ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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皆さん、ご機嫌よう。え?こ、こんにチカ⋯?何ですのその拘り⋯ごほん!改めましてこんにチカ。黒澤ダイヤです。

作者さんの気まぐれにより、今回から私達が前書きを担当することになりましたわ。
簡単なあらすじですが⋯今回は前回の続き。聖良さんの番ですわね。Saint Aqours Snowとして沼津で歌うことになった私達。聖良さんの想い人。姉妹の気持ち。
そして───

1人の少女が『選んでいたかもしれない』、もう一つの未来の話です。


襲来!道産子シスターズ:姉編

「そこに正座なさい?」

 

 

聖母のような微笑みで、彼女⋯黒澤ダイヤはそう言ってくる。

何故僕が正座を要求されているか、簡単に説明しよう。

1年生ズが何故か僕と一緒に寝ていた。それを3年生達に目撃された。

⋯OK?

 

今はクリスマスライブが終わった時期⋯冬だというのにも関わらず、僕の背中や額を汗が伝っていく。それは決して暑いからなどでは無い。

 

「ふぅ⋯一旦落ち着こうダイヤちゃん。取り敢えず僕の説明を聞いていただけないでしょうか。」

「って言いながら正座してるあたり、ナツはナツだねぇ⋯。」

「ふふっ、いつもの事じゃない?」

 

見慣れた3人の間には、今日初めての顔も。髪をサイドテールに結い、苦笑いをしている少女⋯理亜ちゃんの姉、鹿角聖良(かづのせいら)ちゃんである。

 

「あの⋯皆さんはいつもこんなやり取りを?」

「98%はこの人が原因ですわ。」

「厳しいお言葉⋯。」

「当然です。ルビィだけでなく理亜さんにまで手を出すとは⋯覚悟は出来ていますね?」

 

さぁ困った事になった⋯今の彼女の後ろには修羅が見える。こうなってしまってはお説教1時間コース突入だ。少なくとも事情を説明して先手を打たなければ⋯。

 

「あの⋯ダイヤちゃん?」

「何です?」

「いや、実は───。」

 

 

─少年説明中─

 

 

「まぁなんというか⋯いつも通りよね。」

「そっかー⋯理亜ちゃんもやられたかぁ⋯。」

「何の話?」

「鈍感馬鹿には分かりませんわ。」

「鈍感馬鹿⋯グスッ⋯。」

「だそうだけれど⋯どう?聖良お姉ちゃん?」

 

聖良ちゃんは少し考える素振りを見せ、にこやかに笑いながら僕の手を取った。

 

「夏喜さん、でしたよね?」

「はい⋯。」

「ありがとうございます。」

『え??』

 

 

予想外の言葉に、僕だけでなく3年生達も思わず面をくらってしまう。怒られはすれども、感謝を言われる理由があっただろうか⋯?傍から見たら自分の妹が知らない男と寝ていたんだもの。

けど、彼女の口から出たのは確かに感謝の言葉だった。

 

 

「理亜は⋯あの子は人見知りが激しいんです。それに口調が強くなったり強がっちゃうところも多くて⋯。そんなあの子が、ルビィさん達や貴方と、こうして一緒に過ごせている。一緒に寝ている時も、何だか幸せそうで⋯それって、凄く大切な事だと思うんです。だから⋯お礼を言わせてください。」

 

 

聖母かと思いました。

 

妹思いなお姉さん。なるほど、理亜ちゃんがあんなに聖良ちゃんに申し訳ないと思っているのも分かる気がする⋯。

罪悪感が半端じゃない。

 

「いや、こちらこそ⋯何だかすみません⋯。」

「姉がこういうんだもの。ダイヤもプンプンしてちゃダメよね♪」

「⋯はぁ。仕方ありませんわね。ですが、今後は控えるように!!」

「とか言いながら⋯。」

「ダイヤもされたいなら言えばいいのにね〜♡」

「そ、そんなわけないでしょう!?///それに、それを言うならお2人こそ───」

「あの〜⋯もしかして皆さん、夏喜さんがんむっ!?」

「セイラ〜?ちょーーーっとカモーン?」

 

鞠莉ちゃんに口を抑えられた聖良ちゃんが、部屋の隅へと連れられていく。ヒソヒソと何を話してるんだろう⋯。僕がどうとか言ってたけど⋯。

 

あっ。3人とも真っ赤に爆発した。

 

「⋯聖良さん、恐ろしい人ですわ⋯///」

「おかえり。」

「あっはは⋯まさかあんなにハッキリ言われるとは⋯///」

「いえいえ、それ程でも♪安心して下さい、皆さんの気持ちを無下にするような事は絶対にしませんから!」

「そうしてもらえれば助かるわ⋯///」

「何の話かは分からないけど、お茶飲むかい?」

『⋯⋯はぁ。』

 

えっ、何のため息?

今選択肢間違えた??

夏喜またやらかした???

 

「あっはは!皆さん、先は長そうですね♪」

「むー⋯私達だけやられてるみたいで悔しい⋯。」

「そうよ!セイラはなんか無いの!?」

「何か⋯とは?」

「またまたぁ!花の女子高生なんだから、そういうお話が一つや二つあるでしょう?♪き、か、せ、て♡」

 

お茶を用意しながら、居間で繰り広げられている女子トークに耳を傾ける。『そういう話』とは、恐らく好きなタイプとか気になる相手とか⋯そういうのだと思う。

ん?でもなんでこの流れで⋯ぐぬぬ、さっきのひそひそ話が気になる。

 

そんな事を考えながら居間へ戻ると、丁度彼女が口を開くところだった。

 

「まぁ⋯好き、と言うのかは分からないですが⋯1人、居ます。」

『おぉ!!』

「ひゃっ!?⋯ち、近くないですか??」

「今行かずして!」

「いつ行くのッ!?」

「はーい、ちょっと下がりましょうねー。」

『やぁーーだーーーっ!!』

 

かなまりコンビの首根っこを掴み、引っペがす。横から見てても近いよ。3人でおでこがぶつかってるじゃないか⋯。

 

「でも意外ですわ⋯悪い意味では無いのですが、聖良さんにもそういうのがあるんですね。」

「ふふっ、まぁ人並みには。」

「で?で??どんな人なの?♡」

「ど、どんな⋯ですか?///その⋯少しだけ歳上なんですが⋯私や理亜の事を気にかけてくれたり、優しくしてくれたり⋯あ、魚釣りが大好きで頼りがいがあるのに実は子供っぽいところがあって可愛らしいと言いますか⋯///」

「おぉ⋯聖良ちゃん、ベタ褒めだね。」

「気持ち分かるなぁ⋯。」

「イエース⋯。」

「あ、でも最近その人がご結婚されたらしいんです!何だか嬉しくなっちゃいますよね♪」

『え⋯。』

「?どうしたんですか??」

「いや、だって⋯好きな人が別の誰かと結婚しちゃったら⋯。」

「セイラの気持ちはどうなるのよ!」

「⋯私は、これで良かったと思っています。自分が好意を寄せている人が幸せになる道を選んだ⋯それがたまたま自分じゃなかっただけです。それに───」

 

優しい微笑みで彼女は気持ちを口にした。

 

「あの人が幸せそうに話してると、私も嬉しいから⋯だから、今のままが好きなんです。」

『聖母⋯⋯。』

 

今度は4人しっかりハモったよ。

彼女は強い。けど優しい⋯優しすぎる。彼女がそれを言うなら、僕らに言えることは何も無い。それが本心なのも、彼女の顔や目を見れば分かる。それでも──。

 

「聖良ちゃんはもう少し我儘でいいと思うな。」

「そうでしょうか⋯?理亜にも言われますが、少々苦手でして⋯。」

「聖良さんにここまで思われてるなんて、その方は色んな意味で幸せですわね。」

「そう、だね⋯私達はどうなんだろう。」

「その時にならないと分からないんじゃない?♪」

「え、皆もそういう人がいるのかい??初耳なんだけど⋯。」

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ふっ。』

 

鼻で笑われてしまった。よぅし、泣こう。

 

「ねぇその人ってなんて名前なの?」

「名前ですか?えっと⋯多分言っても伝わらないとは思いますが⋯。」

「大丈夫大丈夫、こういうのは雰囲気とかを楽しむものだからね♪」

「それは違う気もしますがね⋯まぁでも、気にはなりますが───」

「『ヒロさん』って言うんですけど⋯///」

『ぶーーーーーーーーーーっ!!!!』

 

4人揃って盛大にお茶を吹いてしまった。そりゃこうなるさ。あぁなるともさ!!

だって⋯いや、え⋯??待て待て待て待て、落ち着け島原 夏喜。ただこの聖母の想い人が自分の友人(新婚)だっただけじゃないか。

それに人違いっていう可能性も⋯⋯。

 

 

『魚釣りが大好きで⋯』

『ご結婚されたらしいんです!』

 

 

⋯無いよなぁ。

そしてこのタイミングで思い出した事が一つある。それは当の本人が、今日北海道から帰って来るということ。帰ってきたアイツならどうするか⋯決まってるじゃないか。

 

 

「夏喜ちゃーーーん!帰ってきたぞぉーーー!!」

 

 

⋯⋯必ず、家に来る。

 

「え?あ、あれ⋯?今の声⋯。」

「聖良ちゃん⋯その男はね⋯僕の⋯友人だよ。」

「いんなら返事しろーい!!⋯何この空気。え、こわ、怖い⋯果南ちゃんたちの目線が怖い⋯ん?」

「ひ⋯ヒロ、さん⋯?///」

「聖良ちゃん!?なしたのやこんな所で!!いや〜、店に行ったら遠出してるって言われたがら渋々帰ってきたばって良がった〜!ワシャワシャワシャワシャ!!♪」

「あ、あの、くすぐったいです⋯!///」

「ヒロさん。」

「こっちに来て。」

「Hurry Up。」

「お、おぉ⋯。」

 

状況が分からないだろう友よ。でも安心してくれ⋯骨は拾っておくよ。

 

「セイラに何か言うことは?」

「え?ん〜⋯めんこぐ(可愛く)なったなぁ。」

「違う。」

「美人になった!」

「違う。」

「久しぶりにジンギスカンパーティーやるか!!うりうり〜♪」

「あ、や、あの⋯///」

「はぁ⋯どうして自分の事になるとこうも見えなくなるのかしらね⋯この男共は⋯。」

 

全くだ。超が付くほどそういう気持ちに敏感な男なのに⋯ん?男『共』?

 

「鞠莉ちゃんや、それって僕も入ってる?」

「当然デショ?」

「あー⋯うん、そっか⋯。」

「まぁ何の話してるかさっぱりだけどさ!折角揃ってんだし鍋でも食うべ!今日はジンギスカンパーティーだぁ!!理亜ちゃんは?」

「今日はルビィさん達と一緒に過ごしてますよ!」

「お!それじゃあ邪魔しちゃ悪いな〜!んじゃあ千歌っち達は?」

「東京だよ。何でも梨子ちゃんの買い物に付き合うってさ。今頃上手いこと言いくるめられて静岡組に東京案内とかさせられてるんじゃないかな?」

「あっはは!ちげぇねーや!でも2日後にライブだべ??」

「女の子には息抜きも必要なのよ。」

「クリスマスライブも終わったばっかりだし、皆やりたい事やって⋯」

「今年も悔いの残らないようにしているのですわ。」

 

あのライブが終わって、鹿角姉妹から連絡が来たのはすぐだった⋯らしい。大喜びしながら二つ返事で了承したウチのリーダーさんの意向により、ライブは年末⋯12月30日に急遽行われることになった⋯らしい。

不確定要素なのは、僕が昨日理亜ちゃんから初めて聞いた話だからだ。

皆曰く、『クリスマスライブを黙っていた罰』だそうで。

 

「じゃあ俺らも満喫させてもらおう!な、聖良ちゃん!♪」

「は、はい⋯そうですね///」

「そんなに真っ赤になっちゃって、なした?」

『バーカ。』

「ひっど!!」

 

昨日とは違う意味で、今日は楽しかった。ヒロがやたらと弄られたり、にこちゃんに電話をかけされたり⋯聖良ちゃんが以外と天然だった事も判明したり。

次の日には2年生も帰ってきて、皆でライブの準備もした。場所は、浦の星女学院の講堂。

恐らく、この講堂でやる最後のイベントになるだろう。

悔いを残さない。

その為に、皆思い思いの時間を過ごしてきた。聖良ちゃんと理亜ちゃん⋯Saint Snowの2人は、最後までAqoursの皆に頭を下げていた。

 

そして僕達は、ライブを迎えた。

 

「お客さんも上々、皆の調子も良い感じ。何事も無くて良かったよ。」

「まぁ皆だば大丈夫だべ!俺ちゃんも観客席に居るのは久し振りだなぁ。」

「僕もさ。それに、今回の歌はルビィちゃんと理亜ちゃんが前から書き上げていた曲らしいからね。僕も今回初めて聞くよ。」

「それは楽しみね♪」

『⋯⋯ん?』

 

聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。ヒロと顔を合わせていると、肩をチョンチョンと指で叩かれたから思わず後ろを振り向く。そこに居たのは⋯。

 

「ツ、ツバサ⋯!?」

「こんにちは、夏喜君♪」

「は〜い♪久しぶり。」

「あんじゅに英玲奈まで⋯何してらった??」

「昔を思い出して見ないかとツバサに誘われてな。2人も元気そうで何よりだ。」

「いや、今日仕事じゃ⋯。」

「あら、私そんな事言ったかしら?♪」

 

綺羅ツバサ、優木あんじゅ、統堂英玲奈。

秋葉原UTXが誇る、元トップスクールアイドル───『A-RISE』。

μ'sと共に伝説と呼ばれるスクールアイドルグループだった子達だ。いや⋯μ'sの発起人が影響されたから、今のスクールアイドルブームの本当の火付け役は彼女達だろう。

ツバサのカリスマ性は、現役アイドルになった今でも変わっていない。それでも彼女がこんなふうに『してやったり顔』をしている時は、大体冗談を言う時だ。

つまり⋯。

 

「またやられたんだな僕は⋯。」

「その引っ掛かりやすい性格、本当に変わってないのね♪」

「来るなら普通に来てくれればいいのに。」

「こういうのはお忍びで来る方がアイドルっぽいでしょ。それに⋯そろそろ始まるんじゃないかしら?」

 

彼女の言う通り、幕の上がったステージには11人の姿があった。ラメがキラキラと輝く衣装に身を包み、2人の少女から歌が始まる。

その歌詞の1つ1つが胸にすっと入ってくる感じがして、ふと1年生ズが泊まりに来た時の事を思い出した。

どこか恥ずかしそうに⋯それでも強く、教えてくれた2人の事を。

 

 

 

『ルビィ達は、まだお姉ちゃんの隣に立てて無い気がするんです。でも⋯スクールアイドルをやって、色んな事を経験して、色んな人と出会って⋯勇気を、貰いました。』

『信じたいんです。姉様とやってきた事。自分達が頑張ってきた事。他の誰でも無い、私達自身の力を。この曲を沢山の人に届けたい⋯どれだけ失敗して、どれだけ辛い事があっても⋯前を向いて、自分の力を信じたい。』

『そっか⋯曲名、聞いてもいいかい?』

 

 

 

 

───Awaken the Power。

 

 

 

 

「⋯良い歌ね。」

「あぁ⋯本当にね。」

 

2組の姉妹が作った歌。大切な人へ向けた歌。自分に向けた歌。

そんな気持ちのこもったこの歌は、きっと多くの人の心にだって届く───そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「だい!せい!こう〜〜〜!!♪」

「いや〜やり切ったね〜⋯曜ちゃんも満身創痍であります⋯。」

 

あのクリスマスライブが終わって、なおかつ年末前にやると決まった時は、練習時間も無いし流石にキツいとは思った。でもそんな中で沢山練習をしたり、衣装を作ってくれていたりと、皆の本気が凄まじいことを改めて認識したよ。

特に1年生ズにはね。

 

「本当に凄かったよ。皆、お疲れ様でした。ツバサ達も『素敵な歌をありがとう』って言ってたよ。」

「ツバサ達⋯?」

「綺羅ツバサ。勿論、あんじゅと英玲奈もね♪」

「そ⋯それって⋯⋯。」

「『A‐RISE』じゃないですかっ!!サ、サインは!?勿論貰ったんですわよねっ!?!?」

「奇跡だよぉ⋯。」

「ほ、本当に来てくれたんだ⋯///」

「久し振りでビックリしたじゃ。」

「あれ?ヒロ君居たの?」

「はっはっは、千歌っちは相変わらず純真無垢に傷つけてくるなぁ⋯。」

 

皆のリアクションを見て、改めて伝説と呼ばれる意味を知った。まぁ⋯中身は皆と変わらない人達だけどね。

さて⋯ここからは主役の交代だ。

ルビィちゃんが理亜ちゃんの手を握り、聖良さんの方へと向かい立つ。Aqoursの皆はキョトンとしてるけど、察しのいい1人の男は⋯姉の背中を優しく押し出した。

 

「ヒロ、さん⋯?」

「詳しいことは分かんないけどさ⋯妹ちゃんが何か言いたそうだぞ、お姉ちゃん?」

「そうなんですか?理亜。」

「⋯うん。私───」

 

そこまで言って、理亜ちゃんの口は止まる。手は小さく震え、目尻にはほんの少し涙を浮かべた彼女。きっとその本心を口にしても、誰も咎めたり否定する者は居ない。けどそれは、彼女が自分の殻を壊した時だ。長い間ずっと近くで見てきた聖良ちゃんは、彼女が強がってしまう性格だと言った。その性格を持った子が1人で⋯ましてや、大好きなお姉さんに気持ちを伝えるのはどれだけ勇気がいるのか⋯。

 

でも───だからこそ、支えてくれる人がいるんだ。

 

「理亜ちゃん。」

「ル、ビィ⋯。」

「大丈夫だよ。ルビィはここに居るから。」

「おら達もついてるずら!」

「ビシッと決めなさい、リトルデーモン♪」

「花丸⋯善子⋯。」

『がんばルビィっ!!』

「⋯うん⋯うんっ。」

 

勇気を出すのは、1人じゃなくて良いんだ。ほんの少し⋯後ろを支えてくれる誰かが居てくれればいい。隣で歩く誰かが居てくれればいい。

そうしたらきっと、前を向ける。

 

想いは、形になる。

 

「姉様⋯ごめんなさいっ!!」

「え、ど、どうしたの理亜?」

「ラブライブ予選⋯私は、失敗した。姉様とラブライブ優勝を目指せた最後のチャンスだったのに、私が台無しにした⋯姉様と、一緒、に⋯もっと、もっとスクールアイドルをやりたかった⋯!」

「理亜⋯。」

「本当は謝りたかった⋯!すぐにでも謝って、また姉様と一緒に何かやりたかった⋯!!でも、怖くて、前を向けなくて⋯そんな自分が嫌だったの⋯!!」

 

誰も、何も言わない。

大粒の涙を流しながら、それでも聖良ちゃんから目を離さない理亜ちゃんの言葉を聞いている。

 

「2人でSaint Snowを初めて、絶対に優勝しようって言ってたのに⋯」

 

 

 

 

『理亜。貴方は笑顔が素敵なんだから、もっと笑いなさい。』

『え、えっと⋯こう?』

『⋯ぷっ!』

『ちょ、笑わないでよ姉様!!///』

『あっはは!ごめんなさい、理亜。余りにも可愛らしくて♪⋯⋯優勝、しましょうね。』

『⋯⋯うん。』

 

 

 

 

「姉様に言われた笑顔も、出来なかった⋯だから、ごめんなさい⋯ごめんなさ───」

「ありがとう。」

 

理亜ちゃんが言葉を続ける前に、聖良ちゃんが抱き締めた。優しく、強く⋯目尻に涙を浮かべるその姿は、Saint Snowの鹿角聖良では無く、たった1人の姉の姿だった。

 

「姉、様⋯。」

「謝るのは私の方です。貴方がそんなになるまで気づくことが出来なかった。貴方がそんなに傷ついて、悩んで、それでも前を向こうとしていたのに、無責任な事ばかり⋯。」

「ちが⋯姉様⋯⋯私が⋯。」

「理亜⋯もう、自分を責めないで。誰も貴方を咎めたりしません。貴方にはもう、素敵な友達が沢山いるじゃないですか⋯それに、貴方を咎める人がいるのなら、私がついています。こんなに情けなくても、私は理亜のお姉ちゃんですから♪」

「っ⋯お姉、ちゃん⋯!!」

「ふふっ、そう呼ばれるのも久し振りですね。Saint Snowとして、家族として⋯一緒に歩んできてくれてありがとう、理亜。」

「ひっく⋯お姉ちゃんっ⋯⋯!!」

「Saint Snowは終わってしまうけど、貴方は新しい輝きを掴んで下さい。大好きなスクールアイドルで。」

 

妹が姉を思う気持ち。

姉が妹を思う気持ち。

距離が離れても、一緒に活動する事が無くなっても⋯それは、ずっと続いていくものなのだろう。

ライブという形で通じ合った姉妹の絆は、これで一先ず幕を閉じる。

前を向いた理亜ちゃんも、新しいスクールアイドル活動を始めるだろう───誰もがそう思っていた。

僕も。

ヒロも。

Aqoursも。

ルビィちゃん達でさえも。

 

 

 

「姉様⋯私ね⋯⋯スクールアイドル、辞めるよ。」

 

『⋯⋯え?』

 

 

 

最初は聞き間違いかと思った。その言葉の意味が分からなかった。彼女がスクールアイドルが大好きな事は、この間話をした時に伝わってきたはずだ。一緒に過ごした時間が多いルビィちゃん達なら、もっと知ってる事だろう。そんな彼女が『辞める』と言った。彼女は、この先スクールアイドルとして活動する事を⋯拒んだんだ。

 

「理亜っ!言ってる事が違うわよっ!!」

「そんなの聞いてないずらっ!!」

「ど、どうして⋯だってこの間は!」

「⋯皆には、感謝してる。今回の事も、友達で居てくれる事も⋯でも⋯でもね⋯?ずっと考えてた。このままで良いのか⋯私がどうしたいのかって。それで分かった。私にとっては⋯Saint Snowが居場所だった。姉様と一緒に練習して、ライブをして、色んな経験をして⋯それが、私にとってのスクールアイドルだったから。きっとこれが、私の気持ちなんだって⋯気づいたから。」

 

力強い目で、彼女はそう答えた。迷いは無い。失敗した自分が許せなかった彼女でも無い。

悩んで、悩んで⋯自分で出した答えなのだろう。だからこそ、何も言えなかった。そんな子の決意を、一体誰が否定できるだろうか。

 

「理亜⋯今でも、スクールアイドルは好きですか?」

「うん⋯大好き。A-RISEも、μ'sも、Aqoursも⋯それは変わらないよ。」

「そうですか⋯では、私は何も言えませんね。それが貴方の決めた事なら。」

「ありがとう、姉様⋯。」

「ですが、ちゃ〜〜〜んとルビィさん達と話をしてきて下さいね!蟠りを残したままお別れは、お姉ちゃん許しませんよ?」

「うん!」

「理亜ちゃ〜〜〜んっ!!なん、何でぇ〜っ!!」

「わっ、ちょ、ごめんってばルビィ!!」

「妹ちゃんは成長しましたなぁ⋯。」

「はい⋯本当に大きくなりました。でも⋯寂しい気は、します。」

「⋯そっか。お疲れ様、お姉ちゃん。」

 

ずっと涙を堪えていた聖良ちゃんの頭を、ヒロはそれだけ言って撫でている。ライブをしていた時の彼女の表情は、心の底から楽しんでいるように見えた。きっとそれは間違いじゃないのだろう。

 

何が正解で、何が間違いか⋯それは未来を決めた本人しか分からない。

心から決めた事なら正解だし、後悔してしまえば間違いにもなるんだから。

 

 

「ん⋯雪だ⋯。」

 

 

皆の声だけが響いたこの町には、聖なる雪だけが静かに降り注いでいた。




姉様には理亜ちゃんの結婚式でボロ泣きして欲しいです。

次回は夏まで逆戻り!そしてお待たせしました⋯3話に渡る短編集ユニット編でございます。

次回、『失った片目with CYaRon!』


P.S.FGO始めたらガチャでやらかしました。強運爆裂中。

※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。

最終話の1個前、何を期待しますか?

  • μ's妹勢+サブキャラとの絡み
  • ヒロにこの馴れ初め+Aqours
  • 理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
  • 作者が1から考えるヤンデレもどき
  • 最終話に繋がる何か

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