ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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鞠莉's Side story
ある日、私の元へ届いたパパからのメール。そこに書かれていたのは、在校生の卒業式に関わる内容だった。
あと1回なら出来る。でも1・2年生のどちらかを取ると、もう片方はこの学校の生徒として卒業出来ない⋯。

悩む私に答えを示してくれたのは、ナツキと大切な後輩達だった。


Act.9 託された願い

冬の寒さがようやく引いてきた頃。昨日まではまだ肌寒い感じがしたけれど、今日はどこか暖かい⋯そんな1日。日本ではこういうのを、『三寒四温』って言うんだったかしら。

 

そんな季節の移目に、学校に居るのは私だけ。ダイヤの仕事も全部済ませて貰ったから、もう私が最後の仕事を済ませれば本当にお終い。

沢山の人の想い出が詰まったこの学校と⋯。

 

 

「お別れの筈なのに、どうしてこうも急なのよ⋯。」

 

 

私のパソコンにはパパから届いた1通のメール。

内容は、浦の星女学院の卒業式について⋯。私達の卒業式の話じゃない。

卒業した後の、在校生達への件だった。

私達が卒業してこの学校が統廃合化しても1回分は卒業式が出来るだけの費用が残るからやってみないかって⋯。

 

「卒業式したらイタリアへ行く娘にこんな事聞くなって話よ⋯。」

「まぁまぁそんな事言わずにさ。」

「そうは言っても⋯え?」

「ん?」

「きゃあっ!?ナ、ナツキ⋯?何でここに⋯。」

「やぁ。生徒会長からのお使いで来たよ。」

 

いきなり後ろに音も無く現れた幼馴染み。本っ当に心臓に悪いわ⋯。影薄いとか言うとしょぼくれちゃうから言わないけれど、せめてノックぐらいしてよ⋯。

 

「聞いてたの?今の話。」

「まぁ、話っていうより愚痴かな。」

「む〜⋯盗み聞きは良くないよ?」

「それはすみません、理事長さん。それで⋯どうするの?」

 

軽くあしらわれた気がする⋯。まぁ実際問題この件に関しては1人じゃ答えは出なかったし、ナツキを派遣してくれたダイヤにも感謝しなきゃね。

 

「どうもこうもって感じよね⋯。流石に私の一存で決められないわ。出来る事なら何かしてあげたいけれど⋯。」

「1年生と2年生で一緒にやるっていうのは?」

「ふふっ⋯それはマリーも大賛成だけれど、現実的に考えて時間が無いのよ。それに⋯さっき金額を見たけれど、とても2学年一緒に出来る額じゃないし⋯。」

「う〜ん⋯それもそうか⋯。」

「取り敢えずこの件は保留にしておくわ。まだ期限もあるし、そうそう急いで決めることでも無いから。」

「こっちでも何か考えておくよ。」

「えぇ、助かる。それじゃ、残ってる仕事でもやろうかな♪」

「手伝うよ。その為に来たようなものだからね。」

「じゃあ珈琲入れて欲しいな♪」

 

仕事自体はそんなに大したものでもないし、色々と秘密の書類とかもあったりするしね。何より彼の癒しが欲しい。単純かもしれないけれど、それが1番のrelax timeだもん♡

 

「OK、じゃあちょっと待っててね。」

「は〜い♪」

 

仕事をして数分。夏喜が小さなお盆を持って私の元へやってきた。ふふっ、こうして一緒に暮らせれればいいのになぁ。

 

「出来ましたよ、鞠莉お嬢様。」

「もう、またそれ?私はナツキと対等でいたいのよ。」

「あれ?でも憧れてるんじゃなかったっけ?」

「ちょっと!!///その話はぶり返さないでよ!///」

「ははっ!It's ジョーク☆」

「いつの間にかそんなお茶目になったのね、って⋯これ⋯。」

「ブラック派の鞠莉ちゃんにはちょっと物足りないかもしれないけれど⋯疲れた時には甘い物ってね。めちゃめちゃ練習したよ。」

 

満足気な顔で親指を立てるナツキが持ってきてくれたのは、私のシンボルマークが描かれたラテアート。一つ作るのに物凄い練習期間も技術も必要なのに⋯。

 

「これ、皆の分も描けるの?」

「あっはは⋯残念ながら鞠莉ちゃんの分だけなんだ。流石に全員分出来るようになるにはまだまだ未熟者ですから⋯。」

「⋯どうして私の分だけ?」

「鞠莉ちゃんが珈琲好きなのは知ってたし、『delicious!』って言って欲しかったからね。」

「もう⋯またそんな事ばっかり言って。」

「まぁまぁ、お口に合うか分かりませんがどうぞお納め下さい。」

「じゃあ有難く頂くわ⋯ん。」

 

口に入れた時⋯本当に美味しいと思った。

私がこの人の事を好きだからとか関係無く、この人の気持ちが入ってたっていうか⋯そんな不鮮明なものだけれど、確かに感じる。

不思議なものよね、人の気持ちって。

 

「美味しいよ、ナツキ。」

「ふふっ、でしょう?」

「何?そのドヤ顔⋯ふふ。ナツキの味がする。」

「沢山気持ちを込めましたから。」

「⋯⋯どんな?」

「どんなだと思う?」

「ん〜⋯愛情♡」

「まぁ、入ってるといえば入ってるかな?」

「む〜⋯まぁって何よ〜⋯。」

「ははは、ほっぺたが膨らんでますよ〜?」

 

こうしてからかってくるのは、多分何かを考えてる時。ナツキには私達の事がバレてるのに彼の事は分からないなんて⋯ちょっと悔しい。

 

「ん⋯。」

「鞠莉ちゃん?急に抱きついてどうしたの?」

「ナツキが何考えてるか分かんない⋯なんかヤダ。」

「⋯⋯⋯。」

「貴方は私やAqoursの事をよく知ってるのに⋯私達は貴方の事全然分かんないんだよ⋯。助けになりたくてもなれない、分かりたくても分からない⋯ただ貴方のそばに居たいのに⋯。」

 

私だけじゃない。皆、この人に助けて貰った。色んな事を教えて貰った。沢山の思い出と経験を貰った。

だから今度は私達が助けになりたいのに、何も出来ないなんて嫌だよ⋯。

 

「僕は⋯Aqoursの事を考えてるよ。」

「え⋯?」

「どうしたら皆が喜んでくれるだろう、どうしたら皆の手伝いが出来るだろう⋯何をどうしたら、皆で笑って過ごせるんだろうって⋯。僕はこの日常が⋯Aqoursが好きだから。それがいつか終わるものだとしても、繋がりまで終わらせたくない。」

「ナツキ⋯。」

「それにね?実は考えてるんだ⋯卒業式をどうするか。それでも最終的な判断は鞠莉ちゃん頼みになっちゃうんだけど⋯。」

「⋯大丈夫。責任は果たすわ。この学校の卒業生の1人として⋯最後の理事長として。」

「ありがとね。それじゃあ来週まで待っててくれないかな?」

「何するつもり?」

「ちょっと答えを出しに⋯ね。」

 

 

 

 

 

メールに対する返答期限が、いよいよ明日に迫った。練習も無い放課後の学校って⋯ちょっと寂しいわね。窓の外から下校する生徒を眺める。友達に手を振って笑いながら帰る生徒達を見ると、胸が少し苦しい。

 

『また明日。』

 

それを繰り返して、毎日は過ぎていくんだ。楽しかった1日も、悲しかった1日も、怒った1日も、汗を流して皆と頑張った1日も⋯そうやってキラキラした日々を過ごすのが、青春って言うんだと思ってる。

 

だからこそ⋯ちゃんと卒業させてあげたかった。

 

「⋯ごめんなさい。」

「謝るにはまだ早いんじゃないかな?」

「ナツキ⋯?」

「出してきたよ⋯答え。いや、出してもらったって言った方がいいかな?」

「え?一体誰に?」

「2年生に。」

 

そういうナツキの後ろから出てきたのは、千歌っち達と同じクラスの2年生の子達数人。確か⋯よしみ、いつき、むつ⋯だったかしら。

 

「一体どうしたの?」

「鞠莉先輩⋯夏喜さんから話は聞きました。卒業式の件。」

「そう⋯。でもまだやるかどうか方針も決まってないからどうしようか───。」

「お願いします!1年生の為に、やってあげて下さい!!」

「⋯え?」

 

1年生の為って⋯それじゃあ今いる2年生は⋯?

千歌っちや曜、梨子達は⋯。

 

「皆で話し合ったんです!浦の星の生徒として卒業はしたい⋯でも私達が卒業式をしてしまったら、1年生はどうなるんだろうって。」

「考えて、考えて⋯皆で悩んで⋯同じ答えに辿り着いたんです。私達は、充分幸せで楽しい毎日だったって!」

「皆⋯。」

「私達には、鞠莉先輩を含めた先輩達が居ました。優しくて、カッコよくて、頼りになって⋯沢山助けて貰って⋯。」

「その上後輩も居ました。私達の事を慕ってくれて、『先輩』って呼んでくれる可愛い後輩達が⋯。」

「そんな人達に囲まれて、本当に幸せだったんです!でも1年生は、一番下で⋯後輩が出来るのも新しい学校になってから⋯。だから送りたいんです!ありがとうの意味を込めて、私達から1年生に最高の卒業式を!!」

 

強い目。意思。言葉。想い。

そして願い。

まるでハンマーで殴られたみたいに、それは私自身を打ちつけた。自分達だって卒業したい筈なのに⋯それを誰かに託すなんて、簡単な事じゃない。

でもこの子達は⋯千歌っち達は⋯2年生は本気でそれを望んでる。

 

私に出来る事は⋯。

 

「でも時間があまり取れないわ。具体的な方針も内容も決まってないし⋯。」

「それなんですけど⋯一応皆でその事も考えてみたんです。」

「これが内容なんですけど⋯どうですか?」

「っ⋯これ⋯。で、でもそうしたら貴方達が!!」

「大丈夫だよ。」

 

理事長の入口に立っていたのは、頼れるリーダーになった千歌っち。その顔は、もう迷いも何も無い笑顔で満ち溢れていた。

 

「千歌っち⋯。」

「隣のクラスの子達も、みーーーんな同じだったの。この学校の生徒として、1年生に何かしてあげられるのはこれが最後だから⋯だから大丈夫だよ鞠莉ちゃん♪まぁナツ君がこの話をしに来た時はビックリしたけどね〜?」

「あっはは、ゴメンよ。鞠莉ちゃん⋯僕に出来るのは、ここまでだ。だから⋯決めて欲しい。」

「ナツキ⋯。」

「あ!でもでも、この話は1年生には内緒にして欲しいっていうのと⋯。」

「私達が考えた取り敢えずの意見なので無理にとは言いません⋯時間もかかっちゃうし、人が集まれる保証も無いので⋯。」

「皆⋯。そう、ね⋯もう悩むのはお終い。こんなに沢山の気持ちが篭ったGood ideaを無碍になんか出来ないわ。」

「それじゃあ⋯!」

「ええ!やりましょう、卒業式!盛大に、ハッピーに、最っ高にシャイニーに!!」

 

今私が出来る事はこれしか無い。私の責務は、今年の卒業式迄じゃない⋯1年生が『浦の星女学院の生徒』として卒業するまで、それは続いていく。その為には全力を尽くす。

皆から託された願いを、必ず届ける為に!

 

 

「承ーーーーーー認っ!!!!♪」

 

 

 

 

 

夕焼け空の下、窓から見えるのは千歌っち達4人の生徒。後輩の為に必死で色んな事考えてくれた大切な後輩達⋯。

 

「良い子達だよね。」

「えぇ⋯本当に⋯。だからこそ、皆を送り出したかった⋯。」

 

承認の判は押したんだ。もう元には戻れない。彼女達が自分で決めたとはいえ、これで本当に2年生の卒業式は無くなった。

これが責任。

願いの代償。

 

涙が止まらなかった。

 

「これで⋯良かったんだよね⋯?間違って、無いんだよね⋯⋯?」

「鞠莉ちゃん⋯。」

「ナツキぃ⋯私、私っ⋯!」

「うん。大丈夫⋯ちゃんと見てたよ。辛い役目を押しつけてゴメンね。」

「グスっ⋯ヒック⋯!ちゃんと、卒業させてあげたかった⋯!あんな事、言わせたくなかったよぉ⋯!!」

 

 

ナツキは何も言わない。ただ、抱き締めてくれた。それが辛くて、それ以上に暖かくて⋯。

 

 

 

「ゴメンなさい⋯!ゴメンなさいっ⋯!!」

「⋯⋯⋯理事長、お疲れ様⋯鞠莉ちゃん。ありがとう。」

 

 

 

声を上げて沢山泣いた。枯れ果てるまで流れてしまえばいいと思った。

そうすれば、ちゃんと笑えるから。

また前を向けるから。

 

だから⋯今だけは、もう少しこうさせてね。ナツキ。

 




な「皆さん、こんに⋯⋯」

な鞠『チカーーーーー!!』

鞠「ようやく終わったわね〜全部!」

な「早いなぁ⋯ここまできたのかぁ⋯。」

鞠「別に早くは無かったけどね。でも次は最終回⋯ちょっと寂しいといえば寂しい気もするわ。」

な「そうだねぇ⋯ここまで見てくれた人達には感謝しかないよ。」

鞠「色んな事もあったし、沢山のコメントも頂いたわ。気になる事は感想欄でね♡」

な「最後の最後で感想欄とか言っちゃった!」

鞠「それも私達らしくていいじゃない♪」

な「まあね!それでは次回のちょ田舎!」

鞠「浦の星と!」

な「田舎暮らし!」


な鞠『あなたも、ちょっと田舎で暮らしませんか?♪』


ここまで読んで下さった全ての人に感謝を込めて。

※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。

最終話の1個前、何を期待しますか?

  • μ's妹勢+サブキャラとの絡み
  • ヒロにこの馴れ初め+Aqours
  • 理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
  • 作者が1から考えるヤンデレもどき
  • 最終話に繋がる何か

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