少年成長記   作:あずき屋

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「どうだラジエル。
私の技術の全てを込めたオムライスだ。
見た目こそ他と変わりないかもしれんが、味は別格だぞ?
さぁ、たんと召し上がれ!」

「ありがとうリア。
オムライスで全然顔見えないけどありがとう」

「なに、礼には及ばない。
こんなものほんの些細なお返しに過ぎん。
たくさん食べて大きくなれという意味合いを込めて大盛りにした。
遠慮せずに食べてくれ」

「すごい、中から丸焼きのブタさん出てきた。
こんなの初めて」

「そうだろうそうだろう!
ラジエル、それはまだまだ序の口だ。
もっと驚くことがその先に待っている。
ワクワクしながら食べてみてくれ」

「いやどんなオムライスやねん」





第20話 少年、知らぬ所で話題にされる

 

「…………んぁ?」

 

「あ、起きた」

 

見知った天井が見える。

間の抜けた声を上げ、部屋の主であるティオナはのそのそと起き上がる。

覚醒しきっていない頭が、何故部屋で眠りこけているのか懸命に思考を巡らせる。

待てども答えが出てこない。

何か、鮮烈な印象だけが胸に残っているのだが。

 

「……ふぇ?

アイズ?

何でここにいんの?

何で私、ここで寝てんの?

アレ、今なんじ?」

 

「もうお昼過ぎたよ。

何で寝てるかっていうとね、ティオナ負けたから」

 

「負けた…?

私、誰かと勝負、してたんだっけ?

アレ、なんか、大事なこと忘れてる気が」

 

「忘れちゃったの?

お昼前にラジエルと組み手、したじゃない?」

 

「組み手…?

組み…………あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

布団を跳ね除け飛び上がる。

自分はさっきまで、とても大事な時間を過ごしていたのを忘れてしまっていた。

余りにも衝撃的過ぎた数時間前の一時は、一時的に記憶を飛ばしてしまうほどの出来事だったようだ。

記憶が巻き戻る。

あの黒髪蒼目の少年に、自分は負けたのだ。

ステイタスもLvもひっくり返されて、ただの一発も入れることなく完敗してしまった。

 

 

「あ、ラジエルは!?」

 

「さっきアストレア・ファミリアの「疾風(リオン)」が迎えに来て、一緒に帰ったよ。

ティオナによろしくって」

 

「そう、なんだ」

 

「それと、リヴェリアから伝言。

今日は絶対安静、だって。

後、ラジエルにお昼はちゃんと振舞ったから、安心するようにだって」

 

「それ私に伝える必要、あるかなぁ……」

 

 

 

 みるみるしょぼくれていく姿を、アイズは不思議そうに眺めた。

結局、自分で発した言葉が現実となり、今日はもう少年と話をすることは叶わないようだ。

まるで夢を見ていたような気分だ。

数時間前に体験したことが、現実に起こったと感じられない。

彼より強いはずの力を持つ自分が、物の見事に完膚なきまでに圧倒された。

自分の愛読書の英雄譚の一つに似ている。

格上の相手にも臆することなく懸命に戦う勇者の話に、とても似ていた。

だが、あの少年を勇者と呼ぶには語弊がある。

寡黙で、無表情で、年相応の振る舞いを見せない。

近所の悪ガキらしさも感じさせないラジエルを勇者に当てはめるのは、どうしても出来ない。

何故だが、あの少年には違和感を感じる。

子どものように見えるが、子どもには見えない。

かと言って大人に見えるという訳ではない。

何かが欠けているのだ。

あるべきものがないと表現したほうが適切なのかもしれない。

 

 

「……わーっかんない。

全然、分かんないや」

 

 

 今日出会ったばかりの少年に対して浮かんだものはそれぐらいだった。

憶測で判断するのは危険であるし、真実からかけ離れてしまう可能性が高い。

情報が圧倒的に足りない。

ティオナはラジエル・クロヴィスという少年を知ら無さ過ぎる。

彼をもっとよく知りたい、理解したい気持ちが当たり前のように湧いてくる。

どうやら、彼に興味を持ってしまったようだ。

どんな反省を歩んできたかを始め、様々なことを話したい。

もっと手を合わせていたいという気持ちが、胸中を覆っていく。

 

「ティオナ?」

 

「まぁ、今日はいっか!

また明日から始めればいいんだよ!」

 

「何を言ってるのか分からない」

 

「いーの!

私にだって分からないんだから」

 

「結局、ティオナはどうするの?」

 

 

 その疑問を解消する鍵は、あの少年が持っている。

興味を抱いた彼をもっと知ることが出来れば、この胸の靄は晴れていくだろう。

そのためには、彼にも興味を持ってもらう必要がある。

ラジエルは、きっと誰にも負けない強さを求めている。

でなければあれ程の強さを持っている理由にはならないし、強さを求め続けているあの姿勢にも説明がつかない。

ならば、彼の興味を引くためには、自分も強くならなければならない。

それは同時に、自分の夢の実現にも繋がっていくことにもなるから。

今はそれだけを考えて目標に進もう。

考えることが苦手なティオナには、それぐらいで十分だから。

 

「んー……内緒」 

 

 ティオナ・ヒリュテには、笑顔のまま進んでいく姿が、丁度いいのだ。

 

 

 

_______________________________

 

 

 

「あっちゃあ、お肉切れてるの忘れてた」

 

「マジすか団長代理。

緊急事態じゃないですか」

 

 

 それから少しして、アストレア・ファミリアでは、団長代理であるリーヴァ・フロイツは今日も夕飯の支度に取り掛かっていた。

このファミリアでは、料理当番は基本交代制であるが、リーヴァがいるときはその限りではない。

誰が作っても基本不満が出ることはないが、中でも彼女の料理が絶賛される。

どんな趣向であっても皆が満足できるものを提供でき、かつ毎日必ず美味しいと声を上げさせる腕前だ。

アストレア・ファミリアでの第二の母と呼んでもいいかもしれない。

厳密には、彼女が生み出す料理による母の味だ。

リーヴァは、料理を作る上で大切な信条を一つだけ設けている。

 

 

いつでも真心込めて作ること。

 

 

 料理を作るときは、食べてくれる相手を思って調理する。

愛情込めて食材を切り、愛情を込めて火を通し、愛情を込めて煮込む。

だからこそ、彼女の作ったものは何でも美味しい。

誰かを思って作る料理は、どんな一流シェフをも越える逸品となる。

画期的な調理法でも、三大珍味から成せる味覚でもない。

ただ一途に相手を思って作ること。

それが、彼女の料理が美味しい秘訣。

それ以外は粗が目立つのがまたリーヴァでもあるのだが。

 

 

「ありゃりゃ……私としたことがやってしまったぞ」

 

「大丈夫っすよ団長代理。

なんてことはねぇ、平常運転ですわ。

チビ助見てデヘデヘしてる時と何も変わりゃしませんから」

 

「そりゃだって可愛いもの!

特にラジくんを見てるリューの眼差しといったら……もうっ!!

どうにかなっちゃいそう!

なんなのあの優しい眼?

からかいに飛び出たお姉ちゃんが、こうもど嵌まりするなんて思いもしなかったよ。

あの二人がよろしくやってるのを見るだけでお腹いっぱいって感じ?

まぁ、やってしまったものは仕方ないか……セラ、シチューはまだ手をつけなくていいから、先にサラダとブレットを仕上げちゃってくれる?

私ちょっと急ぎで買い出しに行ってくるから」

 

「そすか……って、え?

あたしがやっていいんすか?」

 

「サラダはドレッシング作るだけだし、ブレットは焼くだけ。

簡単でしょ?

どれもこれも、アンタがやって大丈夫だから心配しないでよろしい。

あ、ブレット焼く前に卵黄とバター塗るの忘れないでね。

それと焦がさないよう順番は守ること。

焦げたニオイが出てからじゃ遅いんだからね。

わかってると思うけど、火を扱うには十分注意すること。

それと、今日はリューに料理教えてあげられないこと伝えておいて。

じゃあねー、いってきまーす」

 

「あ、うん、行ってらっしゃい。

……ちゃっかり釘刺してくなぁ、こりゃまだまだ敵いそうにありやせんねぇ。

ウチのママは心配性でいけねぇや」

 

 

 ミセラ・キスケットは一人ごちる。

適当に櫛を入れただけの栗色の髪を垂らし、気怠げで半開きの目つきが特徴的な女性。

スタイルは良い部類に入るのだが、本人はそれを活かす気はさらさらない。

他人の目を気にしないような自由気ままな性格の持ち主。

口元を隠すハイネックのパーカー、動きやすさだけで選んだショートパンツを履き、その上から愛用のひよこエプロンを着こなす。

これでも、料理歴はそれなりに長い。

リーヴァの不在時、大抵必ずキッチンで皆にご飯を振舞っているのは彼女だ。

大抵の調理はこなせるが、その反面細かいことに気を遣わない。

ブレットは生地をただ焼くだけで味気なく、カレーを作れば辛さが中途半端になり、サラダに関しては野菜の面積が大きすぎて食べづらい等といったことを度々やらかす。

失敗することはないが、完成品は基本雑である。

本人曰く”腹に入れば一緒”という信条を持っているため、誰かに言われなければこうした雑な結果に終わってしまう。

大雑把な性格も相余って素朴な味わいになるが、裏を返せば味に大きな変化を齎さない。

ある意味安定した品を作り続けることができる。

長所と短所は紙一重であるが、ミセラは基本気にしない。

ただ皆の腹を満たし、次も頑張って欲しいという彼女なりの声援を送っているに過ぎない。

最も、決して誰に対しても口にすることはないが。

 

 

「基本腹に入りゃ一緒でしょーに。

要は不味くなきゃいいんっすよ」

 

「確かに、貴方の料理が不味かったことは一度もありませんね」

 

「……気配消して後ろに立つのやめてもらっていいっすかねぇ?

良い趣味過ぎて誰にも理解されやせんから。

心臓に悪くていけねぇ、危うく口から色々出るところだったっすよ、隊長」

 

 

 素知らぬ顔で唐突に背後に現れた影に対して毒付くミセラ。

彼女は基本的に、誰に対しても取り繕うことをしない。

非協力という訳ではないが、誰に対しても深入りせず、表面上の付き合いをしている体で見られる。

悪く言えば取っ付き辛く、良く言えば飾らず接せられる。

彼女のことを理解している者からすれば、このような対応など慣れたものだ。

特に、アストレア・ファミリアが誇るダンジョン探索班第一部隊隊長兼鍛錬指導部最高指導官であるリュー・リオンからすれば、最早恒例の挨拶のようなものである。

 

 

「すみません、意図してやっているわけじゃないのですが」

 

「尚更問題っすよ。

これからあたしの後ろに立つ時は、大袈裟に足音立ててから来てくだせぇ。

周りから太ったとか色々言われるかもしれやせんが大丈夫っすよ。

少なくとも、あたしだけは違うって思ってるんで」

 

「明日から貴方の鍛錬を増やします。

私が付きっきりで見るので覚悟しておいて下さい。

全く、歯に衣着せない物言いは嫌いではありませんが、度が過ぎれば誤解されるだけですよ。

思っているだけでは伝わりません。

貴方の作る料理にしても、心の内にしても言えることですが」

 

「……隊長、それ以上は野暮ってなモンです。

知らなくていいことなんて、世の中にはざらにあることなんすから。

深入りは御法度の信条のあたしからしたら、今の隊長の発言はNGっす。

そんで、あたしになんか用がおありで?

こっちにゃ団長代理から、隊長のお料理教室はまた今度っていう言伝預かってるくらいしかないっす。

肉の買い足しに飛んでったばかりなんでね、しばらくは戻って来やせんよ」

 

「そうですか。

なら、今日は見学に務めるとしましょう。

セラの腕前を拝見させていただきます」

 

「ちょっと……勘弁してくだせぇ。

見られながら調理するって、どんな羞恥プレイっすか?

あたし、そういうの慣れてないんすけど……」

 

 

 リューはラジエルとの約束以来、ほぼ毎日こうしてキッチンに来て料理を学んでいる。

基本はリーヴァがいるため、彼女から教わることが多い。

料理のさしすせそを学び直し、調理器具の扱い方も一からレクチャーを受けている。

リーヴァが語った信条に関しては、まだピンときていない。

だからこそ、理解するためにはもっと料理に潜り込んでいく必要がある。

故に、こうして誰かが料理をしている姿を網膜に焼き付けているのだ。

 

 

「気にする必要はありません。

私のことは観葉植物とでも思っておけばいいです。

それとも、また気配を消して、貴方の後ろに張り付いている方がいいですか?」

 

「サラッとこえぇ事言わないでくだせぇよ。

隊長、それ絶対他の人にやらないでくださいよ。

ウチのファミリアからストーカーが出たなんて噂が立った日にゃ、アンタ二度と大手を振ってお天道さんの下歩けなくなりやすぜ」

 

「するわけないしょう、バカですか貴方は。

例えしたとしてもラジエルだけに留めておきます。

あの子はちょっと眼を離すと凧のように飛んでいってしまうのですから。

食事時はおろか、入浴の際も就寝の際も眼を離せません。

外にいる時だって、ちゃんと手を繋いでいないと危ないですから。

常にハラハラしている私の身にもなって欲しいです」

 

「いや、眼を離したら危ない人ここにもいる。

見たことのねぇ目つきがやべぇくらいソレを物語ってる。

チビ助にご執心なのも結構ですがね、ちったぁ周りの眼も考えてくだせぇ。

恥ずかしくってたまったもんじゃねぇ」

 

 

 新入りが入ってくるのは珍しいことではない。

どこのファミリアも、頻繁に眷属の入れ替わりが起きているため、ミセラにとっても少年がここへ入ってきたのは別段驚くことじゃない。

驚いたことは年齢と卓越した技術ぐらいだ。

だからこそ、ミセラは新人であろうと深入りしない。

過去の詮索も人間関係も、自分から聞きに行ったりはしない。

最も誰かから又聞きすることも珍しくない。

このファミリアは女性が主流で統一されているため、そういった流行の話は意図せずとも流れてくる。

少年の過去を聞いたのは、偶然にも居合わせたホームで聞いてしまった。

 

 確かに、同情の余地はあった。

今より小さい時期に、住んでいた村が全滅するなんて、古い伝承の中だけの話だと思っていた。

想像し得ない苦痛を受けたことだろう。

だからこそ、ミセラはそういった話を聞きたくない。

ここにいる眷属たちの中にも、似たような境遇を持った者がいる。

そういう奴らの話を聞くことを、ミセルは嫌った。

本心は誰にも語っていない。

主神にさえ話したことはない。

 

 

「はぁ……まぁ、恥ずかしいけど、好きにしてくだせぇな。

何も面白いことなんてありやせんが」

 

「ありがとうございます。

ではお言葉に甘えて見学させてもらいます。

それと、好きにしていいとのことなので、質疑応答にも応えていただきますよ?」

 

「……言うんじゃなかった」

 

 ミセラは、その胸中を明らかにすることなく、隊長の要求に泣く泣く応えることにした。

別に面白いことなんて何もない。

ただ食材を切ったり煮込んだりするだけ。

薬を生成する手順と何ら変わり無い。

そんな面白みもないことを、リューは熱心に見ていた。

少なくとも、自分がこのファミリアに入ってきた時には、彼女は料理に関してこれっぽっちも興味を示していなかった。

ただ純粋に力を求めて日々ダンジョンに潜り、表情も変えずにモンスターを淡々と処理してきた。

その理由としては、共に潜っていくにつれて理解できた。

それは家族を守るため。

必ず生きて皆で帰るため。

また明日を笑って迎えるため。

それだけのために、毎日を危険に晒して戦った。

その本心は聞いたことはない。

あの時は、ひたすら真っ直ぐに強くなることだけを望んでいたはずだ。

 

 だが、今の彼女を見てどうだろうか。

ラジエル・クロヴィスという少年に出会った頃をきっかけに、リュー・リオンは変わりつつある。

苦手だった料理に手を出し、失敗を重ねながら汗を流す。

何故そんな行動を取るようになったのか、ミセラには分からなかった。

理解できないが、深入りもしたくない。

他人の内情に踏み込むなんてことは、できるだけしたくない。

 

 

「……ある意味真っ直ぐで羨ましいっすね」

 

「何か、言いました?」

 

「……いや、何でもないっよ。

あ、隊長醤油と砂糖取って」

 

「あ、はい……えっと、これですか」

 

 

 リューが差し出して見つけたのは二つの容器。

白く細かい粒、粘り気のない黒い液体。

内心ビクビクしながらも、多少の自信を持っているリュー。

これはいける。

今回は間違えなかったと、自らを褒める。

若干得意げになっている体調を尻目に、ミセラはいつも通りの気だるげな顔で答える。

 

 

 

「いや、違うね」

 

「っ?!」

 

 

 

 即答で一刀両断の元切り捨てた。

一切言葉を濁すことなく、スパっと告げた。

まさかの展開にショックを受ける。

自信があったため、余計にショックだった。

ミセラはそんなリューに構いもせずに解説する。

 

 

「色は似てるけどコレ全然別モンすね。

タコとイカぐらい別モンっす。

いいですか隊長。

このサラサラしてる方が塩で、こう粘り気みたいに塊ができやすいのが砂糖っす。

水分含みやすいんで固まりやすいんっすよ砂糖って。

恨み妬みと厚化粧でこり固めた女みたいでしょ?

マジ同じ性別って捉えて欲しくないんすけど。

あいつら、なんかあったらこぞって寄ってたかって貶しまくりますからね。

もうホントヤバい奴らっすよ。

その反面、塩はなんも考えてないから何にもくっつきません。

普段からボーッと間抜け面かましてる男みたいでしょ?

味も見た目も中身もしょっぺー奴らなんで、例えには最適っすね。

ベタベタで王道すぎる間違いなんで、気をつけてください。

やったらマジであざとい云々言われてやけ酒まっしぐらコースっす。

ガラスのハート持ちなら間違えない方がいいっすよ。

 

 後コレ、こっちも色ほとんど一緒っすけど、コレも全然別モンっよ。

どっちもサラッサラだけど、匂い嗅げばコレがウスターソースってことぐらい分かんでしょ。

ホラ、よく見るとソースは若干色薄いんっすよねぇ。

ちょっと味見してみりゃ、中々パンチあるんすよコレ。

私全然恋愛とか興味ないし、とか何とか訳の分からない御託並べてる女みたいにタチ悪いモンすよ。

汚ねぇ欲望が見え見えなんだよこんちくしょう。

こっちもホラ、匂いもマジ醤油でしょ?

見た目も醤油、味も醤油、もう今時の男って感じでしょ?

立派な棒持ってんならちったぁマシになれって感じっすわ。

分かりました?隊長」

 

「あ……はぁ。

何となく……?」

 

「あ、分かります?

なら筋は悪くないんじゃないっすかね。

けっこーマジで向き合えば、ちゃんとしたモン作れますよ。

近いうち、あたし以上の腕持てますよ」

 

「…………」

 

 

 いや、それはないだろう。

そう口に出すことは出来なかった。

口は悪く、がさつで飾り気が一切ないミセラだが、それでも料理に関しては、当分上に立てるとはどうしても思えなかった。

彼女は味に関しては一切考慮しない。

不味くなく、腹に入れば万事解決と豪語しているがその反面、その食事の効果が如実に現れるのだ。

リーヴァは食事に対して至福を齎すが、ミセルは幸福を齎らす。

味は素朴ではあるが、食したあとは不思議と体調を崩しにくい。

ダンジョンに向かう前に食べ比べてみるとこれがすぐ分かる。

例えばモンスターが振るう毒や状態異常。

ミセルの料理を食べた後だと、これらの異常がかかりにくい。

その他にも寒さに強くなることや疲労が感じにくくなるなどといった副次効果がある。

 

 ミセラの料理はまるでお祓いみたい。

リーヴァは以前そう言っていた。

彼女も口にこそ出しはしないが、自分にはないいいものを持っていると聞いたことがある。

食事による美味しさを引き出すのではなく、日々の美味しさを引き出す者。

大袈裟にも聞こえるかもしれないが、彼女が作った料理を食べた者は、誰一人として文句を言わない。

それどころか、皆自然と笑顔が浮き出ている。

食べた後に待ち受ける幸福を知っているかのように。

 

 

「だから、調味料は命なんですって、マジで。

コレの扱い知ってるのと知らないとじゃあ天地の差っすよ。

ご飯をまんま食べるのと、醤油掛けて食べるのどっちがいいっすか?

つまり、美味いご飯作るにゃ調味料の特性を理解するのが大前提っす。

例えばホラ、いかにもドレス着飾っていい女気取ってる風のコレ、鷹の爪ありますよね。

コレ、元は細かく切ってる唐辛子なんすよ。

辛味があるものは眼を覚まさせるのに最適っすから、眠気覚ましたいなら散らしてみてもいいっすよ。

あ、刺激物なんで掛け過ぎると腹下すんで、扱いには気をつけてください。

後塩っ気があるモンには合いますけど、甘味がある物には向きやせん。

その辺も自分で試すなりしてやってみてくだせぇ。

それから」

 

「勉強になります」

 

 

 少なくとも、解説しているミセラはとても楽しそうだ。

外には出さずとも、彼女は常に食べてもらう側のことをよく考えている。

美味しいかそうでないかなんて考えのうちの一つ。

きっと彼女は、その先にあるものに眼を向けているだけなのだ。

リューはこの時、初めてミセラの内面に触れた気がした。

話すことだけが相手の内面に触れることではない。

きっと、何気ないひと時を過ごしているからこそ、見えてくるものがあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから!

こっちは胡椒でこっちがブラックペッパー!

くしゃみするぐらいキッツイ香水つけてる女って言ったでしょ!?

コレは地雷臭する黒歴史持ってる男!

似てるようで全然違うんすからね!

どっちもやべーけど全然別モンなの!」

 

「すみません、間違えました」

 

 

 

 




 いらっしゃい、あずき屋です。

 今回主人公は不在です。
鍛錬場でひたすら稽古してます。
コレ書いてて思ったんですが、私最近全然誰かが作ってくれたものを食べられてないです。
でも料理はいいですよね。
たまに完成して満足して満腹になることがありますが。
まぁこんな再現度しか引き出せませんでしたが、楽しんでくれたら幸いです。

 サラッと新キャラ出しました。
毒舌キャラ一人はいるかと思い立ちまして、私に似たキャラクターを生み出しました。
品もへったくれもない子が彼女です。
まんま私ですね。
彼女は、ぽっと思いついたにも関わらずお気に入りのキャラなので、これからも前に押し出していこうと考えてます。
気分を害してしまったら申し訳ないですね。
代わりに団長代理がなんでもします。

 ということで、今回はこのように収まりました。
収めました。
質問等があれば何でもおっしゃってください。
黄色い声援でも甘ったるいピンクの声援でも受け付けます。
誤字脱字も遠慮なくおっしゃってください。

 次の投稿は来月に持ち越す可能性がありますので、その辺ご了承ください。
引越しの作業が思ったよりめんどくさいからです。


 ではでは、また次のページでお会いしましょう。


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