卒業前にやり残した事の無いように。
そう3年生で決めたものの、私はルビィとの間に溝が出来てしまいました⋯。仕事にも影響が出てしまった為、鞠莉さんの提案で夏喜さんに相談する事にしたのですが⋯。
その悩みを聞いていたのは⋯彼だけではありませんでした。
「ダイヤ、これも目を通しておいて?」
「ルビィ⋯どうしてですの⋯。」
卒業を控えた私達も、ようやく最後の仕事が回ってきました。本当であれば、2年生から新役員や会長が決まり、私達が仕事を伝えていく役目を果たさねばならないのですが⋯。
廃校になってしまうことも考え、私達今の3年生が仕事をやり通すことにしたのです。
『立つ鳥跡を濁さず』とは、よく言ったものですわね。
「ダイヤ?」
「私は⋯私はなんということを⋯。」
故に。
こうして仕事を鞠莉さんと片付けているわけですが⋯少々問題が発生してしまいました。
「ダーイーヤーーー!!」
「ルビィイイイイイイイイ!!!」
「きゃっ!?」
「⋯鞠莉さんじゃないですか。何してるんですの?」
「はぁっ⋯はぁっ⋯流石のマリーも怒るわよ⋯?」
⋯そう言えば私が呼んだのでしたわね。
「さっきからどうしちゃったのよ、ダイヤらしくもない。ルビィの事ばっかり言ってるけど、何かあったの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯ました。」
「What?Can you say that again?」
「ルビィに嫌われましたぁああっ!!」
事の発端は数日前⋯。
卒業を前にした私達はそれぞれの進路を決め、やり残したことの無いように過ごそうと話し合いました。私は家を継ぐつもりでしたが、その前に大学へ行ってもう少し勉強をしたかったので東京の大学へ進学する事にしましたわ。
それは親も了承済みですし、私が選んだならと快く聞き入れてくれました。
ですが⋯その事をルビィだけには言えなかった。
それから2日経ったある日、私はルビィに対して強い口調で叱ってしまいました。もう一緒に居られる時間は余り無いから、せめて私が居なくてもしっかりして欲しいと思っていたのです。
そして───。
『お姉ちゃんなんて嫌いっ!!』
泣きながら、そう言われてしまったのです。
「うぅ⋯ルビィ⋯。」
「そりゃあダイヤが悪いよ?ルビィの事全然信じてあげてないじゃない。」
「そ、そんなつもりはっ!!」
「ん?」
「っ⋯ない、ですわ⋯。」
『ルビィを信じていない』
その言葉が胸に突き刺さる。信じていないわけではありません⋯。あの子は人1倍努力家で、気弱に見えるけと芯がしっかりしている、本当に強い子⋯。
だと言うのに。
「もう!こんな所でウジウジしてても埒が明かない!こういうのはパッと専門家に解決してもらいましょ。」
「専門家⋯?そんな人⋯。」
「1人居るヨ?こういうのに強くて妹系に弱い用務員が1人⋯ね?♪」
◇
「それで僕の所へ来たんだね。」
「すみません、お忙しい中⋯。」
鞠莉さんから教えて頂いた適任者。人の気持ちには超が付くほど敏感なのに、異性からの好意にはまるっきり気づかないAqoursの幼馴染み⋯まさかこんな形で頼る事になるとは思いませんでしたわ。
この天然無自覚ハーレム王に⋯。
「ある事ない事言われてる気がする。」
「おや、バレましたか。」
気のせいですわ。
「多分だけど思ってる事と言ってる事逆だからね!?」
「ふふっ、それは失礼しました。」
「ダイヤちゃんもそんな風になるんだ⋯なんにせよルビィちゃんだよね?なら心配いらないと思うけどな。」
「そうなる見込みが無いから相談してるんじゃないですか⋯。」
「ねぇ。ダイヤちゃんは、ルビィちゃんにどうあって欲しいのかな?」
「どうって⋯。」
しっかりして欲しい⋯?一人立ちして欲しい⋯?
違う。
あの子は昔からよく後をついてきました。私のやる事、言葉、仕草⋯その全部を真似して付いてきてくれた。結局習い事は続かなかったけれど、それでも今はこうして大好きなスクールアイドルを一緒にやっている。
私がルビィに求めるものは⋯姉として願う事は⋯。
「そのままでいて欲しいです。」
口から出たのは、ありきたりな言葉。
でも、間違いなく私の本心。
「あの子は泣き虫です。子供っぽくて、人の後ろに居ることが多くて⋯。でも、それ以上に強いんです。」
ずっと手のかかる妹だと思っていました。そんな所も含めて可愛くてしょうがなかったんです。でも⋯Aqoursに入って、やりたい事をやってる妹の姿は見違えるようにキラキラしていました。
「今だって覚えていますわ。お母様から『妹が出来る』と聞いた時、本当に嬉しかった事を。初めてルビィが私の指を握ってくれた時も、初めて私の事を『お姉ちゃん』と呼んでくれた時も⋯泣いてしまうほど嬉しかった。この子の為に私がしっかりしなくちゃって、ずっと思ってたんです。」
それからAqoursの件があって、一方的に私からルビィと距離を置いてしまい⋯少し見ない間に、あの子は強く成長していました。
「一緒に何かをすることはあっても、頼られる事は減ってきて⋯。だから⋯私が寂しいだけ、かもしれませんわね。」
「そっか⋯。じゃあもう一つ聞かせてほしいな。」
「何ですの?」
「ルビィちゃんの事⋯好きかい?」
いつに無く真剣な顔で、彼はそう尋ねてくる。
でもね、夏喜さん。そんなの言葉にするまでもないじゃないですか。
「当然です。私の⋯たった1人の妹なのですから。」
「あっはは、だよね♪じゃあやっぱり大丈夫だよ。お互い、大切に思い合ってる姉妹なんだから。」
「お互い⋯?な、何を仰ってるんですか?それじゃあまるで───。」
「心配無かったでしょ?ルビィちゃん。」
どうして⋯気づかなかったのかしら。
事務室にある机の横から、見慣れた赤い髪が見えることに。
「ルビィ⋯?」
「ねぇ、ダイヤちゃん。僕は1人っ子だったからさ⋯。姉妹とか兄弟が居る人の気持ちっていうのが、完全には分からないんだ。だからさ⋯。」
ほんの少しだけ、寂しそうな顔をして、夏喜さんは口を開いた。
「ちょっと⋯羨ましいかな。」
「夏喜さん⋯。」
「理事長からお呼びがかかってる事だし、僕はここらで退散するよ。後は⋯頑張ってね、お姉ちゃん?」
それだけ口にして、夏喜さんは部屋を後にした。ここに残ってるのは、私と物陰で座っているルビィだけ⋯。ルビィからの言葉は未だに無く、先程とは打って変わった静寂だけが続いてしまう。
何か話さなくては。
「あの⋯ルビィ⋯?」
「待って!」
近づこうとした時、ルビィの声で静止を掛けられる。久しぶりに声を聞いて嬉しい筈なのに、素直に喜べませんわね⋯。
「お姉ちゃん⋯。」
「⋯何?」
「この間は⋯ごめんなさい⋯。」
「⋯私の方こそ、強く言いすぎてしまいましたわ。本当にごめんなさい⋯。貴方の気持ちも考えずに強く言うだけ言って⋯姉失格ですわね。」
「違うよ!お姉ちゃんは悪くない!!」
「え⋯ル、ルビィ?」
「お姉ちゃんは⋯いつもそうだもん⋯。優しくて、カッコよくて、ルビィなんかより全然凄くて⋯いっつもルビィの事考えてくれて⋯。だから、ルビィがしっかりしないといけないの!そうしないと、お姉ちゃんが東京に行けないからっ!!」
「なっ⋯!?貴方、何処でそれを⋯!」
ルビィにはまだ言っていないはず。鞠莉さん?確かにやりかねませんが、あの人は余りこういう事は言わないはず⋯。夏喜さんにもまだ話してませんし⋯。
「この前、お姉ちゃんたちが話してるの聞いちゃったから⋯。」
「あっ⋯。」
「寂しかったけど、お姉ちゃんが決めた事だから応援しようって思ってて⋯でもお姉ちゃん、どんどん厳しくなって⋯心配させたくないのに、ルビィはまだお姉ちゃんに迷惑かけてるんだって思ったらもう分かんなくなって⋯!あんな事言いたくなかったのに⋯ごめ、んなさい⋯ごめんなさい⋯!!」
「ルビィ⋯。」
泣きじゃくる妹に、どんな言葉をかければいいか分からなかった。この子はたった1人で考えていたのね。私が卒業したらどうするかを知った上で、全部私の為に必死で悩んでくれたのに⋯。
「ごめんなさい、ルビィ。」
「ひっく⋯!何、でぇ⋯謝るのぉ⋯!」
「貴方のことが大切だから⋯かしらね。ねぇルビィ、顔を上げて?」
顔を見せてくれない妹のそばへと歩き、顔を上げてもらう。涙を一生懸命拭う姿は、本当に子供のまま⋯でもそれ以上に、そんな妹が愛おしかった。
「私は⋯貴方の見本であろうとしました。姉である為に、為すべきことをしようと⋯。でもね?貴方は私が思っていた以上に、強くて優しい子⋯私では出来ない事を貴方は簡単にやってのけてしまう。だから、怖かったの⋯。私は貴方の姉で居られないのではないかって⋯。」
「そんなことないよっ!!お姉ちゃんは、ルビィの憧れの人で⋯!お姉ちゃんが居てくれないと、ルビィは何も出来ないまんま、だからぁ⋯!」
「⋯まだ、私を姉と呼んでくれるの?」
「ルビィのお姉ちゃんは、お姉ちゃんだけだもんっ!!まだ一緒に居たい!ずっとずっとお姉ちゃんと、スクールアイドルがやりたいっ!!」
胸に抱きついて泣きじゃくる妹の頭を撫でる。昔も⋯こんな事がありましたわね。
ルビィがお稽古を辞めたいと言った時。あの時もこうしてあやしていました。
自分は姉のようにはなれない、と⋯そう言ってましたね。今では『私と一緒が良い』だなんて⋯。
気持ちに気づけなくてごめんなさい。
その気持ちに答えられなくてごめんなさい。
「⋯ありがとう、ルビィ。」
◇
泣き疲れて眠るルビィに膝枕をしながら窓の外を眺める。時計の針は午後の五時半を指していた。仕事⋯まだ残っていましたわね。
でもルビィを起こしたくはありませんし⋯明日からまた進めましょう。
「いや〜終わった終わった⋯。」
「夏喜さん?」
「やぁ。隣、失礼⋯話は出来たかい?」
「えぇ、お陰様で。それより何が終わったんですの?」
「ん?生徒会の仕事だよ?」
「は?」
予想外の回答に思わず面を食らってしまいました。ですが私の記憶が正しければ、到底1人で終わる量じゃ無かったはず⋯それに鞠莉さんの捺印が必要な書類もありますし⋯。
「全部1人で⋯ですか?」
「いや、残ってた果南ちゃんと鞠莉ちゃんをいれた3人でね。『ダイヤの事だから、どうせ明日から1人でやるに違いないわよ!』ってさ♪」
「鞠莉さん⋯。」
幼馴染みというのは、どうしてこうも考えが伝わってしまうのでしょうか。私は2人の考えが分からない時もあるというのに⋯そう考えたら、自分が分かりやすい人間みたいでなんだか悔しいですわね。
「それより、どうしてルビィがここに?」
「あっはは、言ったでしょ?お互いを大切に思ってるから心配無いって。実はさ⋯ルビィちゃんに相談されたんだ。」
「ルビィが⋯?」
「ダイヤちゃんが東京へ行ってしまう⋯頑張って欲しいのに、自分は足を引っ張ってばっかりだってね。」
「⋯⋯⋯。」
「鞠莉ちゃんから連絡が来たのは、それからすぐだったよ。だからルビィちゃんを呼んだんだ。ダイヤちゃんなら、そろそろ来る頃だと思ってね⋯当たってたでしょ?」
「⋯なんか癪ですわ。」
「にひっ♪」
本当に⋯何なんでしょうか、この人は。
「⋯貴方はいつもそうです。人の事ばっかり気にして、自分の事は後回し⋯悪い事とは言いませんが、やり過ぎは身が持ちませんよ?」
「そうだね⋯頭に入れておくよ。」
「その⋯も、もし貴方が心細くなったら、私がそばに居て差し上げますが??」
ほんの少し顔が熱くなるのに対し、キョトンした顔で返されるのは地味に傷つきますわね⋯。これは本当に分かってない時か、分かっても勘違いしてる顔ですわ。
「ありがとね、ダイヤちゃん。いや〜妹が出来たみたいで嬉しいなぁ。」
まぁこうなりますね。
「はぁ〜〜〜〜〜〜⋯⋯。」
「近年稀に見る長い溜息だね。」
「貴方の馬鹿さ加減に呆れてるんです。」
「うっ⋯!」
「妹になったつもりもありませんし、ルビィも妹になんかさせませんからねっ!!ルビィは私の大切な妹です!!」
「はい⋯。」
「で、ですから⋯!その⋯妹、では無くて⋯あぁ、もう!!」
「ん?おわっ!?」
夏喜さんの手を取り自分の方へと引き寄せる。
そして⋯
頬へと軽い口付けをした。
「ダイヤ⋯ちゃん?」
「⋯⋯何ですの?」
「その⋯真っ赤だけど大丈夫?」
「やかましい⋯ですわ///あ、貴方にとって『挨拶』をしただけでしょう!?///」
「まぁ⋯はい⋯。」
本当に⋯何でこんな人を慕ってしまったのかしら⋯///
他のメンバーに見られた日には何と言われることか。はぁ⋯。
「ダイヤちゃんから来るとは思ってなかったなぁ。」
「悪いですか?///」
「あはは!そんな事はございませんよ?♪」
「い、言いたい事があるならハッキリと言えばいいでしょう!?///大体貴方はいつもいつも───。」
「ん⋯お姉、ちゃん⋯⋯。」
はっ!いけません、ルビィを起こしてしまいます。この天然ジゴロに思う事は沢山ありますけど⋯今日の事は感謝致します。
取り敢えず⋯。
「大好き⋯だよ⋯⋯。」
「夏喜さん。」
「シャッター、任せて。」
今はこの愛らしい妹と、少しでも多く一緒に居ましょう。
私が、この子の姉である為に。
な「皆さん、こんにチカ!」
ダ「ご機嫌よう。」
な「姉妹⋯尊いなぁ⋯。」
ダ「はぁ⋯それは良いのですが⋯。」
な「どしたの?」
ダ「いえ、途中から『ドラ〇もん』のようだなと。」
な「それ以上はダメ。自分でも思ってたから⋯。」
ダ「しっかりして下さいな。次は鞠莉さんですわよね?」
な「Yes!個別ルートの最後は理事長に締めてもらいましょう!」
鞠「呼んだ?」
なダ『まだ呼んでません。』
鞠「そう?じゃあ帰るわね〜♪」
ダ「自由人ですか⋯。」
な「あっはは⋯それじゃあ次回も!」
なダ『お楽しみに♪』
ダ「今回やけに長くありませんか?」
な「めっちゃ悩みました⋯。」
P.S.ようやくアニメ本編見終わりました。恥ずかしい⋯。
※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。
最終話の1個前、何を期待しますか?
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μ's妹勢+サブキャラとの絡み
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ヒロにこの馴れ初め+Aqours
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理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
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作者が1から考えるヤンデレもどき
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最終話に繋がる何か