やぁこんにちは。
ラジエルから話はちらほら出てきたと思います。
私、彼の師を務めている者です。
まぁその辺りのお話はまたの機会ということで、お茶を濁させていただきますね。
名前ですか?
それは後のお楽しみということで。
ここでそれをお話するのは野暮というものですから。
ラジエルの愛称を借りて、『ししょー』と名乗りましょうか。
ここでは、彼の持つ技やステイタス等の詳細をいくつか説明いたします。
いやぁ、紹介が遅れて申し訳ありませんでした。
自己完結のいけないところですよね。
お客様である皆様がそれを理解できていないのは非常にいただけない。
ここではそれを解消すべく、彼について語らせていただきます。
無理して理解しようとしないで下さいね。
ラジエル・クロヴィス
Lv.1
種族:ヒューマン
所属:アテナ・ファミリア
力:G 231
耐久:D 511
器用:E 402
敏捷:D 507
魔力:C 646
《魔法》
【
・変幻魔法
・魔力(憎悪)が続く限り対象に炎を付与する
・発動間、外部による干渉を無効にする
《スキル》
【
・憎しみがある限り、戦闘時にアビリティ上昇補正
・時間経過と共に魔力を微量に回復
・誘惑、魅了を無効化
・早熟する
まずはステイタスの概要ですね。
上記のものは、つい最近更新された最近のステイタスです。
力やら耐久やらが数値化されていますが、まぁこの辺は読み飛ばしていただいて結構です。
正直参考の範囲を出ませんから。
ただの目安と思っていただければ幸いです。
だってほら、いきなり他の冒険者に私の力の数値は――だとか言われてもピンと来ないじゃないですか。
私の戦闘力は53万ですとか言われたらまぁ納得するかとは思います。
でもそれは玉を集める物語のお話です。
彼の物語に玉なんて出ませんから。
一応健全のつもりですよ。
注目すべきは“魔法”と“スキル”ですよね。
歪んでいるのは分かっていましたが、こう一つのものとして表されると、分かっていても響くものがありますね。
あまり深く掘り下げるつもりはないのですが、はい、私ラジエルが歪んでいるのは当初より気づいていました。
一目見れば分かるものだったのでね。
では最初に魔法、
これは変幻魔法と言いまして、使用者の思うがままに形を変えられる特徴をもった魔法です。
火の玉サイズから無機物、動植物まで形を模すことができます。
飽くまで姿形だけなので、生はありません。
その気になれば動かすこともできますが、その分魔力も余計消費し、無駄に集中力を注がなければならないので、動かすことに対してメリットはないと断言してもいいでしょう。
時と場合にもよりますが、合理性を考えるならそのまま爆散させてしまったほうがいいですね。
次に魔力(憎しみ)がある限り、対象に火を付与するとありますよね。
これは正直まどろっこしい説明ですよね。
ですが、これも体裁のため。
かっこよく端的に説明するにはこれが最も適していたのです。
こういったことは契約書等にも似たようなことが言えますね。
その物事の一部には触れていますが、全てを説明している訳ではない。
気をつけてくださいね。
要するにこれは、対象に魔法の意識を向け続けている限り、その対象は炎に包まれ続けるということです。
ちなみにこれ、別に視覚のみに依存している訳ではありません。
対象に意識を向けている間なので、視界から消えようと、気配を気取れる範囲内に対象がいれば、ラジエルの後ろで意識を絶とうとしても意味ありません。
彼と戦闘状態に入り、炎を消したいのであれば、文字通り彼の意識を削ぐしかありません。
気絶か意識を逸らせなければ延々と燃やされ続けます。
そして、如何なる外的要因をぶつけようと、この炎を消すことはできません。
水をかけようと、凍らせようと、酸素を奪おうとしても無駄です。
彼がこの魔法を発動している間は、燃やすという概念のみが存在します。
そこに酸素がなければ燃えない、許容量を越える水をかければ消火できるという概念は阻害されます。
その間、消費魔力も半端じゃあありませんがね。
ただ、彼は魔力を憎しみから変換できます。
彼の心の根底には憎しみが大部分を占めているので、魔力はほぼ無尽蔵といってもいいでしょう。
次にスキル、
うーん、前半部分はまぁ理解できますかね。
ラジエルが戦闘と判断した場合、全てのステイタスに上昇補正が入ります。
即ち、敵とエンカウントしたら自動的にヒートライザがかかると想像してください。
それで事足ります。
次に、時間経過とともに魔力を微量に回復とあります。
これは、憎しみを生成する心、ここでは炉と言い換えましょうか。
その炉から延々と魔力の源である憎しみが流れ出てくることになります。
つまり、気をつけていれば魔力が途切れることはありませんよということです。
次は魅了、誘惑を無効化についてです。
これも大体想像できますよね。
まぁ、それ以前に彼は子どもなので、大人の誘惑等に理解はありませんし、恐らく以降も理解できないでしょう。
なので、そういった悪意をもった外部からの精神干渉は彼には通用しません。
あれもまた精神干渉扱いに近いアイテムですが、本来はああいった長話をするものではありません。
彼の根底が捻じ曲がっているが故に起きた想定外のものなので、あまりお気になさらなくて結構ですよ。
最後に早熟ですね。
これも簡単です。
能力的な成長にブースト、ボーナスが入るということです。
これ以上ないくらいに簡単な説明文ですよね。
ただ、シンプルが故に効果は絶大です。
普通の冒険者が得られる
えぇ、言うまでもなくレアスキルですよ。
本来なら数多の神々から熱烈なアプローチを受けてもおかしくないんですが、彼はそういった視線や意識には敏感なのでね、撒くことなんて造作もないことですよ。
強硬手段と認識されれば……いや、殺されはしないでしょう。
恐らくね。
因みに最初にあった精神の枷ですが、あれは
枷が壊れてしまったということでもあります。
ご想像できる方もいらっしゃると思います。
えぇ、封じる役目を持った枷が外れれば、後々厄介なことになります。
あれはラジエルの精神安定のために付与されたスキルなのです。
皮肉な話ですよね。
成長するためには、あのサイズの枷は小さすぎるのです。
よって壊れてしまい、今のスキルに強制的に昇華されました。
成り立ちとしてはこんなところですね。
ちょっとお疲れになってきたところですよね。
ですがもう少々お付き合いください。
次は彼の持つ我流拳法、“戯拳 弔獣戯我”について少し触れます。
この名前の由来は勿論、かの昔極東で描かれた鳥獣戯画です。
これには彼の拳法の由来が全て詰まっています。
鳥獣戯画には、動物が人間と同じような行動を取るといった様が描かれていますよね。
兎や蛙が人間の子どもの遊びをしている。
これ、元は漫画なんですって、知ってました?
余談ですが、古い鳥獣戯画と最も新しい鳥獣戯画は別物となりつつあるそうです。
原本の写が徐々に形を変えるのと同じことですよね。
写を作るのもまた人間ですから、写をすればするほど、その内容は徐々に変わっていきます。
意味合いがずれたり、解釈の相違であったりと書くほど誤りがおきますから、数を重ねれば原本から遠ざかっていくのは自明の理です。
話を戻しましょう。
謂わばこれは人間と真逆ですよね。
古い擬人化というやつです。
ラジエルは、この登場人物である動物たちの行動に、更に自分を当てはめました。
人間の真似事をしている動物、その真似事を更に真似ようとしているわけです。
つまり、彼のやっていることもまた写です。
結果、ラジエルの拳法は誰のものとも似つかない全く別物となってしまいました。
まぁ、私の家にあった鳥獣戯画もまた、原本とは全くの別物なので……ああした不可思議な拳技が生まれても不思議じゃありませんよね。
彼はそこから更にその他の動物たちの動きを真似した、独特の拳技を身につけていくようになりました。
人間は無駄が多い。
その反面、野生の動物は対象の息の根を止める方法を本能で知っています。
即ち、彼らの方が合理的です。
この方が、より強い力を手に入れられると考えたのでしょう。
私の知り得ない技まで編み出してしまったくらいですから。
はい、ということで簡単な解説を終わりにしたいと思います。
特にこういったことを出して欲しいというお便りは頂かなかったのですが、まぁちょっとしたお節介という奴です。
お客様をできるだけ置いてきぼりにさせないため、敢えてこうしてお時間を拝借しました。
為になったかどうかは分かりませんが、為になったのであれば、声にして頂けると幸いですね。
次回もまたこういった紹介をして欲しいとあれば、是非ともこの私こと『ししょー』が務めさせて頂きますとも。
えぇ、お便りお待ちしていますよ。
出番が当分ないもので、こうして外伝に出てくるほかありません。
私に出番を寄越すと思って、お声掛けいただければと思います。
では皆々様、ご縁があれば、また次回にてお会い致しましょう。
「あ、お疲れ様です『お師匠様』」
「あぁ君ですか。
お疲れ様です。
どうでしたか、私の語りは?
初めてにしてはそこそこ上手くいったと思うのですが」
「いやもう完璧です、ハイ。
ホント、ありがとうございました」
「いえ、いいんですよ。
普段出番もラジエルの回想の中でくらいしかないもので、暇人にはうってつけですよね?」
グサッ「イエイエソンナコトアリマセンッテ。
ちゃんとお師匠の出番も考えてますから、そこまでどうかご辛抱を」
「最初はどうかと思ってましたが、君のお店の手伝いもなかなか楽しいですね。
えぇ、まるでダメな小説家に振り回される解説役の気分を少しでも味わえました。
逆に私から感謝したいくらいですよ」
グサッグサッ「いえそんな大層な存在じゃないですよー。
小説家の姿を借りているだけなんですからー……」
「その言い分はいただけませんね。
紛い物にも価値はあります。
ですがその言い分だと、大多数の人の目からはただの偽物としか思われませんよ」
グッサァ「ハイ、ホントスンマセン」
「まぁなんにせよ、次の出番が楽しみですよ。
正直な感想としてね。
あれば嬉しいですね。
面白かったのは事実ですから」
「……頑張りますっ!!!」