ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
最近のトレンドは口の悪いAqoursメンバー、なちょすです。
前書きのネタが尽きかけてるので一言言わせてください。
千歌っち可愛い。

それではちょ田舎第19話、どうぞ!


冬の夜風と輝きの形

「1、2、3、4⋯千歌さん、遅れてますわ!」

「はいっ!!」

「善子ちゃん足上げて!」

「ヨハネ⋯っよ!」

 

穂乃果達が帰った後の練習風景。いつも見慣れているはずの景色も、今日だけは空気がピリピリしていた。

2ヶ月後にはラブライブもあるから当然といえば当然だけど⋯理由はそうじゃない。

彼女達をここまで動かしてるのは、にこちゃんに言われた一言だろう。

 

 

『全然ダメね。アイドルに大事なものがまるで無い。』

 

 

口には出していないものの、穂乃果達3人の顔もあまりいい表情とは言えなかった。ストレートに言われると確かにショックを受けるのは当然の事だと思う。

 

それが、自分達の憧れなら尚更だ。

 

「そろそろ日も落ちてきたし、今日の所は終わりにしようか。」

「待ってナツ君!私まだ⋯!」

「気持ちは分かるよ千歌ちゃん。でも1年生達も限界が近い。それに、無理をし過ぎて体を壊したら元も子もないでしょ?」

「それは⋯。」

 

いつもは明るく振舞っている千歌ちゃんも、今回ばかりは焦りとショックの方が大きい。彼女の要望で、1週間後にもう1度見てもらうことになったけど⋯だからこそ、ここで無理をさせるわけにはいかない。

 

「ゴメンなさい⋯まるが体力無いから⋯。」

「違うよ花丸ちゃん!花丸ちゃんは悪くないから!」

「アイドルに大事なもの⋯か。」

「緊張はしたけど、歌と踊りはいつも通り出来てたんだけどなぁ⋯。」

 

そう、彼女達の歌と踊りはいつも通りだった。それでも、その必要な『何か』に届かない。

にこちゃんは、それが何なのかを皆に伝える事は無かった。多分、彼女なりの不器用な優しさなのかもしれないけど⋯。

僕達の思考を切るかのように、屋上に携帯の着信音が鳴り響く。

 

「あら、ちょっとゴメンなさい。もしもしパパ?どうしたの?」

 

電話の相手は鞠莉ちゃんの父親からだった。

 

「え⋯?そんな、嘘でしょ?だ、だってまだ人数を募集してたじゃない!期間だって猶予が⋯!」

 

初めて見る鞠莉ちゃんの表情に、ダイヤちゃんや果南ちゃんも動揺している。

人数。期間の猶予。

まさか⋯。

 

「まって!ねぇ!?⋯⋯そんな⋯嘘よ⋯。」

「鞠莉っ!!」

 

電話を落とし、力無く座り込む鞠莉ちゃんを果南ちゃんが支える。

もし僕の予想が正しければ、彼女が次に言うことは、この場で、このタイミングで⋯1番聞いてはいけない一言。

 

「ま、鞠莉さん⋯?どうしたのですか?」

「鞠莉ちゃん⋯。」

 

泣きそうな顔で⋯掠れるような声を絞り出し、彼女は呟いた。

 

 

 

 

「⋯浦の星女学院は⋯来年度の人数募集を打ち切って⋯⋯正式な統廃合化が、決まったわ⋯。」

 

 

 

 

 

多分ここにいる皆が思った。僕だって思ったさ。

『そんなのは冗談でしょ?』って。

そう、思いたかった⋯。

けど、目の前の光景が全てを物語っている。

この学校が大好きな理事長がそう言った。

誰よりも学校の為に尽力してきた1人の少女が、そう言ってしまったんだ。

そんな光景を前にして、誰が冗談だなんて思えるだろうか。

 

 

 

「ゴメンなさい⋯皆の居場所、守れなかった⋯ゴメンなさい⋯⋯!」

 

 

 

屋上には、少女の嗚咽と目的を失ってしまった僕達の心を表すかのようなどんよりと重苦しい色をした灰色の空が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「廃校⋯か。」

 

皆を帰らせた後、事務室で仕事を終わらせた僕は独りごちる。帰り支度をしながら事務室を見渡すと、すっかり僕の仕事環境になってしまっていた部屋にも寂しさを感じる。

3年生は、今日鞠莉ちゃんの家へ泊まるそうだ。皆考える事もあるんだろう。僕も、この学校は居心地が良かった。最初は心配事ばっかりだったけど、先生達や生徒の皆も温かく迎えてくれた。毎日が楽しかった。

 

「⋯頑張りますか。」

 

誰に言うわけでもなく、ただそう呟く。残りの生活を後悔したくない。勿論Aqoursの皆との輝きだってそうだ。

それが僕のやりたい事⋯僕自身で決めた事なんだから。

学校の施錠をして家まで戻ると、玄関に人影が見えた。

もう夜も遅いのに誰だろうか⋯。

 

「どなたですか??」

「あ、ナツ君おかえり〜。」

「ち⋯千歌、ちゃん?」

 

玄関の前に立っていたのは、千歌ちゃんだった。

 

「こんな遅くにどうしたんだい?」

「えへへ。帰ろうかと思ったんだけど、何か頭がごちゃごちゃしてて⋯来ちゃった。」

「来ちゃったって⋯まさかずっと待ってたの?」

「うん。」

 

解散したのが大体1時間半ぐらい前だ。僕の家と学校はそんなに離れてるわけじゃないから、少なくとも彼女は1時間以上待っていたことになる。鍵なんて空いてるわけない。

それでもこの寒空の下、たった1人で僕が帰ってくるまで待っていたのか⋯?

 

「それなら学校で待ってるとか色々あったのにどうし⋯て⋯。」

 

この時僕は気づいた。

目の前にいる少女の目元が赤くなっている事に。

それが示すことなんて、1つしかない。

 

「⋯ここじゃ風邪を引くから、中入って?」

「ありがと、ナツ君。」

 

⋯泣かないはず、無いんだ。

 

学校の為に努力して、精一杯輝こうとして⋯それでも待っていたのは、自分の未熟さと廃校という現実。

どれだけ辛くたって、それを他人に見せないように彼女は1人で戦っていた。

 

心配をかけないように、誰に言うことも無く⋯。

 

たった1人で、泣いていた。

 

「取り敢えず夜ご飯作るから、手伝ってもらってもいいかな?」

「はーい。」

 

台所に立ち、準備をする僕達の間に会話は無かった。

平気な顔で、楽しそうに準備を進める千歌ちゃんを横目で見るけど、それが強がりなのは明らかだった。

 

ねぇ、千歌ちゃん。君は今、何を思ってるんだい?

 

「ナーツ君!」

「え?」

「大丈夫?何かボーッとしてるよ?」

「あぁ、ごめん。事務室で育ててるサボテンが気になってね。今日水あげるの忘れちゃってさ。」

 

⋯こんな嘘ってあるかい。

 

「そっかそっかぁ⋯じゃあ今度千歌もお手伝いに行きましょう!」

「はは、そりゃ助かるよ。サボテンも会いたがってる。」

 

そんなたわいもない会話をしながら、僕らは遅くなってしまった夕食を食べた。時折千歌ちゃんが箸を止めたり、考えたようにボーッとしてる事はあった。

けど、どんな言葉が合ってるのか⋯何が正しいのか。そんなことばっかり考えてしまう自分が嫌になる。

 

皆を支えるって⋯決めたんだけどな。

 

「千歌ちゃん、布団敷いたからもう寝れるよ⋯って、千歌ちゃん?」

「⋯⋯。」

 

彼女は、爺ちゃんの仏壇がある部屋の縁側に座っていた。お風呂上がりの格好のまま、ただ空を眺めている。

 

「ふふっ⋯そんなに風邪引きたいの?」

「あっ⋯ありがと⋯。」

「隣、いいかい?」

「ん⋯。」

 

彼女の背中に毛布を掛け、隣に腰掛ける。

肌を刺すような冬の夜風が、風呂上がりで温まった体を芯から冷やしていく。何を話すわけでもなく、ただ空を見上げる。

夜空に光る北極星。

真っ暗な夜空で、他の星達に負けないように力強く輝いている。

あんな風に輝くには、どうすればいいだろうか⋯。

 

「ねぇ、ナツ君。」

「ん?」

「続けた方がいいのかな⋯スクールアイドル⋯。」

 

空を見上げながら、彼女の口から出たのはそんな言葉だった。

 

「⋯どうして?」

「だって⋯学校が、浦の星が無くなっちゃうんだよ⋯。にこさん達にも、まだまだって言われちゃったし⋯。あの時は思わず1週間後って言っちゃったけど、答えも見つからないまま⋯。」

「⋯そっか。」

 

一言一言、耳を傾ける。千歌ちゃんはずっと悩んでた。本当にこの先続けていいのか⋯『学校を守りたい』という願いが届かなかった今、自分たちはどうすべきなのか。

 

⋯本当にそっくりだ。『彼女』に。

 

「僕は好きだな⋯Aqoursの歌。」

「⋯⋯。」

「今までずっと成り行きで生きてきた。そうすれば人並みの生活で、普通に暮らせるんだって⋯そう思ってた。そんな僕が、初めて自分の意思で皆の支えになりたいって思えたんだよ。」

 

口から出る言葉に嘘偽りは無い。彼女達の歌を聞いて、言葉に出来ない何かが体を駆け巡って⋯

 

「この町の人も、君達の歌に元気をもらってる。この半年かけて直接聞いてきたんだもん、間違いないよ。ねぇ⋯千歌ちゃん。」

 

体を、まだ上を見続ける彼女の方へと向ける。

 

「泣いていいんだよ。」

「っ⋯。」

「僕に泣いてる所を、自分の弱い所を見せないように⋯ずっとそうしてたんでしょ?」

「っで、も⋯。」

「Aqoursの皆に見せないように⋯僕に見せないように⋯気づけなくてごめんね、千歌ちゃん。⋯ありがとう。」

 

上を見ていた彼女が、初めて目線を合わせた。

我慢の限界を超えて、抑えきれなくなった辛さ、苦悩、悲しみ⋯。

それら全てが大粒の涙となって、彼女の頬からポロポロと零れ落ちる。

 

「千歌ちゃんは、僕に聞いたよね?Aqoursを続けるべきかどうかって⋯でもね、答えなんて決まってるよ。だって君は、まだ諦めてないじゃないか。」

「私⋯私⋯!」

 

彼女の頭に手を回し、自分の方へと引き寄せる。

 

「悔しいんだよね?」

「悔、しい⋯悔しいよ⋯!私、何も出来てない⋯まだ何も輝きに近づけてない!!でも、私1人の我儘に皆を巻き込めないよ⋯!」

 

 

携帯からメッセージが届いた通知音がする。

きっかり『8回』。

ふふっ⋯1人の我儘⋯ね。

 

 

「ねぇ千歌ちゃん知ってるかい?」

「え?」

「皆の想いがひとつなら、それは1人の我儘って言わないんだよ。」

 

携帯に届いたメッセージを彼女に見せる。

差出人は、Aqoursメンバーから。

 

『千歌。私達は決めたよ⋯最後までAqoursを続ける。続けたい。』

『鞠莉さんや果南さんと話し合って決めましたわ。』

『千歌っち、やりましょう!負けっぱなしってマリーの趣味じゃないの♪』

『くっくっく!ラグナロクの刻は近いわ!!⋯諦めるなんて言わないでよね?』

『ルビィもやり遂げたいです。皆と一緒に!!』

『それがタエ婆ちゃんとの約束ずら!』

『また、一緒に走り出そう?歌詞が無いと曲は作れないんだからね?♪』

『このメンバーとだったら、どこまでだって行けるよ!千歌ちゃん!』

 

「え、あ⋯なん、で⋯。」

「皆諦めるつもりなんて無いってこと。後バレてたみたいだね、千歌ちゃんが我慢してることも。」

「⋯もう。こんなの、ずるい、よ⋯。」

 

彼女が顔をうずめてくると同時に、涙が胸の当たりを濡らしていく。

 

「いい、んだよね⋯?」

「うん。」

「スクールアイドル、続けるのも⋯泣いちゃうのも⋯。」

「良いよ。ずっと頑張っててくれて本当にありがとう、千歌ちゃん。」

「うっ⋯ぐすっ⋯うわぁあああああんっ!!」

 

 

 

僕達は1人じゃない。

 

無理をする必要なんてない。

 

今日泣いたら明日笑えばいい。

 

明日挫けたら明後日前を向けばいい。

 

 

だから今だけは、この子のそばに居よう。

また皆で走り出す明日の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇっくし!!」

「穂乃果、風邪でも引いたのですか?」

「う〜ん⋯誰かが噂してるね。」

「ねぇ穂乃果ちゃん、本当にやるの?」

「うん!にこちゃんも準備を進めてるし!」

「不器用だね〜にこちゃん♪」

「『Aqoursのクリスマスライブ』⋯。彼女達は大丈夫なんでしょうか⋯。」

「もう、海未ちゃんってば心配症だなぁ〜。」

「当たり前です!!あんな事言われたら誰だって落ち込むでしょう!」

「大丈夫だよ。だって⋯」

 

 

 

 

『にこさん!』

『⋯何?』

『1週間⋯私達に時間を下さい!』

『それで何か見つかるの?』

『必ず見つけます!私⋯私達、諦めたくないんです!!』

 

 

 

「皆、とっても⋯輝いていたから。」

 




果「やっほ、こんちは!」

善「くっくっく⋯堕天使ヨハネよ。」

果「ようやく最後に向かってきてる感じがするね。」

善「絆を深め、ラグナロクへの道を突き進む⋯いい!」

果「善子もなんやかんや言いながらメッセージ優しかったしね?」

善「⋯気のせいじゃないの?///」

果「照れてる⋯可愛いなーこいつー!!」

善「やーーめーーてーーー!!///」

果「あっはは!さて、次回は千歌の作ってる歌詞を仕上げるために、皆で秋田へ行くよ!」

善「そこはヒロの実家⋯μ'sメンバーが来るまでに歌詞が仕上がるのか!それともただ雪遊びをし続けるのか!」

果善「「乞うご期待!!」」

果「それじゃあ次回のちょ田舎!」

善「雪の華と!」

果「銀世界!」


果善『あなたも、ちょっと田舎で暮らしませんか?♪』

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