少年成長記   作:あずき屋

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 皆々様お待たせ致しました。
お話致しますは、とある少年の物語が一節。
非情なる現実を突きつけられた数奇なお話でございます。
お話の都合上致し方のないことではありますが、過激な描写も語らせていただきます。
ちょいとばかしぼかしは致しますが、何分不慣れなもので隠しきれないかと思われます。
ご注意書きとして、始めに抑えさせていただきます。
ご気分など悪くなされるかとも思われますが、何卒ご容赦下さい。
どちらにせよ、外すことのできないお話で御座います故、どうか最後までお付き合いを。



では、これより開演致します。





第15話 少年、欠片を拾う

 

 果てが見えない。

目が覚めて、まず初めに感じたものはそれだった。

この世界には、光と影以外存在しない。

それ以外、色が存在しない。

対比としては、どう見ても影の割合の方が多い。

それほどまでに、この世界には影が満ちていた。

 

 果てのようなものは見える。

少年が立っている場所よりずっと遠い場所に、それらしき場所がある。

光が横一直線に伸びていて、その遥か頭上には小さな光体が輝いている。

光が照らしているのはその線だけ。

辺り一帯を照らしているわけではなかった。

あれが果てなのか、それともただの光なのかは分からない。

 

 この世界は何なのだろうか。

辺りには自分以外の生物は存在していない。

この世界に、まるで一人ぼっち。

在るのは光と影。

そして、ラジエル・クロヴィスという少年だけ。

何とも面白みの欠片もない世界なのだろう。

見るものは、目の前にある光の光景だけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────あーあ、もう来ちまったのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に声が響く。

この不毛な世界に、初めて声が生まれた。

振り返れば、そこには何かがいた。

背丈は少年と全く同じ。

人のように見える。

表せるのは、ただこれだけ。

この何かは間違いなく人ではない。

全身が同一色の黒で染まっているなんて、どう考えても人ではない。

 

 

『お前と会うのはまだ先になるとばかり踏んでたんだがなぁ……。

まぁいっか、あーっと……何?

お決まりの語りかけとか言った方がいいわけ?

汝にとって魔法とはーみたいなやつ?

ッハハァ、下らねぇ。

大体ンなまどろっこしいことしねぇでさっさと済ませろよなぁ?

つっても、ここまでベラベラ喋ってる俺が言えた義理じゃねぇか。

ッハハァ、許せよ兄弟。

こちとら初めての会話なモンでテンション上がっちまってるんだわ。

だからこんぐらいの不敬ぐらい流してくれや。

不敬ならぬ、父兄からの頼みってとこで、一丁よろしく』

 

 

 開口二言目から聞いてもいないのにつらつらと言葉を重ねていく影。

心底可笑しそうにケラケラ笑いつつ、幾重にも言葉を折り重ねて紡ぎ出す。

よく喋るやつだ。

第一印象はよく口が回るだった。

殺意もなければ敵意も感じない。

どうやら敵対する意思はないように思える。

果たして、この影は一体何者なのだろうか。

 

 

『おうおう、俺が一体何者なのかって面してやがんな?

さてさて、ここにいる俺は一体何者何でしょうか?

って、それを聞いてンだよな?

ッハハァ、別に何者だっていいンだよ。

そこは別に指して問題じゃあない。

早速だが、役割をハッキリさせておいてやる。

俺がすることは大きく分けて二つ。

お前に魔法をやることと、真実を伝えてやること。

結構重要な役割なんだからよ、ちゃちゃっと進めさせてくれや。

別段、お前が何かをする必要は無い。

強いて言うなら“聞け”。

耳を傾けろ。

こっちを見ろ。

思い返せ。

まぁ、こんなところだな。

緊張感もクソもねぇのは百も承知だが、これが俺のスタンスだ。

ッハハァ、諦めて観念するんだな。

短い時間だが、俺の話すこと全部よく聞いておけよ?』

 

 

 やはり、よく喋る。

口だけ別の生き物のように動き続ける。

要点のみ挙げるとすれば、影の言った通り二つだけ。

“魔法を与えること”と“事実を知ること”だ。

少年には何のことだかほとんど分かっていないが、今はこの影の言葉に耳を傾ける以外道はなさそうだったため、どうでも良さげに聞くとこにする。

しかし、ここに来て妙な違和感を感じる。

先程から、自分の姿が見えない。

体はおろか、手足や指一本さえ視認できない。

加えて声も出ない。

これは一体どういう事なのだろうか。

 

 

『あぁ、言い忘れてたな。

この世界は、お前の心象世界。

所謂“心の中の世界”って奴だな。

何ともまぁ殺風景で、面白みもへったくれもねぇとこだと思ったろ?

紛れもねぇ、お前の内だ。

まぁ、ごちゃごちゃしてるよりかはずっといいんじゃねぇの?

こういう世界の方が落ち着くし、何より集中できる。

この世界はお前自身なんだから、姿形も声がなくても何ら不思議じゃあない。

思ったこと、感じたことだけが反映されて、ありのままを映し出す。

まぁ、鏡とでも思えよ。

分かりやすいだろ?』

 

 

 ここは、ラジエル・クロヴィスの心象世界。

光と影以外存在しない空虚な空間。

なんと虚しい世界なのだろうか。

人は年を重ねていくごとに、心に様々なものを浮かべていくようになる。

それは色であったり、美しいものであったり、醜いものであったりする。

それらを総じて豊かさとして表し、自分という器の中身を形作っていくのだ。

ラジエル・クロヴィスには、それらが極端に欠けている。

余分なものを一切排除したかのような世界。

人間という存在の善と悪、光と闇の両極端しか示されていない。

表情が顔に全く出ないことは分かっていた。

しかし、こう目に見える形で表されると、幼い自分としても痛感してしまう。

 

 

“自分の中には、何も無い”

 

 

 

『ッハハァ、そう気を落とすなよ。

たかだか一回白紙になっちまっただけだろ?

別に気にする必要なんてないね。

むしろそれで済んでよかった(・・・・・・・・・・)と思えよ。

考え方によっちゃあ色々言い分あるけどよ、不幸中の幸いって奴さ。

それを哀れむか、悲しむか、悼むか、喜ぶか、前向きに捉えるか。

周りに言わせりゃそれぞれに捉えられるがな。

お前自身思えたことだけを信じとけ。

ま、今は無理だろうけど。

って、そんな話は置いといてだ。

お前には、ンなちっちぇことで悩んでる暇なんてありゃしねぇんだ。

悩むのもいいが、それに囚われるのもまた考えようってね。

今は別のことに目を向けようぜ。

そう、例えば“魔法”。

例えば“お前が忘れてる過去”とかな?』

 

 

 忘れている過去。

思い当たる節がない少年にとって、その言葉の意味理解できない。

自分に知らない真実を、何故この影が知り得ているのか。

何から何までがさっぱり分からない。

魔法云々に関してはまだ理解出来ても、その他がちんぷんかんぷんだ。

疑問が尽きないことこの上ない。

 

 

『ッハハァ、まぁそう混乱すんな。

それも含めて俺が全部、事細かく詳細に、補足諸々つけて説明してやるからよ。

ンじゃ、楽しい楽しいお話をしようぜ……いやちげぇな。

俺が勝手に一方的に喋るだけだったわ。

ッハハァ、勘弁な?

こちとら出番がこれで最初にして最後なんだよ。

嫌ってほど記憶に刷り込んでもらうため必死なのよ。

っつーわけで俺様の独壇場のはじまりはじまりー。

…………いや冗談だよ、間に受けんなよ。

緊張感をほぐしてもらおうと気ぃ使った俺の身にもなれよ。

まぁどうでもいっか、ッハハァ。

わりぃわりぃ、随分と前座が長くなっちまった、こりゃ失敬。

はーいはい、いつまでもふざけてませんよと』

 

 

 小粋なジョークのつもりだったのだろうか。

こちらには何も響かないが、影は至って楽しそうだ。

少年の反応など二の次程しか考えていない言動の数々。

最早どこからどこまでが冗談なのか分からない。

そういった線引きが掴めない以上、ほとんどの言葉を鵜呑みにするしかない。

 

 

『じゃあ始めるか。

 

今回、語り手を務めさせていただきますはこの私。

今からお話することは嘘偽りない物語。

ある少年のお話でございます。

どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい。

この場にて忙しないのはこの私の口のみ。

どうか王のように、お殿様のように、神様のようにお構え下さい。

そして、どうか終幕までお口を開かないように。

それでようやく、語り手としての役目を全うできるというものです。

これより先、あらゆる口出しは不要。

貴方様が退屈されませんよう精一杯務めさせていただく所存でございます故、どうか最後までお付き合い頂きたい。

 

事の始まり、舞台はとある村。

自然とともに共生し、裕福ではないものの豊かな暮らしを送ってきたとある村。

そこにて走り回る男の子こそが、今回の中心人物。

両親と妹の四人家族。

顔の知らない村人はいないほどまで顔の知れた、とある快活な少年。

その日はいつもと同じように、妹と多くの友を連れて近辺にある遊び場に赴いておりました。

これより先に、何が起きるかなど想像もしないで。

そう、少年の後の生き方を変えたある出来事。

事の始まりにして、あるお方の起源ともなってしまわれた凄惨たるお話。

 

 

全ては、あの日の夜に始まったことなのです』

 

 

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「やぁラジエル。

今日も元気いっぱいだな!」 

 

 

 一人の子どもが元気に走り回る。

一点の曇りさえない真摯な瞳は、文字通り今を十二分に噛み締めながら過ごしている。

足は忙しなく飛び跳ね、髪もまたそれに呼応するかのように跳ねる。

見ているだけで、見えなくなるほどに眩しい姿。

そう、目を背けたくなるほどに真っ直ぐだった。

 

 

「いつも店の手伝いをありがとう」

 

 

 困っている人を見れば放っておけない。

それ故に、村の中で彼を知らないものはいない。

困っている人を見かければ、誰彼構わず手を差し伸べた。

店の手伝い、畑仕事、荷物持ち、探し物。

誰に言われた訳でもないのに、自分にできることは精一杯やった。

そんな少年だからこそ、皆心打たれ、いつでも彼を気にかけてくれたのだろう。

 

 

「コラいたずら坊主!

今日という今日は許さんぞ!」

 

 

 時にする悪戯も、村人たちからすれば微笑ましかった。

悪戯をされた村人は怒っているというより、彼と走る口実を見つけたかのように追いかける。

その時の姿は、しがらみから解放されたかのように晴れ晴れしいものだった。

追いかけている時間は、皆等しく子供時代に戻っているのだ。

 

 

「おーいラジエル!

今日こそヌシを釣りに行こうぜ!」

 

 

 人に話しかけられない日など、ほとんどないほどに目立つ男の子。

毎日友達と元気に遊び回る。

いるかどうかも分からない川の主を求めてたくさん釣りをした。

多くの友達と共に多くの時間を共有し、どこまでも和を広め、深めていった。

笑顔の絶えない快活な少年が、そこにはいた。

 

 

「まってよおにーちゃん!

わたしもいくってばぁ!」

 

 

 そんな彼には妹がいた。

いつでも後ろにくっついて、少年とともに駆け回る。

手を焼かされることが多かったが、同時に掛け替えのない存在なのだという気持ちが常に湧き上がった。

転んで怪我をした時も、愚図って泣き出した時も、帰り道疲れ果てて背中で眠ってしまった時も、いつも一緒だった。

煩わしいと思ったことは一度もない。

迷惑を掛けられることが、頼られているようで嬉しかった。

ケンカをすることがあっても、翌日と経たずに仲直りする。

翌日には、ケンカの反動により、いつも以上に仲良しに見えた。

自分を慕ってくれる妹。

いつでも傍にいてくれる妹。

元気を分けてくれる妹。

少年以上に元気な妹は、少年にとってとても大切な存在だった。

 

 

「あらあらおかえりなさい。

ふふっ、今日も一段と泥だらけね。

ご飯用意してるから、一緒にお風呂入ってきなさい」

 

 

「おぉ帰ったか!

ラジエル、今日もご飯食べ終わったらお父さんと腕相撲するか?

はっはっは!

まだまだお前には負けないさ」

 

 

 いつでも笑顔で出迎えてくれた両親。

優しく、いつでも微笑んでくれる母。

生涯、その笑顔には勝てないと思えるほどに優しい存在。

毎日自分たちにご飯を作ってくれる。

お世辞にも味は美味しいとは言えなかったけれど、自分たち家族にとっては、どんな高級料理よりもおいしい料理だった。

毎日汚した服で抱きついても、全く気にせずに笑ってくれた。

いつでも元気な姿を見せてくれる貴方を見れれば、それでお母さん幸せよと言ってくれた。

優しくて強い自慢の母親だった。

父は笑顔が眩しい屈強な人だった。

小さなことを気にせず、悪いことも笑い飛ばしてしまう。

子どもの腕で勝てるわけないのに腕相撲をしようと言ってきた。

いつの間にか少年もムキになって、飽きもせずに毎晩勝負した。

負ける度にゴツゴツとした大きな手で乱雑に頭を撫でられた。

優しい力加減ではなかったけれど、とても暖かかった。

いつか俺を越える強い男の子になれよと言ってくれた。

 

そんなみんなが大好きだった。

特別なものは何もなかったけれど、少年にとってはこの村で生活するだけで幸せだった。

優しい愛情をくれる両親。

いつでも傍にいてくれる妹。

毎日一緒に走ってくれる友達。

見守ってくれる村人。

毎日が、とても充実していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは、儚い夢だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、それは突然やってきた。

夕日が暮れ、夜の帳が落ちようとしていた時だった。

いつもと同じように友達と別れ、眠りこけた妹をおぶって帰路に着いていた。

その日には、鴉が忙しなく鳴き続けていた。

滅多に見ることのないほどの大群を引き連れ、縦横無尽に空を飛び回る。

その先から、鴉ではない黒が迫ってきた。

何かは分からない。

だが無性に嫌な予感がした。

一瞬で胸を侵食したのは、原因不明の焦燥感。

何かが迫ってくる。

根拠も何もない感覚だ。

第六感とでもいうのだろうか。

何かが少年に告げていた。

それがなんだったのかは、当時の少年には分からなかった。

走らなければならない。

愛する村を目指して、とにかく全速力で走らなければならない。

背で眠っている妹を極力揺らさないように、全力疾走で駆けた。

友達とともに見つけ出した抜け道を蛇のように辿り、最短経路で走り抜けた。

村の門まであと一息だ。

草むらの茂みから垣間見えたものに、少年は言葉を失ってしまった。

 

 黒の正体が、その全貌を顕にした。

火がゆらゆらと列をもって揺れ、ひっきりなしに鉄同士がかち合う音が鳴り響く。

母と同じ笑顔には到底思えない。

父と同じ力の持ち主には心底思えない。

妹と同じ迷惑を掛けるようには、どうしても思えなかった。

ましてや、同じ生き物には見えなかった。

自分たちと纏っているものが違いすぎる。

真っ黒に汚れていて、ドロドロとしたヘドロのようなものを垂れ流しているようだ。

目を背けたくなるような欲望が嫌でも感じ取れる。

眼には、正気と呼べるものは存在せず、ただならぬ空気を醸し出す狂った連中は、正しく常軌を逸していた。

迫ってくる者誰一人、まともではなかった。

黒い集団は、着実に村の門前へと迫ってきていた。

 門番を長いこと勤めてきた中年の男性が勇ましく立ちはだかる。

彼は門番の中でも一際優秀で、過去に幾度なりともモンスターやならず者たちを退けてきた人だ。

どんな相手であろうが一歩も引かず、村へ害為すものを立ち入れはしない。

自慢の大槍を携え、欲望の獣たち相手に槍を突きつけようとする。

 

 寸前、少年の視界に何かが舞った。

ゴトリと鈍い音を立てて何かが地面に転がった。

ボールのように少年の足元まで、それは転がってきた。

見間違えようがない。

モンスターとの戦闘でついた、特徴的な頬の傷。

気合をいれるためにいつも身につけている赤いハチマキ。

整えられた自慢の顎鬚。

勇ましくおしゃべり好きの門番のおじさんの首が、無言で転がってきた。

 

 

 少年の中で、何かが欠けた。

 

 

 虫を払うように門番を殺した連中が、我が物顔で自分たちの村に侵入してきた。

手には凶器、滲み出すは狂気、人を殺めては狂喜する。

あれは最早理性ある生き物ではない。

村に足を踏み入れたことを引き金に、枷が外れたかのように悪逆の限りを尽くす。

躊躇いもせずに人を殺した。

苦痛から起こる絶叫を音楽のように楽しみ、楽しげに人肉に刃物を通していく。

それは、道徳観念がない子どもの姿のようにだった。

(ばった)の足を捥ぐように身体の四肢を刻む。

蟻を踏みつけるように命を奪う。

生を悪戯に弄び、欲望の赴くまま行動する。

 

 

 雑貨屋の店主が切り殺された。

花屋のお手伝いさんが刺し殺された。

物知りな老夫婦が殴り殺された。

元気な泣き声を出す赤ん坊が焼き殺された。

気の強い若娘が親の前で犯し殺された。

一番仲のよかった快活な友達が絞め殺された。

出産を控えた妊婦が抉り殺された。

足を悪くした青年が撃ち殺された。

 

 

 何から何までが昨日と違う。

一瞬で、大好きな人たちが物言わぬ肉片に変わっていった。

瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと成り果ててしまった。

 

 

 少年は、何もできない。

遠目から状況を見て、妹に悲鳴を聞かせないようにすることで精一杯だった。

下唇を噛み切って、泣き叫ばないように振舞うことで手一杯だった。

惚けている場合ではない。

何よりも、両親の安否を確認しに村へ入らなければならない。

意を決して足を踏み出す。

せめて、自分の家族だけは守らなければ。

最短距離を駆け抜けて我が家を目指す。

妹は騒ぎを聞きつけてパニックになり、騒ぎ出すものの足は止めない。

ここまで来たら一気に行くしかない。

我が家はもう、目と鼻の先なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で、両親が刺された。

互いに背を合わせたまま、何本もの槍で貫かれた。

あれじゃ、お互いに顔が見えない。

最愛の人の顔も見れずに殺されてしまうのか。

少年には最早、何かをする気力が失せてしまった。

妹が両親に駆け寄っていく。

凶人がいるにも関わらず、覚束無い足取りで懸命に走る。

 

 それが、歩いている妹の最後の姿だった。

両親に辿り着く前に、妹は鈍器で殴り殺された。

即死だった。

もう、何も聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年の中で、何かが死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識がはっきりし始めた頃には、自分の視界は赤一色だった。

地には多くの血が流れ、辺りには炎が充満していた。

視線をどこへ動かしても赤しか見えない。

もう、妹も両親も見えない。

辺りの死体が誰なのか分からない。

これが現実なのかどうかも分からない。

吐き気を催す死臭と、噎せ返るほどの熱気が、非情にも現実なのだと思わせた。

今度こそ、少年の意識は途絶えた。

最後まで、この惨状を理解できないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な、現実って残酷なモンだろ。

認めようが認めまいが、現実は変わりゃしねぇ。

見たものと感じたものが全てだ。

これがお前の捨てちまった過去だ。

あの時のお前が、最後まで必死で抵抗して遠ざけてた現実だ。

ここまで話せば分かんだろ。

 

お前はあの時、間違いなく死んだのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 いらっしゃい、あずき屋です。
年末に酷いお話を書いて申し訳ない。
なんか前にパロディを多く書いていくぜへっへっへ、とかなんとかほざきましたが、話の中核に先に触れておいたほうがいいだろうと思って書きました。

正直すまんかった。

でもラジくんを語る上で外せない過去なので、寛大な心でどうかトイレに流してください。
それと語り手風に書いてはみましたが、正直自信がほとんどありません。
想像で大半を埋めてあります。
どうかご自分で補正をかけてあげて下さい。
きっとそれがしっくりくるはずです。


さて、遅れました。
めりーくりすますです。
馴染みのない言葉ですね。
正直どうでもいいですよね。
和気藹々としている人たちを横目に、私はせっせと働いていましたよ。
これもどうでもいいですね。



 今年も残すところ僅かとなりました。
恐らく今年投稿できるのはこれが最後となります。
まぁ来月もちゃんと投稿する予定ではありますけどね。
ひとまずは、今年はこれにて店仕舞いとします。
来年また開店するので、どうかお楽しみにしていて下さい。
応援して下さる方、どうもありがとうございました。
感想も評価もUAも形として残って嬉しいです。
来年はもっと皆様の言葉を増やせるよう頑張るつもりなので、どうかこれからもよろしくお願いいたします。

それでは良いお年を。


 ではでは、また次のページでお会いしましょう。



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