ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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善子's Side story
一つの黒魔術書。はっきりいって真実味のかけたことばかり書いてある本。
でも、それが全ての始まりだった。
家に遊びに来たナツキが私にかけた言葉。
あの人が持っていった私の不幸。
もし誰かの運勢を自分がもらい受けるとしたら⋯それは幸福かしら。
それとも⋯。


Act.5 貴方の不幸、頂きます。

夏の日差しが部屋の中を照りつける。

部屋にはナツキと2人きり。

ジリジリと刺すような暑さが体の熱を余計に高めて、頬を伝う汗が床に流れ落ちていく。冷房を付けていないせいで、しっとりと洋服が肌に張り付くのも感じていた。

多分それは彼も同じなんだと思う。

 

けど⋯今の私には、そんなことを気にする余裕なんて無かった。

 

「ナ、ナツキ?嘘でしょ?」

「ごめん⋯もう、我慢出来そうにないんだ⋯。」

「ちょっ待っ⋯どこ触って⋯!」

「くっ⋯善子ちゃん、もう耐えれない。⋯良いよね?」

「やっ⋯!ダメよ⋯せめて⋯⋯!」

 

 

 

 

 

 

 

『Natukiさんが倒れました。クエスト失敗です。』

 

 

 

 

 

 

 

「せめて回復アイテム残していきなさいよぉおおおおおっ!!!!」

 

あとちょっとでボス倒せたのに〜!!

何でここで倒れちゃうのよ!

 

「いや〜ごめんごめん。どうしてもこのボスの全体攻撃のタイミングが分からなくてさ⋯。」

「はぁ⋯まぁ確かにタイミング難しいわよね。私も慣れるまで時間かかったし。ただあの場面で弱点触って怒り状態にするのは⋯。」

「まっこと申し訳ございませんでしたぁ!!」

 

そんなやりとりをしてる間にも、流れる汗は止まらない。

ナツキが来た日に限って、この夏最高気温をたたき出した上に部屋の冷房壊れるとか⋯不幸ここに極まれりってやつよね⋯。

 

「にしてもあっづい〜⋯。」

「ははは⋯まさかエアコンが冷気じゃなくて煙を吹き出すなんて思わなかったもんね⋯。」

「⋯なんかゴメン。私っていつもこうだから⋯。昔から運が悪いのよね。」

 

堰に足はハマるし連休明けには宿題がカバンに入ってないし、誰かと出かける時はバスが遅れた上に大雨が降ってくる。

数えたらキリが無いからもう忘れちゃったけどね。

 

「不幸体質ってやつ?」

「ふふ、結構ハッキリ言うのね。」

「気を悪くしたらごめんよ。でもお陰で僕は刺激的な日々を過ごせてるからさ。」

「⋯それって褒めてる?」

「はは!褒めてる褒めてる。」

 

そう言いながらカラカラと笑うナツキ。こんな顔されたら何も言い返せないんだから狡いわ。

 

「にしても流石に汗でベタベタするわね⋯シャワー浴びたい⋯。汗くさくなりそうだし⋯。」

「ん、そう?」

 

そう言うと近づいてくるナツキ。

腕を軽く掴まれ、彼の元へ引き寄せられる。

 

「へ?」

「すんすん⋯うん、大丈夫だよ善子ちゃん。いつも通りのいい匂い!」

「だぁりゃあっ!!///」

「ふべっ!?」

「デリカシー無さすぎよっ!!///」

 

あまりの無自覚台詞に思わずアッパー決めちゃったけど⋯今回はコイツが悪い!///

普通汗かいた女子の匂い嗅ぐかしら⋯それともそれをしてもなんとも無い私ってあんまり魅力ない?

 

「と、取り敢えず!一旦シャワー浴びてくるから!///」

「⋯はい。」

 

浴槽でシャワーを浴びて汗を流す。さっきまでのベタつきは無くなって、丁度いい温度のシャワーがとても心地良い。

昼前にこういうふうに過ごすとは思わなかったけど、これからどうしようかしら⋯特に予定も決めてないし。

何より持ち前の不幸体質が、今日みたいな日に働かない筈無いもの。

 

「さてと⋯そろそろ上がろうかな⋯。あ!タオル忘れてきちゃった!ナツキー?」

「どうしたのー?」

「悪いけどタオル取ってくれる?そこに畳んであるやつ何でもいいからー!」

「はーい。」

 

言ってから気付いた。

まだ何も着てない。

⋯下着も付けてない。

い、いや大丈夫よヨハネ。いくら鈍感男のナツキだって流石に気を利かせて扉の前に置いておくとかするわよね。

 

「取り敢えず一応下着くらいは付けて⋯」

「持ってきたよ〜。」

「へ?」

「あ⋯。」

 

前言撤回。

やっぱり馬鹿だったわ⋯!

 

「あ〜⋯その⋯あ、Amazing?」

「きゃあああああああ!!!!///」

「ご、ごめん!!タオル置いておくからごゆっくり!!」

「逃がすかぁっ!!///」

「うぼぁっっっ!!」

 

久々に決めたわ。全力のボディブロー。

 

「み、鳩尾は⋯キツイよ善子⋯ちゃん⋯がくっ。」

「はぁ⋯はぁ⋯!///せめてノックぐらいしなさいよ!!///」

 

そうしてナツキがダウンしてる間に急いで着替えた私は、また夏の気温が充満してる暑苦しいリビングへと戻ってきた。

シャワー浴びたのに何でこんなに疲れなきゃいけないのよ⋯///

 

「大変申し訳ございませんでした!!」

「ふん!///」

「ヨハネ様、どうかこの馬鹿なリトルデーモンにご慈悲を!何卒!」

「⋯⋯ちゃんとノックぐらいしなさいよね。」

「はい!以後気を付けます!」

「⋯良いわよ別に⋯アンタだったら///」

「へ?最後がちょっと聞こえなかったんだけど⋯。」

「何でもない!通報するわよ!?///」

「嘘です!ごめんなさい!!」

 

まさか不幸体質がラッキースケベに働くなんて初めてのパターンだわ⋯。

ふとテーブルの上を見ると、一冊の本が広げられていた。

私が趣味で買った『黒魔術のすすめ』って書いた本。どうやら私がシャワーを浴びてる時に見てたらしい。確証なんてない、眉唾物の事ばかり書かれている本。それでも『(善子)』が『(ヨハネ)』である為には必要なものだった。

開かれていたページには、『他人の運勢の奪い方。』と書かれている。

 

「ナツキ、これ読んでたのね。」

「え?あぁ、面白そうだったからさ。勝手に読んじゃってごめんね?」

「それはいいわよ。アンタ誰かから運勢を奪いたいの?」

「う〜ん⋯返すかどうかは分からないけど確かに欲しいかなぁ⋯。」

「返すかわかんないって⋯結構鬼畜じみた事言うのね。」

「リトルデーモンですから。」

「じゃあ結果が分かったら私にも教えてよ。信憑性あるかどうか知りたいし。」

「良いよ。じゃあ早速協力してね?」

 

話が読めないままナツキに肩を掴まれる。

いつもより真面目な顔で見つめてくるその顔が悔しいけどちょっとカッコ良かったり⋯。

 

「津島善子ちゃん。」

「は、はい⋯。」

「『貴方の不幸、頂きます』。」

「え⋯?」

「これでよしこ!何も変わったことは無い?」

「無いって言うか⋯全然話が読めないんだけど。」

「文字通り、善子ちゃんの不幸は僕が頂きました。怪盗ナツキより。」

「アンタが欲しかったのって私のなの?なんで⋯。」

 

何で不幸なんか。

その言葉は、口を出ることは無かった。私の唇は、人差し指で軽く抑えられてしまったから。

 

「まぁ、たまにはいいじゃないか。それに⋯本当に効かなくても、おまじないくらいにはなるでしょ?さぁ、取り敢えず外に出ようか。多分外の方が涼しっ!?」

 

ガタンっ!!と大きな音がなったと思ったら、ナツキが脛を抱えて悶絶しだした。立つ拍子にテーブルに脛を強打したみたい。可哀想に⋯あれいつも私がやるけど本当に痛いのよね⋯。

 

⋯あれ?なんで私は普通なんだろう。

いつもであれば、私が今のナツキと同じことになってるはず。偶然だ、って頭では考えるけど⋯。

 

「ナツキ、ちょっとタンスの方に歩いていってみて?」

「痛た⋯タンス?こっちでぇっ!?」

 

足の小指をぶつけてまた悶絶している。

間違いない⋯私の運の悪さは、今ナツキに移っている⋯!

 

「ナツキ、今すぐ私に不幸を返して。」

「ぐすっ⋯ん?どうして??」

「だってそれは本来私が受けるはずの痛みだったのよ?このままじゃナツキがどんな目に遭うか⋯!」

「はは、ありがと。でも怪盗は盗んだものをそう簡単には手放さないんだよ?」

「なんで⋯どうしてよ⋯。」

 

この人は涙目になりながら、それでも否定する。私に不幸を返すことを⋯。暫く考え込んでから、彼は呟くように言ったわ。

 

「言ったろう?僕が刺激的な日々を過ごしたいからさ。それにね⋯善子ちゃん、辛そうだった。」

 

辛そう?私が?

 

「慣れっこだ、なんて口で言ってるけどさ⋯いつもどこか悲しそうで、辛そうで⋯。」

「そんな⋯こと。」

「堕天使ヨハネは、天から追放され⋯その美貌に嫉妬した神々が不幸をもたらしているんだよね?」

「⋯そうよ。」

 

ナツキが微笑む。

そっと手を握られ、抱き寄せられた。

 

 

 

 

「だったら少しでも良い⋯自分の主に普通の暮らしを、普通の幸せを噛み締めて欲しいって思うのは、リトルデーモンの役目だと思いますよ、ヨハネ様?」

 

 

 

 

いつも通りの笑顔で、ただそう言われた。

この人はいつだってそう。女子からの好意なんて全く気づかない癖に、中身は人1倍見てる。

建前を並べて、本当に思ってることは口にしない⋯。

だからかしらね⋯こんなに苦しいのは。

その優しさが嬉しくて。

本心を話してくれないのが辛くて。

それでも⋯どうしようもなく好きになった。

『なってしまった』から。

 

なんで出てきたかわからない涙を見られたくなくて、されるがままナツキの胸に顔をうずめる。

 

「⋯2つ約束して。」

「何だい?」

「さっきみたいなレベルの不幸だったらいいけど、危険な目にあったらすぐ私に返して。ナツキに傷ついて欲しくないから。」

「⋯あぁ。もう一つは?」

「⋯⋯私、素直になれないから⋯。」

「ふふっ、知ってる。」

「うっさい!///⋯もし、私が強がりでもなんでもなく、本当の意味で幸せを感じれたら⋯それでもその不幸は私に返して。それでいいから⋯。」

「分かったよ、ヨハネ様。怪盗は約束は破らないからね。」

「ふふっ、怪盗なのかリトルデーモンなのかキャラがブレブレね。」

「あ、善子ちゃんがそういう事言う?」

「あによ!」

 

どんな理由であれ、この人は私の為に肩代わりしてくれた。その本心がどんなものか分からないけど⋯。

 

それでも今だけは、この抱きしめられてる暖かさに身を委ねたい。

この人が言う幸せ⋯見つけられたらいいな。




な「続く!!」

善「は?これ続くの?」

な「うん。」

善「馬鹿じゃない?」

な「はっはっは、なちょすさん傷ついたぞ。」

善「いや、続くにしても⋯本編終わりそうなのにどこで完結させるわけよこれ⋯。」

な「ん〜⋯内緒☆」

善「⋯で、なんで私のだけちょっとオカルトみたいになってんのよ。」

な「内緒☆」

善「あっそ。で、次回は何の話?」

な「いででででででで!!Wait!Stop Please!!折れる折れる!アームロックはヤバいってぇ!!」

善「ムカついたもの。」

な「ごめん!ごめんなさい!!次回はルビィちゃんが、ガンバルビィする話です!!」

善「最初っからそう言いなさいっての。じゃ、次回もお楽しみに!」

な「⋯ラッキースケベ。(ボソッ)」

善「今度こそその両手へし折ってやるから手を出しなさい。」

な「やべ!逃げろっ!!」

善「待てコラーーーーー!!!!」

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