ニードレス・オーダー 【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか】 作:概念
お待たせした分今回は内容量がいつもの二倍強になっております!
お楽しみください…
01.
ヘスティアに聞いた場所に行くとそこには確かに巨大な館がそびえ立っていた。
と、言ってもまだ門しかみえていないのだが…
目の前に鎮座する門はまるで城でもあるのかと間違えるほど巨大で堅牢なものである。
もしかしたらここに攻め込まれることを想定しているのかもしれない、とも思ったが門の装飾は綺麗なものでおそらく周りに威厳を示すと言う役割の方が強そうだ。
歩いてきた街や周囲の雰囲気から察するに近くに戦争があるということはなさそうだ。
此処へ来る道中にひりつく雰囲気をした者は例にもれず自分とは反対方向の天にそびえるバベルの塔、つまる所ダンジョンに向かっていた。
しかしおそらく夜ということもあってか大体の冒険者は金曜日のサラリーマンのように飯や酒を喰らいながらその日にあった事を語り合っていた。
きっとこれがこの街、オラリオの日常なのだろう。
人々はそう俺に確信させる程楽しそうに1日を過ごしている。
…そろそろ真面目に現実と向き合おう
門の前には門番らしき人がいて俺のことを訝しげに睨んでいた。
それはそうだ、だってこの館の前には俺と門番の人しかいないんだもん。
そりゃあ門の前で突っ立って繁々と見物してたら不審者かと思われるよねそうだよね。
そんな2人だけの空間(?)に耐えきれず、その人に話しかけてみる。
「あの…黄昏の館と言うのはこちらでお間違い無いでしょうか?」
「…そうだが、何用か?」
明らかに怪訝そうな目で見る門番。
「入団したくて来たんですけど…」
その一言を聞くと門番の様子が一変した。
「入団?貴様のような何の取り柄もなさそうなガキがか?」
悪い方向に…
門番の人は笑わせるなとばかりに嘲笑を浮かべる
「この前もお前のようなガキが居たな。最近多くて困るんだよ、勘違いした身の程知らずのガキが。いいか?此処はオラリオ最大を誇るロキファミリアの本拠地だ、俺でさえ入団するのには苦労した。それをお前のような物見遊山の奴が入れるとでも思っているのか!」
あー、なるほどね。
なまじロキファミリアに所属している事に誇りを持ってる分俺みたいな弱そうな奴が自分と同じ所に所属したいなんてその自尊心が許さないのだろう。
このひねくれたプライドをお持ちの門番さんに一言物申しておきたい。
人を見た目で判断するのってどうなんだろうか。
そんな事をしてたら
「あのでもフィンさんに来いって言われて…」
「この俺でさえ入団するのに苦労したのに団長がお前のような軟弱そうな奴に目をかけるわけなかろう!嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!」
にべもない…
さてはてこれはどうしたことか、手紙でも見せればいいかと思ったがこの調子だと偽物だ何だと言われてしまいそうだな。
「もう一度だけ確認します。僕はフィンさんに呼ばれてここに入団試験を受けに来ただけなんです。通しては貰えませんか?」
「くどい!」
「分かりました…」
仕方がない、最終手段と行きますか。
重心を落として相手との距離をとる。
問題は果たして届くかどうか賭けになる所か…
でもやるしかあるまい、強行突破するにはこれぐらいしか無いのだからッ!
「な、何だ…実力行使にでも出る気か貴様!」
「恨まないでくださいよ、人を見かけで判断したあなたが悪いんですから。」
距離は十分、これならいけるか?
「こいつ、何をッ…」
スゥーーーー
「フィーーーーンさーーーーん!!!!!!!!!」
「ぬぉっ!」
俺の出した大声に門番の人は怯む。
そう、中に入れてもらえないなら外に出てきてもらうまで!
「ふーーじーーまーーるーーりーーつーーーかーーがーーきーーまーーしーーたーーよーー!!!!!!」
この
「貴様っ、やめんか!」
「フィーーーーンさーーーーん!!!!!!!!!」
「えぇい!取り押さえてくれるわっ!」
門番さんは迷惑行為を働く不審者(俺)を取り押さえにかかるが距離は十分にとってある。
これでしばらくの時間稼ぎをできるはずだ!
ゴゴゴゴ
これから大声を上げる不審者VS自尊心の高い門番という異色のエキシビションマッチが行われようかという時に重厚な門がその見た目に即してゆっくりと開いていく。
「何の騒ぎだ!」
見えたのは門に即した大きな館とそこに続く広場、そして長身の女性だった。
髪は綺麗な緑の長髪、凛々しい顔つきに耳は長くおそらくエルフなのだろう。
その女性が怪訝そうな目で此方を見ていた。
「はっ、副団長、ただいま不審者を捉えるところでして…」
「不審者じゃないやい!こちとらフィンさんに呼ばれて来てるんだっての!」
信じてすらもらえなかったけどね!
「フィンに?と言うことはお前が例の?」
良かった、話がわかる人がきてくれた…
「はい、藤丸立香です。ご迷惑をおかけしました…」
特に大声を出した件とか、近所迷惑も顧みないで騒いだ件とかは本当に申し訳ないと思う。
だけどこっちだって必死です。
「なっ、副団長!この者が本当に団長に呼ばれて来たのですか!?」
門番は驚愕と不服の声を上げる。
「そうだ、門番には話してあると言っていたが、交代でもあったか?」
「先ほど…そういえば客人が来ると。」
それは暗に俺は客人には見えなかったって言う事かな?
まぁ見えないだろうな、自分でも入団希望て言っちゃったし。
まさか客人扱いしてもらえるとは思ってもいなかった。
けど報連相は組織で基本だと思うんだけどなぁ。
「ではお主のミスだな。なぜ確認を取らなかった?」
「はっ…入団希望との事でしたので…」
「それで追い払おうと?入団希望者を追い払うのはお前の職務か?」
あれ、なんか話が思いもよらぬ方向に…
「しかしこのような…」
「質問に答えろ、これはお前の職務かと聞いている。」
「い、いえ…ですが!」
「言い訳はいい、最近このような事がよくあるとは聞き及んではいたが…相応の罰があると覚悟しておけ!」
「あのー…」
ちょっとまずい流れになってるので話を止めさせてもらう。
「すいません、自分が門の前でウロウロしていたせいで門番さんが自分の事を不審者だと思ったみたいで。」
「…なに?」
「いやぁー、今思い返せはあれは自分から見ても不審者だっただろうなぁ。ごめんなさい!まさか自分が招かれた場所がこんな凄いところだとは思わなくて、門番さんも仕事に真面目だっただけなんだと思いますので…」
確かに門番さんの態度はちょっと?横柄だったけど、自分がこれからお世話になるかもしれない場所に余計な波風をたてることもないだろう。
「なるほど、理解はしたが入団希望者を勝手に追い払ったのは事実だ。次このようなことがあったら処罰を下す。そのように覚えておけ。」
「はっ…」
よかったよかった。
やはり何事も円満解決に限るね。
門番さんもこの事から何かを学んでくれればいいけど。
副団長と呼ばれた女性はこちらに向き直り頭を下げる。
「すまなかった、フジマル殿。こちらの者が迷惑をかけたようだ。」
「気にしてないですよ、それに殿なんてつけてもらうほどたいそうな人間じゃないのでないので普通に立香でお願いします。」
「了承した、リツカ。私はリヴェリア・リヨス・アールヴ、このファミリアの副団長を務めている者だ。よろしく頼む。」
「よろしくお願いします、リヴェリアさん。」
「ひと段落ついたようだね。」
お互いに挨拶を終えると館からフィンと何やら厳ついおじさんが出て来た。
よく見れば館の窓からは何事かと見物客がこちらを見ている。
「お早い登場だな、フィン、ガレス。」
2人の登場に少し憤り気味だ。
そんなリヴェリアに対してフィンは少しだけ悪びれた様子を見せた。
「悪かったとは思ってるよ。」
「お前の意図は解らないわけでもないが、それなら説明の1つもあっていいと思うがな。」
「そう怒らないでくれよ。」
「そうだぞ、そのように小言が多いから団員に母親などと…」
「ガレス…お前にはスルトの剣が必要のようだな。」
スッと空気が氷点下にまで落ちる。
その怒気は絶対零度の炎とでも例えれば良いか…
しかしそんなことは意にも介さず厳ついおっさんはむっはっはと笑ってみせた。
「くわばらくわばら、でだ。其奴が話に聞くフィンのお気に入りという奴か。」
「その通り、リヴェリアはさっき挨拶してたね、こっちはガレス、僕とリヴェリアと同じ、ロキファミリアの古参さ。」
そう紹介された厳ついおじさんはこれまた厳つい笑い方をする。
「腐れ縁と言い換えてもいいがな、ガレス・ランドロックだ。宜しくするかどうかはこれから次第と言ったところだな。」
そうだ、色々あって失念していたが入団試験を受けに来たんだ。
「話を聞いてた限りでは僕の予想通りってとこかな?」
「はい、ロキファミリアに入れてもらうためにここへ来ました。」
ここまでの半日で様々な事があった。
そのおかげで自分の向かう道ははっきりしている。
「ではいささか特殊ではあるが入団試験は今から、この館の広場行おう。出来るかなリツカ?」
フィンは挑戦的な笑顔でこちらに問いかけてくる。
お前に大衆の面前で入団試験を受ける度胸はあるかと。
「問題ありません。」
きっぱり言ってのける。
準備をしなければいけないことなど存在しない。
大衆の面前?問題ない。
ここで何か失敗してもただ俺が恥をかくだけだ。
『世界が滅ぶ』なんてこともないしな。
「ふふっ、よろしい!では中に入りたまえ。」
中に入ると門がゆっくりと閉まっていく。
広場は松明によって照らされており門の外よりも明るく、周囲の視界が確保できた。
目の前の館からは好奇の視線が無数に降り注ぐ、いわゆる完全なアウェー。
まぁ、今までアウェーじゃなかった方が少ないけどね…
「入団試験はフィン、リヴェリア、ガレスの3人が責任を持って受け持とう。我々が各々の判断基準で君を見定める。特別待遇だねリツカ。」
うわぁ…この人笑顔でプレッシャーをかけてきたよ…
「問題ありません、よろしくお願いします!」
と元気よく言ってみたものの3人共問答無用でかかってこいとかだったら死んじゃいますよ、俺…
「では最初は…」
「私が行こう。」
そう静かに告げたのはリヴェリアだった。
「立香、私の質問に答えて貰おう。それが私からの試験問題となる。よく考えて挑めよ?」
質問…一体なんだろうか、面接みたいなものか?それともダンジョンに関する常識問題?
そんな俺の思考を遮るようにリヴェリアの問答は始まった。
「問おう。お前の前に門が2つあり、片方が天国、片方が地獄へ続いているとしよう。そしてそれぞれ門の前には門番が立っている。片方は正直者、片方は嘘つきだ。どちらの門が何方に繋がっているかはお前には分からないし、お前が話しかける門番が正直者か嘘吐きなのかもお前には分からない、許された質問の回数はどちらかに一回だけ、さて、お前は門番に何を尋ねる?」
なぞなぞ?
まさか入団試験でなぞなぞを解くことになるとは思わなかったが…
この問題、前にカルデアにあったなぞなぞ本にハマったナーサリーから聞いた事があったな。
さて、思い出そう。
片方が正直者、片方が嘘つきだろ?
もしも『あなたの後ろの門は天国に繋がってますか』と聞いたら両方とも[はい]と答える。
逆に『あなたの後ろの門は地獄に繋がってますか』と聞いても両方とも[いいえ]となるだけ。
となると重要なのは正直者だろうと嘘つきだろうと本当の事を言わせる事…
となると…
答えは『あなたの後ろの門は天国に繋がってるかと聞いたら[はい]と答えますか?』だ。
この質問の仕方なら正直者なら本当のことを教えてくれるし、嘘つきは嘘を言わなければいけないが為に正直に答えなければいけない。要は負数と負数を乗算するとプラスになるのと同じ感じって書いてあったな。
「答えは…」
一瞬。
ほんのほんの微かにだが、リヴェリアの目が残念そうに見えた気がした。
なんだ?
なんで今の一言で残念に感じる?
そんな理由は考えうる限りではただ1つ。
聞きたいのは『答え』ではない…?
だったら何が聞きたいんだ?
思い返せリヴェリアはなんて言っていた?
【問おう。お前の前に門が2つあり、片方が天国、片方が地獄へ続いているとしよう。そしてそれぞれ門の前には門番が立っている。片方は正直者、片方は嘘つきだ。どちらの門が何方に繋がっているかはお前には分からないし、お前が話しかける門番が正直者か嘘吐きなのかもお前には分からない、許された質問の回数はどちらかに一回だけ、さて、お前は門番に何を尋ねる?】
聞きたいのが答えではないなら問題は省いてもいいはず。
【問おう。お前は門番に何を尋ねる?】
つまりは…
【問おう。お前は何を尋ねる?】
これかぁ…
「俺は…元の場所に戻れる方法を聞きたいですかね。まだまだやらなければいけない事が沢山あるので。」
その答えを聞くとリヴェリアは笑みを零した。
「ふふ、瀬戸際だったな。もしかしたらお前の聞く門番は嘘つきかもしれんぞ?」
「そうだったらどんな手を使ってでも本当の事を聴き出しますよ。」
リヴェリアは決して『なんと尋ねれば天国へ行ける?』とは言わなかった。
つまり本当の事を聞き出すことはリヴェリアの聞きたいことじゃ無い。
なぞなぞのように見せかけて本当は窮地に陥った時にどのような行動を取るかっていう質問なんてね。
上部だけに騙されず、物事の本質を図るために違和感は徹底的怪しむべし…か。
全く…
「あなたは意地悪な人ですね。」
「おや、それは心外だ。特別措置で入団試験をしているんだ。これぐらい答えてもらえなくてはな。」
そんなリヴェリアの言葉を聞いてフィンは意地悪そうに告げる。
「おやリヴェリア、その質問に君の満足いく答えを出せたのはこの子が初めてじゃなかったかな?元々信用できなさそうな人物をふるい落すために…」
「んんっ、誰も今ので満足したとは言っていないのだがな。まぁ、満足させる『答え』を出すために鍛えてやっても良いと思える物は持っているのではないか?」
おぉ…どうやら何とかリヴェリアには認めてもらえたようだ…!
ホントギリギリだった…
「では、次はワシじゃろうな。」
安心したのもつかの間。
大地に胡座をかいて座り込んでいたガレスがその腰をあげる。
「ワシが問うのは無論武力!さぁ、遠慮せずにかかって来るがいい!」
どっかの魔王ですかあなたは!
無理無理無理無理きっと死んじゃいますって!
「と、言いたいところなんじゃが、ワシは先ほど酒を飲んでしまってのう。ベート!頼めるか?」
館全体に聞こえるような声でその名を呼ぶとこれまた館全体に響き渡る音量で返事が返ってきた。
「うるっせェぞクソジジイ!興味ねぇよ!」
「お前もうるさいぞ、とりあえず降りてこい。」
すると上階の窓が開きそこから飛び降りてくる。
「あのな、何で俺が入団試験なんかに…」
俺を見て鼻を鳴らす。
「前言撤回だクソジジイ、興味がないどころじゃねェ、却下だ却下!丁重にお帰り願え!」
な、何でそこまで嫌われてるの俺…
「俺の蹴りも見切れないような奴が冒険者になって何が出来るってんだよ。くだらねェ事でおっ死ぬのが関の山だろうが。」
「そうは言っても最初は誰もが素人じゃろう。」
「
流石にここまで言われて黙ってるのは違うよな…
「ベートさん…いや、ベート。俺と戦え。」
空気が変わる。
ベートの中で俺という存在が道端の石ころから楯突く虫ぐらいに変化したのだろう。
「あ゛ァ…?」
明確な威嚇。
だがその程度では怯まない。
まっすぐその目を見返す。
「お前が俺を認められないって言うならそれしか無い。俺だって何の覚悟も無しにここに来てる訳じゃないんだっ…!」
「震える声で良く吠えんじゃねェかよ…分かった、了承だ。この雑魚は俺が捻り潰す。」
そりゃ怖くないわけはない。
俺だって痛いのは嫌だし苦しい思いはしたくない。
「あー、念のため言っておくがあくまで試験だからな?殺したりするなよベート。」
「心配すんな、そこまでキレちゃいねぇ。手加減はしてやるよ。」
あーあ、これで良かったのかね。
もっと頭のいいやり方があったのかもしれないけど…
流石に少し頭に来た。
このDQNに少し分からせなければいけない。
「ではお互い10歩距離を取れ、ワシの試合開始の合図で試験を始めるぞ。」
お互いに一歩一歩離れていく。
一歩進むごとに覚悟を決めていく。
もしかしたらこれは断頭台に向かう一歩なのかもしれないが…
やがて10歩。
覚悟は決まった。
向きなおると遠いとも近いとも言えない距離に1人の獣人が立っていた。
自分を認めない相手、認めさせたい相手。
「互いに準備はいいな?」
無言で頷く。
「それでは、試合開始ッ!」
そうして火蓋は落とされる。
次回、とある迷宮の英霊召喚、「レベル5VSレベル0」
歯ぁ食いしばれ最強、俺の最弱はちっとばかし響くぞ!(大嘘)
いかがでしたでしょうか?
ほんとは一ページで入団試験を終わらせようかとも思っていたのですがとりあえず今までの倍ほどで。
これからはこの長さで書いて行こうと思ってます。
それでは次回をお楽しみに!