少年成長記   作:あずき屋

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 自覚がないほど、恐ろしいものはない。
何故なら、それは際限なくあらゆるものを飲み込むからだ。
自分自身ですら限界を認知できない。
故に歯止めが効かず、何処までも広げ、塗り潰していく。
極めつけに、それを持ち得ているのが、何も理解していない子どもであれば、その驚異は計り知れないだろう。


第16話 少年、炎を思い出す

 

 

 

 個人により差はあれど、幸福と不幸は平等に降りかかる。

その中でも、人間という生き物は自身にとって不快な思いほど強く認識する。

そして、それは長い間心に深く根を張り、その者を苦しめ続ける。

悲しみや怒りが齎らす黒の侵食。

知能が大きく発達してしまった種であるが故に、余計なものを抱え込みやすい。

あらゆる事に何らかの反応を示す人という存在が、その存在を如実に表していると言えるだろう。

不幸が幸福に優っているという点を挙げるならば、それなのかもしれない。

幸福を味わっても、その余韻に浸る時間はほんの一時。

しかして不幸は、実に多くの時間人を苦しめる。

禍福は糾える縄の如し。

互いに密接な関係ではあるものの、決して一方のみを味わえる訳ではない。

どちらかが迫ってくれば、いずれもう一方が必ず迫ってくる。

幸福と不幸は表裏一体の存在で、この世のあらゆる生に対して、常にその存在を与え続けている。

 

 この時、少年が味わっているのは間違いなく不幸であった。

それも、飛び抜けて凄惨なものを。

家族含めて村民を皆殺しにされて、築き上げてきたもの全てを灰にさせられた。

それは無慈悲に、悪魔の所業を思わせるように。

自分たちが一体、何をしたというのか。

村民全ての命を対価に支払わなければならない罪を犯したというのか。

あれほど凄惨な光景を現実にさせてしまうほどの行いを、自分たちはしてきたとでも言うのか。

罪なき赤子諸共命を散らさなければならない過ちを行ったというのか。

 

 

 否、断じて否。

自然と共に生き、無闇な殺生を行わず、慎ましく生活し、日々を笑顔で過ごしてきた。

特別なことは、何一つしてきていない。

掛け替えのない日々を、村人全員で共有しながら全力で生きてきた。

これまでの日々全てが、地に還るその時まで皆の心に残るように生き抜いてきた。

それを間違っているなどとは、誰であろうと断じて言わせない。

身に覚えのない余りにの仕打ちに、いったい誰がこの現状を見て仕方ないと思えるのか。

 

 

 炎が燃える。

村人や思い出を燃やすだけでなく、生き残ってしまった少年の心にも火が移る。

憎悪や深い悲しみなどの負の感情を薪に、あの時の光景のように大きく燃え上がる。

その感覚は、とても奇妙なものだった。

当時は何も感じることはなかったのに、今こうして当時の記憶を呼び起こされた途端に自覚する。

自分は、何かに対して憎んでいる。

だが、あの時の侵略者たちの顔は誰一人として覚えていない。

誰を憎めばいいのか。

誰に怒ればいいのか。

誰を殺せばいいのか。

行き場のない深い憎悪が、心の奥に確かに芽生えた。

あの灰の中で、少年は一体どうなってしまったのだろうか。

 

 

「死んだよ。

あの災禍の中で、お前は間違いなく死んだ。

身体じゃなく、心がな。

無理もないさ、家族や村人含め総勢二百名余りが漏れなく皆殺しだ。

そんな衝撃的過ぎる光景を見せつけられば、年端もいかないガキに何らかの悪影響を及ぼしたとしても、何ら不思議なことじゃない。

あの時、お前は心の中身全てを取り零した。

ラジエル・クロヴィスという名前と、空っぽの器だけが残った。

そら、そんなもの実質死んだも同然だろ?」

 

 

 ならば、何故自分は生き残ったのか。

全てを失い、何もかもを取り零した傀儡と変わらない存在となってしまった少年が、どうして今日まで生き抜くことができたのか。

 

 

「さぁな……ただ、最後の最後で見つけたんだろうよ。

生きなきゃいけない、生きる意味ってやつを」

 

 

 生きる意味。

大切なものを踏み躙られる光景をまざまざと見せつけられて、地獄の奥深くに突き落とされた手前、到底そんなものが見つけられたとは思い難い。

理解の範疇を越えた結末、感覚が麻痺するほどに味わった悲しみや苦しみの連鎖。

それすらも、もう感じなくなってしまうほどに、心が一瞬で摩耗してしまった。

何も感じられなくなり、何も考えられなくなってしまったはずだ。

そんな正常な思考、あの場ではどうしても出来なかった。

 

 

「深く考え込む必要はないさ。

だって、そいつは頭で考えるものじゃない。

所謂本能。

死を回避しようと藻掻き、生に執着しようとするみっともない姿。

哀れにも愚かにも見えるが、それは決して恥ずかしいことじゃない。

どんなになろうとも、懸命に生き抜こうとする生物として当然の形だからな。

極めて合理的に、感情的に、本能的に動く“人”という存在だからこそ、必死に足掻くんだよ。

きっとお前を突き動かしたものは、やっぱり家族の存在があったからこそだろう」

 

 

 家族という存在。

寝食を共にするだけの関係ではなく、思いや時間の多くを共有し、互いに成長させるもの。

理屈ではなく、感情的から生み出される特異なもの。

親は子を時に叱り、諌め、褒め、愛し、導く役割を担う。

母は子を身籠り、長き苦痛に耐え抜き、命を削って我が子を産む。

父は妻と子を養うため、日々汗水流し、時に血を流して金銭や食料を得るため、日々を労働に捧げる。

双方ともに苦労が絶えない日々を強いられることになるが、根底ではよく考えて許容している。

全ては掛け替えのない時間を少しでも多く作っていくため。

子どもの成長を身近で見守っていきたいため。

自身の全てを投げ打ってでも、我が子に笑って生きていて欲しいため。

愛故に成される所業。

 そんな子にも役目がある。

日々を元気に過ごし、遊び、学び、育ち、生きることだ。

それは自身の両親のように人として成長し、後に自分が彼らの立場になるための準備期間として、日々を元気に過ごす義務がある。

ただ生きるのではない。

誰かの力になり、世のために役に立てるよう成長しなければならない。

両親と妹は確かに、ラジエル・クロヴィスという存在に対して、とても大きな思いを遺してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

──────貴方が元気な姿を見せてくれたら、お母さんは幸せ。

 

 

 

 

 

──────いつかお父さんを越える強い男の子になれ。

 

 

 

 

──────小さな者に頼られ、守れるような存在に。

 

 

 

 

 

 

 日々の生活の中で、家族はそんな大切なものをラジエルに託してくれていた。

どんなに泣き出しそうな辛い境地に立たされようとも、もう起き上がれないぐらいの絶望を眼前に叩きつけられようとも、閉じ篭りたくなるほどの悲しみを抱えようとも、必ず生き抜かなければならない。

命ある限り、生きることを放棄してはならない。

 

 

「その証拠に、お前に覆い被さってたあの灰。

ぶっ倒れる前はそんなモン被ってなかったろ?

間違いねぇよ、あれは俺たちの親の灰だ」

 

 

 影の語りかけは、あの時の光景を鮮明に蘇らせてくれる。

一度意識を手放す前、自分はまっさらな状態で地に伏せていたはずだ。

被った覚えのない灰が、自分の背中を優しく包んでいた。

文字通り、両親が最後の力を振り絞って息子を守り抜こうとした。

自分たちが後どれくらい息が続くか分からない。

最愛の人の顔も見えなければ、娘も目の前で散らせてしまった。

不幸のどん底に突き落とされた、

でも、まだ目の前には息子が残っている。

ならば、せめて息子だけは生かさねばならない。

自分たちの幸せの結晶を、悪しき者の手に落とすわけにはいかなかった。

激痛に見舞われる中、懸命に地面を這いずって息子を隠した。

子どもの死を偽装するために覆い被さった。

戦火に身を焼かれようと構いはしない、そんな覚悟の上だったのだろう。

 

 

「皮肉にも気を失ってたのが幸いしたな。

地に伏せて、そのまま動かなけりゃ奴らは気づかない。

まぁ、そのままお前ごと焼かれる可能性もあったが、あの人たちはその賭けに勝った。

今はもう知る術をあの人たちにはないが、お前は今こうして生きてる。

両親にとっては、それだけで大勝利なんだよ。

自分たちの宝物が、今まで元気にやってる。

それでお前が天寿全うすりゃそれで万々歳。

……ホント、生涯頭が上がらねぇや」

 

 

 そうして、村は壊滅の一途を辿った。

気紛れに吹いた風が、偶然少年の住む村を倒しただけ。

何故も何も無い。

偶然の重なりが続いて、こうなっただけの話だ。

経緯についての考察など無意味。

全ては結果のみが物語る。

 

 

そして、少年はその灰の中から再び生まれた。

 

 

「まるで英雄譚みたいだな。

燃え尽きた灰の山から蘇るなんてよ。

神様の復活かってんだよな。

まぁ、経緯はどうあれ、お前は生き残った。

死んで生まれて、リューたちの知ってるラジエル・クロヴィスとなってここにいる。

前より性格は真反対の存在になったがな。

明暗が反転し、感情を覆い隠す鉄仮面を被り、何に対しても反応の薄い不感症気味のガキになっちまった。

これがお前の忘れていた記憶の欠片。

心の奥底に封じ込めた思い出したくない過去だ」

 

 

 斯くして、少年は死に、少年は生まれた。

粉々に砕け散った心の欠片を寄せ集め、無理矢理に繋げ合わせた歪な存在として新たに生まれ直した。

決して消えることのない赤い炎を遺して、ラジエル・クロヴィスは新たな人生を歩むこととなった。

 

 

「前に進むためには、時には辛い過去にも向き合わねぇといけねぇ。

そうじゃなねぇと、何の為に前に進んでんのか分からなくなっちまうからな。

いい事も悪いことも全部ひっくるめて生きろよ。

それが、あの時お前に課された勤めだ。

随分と前座が長引いちまったが、こればっかりは避けられねぇ。

待たせちまったな。

お詫びにはならねぇが、こいつを渡す時が来たよ」

 

 

 影の掌に浮かぶ赤き塊。

妖しく揺らめき、邪な思いを宿す恩讐の具現。

時の終わりまで決して消えない憎悪の炎。

 

 

「【原初の炎(エイワズ)

使い手の負の感情を薪に、この世の終わりまで燃え尽きない不浄にして、不滅の魔法だ。

魔力が尽きない限り消えることはなく、あらゆる形に変じられる憎悪の業火って言ったところか。

お前の心の憎しみが強ければ強いほど猛々しく燃え上がり、際限なく一切合切を問答無用で焼き尽くす。

ッハハ、厳密に言やぁ魔法じゃなく、呪いそのものだなぁこりゃ。

まぁ、確かに渡したぜ。

後は好きに慣らしな。

勝手や加減はそのうち掴めんだろ。

歩くより走れ、習うより慣れろってな」

 

 

 それは、決して消えることのない傷の形そのもの。

修復が完全に不可能となったその傷は、あらゆる万能薬をもってしても癒える事はない。

徐々に傷跡は大きくなり、いずれ身体だけでなく、心にまで広がっていく。

生まれながらにして致命傷を負った少年は、死に場所を求めて彷徨う幽鬼。

ぶつけどころが分からず、晴れることのない憎しみを、いつか消せると信じて漂う。

終わりのない旅路に終わりがあると、信じて止まない哀れな鬼の子。

叶いもしない願いを、愚直にも信じ続けた少年の在り方を体現したもの。

 

 

「今回はここまでだ。

俺からしてやれるのはこんくらいなんでな。

後は自分で見つけな。

しんどくなるほど考え、死にそうになるほど悩み、心の底から納得したモンが答えだ。

折れない限り、いつかは見つけられンだろよ。

おおっと、そろそろ時間切れかねぇ」

 

 

 影の姿が、徐々に霧散していく。

役目を終えたからだろうか、その姿かたちは薄れていき、この世界に還元させられる。

彼は、少年の心の一部。

消えるのではなく、在るべき所へ戻るだけなのだろう。

 

 

「……まぁ、俺としちゃあだいぶ引き伸ばせたモンだろ。

とりあえずはサヨナラしてやんよ。

ッハハ、何?

ここで俺の登場終了とでも思ってんの?

ッハハァ!大ハズレってな。

俺自身分かんねぇけど、またいつかはお前の前に出てくるよ。

俺は、お前の闇そのものなんだからな。

呼ばれずとも何度でも出てくるさ。

せいぜいそン時を楽しみにしてな」

 

 

 消えかけになっても、その減らず口は留まる事を知らない。

最後の最後まで、耳障りになるお喋りは終わらない。

どこまでもしつこい影は、消えるその時までに大きな謎を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忘れんなよ。

自覚がないにせよ、お前の心には……いつでも憎しみが巣食っていることを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

「…………ぅぁ?」 

 

 

 目が覚めると、少年は仰向けで寝転がっていた。

覚醒しきっていない頭は働かず、何故眠っていたのかだけを延々と自己問答する。

ちらりと左手を見やれば、太陽が退場しようとしている時間帯であった。

むくりと上半身を起こす。

身体はほんの少し怠いが、さして支障はない。

何やら、夢を見ていたようだ。

自分の過去を追体験する、そんな悪夢を。

 

 

「……あれ。

俺、覚えてる?」

 

 

 夢は総じて朧げな印象である。

しかし、少年は自分の見ていた夢の内容をはっきりと覚えている。

否、夢ではなく、自身の身に起きた出来事を思い出したように、取り戻したような感覚だ。

村の皆のことや家族のことを、鮮明に思い出した。

だからといって、今の少年に対して大きな変化はない。

だが、忘れてはいけないものを、取り戻したような気がした。

自身の胸の内に仕舞いこんでしまっていたものを、ようやく一つ見つけたのだ。

 

 

「……熱い。

何だか、すごく……熱いや」

 

 

 胸の奥に、確かな熱を感じる。

優しいものではなく、いずれ身を焦がしてしまうのではないかと錯覚を覚える熱さ。

これが一体何なのかは分からない。

自身に起きた出来事を、いまいち理解できないまま、夜を迎えることになってしまった。

 

 

「ラジエル、今いいか?

アテナだ。」

 

 

 ノックが響き渡った。

夕餉を知らせるために誰か来たのだろうか。

 

 

「ん、どーぞ」

 

「すまない、失礼するよ。

せっかくお前を休ませているのだから、ここいらでステイタス更新をしようと思ってな」

 

「うん?どーして?

後二日くらいはダンジョン行けないんでしょ?」

 

「まぁ、確かにそうなのだが……ホラ、アレだ。

この前のお詫びも兼ねてというかだな……」

 

「あてな様、まだ言ってる」

 

「う……済まない。

私としても、少しでもお前に寄り添いたいのだ。

形にはできないが、せめて何かラジエルにしてやりたくてな。

まだダンジョンで力を試させてやることはできないが、今のうちに自分の力を把握させるにはいいかと思って……」

 

 

 少年の主神は、普段の凛とした態度を隅に追いやって、何やらモジモジと語りだした。

どうやら猛者(オッタル)との諍いに巻き込まれた件を未だに気にしているらしい。

アストレアファミリアの眷属たちは、皆口にこそ出しはしないが、この短い期間の間にアテナの性格に関して掴み始めているようだ。

普段はその美貌を引き締め、毅然とした強気の態度を崩さない。

が、その反面はとてもナイーブだ。

傷つきやすく、自身の失敗を長く悔い続ける傾向にある。

噂によれば、ファミリア設立の際にギルドからあれこれ説明や注意を受けた後、人知れずアストレアに泣きついていたらしい。

説明や注意で泣きつく意味は一切不明だが、とても繊細な心の持ち主であるということは確かだ。

少しばかり慣れたせいか、今日の朝餉から、アテナは弱々しい一面を少年に見せるようになった。

慣れてくれたことは嬉しいが、自分の親がこうも打たれ弱いのはどうなのだろうか。

 

 

「んんっ!

ダンジョンにはまだ行かせられないが、ここで鍛錬するならば何の文句もない。

どちらにせよ、新たに身に付いた力を持て余すことはないだろうと思ったまでだ!ほ、ほんとだぞ!」

 

「……ふーん」

 

「や、やめろ!

そんな迷いのない円らな瞳で私を見るんじゃない!

神といっても、純真無垢な子どもの視線にはくるものがあるんだぞ!

……はぁ、まぁちょっとばかり早いとは私も思うが、このままでは私の気も晴れない。

ここは一つ、私を助けると思って頼む。

それに……なんだ、お前も猛者と戦った時に蓄積された経験値(エクセリア)を、早くその目で見たいだろ?

ラジエルがどういった強さを求めるのかは分からないが、少しでもその強さに近づいていっている実感を、すぐ持たせたいと思って……」

 

「……ありがとう、あてな様」

 

「……ははっ、またその言葉に救われてしまったよ。

不甲斐ない親で済まないな。

いつか、胸を張って自慢できるよう、私も強くなろう。

なんやかんや建前を並べても、本音はラジエルの成長を見たいだけなんだ。

子どもの成長が待ち遠しくて仕方ない……ははっ、ダメな親だろう?」

 

「んーん、そんなことないよ。

あてな様は、俺の親だよ。

これからも、そうなんでしょ?」

 

「……あぁ、もちろんだとも。

お前の初めての更新を機に、私の成長も更新しよう」

 

 

 自分の気持ちも固まったことで、アテナはステイタス更新の儀式に取り掛かる。

儀式といっても、そこまで大掛かりなものではない。

最初に恩恵を刻んだ時のように、背中の神聖文字(ヒエログリフ)を書き換えるだけだ。

指に金の針を刺し、神血(イコル)を滲ませる。

熟練の画家のような筆使いで、淀むことなく指を走らせる。

 

 

「あぁ、そういえば魔道書(グリモア)を手に入れたのだったな。

もう読んだのか?」

 

「うん、読んで寝ちゃった」

 

「ははっ、慣れない読書で眠気が来たか。

書物に触れる機会が少なかったのだから仕方ないと言えば仕方ないか」

 

「むぅ、あてな様、ばかにしてる?」

 

「悪かった悪かった。

そう怒らないでくれ。

何事も経験から、と言うだろう?

今は慣れずとも、これからゆっくり慣らしていけばいいさ」

 

「なのかなー」

 

 

 たわいもない会話を続けて更新を続けた。

自分にとって、少年が掛け替えのない存在であると再認識したアテナは、この何気ない時間がとても愛おしく感じた。

特別なことは何一つとしてしていない。

そして、特別なことをする必要もない。

当たり前の触れ合いを、意識して噛み締めるだけで、それが特別に思える。

こういった時間こそが、親子にとってとても大切なものなのだ。

 

 

「そういうものさ。

私も昔は読書が得意という訳ではなかったしな。

ラジエルのように、数ページ読んですぐ眠くなってしまっていたよ?」

 

「あてな様もそーだったの?」

 

「私とて苦手なものはあるとも。

神は生まれながらにして完全な存在ではあるが、厳密に言えば完璧ではない。

お前たち子どものように、苦手なものの一つや二つはあるさ。

後は、勉強もあまり好きではなかったな」

 

「お勉強?」

 

「あぁ、お勉強だ。

私が過ごしていた時代に関することや危険なこと、やってはいけないことなんかも学ばなければならなかった。

神といえど、自分が関与する前の事柄を知っている訳ではないからな。

自分の住む世界くらいのことは、自分で調べなければならなかったよ」

 

「じゃあ俺も、色々調べないといけないかな?」

 

「そうだな、じっくり時間を掛けて、様々なことを学んでいくといいさ。

お前たちの可能性は無限大だ。

ちょっと目を離した隙にあっという間に成長してしまう。

ほら、今みたいにこのステイタスを見れば一目瞭ぜ…………んん?」

 

「んん?」

 

「こ…………これ、は?

一体どういうことだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 女神の絶叫が木霊する。

アテナは、生涯今日という日を忘れることはないだろう。

この異常過ぎる伸びようは、忘れたくとも忘れることは出来ない。

他の冒険者たちからしても前代未聞。

それは近いうち、必ずやこのオラリオに波紋を呼ぶことだろう。

狂い始めている歯車が、それを遠からず実現させる。

どのような結末が待ち構えているのかは、神ですら予想することは出来ないかもしれない。

歪に重なり合っている歯車が、どんな結果を呼び込むかは想像し得ないからだ。

少年の運命は、着実に歪み始めている。

長年封じ込めていた枷は外れ、悍ましいものが溢れ出す。

自覚なき怨嗟は、誰に対して牙を剥くのだろうか。

 

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ラジエル・クロヴィス

Lv.1

種族:ヒューマン

所属:アテナ・ファミリア

力:G 231

耐久:D 511

器用:E 402

敏捷:D 507

魔力:C 646

 

《魔法》

原初の炎(エイワズ)

・変幻魔法

・魔力(憎悪)が続く限り対象に炎を付与する

・発動間、外部による干渉を無効にする

 

 

《スキル》

狂い立て我が恩讐(インサニア・アザーヴ)

・憎しみがある限り、戦闘時にアビリティ上昇補正

・時間経過と共に魔力を微量に回復

・誘惑、魅了を無効化

・早熟する

 

 

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 新年空けましておめでとうございます。
大幅に遅ればせながら、この場をお借りして新年の挨拶をさせて頂きます。
そして重ねて恒例のご挨拶を。


 いらっしゃい、あずき屋です。
お待たせ致しました。
新作で御座います。

ステイタスを大幅に更新しました。
オッタルとの戦闘、魔道書による精神介入を通して、いよいよ本格的に主人公が壊れ始めます。
いやぁ、もう過去回想から大体ご察しがつくと思いますが、改めて事実を申し上げます。
ラジくんに救いなんて欠片もありません。
既にぶっ壊れた精神を元通りにすることなんてできませんから。
現段階において、主人公の狂いように拍車がかかります。
どういった形に収まるのかは後々のお楽しみにということでよろしくどうぞ。

 まぁ細かいお便りは別途でお願いします。
なるべくお答えしていきますので。
質問や気になること、ご要望などは恥ずかしがらずに思い切って私までどうぞ。
質問くらい恥ずかしくもなんともありません。
厨二病みたいな設定盛り込んでる私に比べたら、どうってこと無いでしょう?


という訳で、新年空けましてあずき屋、開店でございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。


ではでは、また次のページでお会いしましょう。


※ステイタスは参考程度です。
勝つ時は勝ちますし、負ける時は負けます。
今作品はステイタス=勝ちが必ずしも存在している訳ではありません。
ご了承ください。

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