少年成長記   作:あずき屋

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「はっ!!
この胸騒ぎは!」

「ん、どうしたのリヴェリア?」

「なになに?
なんかヤバげなことでも起きたの?」

「ラジエルが間違った食事を勧められているような感じがする!」

「ある意味ヤバげやな」

「またガキの話かよ。
耳にタコが出来るわ」


第三章
第30話 少年、彷徨く


 

 

「済まん小僧。

やはりいきなり遠出の旅に出るのは無理があったようだ」

 

「えー、俺すっごくはりきってたのに。

オッタルうそついたー」

 

「嘘ではない、ちゃんと旅に出てお前を扱き上げる鍛錬は必ずするとも。

だが、流石に我が主神フレイヤ様も、こんなに早く発つとは思わなかったようでな。

我ながら張り切りすぎていたようだ。

オラリオの外へ長期的に外出するためには様々な手順が必要なことを失念していた。

まぁ、それは俺の部下に段取りを踏ませているため時間の問題ではあるのだが、如何せんそれでは時間を無駄にする。

よって許可が降りるまでの間、ダンジョンにて鍛錬を行うものとする。

雑魚をいくら相手にしたところで積めるものなどたかが知れているのだが、ないよりはマシだろう」

 

 オッタルがアストレア・ファミリアへ乗り込み、ラジエルとリューの前で衝撃的発言をしたその翌日、ラジエルは再び彼に呼び出されていた。

彼の思惑は、ラジエルを自らの手で叩き上げ、今一度戦いを行いたいというものである。

基本的に、冒険者たちは他ファミリアへの干渉を避けるのが一般常識であるという風に広まっている。

それは自分たちファミリアの情報が外部に漏れるのを避けるため、要らぬ諍いを回避するためといった理由が主に占めているからだ。

自分たちのステイタスのデータは勿論、極力弱点となる情報を隠すのが普通だ。

いくら親しいからといって、自分たちの内部情報が露呈されてしまえば夜健やかに眠ることは叶わなくなる。

その安全を常に確保するために、各ファミリアは秘匿主義を貫いている。

だが、事そういった話はこの二人にとってはあまり意味を成さなかった。

 

「俺じょーそーの敵あきたよ。

ちゅーそーもそんなに強くないんでしょ?」

 

「あぁ、あんなものその辺に転がる石と何ら変わらん。

蹴ろうが殴ろうが何の足しにもならん上に時間の無駄だ。

俺とやり合ったお前なら、どれを相手取っても退屈するだろう。

下層の奥深くならまぁまぁやりごたえのある輩はいるがな」

 

「じゃあそこ行こーよ。

あ、その前に俺あのおっきい奴と戦いたい。

ごらいあす、だっけ?」

 

「やめておけ。

あんな独活の大木を殴るくらいならサンドバックを殴っていた方がずっとマシだ。

動きは鈍間過ぎて欠伸が出る、攻撃は単調過ぎて避ける気も失せる。

結局他の雑魚と何一つとして変わらん。

それにお前は一度あいつを沈めているだろう」

 

「あんま覚えてないからまた戦いたいんだよぅ。

ねぇねぇオッタル、じゃあかそーに行こうよ」

 

「今のお前では一掠りの攻撃を受けただけで簡単に死ぬ。

力も経験もステイタスもまだ何一つとして足りていない。

まぁ何体かは殺れるかもしれんが、あまりにも効率が悪すぎる。

俺はお前の指導はするがお守りはせん。

却下だ」

 

「えぇー。

もうさっきからそればっかじゃん」

 

先程からこういった問答ばかり繰り返している始末だ。

ダンジョンにて鍛錬を行うとオッタルは言ったが、結局のところどれも相手にならない上に大した力も得られない。

自分から言っておいてラジエルの提案は悉く却下という判を押し続けている。

これもまた彼の意外な一面。

やると言った以上、半端なことは許さない。

やるならば全力で効率よく、且つ常に命を危機に晒し続ける状況でなければ納得しない。

オッタルもまた融通の利かない頑固な一面があるのだ。

 

「だからこうして昼飯を奢ってやろうと店を探してる。

まずは飯だ。

腹が減っては戦はおろか鍛錬も出来ん。

お前もどこか良さそうな店を探せ」

 

「俺この街に来たばっかりだよ?

おいしそうなお店なんて分かんないよ」

 

「じゃあ勘だ。

ここが美味そうだと直感で知らせろ」

 

「あ、それならいくつかあったね」

 

「早く言え」

 

「おい............何なんだありゃ?」

 

「何で猛者(おうじゃ)がこんなところにいるんだよ......」

 

「あの子、猛者(おうじゃ)が怖くないのかしら............」

 

「てか、何で肩車なんかしてんだよ。

猛者(おうじゃ)もスルーしてるし......訳がわからん」

 

「というかそれより」

 

「もう別にどこだっていいんじゃないですか?」

 

 さっきからこの問答を上から下へ、下から上へとずっと繰り返しながら歩いている。

正しくはオッタルだけが。

ラジエルはオッタルの肩に飛び乗り、勝手に肩車を成立させている。

歩くことに飽きたのかどうかはわからない。

ただいつの間にか肩に乗っている。

オッタルはどうでもいいといった感じを相変わらず周囲に振りまいている。

二人にとって、周りがどう囃し立てようが興味がない。

いつだって根本は強くなることだけ。

それ以外はどうでもいいのだ。

そんな二人を後ろからしっかり見守っている影があった。

 

疾風(リオン)、今の言葉は聞き捨てならんな。

いいか、食物の摂取は体を作るため必要不可欠なもの。

そんじょそこらの適当な店の出す飯ではいくら食おうがいい筋肉は作れない。

貴様も理解していよう。

飯とは自らの血肉を作り、且つより強靭な体を作るために欠かしてはならないということを。

故に、半端な飯屋ではならんのだ」

 

「変に力説されても返答に困るんですが......。

ラジエル、本当にこんな男に付いていって大丈夫だと思いますか?」

 

「でもオッタルしゅぎょー見てくれるっていうし」

 

「鍛錬なら私がいくらでも見ますよ?」

 

「リューはお姉ちゃんだからあんまり戦いたくない」

 

「............っ!!

猛者(おうじゃ)............ティッシュ、持っていないか?」

 

「好きに使い切れ」

 

不意打ちに鼻血を出して悶絶気味のリューを無視して再び店を探そうと歩き出すオッタル。

少年も再びしきりに頭を左右に振りつつ辺りを見回す。

リューが何故オッタルに着いてきたのかは至極単純。

そこに着いていこうとする弟、ラジエルがいるからだ。

戦闘以外において危機感が綺麗に抜け落ちているため、本人の知らない間にトラブルに巻き込まれるのを事前に防ぐため彼女はここにいる。

要するに少年が心配で着いてきただけの話だ。

 

「......んんっ!

お店を探すのはまぁいいとして、ラジエルは今防具がないためダンジョンに行くことは出来ません。

ヘファイストス・ファミリアに依頼してもすぐに用意出来る訳では無いんですからダンジョンも却下。

よって鍛錬は地上で行うべきです」

 

「地上では周囲に被害が出る。

加えて軟弱者共が彷徨いているしな。

変に触れ回られても動きづらい。

却下だ」

 

「周囲に被害を及ぼすほどの規模なのか......?

どちらにせよ装備品がない以上迂闊には潜れない。

最近多発しているモンスター暴走化の件もある。

ラジエルの身の安全の為にもそれは私としても許し難い」

 

「常に自身を危機に晒してこそ手に入るのが力だ。

ぬるま湯に浸かって得られるものでは無い。

貴様の考えは余りにも甘いぞ疾風(リオン)

 

「向こう見ずの行動の方が余りにも危険だ。

貴様とラジエルは違う」

 

「............」

 

「............」

 

「ねぇねぇ、なんで2人とも怖い顔してるの?」

 

空腹が招くものなのかは定かではない。

だが、それ以前に2人の考えは異なり、少年を導く方向性が全く別の方向を向いている。

姉として、少年をなるべく危機に晒したくはない。

凄惨な過去故に変わり果ててしまった彼を、これ以上歪めたくないのだ。

真っ当に生きて欲しく、正統な冒険者として育って欲しい。

少年が立派に成長するまで、最後の時を共にするまで目を離したくない。

それがリューの考え。

 

反面、武人は否が応でも少年を強くしたい。

長年燻っていた自分の闘志に火を付けられる相手を、漸く見つけたのだ。

何処までも強く、自分を殺せるだけの男に伸ばしたい。

忘れかけているあの高揚感を、命を天秤に掛け続けるあの興奮を与えてくれるかもしれない子をこの手で導きたい。

それがオッタルの考え。

 

「変な2人。

あ、あそこからすごくいい匂い。

あそこにしよーよ」

 

「ん、どれだ?」

 

「アレじゃないのか。

えっと、『豊穣の女主人(ほうじょうのおんなしゅじん)』という店名のようだ」

 

「............なんだと?」

 

「どーしたのオッタル?

なんか変な汗かいてない?」

 

「かいていない。

あぁ、かいていないとも。

今日は汗をかくほどの気候ではない。

たかだか徒歩程度で暑くなれるはずがないだろう。

そうだなあの店にするか。

俺の耳にもあの店は評判が良いと聞いたことがある。

小僧、お前の直感は正しい」

 

「どうした猛者(おうじゃ)

評判が良いと聞くのなら何故そんなに狼狽える?」

 

「狼狽えてなどいない、貴様の目は節穴か。

余りにも芳しい匂い故に興奮を覚えただけだ。

グズグズするな、さっさと行くぞ」

 

「わーいご飯だー」

 

豊穣の女主人。

冒険者だけに留まらず、一般庶民に対しても人気が高い飲食店。

ボリューム感満点の料理を始め、各種酒類も多く取り揃えているためこの店を目当てにやってくる客が後を絶たない。

価格も比較的高価過ぎるというでもないため、それらも含めて人気の要因となっている。

この店の名物と言えば聞こえが悪いのだが、店主が誰もが目を引くほどの人物という話がある。

何故オッタルの表情が僅かに強ばったのかは不明だが、店に入ること自体は不服ではないらしい。

不審に思うラジエルとリューではあるが、そんな2人の気持ちを他所に堂々とした足取りを装ってオッタルは店へ進んでいく。

 

「バカなこと抜かしてんじゃないよ!!!」

 

「ぐほぉぉぉぉああぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!!」

 

「な、何事ですかっ!?」

 

「ぬぇ?

なんか飛んできたよ?」

 

「散々食い散らかしておいて挙句の果てに金が足りねぇだぁ?

寝言を聞いてる暇なんてこっちにはないねぇ。

常に猫の手も借りたいほど忙しいんだ。

アンタ、ウチを配給所かなんかと勘違いしてるんじゃないだろうね?」

 

「ほ、本当なんだ!

勘定完全にしくじっちまっただけなんだ!

今日中に耳揃えて返すからどうかご勘弁を!!」

 

「ほう、そいつは殊勝な心掛け............なんとでも言うと思ったのかい!!?

こんの食い逃げがっ!!!」

 

「まだ逃げてぎゃあああァァァ!!」

 

「............」

 

「途轍もない迫力......ですね。

いや、あの方何処かで見た覚えが」

 

「あの人すっごく強そーだね」

 

店の戸を吹き飛ばして飛び出してきたのは冒険者と思われる身なりをした男。

冒険者をも殴り飛ばすほどの存在は、同じく冒険者でもなければ難しい。

悠々と大地を踏みしめ、烈火のごとく怒り狂った表情をした店員がその面貌を明らかにする。

彼女の名はミア・グラント。

ここ豊穣の女主人の店主にして元冒険者。

この店のルールは彼女自身。

無銭飲食など、例え神が許そうが彼女は絶対に許さない。

不埒で軟弱者の冒険者には、この店のルールに則り然るべき措置を取る。

それ即ち。

 

「さぁ、所属ファミリアが何処なのかとっとと吐きな。

それが済んだら掃除に皿洗い、諸々の雑務を一人でこなすんだよ!

キッチリ代金請求してボロ雑巾のようにこき使ってやる。

ここじゃあたしがルールだ。

ギルドとファミリアにチクられたくなきゃキリキリ働け。

勿論その間一ヴァリスたりとも出さないからね!!」

 

「クッ、調子に乗りやがってクソが!

こちとら毎日危険な冒険繰り返してる冒険者様だぞ!

おいテメェら!

このババァ袋にしてトンズラこくぞ!!」

 

未だテーブルにて座っていた数人の冒険者が重い腰を上げる。

周囲の客は怯えきり、巻き込まれないように声を押し殺すだけ。

こうした諍いはよくあることではあるが、今回ばかりは少しばかり状況が異なった。

ミアの機嫌が悪かったこと、相手方の暴言が思った以上にひどかったこと、支払いの額が普通より多かったため。

様々な要因が重なり、状況をより混沌にしてしまっていた。

 

「ちょっと力を持っていい気になってるクソガキどもが。

まだ世間をよく知らないようだね。

社会勉強がてらに、ちょっとキツイお灸を添えてやろう......か?」

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

「何だこのアマ!

いきなり何しやがる!!」

 

ミアと冒険者たちとの間を風のように流れる影が一つ。

淀んだ空気を掻き出し、発生源である悪漢どもの一人の意識を一撃で刈り取る。

 

 

「不逞な。

横暴はそれくらいにするべきだ。

貴様らのような下賎な輩が冒険者を語るな。

これ以上の狼藉、働くならば容赦はしない」

 

「おうおうエルフじゃねぇか。

流石にいい女だなぁ......ちょっくら遊び倒して売っぱらっちまえば当分は遊んで暮らせるぜ!!

ヒャハハハ!!

カモがネギ背負ってやってきたってか!?

さっさと頂いちまおぶへぁ!!」

 

「おじさんたち気持ち悪い。

リューには触らせないよ」

 

「こ、このクソガキ!!

やっちまえ!

おい!なにボサッと突っ立ってんだ!!」

 

「いや............あれ......」

 

「は!!?」

 

「俺の恩人の店で、随分とはしゃいでくれたものだ。

新参者にして無知とは救い難い。

どうあれタダで返すわけにはいかんな。

このツケ、簡単に払いきれると思うなよ雑魚ども」

 

「うああああぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!

お、おお......お、猛者(おうじゃ)ァァァァァァァ!!!」

 

少年の背後に佇む最強の冒険者。

彼が一瞥でもくれれば、どんな悪党も揃って口を閉じる。

そして、決まってその後は凄惨な末路を辿る。

 

 

「小僧、5秒以内にこいつらを捕らえろ。

全員まとめて吊し上げだ」

 

「おっけ」

 

「「「「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

 

____________________________

 

 

 

「あっははははは!!

そうかいそうかい、タル坊の連れだったのかい!

みっともないモン見せちまって悪かったねぇ!

その上お代以上の代金搾り取ってくれるたぁいい子たちだ。

感謝するよお前たち」

 

「いえ、見過ごせなかったものでつい動いてしまいました。

お店も特に荒らされていないようで安心です。

............ラジエル?どうですか?」

 

「すごいよリュー。

ちょきん箱みたいにどんどん出てくる」

 

「小僧、逆さ吊りのまま上下に振ってみろ。

まだまだ落ちてくるかもしれん。

鐚一文残すんじゃないぞ」

 

愉快通快とばかりに盛大に笑い飛ばすミア。

不正や揉め事を起こさず、金勘定がしっかりしていればどんな相手だろうと客として歓迎する。

その出で立ちは大の男より大きく、オッタルにすら引けを取らない屈強な肉体を持つ。

彼女の種族はドワーフ。

女性でありながら男性顔負けの膂力を誇り、どんな相手に対しても一歩も引かない強靭な精神力も兼ね備えている。

その正体はLv.6の元冒険者にしてフレイヤ・ファミリアの元団長。

小巨人(デミ・ユミル)の異名は、彼女が一線を退いた今でも色濃く冒険者たちの間に残っている。

 

「騒がせて悪かったね。

たんとご馳走してあげるからゆっくり寛いでいきな。

あたしはミア、ミア・グラントさ。

騒ぎを起こしておいて何だけど、これからもご贔屓にしてくんな!」

 

「これはこれは申し遅れました、リュー・リオンと申します。

あの豪快な姿、合点がいきました。

フレイア・ファミリアの団長にしてLv.6の一流冒険者。

引退したと聞いていましたが、まさか開業していたとは驚きました。

Lv.6にしてお店をも開ける料理の腕前があるなんて............心底羨ましいです」

 

「元だよ元。

今はフレイヤ様のご好意で一線から引かせてもらって、こうやって元気に店やらさしてもらってるだけさね。

アンタも相当腕の立つ冒険者らしいね。

......あぁ!こっちも合点がいったよ!

アンタが話に聞く魔法戦士かい。

こんな可愛い子だとは思わなかったよ。

ふんふん、見れば見るほどいいじゃないか。

どうだい?あたしの店で働く気はないかい?」

 

「い、いえ......ご好意は嬉しいのですがお断りさせて頂きます。

今はちょっと手の掛かる子から目が離せませんので」

 

「そうかいそりゃ残念だ。

まぁ気が変わったらいつでも言ってくんな。

いつだって歓迎するからね!」

 

「それにしても、何だか新鮮なものですね」

 

「うん?」

 

 

リューが後ろをチラと見やると、そこには猛者と少年の姿があった。

悪漢共を吊し上げ、折檻をしている姿はどうにも穏やかなものではないが、それ以上に新鮮味を持っていた。

あのフレイヤの側近であるオッタルが高圧的になれない人がいるなんて。

 

「まとめてぽーい」

 

「伝令は既にしてある。

直にギルドの使いが適当に処理するだろう」

 

「全くこっちを見ようともしませんが」

 

「あぁいいのさ。

昔にね、ガキの頃から扱き過ぎちまったせいか、どうもあたしには頭が上がらなくなったみたいでねぇ。

別になんとも思っちゃいないんだから普通にすりゃいいのに...コラァ!アーニャ!

くっちゃべってないで仕事しな!

尻尾とっ捕まえて振り回すよ!!」

 

「ニ”ャニャ!!

ゴメンにゃミア母さん!」

 

「どーしたのオッタル?

急にふるえて、さむいの?」

 

「戯け、そんなわけが無いだろう。

武人足る者戦える状態を常日頃から保つ必要があるのだ。

これは武者震いというやつだ。

軟弱者では務まらないからな。

お前もよく分かっているはずだ」

 

「......なんだろ、揺れてる。

ねぇリュー、ダンジョンでもないのに地面が揺れてるよ」

 

「筋金入り、のようですね」

 

あちらの状況を知った上で、リューはにこやかに手を振る。

猛者にすら苦手な人物は存在した。

別に他人の秘密を知ったからどうという事ではないが、何となく心が晴れやかになった気がした。

何かとまでは言わないが。

 

「......さて、ゴミ掃除も片がついた。

団長、早速注文いいだろうか?」

 

「っはは!!

まぁいいさね。いいよ、なんでも言いな!」

 

「ラジエル、さぁここに座って。

足がつかず落ち着かないかもしれませんが我慢してください。

どれを注文しますか?

この“緑野菜の激流”という料理が私はすごく気になっていますが」

 

「馬鹿を言うな、肉一択に決まっている。

メインは必ず肉。

前菜やオードブルも必ず肉を入れるべきだ。

小僧、肉を食え肉を。

食うならこの“激・肉のカーニバル”にしろ」

 

「何処ぞの筋肉ダルマと一緒にするな。

バランスよく食べてこその体づくり、偏った食事は断固として反対だ。

特に野菜は食べるべき。

体の調子が改善される野菜を中心にするのが正しい」

 

「これおいしそう。

ねぇねぇネコのお姉さん、これなんて読むの?」

 

「どしたちみっ子?

あァコレか。これはあたしが考案した自信作だ。

考えに考え抜いた至高の一品!

ミア母さんも頷いた最高の魚料理ニャ!

名付けて“悪魔鮭一本釣り”!

ちみっ子は分かってるニャ、今のあたしの気分はとても晴れやか。

サービスで“悪魔鮭の卵”をふんだんに使った丼もつけるニャ」

 

「そのような考えは最早古い。

否、原始時代の考えに近いな。

いいか、人とは本来肉食生物なのだ。

多くの肉を食らってきた生物こそ覇者となれる。

学者の戯言を信じる方がどうかしている。

あれは軟弱者の泣き言を正当化しようと言い訳を並べているに過ぎん」

 

「バカなことを...愚かしい。

肉を喰らい続けたせいで脳まで筋肉になってしまったようだな。

肉類も確かに食べるべきだ。

だが、それは隣に野菜があってこその話。

あの草木から齎される恩恵こそ、ヒトの体を清く正しく作る。

豊富なビタミン、栄養素、潤沢なミネラル。

全てを兼ね備えているこの食材に死角などない」

 

「やった、それ食べたいな」

 

「おっけ任せろニャ!

汁物に“海を飲み干せ”もどうかニャ?」

 

「いいよー」

 

「草など食したところで何の足しにもならん。

そんなもの家畜にでも食わせておけ。

我ら武人が食すものは肉中心。

特に鶏肉がいい、良質なタンパク質が豊富で素晴らしい筋肉が作れる」

 

「貴様!

今の発言は聞き逃せんぞ!

そこに直るがいい!

薬草を煎じて飲まなければ辛い体にしてくれる!」

 

「グダグダ喧しい!!

全部作ってやるから待ってなガキ共!!」

 

食事は当分先の話らしい。

だがこれもまた食事の醍醐味。

多くの者と共に食べることこそが食の本当の楽しさ。

そこで様々な話に花を咲かせて、賑やかに食べること。

こうした場所に行儀はさほど気にしなくていい。

ただ楽しめればそれでいいのだ。

 

最も、この面々でそれを理解する日が遠いことは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ラジエル(小僧)野菜()食べなさい(食え)」」

 

「どっちも食べるー」





どうも皆様、私だよ。
気づけば新年間近、18年が終わりを迎えようとしています。
リニアモーターカーで駆け抜けたかのようにあっという間でした。
久々故に私、筆が若干鈍っております。
いや指だね。
あっちの方が通常通りの平常運転な働きです。
どうでもいいですね。

久々に更新しました。
旅に出ると言ってもそんなに早く許可が降りる訳が無いので小休止を挟みました。
ミア母さんってこんな豪快でしたっけ?
アーニャってこんなバーサーカーみたいな喋り方でしたっけ?
何もかもが曖昧でフワフワしてますが、虹作品ということで勘弁して頂きたい。
こんなモンだと厠に流して下さい。

それでは皆々様、良いお年を。
そして、縁があれば年を越えてまたお会いしましょう。

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