ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
PS2再ブレイク中の、なちょすです。

UA50000、無事突破しました!!ここまでの作品になるとは思わなかったので、もうなんと言葉を発したらいいのか⋯。
いつも通りのやりたい放題な内容ですが、ここまで読んで下さった皆様へ感謝を込め、本編ラストまで書き続けたいと思います。
本当に、ありがとうございました。これからもよろしくお願い致します。

あなたも、ちょっと田舎で暮らしませんか?



光の海とあの日の笑顔

クリスマスライブまであと3日と迫った今日。千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃんの3人は、放課後僕の家へと来ていた。

要件はもちろん笑顔について。にこちゃんに言われた自然な笑顔というのを僕達はかれこれ1時間程研究中だった。

 

「これならどう!?ちかーっ!☆」

「実にちかちかする笑顔だね。」

「これならヨーソロー!!」

「敬礼が増えたね。」

「りこっ♡」

「ふふっ⋯。」

「恥ずかしいんだから笑わないでよっ!!///」

「ごめんごめん。良い笑顔だったよ?」

 

『自然な笑顔』というあまりにもシンプルで難しい難問に僕らは完全に叩きのめされていた。それこそ、今みたいにちょっとしたスマイルコンテストが開かれるぐらいには、皆も笑い疲れが来ている。

 

「あ〜〜〜!自然な笑顔ってどうすればいいの〜!!」

「あっはは⋯普段意識してない分、ちょっと難しいかもね〜⋯。」

「そもそも自分で見れないし⋯。」

「ならこれはどうかな。自分の今まで楽しかった事を思い出すっていうのは。」

「楽しかった事⋯?」

「この1年だけじゃなくて、自分の人生で一番楽しかった思い出⋯大切な出来事を話してみれば、それが笑顔に繋がるんじゃないかな?」

「楽しかった思い出か〜⋯。」

 

3人ともまた頭を抱えてしまった。

流石に無い事は無いと思うけど⋯そんな簡単には出てこないかな。

 

「あ、なら私あれだよ!ナツ君と出会ってから行った夏祭り!」

「もしかして蛍の⋯?」

「そう!あの時はナツ君が大変なことになっちゃったけど、あんなに綺麗な蛍をいっぱい見れたのって奇跡だよ!!」

 

夏祭り⋯僕が爺ちゃんに言われた事を思い出した日。あの時は彼女達が歌を歌ってくれたから見れたんだよな⋯。輝きを求める千歌ちゃんにピッタリかもしれない。

 

「じゃあ私はこの間の雪合戦かな〜!」

「あれ?曜ちゃん意外だね。」

「まぁすぐ当てられちゃったけど、あんなに積もった雪を見るのもヒロ君含めたフルメンバーで遊ぶのも初めてだったから楽しかったかな♪」

「あの時は梨子ちゃんがファインプレー決めてくれたもんね〜!」

「い、いやそんなこと⋯⋯ある、かな?」

 

何だろ⋯このノリの梨子ちゃんって初めて見る。

まぁあの時は3年生の事で頭がいっぱいだったし⋯まさか僕らの切り札が通用しないとは思わなかったしね。

 

「次、梨子ちゃん!」

「えっと⋯私は、勿論皆と過ごした事も楽しかったんだけど⋯やっぱり、コンクールに3人が来てくれた事かな?」

「嬉しいこと言ってくれるね〜このこのっ!」

「あっはは!そりゃそうだよ。だって⋯2人とも、こっちで出来た初めての友達だもん⋯。」

「梨子ちゃん⋯。」

「勿論夏喜君もね?」

「僕も頭数に入れてもらっていいのかい?」

「えぇ。だって⋯その⋯///」

 

何やらモジモジとしている。こういう時は大体僕に罵声が飛んでくるか、技をかけられるかのどっちかだ。

どうする夏喜?決まってる。

あえて聞こう。

 

「その?」

「私、の⋯⋯す───」

「梨子ちゃん抜けがけはダメだぞーーー!!」

「そうだそうだ〜!」

「え、ええっ!?///ちが、そんなんじゃ⋯!///」

 

おや、何やらワチャワチャしだしてしまった。結局2人に負けた梨子ちゃんからその続きを聞くことは出来なかったけど、あまり追求するような事でもないのかもしれない。

何より普通怪獣と超人ヨーソローからの視線が怖い。

 

「結局分からずじまいか〜⋯。」

「まぁ焦るものでもないと思うよ?にこちゃんも言ってたけど、気負う必要なんて無いんだ。確かに大切なライブかもしれないけど、いつも通りの君達で⋯ありのままのAqoursの姿を見せればいいんじゃないかな?」

「ありのまま⋯?」

「うん。いつも通りの君達が、僕は好きだな。」

「え、あ⋯そっか⋯///」

「それなら⋯まぁ⋯///」

「分からなくもないけど⋯///」

 

3人ともうっすら赤くなってしまった。あれ、何か変な事言ったっけ??

そんな事を考えながらチラリと時計を見ると、時間は6時。

大事な事を忘れていた。

 

「やば⋯ヒロの事迎えに行かなきゃ行けないんだった。」

「あれ?ヒロ君こっち帰ってくるの?」

「ああ。皆のライブがどうしても見たいんだって。」

「じゃあ皆で迎えに行こうよ!!」

「賛成!!じゃあグループトークに送っておくね!」

「悪いね皆。もうこんな時間なのに⋯。」

「いいのいいの!ヒロ君だって大事なファンですから♪」

「千歌ちゃん、いっちょ前にファンとか言えるようになったんだ♪」

「ナツ君〜、梨子ちゃんがいじめる〜!!」

「あはは、そんな時もあるよ!僕は少し準備することがあるから、沼津駅に先に行っててもらえるかい?」

「ヨーソロー!!」

 

こうして、僕達はそれぞれのやるべき事に時間を費やした。千歌ちゃんは『忘れ物した!』との事で一旦学校に戻るらしい。だから先に曜ちゃんと梨子ちゃんの2人に行ってもらうことに。

 

この日は珍しく雪が降っていた。

道路も凍りついてるだろうし、転ばないように気をつけていかないとな。

最後の支度を整え、遅れながら僕も沼津駅へと向かった。

多分この時間からなら、千歌ちゃんと合流できるかもしれないな。遅くなりそうだったら、ヒロに連絡しておこう。

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜さぶいよぉ〜⋯!!」

 

ナツ君の家で一旦別れた私は、学校から沼津駅へと向かっていた。

何とか丁度いいバスにも間に合って、近くのバス停で降りる。外はこの辺りじゃ珍しいくらい雪が降っていた。

 

「綺麗だなぁ⋯うわぁっ!?」

『お客様、大丈夫ですか?』

「あっはは、大丈夫で〜す⋯///」

 

降ってくる雪に見とれてたら、バスを降りた途端滑っちゃった⋯。

うぅ⋯お尻が痛い⋯///

後は10分ぐらい歩けばつくはずだし、もうちょっとかな?

 

学校に忘れてきたのは大切な歌詞ノート。

ナツ君と再会して、色んな事を経験してきた。大切な人との別れもあった⋯その全部を詰め込んだ、私達の歌。

私達の輝き。

それにこの間梨子ちゃんが曲をつけてくれた。これが私達の輝きなんだって考えたら、あの時は嬉しくなっちゃったなぁ⋯。

穂乃果さん達のライブの映像を見て、輝きに憧れた。いつか私も見てみたいって、ずっと思ってた。ステージから見える沢山の光⋯応援してくれる人たちが作る、光の海。

 

絶対、成功させるんだ。

 

「ふんふんふ〜ん♪」

 

出来たばかりの曲を鼻歌で歌いながら青信号になった横断歩道を渡る。

 

歩道の半分まで歩いてきたその時⋯。

 

 

 

 

 

 

「千歌ぁっ!!」

 

「え⋯うわぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

私を呼ぶ声と一緒に、誰かに強く腕を引っ張られた。

腕を引っ張ったその人は私と入れ替わるように前へと飛び出し、私は後ろで尻餅をつく。

その人は今まで見たことの無い⋯まるで悪いことをしてしまった様な、申し訳なさそうな表情をしていた。

 

見慣れたはずのその顔。

大好きな人のその顔。

 

 

「ナツ君⋯?」

 

 

声を発する事は無く、ナツ君はただ何かを伝えるように口を動かしていた。

世界がスローモーションのようにゆっくりと見える。

 

そして⋯目の前を車が通り過ぎていった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「え⋯⋯あ、あれ⋯⋯⋯?」

 

 

凍った道路に尻餅をつく。お尻から来る痛みを気にする余裕なんてなくて、私の頭は混乱していた。

ナツ君が見えた。

車が過ぎ去った。

見間違いだって自分に言い聞かせる。

 

どっちが?

 

分からない。何が起きたのかも、何をするべきなのかも分からない。

あれは⋯。

 

 

「きゃあああああっ!!」

「おい!救急車だ!!」

「ヤベェだろこれ⋯!」

 

 

周りの声が耳に入ってくる。

救急車⋯?誰か怪我でもしたのかな。私の頭は周りで起きている物事を考えさせてはくれない。

 

声のする方へ顔を向けると、自分の前を通り過ぎていった車が電柱にぶつかり止まっていた。

そして⋯道路には人が倒れている。

 

 

 

 

「⋯⋯⋯ナツ⋯君?」

 

 

 

 

違う。

あれはナツ君じゃない。

あの人があんな所で倒れているはずない。

きっと同じ服の人なんだ。

だってナツ君なら、名前を呼んだらすぐに返してくれる。

優しい笑顔を見せてくれる。

ナツ君は⋯。

 

 

『ごめんね。』

 

 

声は聴こえなかった。

それでも⋯分かっちゃったんだ。さっきあの人がなんて伝えたかったのか。

何で、あんなに申し訳なさそうな顔をしたのか。

 

 

「ナツ君っ!!」

 

 

全部を理解するには、遅すぎた。

道路で倒れている人の元へと走り出し、確認する。

頭から血を流して倒れている人は、紛れも無く彼だった。

 

 

「ナツ君!ナツ君っ!!しっかりしてよ!!目を開けてってば!!ねぇ、千歌の事驚かせようとしてるんでしょ??もう充分びっくりしたよ??だから起きてよ⋯!いつもみたいに笑ってよ!!」

 

 

彼は何も答えない。

自分の手にベットリと付いた彼の血が、全てを物語っていた。

 

 

「ぁ⋯い、やだ⋯!やだ!ナツ君っ!ナツ君っ!!」

 

 

私には、声を掛け続けることしか出来ない。救急車が来るまで、必死に彼を呼んだ。叫んだ。

最悪の結末を信じたくなんかない。否定したい。否定して欲しい。

いつもの軽い口調で、『何ともない』って笑って欲しい。

 

 

 

彼は、何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ曜さん⋯千歌さん達遅くない?」

「ん〜⋯おかしいな。連絡も無いし⋯。」

 

隣にいる善子ちゃんにそう言われ、携帯を確認する。メールも無し。着信も無し。

沼津駅にはヒロ君が着いていて、他のメンバーにからかわれている最中だった。

そんな光景に目をやっていると、途端に携帯が震えだす。

 

「あ、千歌ちゃんから電話だ。もしもし千歌ちゃ───」

『よ、曜ちゃん⋯どうしよう⋯ど、どうしよう!助けて曜ちゃんっ!!』

「千歌⋯ちゃん?」

『血が⋯ナツ君、頭ぶつけて⋯!!』

「落ち着いて千歌ちゃん!ゆっくりで大丈夫だから!」

 

 

様子がおかしかった。泣いてるわけじゃない⋯酷く怯えていた。声も震え、本当にどうしたらいいか分からず、パニックになっている状態⋯。

千歌ちゃんがこうなるのは、昔しいたけが病気にかかった時以来だ。

これが起きるのは、決まって千歌ちゃんにとって大切な物に何かがあった時。

 

ナツ君に、何かあった。

 

周りに人がいないことを確認してからヒロ君達をこっちに呼んで、携帯のスピーカーモードを入れる。

震える声で、千歌ちゃんは言った。

 

 

 

 

『ナツ君が⋯車に、跳ねられて⋯!頭から血を流したまま返事しないのっ!!』

 

 

 

「⋯⋯⋯えっ⋯。」

 

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった。だって⋯それじゃあナツ君は⋯。

 

 

『曜ちゃん⋯!私、どうしたら⋯ねぇ、分かんないよ⋯⋯助けてっ⋯。』

「分かった!今行くから待ってて!!」

 

携帯を切り、全速力で走り出す。

ナツ君が事故にあった。

目の前でそれを見た私の大切な人が私を待ってる。

助けてって言ったんだ。

何が出来るかなんて分からない⋯分からないけど、今たった1人きりで頑張ってる千歌ちゃんの傍に居てあげることは出来る⋯!

 

「待ってて、千歌ちゃん⋯!!」

 





夢は終わらない。

さぁ、始めよう。

いつか過ごしたあの日々を。



次回、『』と「」

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