闘士最強と言われたフェニックスか?」

「ふん、俺よりも強い聖闘士など幾らでも居る。貴様らのような三下では、太刀打ちできない者達がな。」

「ほざくな!」

クサリクは、いきなり一輝に殴り掛かって来る。一輝は難無くそれを交わし、すれ違いざまにクサリクの脳天に一撃を入れる。

「は?何だ?今のが、お前の拳か?」

「そうだ。」

「痛くも痒くもないわ!拳というのは、こういうのを言うんだ!レイジング・ブル・ラッシュ!」

クサリクは、先程瀧に放った攻撃を一輝に浴びせる。

「ぬううううううううっ!」

一輝は、防戦一方でこれを防ぐ。

「どうした!どうした!防ぐだけか?」

そして、一輝の注意が自分だけに集中した頃合いを見て、

「今だ!ウリディンム!」

「ぐはああああああっ!」

無防備な背中を貫かれ、悲鳴を上げる……

しかし、背中を貫かれ、悲鳴を上げたのは、一輝では無くクサリクであった。

「な……何故だ?ウリディンム……何で、お……俺を……」

「ふふふふふ……ははははははは!」

すると、クサリクの背中を貫いたウリディンムが徐々に姿を変えて行く……そう、一輝の弟、アンドロメダ瞬に。

「な……何で?アンドロメダが、ここに……」

驚くクサリクに、一輝は不敵に笑う。

「ふっ、敵の兄弟に嬲られる気分はどうだ?クサリク?」

背後の瞬も、笑みを浮かべて言う。

「兄さん、そろそろ止めをさそうか?」

「いいや、まだだ瞬、もっともっと、苦しめて嬲り殺しにしてやろう!」

「や……やめてくれえええええええええっ!」

 

クサリクは、茫然と立ち竦むだけだった。目は焦点が合わず、口からは泡を吹いている。

「あ……兄者?貴様、兄者に何をしたんだ?」

「今の一瞬で、そいつは、とてつも無く長い幻を見たのさ。」

一輝は、立ち竦むクサリクの額に指を当てる。すると、クサリクの神衣は粉々に砕け、クサリクはその場に崩れ落ちる。

「鳳凰幻魔拳、内面から精神を砕く技だ。」

「お……おのれ……」

「俺に向かってくれば、お前もこうなる。それでも来るかウリディンムよ?」

「たわけ!接近しなければ、そんな拳を喰らう事も無い!今度は、お前が地獄を見る番だ!受けろ、マッドドッグクラーッシュ!」

瀧を倒した必殺拳が、一輝に襲い掛かる。

「な……何っ?」

しかし、ウリディンムの拳は、難無く一輝に受け止められてしまう。

「この技は、さっきお前がそこの男に放つのを見た。聖闘士に、同じ技は2度通用しない。ティアマトに聞かされていないのか?」

「くっ……やばいっ!」

ウリンディムは、素早く後方に下がる。

「ふっ、これだけ距離があれば、幻魔拳は撃てまい!」

「ふん、それだけでいいのか?」

「何?」

「そんな程度では、まだまだ射程圏内だ。受けろ、鳳凰の羽ばたきを!鳳翼天翔!!」

一輝の拳から、凄まじい炎と竜巻が沸き起こり、ウリディンムを飲み込んで行く。

「うぎゃああああああああああっ!」

ウリディンムの神衣は粉々に砕け、ウリディンムも大きく吹き飛ばされてしまう。

 

俺は、動けない体で、ずっとその光景を見詰めていた。

つ……強い、この一輝という聖闘士、強すぎる。俺が限界近くコスモを高めて、やっと互角だった相手を……殆どノーダメージで、一撃で倒すなんて……しかも、ふたりも……

「あ……ありがとう。」

三葉が、一輝に礼を言う。

「まだだ!」

「え?」

「まだ終わっていない。」

「ふん、良く気が付いたな。」

部屋の入り口付近から、声がする。良く見ると、もうひとり、鷲を模った甲冑を纏った男が立っていた。

「私の名は、ウム・ダブルチュ。ティアマト11混成獣の……最後のひとりかな?」

な……もうひとり居たのか?気配も、コスモも感じなかったのに……

「貴様も、騙し討ちをする口か?」

「騙し討ちと言うより、効率的に物事を進めたいだけだ。相手を弱らせてから倒すのは、戦いの定石だろう?」

「それで、戦い疲れた瞬達を倒して来たという訳か?」

「ほう?それも気付いていたか?」

な……何だって?しゅ……瞬達が?

「3人のコスモが感じられないというのは、そういう事だろう?」

「冷静だな?仲間が倒されたというのに?」

「慌てふためいたところで、結果は変わらない。それに、あいつらは自分の責任は果たした。あとはお前を倒せば、全て片付く。」

「倒せれば……な?」

ウム・ダブルチュは、一輝の10m程手前まで歩いて来て止まる。

「言っておくが、私は、他の混成獣とは違うぞ。」

「そのようだな?お前から感じるコスモは、さっきのふたりとは桁違いだ。」

しばらく、睨み合いが続く。達人同士の闘いは、一瞬で決着がつくという。この闘いもそうなのか?

そして、先に動いたのは一輝の方だった。

「受けよ!鳳凰の羽ばたきを!鳳翼天翔!!」

一輝の必殺拳が炸裂……と思いきや、炎と竜巻は、ウム・ダブルチュをすり抜けてしまう。

「ば……ばかな?」

「お前は先程、“聖闘士には同じ技は2度通用しない”と言ったな。それは私も同じ事。お前の技は、先程見せてもらった。この私には通用しない。」

「何?」

「私の技は、お前には初見!受けよ!イーグルトルメンタ!!」

ウム・ダブルチュの必殺拳が、一輝に炸裂する。

「うわあああああああああああっ!」

聖衣は砕け散り、一輝は部屋の奥まで吹き飛ばされる。

「そ……そんな……」

あれ程の強さを誇る一輝を……この男、強さの次元が違いすぎる。

ウム・ダブルチュは、今度は三葉に向かって歩き出す。いけない!

「や……やめろ……」

三葉を護りたいが、体に力が入らない。だいたい、俺が何とかできるような相手でも無い。

「……」

三葉は、無言で震えている。

「アテナ、その命貰い受ける。」

「……待て……」

その時、部屋の奥から声がする。

奥には一輝が倒れているが、突如、倒れた一輝から炎が燃え上がる。そして、炎の中で一輝は立ち上がり、ゆっくりとこちらに向かって歩き出す。

「驚いたぞフェニックス。私のイーグルトルメンタを受けて、立ち上がったばかりか、まだそれだけのコスモを燃やせるとは……お前のような男は初めてだ。」

「……俺も、お前に詫びねばならん。お前の力を、甘く見ていた……だから、今度こそ渾身の力で、お前を倒してやろう。」

「ふっ、自慢の技を封じられ、大きく傷付き、聖衣までも失ったお前に、何ができると言うのだ?」

「聖衣を失った?……ウム・ダブルチュよ、デスクイーン島で俺の師が言っていた。フェニックスの聖衣は最高だと、死してもまた、炎の中から蘇る……」

炎の中から現れた一輝の体に、再びフェニックスの聖衣が装着されている。先程よりも、より力強く、大きく輝きを増して。

「……そうか、フェニックスの聖衣には、自己修復能力があるのだったな。」

「そうだ、俺のコスモの炎が消えない限り、不死鳥は何度でも蘇る!」

「ならばその炎、今度こそ完全に消してやろう。」

「させるか、今度こそ受けよ!鳳凰の羽ばたきを!」

一輝は、鳳翼天翔の構えをする。

「一度見た技は、私には通じない。同じ技しか無いお前に、私に勝つ術は無い。」

「それはどうかな?」

「私にはまだ、お前に見せていない技がある。これは、イーグルトルメンタを受けても立ち上がって来た、お前に対する褒美だ。受けよ!我が、究極の奥義!」

「鳳翼天しょおおおおおおおおおおっ!!」

「グレートテンペスト!!」

一輝の放つ嵐と、ウム・ダブルチュの放つ嵐がぶつかり合い、ふたりの間で燻り続ける。だが、徐々に、ウム・ダブルチュが押されて行く。

「何だ?これは……違うぞ、先程とは、軌道も……威力も……」

「ウム・ダブルチュよ、俺達聖闘士が言う技とは、型や技術の事だけを言うのでは無い。それに込めるコスモが合わさって、初めて“技”なのだ!俺の渾身のコスモを込めた一撃は、もはや先程の鳳翼天翔と同じ技では無い!」

「ば……ばかな?」

「消し飛べっ!」

「ぐわあああああああああああっ!」

神衣は砕け散り、ウム・ダブルチュは部屋の端の壁に叩き付けられ、崩れ落ちる。

一輝は、こちらを向いて、俺達の方にゆっくり歩いて来る。

そういえば、こいつは俺達の事を星矢とアテナだと思ってるんじゃないか?

「あ……ありがとうございます。で……でも、驚かれるかもしれませんけど、私達は……」

三葉も同じ事を思ったのか、一輝に説明しようとするが、

「分かっている。お前達は、俺達とは違う世界から来たんだろう。」

『え?』

な……何で知ってんの?今迄、聖域に居なかったのに……

「兄さん、やっぱり来てくれたんだね!」

そこに、シャイナさんに肩を抱かれて、瞬が入って来る。瞬、無事だったのか?

「ふん、どうやらお前達、命はあったようだな?」

瞬に続いて、氷河と紫龍も、他の聖闘士に肩を抱かれて部屋に入って来る。良かった、皆、無事だったんだ。

「これで、混成獣は全て倒したが……アテナと星矢は戻らないのか?」

紫龍が言う。

「当然だ、星矢達は今も闘っているのだからな。」

一輝が、それに答える。

『何っ?』

一輝の言葉に、その場に居る全員が驚く。

「た……闘っているって、ティアマトと?」

瞬が尋ねる。

「そうだ。」

「どういう事だ?何処で星矢達は、ティアマトと闘っているんだ?」

「私が説明します!」

氷河の問いに答えて、ひとりの女性が部屋に入って来る。青い長い髪の、青い瞳の女性だ。

「あ……あなたは?」

「彼女の名はリフィア、現在の、北欧の神オーディーンの地上代行者だ。」

一輝が答える。

北欧の神?何だそれは?

いったいこの世界には、神様が何人居るんだ?

 






リフィアの口から、いよいよこの入れ替わりの真実が語られます。
そして、舞台は最終決戦の場へ……次回、最終回です。

ティアマトの混成獣って、ゲームなんかでは良く使われているみたいですね。
ゲームを知っている方は、イメージと随分違って不満もあるかもしれませんが、ご容赦願います。
ネットの解説と、ゲームのキャラ紹介等から私が勝手に妄想して、聖闘士星矢カラーに塗り替えてしまいました。まあ、だいたい、極端に気取った奴や、とてつもなく卑怯な奴は必ず出て来るんで。
最強の敵を“ウム・ダブルチュ”にしたのは、あまり解説が無かったのと、“恐るべき嵐”と称されているのが何とも強そうに感じたので。
何かの解説では“ギルタブルル”が戦略に長けて、混成獣のリーダー格のように書いてあるものもありましたが、“サソリ人間”ではそんなに強そうに感じなかったので。

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