少年成長記   作:あずき屋

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それが、数少ない存在理由の一つなんだ








第34話 少年、渇望す

 

 

 

死神は、決して超常的存在などではない。

 

そこに一体、どのような外見を想像させるとお思いか。

頭から足の先までをすっぽりと覆う黒いローブを羽織っているか。

凡そその身体に肉はなく、ただ喧しく響く骨だらけの存在か。

誰かを裁くかのような巨大な鎌を携えているか。

死期が近い者にしか見ることのできない幻想のようなものか。

 

残念ながら、そのどれもが間違いだ。

死神という存在は、もっと我々の近くに漂っている。

そこに存在しているのが当たり前のように、我が物顔で世界を飛び回っているのだ。

耳を澄まさずともそれは聞こえてくる。

死肉を貪る、黒い影が。

 

それは決して超常的存在でもなければ精霊でもなく、神話の中にのみ息づくものでもない。

奴らは現実世界で、はっきりと目にすることが出来る。

弱り切った魂を見つけては、それを刈り取る瞬間を絶えず待ち侘びている。

黒き影をたなびかせ、死を舞い込む声を轟かせて賤しく舌舐めずりをしている。

 

 

 疑うのなら仰ぐがいい。

それは小さな命を掠め取ることだけを考えて彷徨っている。

 

 

その影の下には灰に埋もれた小さな命が在った。

華奢な身体を無理矢理起こし、声がする方向へ顔をあげる。

いつか見たような気がする光景に既視感を覚えたが、感じられたのはそれまで。

はて、前にもこんなことがあったか。

少年の胸中には覚えなどなく、無意味に思考を走らせるだけ。

考えるだけなら、まだ出来よう。

だが、結局のところそれまでだ。

 

 

_______

 

 

 

何も思い出せない。

いや、思い出すことなどないか。

この空と同じなのだろう。

元のキャンバスに適当に黒のインクをぶちまけられたのだ。

色が滲むことはあれど、元に戻ることはない。

そう、もう思い出すことなど何もないのだ。

 

相も変わらず、暗闇ではない黒が空を絶えず飛び回る。

奴らが彷徨いてからどれほどの時が経過したのだろうか。

どれほど無意味にな問答と思考を、少年は繰り返したのだろう。

忙しなく飛び回る奴らは、未だに地に降り立たない。

期ならとうに熟しているはずなのに。

 

此処はとある村。

何処にでもあった何の変哲もない村があった場所。

かつて村人たちの活気に満ち溢れていた、村だった地。

今は、名も無き数多の死者たちの墓地と化した村の名残りだけが残った所。

その中心にて、力なく空を眺め続ける。

何かをする気力を無くし、命の匂いを薄れさせ、生気を抜かれてしまった童子が、ただただ顔をあげているだけ。

 

 

「............」

 

 

言葉の出し方を忘れた。

自分の過去に何があったか忘れてしまった。

此処にいる意味を忘れた。

此処が何処なのか忘れてしまっている。

そも、自分とは一体何なのか覚えていない。

呼吸すら、意識しなければ忘れそうになる。

目の乾きさえなければ、瞬きすら忘れるだろう。

 

冷たい雫がこの身を濡らす/焼け跡を滲ませていく

身も心も凍えそうになる筈なのに、この身体は何も感じない。

 

焼き尽くすような日照りがこの身を焦がす/焼け跡を出鱈目に乾かしていく

身も心も潤いを欲する筈なのに、この身体は何も感じない。

 

降りしきる白玉がこの身を凍らす/焼け跡を真っさらに塗りつぶしていく

身も心も震え上がる筈なのに、この身体は何も感じない。

 

死神が身体を突つく/焼け跡唯一の痕跡さえ奪おうとする

止め処なく流れる血が、焼け跡へと広がっていく。

広く、深く、赤く染まっていく。

それを眺めていると、胸にも何かが広まっていくような気がする。

これは痛みか、苦しみか、嘆きか、悲しみなのか。

分からない。

ただ、どうしようもなく熱いものを感じる。

種のようなものが、胸に落ちたようなそんな錯覚。

 

「............」

 

やがて死神は去っていった。

何をしても反応を示さないそれに飽きたのかもしれない。

何をしても反応を示さないそれに気味の悪さを感じたのかもしれない。

そのいずれかだったとしても、少年にしてみればどうでもいいことだ。

ただ黙して、空だけを延々と仰ぎ続ける。

 

"初めて彼を見たとき、それはもう凡そ生者の在り方ではありませんでした。

何に対しても反応せず、ただ空を眺め続ける。

最早その姿に生き物としての面影はなく、在るのは生き物であった何か。

生物として大切な何かと引き換えに、彼は辛うじて人の姿を保った。

それは感情、記憶、自身にとって大切な人々。

世界において、それらは総じて心というのでしょう。

彼にとって、この世に生きる人全てにおいて、それは掛け替えのない唯一無二のもの。

それを失った時、貴女は人としての在り方を保っていられますか?”

 

 

失ったものは、あまりにも大き過ぎた。

人としての形を保つために、それを構成してきた要素を全て捨てざるを得なかったのだ。

その結末を体現したものがそれだ。

 

 

止めどなく溢れる憎悪が成り代わったのだ。

 

 

全てを一夜にして失くした。

灰の中から新たに生れ出づるものは、決して神々しい神秘ではなく、それと正反対の禍々しいものであった。

人の心に粘り付く黒々とした影が、彼の心に根を張り、 その本能を代弁する存在を作り出す。

誰かの介入によるものではない。

無意識のうちに芽生えた、生物として当然の感情。

仕掛けられたのなら、それ相応、又はそれ以上の報復をもって仕返しをする。

至極当たり前、子どもですら感覚的に知っている報復の心。

やられたのならば、やり返せ。

傷付けられたのなら同じ傷を付けよ。

親を殺されたのなら相手の親を殺せ。

かつてその行いを大々的に、かつ常識とばかりにその行いを良しとする法律があったとされる。

余りにも稚拙で、短絡的な発想だろう。

だが、当時の政策者はそれを良しとしたのだ。

当然のことであると言わんばかりに、自らの考えが一点の曇りなき正統な主張であると。

 

秩序を正す側からすれば、その行いは間違っている。

が人はよく思い悩み、思考が行き詰ると短絡的思考に逃避する傾向がある生物だ。

簡潔に表すのであれば、楽をしたがる生き物なのだ。

楽を欲し、怠惰を渇望する。

その思考は一度容認してしまうと、その者を雁字搦めに縛り付け、その在り方を退化させていく。

何をしようにも自身の判断に自信を持てなくなり、最終的には周囲の判断に身を委ねたがる。

やがて思考をするという行為その自体を忘れ、ただ流れに身を任せて生きているつもりなって無意味に生を終えていく。

故に、上記の古来の制定は受け入れられた。

政策者の訴えに感化されたのではなく、発言力の高い者に乗り掛かった。

考えに考えた上での支持ではなく、彼らの言うことに間違いはないという盲目的思考に囚われたが故の答えなのだ。

であるならば、その行いが支持されるのは必然。

そして、後に後世に継がれることなく撤廃されるのもまた必然。

正しくなかったのだから。

 

少年の心は、それが行き過ぎた。

 

通常なら共に死ぬか、時間をかけて飲み込んでいくかの二択。

しかし彼はそのどちらも拒否する結果となる。

両親によって生かされ、形容し難い負の感情を持って復讐を誓った。

 

 

“憎かった、ただそれだけの事です。

悪事が蔓延るのは世の常。

罪のない人々がそれに巻き込まれ、罪なき命が散るのも世の常なのです。

遠い国の話であるならばそれもそうかと思ったでしょう。

遥か昔の話であるならそうなのだと思うでしょう。

誰もが当事者にならなければ、その後の本当の自分の意見は出ません。

元の自分を忘れさるほどの激情を持った、持たなければならなかったから強さを求めた。

自分たちと同じ末路を辿らせるため、彼は復讐を誓った。

他の子達と比べれば、あの子は特殊でした”

 

必ず報復してみせる。

彼らと同じ末路を辿らせ、必ず罪を贖わらせてやる。

その復讐心を内に、ただ貪欲に強さを求めた。

全ては復讐のため。

完遂出来るかどうかは考えていない。

何がこの復讐の終着点なのかも分からない。

それでも、慟哭を上げずにはいられないのだ。

家族を失ったそれを、嘆かずにはいられない。

歯が砕けるほど、怒れずにはいられない。

涙の川ができるほど、悲しまずにはいられない。

 

故に、憎しみを抱かざるを得なかった。

 

 

 

 

 

────殺してやる

 

 

 

────壊してやる

 

 

 

────奪ってやる

 

 

 

────燃やしてやる

 

 

 

────死ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で愛する者が死ぬ世界。

悪人が我が物顔で闊歩する世界。

罪のない者たちが肩身を窄めて生きる世界。

救えぬ運命を突きつけられる不条理な世界。

悲しみが絶えない苦痛に塗れた世界。

子が泣き叫ぶ声を轟かせる世界。

 

 

 こんな救われぬ世界など、燃やし尽くしてしまえばいい。

誰に願う訳でもなく、誰かに頼る事でもなければ、誰に縋る訳でもない。

歪んだ世界を道連れに、その日をこの手で沈めてみせよう。

この慟哭で足りないのなら血を渡そう。

それでも足りなければこの命、この魂全てを対価として捧げよう。

願う事なら、この憎しみに行き場を。

 

 

 

 

"その小さな心に決して消えない大きな炎を宿して、あの子は私に言いました。

当然の事ながら、譫言のように口走るそれを、彼は覚えていません。

無理もありません。

今よりずっと幼く、バランスもろくに取れていない不安定な存在でしたから。

ただ、私ははっきりと覚えています。

涙を血に変え、髪を振り乱し、喉を潰すほどの慟哭を私は覚えている。

あれがきっと、ラジエル本来の叫び。

人格が完全に抹消される前に吐き出したかった、ラジエル最後の駄駄。

それから先は死んだように眠り続けました。

眠り続けて、そして一月ほど眠り続けてようやく目を醒ましました。

酷く悪い意味での別人になった顔つきで”

 

 

 

 

 

............?

 

 

 

 

 

 

"言葉をも忘れてしまったのでしょう。

口は動けども、声はおろか音すら出せなかったのですから。

心身ともに衰弱していましたから、体調が万全に近づけば或いはとも思ったのですがそうではなかった。

もう、全てが彼の中から消去されていました。

人格の再構築、別人格の生成、記憶媒体の浄化、感情の欠落。

彼はもうあの頃の彼ではない。

無邪気に駆け回っていた、親の愛を一心に受けていた、残酷な結末を突きつけられたラジエル・クロヴィスは死にました。

復讐の業火に身を窶し、世界の不条理に対し怒り続ける鬼。

全てを自身諸共に焼き尽くすことを誓ったラジエル・クロヴィスが新たに生まれたのです”

 

 

師の施しにより体調を回復させ、動き回る程にまで至った。

一から言葉を教え、一からある程度の教養を身につけさせた。

少年の願いを口に出させるには、そう時間は掛からなかった。

 

 

────ししょー、強くなりたい。

 

 

“そこから私たちの修行は始まりました。

血反吐吐き、血潮沸き、血肉削る醜悪な修行をひたすら続けました。

その間凡そ約10年近く。

未熟極まる童子にして、身体すらロクに作れていない年頃からのスタートでしたからね、それ相応の時間はかかりました。

一言二言小言を言うことはありましたが、彼は修行を拒否する素振りは一度も見せなかった。

私の言葉を何処までも信じたが故なんでしょうね。

それはそれでやりやすかったからいいんですが”

 

 

────もっともっと、強く

 

 

小鬼はひたすらに力を求め、師の教えを余す所なく吸収した。

貪欲に力を蓄え続けた。

修行重ねてはならず者で実践し、修行を重ねては山賊で試した。

時には武芸者をも相手取り、血みどろになりながら拳を振るった。

 

 

────まだ、まだまだ

 

 

そして、未熟者は己が内の才覚を開いていった。

突きを放てば大気を弾く。

蹴りを振るえば風を断つ。

貫首を繰り出せば岩を穿つ。

脚を踏み降ろせば大地を揺るがす。

手刀を抜けば空すら斬る。

一度駆ければ山を越す。

自身の肉体のみで、あらゆる武具を操る者に肩を並べるほどにまで登り詰めた。

 

 

────もっと、強く......

 

 

誰よりも強く、何者よりも夙く。

ただそれだけを目指して己を磨く。

あの耐え難い屈辱を二度と味合わないため、絶望の淵に二度と堕ちたくないため、目に見えぬ恐怖から逃れるため、ただ強さを求めた。

何に恐れているのかは自覚出来ない。

それを振り切るためにはただ力を付けなければならない。

他人の命を奪ってでも、力を求めなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────強く...............なんで、強くならなきゃ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

「...............」

 

それは子どもがというより、一人の人が持つには余りにも惨たらしい背景であった。

ただ憎しみを晴らしたいがまま、ラジエルは貪欲に強さのみを求め続けた。

であれば最初に手合わせした時の強さもまた納得出来るだろう。

いつ何時も己の命と引換に、全てを道連れにする狂った覚悟を持ってしまったのなら、その強さも納得できる。

だが、彼の身を案じているリューにとって、その背景は想像を遥かに越えた凄惨な過去。

大切な者を殺され、世界に取り残され、忘れ去られようとしていた小さき灯火。

それが、リューが今まで知りたくて仕方なかった真実。

知った上でその傷を埋めてあげたかったこと。

そしてそれが如何に浅はかな考えであり、最早全てが遅すぎたと知らしめられた。

何もかもが遅いのだ。

彼の内に巣食う憎しみを取り払うだと。

人の暖かさを思い出させるだと。

また一から始めようだと。

 

 

そんな生易しく、中身のない言葉など、到底かけられるものではない。

 

 

『アレをぜーいん?』

 

『はい、倒すも殺すも君次第。

目標時間は三分、数はざっと百名余り、距離約300m。

では、行きなさい』

 

走る閃光は、無慈悲に目の前の命を奪っていく。

吹き荒ぶ旋風は、草木を舞い上がらせるように命を攫っていく。

獰猛に煌めく牙は、屈強な男たちを容易に噛み殺していく。

 

『まだまだ遅く、無駄が多い。

もっと鋭く蹴りを振り切れば、余波で三人は巻き込めました。

後方の敵の距離感がいまいち掴めていませんね。

近くの敵から順々に片していけば、さらに効率よく仕留められます』

 

無邪気に、無機質に突き詰められていく技術が、リューの心を抉っていく。

凡そ少年が振るうべきでない殺人拳を、悪意のない顔で人々へ向ける姿を見ているのがあまりにも辛い。

不意に、初めて彼と出会った日のことを思い出した。

その鉄仮面の内に秘めた過去の片鱗に触れた、あの日のことを思い出した。

 

『腰はその位置から動かさず、移動の際はそのまま滑らせるように。

溜めた力を出し尽くすまで、姿勢は変えないように。

力を入れ直す時にだけ、初めて構えを解くことを許します。

そうして振り抜けば、人体など容易く穿てます』

 

故に押し寄せる涙を止める術などなく、嗚咽を漏らさないようにするだけが唯一の抵抗だった。

浮かぶその光景は極めて異質で、途轍もなく現実離れしたものだったからだ。

子どもの戯れに付き合うとばかりに現れる遊び相手。

彼らは、永遠にその光景だけを目に焼き付けたまま、この世を後にした。

ただの一人も生存者を残さず。

 

『振り抜きにまだ雑さが残っていますね。

即死させられるものでなければ全て失敗と思いなさい。

君にはもう、失敗する余裕などないのですから』

 

『もっと............もっともっと、強く』

 

 

その言葉の真意が、未だに腑に落ちないまま、映像は流れ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ボクは、ただ強く在りたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あずき屋だよこんにちは。
もうこういうのめんどくさくなってきたよね。

遅れてごめんなさい。
意味分かりづらくてごめんなさい。
戦闘描写なくてごめんさない。

謝り始めたらキリがないからこれくらいにしておくよ。
まだ見てくれている数少ない人達へ。
現実はなかなかに残酷です。
それでも頑張りますので、何卒どうかご容赦を。

また次のページで

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