クリスマスライブが終わって一段落ついた私達。ささやかな打ち上げパーティーの最中、ナツを天体観測に誘った私は一緒に淡島神社で星を見ることに。
そして気付いたんだ。大切な誰かと同じ人を好きになるって事は、こんなにも辛い事なんだって。言えない気持ちと、胸の痛み。
もし⋯たった1つ流れ星に願いを叶えてもらえるなら、何を願いますか?
クリスマスライブから1週間。
意外と治りが早かったナツの怪我も良くなったという事で、簡単だけどAqours内で打ち上げパーティーをする事になったんだ。結構急に決まった話だし、この人数が集まれそうなのっていったらナツの家ぐらいだったんだけど⋯今日は私の家に来てもらった。
淡島まで来てもらってごめんねって皆には謝ったんだけど、皆快く受け入れてくれたのが嬉しかった。
「果南さん、楽しんでますか?」
「ん?楽しんでるよ♪」
「そう?何だか黄昏ちゃってたわよ?」
「何〜?鞠莉ってばそんなに私の事見てたの?」
「だって果南の事大好きだもん♡」
そう言うなり、もうやられ慣れたハグをしてくる幼馴染み。昔は私にされるがままだったのに、留学してた2年の間に何があったのやら⋯。
でも鞠莉の方からハグしてくる時っていうのはあんまりろくな事が無いんだ。
今もそう。
「⋯鞠莉。ハグはいいけど私の胸触らなくていいでしょ⋯///」
「いいえ果南⋯これは、私達の間には必要な事なの⋯。」
「真面目な顔してもセクハラだからね?」
「Sorry♡でもあの子達は気になってるみたいよ?」
鞠莉が軽く指さす方向に居たのは、年下の幼馴染み達。恥ずかしがってる曜、キラキラした瞳の千歌⋯それから何かをメモしてるルビィちゃん。
よりによってCYaRon!に見られるなん⋯て⋯。
「ナツ?」
「はい。」
「見てたでしょ。」
「見てないよ。」
「怒んないから正直に言って?」
「見てないよ。」
「と言いつつ?」
「CYaRon!に釣られて見ちゃいまし───。」
「うがぁっ!!///」
「へぶっ!?」
手に持っていたジュースの缶を思いっきり投げつける。ナツのオデコに命中させた私のコントロールは、我ながら良いピッチングだったんじゃないかって思うよ。
あ⋯スチール缶だった。
「わぁ!果南ちゃんナイスピッチング!」
「そんな事言ってる場合ですか⋯。」
「ここが⋯ゲヘナへの入口、か⋯がくっ。」
「善子ちゃんみたいずら。」
「当然。ナツキは我がリトルデーモンになったのですから⋯。」
うん⋯後で謝っておこう。取り敢えず今は放っておいて、パーティーを楽しもうかな。
それからは皆で楽しく盛り上がっていた。途中から復活したナツが皆から言い寄られたり質問攻めにあったりもして、私も含めて一喜一憂して⋯。
こんなに楽しく盛り上がれるのは、後何日なんだろう。卒業するのが嫌なわけじゃないんだ。私もやりたい事があるし、それは鞠莉やダイヤだって同じ事。
それでも⋯こうして皆で過ごす時間が減っていくのは、ちょっぴり寂しいな⋯。
「ねぇ、ナツ。」
「ん?どうしたの?」
「今日、さ⋯その⋯星、見に行かない?」
皆が盛り上がってる中、隣に居るナツにそう声をかける。
「あぁ、いいね。天気もいいし、今日は良く見えそうだ。皆も誘うかい?」
「⋯今日は、ナツと2人で⋯見たい。」
「⋯良いよ。」
ほんの少しの間を持たせ、彼はそう答えてくれる。その間の中で、一体何を考えてくれたのかは想像出来ない。いつだってそうなんだ。嘘が下手ですぐ顔に出るくせに、ここぞっていう時には本当に分からない。
その優しさも、笑顔も、全部好きになってしまったから⋯しょうがないんだけどね。
「ありがと。じゃあこれが終わったら淡島神社に来てね。」
「あぁ、分かったよ。」
短い会話だったけど、伝えたい事は済ませた。後は夜を待つだけ⋯はは、今からちょっと手が震えてる。⋯頑張ろう。
◇
「お待たせ、果南ちゃん。」
「ん⋯来てくれてありがとね。」
「大丈夫だよ。まぁ千歌ちゃんと曜ちゃんには後で質問攻めにあいそうだけどね⋯。」
そう言って困ったように笑うナツ。まぁあの2人は私に似ちゃったからね。そこは心の中で謝っておくよ。
「ここがおすすめの場所ですか?果南先生。」
「そうだよ⋯って、何?その先生って。」
「星の事なら果南ちゃんが一番!だから敬称を付けてみようかと思ってね。」
「あっはは、じゃあナツは私の生徒だ♪」
なんてことない会話が弾んでいく。空には満天の星空。夜も遅くなったこの町には、東京とか都市部みたいに町の光はそんなに多くない。それに、今は冬っていうのも幸いして星がよく見える。空気が澄んでるからね。
ここに居るのは2人だけ。今なら言えるかな。
「ナツ⋯。」
「何だい?」
「あの、さ。」
言える。
ただ一言『好き』って言えばいい⋯言えばいいのに⋯。
「も、もうすぐ卒業だね。」
チクリと胸が痛んだ。1つ、嘘をついたから。
「あぁ⋯そうだね。僕は未だに悔やんでるよ。こんなに楽しいなら、もっと早く帰って来るべきだった、って。」
「そうしたらAqoursは無かったかもね。」
「それでもさ⋯皆となら会える気がする。どこに居ても、どれだけ離れていても⋯誰かと誰かが繋がっている限り、また会える。」
そう口を開くナツの目は本気だった。
この人は本気で信じてるんだ⋯私達はいつでも会えるって。
ナツが10年前内浦を離れた時、もう二度と会えないって思ってた。伝えたい事も伝えられないまま、これで終わりなんだって。
でも帰ってきたんだ。それこそ、Aqoursの皆と奇跡のような再会をして。
「なら、私も信じようかな。私さ、卒業前にナツに言いたい事があるんだ。」
「どんとこい。」
「うん⋯私⋯。」
そこでまた口は止まる。どうしても言えないんだ。
『好き』。
Aqoursの皆も、ナツの事が好きだって言ってた。ここで私が言ってしまえば、皆の気持ちはどうなるんだろう。
恋でこんなに悩んだ事なんか無いし、言ったもん勝ちって言われれば何も言えない。
でも⋯ここで好きって伝えて結果がどうであれ、私達はきっと戻れなくなる。皆を信頼してないわけじゃない。信頼してるから、怖いんだ。
私は前に進めない。
「果南ちゃん?」
ナツの声がする。それでも私はその先の言葉が出ない。言おうとしてたのに、自分の意思で口から発する事を拒まれた気持ちが私の中で暴れている。胸が痛い。
⋯鞠莉の時も、そうだったっけ。
誰かを好きになるのがこんなにも辛くて、痛くて、苦しくて⋯重いものだなんて知らなかった。
こんな事なら、いっその事知らない方が良かったんじゃないかって思えてくる。
もう、分からない。どうしたらいいかも、何を伝えたかったのかも。
「⋯果南ちゃん。」
「な、何⋯?」
「泣いてるのは、どうして?」
「え⋯。」
言われるまで気付かなかった。
自分の頬を伝う沢山の水滴に⋯。
「や、あれ?な、何でこんな⋯違う、んだよ⋯!」
違わない。
胸の痛みが強くなってくる。もう嘘をつくのは止めてって暴れてる。
好きって言いたい⋯でも皆の事が頭に浮かぶ。
卒業したら、ナツとも簡単には会えなくなるんだ。
もう⋯どうすればいいのさ⋯。
「果南ちゃん⋯ハグ、しよっか。」
「え⋯?」
曜と一緒にナツの家に行った時から、私達は余りハグをしなくなった。単純に、私が恥ずかしかったから。
昔とは違う、ガッチリした男の人の体に包まれる。
「本当はさ⋯何か言葉を掛けてあげるべきなんだろうけど、何を掛けたらいいか分からないんだ⋯。だから、今はこうする事しか出来ない⋯ごめん。」
「ち、違っ⋯!ナツは悪くない⋯私が、言えなくて⋯。」
「余り人の事は言えないんだけどさ。3年生の皆は頑張り過ぎだと思うな。ダイヤちゃんはあんまり頼ったりしないし、鞠莉ちゃんも割と1人で何とかしようと奮闘するタイプだし⋯。果南ちゃんは、我が儘が足りないよ。」
「我が儘⋯?」
「僕の推測で話しちゃうから先に謝っておくよ。違ったらごめんね?果南ちゃん⋯皆の事考えてるでしょ?と言うより⋯自分の気持ちより周りの事考えてる。」
「っ⋯。」
「ずっと考えてたんだ。パーティーをやってる時から、果南ちゃん⋯どこか難しそうだった。最初は気のせいかなって思ってたし、卒業の事もあるからちょっぴり寂しいのかな?とか。」
半分当たってるのが、ちょっとムカつく。でも何も言えないから頭をナツの胸にうずめる事しか出来ない。
「でもさ⋯今の様子を見て思ったよ。⋯何かあるんだよね?言いたい事。言いたいのに、自分の気持ちより皆の事考えちゃってる⋯と、勝手に僕は思ってますよ。」
「なんで敬語なのさ⋯。」
「さも決めつけてるかのように話しちゃったから、これで違ったら恥ずかしいかな〜んって⋯。」
「⋯ふふっ。じゃあ言わなくても良かったじゃん。」
「やっと笑った。」
顔を上げた時、そう言われる。まるで子供みたいに笑いながら、指で私のほっぺをグイッと引っ張るナツ。
色んな事を見透かされてた。このまま私の気持ちも分かっててくれればいいのに。
ってか、こんなに人の事考えれる癖に何で皆からの好意に気づかないかなぁ⋯。
「⋯聞かないの?何でこうなってるか。」
「聞いて欲しいのかい?」
「⋯⋯意地悪。」
「あっはは、ごめんごめん!でも⋯いつかちゃんと聞いてみたいかな。」
「うん⋯頑張る。絶対伝えるよ。」
「期待してる♪あ!流れ星!!」
「ナツはさ⋯流れ星に何をお願いするの?」
「皆といつまでも楽しく過ごせますように!」
「あはは!ナツってロマンチスト?」
「知らなかった?僕はロマンチストだよ?」
「200歩譲ってもそれは無いね♪」
「嘘ーん⋯。」
皆でいつまでも⋯か。
ねぇ、ナツ。我が儘⋯言ってもいいんだよね?今だけは皆の事じゃなくて、私の気持ち⋯言っていいんだよね。
「⋯⋯⋯好きだよ。」
聞こえないぐらい小さな声で、そう独りごちる。これが、今出来る精一杯の我が儘。
私の気持ちだから。
「僕も好きだよ。」
「えっ!?」
「この星空⋯いつ見ても綺麗だよね〜!」
「あっ⋯あっははは!そうだね!ナツはそういう人だったよ!!」
「え?何か変な事言ったかい?」
「変な事言わない日なんて無いじゃん♪」
「えー⋯。」
沢山泣いた。
沢山笑った。
きっと今はこれでいいんだ。
だからさ⋯今度我が儘を言った時は、ちゃんと聞き届けてよね?ナツ♪
果「ご機嫌いかがかなん?♪」
な「ご機嫌⋯あっ、あっ!先越された!」
果「いや⋯私のだし⋯。」
な「なんにせよ番外編お疲れ様、果南パイセン。」
果「あ、うん⋯何そのキャラ?」
な「自分、不器用なんで⋯パイセンに付いていくっす!オッス!」
果「まぁ、良いけどさ⋯明日あたり恥ずかしくなるからね、それ。不器用と言えば次回かな?」
な「ナイスフリ!次回は不器用なお姉様が登場!」
果「卒業に近づいていく中で、ダイヤとルビィの2人にちょっとした亀裂が入っちゃうよ。」
な「姉としての役目と妹としての気持ち⋯すれ違う姉妹の心に、ナツ君がどう奮闘するのか!そもそも関わってくれるのか!?」
果な『次回もお楽しみに♪』
果「⋯暑苦しいなぁ。」
な「すいまそん⋯。」
P.S.多機能フォームって面白いですね。
※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。
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μ's妹勢+サブキャラとの絡み
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ヒロにこの馴れ初め+Aqours
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理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
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作者が1から考えるヤンデレもどき
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最終話に繋がる何か