少年成長記   作:あずき屋

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────さぁ、どこから介入してあげようかしら。







第25話 少年、絶望に踏み入る

 

 何かが、自分の中から滑り落ちていく感覚がする。

思いや絆、記憶、感情、涙といったもの。

ほぼ全てがあやふやで、曖昧で、形が一定でないもの。

だが、それらは大切なもの。

人して、なくてはならない不可欠なもの。

自分が自分であるために、決して欠かしてはならないもの。

 

 

────っていく。

 

 

 この世で大切なものは、形あるものだけじゃない。

確かに、生きていくためには形あるものを消費して、日々を繋げていく事に直結する。

それは生きるために必要なこと。

だが、それは生きているだけに過ぎない。

生かされていると言ってもいい。

命は、そんな単純に解明されることではない。

ではそれは一体何なのか。

真の意味で生きるとはどういうことなのか。

 

 

──────く。

──も、かも。

 

 

 それは、求めること。

形のないあやふやな概念を求め続けること。

それを手に入れることで、自分という器を昇華させられる。

優しさを得られれば、人に手を差し伸べられる。

強さを得られれば、人の道を正せる。

知恵を得られれば、人の行いを導ける。

抽象的概念はそれこそ無限に存在する。

概念に触れることで、自分という器は成長していき、中身は満たされていく。

そうして、触れたものを自分の中で育み、育ったものを周囲へ還元していく。

この世の人の摂理は、そうした人の感情で循環しているのかもしれない。

 

 

─────た。

ま──一つ、お──。

 

 

 人の営みとは、そういった形のないもので形成されてきた。

その結果文明が発達し、文化が芽生えてきた。

言語が生まれ、感情が生まれ、輪が広がっていった。

それが人の歴史。

全ては抽象的概念なくしては語ることはできない人の行い。

目に見えないものは総じて信憑性を欠いてしまう。

優しさという概念を知らない者に優しさを説いたところで、その者の心に優しさを響かせることはできない。

それは自分から歩み寄り、求め、そして手に入れて実感するもの。

自分から手を伸ばさなければ、概念は一生涯を掛けても理解することはできないだろう。

歩み寄らなければ、手に入れられないものだ。

 

 

 

 

 

────また、無くしてしまった。

一つ、また一つと溢れていく。

中身のない、空っぽの容器に戻っていく。

 

 

 

 

 総じて、例外というものは存在する。

とある少年が、その枠組みから押し出されてしまっている。

感情の欠落。

記憶の欠如。

人格の欠損。

概念を理解し、受容し、育み、周囲へ広げていくことこそが人生の義務。

それを果たせなくなってしまった時、その者は人といえるのだろうか。

この矮小な存在を見てどうだ。

顔からは表情が消え、無気力で、無関心で、記憶をなくし、人格は元あったものではない。

自分から生きるために大切なものに手を伸ばすことができない。

否、伸ばすことを忘れてしまった。

あの日から、少年の心は致命的に壊れてしまっていた。

今ある人格は、心の欠片を無理矢理寄せ集めて形成した不安定なもの。

まだ器はある。

周囲の者から、確かに良い影響を与えられている。

徐々に満たそうと、滔々と注がれている。

だが、それを自覚できるのは本人しかいない。

 

 

 

 

 

────何も、感じなくなっていく。

まるで、砂時計みたいだ。

溜まっては落ちていく、そんなことの繰り返し。

 

 

 

 器はあるが、それは決して綺麗に復元されたものではない。

器は心の形そのもの。

彼の心は、とうの昔にヒビ割れている。

中身を注がれようと、溜まらなければ意味はない。

小さく穴の空いた器では、大切なものを保管できず、気づけばすぐに無くなっていく。

彼はそれを繰り返している。

注がれては零していく。

積もらせては崩していく。

建てては倒れていく。

彼の心は、そうしたものを残せなくなった。

人として大切な何かを、溜め込んでいけなくなった。

自覚があろうとなかろうと関係ない。

もう、純粋な人の道に戻ることは出来ないのだから。

堕ちた者は、堕ちた者に相応しい場所へ堕ちていく。

それが人の道ではないということだけだ。

 

 

あぁ、やっぱりここへ落ちるんだ。

 

 

 一つ言えるとすれば、その先は果ての見えない黒ということだけだろう。

それより先は、その先を見た者にしか分からない。

 

 

__________________________________

 

 

 

 ダンジョンには安全階層(セーフティポイント)と呼ばれる比較的安全な階層が存在する。

それがここ18階層だ。

岩や土だけのこれまでの階層と異なり、草木が多く生い茂った自然満ち溢れた空間。

木々には果物が多く実りをつけていることから、食料の問題もない。

清く透き通った水辺もあるため、ここではオラリオに匹敵するほどの生活環境が整っている。

その高い天井には長年かけて構成された巨大な水晶が剥き出しになっている。

水晶は時間帯により光を発するため、昼のように明るくなる時間帯もあれば夜のように薄暗い時間帯も存在する。

その様はまるで地上のよう。

中にはモンスターも存在するが、ここ18階層に滞在するモンスターは比較的穏やかであるため、刺激さえ与えなければ襲ってくることはほとんどない。

危険に満ち溢れたこのダンジョンの中で、何故このような階層が存在するのかは判明されていない。

分かっていることは、ここが危険なダンジョンの中で貴重な安全な階層であるということ。

ここではキャンプを作ることもできるため、ここまでたどり着いた冒険者たちは皆体を休め、英気を養うことができる。

 しかし、少なくとも今日だけは事情が異なった。

自然豊かで静かな階層に不釣り合いな怒号が飛び交う。

湖を振動させるほどの激動が響く。

その原因が変異した階層主、赤いゴライアスの侵入。

過去例のない安全階層(セーフティポイント)に階層主が侵入したのだ。

 

 

 

「────────────────────ッッッァァァァ!!!!」

 

 

「ギャアアァァァァ!!」

 

 

「クソっ......何なんだあのバケモノ。

今までのゴライアスと全然違ぇ......。

どうなってんだよこりゃ!!

少なくとも、あいつがまた出る頃合いはまだ先のはずだろ!!」

 

 

「原因の究明は後回しにしろ!

今は目の前の敵に集中せんか!

こいつがこのまま野放しにされれば、お前たちの商売はおろか、冒険すらままならないんだぞ!!」

 

 

「クソッタレがっ!!」

 

 

 

 現在変異種ゴライアスと、18階層に在中している冒険者たちが交戦中。

縦横無尽に暴れまわる巨人を相手に、苦戦を強いられている最中だ。

多勢に無勢の状況ではあるが、如何せん相手が悪すぎる。

身体能力が強化されているだけではなく、従来のゴライアスにはない特性を持っている。

厄介極まるのが咆哮(ハウル)

叫ぶだけのため、実質ノーモーションでこちらの行動を抑制してくる。

思うように動けず、動けないところに強烈な一撃を見舞ってくる。

加えて魔法の威力を減衰させるあの赤い肌。

リヴェリアの魔法の拘束を容易く引き千切り、強引に攻撃を押し通してくる様には、流石のロキファミリアの面々も絶句した。

攻防ともに優れたフィジカルを有しているため、生半可な攻撃は通用しない。

 

 

 

「傷がすぐ様回復するってアリかよ!!

何遍攻撃当てても意味ねぇじゃねぇか!」

 

 

「怯むな!!

必ず突破口はある!

それを見つけ出すまで耐えろ!」

 

 

「無茶言ってくれるぜ!

あんな攻撃、盾役(タンク)でもそう何度も受けきれるモンじゃねぇぞ!!」

 

 

「では諦めてここで死ぬか!?

戦えるのなら歯を食いしばれ!

剣を握れるのなら迎え撃て!

立てるのなら踏みとどまれ!

生きているのなら、生きることを諦めるんじゃない!!!」

 

 

「クッソ......!!

人気急上昇中のロキファミリアの眷属は言うことがちげぇ!!

スパルタもいいところだ!

べっぴんと見て侮ってたツケをこんなところで払わされるとはな!!」

 

 

「─────────────────────ッッッ!!!!」

 

 

 

 互いを鼓舞し、互いを叩き合いながら戦意を煽る。

劣勢の場合にはよくある光景だ。

叱咤激励を欠かすことなく士気を向上させることで、味方の戦意を喪失させることなく戦闘が続行できる。

荒療治ではあるが、これも立派な戦術のうちの一つだ。

だが、それも長くは保たない。

こうしている間にも巨人は暴れ、冒険者たちに深手を負わせていく。

前衛にはステイタスを一時的に向上させる魔法をかけているとはいえ、それでも上回れない。

総勢100名余りの数を揃えたはいいが、未だに決定打を打てていない。

このままではジリ貧だ。

徐々にこちらの戦力は削がれ、最終的には蹂躙されてしまうだろう。

 

 

「準備できたぞ!

前衛、射線を開けろ!!」

 

「引けぇテメェら!!

奴の顔面を火ダルマにする魔法を拝んでやろうぜ!!」

 

「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

 

 

前衛が注意を出来るだけ引きつけ、後衛の魔法部隊が一斉に魔法を解き放つ。

大人数で巨大モンスターに挑む際に行われる基本戦術のうちの一つ。

大火力を一気に放ち、続けざまに前衛が一気に突き崩す。

敵に態勢を整えられる前に押し崩し、一息入れる隙を与えないまま倒しきる。

注意を前衛に集中させていたゴライアスは、前衛の後方より飛来する魔法をモロに受ける。

誰が見てもゴライアスにとって痛手になったはずだ。

 

 

「そぉら畳み掛けろぉぉぉ!!!」

 

「休む暇を与えさせるな!!

これで一気に追い込め!!」

 

 

爆煙が巨人に上がり、態勢が僅かに崩れたのを見逃さない。

今なら一気に突き崩せる。

このまま質量戦に持ちかけて、再生する暇を与えないまま倒せる。

いかに常識を超えた再生能力があろうとも、致命傷に持ちかけるのは不可能じゃない。

回復力を上回った攻撃を続ければいいだけだ。

前衛が一気に巨人に雪崩れ込む。

魔法支援部隊は油断せず、次なる魔法の詠唱に取り掛かる。

これで押し込めなかったとしても、次に繋げていけば必ず倒せる。

誰もがそう信じて疑わなかった。

 

 

「───────────────────────ッッッッァァァァ!!!!!」

 

「ぎゃ」

 

「うっ」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

「......バカな、これほどの攻撃を浴びせて尚、崩せないのか......?」

 

 

難攻不落。

それがあの赤き巨人に適切に当てはまった気がした。

いくら物量で攻め入ろうと、いくら魔法を束にして放とうと倒れない。

明らかに常軌を逸している。

煙幕が晴れると、傷らしい傷を追っているように見えない。

途轍もない回復力だ。

正に最強の盾と矛を具現化したようなモンスター。

誰もがそう思った。

それでも食い下がるように執拗に攻め続ける冒険者たち。

彼らの姿は英雄譚に現れる戦士のようではあったが、敵があまりにも強力すぎた。

こちらの全力を、いとも容易く弾き返す。

繰り返し放たれる魔法を、蝋燭の火を消すかの如く吹き消される。

その光景は、次第に冒険者たちの心から戦意を奪っていった。

勝てるはずがないと。

 

 

「ゴホッゴホッ......!

......クソがァ、反則もいいところだぜ、あんのバケモン...。

もう何回吹っ飛ばされたかわかりゃしねェ......」

 

「痛っ......でも、まだ戦える」

 

「オイオイアイズ、ンな有様で強がんな。

お前が一番ボロボロだろうが......。

ハァハァ......変われ、次は俺が先行する。

このまま終われっかよォ......ぜってぇあいつの骨へし折ってやらァ!!」

 

「......そうだ、このままでは終われない。

少なくとも、まだ私たちは戦える。

立ち上がれる限り、何度だって食らいついてやるさ。

そうでなきゃ、ティオナを迎えに行けない。

こんな無様な姿で、あいつを迎えになどいけるものか」

 

「ケッ......頼んでもねぇこと勝手にやりやがって。

いい迷惑だぜ。

借り作ったままこんなところで寝てられるか。

とっとと返上してチャラにしてやる」

 

「うん、戦おう二人とも」

 

「あぁ、行くぞアイズ、ベート!!」

 

 

 そんな絶体絶命の状況下でも、少なくとも三人は戦意を失ってはいなかった。

ボロボロになった体に鞭を打って、懸命に立ち上がる。

まだ戦いは終わっていない。

まだ、自分たちは戦いを放棄してはいない。

勝手に終わらせるな。

自分たちは、まだ立っている。

戦いはここからだ。

 

 

「待って!!

リヴェリア!アイズ!バカベート!!」

 

「はぁっ!!?」

 

「ティオナ......?」

 

「無事だったか!!」

 

「───────ッッ!!?」

 

 

突如響く明るい声音。

それは、命を張って自分たちを守ってくれた少女の声だった。

18階層へ下る入り口の前で、ティオナは静止を求めた。

彼女は無事だった。

大きな怪我は負っておらず、至って健康そのものだったからだ。

彼女の声を聞いて、三人は驚嘆の声を漏らし、密かに安堵した。

だが、何故このタイミングで注意を引くような真似をしたのか。

その声は、間違いなく巨人にも届いているはず。

間違いなく攻撃の対象にされてしまう。

振り返る巨人。

たじろぐ少女。

戦慄する家族。

声を聞くべきではなかったと、この時リヴェリアたちは初めて後悔した。

 

 

「逃げろティオナッ!!!」

 

「──────────────────────ッッッッッァァァァ!!!」

 

「......っ!!」

 

 

無事でいてくれればそれでよかった。

仮に戦闘から離脱できて、帰りの道中で安否を確認できればそれで安心できたはずだった。

でも、彼女は声を上げてしまった。

多勢で仕掛けても太刀打ちできなかった赤い巨人を前に、今や彼女一人のみ。

距離が空きすぎている。

まず間違いなく間に合わない。

ゴライアスが咆哮(ハウル)を放って、拳を振り下ろせばそれで事足りてしまう。

安堵の矢先に見えたものは、紛れもない絶望だった。

それを打ち砕ける者がいるとするならば、それはきっと。

 

 

「弔獣戯我 『飛魚彗星(とびうおすいせい)』」

 

「─────────────ッッ!!!?」

 

「あ......あれは」

 

 

彗星の如く飛来する、一筋の軌跡。

それは突如として現れ、唐突に巨人の首を蹴り抜いた。

予測不可能の方向から、何の前触れもなしに痛烈な一撃を見舞われた巨人は揺らぎ、ティオナへ狙いすましていた拳を逸らしてしまう。

唖然としていた面々の遥か先に舞い降りる黒き影が一つ。

頭のてっぺんから足の爪先まで黒い人影。

リヴェリアは呆然としつつも、その影に見覚えがあることを感じる。

小柄で、自分の理解を遥かに超えた戦闘能力を有する人物。

戦いの際はいつの時だって唐突に、当たり前のように敵を葬ってきた少年。

 

 

「ラ......ラジエル!!?」

 

「おまたせ。

助けに来たよ、俺だけじゃないけど」

 

「その通りです」

 

「───────ッッ!!?」

 

 

文字通り風を切って現れたもう一つの影。

風のように自在に動き回り、巨人の体を駆け巡っていった。

吹き抜けるように、それは巨人の片方の光を奪う。

左目を木刀で完全に潰したのだ。

理解不能の出来事に困惑し、初めて負った深手を激痛の反応を持って返す。

実に効率的な攻撃だった。

 

 

「少しはこれで凌げるでしょう。

戦術は基本に則り、立ち回りに関しても文句なし。

前衛と後衛の動かし方をよく理解できていますね。

ですが、それだけでは足りない。

こちらの常識を超えた相手に対し、普段通りの立ち回りは危険な行為。

活路を見出したいのなら、まずは大きな隙を作りましょう。

さっきの通り、目を潰すなどして視界そのものを奪うように」

 

「あ、貴女は......」

 

「アストレアファミリア所属、Lv4のリュー・リオンと申します。

今回に限り、助力致しましょう」

 

「......Lv4の『疾風(リオン)』。

まさか、こんなところで出会えるなんて......」

 

 

現れた二人の影は、何故かとても心強いものに感じた。

ラジエルは未知数の実力を持ち、リューに至っては実力ともに折り紙つきの冒険者。

どちらも戦闘力的には申し分ない。

たった二人合流しただけで、僅かに希望が見えた。

決めに行くなら、この時しかない。

 

 

「総員聞け!!

強力な応援が駆けつけてくれた!

武器を取れ!立ち上がれ!

今こそ、反撃の狼煙をあげる時だ!」

 

 

士気が高まり、それが全員に伝わって行くのをはっきりと感じる。

体力は先ほどと比べればだいぶ落ちたが、気力は先ほどとは比べ物にならない。

ここが分水嶺と思え。

この波を利用して、一気に叩く。

今こそ自分にもてる最大限の力を振り絞って、冒険する時だ。

 

 

「ラジエル、貴方に細かな指示はしません。

思うがままに動いてみなさい。

私もできる限りのフォローをします。

ただ無理せず、深追いせず、死なないように。

そして最後には私の前に帰ってきてくれるように。

それさえ守ってくれれば、私は安心して戦うことができます」

 

「うん、だいじょぶだよ。

今は思いっきり、このおっきいの倒したい。

本気で行くよ」

 

「では、行きなさいラジエル」

 

「行ってきます」

 

 

瞬間、少年は疾駆する。

音を置き去りにし、高速で流れる風景を視界で捉えつつ、目の前の巨人に向かって突進する。

ゴライアスは左目に感じる痛みを食いしばって耐え、迫り来る気配を捉える。

弱点は確かに存在する。

相手が生物である限り、痛覚が存在することと、相手が人型であるということ。

痛みを感じるのなら、深手を追ったときは間違いなく怯む。

そして、人の形を持っているのなら、人型に共通する弱点が沢山出てくる。

最初に少年が攻撃したのも急所である。

首元は脳へ血液を送るために多くの血管が集中している。

そこに強い衝撃を与えれば、血液の流れを阻害させ、動きを大幅に遅らせることができる。

だが相手は人の常識を外れた存在。

人と同じ耐久性ではない。

だからこそ、打てる急所を剰す所無く打てばいい。

 

 

「おっきい人とそんなに変わんないよね。

だから、まず足からだね」

 

「────────────ッッ!!!」

 

「『熊手開門(くまでかいもん)

そぉれ、かっくんと」

 

「────────────ッッ?!!」

 

 

ラジエルが最初に狙うは体重を支える足。

そしてその関節のうちの一つである膝だ。

後方に回り込んで、強力な掌打を両手で放つ。

片膝を地面に付かせることで、その大柄な体格を確実に落とすことができる。

これなら、魔法でなくとも頭部への攻撃は届くようになる。

今回は戦を知っていれば勝てるというだけの話ではない。

人体の構造を、どこまで理解できているかが肝なのだ。

 

 

「ひざ、ついたね。次はそのおっきな腕。

飛魚彗星(とびうおすいせい)』」

 

 

膝が突如折れられれば、頭部を守るため必ず地面に手をつける。

人は防衛本能として、地面に対して頭部の接触を本能で避けようとする。

生物にとって脳は大切な器官だからだ。

足の態勢が崩れてしまうと、腕がそれを代わりにカバーしようとする。

それ即ち、まともに拳が振るえない態勢。

そして、少年はその腕の支えをも同時に崩す。

肘の内側に、縮地からの飛び蹴りを見舞い、関節を曲げさせる。

これで巨人は、一時的に寝そべる形になる。

つまり、急所への攻撃のチャンスだ。

 

 

「うっ......お、すげぇ...。

つ、突っ込めぇテメェら!!

しくじるんじゃねぇぞ!!」

 

「復元しかけている左目から攻撃しなさい。

次に狙うは首元です。

柔軟に動かさなければならない首は、他の部位より比較的強度が薄いはずです。

刃を持つ者は首元、及び関節を狙うこと。

隙あらば、顎を破壊して内部に魔法を一気に集中させなさい」

 

「えっぐい......。

でも、それならさっきより確実にダメージになるよね!!」

 

「───────────────ッァァ!!」

 

 

ラジエルがゴライアスの態勢を崩し、ほかの冒険者たちが一気に攻め立てる。

これなら拳を振るう暇など与えさせず、確実に追い詰めることができる。

巨人は、先ほどまでと全く異なる状況に困惑している最中。

正気に戻られる前に、一気に片をつける。

 

 

 

「ラジエル!!」

 

「『龍墜崩拳(りゅうついほうけん)』」

 

「ッッッ!!!」

 

 

赤いゴライアスの厄介な特性は、主にこちらの動きを抑制する咆哮(ハウル)

ノーモーションで放たれる攻撃は厄介ではあるが、その元を絶ってしまえば恐れることはない。

その根本、喉を潰しにかかる。

急速に回復していくとはいえ、随時攻撃を仕掛けていけば、その回復力を上回ったダメージを常に与えられる。

それを持続させていけば、間違いなく倒せる。

喉に攻撃を受けたゴライアスは、叫ぶことのできない状況に落とされてさらに困惑する。

 

 

「少しは静かになりましたね。

では、早急に始末にかかります。

ラジエル、ついて来れますか?」

 

「もちろん。

リューとなららくしょーだよ」

 

「えぇ......何この姉弟」

 

 

 戦況は覆りつつある。

しかし、絶望もまた確実に忍び寄ってきている。

じわりじわりと首を絞めるように。

このまま何もかもが上手くいくかと問われれば、その答えは否と断言できるだろう。

 

 





 いらっしゃい、あずき屋です。
お待たせいたしました。
新作お届けにあがります。


 いやぁ大幅に更新遅れて申し訳ない。
何分労働と疲労に追われていたものでこんな有様になってしまいました。
キーを叩くかどうかまで悩みつつ、時間がある時を重ねてようやく書きました。
前回と同じような雰囲気が出せているのか不安です。
ぶっちゃけおかしくなっている点もあることでしょう。
そこは皆さんの脳内変換を信じています。

 さぁ、いよいよここまでやってきました。
そしてついに参戦いたしました今作品の主人公。
下手なのはご愛嬌。
御都合主義もご愛嬌。
全てはご愛嬌という程のいい言い訳で成り立っています。
正直まともに取り合えば変異種のゴライアスに勝ち目はありません。
ですのでここは人体を効率よく崩していく策を取りました。
婦長の人体理解が光る場面でもあります。
なので、序盤はうまく崩しつつ、中盤から新たな波を加えて行きます。
この戦いさえ終われば、終盤さえ迎えられれば私の当初の目的は完遂いたします。
なのであと少しは踏ん張るつもりです。
色々突っ込みたいところは各自あると思います。
ですので質問等は是非とも送って見てください。
これまで通り返信できるかどうかはわかりませんが、できる限りは返したいと思っています。
黄色い声援も待っています。


 ではでは、また次のページでお会いしましょう。


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