少年成長記   作:あずき屋

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「どう?
小豆クリーム、美味しい?」

「うん、すっごく、美味しいよ」

「よかったね。
そんなに喜んでくれるなんて、あげてせーかいだったよ」

「ラジエルにも一口、あげる。
はい、あーん」

「……喋り方も表情もよく似てるなぁ。
二人って生き別れた姉弟だったりしない?」





第18話 少年、甘やかされる

 

「ラジエル、こっち来て」

 

「うん。

うわぁ……なんて言うか、すこいね」

 

 

 黄昏の館は、端的に表せばとんでもなく豪華だった。

何から何までが高価なもので統一されているのが、嫌でも伝わるぐらい清掃と維持が行き届いていたからだ。

ランプや花瓶などといった小物をはじめ、あらゆるものが高級感を放っている。

吊り下げられたシャンデリア、どれだけ長いこと座っていようと苦にならなさそうな上質な布をふんだんに使用したソファー、細部にまで装飾が施された大きなテーブル。

想像しているお金持ちの家をそのまま具現化したような様であった。

もちろん、そういったものに縁がない少年はあちこち目移りしてしまう。

初めてオラリオに来た時のように、自然と目や首が部屋中のあらゆるものに注目する。

まるで生きている世界が違う。

少年の第一印象はそんな感じだった。

 

 

「ふふーん、どやエルたん。

これがウチのホーム自慢の客間や。

どないなヤツが来ようと完璧にもてなす体制が整っとる。

ウチらかて、上位に食い込むファミリアやからな、これくらいはせなあかんわけよ。

でもあんま気ぃ遣わんといて。

エルたんみたいな子にはそないな硬っ苦しいモンは必要あらへん。

自分ちみたいに寛ぎや。

何ならウチの膝の上に乗ったってええんやで?」

 

「う、うん、ありがとうロキさま。

おひざの上はいいや。

エルたん……?」

 

「ぐはっ......!

ストレートな拒否は胸にごっつ来るなぁ……。

まぁ、いずれメロメロにしたるから今はええか。

ゆっくりしたってやぁ。

今リヴェリアにお菓子と飲みモン取りに行ってもろてるからな。

それまでウチとお話してよーや」

 

 

 アイズたちに案内されて通された客間は、はっきり言ってものすごく居心地が悪い。

自分にとって縁もゆかりも無いものと長時間触れ合うのは、精神的に辛いものがある。

慣れてしまえばそこまでなのだが、自給自足の生活を送ってきた少年にとって、この手のものに慣れる自信はない。

慣れるまで一ヶ月ほど時間を有しない限り無理だろう。

ものの数分で復活したロキは、何事も無かったかのようにラジエルをもてなす。

頭頂部が先程より盛り上がっているが、気のせいなのだろうか。

 

 

「いいよ、と言っても何話せばいいのかな?」

 

「あぁん、そんな難しく考えんでええ。

ウチみたいに思ったことそのまま口に出したらええねん。

エルたん可愛ええとか、ナデナデさせてーとか、※※※させてーとか、※※※で※※※※※しよーとかそんなんでオッケーや」

 

「むぅ?

ロキさま、何を言っているのかわからないよ。

俺はおとこだよ?」

 

「何を言うてんねん、そんなもん最初から分かってるわ。

性別なんて何だってええ。

可愛ければ何でも万事解決や。

自然の法則で昔っから決まっとる。

今は分からんくてええよ、ウチがこれからみっちりねっとり、他のことなんて何も気にならんようメロンメロンにしたるだけの話。

だいじょぶだいじょぶ!

何も考えずにウチに全部任せたらええねん!」

 

「そうか、ではまた何も考えられずに大好きな床と熱い抱擁でもするか?

ロキが分かってくれるまで、私は何度だって恋のキューピットになってやろう」

 

「さ、エルたん。

冗談はこの辺りにしとこか」

 

 

 お盆を手にしたリヴェリアが、ロキに対して釘を刺す。

反応を百八十度変えたロキは、徐ろに話題を変えにかかる。

よく見ずとも、その頬には汗が流れていた。

ロキファミリアの中で、リヴェリアはなかなかに上位の立ち位置だそうだ。

あらゆる意味で上位なのだろう。

 

 

「まったく、子どもに向かって卑猥な言葉は控えないか。

お前のせいでラジエルが悪い影響でも受けたらどうする。

訴訟ものだぞ?

裁判前に有罪確定だぞ?」

 

「んもぅ、いつにも増してリヴェリアたんはママやなぁ。

そんな過保護にならんと、ありのままの世の中を知っていったらええやんか。

何でも吸収できる年頃なんやから」

 

「誰がママだ。

それに、そんなものが蔓延っている世界がありのままなら、私はとっくにこの世界を滅ぼしている。

頼むから、一日五分でいいから真面目になれ。

客人以前に、彼は私の命の恩人なんだからな」

 

「ラジエル、何食べる?

全種類買ってきたから、何でも言って?」

 

「なら私からのオススメをおせーてあげる。

最初は甘いものよりご飯感出るもの食べた方がいいと思うよ。

ってな訳でティオナちゃんおすすめはレモンペッパー!

さっぱりしてて何個でもいけちゃうぐらい美味しいから食べてみて!」

 

「じゃあ、それもらおーかな」

 

「へーいへい、すんませんしたぁ。

にしてもこの子がそうだったんか。

いや話には聞いとったけど、予想以上にお子様やな。

ホンマにインファント・ドラゴンを一発でのしてもうたんか?」

 

「あぁ、ロキも確認しただろう?

私は嘘偽りは言ってない。

それこそ、ありのままというやつだな」

 

「ほぉーん、この子が、なぁ……」

 

「あ、美味しい」

 

「でしょ!?」

 

 

 神に対して、嘘をつくことは出来ない。

これは特殊な能力といったものではなく、神であれば誰もが最初から有している当たり前の力のようなものなのだ。

その者がついている虚偽の内容を完全に看破することは出来ないが、嘘をついているということのみを見破ることが出来る。

どんな歴戦の強者であろうと大賢者であろうと、絶対的存在である神を前にすれば、どんな嘘も通用しない。

主神は、子どもたちに関して基本詮索はしない。

子どもたちにもプライバシーがあるため、ロキもその辺はある程度弁えている。

リヴェリアがたった一人で探索から帰ってきた際、事の詳細は聞いていた。

もちろん嘘偽りは感じ取れなかった。

だからこそ、余計気になっていた。

新米にして、Lv.1の冒険者がインファント・ドラゴンを一撃で葬ったなど、娯楽に飢えている神が気にならない訳がない。

 

 

「(リヴェリアがあれ程言うんやから間違いはないはずなんやが……やっぱ直接この目で見てみたいわなぁ。

どんなカラクリがあるにせよ、この子は一発で上層の階層主をぶっ飛ばした。

嘘やないから疑ってる訳やないんやけど…うーん、どうしたモンかな)」

 

 

 一言で言えば、非常に気になる。

疲労困憊でまともに戦闘出来なかったとはいえ、曲がりなりにもリヴェリアを守り抜き、彼女の目の前で驚異を一蹴してみせた。

事実上上層の階層主をただの一撃でだ。

あまつさえ、武器の類は一切使用していない。

徒手格闘において、インファント・ドラゴン相手に圧倒的な力量を見せつけた。

ましてや、ロキファミリアの随一の知識と魔法力を誇るトップ3のうちの一人にここまで言わしめたのだ。

当然どれほどの力の持ち主なのかは気になる。

こういった者の謎は、深まれば深まるほど面白い。

調べた末に、イカサマ等でない事実であった時こそ尚更興味深い。

ロキファミリアの団長であれば、さぞ食い気味に勧誘しているだろう。

あれは団員一合理的な男だ。

このファミリアをより強くし、より強い権限を持てる為なら手段を選ばない。

どこまでもこの少年に対して強いアプローチを掛ける。

ある意味一途な団長なのだ。

 

 

「……はぁ、私がとやかく言ったところで、今更考えが変わるヤツではないか」

 

「ごめんてリヴェリアたん!

ウチもちょっとだけ自制するから、そんなにむくれんといてーな。

可愛い顔が台無しになるで?」

 

「ふん、もうそういう台詞は聞き飽きた。

待たせたなラジエル。

お前の好みがよく分からなかったから、とりあえずジュースを持ってきた。

それと、じゃが丸くんだけでは流石に飽きるだろう。

今朝焼いたクッキーとマフィンをご馳走しよう。

遠慮はするな、食べ物くらいいつだって振舞ってやる」

 

「おぉう!

いつにも増して豪華なお茶会じゃん!

どっかのお偉いさんが来てもこんなにいいもの出さなかったよね?」

 

「彼らにも相応のものは差し出している。

言っただろう?

ラジエルは私の命の恩人だ。

これくらいのお礼は当然だろう。

むしろ、これっぽっちじゃ足りなさすぎるくらいだ」

 

「っていうか、他のお客に出すものみんな買ってきたお菓子じゃん……。

こんなに手作り感満載じゃなかったよ……。

普段以上に気合入りすぎてない……?」

 

「ん、どうしたティオナ?

いつもより大人しいな。

体調でも悪いのか?」

 

「ウチも、何となく察したわ」

 

「うん?まぁいいか。

あ、こらラジエル、お前まだ手洗いとうがいを済ませてないじゃないか。

済ませるまでお菓子とじゃが丸くんはおあずけだ。

ラジエル、アイズとティオナに洗面所まで案内してもらえ」

 

「はいはーい。

アイズ、ラジエル行こ」

 

「早く食べたい、すぐ洗いに行こう」

 

「アイズ、ちゃんと洗わないとダメだよ?

手はしっかり洗えってししょーも言ってた」

 

「たはは……ホンマ、おかん言われてもしゃーないわ」

 

 

 だが、それがリヴェリアという女性なのだ。

口では不満を漏らすことはあれど、本心では心配が離れないのだ。

故に、近しい者に対してはどこまでも世話を焼く。

お人好しで、心配性で、お節介で、口煩い。

でもそれ以上に、誰よりも強くて優しい。

流れるように小言を言ってしまうのも、その人を案じているが故に出るもの。

自分より誰かを優先しているからこそ、他人の世話をよく焼き、よく自分を困らせる。

もしかしたら彼女は、静かなところより、こうして日々喧騒が絶えない場所の方が合っているのかもしれない。

本人は断固として否定するだろうが。

 

 

「はぁ、本当に……世話の焼ける子達ばかりだよ」

 

 

 リヴェリアがため息を漏らすのはいつものこと。

いつだって、こうして家族を眺めては頬杖をついて項垂れている。

だが、そこにはいつもと同じ表情は見当たらない。

誰も気づかないような彼女の表情の機微。

親であるロキが見逃すはずはない。

そこには、いつもと違う優しい微笑みが浮かんでいたのだから。

 

 

______________________________

 

 

 

 リヴェリアを筆頭に行われたもてなしは、とても心地の良いものだった。

顔見知りの仲ということもあるが、それにしてもこの待遇はすごい。

アイズが買ってくれたじゃが丸くん、程よく冷えたジュース、手作りの焼き菓子。

やや行き過ぎな件も否めないが。

時間が経つに連れて、ロキたちのお陰で大分緊張が解れた。

対してリヴェリアは、見果てぬ目的地に向かって爆走中であった。

 

 

「どうだ、ラジエル?

その……お味の方は?」

 

「うん、すごく美味しいよ。

こんなの今まで食べたことないなぁ。

お店出せるくらいおいしいよ」

 

「そ、そうか!

あ、いや…んんっ!

口にあったようで何よりだ。

まぁ、なんだ、焼き菓子程度で満足されても困るな。

ラジエル、どうせなら昼食も一緒にどうだ?

お前さえ良ければなんだが……」

 

「ねぇ、アレ誰?

ホントに私たちの知ってるリヴェリアなの?

私にはほとんど別人に見えるんだけど。

変身魔法使って化けてる別人に見えるんだけど」

 

「うん、リヴェリア、いつもと全然違うね。

……ロキ?」

 

「ぶほぉ…!

あ、あかんあかん、鼻血出てもーた。

え、何?アイズたんなんか言うた?」

 

「めっちゃ興奮してんじゃん。

普段見ないリヴェリアにアドレナリンとか色々出まくってるじゃん。

いや、気持ちは分からないでもないんだけど...」

 

 

 彼女を知る者からすれば皆一様に答えただろう。

あれは本当に本人による反応なのだろうかと。

いつもガミガミと怒っている印象が強いため、余りのギャップに3人は困惑していた。

ロキに至っては鼻血を出すほど興奮しており、二人のやりとりを引くほど凝視している。

主神程ではないが、アイズとティオナも戸惑っている。

かつてないほど、リヴェリアは舞い上がっていたのだ。

 

 

「ホント?

リアがご飯作ってくれるの?」

 

「あ、あぁもちろんだ!

お前が食べていくというのなら腕に寄りをかけて作るとも。

何が食べたいんだ?」

 

「どーしよーかな。

あ、じゃあオムライスがいいな」

 

「……っはははは!

オムライスか、あぁもちろんいいとも。

お前が食べたことのないような美味しいオムライスを作ろう」

 

「ねぇ、もうホントにアレ誰なの?

少なくとも私にはあんな反応されたことないんだけど」

 

「リヴェリア、すごい嬉しそう」

 

「あかん、ティッシュなくなりそうや」

 

 

三人の目に映るは完全に甘やかしの母そのもの。

見ていてとてもむず痒い気持ちを覚える。

悪化すればお金すら渡しそうになる勢いである。

リヴェリアは、将来結婚する相手は慎重に選んだ方がいいだろう。

相手に対して完全に虜になってしまうと、持ち前のおもてなしの精神が全面に出てしまう。

子どもであるラジエルが決して悪い訳では無いが、悪い男に引っかかった場合どのような結末が待ち構えるのかは何となく想像がついてしまう。

恋仲になる相手は、自分たちもしっかりと吟味して判断すべきと誓う三人なのであった。

 

 

「ジュースのお代わりはどうだラジエル?

焼き菓子もまだまだ沢山あるぞ?

何なら新しく焼いてきてもいいぞ?

む、口周りが汚れているな。

そのまま動くなよ……っと、キレイになった。

どうだ、私にして欲しいことがあったら何でも言うんだぞ?」

 

「ありがとうリア。

じゃあ、ジュースちょーだい?」

 

「あぁ、任せておけ。

他にも何かつまめるものがあれば取ってくるとしよう」

 

「……お母さんっ!!」

 

「ティオナ、しっかり」

 

「…これがリヴェリアたんの、ギャップ萌え…か。

……ごふっ!」

 

「あぁ、ロキまでおかしくなっちゃった」

 

 

 一つ言えるとすれば、ロキファミリアはいつも以上に平和だ。

実に騒がしく、充実した穏やかな日であった。

忙しなく喜んではしゃぎ回る姿は、皆子ども時代に戻った様。

これもラジエルの成せる力なのだろう。

一度全てを取りこぼしたとはいえ、魔導書(グリモア)による精神干渉から何かを取り戻しつつはあるようだ。

 

 

「そういえばさ、なんでラジくんは一人でじゃが丸くんなんて買ってたの?」

 

「ティオナ、今の発言は、聞き逃せない。

じゃが丸くんは“なんか”じゃない。

あれば全ての人を救う最高の食べ物。

世界にとって、掛け替えのないものなんだよ」

 

「うわわこめんって!

そんなつもりじゃなかったんだよ!

アイズホント、じゃが丸くんのことになると目の色変わりすぎてすごい心臓に悪い…。

それで、どうして一人だったの?

リヴェリアからある程度聞いてはいるけど、ラジくんも冒険者なんでしょ?

それもこの街に来て日の浅いしさ」

 

「お、ティオナにしては鋭い読みやな」

 

「私にしてはって何さ!」

 

「うん、まぁ…何か皆からステイタスこーしんからずっと話しかけられて、ちょっと居づらくなったから出てきちゃった」

 

「ステイタス更新で?

それで騒ぐってことは、よっぽど上がったんだね!

おめでとう!」

 

「そー…なのかなぁ。

あてな様はそー言ってたけど」

 

「おん、アテナ?

アイツ下界に来とったんか?

それはウチも知らんかったなぁ」

 

「ロキ知ってるの?」

 

「アテナだけはな。

ファミリア立ち上げたのは知らんかったわ。

にしても…アイツが人の親に、かぁ。

ウチも他人のこと言えんけど、なんや意外やなぁ」

 

 

感慨深そうにロキはそう呟いた。

ファミリアを立ち上げることは比較的容易ではあるが、そこに踏み切るまでと、その関係を維持することは難しい。

神によっても様々ではあるが、面倒くさがりの神は傍観に徹し、進んで下界に干渉することは少ない。

かく言うロキも、当初は気紛れにファミリアを立ち上げた。

子どもたちと触れ合い、共に時間を共有していくことで特別な感情を芽生えさせてきた。

今では自分の命以上に大切な光となった。

 

 

「アテナは一言で言えばアレやな、堅物キャラやな」

 

「かたぶつって何?」

 

「分かりやすくゆーとやな、めっちゃ真面目っていうこっちゃ。

とにかく真面目でな、ルールに反することは何があっても曲げん奴なんや。

時間通り行動せえへんと機嫌悪くなるみたいな感じで理解しとけばええ。

そういう話でもゆーと昔な、うちがちょーっとお尻触った程度でめっちゃ怒られたんよ。

何であんな真面目なんやろな。

もうちょい肩の力抜かんとしんどいやろ、あれ」

 

「いやそれ普通の反応じゃない…?

全然真面目カンケーないし」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「まぁ、何にせよ悪いやっちゃない。

それだけはウチが保証したるわ」

 

 

 アテナはロキと旧知の仲のようだ。

セクハラ等の問題で目の上の敵にされているようだが、ロキ本人は嫌ってはいない。

恐らく、アテナも内心嫌いではないのだろう。

ロキという神に対する反応は、どの生物も似通っている。

鬱陶しいが、嫌悪するほどではない。

可愛く表現すればイタズラ好きな子どもと同じ。

ロキを知る者の大半は彼女の性格を分かっているため、あからさまに邪険した態度を取ることは無い。

寧ろまたか、といったような反応をされるため、最近は対応を流されることが多くなった。

決して、心底疎まれていることはないとだけ言っておこう。

 

 

 

「へぇー、神様にも色々あるんだね」

「うん、私もロキから他の神様の話、あんまり聞いたことない」

 

「どいつもこいつも話すのも面倒になるぐらい長い時間近くにおったからな。

意識せえへんと話題に上がらんのや。

何も変わらん神より、何にでも変われる子どもたちに目ぇ向けた方がよっぽどおもろいやん。

今ウチの本命はお前らや。

他はぜーんぶ二の次でええねん」

 

 

カラカラと笑いながら、ロキはそう言った。

それは、疑いようもないほどに真っ直ぐにこちらに向けた賛辞であるからだ。

昔のように誰彼構わず悪戯する神ではない。

永劫不変の神でも、人に接することで変わることが出来る。

神は変わらないとロキは言ったが、それは必ずしも本心ではないし、全ての神に向けられて発言したことではないのだ。

変わる気がある者であるならば、在り方は変わらずとも変化を生み出すことが出来る。

ロキのように神ですら変われるのだから、子どもたちだって必ず変われる。

大事なことは伏せ、考えさせるのが神として、親としての役割。

その行く末を見届けるのが、主神であるロキの務めなのだ。

 

 

「他の神様の話もそれはそれで気になるけど……ねぇ、ラジくん。

私にちょーっと試させてくれない?」

 

「ためす?

何をすればいいの?」

 

「簡単なことだよ?

今から私と勝負して!」

 

「ティオナ、また悪い癖」

 

「まぁ、こればっかりはしゃーないな。

正直なとこ、ウチも興味あるしええやん?」

 

「うん?

手合わせすればいいの?」

 

「そう!

リヴェリアが言うくらいだから、君はすんごく強いんだよね?

潜ったばっかでインファント・ドラゴン倒しちゃうなんて、広まったら大注目間違いなしなんだから!

そんな子と戦いたくないわけなんてない。

ってことで、ラジくん。

私と手合わせ、してくれるよね?」

 

 

風向きが、変わりつつある。

彼女はリヴェリアから聞いた。

インファント・ドラゴンを素手で倒す子どもがいたと。

信じられないと思いつつも、内心は少し期待していた。

どういう子なんだろう。

どれほど強いんだろう。

どんな戦いをするのだろう。

考えれば考えるほど、ティオナは昂りを感じてしまった。

しかも今日、目の前に件の子がいる。

試してみたくて仕方ない。

正体不明のこの少年が、一体どこまで自分を楽しませてくれるのか、楽しみで仕方ない。

 

 

 

「ごめんね、でも…私ちょっと……ガマンできそうにない」

 

「……ティオナ?」

 

 

 彼女はティオナ・ヒリュテ。

Lv.2にして前線を任された女性のアタッカー。

性別が女性で、特徴的である黒い肌を持ち、強靭でしなやかな肉体を有する。

戦闘民族(アマゾネス)の一人がティオナだ。

その引き締まった肉体は子どもの身にそぐわず、大人の女性に引けを取らないほどに美しい線を持つ。

アマゾネスとして生まれた者は、優れた身体と身体能力を持って、自らの伴侶として相応しい雄を求めて戦い続ける。

だが、彼女たちは戦うことでしか生きる意味を見い出せない。

戦うことでしか愛も感じることが出来ない。

血が騒ぎ出す。

ティオナの中にあるアマゾネスとしての闘争本能が疼きだしていく。

ここまで抑え込んできたのに、意識するに連れて本能に逆らえなくなってしまう。

最早自分では止められない。

発情に似た甘い空気を垂れ流し、蕩けた眼で少年を見つめる。

見ているだけで息は勝手に乱れ、顔も身体も炎のように熱くなり、今にも飛びかからんとする身体を、最後の理性を振り絞って耐えている。

 

 

「ちょっと……だけだから。

お願い、ほんの少しでいいの。

熱くて暑くてたまらない……。

ねぇラジくん、キミなら……きっと私を満足させてくれると思うんだぁ……。

私と、やろうよ……ね?」

 

 

 

 




 いらっしゃい、あずき屋です。
安定の日常編から戦闘編へなります。
ワンパターンですよね。
もう少し話の流れの味を変えたいと思っているのですが、これがまたなかなかうまくいきませんね。
思ったより前話の注目が多かったので、もう少し日常編を続けてみたいと思っている所存でございまする。

今回はティオナとリヴェリアにライトを当ててみました。
いや主にティオナホント可愛いですよね。
ロキの気持ちがよく分かります。
ギャルでもないのに黒て、将来楽しみですね。
ちなみに私はロリコンではありません。
強いて言うならフェミニストです。
どっかの先輩と似たような感じです。

 それはさて置き、是非とも次回をお楽しみにしていただきたい。
少しの間は時間が取れる回数が多くなってくるので、次回もなるべく期間を空けないようにするつもりです。
どうぞ、ごゆるりとお待ちください。


 ではでは、また次のページでお会いしましょう。


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