ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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普通の女の子になりたかった。
友達と遊んで、いっぱいお洒落して、可愛いものに囲まれて⋯そんな女の子に。

私に1歩進む勇気をくれた親友達。
私を支えてくれた人。

1つの夢から始まった、私と彼のある一日です。


IF:普通の女の子 (ことり√)

夢を見たんだ。

 

多分⋯⋯怖い夢、だったと思う。

多分っていうのは、それがどんな夢だったのか、私の記憶には断片的な情報しか残っていなかったから。

 

男の子と女の子が居た。

男の子が居なくなった。

女の子は、座り込んで泣いていた。

 

⋯⋯それだけ。

 

本当はもっと長かったかも知れないし、短かったかも知れない。小説のような夢物語かもしれないし、現実だったのかもしれない。ただ、その情報を元にしか私の頭は夢の判断が出来ないし、それは少なくとも『楽しい夢』には繋がらないものばかりだった。

 

でも⋯でも一つだけ⋯⋯1番怖かったことは覚えてる。

 

 

男の子が居なくなった時───鈍く光る刃物のような物が私の膝を切りつけた。

 

何度も、何度も傷付けた。

 

 

それだけは、頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目元をなぞられる感覚がした。その次は頭。微睡(まどろ)む視界に入ってくるのは、白を基調としたブラインドから差し込む暖かでぽかぽか陽気なお日様の光。

小鳥が鳴いている春の穏やかな休日の朝がやってきました。

 

あ、この場合の小鳥はことりの事じゃなくて、ちゅんちゅん言う方の小鳥で⋯あれ?でもことりもちゅんちゅん言ってたような⋯う〜ん⋯⋯春は不思議がいっぱいです。

 

兎にも角にも、私はこの時期の朝が特に好きです。

そして、特に弱いのです。

 

だって春も中頃のこんな休日の朝は、何も考えなくても良くなるから。スクールアイドル部としての朝練も無ければ学校も無くて、身も心も何もかもをお布団と枕に委ねるだけ⋯そう、全ては頭を包み込むこのフカフカ枕さんが悪いんです。私の全部を包み込んでくれるこの枕さんが。

 

でも好きだよ、枕さん。いつもありがとう♡

 

そんな半分眠ったままの私だったけれど、ペラリと紙をめくる音が聞こえ、段々と視界の靄が晴れてきた。横になったまま薄らと目を開ければ、眼鏡をかけた幼馴染みさんが本を読んでいた。

 

初めて手を握ってくれた子でも無くて。

初めて悩みを打ち明けた子でも無くて。

私が⋯初めて恋をした人。

 

 

でも───どうして、居るんだっけ。

 

 

一瞬、そんな事を考えた。

けれどその答えは、設定を消し忘れた携帯アラームが教えてくれる。

 

正午。

休日の朝だと思っていたお日様は全然そんな事無くて、そんな時間に幼馴染みが家に来ているという事は───。

 

 

「寝坊っ!!!!」

「ふふっ⋯やぁ、おはよう。ことり。」

 

 

慌てて飛び起きた私を責める事も無く、ただただクスリと笑ったその人は、読み耽っていた本に紐を通し、パタンとページを閉じた。

 

彼は島原 夏喜くん。

同い歳で⋯私の彼氏、です。

 

「夏喜くん、ごめんね!私また⋯⋯!」

「あははっ、大丈夫大丈夫。この時期ことりが起きれないのは毎年の事じゃないか。」

「うぅ⋯そうだけど⋯⋯そうだけどぉ〜⋯!」

 

夏喜くんは全然怒りません。数年の間、一緒に過ごした時間は沢山あったけれど⋯私は1度も見た事が無い。穂乃果ちゃんや海未ちゃん達は1回だけ見た事があるみたいだけど⋯まるで、私だけ何も知らずに呑気に暮らしているみたい。

理由があって怒らないのか、それとも本当に何も思ってないくらい心が広いのか⋯ことりには知る由もないのです。(偶に神様みたいな光も見えるし⋯?)

 

「取り敢えず、色々と準備しておいで。ご飯は出来てるし、僕も下で待ってるからさ。」

「待って!!」

「ん⋯?」

 

私は、立ち上がった夏喜くんの手を掴んでいた。それも必死に⋯。

本当は自分でもどうしてこんな事をしたのかよく分かっていないけれど⋯夢の中の男の子が、チラついたんだ。

 

「あの⋯⋯。」

「⋯⋯⋯そうだね。折角だし一緒に行こうか。後ろ向いて待ってるから着替えちゃって良いよ。」

 

そう言って、彼は再び座り、本のページをめくり始めた。

 

私は、偶に凄く心配になる時がある。夏喜くんは私のお願い───我儘を、何も言わずに、笑って聞いてくれる。優しい人なのは知ってるけれど、本当は思う事が沢山あって嫌な思いをしてるんじゃないか。いつか、離れて行ってしまうんじゃないか⋯そう思うようになってきていた。

私はいつまでも子供のまま。夢にも怯える怖がりで、1人だと飛び立つ事すら出来ないことりのまま。今も、昔も、きっとこれからも⋯。

 

穂乃果ちゃんが居て、海未ちゃんが居て、夏喜くんが居て⋯居てくれないと⋯。

 

夢のせいだ。

朝から怖い夢を見たから、私はこんな気持ちになっているんだ。

 

頭をふるふると振って、そう思う事にした。

 

 

ボタンを外してパジャマを脱いでいく。夏喜くんは変わらずに本を読んでいるけど⋯むむむ。女の子としては、ちょっと複雑だったりします。だってお年頃な女の子の、ましてや恋人の着替えの近くに居るんだもん。ちょっとくらいドキドキしたり、アワアワしても良いと思うの。

 

だから⋯ことりは、ちょっぴり悪い子になります♪

 

「夏喜くん。」

「何?」

「ことりは今、下着姿です。」

「唐突だねぇ。」

「このままお洋服を取りに行けば、夏喜くんはことりのあられもない姿を見る事になってしまいます。だから⋯。」

 

後ろから彼に手を回し、お願いをする。

 

「取って欲しいな♡」

「パジャマを着れば良いと思うな。」

 

正論です。

正論で返されました。

 

「む〜⋯夏喜くんはドキドキしないんですか。」

「そうだねぇ⋯ドキドキとかはするよ。ただまぁ、ことりのあられもない姿なら、結構見てきたしね⋯。」

「ふぇっ⋯。」

 

途端に顔が熱くなる。

だって私は見せた覚えがないから。見せた覚えも無いのに、どうして彼は知ってるんだろう⋯⋯やっぱりこの時期は謎だらけです。

 

 

って言ってる場合じゃないよぉ〜!!///

何で!?///いつ!?///まさか寝てる時にこっそり───!

 

 

「言っておくけど、寝てる時に見たりとかじゃないからね?」

「はぅっ⋯!」

「まぁ、ことりの名誉の為にも言わないでおくよ。」

 

そう言って笑いながら、夏喜くんは再び本の世界へと帰っていった。

 

ちょっぴりだけ、耳を紅くして。

 

 

 

 

 

 

 

 

『何だその歩き方ー。』

『変なのー!』

 

 

あれはいつの事だったっけ。

そう⋯確か小学生の頃だった。私のぎこちない歩き方を見てからかってきた男の子達がいた。

 

 

『あし、大丈夫?』

『うわー、痛そう⋯。』

 

膝の傷を見て、同情する女の子達がいた。

 

 

私は、嫌だった。生まれつき膝が弱くて、何度も病院で手術をして⋯残った手術痕が、人から言われるまでもなく痛々しくて。歩き方だって、望んでもいないのにぎこちなくなって。

 

南 ことりは、普通じゃなかった。

 

 

ことりは、普通の女の子になりたかったんだ。

 

 

お洒落をして、可愛いスカートを履いて、ただ普通に過ごしたかった。でも⋯1番辛かったのは、お母さんが泣きながら謝ってきた事⋯。

何度も⋯何度も、手術が終わる度に、『ごめんね』って。

 

 

『どうしてお母さんが謝るの?』

『ことりがこうなってるだけだからお母さんは悪くないよ?』

 

 

そう話しても、言えば言うほどお母さんは私を抱き締めた。

涙を流していた。

 

小学校に上がる頃、私は秋葉原という大きな町に引っ越しをすることになった。お母さんの仕事の都合っていうのもあったし、ことりの意思も聞いて貰って。

でも⋯心の中では、少しだけ諦めていたの。場所を変えても私が見られる目は変わらない。掛けられる言葉は、変わらないって。

 

でも⋯それでも───。

 

 

『わぁ⋯!お人形さんみたいだねっ!!』

『いっ⋯一緒に、行きませんか⋯?』

 

 

手を伸ばしてくれた2人が居た。

 

いつも前を走って、怖いものが無くて⋯道を照らしてくれる女の子。

とっても恥ずかしがり屋さんなのに、私に勇気を分けてくれる女の子。

 

穂乃果ちゃんと海未ちゃんは、初めて出来た友達。大好きな友達。何度も悲しくて泣いちゃった事はあったけれど、嬉しくて泣いた事は無かった。だから⋯3人で並んで歩いて、繋いだ手の平の暖かさが嬉しくて⋯ちょっぴり泣いちゃった事も。

 

小学校の高学年の時だったっけ。いつも通り3人で歩いて帰ってる時、穂乃果ちゃんが誰かに手を振って走り出して。それを海未ちゃんが困ったように笑ってて。

 

道の先に居たのが、彼だった。

 

自分でも分かるくらい、怖かったと思う。子供の頃向けられた目や掛けられた言葉が、身体中から溢れるみたいな感覚に襲われて⋯海未ちゃんが手を引いて、私のペースで歩いてくれた。

 

『大丈夫です。ことりが思ってる人じゃないですよ。』

 

小さく私に聞こえる様に何度もそう言ってくれるけど⋯2人のおかげでようやく履ける様になったミニスカートの裾をキュッと掴んで、上手く彼の方を向けなくて。ゆっくりこっちに歩いてきた彼は、私に話しかけてきた。

 

 

『初めまして。島原 夏喜です。』

 

 

その人の笑い顔は、昔向けられた様なからかいの顔とかじゃなくて⋯本当に、ふわっとした笑い顔だった。彼は私の膝の事を穂乃果ちゃん達から聞いていたみたいで、傷跡が薄くなった私の足を少しだけ見て、顔を上げた。

 

きっとまた、からかわれるかもしれない。

同情の目を向けられるかもしれない。

 

そう思った私の気持ちは、彼の言葉で優しくぼかされた。

 

 

『強いね、南さんは。』

『えっ⋯?』

 

 

初めて掛けられた言葉だった。

 

 

『だってなりたい自分っていうのがずっとあって、それを叶える為に必死に色んな事を頑張ってきたんだよね。それって、凄い事だと思うよ。』

『そんなに⋯大した事じゃ⋯⋯それに私、1人じゃ何も⋯⋯。』

『1人だとそうかもしれないけど⋯もう、南さんの両手は埋まってるじゃない。』

 

夏喜くんがそう言うと、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが私の手を握ってくれた。顔を合わせて笑ってくれた。

私だからこそ一緒に居たいって。私が友達で良かったって。そう、言ってくれた。

私ってこんなに涙脆かったんだって思うぐらい、また泣きそうになっちゃった。

 

皆で笑って、お話をして⋯2人のように名前で呼んで欲しいってお願いして。

それで確か、帰り際に2人が言ったんだ。

 

『ナッツん!ことりちゃんは普通の女の子になりたかったんだよ!』

『普通の女の子⋯?』

『ほ、穂乃果ちゃんっ⋯!』

『自信が無いみたいなので、はっきり言ってあげてください。』

『海未ちゃぁん⋯!』

『う〜ん⋯ことりは、普通とはちょっと違うかも。』

 

 

多分、その時なんだ。

 

 

『すっごく、キラキラしてる⋯可愛らしい女の子だと思うよ。』

 

 

夕日に照らされた、その恥ずかしそうな顔に惹かれてしまったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁっ⋯⋯⋯あれ?」

「やぁ、おはよう。」

 

私は、彼の隣で目を覚ました。どうやら、お昼のポカポカ陽気に当てられてまた眠ってしまったみたいです。時刻はもうおやつの時間です。ことりのおやつにしちゃうぞ〜♪

 

しちゃうぞ〜⋯⋯おやつの⋯時間⋯⋯?

 

「ふぇ〜ん!ごめん夏喜く〜んっ!!」

「いえいえ。可愛らしい寝顔を見させてもらったので。」

 

むぅ⋯こういう所はちゃっかりしています⋯。

でも本当だったら今日はお出掛けするはずだったのに、私のせいで何も出来なかったんだ⋯。

 

「夏喜くん⋯怒ってないの?」

「ん⋯どうして?」

「だって、今日はお出掛けするつもりだったのに⋯ことりが何回も寝ちゃったから⋯。」

「気にしてないよ。ことりとのんびり過ごすのも好きだしさ。」

 

まただ。

夏喜くんはいつだってこう言ってくれる。私を否定する様な事は絶対に言わなくて、最後には笑って『良いよ』って言ってくれる。私は、彼の事をどれだけ分かっているんだろう。彼は、私の事をどれだけ分かっているんだろう⋯。

 

「それに───怖い夢を見たなら、1人は嫌だもんね。」

「えっ⋯な、何で⋯⋯。」

「朝ずっと魘されていたから⋯こんなに天気だって良いんだ。今日ぐらいは家でのんびりしてても良いんじゃない?」

「夏喜くん⋯。」

「ねぇ、ことり。僕はどこにも行かないし、ことりを置いて行ったりしない。僕は⋯ここに居るよ。」

 

そっと抱きしめてくれる彼の体温が心地良い。じんわり身体に拡がっていくその熱は、外から差し込むぽかぽか陽気に似ていて、眠くなりそうで───それ以上に、泣いちゃいそうだった。

 

起きる前に目元をなぞられたのは涙をふいてくれたから。

頭を撫でてくれたのは、ここに居るって教えてくれたから。

 

「夏喜くん⋯。」

「何?」

「好き。」

「⋯うん。」

「好き。大好き。」

「あはは、今日のことりは甘えただね。」

 

だって言い足りないもん。彼に言わないと私の中で好きって気持ちが破裂しそう。

破裂しそうで、ボンッてなりそうで⋯フワフワしちゃうかも。

自分の事もひょっとしたら止められないかもしれない。

 

でもこれは夏喜くんにそう言って貰えたから。

 

だから───夏喜君のせい、なんだよ⋯?

 

「あのね、夏喜君⋯私⋯その⋯。」

「ん?」

「私⋯良いよ?夏喜君になら⋯。」

「⋯⋯あー⋯えっと、その⋯あはは⋯。」

 

目を丸くした彼は珍しく歯切れの悪い反応をしてそっぽを向いた。

伝わった⋯のかな?伝わってない⋯のかな?もし伝わってたら⋯答えてくれたら⋯⋯嬉しいな⋯なんて。

 

「ごめん⋯今は⋯。」

「⋯良いの。ごめんね、変な事言って───」

 

 

突然、言葉が出なくなった。

暖かい体温と唇に触れる感触が、私の動きをピタリと止めたんだ。

 

夏喜くんは⋯初めて、キスをしてくれた。

 

カチ、カチ⋯って、時計の秒針が動いているのが聞こえる。何より、心臓の音がうるさいくらいに、頭に響いていた。

 

 

「今は⋯これで⋯⋯許してくれるかな?」

「ぁ、う⋯な、夏喜くん⋯⋯?」

「その⋯意気地無し、だからさ⋯⋯あはは⋯。」

 

頬を指でかきながら耳を真っ赤にした彼は、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

急に、私の顔が熱を帯びる。

だって、私、もしかして⋯とんでもなく恥ずかしい事を言ったんだと思うから⋯。

 

心のどこかで、期待半分と一緒に思ってたんだ。夏喜くんの事だから多分気づかないかもって。気づいても、いつもみたいに笑って受け流してくれるかもって。

 

それなのに⋯それなのにぃ⋯⋯!///

 

『あのっ!⋯あ。』

 

うぅううぅ〜〜〜〜〜!!!///

 

「ちょっ、ことり!?」

「何でもないっ!!///」

「いや布団に飛び込んで何でもない事は⋯。」

「なんでもないのぉ〜!!///」

「⋯⋯あっははは!はいはい、何でもないねぇ⋯。」

 

昔からこうです。ことりは、夏喜くんに撫でられるのが好きで、彼はこうして笑ってくれて⋯いつだって支えてくれました。

怖い夢を見て、私は焦っていたのかもしれません。

 

でも⋯もう大丈夫。

夢の中の男の子は、きっと手を伸ばしてくれるから。

 

普通の女の子って⋯ううん。

普通とは違う、可愛い女の子だって言ってくれた───あの日のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばことりのトサカってどうなってるの?」

「トサカっ!?」

 

 

 

 

─E√ End.─




皆さんこんにチカ。
甥っ子とイチャイチャしてきた、なちょすです。
産まれたばかりでも、私と同じ事して笑ってくれるんですよ。抱っこされながら。変顔して。笑ってるんです。

はぁ⋯天使かよ⋯⋯。

次回からはAqours1年生!誰が先発かは未定ですが、うゆちゃんとずらちゃんのどちらかです。全てはあみだくじ⋯。
ついでに色んな妄想が溜まってきた為投稿を加速させます。

では⋯次回も、のんびり見て頂ければなぁ、と!

P.S. 無印劇場版見直しました。星を数えたら涙腺がランナウェイしたので、Future styleはひとつの光なんだと気付かされました⋯ことほのうみ⋯尊み秀吉⋯。

※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。

最終話の1個前、何を期待しますか?

  • μ's妹勢+サブキャラとの絡み
  • ヒロにこの馴れ初め+Aqours
  • 理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
  • 作者が1から考えるヤンデレもどき
  • 最終話に繋がる何か

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