少年成長記   作:あずき屋

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 どんな結果が出るか分からないから怖いですって?
何ですかそれは。
失笑にすらならない冗談の類ですよ?

そんなもの、今更過ぎる話じゃあないですか。
怖いのは誰でも同じこと。
でも、恐れて立ち止まってしまっては、何も解決になりません。
そんな時は、玉砕覚悟で突っ走りなさい。

今持てる最大限の力で、全力で事に当たってみなさい。
結果がどうあれ、結果的に貴方が損をすることはありませんから。

さぁ、まずはやってみましょう。





第12話 少年、邂逅を果たす

 

 

「(ラジエル......大丈夫でしょうか)」

 

 

 ここにも、彼の身を案ずる者が1人。

リューは人知れず、主神に怒りを向けられた少年を心配していた。

探索初日にして11階層にまで潜った経緯は聞いていた。

確かに常識的に考えれば、少年のしたことはあまりに無謀極まりない行為だっただろう。

パーティを組むならまだしも、今回の探索は単独で挑んだ。

アテナの言い過ぎという点を除けば、当然の結果ではあっただろう。

だが、リューの懸念はそこではない。

最初の手合わせの時点で、ラジエルの戦闘能力に関しては心配していなかった。

相手に自分の力量を示すには、百の言葉より一の実戦だからだ。

防戦に徹していたとはいえ、Lv.4のリュー相手にあれほどの手数を打ち込むことが出来るのは、並大抵の鍛錬で成し得ることではないから。

 

 であるならば、リューの懸念とは何か。

それは、初めて向けられるであろう純粋な怒りに対する反応であった。

以前にもリューはラジエルに対して叱ったことはあった。

だが、それは彼の身を案じた故での発言。

少年もそれを感じ取ったからこそ、今までの関係が継続している。

今回のアテナの反応は、はっきり言って過剰の域にあった。

初めて眷属を持ち、初めて自分の子に迫った危険故に自分の気持ちが走ってしまった。

普通に育ったものであるならば多少なりとも考えよう。

だが、少年にはその耐性がない。

何から何までが初めての経験なのだ。

 

 

「(甘い、とは自分でも思えます。

でも私にはとても見過ごせない。

決して貴方が憎いから、アテナ様はそう言ったのではないということを聞いて欲しい。

そういう普通の成長は、ゆっくりでいいのですから)」

 

 

 思考より先に、体が動いていた。

幾通りものの話を考えながら、少年のいる部屋へ歩いていく。

大丈夫だ。

彼ならきっと分かってくれる。

大人故の不器用さというものを、多少なりとも理解はしてくれる。

自分自身をそう勇気づけるながら扉をノックする。

 

 

「ラジエル?

少しお話があるのですが、入ってもいいですか?」

 

 

 されど、一向に返事は来ない。

普段なら一拍置くか置かないかぐらいの間隔で返答があるはずなのに。

扉の先からは、沈黙以外伝わってこない。

 

 

「...ラジエル?

開けますよ?」

 

 

 扉を開けた先には、人1人存在しなかった。

ベッドとクローゼット以外何も無い殺風景な部屋が、一層空き部屋の頃を思い出させた。

隠れる場所等ないのに、リューはしきりに辺りを見渡す。

何度も何度も首を右へ左へ向けた。

何度確認しようと、少年の姿はどこにも見当たらない。

 

 

「ラジ......エル......?」

 

 

 抑揚も力もない声が、殺風景の部屋に流れ込んだ。

 

───────────────────────

 

 

 夜の帳が本格的に落ち始めた頃、ラジエルはようやく足を止めた。

歩くことに疲れたのではなく、空腹が限界に来たのではなく、相棒の小石を見失った訳でもない。

気付けば、路地裏の広間にまで足を運んでいた。

風で細切れになった雲が空を流れていき、月の光が途切れ途切れで街を照らしていく。

何より少年の注意は、建物の暗闇から迫る威圧感に向けられた。

夜遅く山奥で狩りをしていた状況とは違う。

研ぎ澄ませた聴覚が拾うは一定の足音。

早すぎず遅すぎない。

目の前からくる謎の脅威は、悠然とした足取りでこちらに近付いてくる。

少年には分かる。

嫌でも分かってしまう。

 

 これは、武を修めたものの足取りだ。

直感的な意味合いも含まれるが、ラジエルの場合、長年そういう存在と生活してきたからこそ分かる。

一歩ごとに込められる筋肉の稼働具合。

乱雑に踏まれるものではなく、地面に杭を刺していくかのような歩法。

靴底を滑らせる音が聞こえない辺り、歩行者の姿勢も真っ直ぐに伸びている。

姿勢が正しいということは、体に必要最低限の負荷しかかけられていないということになる。

腰は曲がらず、軸もブレることがなくなる。

加えて遠くからでも伝わるこの重圧。

恐らく、少年以上に鍛え上げられている鋼の肉体を有している。

無論、一般人には到底知覚できない。

同じく武の道を進んでいる者同士だからこそ分かる。

地面から伝わってくるごく僅かな振動ですら、こちらを威圧してくる。

間違いなく、相当な手練の気配。

 

 

「……フゥー」

 

 

 思わず、呼吸を正してしまう。

ラジエルのこの行為もまた、普段の鍛錬から習慣づいてしまったものだ。

強敵と対峙する前に呼吸を正し、集中力を極限にまで高めていく。

胸が高鳴る。

師以外の強敵を見つけたのだ。

武人として、気を張り詰めないわけがない。

雲が、晴れていく。

月が、その美しい全貌を明らかにしていく。

そして、暗闇にいる武人の姿の全貌も見えてくる。

 

 

「ふん、その年で俺の気配を掴むか。

それなりに気配は絶ったつもりだったのだがな」

 

 

 現れるは、オラリオにおいて最強の称号を持つ男。

挨拶がてらと言わんばかりに、獣の如き眼光を、容赦なく少年に浴びせる。

その眼は、見られる者全てを威圧させ、無様に背を向けて走り去らせるほどの眼圧。

並みの冒険者であれば、その身を膠着、失禁、失神させてしまうほどに凄まじい。

文字通り、次元が違う存在なのだ。

これこそが『猛者(おうじゃ)』オッタルの風格。

存在感だけで、周囲の者を震え上がらせる破格の男。

自分が敬愛すべき主神しか歯牙にも掛けないスタンスだが、今日だけは異なっていた。

彼の興味は今、目の前にいる少年にのみ注がれている。

 

 

「だれ?」

 

「俺の名はオッタル。

とある事情により、お前の力を見定めに来た。

小僧、名はなんという」

 

「ラジエル。

ラジエル・クロヴィス」

 

「そうか。

小僧、手始めにお前にいくつか聞いておきたいことがある」

 

「いいよ、何?」

 

 

 少年は震えることなく、怯えることなく、怖がることなく『猛者』に尋ねる。

彼を知る者からすれば、まず間違いなく蛮勇とされる行為だ。

少年の身の丈を優に越える体格を有するオッタルを前にしても、ラジエルは真摯に目を見据え返す。

暫く対面したまま無言の圧力も加えたが、少年の態度は変わらない。

この時オッタルは、少年に対しては脅しの類いは通用しないと感じた。

目の前に対峙している少年は、自身の目的のことしか頭にないと。

 

 

「……フッ」

 

 

 オッタルは思わず笑みを零してしまった。

普段の彼からすれば考えられない。

普段の彼を知っている者であれば想像だにしない。

絶世の美神であるフレイヤの傍で仕えていても、滅多に見せることのない微笑だった。

それは決して、ラジエルに対して侮辱の意を込めたわけではない。

この街にてオッタルが歩けば、まず間違いなく人混みの動きは止まり、自然と道を開けていく。

誰も彼もが彼を前にすれば絶句し、へりくだってくる。

それはオッタルから見て、あまりにも情けない姿だった。

本当に同性なのか疑うほどに弱々しい存在に見えていた。

その反面、この目の前の年端もいかない少年の反応を見てどうだ。

その辺にいる男共よりずっと逞しく、雄々しく見えるではないか。

久しい感覚だったからこそ、オッタルは思わずその鉄仮面をずらした。

 

 

「いや、やはり今宵は一つだけにしておこう」

 

「どーして?」

 

「気が変わった、それだけだ。

深い意味などない。

では、改めて一つ、お前に問おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────小僧、お前は俺と同じ(・・・・・・・)か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、あまりにも言葉足らずの問いだった。

大多数の者が聞けば理解できないだろう。

だが、世の中には、そういった少ない言葉から物事を察せられる者は少なからず存在する。

多くを語る必要がないように、多くを問う必要がない。

同じ道を歩まんとする者同士ならば、たったこれだけで伝わることがあるのだから。

少年は迷いなく、こう答えた。

 

 

「うん、そうだよ」

 

「フ、フフッ……フハハハ、ハッハハハハハハハハ!!

そうか!

やはりお前もそうだったのだな!!?」

 

 

少年の返答を待っていたと言わんばかりにオッタルは歓喜し、高らかに声を上げて笑った。

狂気に駆られたように笑い、冷徹な仮面をかなぐり捨てて自らの感情を顕わにさせる。

今日、今この瞬間、今回の命はオッタルにとって忘れられない日となった。

同時に自身の主神に対し、最上位の感謝を抱いた。

 

 

「ありがとうございます、フレイヤ様。

流石は我が女神。

貴女の慧眼は何よりも正しい真実を見抜くのですね……」

 

「なんのこと?」

 

「いや、すまん。

なんでもないさ。

あぁ、お前にも感謝しなければな」

 

「なんで?」

 

「いいから素直に受け取っておけ。

大人からの礼など早々あるものではない。

とは言っても、それはお楽しみの後だがな……」

 

 

 オッタルの表情が、急速に元の引き締まった面貌に戻る。

纏う空気が一変する。

体中から覇気が吹き出し、明確な戦意が剥き出しになっていく。

呼吸とともに隆起する鋼の肉体。

眼差しだけで射殺す獣の眼光。

周囲を戦慄させる男の重圧。

紛れもない、戦闘態勢だ。

彼の動作を見るや否や、ラジエルもまた、瞬時に自身の身体を戦闘態勢に移していく。

相対するは武人同士の手合わせ。

彼らの有り様を理解できない者であるならば、その殺伐とした空気は、とても手合わせのものには感じられないだろう。

 

 

「殺しはせん。

だが、お前に敬意を評して決して手は抜かん。

いいか、殺す気で掛かってこい。

お前の選択次第で、その生命、簡単に取り零すことになるぞ」

 

「いいよ。

俺もぜんりょくでやるつもりだったから。

……やろう、オッタル」

 

「いいだろう、幼き武人よ。

これより先、言葉など不要。

我らが武を持って、己が力を証明するとしよう。

来るがいい、ラジエル・クロヴィスよ」

 

 

 二人の内なる熱量に反し、周囲は不気味なほどに静まり返る。

一陣の風が吹いても、お互い微動だにすることはない。

舞い上がる木の葉が、二人の間に揺れて落ちていく。

二人もまた、自然と同調するように気を内に引き戻していく。

気とは本来、無闇に振るうものではない。

然るべきにこそ、発揮するものだからだ。

長いようで、短いような静寂が広間を支配していく。

互いの視線は、互いの眼を捉えたまま、互いに逸らさない。

 

そして、木の葉は地に落ち、時は満ちる。

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

 

「「シッ!!!」」

 

 

 

 互いの距離が零になった時、静寂は喧騒に打って変わった。

放たれた二つの突きが激突し、周囲に大きな波紋を広げる。

大地は震え、大気が揺らぐ。

突きが同時に繰り出され、互いの拳を合わせる形となる。

 

 

「……む」

 

 

 オラリオに来て、初撃で初めてラジエルが苦悶の声を漏らす。

オッタルは全力ではないものの手は抜いていない。

予想通りと思うべきだろう。

否、予想外とも思わざるを得ない。

前提条件の割には、あまりにも重すぎる一撃だった。

常人なら即座に爆散してしまうほどの膂力。

鍛えに鍛え抜かれたオッタルの一撃は、正しく必殺と同義。

無駄打ちを一切せず、隙を探し出し、作り出して狙い打つ。

ラジエルと同じ、いや、それ以上の練度だ。

 

 

「(ほぅ、俺の力量を測っておきながら初撃を迎え撃つか。

幾分か衝撃も逃がされた。

実に良い鍛え方をしている。

その年で身体中の筋肉の稼働方法を熟知しているとは。

素直に驚いたな...)」

 

 

 内心、オッタルは素直に少年を称賛した。

最初の立ち会いの時点で逃げ出さずとも、戦闘時の殺気を放てばたじろぐと考えていたからだ。

オッタルが最も驚いたのは、ラジエルがこちらの突きに対して迎え撃って来たことだった。

勿論、迎え撃つのは間違った行為ではない。

互いに敬意を持ち得ているのであれば、自分の力を相手の心にもぶつけるように技を受け合う。

躱すのではなく、受ける。

達人は、剣を合わせることでモノを語るという言葉がある。

それは、剣術のみに限った話ではなく、全ての武術に共通する。

相手の技を受けて、その道に至るまでの過程を感覚で理解するのだ。

 

 だが、今回の手合わせの相手はオラリオ随一の武人。

まともに打ち合えば、赤子の手を捻るように、簡単に体を破壊されてしまうのだ。

スキルやアビリティの話ではない。

純粋な鍛錬の質と量の差。

武道に心血を注いできた年月が違い過ぎる。

だが、少年は表情を崩さない。

崩せない、ということもあるが、ラジエルは戦闘時に関して言えば、自身の弱みを見せないよう徹底的に振る舞う。

例えそれが、実践ではなく手合わせであっても、少年は従来通り立ち回る。

常に実戦を意識しろ。

師の言葉を、どこまでも真っ直ぐに信じているからだ。

 

 

「ヌオォォォォォォ!!」

 

 

暴虐を体現させたかのような猛攻が少年に迫る。

一撃一つひとつが自分より重く、誰よりも速い。

師以外の武芸者の卓越した動きに、ラジエルは目を奪われた。

迷いなど微塵も感じさせない思い切りの良さ。

全ての動きに流れがしっかり意識されている。

淀みが存在しない完璧な動きとも言える。

 

 

「フッ!」

 

 

 まともに受ければすぐに再起不能になる。

故に選択肢は一つ。

受けず、受け流していく。

当たった箇所の衝撃を外へ逃がし、ダメージを大幅に減らす。

大半が目で追いきれないほどの速度だ。

だから、視覚のみに頼らない。

肌や耳、直感を持って捌く。

そして、その攻防の中で反撃の糸口を探し出し、的確に反撃する。

 

突きを、蹴りを、足刀を、手刀を、貫手を、膝蹴りを、肘打ちを、掌底を放ち続けた。

 

 僅かな穴にしか見えないが、それでも穴は穴だ。

反撃する箇所は限られている。

判断を誤ればそこで終わりだ。

糸を針穴に通すような所業を懸命に続ける。

ラジエルには、ここまでの流れが途方もないように感じた。

体感時間が、一秒一分を何倍にも引き伸ばした感覚。

感覚が極限まで研ぎ澄まされた時、人はあらゆる動作がスローモーションに見えるという。

達人同士の斬り合いの中では有名な話であるが、それはあくまで部分的な話だ。

通常、長時間それを維持できる訳ではない。

何故なら、想像を絶する集中力、瞬間的な判断、複雑な身体の動作等を、一度に行わなければならないからだ。

端的に表現するならば、ラジエルはその超人的現象を長時間維持している。

通常の神経では、まず間違いなく数秒で摩耗し切る。

 

 

「(受けることを避けて、受け流しにかかるか。

この程度であれば食らいついてくる。

加えて反撃までしてくるか。

フッ、本当にお前は面白いな!)」

 

「う......くっ!?」

 

 

 だが、無論長くはもたない。

未体験の戦闘が故の緊張感。

オッタルの猛攻に耐え、加えて反撃に移らねばならない。

体力の消費速度は尋常の比ではない。

少年も十分化物じみた体力は持ち得ている。

十一階層までをほぼ休みなく潜り、且つ上層の階層主の撃破までを息一つ乱さなかった。

上層の危険度と、冒険者の頂点に位置する男を比べるのもおかしな話ではあるが、それにしても死線の数が余りにも掛け離れすぎている。

そして、このままでは必ず殺られる。

小さな沢が、巨大な岩石を流しきれる訳がないように、早々に限界が差し迫った。

何も出来ないまま敗北する。

折角強敵に出会えたのに。

まだロクに戦いを愉しめていない。

故に、少年は賭けに出ることにした。

 

 

「破っ!!」

 

「む?!」

 

 

 ラジエルは強引に懐に潜り込み、腹部を蹴って間合いから離脱する。

無論逃げるためではない。

自身が誇る戯拳を持って打破にかかる。

この手合わせにおいて、出し惜しみは無用。

ましてや相手はあの『猛者』だ。

手札を渋る暇など、そもそもありはしない。

 

 

「フッ!!」

 

 

 着地した刹那、少年が四人に増える。

表現が余りにも素っ頓狂で、とても奇妙な話だろう。

つい先程まで一人だった少年が、幾つにも分裂して見える。

 

怪狐演舞(かいこえんぶ)

最高速度で踏み込んだ足を、最高速度で踏み返すことで限定的な残像を作り出す攪乱用の奥義。

本来は敵を惑わせるための独特の歩法なのだが、極めればこのように幾重にも分身して見えるほどの残像を生み出せる。

その昔、仏が旅の途中に、狐に化かされたという話がある。

目の前にいる者の目を欺くほどの立ち振る舞いに驚いた仏が、寺に戻った際に編み出したという。

 

 達人の域にまで至っている者の目を欺くことは難しい。

この技は大半の人間の目を誤魔化すことは出来るが、瞬時に動きの法則性を見破る猛者には効果が薄い。

展開はあくまでほんの少しの間だけ。

ラジエルは、一瞬だけ時間を稼ぐことを最優先にする。

一瞬の隙を見出し、そこに全てを賭けて、打って出るのだ。

 

 

「(高速移動による攪乱作戦か。

悪くはない……が、その程度目眩しにもならんぞ)」

 

 

 オッタルは直ぐ様前進した。

子ども騙しの動きでは、この『猛者』には何の意味も成さない。

真っ向から、徹底的に潰しに掛かる。

 

 

「まだっ!!」

 

「こ、これは……?!」

 

 

 だが、この程度の速度はまだ序の口。

少年は更に速度を引き上げる。

自身の最高速度を過去のものにし、更なる次元へと自身を昇華させる。

瞬く間に残像は増える。

一瞬の間に残像の数は、元の倍に膨れ上がり、現在数七人。

まだ誘導が足りない。

決定的瞬間を待ち続けろ。

痺れを切らすまで持ち堪えろ。

ここが少年にとっての正念場となった。

 

 

「小癪な!!!」

 

 

 鍛え上げられた豪腕が、横一文字に振るわれる。

齢何百年ものの大樹と見間違えるほど、その一閃は重たいものであった。

出鱈目とも思える無情なる一撃。

横薙ぎに少年たちをまとめて打ち払いに掛かる。

 

 

「そこっ!!」

 

 

 ようやく見つけた唯一の死角。

最後の左端の残像が掻き消えた瞬間、オッタルの腕は右へと伸びきる。

オッタル自身の右腕を隠れ蓑して、一瞬で間合いに潜り込む。

先程と変わらない僅かな隙ではあるが、死角となればその価値は段違い。

オッタルが反応し切る前に、渾身の重撃を押し込む。

 

 

「やぁぁぁぁぁ!!」

 

「…………」

 

 

 僅かに見えた一筋の光明目掛けて、か細い腕が突き出される。

今自分が出せる最大出力。

落としきれるかどうかなんて考えない。

今自分に出来ることのみを考えて、最高の力を発揮するだけだ。

 

 

 

鉄犀轟掌(てっさいごうしょう)っ!!」

 

 




 いらっしゃい、あずき屋です。

正直疲れました。
戦闘描写をこうも長続きさせるのはなかなかに堪えます。
でも一番やってみたかった猛者との戦闘を描くのは楽しかったです。
構想が降ってきたときは、ずっとこの描写について考えていたぐらいですから。
もちろん完璧に描き切ることは出来ませんでしたが、これが今私が描けるものです。
楽しんでくれたら幸いです。

さて、この話の最終部分ですが、皆さん惑わされないでくださいね。
オッタルはあくまで、驚いているだけです。
まぁこのオラリオで徒手空拳で戦える武人は、私が知る限りいませんから、彼も興奮していたんでしょう。
嬉しさあまりに周りが見えにくくなっているとでも思ってください。
本当は解説なしで伝わるように書きたいのですが、残念ながらポンコツレベルの私にはこれが限界です。
ごめんなさい。

次回からは休肝日ならぬ、日常編的なものを書いていこうと思います。
戦闘ばっかりだと飽きちゃうし、つまんないでしょう?
時には趣向を変えて、コメディにでも挑戦していきます。


 ではでは、また次のページでお会いしましょう。


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