ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

47 / 56
やぁ皆、こんにチカ!渡辺 月だよ♡
今回はOVA最終話⋯の筈なんだけど、3日めの内容がほぼ無いよう!ってね♪作者さんの無計画さが滲み出てるよね〜。
さて⋯いよいよ旅行の終着点。はしゃいで、笑って、ハ目一杯楽しんで⋯そこで僕達は───ううん、Aqoursは出会うんだ。『1人のスクールアイドル』に。

ほんの少しの間だけ一緒だった僕とは違う。

Aqoursの始まりを⋯⋯『彼女』が『助けて』と言っていたあの日から、彼女達を見ていた皆。

どうか最後に見てあげて欲しいんだ。皆が駆け抜けてきた道を。
追いかけてきた輝きの向こう側を。
受け継がれる新しい物語を。

例えこれが、本物から外れた偽りの物語だったとしても⋯ね。

長くなってごめんね?それじゃあ始めよっか!
いつも通りハラハラドキドキ、たまにちょっぴり大人なOVA最終話をどうぞ〜!♪


OVA:そうだ、島へ行こう(3/3)

胸が苦しい。

 

何やら抑えられてるような⋯締め付けられているような感覚だ。熱も持っているし⋯まさか体調でも崩したとか?

そんなの洒落にならないよ⋯あぁ、まずい。身体も重いしやたらと女の子みたいな匂いが⋯⋯ん?

 

「⋯⋯⋯え。」

「⋯⋯⋯。」

 

海未が居た。いや、確かにちょっとだけお邪魔したのは僕の方だけれども、あれは手を離してもらえなかった不可抗力的な部分があったわけで⋯だから彼女がこっちの布団に入ってきて僕の服を掴みながら密着して眠っているのは全く身に覚えが無い。

 

今は5時半⋯おかしい。正しい生活リズムの教本みたいな存在の海未なら30分前には起きている筈だ。

⋯まぁ、彼女も忙しい身だし、今回もスタートから色々あったから疲れたのかもしれないな。寝顔は見えないけれど、たまにはゆっくりしてもらおう。

 

そう思って目の前にある頭を撫でようとした時、気づいてしまった。

 

「⋯⋯何で僕の両手は海未の腰にあるんだろう。」

 

つまり彼女が密着していたわけでは無く、僕が彼女を抱き枕として離さなかったらしい。ならば自ずと答えは出るだろう。さっきまでの僕の考えが全て外れている事が。

 

恥ずかしい事に耐性の無い海未が、されるがままの筈は無いんだ。

 

「海未⋯お、おはよ⋯⋯。」

「⋯⋯⋯。」

「なんかその⋯ごめんな?」

「⋯にを⋯⋯」

「えっ。」

「何を今更言ってるんですかっ!!///」

「がふっ!!」

 

顎下への掌底!卍丸もビックリ!

 

「このままっ!!///30分もこのままでっ!!///どれほどこちらが動けなかったと思ってるんですかぁああああっ!!!///」

「待っ、待った!ギブギブっ!!」

「あんな急に⋯破廉恥ですぅっ!!///」

「分かった、ごめんって海未!首!首締まってるから⋯!!」

 

胸ぐらを掴まれたままでは厳しい⋯!『おはよう。死んで♡』なんて展開、御免だよ!そんな猟奇的ストーリーのシナリオじゃないんだぞ僕の人生は!!

 

「こんな辱めを受けて、どうやって生きていけば良いのですかぁ!お〜いおいおいっ⋯!!」

「そこまでっ!?」

「⋯⋯何してらった朝間っぱがら。」

「うるっさいんだけど⋯?」

「ヒロ⋯と、にこちゃん。」

 

部屋の扉を開けて確認しに来たのは、釣り用の格好に身を包んだヒロとパジャマ&美容パックのにこちゃんだ。

 

「あ〜⋯海未、どうやって生きていけば良いかなんて簡単な事じゃない。」

「え⋯?」

「夏喜君に責任取って貰えば良いにこ♪」

「あぁそいつぁ名案だ。」

『アッハッハッハ!!』

 

背筋がぞわりとした。

2人の言った事に対してでは無く、目の前で枕をがっしり掴んだ鬼神に対してだ。寝ている所を起こしたわけでも無いから、何が起きたのかは分からない。頭に来たのか、照れ隠しなのか⋯。

だが一つだけ分かるのは、あの2人は確実にここで仕留められるという事だろう。海未が放つ『恋愛天使的枕射出(ラブアローシュート)』によって⋯!

 

「ふっ⋯!!」

「んがっ!?」

「にごぉっ!?」

「南無三⋯迷える魂よ、どうか安らかに⋯。」

「貴方もですっ!!」

「ひっ!?」

 

こちらに標的を変えた海未は、身体を起こした僕の太腿に跨り顔を近づけてきた。

 

「いくら寝惚けてたとはいえ、穂乃果やことりじゃあるまいし急に抱きついてくるなど⋯破廉恥が過ぎますっ!///」

「だ、だからごめんって⋯。」

「何なんですか貴方はっ!///破廉恥の国の王様ですか!?///破廉恥大明神ですかっ!?///」

「何その役職!?」

 

普段ブレーキ役の彼女を止めるのは一苦労だ。いや僕のせいだけども⋯僕のせいだけども!!

さっきからパワーワードの連発でツッコミが追いつかない!

 

と思っていたら、途端に溜息をつきながらポスンと胸に頭を預けてきた。

 

「あの⋯海未?」

「⋯⋯どうなんですか。」

「えっと⋯何、が?」

「せっ、責任⋯取ってくれるのですか⋯?」

 

小さな声で、彼女はそう言った。

 

「責任⋯何をすればいいんだい?」

「自分で考えて下さい!!///」

「えっと⋯じゃあ───。」

 

次の言葉を発しようとした瞬間、入口の方から何かが落下した音が聞こえた。枕のような、そこそこ重量のある物だろう。海未と2人、ゆっくりと扉の方へと顔を向けると、そこには髪を下ろした翡翠の瞳を持つ赤毛の少女が、顔を真っ赤にしながらアタフタとしていた。

 

「⋯おはよ、ルビィちゃん。」

「ぁ、う⋯///夏喜さん、朝から何して⋯///」

「ごほん。良いですかルビィさん、君は今ある種の誤解をしているだけ───。」

「もう海未さんとあんな事やそんな事やこんな事をして、一夜のお楽しみの上で結婚を前提に責任の話をしてるんですかッ!?///」

「飛躍し過ぎだから!何もしてないからっ!!」

「お、お姉ちゃーーーーーーんっ!!!///」

「誤解なんだルビィさぁああああああんっ!!」

 

⋯行ってしまった。これは大変だ⋯由々しき事態だ。あの子達の部屋に行くのが恐ろしい。

 

「⋯⋯⋯夏喜になら⋯。」

「ん⋯?何か言ったかい?」

「何でもありません。さ、行きましょう?」

「それなら良いけど⋯よいっしょ───」

「んっ⋯⋯っ!///」

 

脚を動かした途端、海未が小さく声を上げた。すぐさま右手で口を隠すが、その耳は紅潮し、据わった目で僕の方を睨みつけている。

 

これは分かるよ。間違いなく怒ってる。

彼女が跨ってるのは僕の足だ。そして僕はそれを動かしてしまった。つまり⋯ね?

 

「⋯⋯なたは⋯っ///」

「う、海未、待って!?今のは本当に悪かっ───!」

 

 

「貴方は最低ですっ!!///」

 

 

かつて暴れ饅頭に炸裂した『最低ビンタ』は、僕の頬を貫いた。

 

僕は布団へ沈んだ。

海未は走って行った。

ヒロは踏まれた。

 

こうして、波乱の2日目は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっし!かっ飛ばしていくぞー!!」

『いぇーい!!♪』

 

爆走するジェットスキー。4人乗りのバナナボート。乗っているのは、前からまるちゃん、千歌ちゃん、ルビィちゃんに果南ちゃんだ。そして操縦士はヒロ。

釣りの為に取った船舶免許があるという事で、ここぞとばかりにボートを乗り回している。

 

残りのメンバーは砂浜でビーチフラッグをしているが、僕はと言えばビーチパラソルの下で正座中。

はい、朝の件でございます。

 

一応誤解は解けたものの破廉恥大明神という名前だけは定着してしまい、頬に出来た季節外れの紅葉も戒めの如くヒリヒリと痛みを続かせている。

 

「そろそろ許してやんなさいって。」

「このぐらいしないと夏喜は分かりませんっ!!///」

「海未ぃ⋯。」

「こりゃダメね。何か飲み物でも取ってきてあげなさいよ。」

「そうする⋯。」

「にこにーの分もお願いにこ♡」

「ははっ。」

「ぬわぁんで笑ってんのよ!!」

 

結局、のそりのそりと重い足取りでロッジへと戻った僕はキャスター付きのクーラーボックスに人数分の飲み物を入れて戻る事にした。

 

「⋯重い。」

 

14本のペットボトルともなれば流石に重量も増えるだなんて分かりきっていたが、僕には他に選択肢など無い。

ズルズルと引き摺って皆の元へ戻ろうとした時だった。

 

『え?あれ??』

 

皆が寝ていた大広間から、少女の声が聴こえた。

 

「ん?誰か居るのかい?」

 

そして扉を開いた時、目の前に居たのは水着を着た1人の少女だった。

 

「きゃあっ!!」

「わっ!ご、ごめんっ!!」

「いえ、お構いなく!じゃなくて待って下さい!!」

「すー⋯はー⋯。ごめん、ちょっと取り乱しちゃったね。」

「わ、私の方こそごめんなさい⋯。」

 

淡い桃色の髪をハーフアップにして、右側をシニヨンで纏めた少女は律儀に正座で謝罪の言葉を述べた。

何処かで見た事があるような⋯気の所為かな?

 

まぁ疑問はそこでは無い。何故この名前も知らない女の子がこのロッジに、しかも水着で居るのかと言うことだろう。この辺の子だろうか?だとしたら何処かで迷子になったとかも考えられるし⋯どうしたものか。

 

「あの〜⋯1つお聴きしたいのですが⋯。」

「うん、どうぞ?」

「どうして私はここに居るんでしょうか?」

「え⋯。」

 

まさかの質問だ。それはこっちが聞きたいんだけど⋯。

 

「ごめん、どうしてかは分からないかな⋯。」

「あはは、ですよね⋯ごめんなさい⋯。」

『夏喜くーん?』

「ん、呼ばれてるみたいだ。えっと⋯君はどうする?取り敢えず外には君と歳の近い子達が居るけれど⋯。」

「あの!ここは1つ私が迷子になった残念な子ということで合わせてくれませんかっ!?」

「分かった。お互い事情も知らないし、君もどうやら本当に困ってるみたいだから、今はそれで行こう。」

「ありがとうございますっ!私は───」

「夏喜君、皆が外で⋯あれ?その子はどうしたの?」

「嘘⋯⋯。」

 

上にパーカーを羽織った梨子ちゃんが部屋に来た時、目の前の少女の顔色が変わった。

 

「梨子⋯さん?」

『えっ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯どういう事ですの?」

「う〜ん、謎だね⋯。」

 

迷子(仮)の少女と僕は、砂浜に戻り皆の前へと来ていた。本当であれば当初の予定通りに、この子はここに来た迷子の女の子という事で話を進めるつもりだったのだが、彼女はAqoursメンバーの名前を知っていた。それだけでなく、海未やにこちゃんの事も。

勿論スクールアイドルが好きな女の子だと言うだけならば考えられなくはないだろう。だがこの子は僕とヒロの事を知らないと言う。

 

自分で言うのも気が引けるけど、μ'sやAqoursとは何度かライブを一緒にやって来ている。勿論数曲だけのゲストとしてね。

だから彼女は、本当にスクールアイドルの事しか知らないのだ。

 

「貴方はどうしてここに来たのかな?」

「あの⋯それは⋯。」

 

千歌ちゃんの疑問に彼女は答えられない。自分でも分かってないのだから当然だろう。

なら⋯ここは博打に出るしか無いな。

 

「皆、ごめん。」

「え?どうしたのナツ君?」

「実はこの子⋯東京で出来た僕の後輩なんだ。」

『え?』

「その⋯皆の事を知ってるのは僕が彼女に話したからなんだよ。この子は皆のファンで、そんな皆は僕の幼馴染みだってね。」

「ふーん⋯。」

 

うっ⋯にこちゃんの目が痛い⋯。

しかし僕の狙いはその隣に居る人物だ。頼む海未、どうか⋯!

 

「⋯私は見た事ありません。」

「っ。」

 

駄目か⋯。

 

「ですが⋯夏喜から聞いていた通り(・・・・・・・・・・・)、とても可愛らしい子ですね。」

「海未⋯。」

「今は合わせます。後で教えて貰いますからね?」

「あぁ、助かる。」

「そっ!そうなんですっ!!私、夏喜先輩の後輩なんですっ!」

「な〜んだ!それならそうと言ってくれれば良いのに〜♪」

「待って。」

 

一息つく間も無く、静止をかけたのは鞠莉ちゃんだった。

 

「それならここに来るまでの機内やスタンプラリーで見かけた筈よ?それにロッジにも1泊したし⋯皆はこの子の事1回でも見た?」

「それは⋯。」

「⋯⋯見てないずら。」

「俺がマッキーに頼んで呼んどいたんだよ。」

「ヒロさんが⋯ですか?」

「おぅ。夏喜ちゃんの後輩だから俺だって知ってるさ。それに、こんな機会滅多にないから今日の朝にでもジェット機で飛ばしてくれってな。なんてったって、この子は『スクールアイドル』だかんな♪」

『そうなのっ!?』

 

ヒロが2度目の博打に打ってでた。これが決まればこの場は切り抜けられる。さぁ、どうなる⋯?

 

「は、はい⋯私、虹ヶ咲学園でスクールアイドルをやっています。」

「奇跡だよぉっ!!♪」

「きゃっ!?」

「こら千歌ちゃん。そんなに突然だと怖がっちゃうでしょ?」

「だってスクールアイドルだよ!?それに私達の事を知ってる子!これを奇跡と呼ばずに何を奇跡と呼ぶのさ梨子ちゃん!」

「まぁまぁ⋯えっと、名前を聞いてもいいかな?」

「私は───上原 歩夢です。」

 

ほんの一瞬。

悲しげな表情で、彼女はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあいくわよー。ごほん。にっこにっこにー!!♡」

『にっこにっこにー!♡』

「ぶっははははは!!」

「笑ってんじゃないわよ田舎モンがぁっ!!」

「いっでぇ!?アルミの水筒なんざ投げるもんじゃねぇだろっ!!」

 

急遽始まった、新旧スクールアイドルによる臨時交流会。歩夢ちゃんを混じえたAqoursの面々は、伝説のスクールアイドルグループから直々の指導を受けていた。

と言っても代わる代わるなので、海未と僕、そして水筒を投げつけられたヒロは今ビーチパラソルの下で待機している。

この2人には合わせてもらった恩もある為事情説明となったわけだ。因みに、にこちゃんには後でヒロに伝える条件付きで。

 

「さて⋯説明して貰えますか?」

「あぁ、分かってる⋯とは言ったものの、僕も実はよく分かっていないんだ。」

「何だそりゃ?」

「飲み物を取りに行ったら、あの子がもうロッジに居たんだ。」

「よくそれであそこまで庇おうとしたな⋯。」

「まぁ、な。僕が部屋に入る前にあの子の声がしたんだ。ただ⋯あの子自身、何が起きたのか分かっていない感じだったからね。」

「という事は、あの歩夢という子は自分の意思でここに居るわけでは無いと言うことですか?」

「多分ね。」

 

あくまでも仮説でしかないし、非現実的な事だけれど⋯実際問題誰かに誘拐でもされない限りこんな所には1人で来たりしないだろう。

心配にもなるさ。

 

「まぁ分がんねったばしょうがねぇさ。取り敢えずこのまま夏喜ちゃんの後輩って事で進めるから、あんまり目を離すなよ。」

「あぁ、分かってる。」

「夏喜せんぱーいっ!!」

「ふふっ、呼ばれてますよ?先輩♪」

「うっ⋯茶化さないでくれよ海未。じゃあまた後で。」

 

そうして、僕は2人の元を後にした。

歩夢ちゃんも手を振りながらこちらへ走ってくるが⋯狙ったかのように彼女の足元に1匹のカニさんが歩いていた。

 

「歩夢ちゃん、カニっ!カニっ!!」

「えっ?わっ、わぁっ!?」

 

避けた彼女はバランスを崩し、そのまま飛び込むかのように僕の元へと飛んで来たのである。

ミカン砲や元祖カナン砲に比べればなんて事は無いが、彼女が怪我でもしたら大変である。何とか上手いこと受け止めて───

 

「大丈夫かい?」

「あ、ありがとうございま⋯ひゃっ!///」

「ん?⋯あ。」

 

どうやら今日はこういう日らしい。僕の左手は、彼女の胸部へと当たっていた。

 

「ご、ごめん!」

「いや、あの、私がドジ踏んだので⋯あはは⋯///」

「ナーツキ♡」

「鞠莉ちゃん⋯?」

「ギルティッ!!」

「ぬぁっ!?」

 

脳天に繰り出された彼女のチョップは、僕を砂浜へ沈めるには十分過ぎる程であった。

 

「あ、あの⋯夏喜先輩、大丈夫なんですか⋯?」

「No problem!いつもこんなだし、今のはナツキが悪いからね♪

「はぁ⋯。」

「そんな事より、折角だからマリー達ともっとenjoyしましょ?♡」

「ふぁああ〜⋯///は、はいっ!!///」

「マリーがあの爆弾で懐柔したわ⋯。」

「鞠莉さんの胸は凶器ずら⋯。」

「⋯ルビィもいつかは⋯。」

「所でそろそろ交代の時間だけど⋯?」

「ホントだ。ありがとう月ちゃん!おーい、海未⋯さん⋯。」

 

砂浜で身体を起こし、彼女達の方を向いた途端、そこには『修羅』が立っていた。

怒った仏より笑う鬼。本気モードに入った彼女は、絵里ちゃんや希ちゃん、ことりにしか止められない。

 

⋯⋯さっ。逃げよ。

 

「さて、貴方達⋯準備運動は出来ていますね?♪」

「う、海未さん⋯?メニューって⋯。」

「勿論スクールアイドル向けですよ?やりながら『口頭』で伝えますから。では取り敢えずランニング10km、行ってみましょうか♡」

『ひぃっ!?』

 

こうして、2時間にも及ぶ海未教官のスパルタ実習は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちかれた〜⋯ナツ君何とかしてぇ〜⋯⋯。」

「はいはい。お疲れ様、千歌ちゃん。」

「私も〜⋯。」

「お疲れ曜ちゃん。あと背中に捕まってると月ちゃんに撮られるよ?」

「いーのー⋯。」

「やった♪じゃあ夏喜さんそのままで⋯はい、チーズ♡」

「連写しろとは言ってないっ!!///」

 

すっかり夜になったロッジの大広間。皆一様に倒れていたり目を擦っていたり、疲れが見えているのは明らかである。ましてやさっきの食事でお酒も飲んだんだ。当然といえば当然だろう。

かく言う僕も、何もしてないとはいえ少し眠い⋯。だが行かなければならないところもある。

 

「んぁ⋯ナツ君どこ行くのー⋯?」

「ちょっとね。後輩が伸びてないか心配でさ。すぐ戻ってくるよ。」

「ふぁーい⋯。」

 

大広間を後にして、別の部屋に居た歩夢ちゃんの元へと向かえば、部屋の中にいたのは窓から星を眺める彼女だった。

 

「⋯歩夢ちゃん?」

「夏喜先輩⋯。」

「あははっ、普通に呼んでくれて構わないよ?ここには皆も居ないしね。」

「⋯今日は、ありがとうございました。私の為に色々と合わせてくれて⋯。」

「いや、それは大丈夫だよ。それより⋯1つ聞きたいんだ。」

 

キョトンとした彼女に1番聞きたかったことを尋ねることにした。

 

「君が名前を言った時。悲しい表情をしたのはどうしてだい?」

「っ⋯。」

「その⋯僕の勘違いだったり言いたくない事だったら別にいいんだけどさ⋯。ちょっと気になっちゃって。」

 

あの時のように悲しげな表情をした彼女は、何処からか1枚の写真を取り出し、僕の前に出してきた。

そこに写っていたのは、笑顔で写るμ's、Aqours、そして歩夢ちゃんが言っていた虹ヶ咲学園の子達と思われるスクールアイドル達の集合写真であった。

 

「これは⋯。」

「あの人達は、私達にとっての輝きなんです。」

 

ポツリと、彼女は言葉を漏らした。

 

「μ'sとAqours⋯2つのグループは、凄いグループだったんです。沢山の人を魅了し続けて、楽しそうで⋯私は、そんな2組に支えられました。穂乃果さんと千歌さんに手を差し伸べて貰ったんです。」

「あの2人が⋯?」

「でも私はまだ分からなくて⋯どうしたらμ'sやAqoursの様になれるのか。輝けるのか。沢山の人を元気にしてあげられるのか。」

「⋯⋯⋯。」

「信じてもらえないかもしれません。けどここに居たのは、私の事を知らない⋯私の知らない千歌さんやAqoursの皆さんで⋯そう考えたら、ちょっと複雑な気持ちで⋯その⋯。」

 

そう口にする彼女の目からは、涙が次々と零れ落ちていった。

 

「こんなつもりじゃ無かったんですけど⋯ごめんなさい⋯。」

「歩夢、ちゃん⋯。」

 

どんな言葉を掛けたら良いか分からなかった。

非現実的な事かもしれないが、彼女は僕達の知らないスクールアイドルだ。それも、μ'sとAqoursが共にスクールアイドルをやっている世界。

僕とヒロの事を知らないのも頷ける話だ。

 

ただ涙を流す彼女に、僕は言葉を掛けることが出来なかった。

 

その時───内浦へ帰ってきた日と同じ、爽やかな柑橘系の香りが横を通り過ぎていった。

 

 

 

「大丈夫だよ。」

「えっ⋯。」

 

 

 

その子は、μ'sに憧れた子。

人一倍我慢強く、誰よりも輝きを求めた『普通の女の子』。

そんな彼女は、歩夢ちゃんを抱き締めていた。

 

「千歌ちゃん⋯。」

「えへへ⋯。思わず出てきちゃった⋯。」

「あの⋯私⋯。」

「ごめんね、歩夢ちゃん。私は貴方の知ってる私じゃない。」

「⋯はい。」

「でも嬉しいんだ。そう感じてくれるほど、私達の事を思ってくれてるのが。私も⋯沢山悩んだんだ。μ'sの様になりたかった。沢山の人を勇気づけてきたμ'sに。」

 

口を開く千歌ちゃんの手は微かに震え、どこか懐かしむかのように優しい声色で言葉を続けていく。

 

「でも分かったんだ。私達は、私達でいいんだって。Aqoursには皆が居て、このメンバーでしか辿り着けないものもあるんだって。」

「千歌さん⋯。」

「だから!」

 

千歌ちゃんは、指で歩夢ちゃんの涙を拭い、晴れやかな笑顔で告げる。

 

「私達になろうとしなくていいんだよ。歩夢ちゃんには歩夢ちゃんの⋯歩夢ちゃん達の輝きがあるから!絶対消えたりしない、とっても綺麗な輝きが!!自分の選んだ道を信じてあげて?」

「私は⋯⋯。」

「それに、こ〜んなに可愛らしい子が人気にならないわけ無いって!♪」

「はははっ、最後のは私情じゃない?」

「いーのっ!!」

「ふっ⋯ふふっ⋯そう、ですよね。」

 

顔を上げた歩夢ちゃんの目に、もう涙は無かった。

 

「私は私で良いんですよねっ!何だか急に自信が湧いてきました!!」

「その意気だよ!じゃあ一緒に枕投げでもしようっ!!♪」

「千歌ちゃん、もう夜も遅いしあんまりはしゃぐのは⋯。」

「何言ってるのナツ君!これからが始まりだよ!?なんならもう皆やってるんだよっ!?」

「道理で向こうが騒がしい筈⋯⋯今何時?」

「へ?22時だけど⋯。」

 

まずい。

 

まずいまずいまずい!!今日は皆一緒に大広間で眠ると言った筈だ。そんな状況下で枕投げなんてしようものなら、『彼女』が目を覚ましてしまう!

 

「すぐに戻るよ!千歌ちゃん、歩夢ちゃん!!」

「うわぁっ!?ちょ、ナツ君!?」

「あの、どうしたんですか!?」

 

2人の手を引いて部屋に戻ってきた僕らの前に広がっていたのは、地獄絵図だった。

布団の上には果南ちゃん以外が倒れてしまっているし、そんな果南ちゃんも肩で息をしている状態だ。

 

「んふ⋯ふふふ⋯⋯ふふふふふふふ⋯。」

「海未、さん⋯?」

「ナツ!今来ちゃ───!」

 

こちらを見た果南ちゃんの顔に、音速で空を切る枕が直撃し、彼女はそのまま布団へと倒れ込んだ。

 

「な、何?何今のっ!?」

「ひぃ⋯!見えなかったです⋯!」

「2人とも、枕を持つんだ。彼女を止めるにはここで倒すしかない⋯!」

 

μ'sと過ごしたあの日の夏合宿⋯戦慄の枕投げと言われた夜がここに復活してしまった。だがあの日と違って余計にタチが悪いのは、彼女がお酒を飲んでしまったことだろう。

海未はアルコールが入ると性格が180度変わる。実は過去に何度か相手をした事があったのだが、そのどれもが3人がかりで止めたものだ。ここには確かに僕を含めて3人居るものの、枕投げが入るとなれば⋯絶望的である。

 

「取り敢えず二手に分かれて⋯え?」

『⋯⋯⋯。』

 

時既に遅し。

2人は布団へと倒れていた。つまり───詰みですね♪

 

「ふふふ⋯夏喜⋯覚悟は出来ていますね⋯⋯?」

「いや、あの⋯うぐっ!?」

 

胸の辺りに飛んできた枕を止めきれず、正面からモロに受けてしまった。尻餅をついた僕の元へゆっくりと歩いてきた海未は、今朝と同じように、僕の下腹部へと跨りながら布団へと押し倒してくる。

一体どれだけ飲んだらその顔になるのか。今後は少し量を控えてもらわなくては⋯。

 

「そういえば⋯朝の答えを聞いてませんでしたね。」

「な、何の話⋯かなん?」

「とぼけないで下さい⋯朝からあんな辱めを受けさせておいて⋯。」

「いや、あの時はホントにごめんって⋯ちょっ、待った海未!なんで脱ごうとしてるのさ!?」

「何でって⋯続きをやるんじゃないですか?」

「しないから!とにかく水飲みなって!」

 

こっちの言葉など聞く耳持たずな彼女は、そのまま寝巻きのボタンを外そうとしている。なんなら少し彼女の鎖骨と下着が見えている程に。

幸いにも手元には枕があるが、如何せん隙の1つもありゃしない。

 

どうすればいい!?この状況──!

 

「⋯⋯ふふっ。」

「え⋯?」

「驚きましたか?」

「う、海未⋯?」

「はい、海未です。」

 

満足気に微笑んだ彼女は、何事も無かったかの様に僕の体から降り、再びボタンを締め直した。

 

「えっと⋯どういう、こと?」

「私、今日はお酒を飲んでないですよ。」

「だ、だって素面の海未があんな事⋯!」

「するわけないと思っているのなら、それは夏喜の思い込みです。だって───」

 

仄かに顔を赤らめながら、彼女はどこか気恥しそうに口を開いた。

 

 

 

「好きな人の前でくらい、素直でいたいじゃないですか。」

 

 

 

その表情は、今まで1度も見た事が無かった。

 

「鈍感な貴方にはこれぐらいの方が良いかと思いまして。」

「⋯その⋯⋯好きって言うのは⋯。」

「1人の異性として。それ以外に、ここまでする理由がありますか?」

 

彼女の目は嘘をついていない。

いや⋯そもそも嘘などつく筈が無い。

 

頭の中をグルグルと掻き乱された僕に、彼女は言葉を続ける。

 

「夏喜。貴方はきっと本当に気づいてなかったかもしれませんから、1つ言わせて頂きます。」

「⋯あぁ。」

「⋯穂乃果もことりも、真姫も私も⋯Aqoursのメンバーも⋯同じ気持ちを持っています。」

「っ⋯。」

「夏喜が夏喜のままで居てくれる。私達を信じてくれる。だから私達はここまでやってこれました。⋯その事を、伝えたかったんです。」

「⋯⋯ははっ。頭が追いつかない⋯。」

「当然です。私達が頭を悩ませてきた事に貴方が即決するなんて認めません!」

 

ツンとした表情でそっぽを向いた彼女に、自然と笑みがこぼれた。彼女は⋯彼女達は、ずっと自分に好意を持ってくれていたんだ。

 

「では、私はそろそろ寝ますね。」

「あぁ、おやすみ。ありがとう⋯海未。」

 

立ち上がり、布団へ戻ろうとした海未は『それと⋯』と言って立ち止まる。

 

「夏喜がどんな決断をしても、誰も貴方を恨んだりしません。優しくて、鈍感で、不器用な貴方なりの言葉を待っています。」

「あっはは⋯覚えておくよ。」

「ですが⋯あまり遅いと、この子達が皆で貴方を食べちゃうかもしれませんね♪」

「えっ!?」

「では、お休みなさい。」

 

最後に爆弾発言だけ残していった海未は、そのまま自分の布団で眠りについた。

静まり返った部屋の中で、僕の溜息だけが漂った。

 

そばで眠る千歌ちゃんは、スヤスヤと子供の様な寝顔で夢の世界へと旅立っている。それは勿論皆もだ。

そっと手櫛で髪をとかせば、お風呂上がりのシャンプーの香りと橙色の髪の毛が指の間をサラサラと抜けていく。

 

「⋯⋯⋯気付けなくて、ごめんね。」

 

そっと、彼女の頬に口付けをした。

 

時刻は22:30。僕もそろそろ寝よう。

この答えが明日にでも見つかるわけじゃない。けど、進もうとする事は出来る。

変わろうとする事は出来るんだ。

 

僕なりの答え⋯それを見つける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は眠りについた。

 

暗闇の中で、少女の声がした。

 

聞いた事のある声。

 

 

『いつかまた⋯会えたら良いですね。』

 

 

光り輝く照る照る坊主が、真っ暗な世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きた時、歩夢ちゃんの姿は無かった。

誰よりも先に起きていた千歌ちゃんは、『先に帰った』と微笑んでいた。

どこに帰ったのかは分からない⋯でも、あの子なら大丈夫だろう。

 

自分に出来る事を見つけた彼女なら。

 

 

「あっという間だったねぇ⋯。」

「そうですわね。」

「でも、中々シャイニーな旅行だったんじゃない?♪」

「まぁね。」

 

飛行場までやってきた僕達は、帰る為に鞠莉ちゃんの家が用意してくれた小型ジェット機が到着するのを待っていた。滑走路で待つ、だなんて普通経験できるものじゃないけれど、鞠莉ちゃんが企画した最後のサプライズということで僕らもあやかっている。

 

海未と話をしたり、はしゃぐ皆。

2人で荷物を運んでいるヒロとにこちゃん。

 

僕は、Aqoursの元へと向かった。

 

「ナツ君見て見て!ルビィちゃんがアルバム作ったんだよ!」

「よく出来てるね。カメラ持ってきてたのかい?」

「はい。あんまり上手く無いですけど、皆との思い出を形にしたかったので⋯。」

「そんな事ないよ。とても綺麗に写ってる。」

「えへへ⋯///」

「⋯⋯皆。ちょっとだけ、良いかな?」

「何よ改まって?」

「皆は⋯その⋯⋯僕の事、どう思ってるのかなって。」

 

『⋯⋯⋯⋯⋯へ?/// 』

 

海未が噴き出し、声を殺して笑っていた。

何故かヒロとにこちゃんもニヤニヤとして、僕の方を見ている。

 

そんなに笑わなくても良いと思うんだけどなぁ⋯。

 

「ど、どうって⋯あの⋯///」

「何と言いますか⋯///」

「あっはは!ごめんね?ただ⋯1歩を踏み出したかった。自分の気持ちを、少しでも知りたかったんだ。」

 

真っ赤になった彼女達の顔。

あたふたとしたり、黙秘権を行使したりと様々だったけれど⋯とても嬉しかった。

 

 

「すー⋯はー⋯。」

 

 

だから、ちょっとで良い。

 

今だけでも良い。

 

 

「よしっ!」

 

 

 

僕自身の言葉で、伝えなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

「皆。僕は⋯僕は────!」

 

 

 

 

どこまでも青く、高い空。

目を丸くした皆。

 

僕らの頭上を、飛行機が飛んでいた。

 

 

 

 

そうだ、島へ行こう ──fin.──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん⋯あ、あれ?ここは⋯そっか。帰ってきた⋯んだ。」

「うぅ〜ん⋯あれ、歩夢ちゃん起きてたの?」

「ふわぁ〜⋯よく寝た〜⋯!」

「おはようございます。私、寝ちゃってたんですね⋯。」

「それはもうぐっすりと!」

「私達が眠くなるくらいね!♪」

「あはは⋯って!もうこんな時間っ!?私達のステージが始まっちゃいますよ!?」

「えっ⋯本当だぁ!!」

「急がなきゃっ!!」

「あの!穂乃果さん!千歌さん!」

『ん?』

「⋯よろしくお願いします!!」

「にひ♪負けないよ、歩夢ちゃん!」

「宣戦布告と受け取ったからね!♪」

「はいっ!!」

 

 

「さぁ行こう!」

「今全力で⋯!」

「輝きますっ!!」

 

 

 

OVA⋯⋯完?

 

 

 

 

 

 




な「皆さん、こんにチカ!作者です!」
ヒ「うっす。ヒロ君でっす。」
な「長かった⋯過去最高に長かった⋯。」
ヒ「だべな。感想は?」
な「これ最終回にしとけば良かった。」
ヒ「元も子もねぇ事喋んなよ⋯。まぁ65話っていう終わりも見えた事だし、これからどうするった?」
な「次回から⋯そう!これから始まるのは個人√でぇっす!!」
ヒ「マジ?今回でハーレム√突っ切ったのに??」
な「それはそれ、これはこれ。だから皆さん、一つお願いがあります!今回はAqoursやμ'sの皆に内緒で話を書くので、間違っても感想欄とかに『○○ちゃん、作者がドッキリさせようとしてるよ!』とか、そんな感じの事を書いちゃダメですよ!」
ヒ「フリだが?」
な「⋯⋯⋯ダメですからね!」
ヒ「はぁ⋯それじゃあ皆々様、もう暫くこの作者と『ちょ田舎』をよろしく頼みます!へばな!」

※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。

最終話の1個前、何を期待しますか?

  • μ's妹勢+サブキャラとの絡み
  • ヒロにこの馴れ初め+Aqours
  • 理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
  • 作者が1から考えるヤンデレもどき
  • 最終話に繋がる何か

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。