ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
最近不調の、なちょすです。
同時進行なう。
今回で惜別の秋編、最終話になります。夏に比べてちょっと短かったかな?
でもやり切りました。それだけは言えます。

それではちょ田舎第17話、どうぞ!


最後の言葉とカレーライス

婆ちゃんが旅立ってから4日が経った。

あんなに色づいていた紅葉は風でヒラヒラと地面に落ちて、吹きつける風は一層冷たさを増してきている。

あの日から、皆は少しずつ元気になってきていたけど、今でもたまにボーッとしたり、落ち込んだりしてる時もある⋯それでも最初の頃に比べると大分良いけどね。

僕の方は、婆ちゃんの葬式だったり遅れてた分の自分の仕事⋯学校の備品をリストにまとめ直したり清掃したりと、意外とバタバタした日常を送っている。

ちなみに日を追うごとに睡眠時間が減っているのは内緒だ。

 

「ふぅ⋯今日の所はこんなもんかな。後は出来る範囲を家でまとめれば⋯。」

「ナツキ?まだ居るの??」

「あぁ鞠莉ちゃん、お疲れ様。もうすぐ帰るところだよ。」

「ならいいけど⋯無理してない?ちょっと隈も出来てるし、あんまり眠れてないんじゃないの?」

「まぁちょっとね⋯。でも僕のやるべき事だから何とかするよ!」

「⋯⋯馬鹿。」

 

そう言って抱き着いてくる鞠莉ちゃん。顔は見えないけど、抱き着く力は強くなっていく。

 

「ナツキの嘘なんてすぐ分かるわよ。元々嘘つくの下手なんだし直ぐに顔に出るもの。」

「え、そんなに?」

「地球上で一番出てると思うわ。」

「マジか⋯。」

「だから明日は休暇にして。こっちの事は私とダイヤでやっておくから。」

「いや、でも⋯。」

「お願い⋯。皆元気に振舞ってるように見えるけど、あの日からまだ立ち直れてないの。ここでナツキまで倒れたら⋯きっと⋯!」

 

胸元が暖かく湿っていく。

理事長としてではなく、幼馴染みとして。

自分も苦しいはずなのに僕にそう言ってくれるこの子の頼みを⋯断るなんて出来ないよね。

 

「分かったよ、鞠莉ちゃん。明日は休ませて貰うね?」

「ちゃんと寝なきゃダイヤのお説教だから。」

「それは怖いな⋯大人しく休んでますよ理事長。」

「ふふっ、なら宜しい。帰りましょ、ナツキ♪」

 

鞠莉ちゃんと一緒に帰った後、家に着いた僕は直ぐに眠りへ落ちた。

まだいけると思ってたけど、体はとうに限界だったらしい。

あの子に感謝しないとな⋯。明日はゆっくりしてよう。

爺ちゃんの残したノートでも見ながらこれからの事を考えてみようかな?

そして次の日の朝⋯ 1人の女性が僕の元を訪れた。

 

「ごめんください。島原 夏喜さんでしょうか?」

「はい。貴方は⋯?」

「初めまして。私は静枝と言います。タエ婆ちゃん⋯タエ子の娘です。」

「婆ちゃんの⋯?」

 

葬式の時ちらっとだけ見た女性。その人はタエ婆ちゃんの娘さんだという。

でも娘さんが僕に何の用だろう?

 

「今回は本当に⋯ありがとうございました。本当であれば私がちゃんと面倒を見てなくちゃいけなかったのに⋯。」

「いえ⋯僕も婆ちゃんにはお世話になったので⋯。」

「昨日遺品整理をしてたら、母の書付があったので夏喜さんに母の作った野菜を持ってきたんです。」

「あぁすみませんわざわざ!ありがとうございます!」

「いえ⋯それからこれを。」

「ノート⋯ですか?」

「母が夏喜さんにと。ふふっ、よっぽど大事だったんでしょう⋯私も中を見せてもらったことはありません。」

 

それから静枝さんは用事があるとの事で家へと帰っていった。

やはり親子だと目元とか似るんだなぁ⋯。

部屋に戻ってから、貰ったノートをもう1度見る。タイトルは、『タエ子の夏喜手帳㊦』。

 

「これ⋯まさか⋯⋯。」

 

爺ちゃんが残してくれたノートにはタエ婆ちゃんの名前は無かったが、そっちのタイトルは『島原家の夏喜手帳㊤』だった。

それぞれが残してくれたノートだけど、きっとこれはセットなんだ。家の爺ちゃん婆ちゃんとタエ婆ちゃんが残してくれた⋯僕の為に。

ペラペラと捲っていくと、婆ちゃんが書き留めてくれた料理のレシピだった。昔ご馳走になった食べ物から食べたことの無い物。

あのカレーライスも⋯。

ページの最後の方までいくと、1枚の便箋が挟まっていた。

あの人が好きだった、紅葉の柄が付いた淡い色の便箋。

他のノートのページに比べてしっかり色がついてるから比較的新しいものなのかもしれない。

 

「『ナツ坊とあくあの皆へ。』⋯。ははっ、そういえば婆ちゃん横文字とか英語苦手だったっけ。」

 

ノートを机に置き、便箋の封を切る。

3枚に渡って綴られた婆ちゃんの言葉が、僕の中に入ってくる感覚がする。

そこに書いてある言葉を読みふけった。

あの人が伝えきれなかった言葉を⋯ちゃんと知っておきたかったから。

 

「⋯婆ちゃん、やっぱり勝手だよ⋯。辛いなら、言ってくれればよかったのに⋯。」

 

どれだけ読んでいたんだろう。

時間さえ忘れて、僕は涙を流した。

あの人の本心を知った。皆への気持ちを知った。

だからこそ、僕はこれを皆に見せてあげたい。

婆ちゃんの言葉を伝えたい。

 

「よし、じゃあ久々に腕を振るいますか!レシピ借りるよ、婆ちゃん。」

 

エプロン姿に身を包み、鞠莉ちゃんにメールを送る。『今日、練習終わりに皆を連れてきて欲しい。』と。明日は休日だしね。

今日は沢山食べてもらおう。

婆ちゃんの手料理を。

 

 

 

「ナツキー、来たわよー!」

「あぁ、いらっしゃい皆。」

「あ!カレーの匂い!!」

「もうお腹ぺこぺこ〜⋯。」

「ルビィも⋯。」

「あっはは、そうだと思って沢山作っておいたよ。取り敢えず上がって?」

 

見た感じ元気そうだ。ご飯の前に色々話を聞くと、どうやら新曲の制作に取り掛かってるらしい。

これは是非とも聞かせていただきたいな。

 

「夏喜さん、ちゃんとゆっくりしてましたか?」

「お陰様でね。布団と一緒に暮らそうかと思ったぐらいさ。」

「いつも暮らしてるではありませんか。」

「ははっ!まぁね。そろそろ出来る頃だからご飯にしようか?」

「賛成っ!」

「曜ちゃん、梨子ちゃん。手伝ってもらってもいいかい?」

「ヨーソロー!」

「私で良ければいくらでも♪」

 

皆で協力して食事を並べていく。

カレーに肉じゃがに漬物にサラダ⋯定食と見間違える程選り取りみどりだ。

 

「1人でよくこんな作れたわね⋯本当にゆっくりしてた?」

「してた!してたからチョップは勘弁してくれ善子ちゃん!!」

「夏喜さーん、まるお腹が限界ずら〜⋯。」

「あぁごめん!じゃっ、皆揃ったことだし⋯。」

 

『頂きまーす!!』

 

「ん〜!美味しいぃ♪」

「ナツ料理出来たんだね!」

「ちょっと力を借りてね?」

「一体誰の⋯はっ!?まさか私達の知らない間に女の人と⋯!」

「いや無いから⋯。」

「夏喜さん⋯。」

「ん?どうしたのまるちゃん?」

 

ただ1人カレーから食べていたまるちゃんの手が止まっている。

 

「カレー⋯お婆ちゃんの味がする⋯。」

「本当だ!」

「あの時の味⋯どうしたんですの?」

「⋯これのおかげかな。」

 

寄せておいた婆ちゃんのノートを皆に見せる。

そろそろ本題を話すべきかな⋯。

 

「婆ちゃんが残してくれたノート。あの人がまとめてくれてたんだよ。」

「そっか⋯だからなんか懐かしい感じがしたんだ⋯。」

「それから、これを⋯。」

「これは?」

「手紙だよ。婆ちゃんから、皆に。」

 

3枚ある内の1枚は僕に向けて。

残りはAqoursの皆へ残された婆ちゃんからの言葉。

悔み⋯感謝。

 

「読んでもいい?」

「あぁ、勿論。」

 

 

 

 

 

 

『あくあのみんなへ。』

 

『皆、元気にしてるかい?これを読んでる時は、きっと私はもう居ないんだろうね⋯。』

 

『皆と過ごした毎日は、短かったけど婆ちゃんの宝物だったよ。こんな形でしか皆に残すことが出来なくて本当にごめんね。』

 

『ちゃんと私の口から伝えかったんだけどね⋯どうも歳を取ると上手く言葉に出来ないらしくて、散々迷ったよ。』

 

『大分身体も弱ってきて、家族の居ない生活にも色々と苦労して⋯それでも受け入れる為に、私は充分楽しんだ⋯幸せだったって自分に言い聞かせたりもしてね。』

 

『でもそんな時⋯ナツ坊があくあの皆を連れてきてくれた。』

 

『沢山の笑顔をくれた。』

 

『本当に嬉しかった⋯あんなに楽しく野菜を収穫したのはきっと初めてかもしれないよ。一人の生活は慣れたと思ったのに⋯皆が帰った後は、「次はいつくるんだろう」なんて考えもして⋯。』

 

『婆ちゃんはね⋯まだ皆と離れたくないよ。ずっと笑って⋯来年も、その次の年も⋯皆が大人になるまで、一緒に畑を作ったり、お泊まりしに来てもらったり⋯。』

 

『そうやって、近くで見守っていたいんだよ。』

 

『けどそれは贅沢な悩み⋯どうしようもないことなんだよね⋯。』

 

『最後になるけど、こんな婆ちゃんに誰かと居る楽しさを思い出させてくれてありがとうね。』

 

『これからきっと色んな壁にぶつかってしまうと思うけれど、諦めたら駄目だよ?』

 

『困ったらナツ坊と手を取り合って、いっぱい悩んで⋯辛くなったら泣いてもいい。最後に笑ってくれれば、それで良いんだからね。』

 

『そうして前を向いたら、また皆の素敵な歌を聞かせておくれ。』

 

『皆なら大丈夫。なんてったって、婆ちゃんの可愛い孫達なんだから!』

 

『いつでも、皆のことを見守ってるからね。素敵な思い出をくれて本当にありがとう。』

 

『愛してるよ、皆。 タエ子より 』

 

 

 

 

 

「お婆⋯ちゃん⋯⋯!」

「こっちこそ、あり、がとぉ⋯。」

「グスッ⋯うぅっ⋯⋯。」

 

零れる涙が、机を濡らしていく。

皆の啜り泣く声だけが、静かな部屋の中で聞こえている。

それから千歌ちゃんが、ハッとした表情でノートとペンを取り出した。涙を流しながら、それでも必死に袖で目を拭って書いていく文章は⋯歌詞?

 

「千歌ちゃん、それ⋯。」

「えっへへ⋯我慢、出来なくて⋯。私ね、ナツ君が帰ってきてから不思議な感じなんだ。やりたかった事、憧れた事、掴みたかったもの⋯ちょっとずつだけど、分かってきた気がする。」

「それがその歌詞かい?」

「うん。後もうちょっとなんだけど⋯出来なくて⋯。」

「大丈夫だよ千歌。きっと見つかるよ、私達だけの輝きが⋯。」

「私達が、私達である限り⋯。」

「とーってもシャイニーな形になるわ♪」

「うん⋯うん、そうだよね!」

「そうと決まったら、新しい衣装作らなきゃ!」

「ルビィも出来ること頑張ります!!」

「まるも歌詞手伝うよ千歌さん!」

「この堕天使ヨハネ⋯ついに真の力を解放する時が来たのね!!」

「よっちゃんそれ毎回言ってる⋯。」

 

 

見えるかい婆ちゃん、この子達の笑顔が。

 

聞こえるかい婆ちゃん、この子達の想いが。

 

いつか必ず輝いてみせる。

 

いつか必ず届けてみせる。

 

だから⋯それまで待っててくれるかな?

 

僕らの歌が、どうか貴方に届きますように⋯。

 

 

 




な「皆さん、こんにチカ!!」

夏「こんにちは〜。」

ヒ「うっす。」

な「はい、という訳で珍しいメンツで予告だよ。」

夏「確かに滅多に揃わないよね。ヒロなんて特に。」

ヒ「どでしたじゃ⋯(びっくりしたじゃ)。いきなり招集かがったからなしたのかと⋯。」

な「だって他の皆泣き出しちゃって予告どころじゃないし⋯。」

夏「そりゃそうだよ⋯。次回だけど秋が終わったってことはまた3つ挟むんだよね?」

ヒ「次は1年生の話か⋯てかこれ夏喜が聞いてもいいのが?」

夏「あ〜⋯どうなの?」

な「⋯⋯次回!!」

ヒ「やりやがった⋯。Act.4『文学少女の花言葉』!」

夏「Act.5 『貴方の不幸、頂きます。』!」

な「Act.6 『子供だなんて言わせません!』!」


な夏ヒ『あなたも、ちょっと田舎で暮らしませんか?♪』

P.S.惜別の秋、これにて終幕です。
タエ婆ちゃん関連で色々なコメントを頂き、本当に頭が上がりません。
皆さん、ありがとうございました。
ちょっと長くなりますが、お知らせです。
春夏秋冬を通してお送りしてきました本編は春編が1話しか無い為、次回の冬編が実質的な最終章となります。
この10人+αが、どんな出会いをして何を見つけるのか⋯それを見届けて頂けたら幸いです。

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