今回は大分長めです、なちょすです。
笑いあり涙あり⋯大切だった過去は、大切になるこれからに繋がる。
青春って、そういうものだと思ってます。
『ちょっと田舎で暮らしませんか?』、第21話をどうぞ。
雪上の激戦を繰り広げた僕達は、夜に向けての準備をする事にした。と言ってもご飯は皆で作るから、僕達の主な仕事は『かまくら作り。』
「⋯ヒロ、流石に重労働過ぎやしないか?」
「まぁ、取り敢えず頑張るしかねーべ?」
「この人数全員入るかまくらを2人でって⋯。」
「せば向こうではしゃいでる美少女達にお願いできるか?」
雪だるまを作ってワイワイしている1年生。
何故か雪山に頭から刺さってる梨子ちゃんを引っこ抜く2年生。
ダイヤちゃんを埋めて爆笑してる3年生。
「⋯やろうか。」
「おう。」
何時間かかるんだろうなぁ⋯。
昔からちょくちょくヒロの実家には来ていたから、それなりにかまくら作りには慣れていた。
でも今回は大きさが大きさだ。11人入るかまくらって聞いたことないしね。
「夜にはタンポと酒が待ってっからよ?」
「あぁ、そりゃあ楽しみだ。」
ヒロの作るキリタンポ鍋はとにかく美味い。というかこの辺の食べ物が基本的に美味しいんだ。
そこに日本酒だったり焼酎が加わると⋯いけない、涎が出てきた。
皆が遊ぶ中そんなことを考えてたらいてもたってもいられず、気付いたら特大かまくらが完成していた。
「ナツ⋯めちゃめちゃ早かったな。」
「あっはは⋯あんまり記憶無いけどね。皆を呼ぼうか。」
「んだな。おーい!そこのアイドル達ー!!」
「何ー??」
「飯にするやーー!!」
「やったー!!」
「もうお腹ペコペコだよぉ⋯。」
「わ!何これ!」
「かまくら⋯ですわね。」
ある者はびしょ濡れになりながら⋯またある者は雪まみれになりながらこちらへ歩いてくる。皆かまくらなんて見るのも初めてだろうし、初めて見るサイズがこれだけ大きいからやや興奮気味だ。
「飯はこれから皆で作るからさ。手伝いヨロピク。」
「任せて!料理なら得意だヨーソロー!」
「うむ、実に良きかな。」
「じゃあ果南ちゃんに曜ちゃん、それから梨子ちゃんと善子ちゃんで僕と食材切りかな。」
「残りは俺ちゃんと出汁取りながら鍋の管理!解散!!」
こうして僕達は、皆が食べた事の無いであろう『キリタンポ鍋』を作ることになった。
◇野外組 〜Side ヒロ〜
「アク取り隊、番号一番!ルビィちゃん!」
「はいっ!」
「二番、花丸ちゃん!!」
「ずらっ!」
「出撃ぃいいいっ!!」
『おーーーー!!』
「人の妹に何やらせてますの⋯。」
「意外とノリがいいね、ルビィちゃん。」
夏喜達食材組と別れた俺達は、かまくら内で鍋の準備をしている。ある程度準備を進めていき、地鶏のガラで出汁をとるところまできていた。
出汁を取れば必然的にアクが出る。普通に料理してもいいんだが、どうせ皆初めての事づくしなんだからやるなら楽しくやらなきゃな!
「よし、じゃあそろそろ頃合いか⋯。マリーちゃん!千歌ぁっち!!」
「イエ〜ス!☆」
「ほいきた!!」
「ガラ取り団⋯レッツゴー!!」
『いぇーーーい!!』
「あの⋯ヒロさん?」
「ん?なした?」
「私の仕事は無いんですの?」
「ムフっ⋯やりたくなった?やりたくなっちゃった?」
「腹立たしい顔ですわねぇっ⋯!!」
「ダイヤちゃんには、味見係っていう1番大事な仕事が待ってるよ!その前に⋯。」
キリタンポ鍋作りにおいての隠れたご馳走。
出汁の出た鶏ガラ⋯これ最強。
「どうぞ召し上がれ!」
「は?」
「ガラ。マジで美味いから、騙されたと思ってさ!」
「はぁ⋯ですが、私よりも花丸さんや千歌さん達の方が喜ぶのでは??」
「
「では頂きますが、少々行儀が悪いよう⋯な⋯っ!!」
目を見開き、何やら驚いた表情の彼女。
そう、それだよ。その反応が見たかった⋯!
ガラを食べるには直接手で持って食べないといけない。だから一番『行儀が悪いって言いそうな子』に食べさせて上げたかった。
予想以上にハマったのか、正座しながら黙々と食べ続けてるけど⋯ヤバイ、絵面がシュール過ぎて吹き出しそうだ。
誰かと共有したいが⋯ふふっ。1人居たな、適任者が。
「マリーちゃん。」
「ん?何??」
「ふふっ⋯あれ見てみ、あれ⋯!」
「?何の事⋯んふふふふっ!!」
おもむろにスマホを取り出す彼女。やっぱり間違いは無かったようだ。
「や、ヤバイヤバイ⋯!!」
「さ、流石にカメラは⋯ダメでしょ⋯ふふふ⋯っ!!」
「ちょ、何撮ってますの!?///」
「あっはっはっはっは!!ごめんダイヤ、もう無理ぃ!!あのダイヤが!硬度10のダイヤが、正座して鶏ガラ食べてる!あっははは!可愛いっ!ダイヤ可愛いっははは!!」
「なになに〜?」
「何かあったずら??」
「わぁ⋯お姉ちゃんそれ美味しそう♪」
日が落ちてきたこの町で、多分かまくらでこんなにはしゃいでるのは俺達くらいだろう。
これから完成させる鍋の暖かさと、皆の笑い声。
昔感じてた暖かさ。
こんな光景、いつぶりだったっけ⋯。
「⋯⋯。」
「ん、なした?マリーちゃんや。」
「ふふっ、別に?ほら皆ー!ダイヤに食べ尽くされる前にマリー達も食べるわよ〜!」
『おーーー!!』
「もちろん、ヒロもね?♪」
「へ?」
「そうだよ!ヒロ君も一緒に食べよ!!」
「早く来ないと本当に全部食べますわよ?」
⋯ははっ。
夏喜があんだけ全力になるのも分かる気がするな。
「よし⋯食材組が来る前に食い尽くすぞぉ!!」
この子達と居ると、楽しくてしょうがねぇや。
◇台所組 〜Side 夏喜〜
「さてさて、久しぶりに腕がなるな。」
「ナツ、経験あるの?」
「まぁ、ちょくちょく遊びに来てたから。」
「舞茸、ネギ、鶏肉⋯。」
「ごぼうにセリに糸こんにゃく⋯結構普通の鍋だね。」
「そう思うでしょ?ここに⋯じゃっじゃーん!!」
「エクスカリバー!?」
「その発想はなかった。」
僕が取り出したのは、割り箸に刺さった棒状のお米。若干1名興奮気味だが、皆キョトンとしている。
何を隠そうこれがこの鍋のメイン⋯その名も!
「これが、『たんぽ餅』だよ!」
「お米⋯だよね?」
「うん。杉の棒を米で包み込ん出るんだけど、これをこうして⋯斜めにカットすればキリタンポの出来上がり。」
「まさか⋯タンポを切るからキリタンポ?」
「うん。」
「あっはは⋯千歌ちゃんが聞いたら喜びそう。」
いや、まぁ⋯安直って言うのもわかる気がするけど、味は間違いない。地鶏の出汁を染み込ませたキリタンポの美味さたるや、それはもう⋯もう⋯。
「夏喜?夏喜ー?」
「珍しいね⋯夏喜君がこうなるの。」
「ふふっ。じゃあそんなナツの為にも、ぱぱっとやっちゃおうか♪」
「ヨーソロー!もうお腹空いてきちゃったよ!」
「はっ!?僕は今まで何を⋯?」
「もう始めてますよ、夏喜先生。」
クスリと梨子ちゃんに笑われてしまった。いけない、このままでは『働かざるもの食うべからず』だ。
台所に5人も並べない為、一人が食材を切ったら次の人が。その人が切ったらまたその次が、というローテーションを取る。定期的に切った食材を持って行ってもらってるのだが、先陣を切った善子ちゃんの顔が何やら浮かない。
「どうかしたかい?」
「いや、その⋯恐ろしいものを見たわ。」
曜ちゃんと果南ちゃんも、何やら目を泳がせて戻ってきた。
さて、食材を全て切り終えたから、あとは戻るだけなんだけど⋯梨子ちゃんと目を合わせる。見ていないのは僕達2人だけだ。
「⋯行こうか。」
「⋯そうだね。」
手分けして食材を持ち、顔の上がらない3人を付き従えかまくらへと戻る。
そして、僕の目の前に広がっていた光景。
「ヒロ、終わったよ⋯⋯えぇ⋯。」
「⋯⋯。」
そこに居たのは、正座をしながら物も言わずに黙々と鶏ガラを食べ続ける謎の五人衆だった。
ルビィちゃんとまるちゃんは分かる。何かこう⋯『もっ⋯もっ⋯』って感じで食べてるから可愛らしい。
千歌ちゃんと鞠莉ちゃん、それからヒロはさながらハムスターの様に前歯を器用に使ってカリカリ食べてるね。ヒロに関しては顔を若干ハムスターに似せてるのが腹立つけど。
ダイヤちゃんは⋯うん。目に光が宿ってない時点で察してあげよう。
僕達2グループの間にあるのは、静寂・沈黙。
この光景に名前をつけるならば、『無』だろう。ただただ長い無がそこにはあった。
「⋯⋯ふっ。」
その静寂を打ち破ったのは、一人の少女の息が漏れる声。
「梨子、ちゃん⋯?」
あれだけ一心不乱に食べ続けていた集団が全員手を止め、一斉に僕達の方を向いてくる。
いや怖い怖い⋯。
梨子ちゃんは顔を横にそらし、必死に何かを堪えるようにぷるぷる震えている。
「ご、ごめん⋯私、無理なの⋯こういう、ふふっ!シュ、シュール、なの⋯!」
「⋯ぷっ。」
「あはは⋯。」
『あはははははは!!』
彼女の笑い声を筆頭に、1人、また1人と笑い声が増えていく。
本当、ゆるいよなぁ⋯人のこと言えないけどさ。
ようやく鍋を囲んだ僕達は、かまくらの中で暖を取る。まぁ、しっかりした暖房なんて持ってこれないから、中を照らす蝋燭、それから鍋の匂いと湯気が僕達のストーブ代わり。
しっかり作られたかまくらは、ちょっとやそっとの熱で溶けることは無い。外でしんしんと雪が降り続ける銀世界から隔離されたもう1つの世界だ。
「あったか〜い!」
「こ、これ大丈夫だよね?落ちてこないよね!?」
「もう、果南ってば心配性ね。」
「安心しなよ。かまくら作りの名人と近所のチビ達から評判の俺ちゃんと夏喜が作ったんだから間違いないって!」
「もうそろそろ食べれそうだね。」
「うっし!それじゃあ皆!」
『いただきまーす!!』
「んーーー!!♪」
「美味しいずら〜!!」
「こんなの食べた事ないかも!」
友達が居て、幼馴染が居て。
美味い飯とお酒がある。
こんなに贅沢な事って他にあるのかな?
「な、ナツ君⋯///」
「ん?どうしたの?千歌ちゃん。」
「お酒⋯あんまり飲んだらダメだからね⋯///」
両手で胸のあたりを隠すようにしてそう言ってくる千歌ちゃん。その⋯微妙に顔が赤く見えるのは何でだろう。
「なになに〜?ナツがまたなんかやらかしたのか??」
「記憶は無いけど⋯。」
「⋯ナツ君、お酒飲むと狼になっちゃうもん///」
『え?』
「ん?」
暖かい別世界だと思ったら、一気に極寒の世界へ早変わり。
島原マジック。
とか言ってる場合じゃない!記憶は無いけど何故だか皆の視線が痛い!!
「ぷぷぷ!夏喜ちゃんやっぱりやらかしてる〜♪
「いや本当に記憶が無いんだってば!!」
「ナツ⋯お酒に任せて一線越えるのはちょっと⋯。」
「しかも女子高生相手ずら⋯。」
「これが若気の至りってやつね。」
「言葉の一つ一つが痛いっ!!」
「夏喜⋯もうAqoursの皆とくっついてしまえ。」
「いやいや何言ってんのさ!」
『⋯⋯⋯///』
「え?何でそんな満更でもない顔してるの??」
「ダメだこりゃ。」
ご飯を食べて、笑って、何故だか怒られて⋯。
そんな僕達の夕食はあっという間だった。先に皆にお風呂に入ってもらって、残ったメンバーで布団を敷いていく。
何とか9人分敷いてそれぞれが談笑をし始めているが、千歌ちゃんだけは何やら思い悩んでる顔だ。理由は⋯分かってる。
「ヒロ。」
「あぁ、わーってるよ。じゃあ皆!俺等は外で大人の時間とすっから、何かあったら呼んでくれ。それから⋯千歌っち。」
「?どうしたの?」
ヒロの手招きで千歌ちゃんがトコトコ歩いてくる。
「素直になりなよ?」
「え⋯。」
「頑張ってね、千歌ちゃん。」
「ナツ君⋯ヒロ君⋯ありがとう。」
言いたい事は言った。
酒瓶とグラスを持ち、2人で外へ出る。
ここから先は彼女達の時間。誰も邪魔しちゃいけない、大切なAqoursだけの時間だ。
後は頑張りなよ、リーダーさん。
◆
ナツ君とヒロ君が出ていった後、居なくなったはずのその背中をずっと見つめていた。顔に出さないようにって思ってたけど、2人にはやっぱりバレちゃうか⋯。
「千歌ちゃん。」
「言うんだよね?」
「うん。そう、決めたから。」
私達がAqoursとして活動できるのも後少ししかない。学校も無くなっちゃうし、これから忙しくなるから今しかないって思った。
3年生の皆に、ありがとうって伝える。
それが、決めた事。
「果南ちゃん、鞠莉ちゃん、ダイヤさん⋯。」
「ん?なーに、千歌っち?」
「あのね⋯皆に言いたいことがあるの。私から⋯ううん、1年生も含めて、私達から。」
緊張で手が震える。鼓動がバクバクと鳴り止まない。
言うんだ、絶対に。
「スクールアイドルとして⋯Aqoursとして、ずっと私たちと一緒に活動してきてくれて、どうもありがとう!」
「千歌⋯。」
「私、楽しかった。皆で一緒に練習して、いっぱい歌って、いっぱい笑って⋯泣いちゃった時もあったけど、果南ちゃんに支えて貰った。鞠莉ちゃんに元気を貰った。道がそれそうになったら、ダイヤさんがちゃんと叱ってくれた。⋯そんな毎日が楽しかったんだ。」
口を開きながら、皆と過ごしてきた日々が頭に浮かぶ。まだ終わるわけじゃないのに⋯おかしいよね。
「練習終わりに寄り道して、辛い事は皆で精一杯悩んできた。そんな日々が、ずっとずっと続くんだって⋯そう、思ってた。」
「千歌さん⋯。」
自然と目尻に涙が溜まってくる。言わなきゃいけないのに、口を開く度にどんどん涙が増えて⋯。
でも、隣で曜ちゃんと梨子ちゃんが手を繋いでくれる。それだけで頑張れる。
「皆卒業しちゃうけど、私は、この毎日が大好きで⋯皆が居てくれたから頑張れて、大好きで⋯あ、あれ?おかしいな⋯言いたい、事が、纏まらないや⋯!えっと、だから⋯つまり⋯!」
こんなに伝えたい事があるのに。
こんなに大好きって言いたいのに。
下を向いたら、溜まった涙が大事な言葉と一緒に⋯一つ、また一つって零れ落ちていく。
我慢しなきゃって思って。リーダーなんだからしっかりしなきゃって思って。
『素直になりなよ?』
『頑張ってね、千歌ちゃん。』
「果南ちゃん⋯鞠莉ちゃん⋯ダイヤさん⋯!」
そう思ってたけど⋯違うんだよね。
「卒業⋯しないでよぉ⋯!!」
この気持ちは、我慢しなくてもいいんだ。
「っ⋯千、歌⋯。」
「ごめん、果南ちゃん⋯私も、ちょっと⋯厳しいや。」
「曜⋯私だって、離れたくない⋯!一緒に居たいよ⋯!」
『かなんちゃあああんっ!!』
「おいで、2人ともっ!!」
「本当、仲がいいわよね、あの3人。」
「うん⋯ちょっと羨ましいかも。」
「リリー泣いてるの?」
「よっちゃんだって。」
「梨子ー!よーしこ!!♪ハ〜グ!♡」
「わっ!?」
「ま、マリー!危ないわよっ!」
「⋯っ⋯。」
「マリー⋯?」
「ねぇ⋯私、2人と一緒にユニット組めて、幸せだったわ。いっぱい迷惑かけちゃって、ごめんね?⋯2人とも、大好き、だから⋯!」
「っ!ず、狡いわよそんなの⋯私達だって、マリーとじゃなきゃ、出来なかったこといっぱいだし⋯大好きなんだから!!」
「だから、もっと沢山⋯迷惑、かけてください⋯!これからもずっと⋯!!」
「お姉、ちゃん⋯!」
「ダイヤさん⋯!」
「ええ、いらっしゃい?ルビィ。花丸さん。」
「うぅっ⋯うわぁあああんっ!!嫌だよ!ルビィもっとお姉ちゃんと輝きたい!スクールアイドルやりたいっ!」
「ダイヤさん⋯居なくなっちゃ嫌ずらぁ⋯!果南さんも、ダイヤさんも居なくなったら、まるは1人ずらぁ⋯!」
「⋯ふふ。手のかかる妹達ですわね⋯。ルビィ。何も今生の別れということではないんですよ?貴方は私なんかよりもずっと意思が強くて、努力家です。いつでも傍に居ますから、自分を信じなさい。」
「お姉ちゃん⋯!」
「花丸さん。ユニットで1年生1人だったのに、しっかり付いてきてくれました。でも貴方には、善子さんにルビィ⋯千歌さん達もいるんです。一人な筈無いじゃないですか⋯。」
「うっ⋯ううっ⋯。」
「でも⋯そんなに思ってくれる後輩を持てて、私達は幸せ者、ですわね⋯ありがとう。」
いっぱい泣いた。
沢山声を上げた。
3年生の優しさを沢山貰ったから、今度は私達がお返しする番。
がむしゃらに、がむしゃらに前へ進む。輝く為に、走る事を止めたりしない。
そうしたら⋯卒業式は、笑って見送るんだ。
皆⋯本当に、ありがとう。
大好きだよ。
◆
「今頃、どうなってるかね?」
「想像するのは野暮ったいんじゃないっけ?」
「はは、分かってるって。」
かまくらにやってきた僕達は、蝋燭に火を付けてかれこれ1時間くらいだべっていた。夕食の時に使ったやつの残りだから、3分の1程しか残っていない。
それで充分⋯僕らが酒を飲むには、そんなに時間はいらない。
「やっぱりここで飲む酒は違うね。」
「なしたなした親父くせぇ。」
「歳をとったんだよ、実際。初めて会ってから何年経つと思ってるのさ?」
「それもそうか。初めては海だったもんな!」
「あぁ⋯今でも覚えてるからな。お前がフナムシ投げつけてきたの。」
「そうだっけ?」
なんて奴だ⋯僕にトラウマを植え付けた本人が憶えていないなんて⋯!
「バカもやったしなぁ高校で。」
「そうだね。いつか彼女達も、こうして僕達みたいに話をする時が来るのかな。」
「まぁ来るだろうな。あの子らが大人しくしてるわけが無い。」
何となく想像はつく。
全員がお酒を飲めるようになったら、千歌ちゃんとかはチューハイだろうな。鞠莉ちゃんはワイン片手に爆笑してるだろうし、果南ちゃんは酒豪になりそうだ。
ふふっ、楽しいだろうね。
「でもさ⋯ここまで長い付き合いになるのがヒロだとは思わなかったな。」
「俺だってこんなチンチクリンだと思わなかったさ。」
「言ってろよ。」
憎まれ口をついて、今でもバカやって、たまに酒を飲みながら『昔はこうだった』なんて話もして笑い合う。
そうやって時間を過ごしていくのも、大人になるって事なのかな。
「ヒロ。」
「ん?」
「ありがとうな。」
「何だよ、急に。」
「何だろうね、急に。」
「⋯ははっ。変なヤツ。」
前を向きながら、グラスをこちらへ差し出してきた。
言いたい事は⋯何となく分かってる。だったら、僕も返さなくちゃ。
「お前もな。」
カンッと甲高い音が鳴る。
会話は無い⋯それで良かった。
お互い、全部分かってるから。
残ってた酒を一気に飲み干し、蝋燭の火を吹き消す。
「よし!んじゃ、そろそろ戻っか!」
「だね。皆薪ストーブ使えないから、寒さで震えてたら大変だ。」
家の中へ戻ると、皆が居た部屋には明かりがついている。だけど話し声は聞こえない。
「皆?⋯あぁ。」
「なした?おっと⋯。」
3年生1人1人に、1・2年生が抱き着くように寝てしまっている。
どれだけこうしてたか分からないけど、皆目を真っ赤に腫らしていた。
「ナツ⋯今日は交代で火の番だな。」
「あぁ、了解。」
真ん中で果南ちゃんの腕に抱き着く千歌ちゃんの頭をそっと撫でる。
「お疲れ様⋯小さなリーダーさん。」
◇
「おぅ、起きろナツ〜。行くぞ。」
「ん⋯分かった。」
朝5時にヒロに起こされる。これから僕達は一仕事だ⋯目が開かない。
「んぁ⋯あれ⋯ナツ君?ヒロ君もどうしたの?」
「これから一仕事しようと思ってさ。千歌っちはゆっくりしてなよ。」
「ううん⋯千歌も行く⋯。」
「じゃあ顔洗っておいで?」
「うん⋯。」
のそのそと洗面台へ向かう彼女を目で追うと、何やらニヤついてるヒロの顔が。
あれ?この時期の水って確か⋯。
「冷たぁぁああああああいっ!!」
あぁ⋯やっぱり。千歌ちゃん、ご愁傷様です⋯。
「ん⋯何なんですの⋯?」
「うっ⋯うぅ⋯ダイヤさぁん⋯手が冷たいよぉ⋯顔が冷たいよぉおお⋯⋯ぴとっ。」
「ぴっぎゃあああああああっ!?」
結局⋯その声が目覚ましとなり起きてしまった彼女達は、全員僕達についてくることになった。
ゾロゾロと行列を従えやって来たのは、歩いて5分くらいの一軒家。家の前や周りには、昨日1晩で降り積もった雪がドッサリだ。
「ここ、知り合いのババの家なんだけどさ。昨日大分降っちったから、やっとかないとババがぶっ倒れてしまうからな。」
「やるって⋯何を?」
「ふっ⋯決まってらべ?これから楽しい除雪のお時間だ!さぁ皆、スコップは持ったな!?」
スコップを持つ9人の少女。
ソリを引く2人の男。
うん、田舎だ。
「ヒロさん、こういう事って結構頻繁なの?」
「まぁね。皆勝手にやってるけどさ⋯結局年寄りばっかだし、俺も世話なってっからこんぐらいはしとかないとね。」
「結構⋯、重労働、だね⋯!」
「慣れなきゃキツいわな〜⋯でもさ。」
知り合いの人の家を見ながら、ヒロが口を開く。
「言える時に感謝して、出来る時に色々しておかなきゃ⋯いざって時後悔しちゃうからな⋯。」
「ヒロ君⋯。」
ガラガラと家の扉が開き、中からそこそこ歳のいったお婆さんが出てくる。
「ん〜⋯?ヒロだが?」
「あや、ババもう起きたか?寒いから起きてこねーかと思ったじゃ。
「随分賑やかだったもの、起きるに決まってらべ?おやナツ君、久しぶり♪」
「お久しぶりです。」
「後ろの子達は⋯どっちの彼女だい?」
『かの⋯!?///』
「全員夏喜の。」
「おい、また誤解を招くような事を⋯。」
『⋯⋯///』
後ろで再び満更でもない顔の皆はさておき⋯今日は天気が良いし、気温も昨日とは比べ物にならないぐらい寒い。
ひょっとしたら⋯。
「⋯やっぱりあった。皆、ちょっとちょっと。」
「どうしました?」
「今日は運が良いみたいだよ。これを見てごらん。」
「これって⋯雪の結晶⋯?」
「綺麗⋯。
僕が見つけたのは雪の結晶だ。
温度、天気⋯色々な条件が重なって初めて見れるものだ。
「お、良いもん見つけたじゃん!」
「おや、綺麗だねぇ⋯今日は良い1日になりそうだよ。
「何だかお花みたいずら!」
「あぁ⋯そりゃいいね。流石まるちゃん、感性が素晴らしい。」
「えへへ⋯///」
動物達は冬眠に入り、植物達は次の春へ向けての準備をして⋯閑散としたこの銀世界で、様々な形で姿を見せる『雪の華』。
同じ形は1つとして無い。
もう少し時間が経てばきっと溶けて消えてしまうんだろう。
それでもキラキラと輝くその姿は、確かに僕達の目に焼き付いていた。
「季節⋯今、言いたい事⋯。」
「千歌?」
「私達の夢⋯輝き⋯⋯未来。出来た⋯!出来たよ梨子ちゃんっ!
「何が出来たの?」
「歌詞だよ!ずっと書き続けてきた新曲の歌詞!!やっと⋯分かったんだ。何を伝えたくて、私達が何を目指してきたか⋯あ!メモしなきゃ忘れる!!」
「ちょ、急すぎじゃない!?メモできるものなんて無いわよ!」
ヒロと目を合わせ思わず笑ってしまう。
どこまでも緩くて、どこまでも唐突で、皆でワイワイして⋯夢に向かって走り続ける。
彼女達は気付いてるかな。
今のその姿が、とってもキラキラ輝いてる事に。
「取り敢えず⋯ババ、悪りぃばって何かメモとペン貸してけねが?」
「ふふっ、そんなので良ければなんぼでも貸すじゃ。」
「あれが終わったら再開だね。」
「おう。帰りの時間までには終わらせるがらな。」
「了解したよ。」
明日はにこちゃん達が来る。
でも⋯彼女達なら大丈夫だろう。
色んな事を経験した。
色んな事を話した。
それを歌にして踊って⋯楽しさを忘れなければ、きっと⋯。
「さ、ボチボチやりますか!」
僕達の秋田遠征は、こうして幕を閉じたのだった。
夏「はい、こんにちは。」
ヒ「オッスオッス。」
夏「いやはや⋯長かったね今回は。」
ヒ「これだけ詰め込んだらそうなるわな⋯。つか、皆は?」
夏「例のごとく思い出し泣きしてるから、そっとしておいて?」
ヒ「あぁ⋯納得。そういや作者も珍しく悩み事してたな⋯。」
夏「そうなのかい?でも展開は全部出来てるんじゃなかったっけ?」
ヒ「分からん。何か人の目がどうとか言ってたわ。」
夏「?まぁ、何とかなるんじゃないかな?結構気まぐれで自由人だし。」
ヒ「だな。さて!次回はμ'sと約束した日の話。そしてメインは1年生!」
夏「体力作りの為に、秘密の特訓に励む彼女達の姿をお楽しみに!」
ヒ「そんじゃ、次回のちょ田舎!」
夏「クリスマスライブと!」
ヒ「秘密の特訓!」
夏ヒ『あなたも、ちょっと田舎で暮らしませんか?♪』
P.S.シリアスは旅立ちました。