フレームアームズ・ガール ~ティア・ドロップ~   作:きさらぎむつみ

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Parts 3 青い瞳の白ウサギ

 ぱちり。

 イノセンティアが目を覚ますと、そこにはラボとは違う景色が広がっていた。

 

(そうだった。私は今日、ここへ来たんだったわ)

 

 優衣という少女の、新しくイノセンティアのマスターとなった人物の部屋で最初の充電をしていたことを思い出した。

 

(あら、これは……ハンカチ? 優衣が掛けてくれたのかしら)

 

 FAガールには不要なものであったが、その厚意からは優衣の温かな人柄が感じられる。

 

(いいマスターみたいでよかったわ……ところで、そのマスターは?)

 

 夕陽の差し込む室内に優衣の姿はなかった。充電を開始するときにそばにあった雪ミクドールの姿もなく、ノートPCも今は閉じられている。

 

(おでかけかしら?)

 

 イノセンティアはハンカチを充電くんの横に畳んで置くと、改めて部屋を見渡した。

 本棚にサイドボード、ベッドにクローゼットと白を基調にした家具が並んでいる。おかげで、カーテンや漫画の背表紙がカラフルに目立っていた。

 部屋のドアノブはレバー型だった。やりようによっては、イノセンティアでも開けられそうだ。

 そのドアノブが、ガチャリと音を立てて回った。

 

「ん? あ、ティア起きたんだ」

 

 ドアを開けた優衣が、イノセンティアに近付いてくる。

 

「大変だよ、ファクトリーアドバンスさんからまた何か届いた!」

 

 

      ◇

 

 

 肩に乗せたイノセンティアと一緒に優衣はリビングへと降りていった。

 そこには、先ほど夕食の買い物から帰ってきたときにはすでに玄関先に届いていたファクトリーアドバンス社からの段ボール箱が二つ、置いてあった。

 

「早速開けてみましょうよ」

 

「うん。またティアみたいなFAガールかな?」

 

 優衣は段ボール箱の片方を開けて、中からイノセンティアの入っていた箱とよく似た色違いの箱をテーブルの上に置いた。

 

「やっぱりこれもFAガールみたいだね。えっと……『BASEL――」

 

 パッケージの表記を優衣が読み始めた時だった。

 

 

 

「ぱんぱかぱーーーん!」

 

 

 

 パッケージのふたを自ら持ち上げて、そのFAガールは箱から飛び出してきた。

 

「――」

 

「……」

 

 優衣もイノセンティアも反応ができずにいると、

 

「あ、あらぁ……もしかして、すべっちゃいましたかぁ?」

 

 そのFAガールはきまり悪そうな困り顔で訊いてきた。頭飾りから伸びた白いパーツが、ふにゃっと力無く垂れ下がる。

 

「アナタの姿は見たことあるわ。“バーゼラルド”ね?」

 

 イノセンティアの言葉に、そのFAガールはぱあっと花の咲いたような笑顔になって、優衣とその肩にいるイノセンティアを見上げてきた。

 

「はぁいっ! わたくし、バーゼラルドと申しますぅ! はじめましてぇ!」

 

 持ち上げていた箱のふたを放りだして、バーゼラルドは両手で優衣の指を掴んでくると上下に揺らしてきた。

 

「よろしくお願いいたしますぅ!」

 

「あ、はい。よろしく……」

 

 あっけにとられる優衣の指をひとしきり振りおえると、バーゼラルドは優衣の肩に乗るイノセンティアへと目を向けた。

 

「はじめまして、こんにちはぁ。イノセンティアさんですねぇ?」

 

「ええ、そうよ」

 

「あなたの最初の対戦相手としてこのたび送られて参りました。よろしくお願いしますねぇ」

 

「なるほど、そういうことね」

 

「ん? ティア、どういうこと?」

 

 優衣は肩の上で腕組みして頷いているイノセンティアに訊ねた。

 

「私たちFAガールのバトルデータを取るには、まずは対戦相手が必要だもの。そのためにこの子は送られてきたのよ」

 

「ああ、説明書に書いてあった“セッション”ってやつね。モニターに参加すると謝礼がもらえるっていうからOKをポチッたけど、もう送られてきたのかあ」

 

 恐るべきはファクトリーアドバンス社驚異の輸送システムである。

 

「それで、バトルってどうやるの?」

 

「私の付属品に“セッションベース”ってあったでしょ。あれを使って展開したバトルフィールドの中で戦うのよ」

 

「これでぇーす」

 

 バーゼラルドが充電くんと協力してパッケージから六角形のパネルを引っ張り出していた。

 

「まずは御挨拶代わりに一戦、いかがでしょうかぁ?」

 

 バーゼラルドはパッケージから付属品を一つ一つ取り出しては、充電くんに引っ掛けていく。それらは機械の腕と発射口らしきものの付いた装甲のようにみえた。

 

「それってバーゼラルドの装備品?」

 

「はい、そうですよぉ」

 

「ねえティア、ティアにあんな装備品ってあったっけ?」

 

「……無い、わねえ」

 

「え、じゃあ、ティアは素手で戦うの?」

 

「……そうなるのかしら?」

 

 優衣の問いかけに首を傾げて答えるイノセンティア。

 

「あぁ、それならわたくし、適当に見繕って持ってきたものがありますからぁ。そちらの箱を開けてくださいませぇ」

 

 バーゼラルドがまだ開封していない方の段ボール箱を指差した。

 優衣がそちらの箱を開けてみると、FAガールの入っていたものよりも小さな箱が二つ入っていた。

 

「えっと……『モデリングサポートグッズシリーズ』? “シールド”と“マシンガン・ミサイルランチャー”……」

 

 それらの箱を開けてみると、中には数々の部品がランナーについたままの状態で入っていた。

 

「さしあたって、それらで武装していただければよろしいかとぉ」

 

 バーゼラルドが微笑みながら優衣を見上げていた。

 

「これって、プラモデルみたいに組み立てないといけないんだよね?」

 

「そうね」「そうですよぉ」

 

 二人のFAガールから同時に回答された優衣だった。

 

「……お姉ちゃんの部屋に確かこういうのに使う道具あったはず。ちょっと待ってて、取ってくる」

 

 少し考えたあと優衣が立ち上がったので、イノセンティアはその肩から跳び下り、テーブルの上に降り立った。

 優衣はリビングを出て、二階へと駆け上がっていく。

 

「ねえバーゼラルド。わたし以外のイノセンティアもやっぱり色んなところに送られたのかしら?」

 

「さぁ、そうだと思いますよぉ。わたくしの他にも迅雷さんやスティレットさんが“他の”イノセンティアさんのところに送られるところでしたからぁ」

 

「そうなのね、ふーん」

 

「やっぱり、さびしいですかぁ? 同型がそばにいないのはぁ?」

 

 装備一式を充電くんに掛け終えたバーゼラルドが、イノセンティアの方に振り返る。

 

「そんなことはないけれど、でも……そうね、ラボのスタッフやFAガールが誰もいないのは新鮮だわ」

 

「もうわたくしが来てしまいましたけどねぇ」

 

「アナタだってラボの外は初めてでしょ?」

 

「えぇ、ですからわたくしも箱から出てくるときはドキドキワクワクでしたよぉ」

 

 胸の上で手を合わせているバーゼラルドが、にこにこしながら言葉を続ける。

 

「ですから、これから行うセッションもとっても楽しみでドキドキしてますぅ」

 

「それはいいけど……さっきの、箱から出てきたときの“あれ”はどうかなって思ったわ」

 

「…………ふにゅーん……」

 

 バーゼラルドは力無く肩を落とすのだった。

 

 

 続く




今回登場したバーゼラルドは、TVアニメに出てきたバーゼとは別個体な設定です。
キット準拠で身長も他のFAガールと同じサイズです。

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