「戦争、もとい争いというものを貴方は知っていますか?」
「俺の村に起きたこととは違うの?」
「そうですね。
貴方の村は一方的に襲われた。
それは蹂躙ということです。
抵抗する間も無く、一方的に他者を傷つける非道な行い。
人の尊厳も思いも、生命ですら己の都合で踏み躙る最低な行為です。
そして争いとは、それよりももっと色んな思惑が渦巻いていて、蹂躙よりも凄惨な光景です」
「どう違うの?」
「簡単に説明すると、戦争を行う両者は互いの信念が正しいと思い込み、それを力で相手にぶつけ、無理矢理説き伏せようとするものです。
自分たちが正しい、自分たちは何も間違っていない。
それを否定する者は全て敵である。
口で言っても無駄なら力を持って、武力を用いてそれを分からせる。
それは、実に愚かな選択。
一つの概念に対して、全ての人たちはそれに賛同しない。
皆自分の中で確固たる意志を持っているからです。
そこで争いが終わったとしても、次に自分たちの考えに賛同できない者たちが現れる。
争いとは、それが永劫に続く悲しい連鎖です」
「リューの話は難しくてよく分からないよ」
「確かにラジエルには早すぎる話でしたね。
でも、知っておいて欲しかった。
痛みと悲しみに包まれて過ごしてきた貴方には、特に知っておいて欲しかったから......」
「んっ、わかった。
ちゃんと覚えておく」
「......いい子ですね」
「止まれ!!
本日はダンジョンに入ることを禁ずる!」
「は、はぁ?
何だよいきなり、わけ分かんねぇよ。
潜るのは個人の自由のはずだろ?」
「今日はギルド上層部からダンジョン進入禁止令が下された!
暫くはダンジョンに立ち入ることは許可できない!
これはギルドによる決定だ!
規制が解けるまでは皆この街にて待機せよ!」
「えぇー!!
クエストの採集達成できないじゃん!
幾ら何でも勝手すぎ!
せめて説明くらいちゃんとしなさいよ!」
「詳しくは言えないがこれは既に上部より下った決定だ。
これに背く者はファミリアにペナルティを課すことも辞さない。
それが嫌なら待てとしか言えない!」
突如ダンジョン入り口にて敷かれた厳戒態勢。
ギルドから下された決定は、例え主神であろうと簡単には覆すことはできない。
ギルドに楯突くとなればそれ相応のペナルティを課されることとなり、資金の没収やダンジョンへ潜行する規制等の罰則が発生するため、皆口々では文句を述べようともこれに背くことはできない。
即ち、既に潜行している者たち以外は、ダンジョンへの一切の立ち入りが拒否されるということ。
唐突に無茶な判断を下すことがないギルドの反応だからこそ、尚更理解できない。
何故このタイミングで潜行規制が起きたのか。
「はぁ、皆好き勝手に言ってくれちゃうわね。
立ち入り禁止が設けられる程の事態になってるってことぐらい、想像できないものなのかしら」
「まぁまぁ、実際そこまで頭が回る人ばかりじゃないんだから仕方ないよ。
僕らも完全に出遅れちゃったから、完全に他人事の話じゃないし。
こればっかりは、リヴェリアたちを信じるしかない」
「まぁ......団長がそこまで言うなら。
でもでも、私たちが出遅れたのも仕方のないことじゃないですか!
ウチの安泰として本当に外せない会談でしたし、各方面に挨拶に回らなきゃ行けなかったし、本当にどうしようもなかったんですよ!
でも団長と二人っきりで出かけられる時間だったから嫌ってことじゃないんですよ?
むしろ嬉し......あ、いやいやそうじゃなくって!
なんて言うか、こう......あの、い...いい経験になるって意味で!
いや、ゆくゆくは違う意味でいい経験をしたいと思って......あぁごめんなさい!!
まだ日が早いですよね!
こういうことはもっと時間をかけてというか、私たちの関係をはっきりさせてからというべきか!」
「うん、そうだね。
今はここであれこれ問答していても仕方のないことだね。
団員を信じて帰りを待つことも、僕たちの立派な役目だ。
帰ろうティオネ。
ロキが待ちくたびれて待ってる」
「そ、そうだねって......いやーん!!
団長ってば大胆!
そうですよね、そんなに焦る必要ないですよね!
じっくりと時間をかけて、ねっとりとじっとりとジワジワ私の魅力を団長に伝えられればいいですし......。
あぁ子供の数は何人がいいですか!?
私はせめて二人は欲しいかなって前々から思っていたりして!
でもでも!
団長がもっと欲しいっていうのなら私はいくらでも頑張りますよ!!
子供ができた後でも夜の営みを疎かになんてしませんよ!?
家事全般も子育てもきちんとこなしてみせますし、正妻として役目は立派に果たしてみせます......ってあぁーん団長!!
待ってくださいってばぁ!!」
槍を携えた少年は、冷静にギルドの決定を分析していた。
物事は常に一側面しか表に出てこない。
隠されたその裏側にある側面を考えて想像し、他の要素から冷静に分析して全てを見通さなければならない。
見えるものだけで判断するのではなく、その裏側も見据えるべき。
団長と呼ばれた少年は、踵を返して自分のホームに向かって足を運び始めた。
ここで騒ぎ立てても自体が好転するわけではない。
今は職員の言う通り、待つ他ないだろう。
「皆、必ず生きて帰れよ」
仲間の生還を信じ、二人は去って行く。
自分たちのやるべきことを果たし、次の一歩へ進むための準備に取り掛かる。
そう、いつだって自分たちにはやることがある。
人の一生はそう短いものではないが、いつまでも続くというわけでもない。
生きているうちにやれることは限られている。
時間を無駄にしないよう、今できることに精一杯取り組む。
今は自分たちの帰りを待つ、親の元へと帰ろう。
そこから、次にするべきことをはっきりさせよう。
見た目に似つかわしくない雰囲気を携えた少年は、小さな笑みを零してダンジョンを後にする。
親とともに、皆の出迎えをするために。
_____________________________________
「──────────────ッッ!!!」
「クソっ!
攻撃範囲が広すぎる!!
避けきれ......ヒッ、うあああぁぁぁ!!!」
突然変異体のゴライアスには、戦法と呼べるものが一切通用しなかった。
通常のゴライアスより肉体は強固になっており、持つはずのない特殊攻撃と呼べる術を持っていた。
まずは
ただ雄叫びをあげるだけの簡単な動作なのだが、この巨人がそれを行うと話が変わってくる。
一度吼えれば身体が吹き飛ぶ。
それに耐えようと身構えれば無防備な姿を晒してしまう。
予備動作がない上に届く範囲は広く、連射も可能だ。
加えてこの嘆きの大壁前の広場、身を隠せる障害物がほとんどなく、さほど広い空間ではない。
自然と動きは限定されていき、身動きの取れなくなったところに総攻撃されるのが関の山だ。
「チッ......くしょっ!!
せめぇ中アクティブに動くんじゃねぇよ!!
「てかかったぁ!!
大剣が通らない時点で意味不明だし、そもそもこっちの攻撃全然通らないんですけど!!」
「攻撃は陽動程度にしておけ!
気を抜けば一瞬で持っていかれるぞ!」
「っ......硬い。
でも、斬れないわけじゃない」
「動きを止める!
皆、その間に
あの荒くれ供も、この惨事ならば加勢にやってくる!!
援軍を呼んでそこを叩け!」
「りょーかい!!
殿は私たちがするから、みんなは先に行って!!」
「い、行くぞぉ!!」
赤き巨人の体は極めて堅牢。
まるで鋼のような硬度を持ち得ており、Lv2の冒険者から繰り出される攻撃もほとんど通さない。
咆哮は敵を跳ね除け、鋼の肉体は一切の攻撃を遮断する。
そしてその巨体から繰り出される一撃は、どんな防御も破壊し、押しつぶしてしまう。
一見攻防ともに優れたモンスターに思える。
しかし、どんなに強い相手であっても、付け入る隙は必ずある。
今はそれを懸命に探し出すしかない。
「『終末の前触れよ、白き雪よ。
黄昏を前に風を巻け。
閉ざされる光、凍てつく大地。
吹雪け、三度の厳冬───我が名はアールヴ』」
「──────────────ァァァ!!!」
「
「いい加減こっちを向きやがれェ!!」
「切れないなら殴るまでっ!」
リヴェリアの詠唱が紡ぎ終わるまで耐えなければならない。
アイズは風を吹き放ち、
その間懸命に両足を攻撃し、ゴライアスの注意を引こうとするベートとティオナ。
少数精鋭でここまで息の合った陣形はなかなか取れるものではない。
誰もが鍛錬を怠らず、誰かの為に力を尽くそうとする心意気から生み出された結果。
今まで現状に満足せずに戦い続けてきたからこそ、少数でもここまでのことが出来る。
タイミングは完璧だ。
魂をも凍り付かせる吹雪が、大規模において展開される。
「『ウィン・フィンブルヴェトル』!!」
解き放たれた魔法は触れるもの全てを凍てつかせる冷気となり、ゴライアスの下半身をみるみる氷で覆わせていく。
だが全身を凍らせるには無理がある。
一度解き放ち、その後も精神力を込め続ければ或いは全身を凍り付かせる事は出来るだろう。
それをしてしまっては確実に
危険な賭けをするよりかはこちらの方がマシ。
より確実性のある可能性を掴み、反撃に打って出る。
今の彼らに勝機はない。
ならば一時撤退だ。
態勢を立て直して、徹底抗戦と行くべきだ。
「走れぇ!!!」
氷が砕けるには少し時間がかかる。
その間ゴライアスはその場から動く事はできない。
このまま
必ず間に合う。
氷が派手に砕け散る音を聞くまでは、少なくともそう確信していた。
「──────────────────────────ォォッッ!!!!!」
「な......んだとォ?!」
「ティオナァ!!!」
「行って!!」
「ティオナ!」
巨人は、自身の左足を氷諸共砕いた。
反動でもう片方の氷の枷も破壊され、一本足の跳躍を持って四人に迫り来る。
完全に誤算だ。
リヴェリアは一瞬で後悔の念に苛まれた。
せめて片腕まで凍らせておくべきだった。
機動力だけ奪うのではなく、動きの選択肢をも狭めておくべきだったのだ。
少女は懸命に腕を伸ばした。
三人の大事を優先し、下り坂となっている通路に自分を除いた全員を突き飛ばす。
全滅寸前のところで見出した唯一の道。
それは、簡単に真似することの出来ない自己犠牲の姿。
ティオナは三人に託した。
アレに目を付けられては生きて出られない。
みんなと力を合わせて、必ず倒して欲しい。
そして、必ず生きて帰って欲しい。
ただそれだけを願った決死の選択。
「必ず......後で追いつくから!」
「テメェェェェ!!!
ンな馬鹿な真似があるかよォォォォ!!!」
「必ず助け出す!!
それまでの辛抱だ!!
死ぬんじゃないぞ!!
死ぬなティオナァァァァ!!!」
やがて三人の姿は下へと消えて行く。
この通路は殆どが下り坂である為、一度勢いをつけて転がり込めばすぐにでも次の階層にたどり着ける。
それまで、自分の命があるかどうかは分からない。
振り返れば不恰好な態勢で拳を振り下ろそうとする巨人の姿が迫り来ている。
防御の態勢は取れる。
だが、それでもあの勢いから身を守り切る事は不可能だ。
それなりの時間をこのダンジョンで過ごしてきたから分かる。
自分に、死が差し迫っていることを。
だから、心が挫けそうになる。
自分の目の前に、どうしようもない現実が叩きつけられている。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーァァァァッッ!!!!」
大地が波を打って揺れる。
渾身の力で叩き込まれた一撃は、紛れもなく大地を揺らした。
着弾箇所から数十メートルに渡って衝撃が走り、小規模のクレーターが生み出される。
超重量から繰り出される鉄槌。
まともに受ければ一溜まりもない。
人の形すら保てない程の破壊力だ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」
目標の排除に成功した巨人は雄叫びを上げる。
しっかりと両脚で大地を踏みしめ、肺から空気を吐き出し切るまで声を上げ続けた。
自身で砕いたはずの足は、損壊の後もない。
完全に元通りに再生されたのだ。
これが赤いゴライアスの特徴的特殊能力の一つ、超速再生能力だ。
無尽蔵に近い量の魔力量を込められた魔石を破壊しない限り、如何なる損傷も即座に再生してしまう破格の力。
最早並大抵の戦力ではこの巨人を止められない。
文字通り、このダンジョン内にいる冒険者の総力を結集しなければ、彼らに明日は無い。
太陽を拝むことなく、このダンジョンの中で朽ち果てる。
ここですべき事を終えた巨人は、次の階層に向けて進軍を行う。
何処に逃げようとも無駄だ。
必ず全員見つけ出して息の根を止めてやる。
そう言わんばかりの思念を漂わせ、邪魔な大壁を破壊して行く。
「............行ったね」
「えぇ......行ったようです」
「ひぐっ.....えぐ、うえぇぇぇぇぇぇん......。
怖かったよぉ......」
「よーしよし、怖かったねティオナ。
何とか間に合ったよ」
「...はぁぁぁぁ。
本当に一時はどうなることかと。
振り回される方の身にもなって下さい......。
でも、今回貴方の感知を信じた甲斐がありました。
寸でのところで救えたのは奇跡ですよ」
「だって......だってみんなが死んじゃうっ思ってぇ......それ、で私......頭真っ白になって......」
「一部始終も見ていないので何ともいえませんが、とりあえず無事で何よりです。
貴女は、ちゃんと助かりましたよ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
瓦礫の陰で息を潜め、巨人をやり過ごすことに成功したラジエルとリュー。
堰を切ったように、ラジエルの腕の中で子供のように泣きじゃくるティオナ。
死ぬ覚悟で体を張ったとはいえ、死ぬ事はどうあっても怖かったのだ。
恐怖より先に身体が動いてしまっていた。
だから、死んでも後悔はない。
それでも、あの一瞬で二人が助けに入ってくれなかったら死んでいたと思うと、追いつかれた恐怖に反応を示すしかない。
ラジエルは、そんな一途な思いを持った彼女を知っていた。
だからこそ余計放って置けなかった。
あんな明るい太陽のような目を持った子が、こんなところで命を落としてはいけない。
リューもまた、最初は危険域に飛び込もうとする少年を制するつもりで追いかけた。
他人の心配より自分の身を案じること。
非情な対応ではあるが、命のやり取りを延々と迫られるダンジョンにおいては必要な冷徹さだ。
でも、彼の前だけを見ていた姿勢を無碍にすることもまた、リューには出来なかった。
『ラジエル、こちらは片付きました』
『こっちも終わったよ。
やっぱり大したことなかったね』
『あの数を相手に言い切れる貴方も相当ですね......。
まぁ、特に大きい怪我もないようで安心です。
流石にこの辺りで引き返しましょう。
またいつ襲われるか分かりませんからね。
......ラジエル?』
『......聞こえる』
『聞こえるって、何のことですか?』
『聞こえたんだ』
『だから何が、ってコラ!!
ラジエル!!
勝手に進んではいけないと言ったはずです!!
止まりなさい!!』
『聞こえる......聞こえた。
大きい声、小さい声。
覚えてる、この声。
間違いない、ティオナの声だ』
『っ!!
力づくでも連れて帰りますよ!!』
『行かなきゃ......早く、早く行かなきゃ。
『
『私が、追いつけない?!
くっ、もうゴライアスが目の前に!
見たことのない色ですが、今は関係ない。
止まりなさいラジエル!!』
『あの先に、ティオナがいるんだ』
我を失うほどの窮地だった。
だから、ラジエルもリューの制止の声を聞き取れなかった。
戦闘ではなく、救助の為に動いたラジエル。
一戦交える気がないとリューは感じとったが故に、彼の意図を察することが出来なかった。
初めてだったからだ。
少年が、自分の言葉より自分の決断を優先したのが。
これまで受動的に行動していた彼が、初めて自分の目の前で能動的に動いたのだ。
疾走中、一抹の寂しさを胸中に覚えたものの、少年の変化がそれ以上に嬉しかった。
だからこそ、危険を承知で一か八かゴライアスの目の前に滑り込んだ。
拳がティオナを直撃する寸前でラジエルが彼女を抱え、直撃をリューが木刀で僅かに逸らして防いだ。
何かに当たったと気付かせないよう滑るようにいなすのは至難の技だった。
リューだからこそ為し得た芸当。
一瞬にしてギリギリの大活劇。
巨人が無我夢中で助かった。
あの時、こちらの姿を冷静に見られていたら、ここで悠長に会話などしていなかっただろう。
「あの赤いゴライアスといいここ最近のモンスターの凶暴化......ここまでくればもう無関係とは言えないでしょう。
あまりにもタイミングが良すぎる。
こんな偶然、普通なら重なることはまずあり得ません。
ティオナと言いましたね。
あのゴライアスとここで何が起きたかを詳しく説明していただきます」
ティオナ救出は上手くいったが、ダンジョンの根本的解決には至っていない。
むしろ本番はここからといえよう。
モンスターが無差別に凶暴化しているのなら、先ほどの色違いのゴライアスも何らかの影響を受けている。
雑魚ならまだしも階層主が更に強化されているのなら、これから待ち受ける戦いは一筋縄では行かない。
最悪死傷者が出る可能性も大いにある。
立てられる策は全て立て、打てる手は余さず打つべき。
「ラジエル、ここまで来てしまった以上致し方ありません。
冒険者として貴方の力を宛にさせていもらいますよ。
覚悟はいいですね?」
「いいよ、のぞむところ。
今度はこっちから仕掛けよう」
「ぐすっ......だ、だめだよ!
『
私らLv2の攻撃ですら傷すら付けられなかったんだよ!?
しかもよく分かんない技も仕掛けて来たし、ふつーのゴライアスとは全然違うの!
そんなの相手に、つい最近来たばかりのキミを戦わせるわけには行かない!
助けてもらっておいて何だけど......これだけは絶対だめ!」
「大丈夫だよ、ティオナ」
「だ、大丈夫って」
「俺はまだ、ぜんぜん力を出し切ってない。
あ、でもオッタルの時はぜんりょくだったっけ?」
「お、『猛者』!!?」
「まぁいいや。
何とかなるよ。
リューだっているし、まだやってない技だって残ってるし。
それに」
「......それに?」
こちらを全力で止めに来るティオナをやんわり押し退け、大壁の先を見つめる少年。
使い古された籠手はあちらこちらに小さなヒビがは走り、脚具には欠損が多々見られた。
体術を軸として戦うことを知っているからこそ、どう考えても巨人を相手にする装備ではない。
裸一貫でドラゴンに挑むようなものだ。
それでも、少年から闘気が途切れることはない。
むしろ初めて会った時よりも強く見えた。
「よく分からないんだけどさ。
なんか、胸の奥がざわざわして、すごく気持ち悪いんだ。
あの時のティオナを見た時から、ぜんぜん消えないんだ」
「.........」
胸に違和感を感じると少年は言った。
いつもと同じ表情ではあるが、自分の中にあるものに疑問を持ち得ているようだ。
それが一体何なのかは本人にも分からない。
ただ、リューには何となく検討がついていた。
恐らく、自分の親しい者に対して拳を振るったあの巨人相手に、怒りのようなものを抱いているのだろうと。
もちろんこれはただの推測。
本音は彼の心の中にでも入って直接聞かなければ分からない。
だが、リューには根拠のない確信があった。
あの時より随分と良い方面へ進めている気がする。
淡白で受け身で、自分のことを一切顧みなかった時と比べて、彼は随分と変わった。
ここに来て一月程度しか立っていないのに、長い時間をかけて来たようにも思える。
子どもの成長は早い。
確かにその通りだ。
そして、それは留まること知らず、まだまだ成長しようと必死で芽を伸ばそうとしている。
ならばそれを守り、より良い方向へ導くのがリューの務め。
ラジエルの気持ちを、今は最優先したいと考えた故の決断だった。
「では、情報をまとめ、作戦を立てましょう」
決戦に向けて策を練る。
アストレアファミリアの隊長格として、最善を尽くす。
久々の本領発揮に加え、少年の全力を乗せれば通用するかもしれない。
この戦い、どう転ぼうともプラスになるのは確実だ。
せいぜい、弟の良質な
いらっしゃい、あずき屋です。
早めではありますが、新作お届け致します。
最初にお詫びを一つ。
申し訳有りません、時間軸直すの忘れていました。
前回の神様お二人の話は過去の話、このダンジョン探索は現在の時間軸となっています。
大遅刻ながらも修正は施しておきました。
ごめんなさい。
さてさて、結局怪獣退治に巻き込まれる形となりました。
今回本格的に登場させました赤いゴライアスのことですが、原作に登場した黒いゴライアスに倣って新たな変異種として出しました。
能力的には原作とほとんど同じです。
もちろん黒い方とは違ったものも持ってますが、それは次回からのお楽しみということで。
強さ的には黒い方より若干弱いつもりです。
この時の時間軸ではリューの面々以外レベルは比較的下げていますので、以前と変わらず苦戦は免れません。
と言っても、リヴィラの冒険者たちを投入しても戦力的には足りないので、助っ人を用意しています。
彼ならば一人で戦力差を均一、又は傾かせてくれることでしょう。
遠征組は、キャンプをしつつ中層辺りで訓練中であったと解釈していてください。
そこまで細く描写できなかったもので。
次回からはいよいよ総力戦となるでしょう。
これまで一方しか戦っていませんでしたが、次回からは冒険者全てが味方となります。
思う存分暴れさせます。
そして、頑張って主人公を壊れさせますので、どう転ぶか楽しみにしていてください。
質問や感想は相変わらずお待ちしています。
誤字脱字も仰ってください。
次回からは仕事が始まるので投稿ペースが落ちます。
ごめんなさい。
ではでは、また次のページでお会いしましょう。