少年成長記   作:あずき屋

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「…………」

「おや、ラジエル。
どうしたんですか、ボーッと鳥を眺めて」

「うん、とりの動きからなんか思いつかないかなって」

「ほう、動物の動きから何かを生み出そうというのですか。
これはなかなかに面白いことを考えますね。
それは、私の動きは参考にならないという当てつけですか?」

「……ししょーの動きは早すぎてさんこーになんない」




第9話 少年、叱られる

 

 

 見渡す限りは不毛の地。

岩だけがいたるところに敷き詰められ、果てのない空間が光源を奪い去る。

薄暗闇の中で見える光景は、生命の温かさを感じさせない。

在るのは、常に飛び交う無数の死線。

それは、間髪入れずに生者に対して突き刺さる不可視の刃。

延々と鋭い刃物で突かれているいるかのような錯覚を、冒険者に対して与え続ける。

 

ふと、思い出す。

 

 あの日の光景も、こんな感じだったような気がする。

生存者がいないあの虚無感。

死が充満する不快と恐怖が支配する空気。

無慈悲に生命を奪い去ろうとする環境。

何から何まで似通っている。

これが死地だ。

生きるか死ぬかの選択を迫られ続ける世界。

正常な者であれば、数時間で気が狂ってしまう魔の巣窟。

 

 

 だが、少年には何も響かない。

何かが足りない。

あの時見たものは、こんなものではない。

自分に刻まれた印象は、この程度では済まない。

 

衝撃が足りない。

刺激が足りない。

嘆きが足りない。

痛みが足りない。

悲しみが足りない。

苦しみが足りない。

 

 何もかもを焼き尽くすあの熱が、足りない。

決して消えることのない赤が、十年以上経った今でも鮮明に焼き付いている。

 

それは、きっと。

あらゆるものに対して平等な、炎なのだ。

 

 

_____________________________

 

 

 

 ウォーシャドウを撃破してからは、特に大きな変化なくラジエルは前進を続けた。

最早何階層まで降りてきたのか分からなくなった。

相も変わらず襲い来る障害を一蹴し、黙々と、淡々と進んでいく。

ここまでの道のりで、発見されてきたモンスターには全て遭遇してきた。

上層といえど、うかうかしていたら四方八方をモンスターに囲まれ、あっという間に命を落としてしまう。

それがダンジョンの恐ろしさ。

低級とはいえ、数の暴力は立派な驚異のうちの一つだ。

どんな歴戦の猛者であろうとも、自身の容量を越えた物量に対してはあまりも無力。

戦場において戦士の多さは特に評価される。

どれほど質の高い戦士を前にしても、数の波で押し切ってしまえば、それだけで相手の戦力を大幅に削げる。

原則として、多数の敵影を前にしたときは撤退以外、選択肢はないと見てもいい。

そういった場合は攪乱することに努め、戦力が分散したところを各個撃破することが定石。

まともにかち合えば、まず勝機は薄い。

 

 しかし、中には例外も存在する。

かくいう少年も、その中の一人として数えられる。

人間の身体能力を優に越え、その数が十を越えようとも、少年に対しては物足りないの一言に尽きる。

どれもこれも弱く、脆いため一撃で沈んでしまう。

人型のゴブリンやコボルト、ウォーシャドウはもちろんそうだが、ダンジョンリザードやキラーアントはただ図体が大きいだけだった。

いずれも力任せに迫るだけだったため、隙を見つけることはあまりにも容易く、無防備な姿を沈めることは実に簡単だったからだ。

全く驚異になり得ないものばかりだ。

 

 早く強敵に出会いたい。

自分が体験したことのない新たな存在を求めてきた。

山賊や山に住み着くモンスター、賞金首、やたら数だけ多いならず者たちなどを沈め続けてきた。

言うまでもなく、どれも相手にとって不足でしかなかった。

 

 その反面、師にだけは全く歯が立たなかった。

何度死を近くに感じたか分からないほどに打ち合った。

思えば、あの時が最も充実していたのかもしれない。

突きが全く当たる気がしない。

蹴りが全く触れられる気がしない。

攻撃を防ぎきれる気がしない。

どれもこれもが、自分にとって得難いものばかりだった。

そんな師の元だったからこそ、今の形に叩き上げることができた。

師に比べれば、ここいらの敵など木偶と変わらない。

 

 

「…………つまんない」

 

 

 胸中に宿るは虚しさだけ。

これまでのことから分かるように、少年の心はどこか壊れてしまっている。

幼い頃より故郷を戦火に包まれ、自分以外の者は全て殺されている。

その過去から、少年の心は死と炎が大半を覆っている。

多くの大切なものが目の前で消えた。

廃人一歩手前で済んでいるのは、ラジエルの精神防衛の働きによるところが多いだろう。

生きる屍にならずに済んだのは、バラバラに砕け散った心を無理矢理寄せ集めたからだ。

以前より不器用になったが、廃人よりかは遥かにマシだった。

その心は、全く型にはまっていないパズルのピースのよう。

それがラジエル()だ。

 

 死と隣り合わせになる戦いが、皮肉にも少年の新たな生きる術となっている。

 

 

「─────ァァ!!」

 

 

「……?

だれか、たたかってる?」

 

 

 研ぎ澄まされた少年の聴覚に、モンスターの奇声が届いた。

どうやら何者かと交戦中のようだ。

ラジエルの丁度見据えている先に感じる。

 

 

「このままだと死んじゃうかも」

 

 

 モンスターの声に紛れて聞き辛いが、冒険者と思われる声も聞こえる。

耳を塞ぎたくなるのは女性の悲鳴。

武器がかち合う音が聞こえない限り、冒険者側は防戦一方なのだろう。

状況を耳で拾いつつ、交戦している付近に急行する。

縮地からの前傾姿勢で突貫。

最速で最短に駆けつける。

 

 

「すとーっぷ」

 

「……えっ!?」

 

「…象震脚(ぞうしんきゃく)、えいや」

 

 

 着地と同時に周囲のオークたちの動きを強引に止める。

強力な震脚から繰り出される衝撃は、生物の行動を硬直させる振動となる。

短い硬直時間ではあるが、僅かとはいえ動きを止める技はいつだって優秀だ。

ほんの一瞬の硬直が命取りとなるのが戦場だからだ。

その巨体の動きが鈍った刹那、少年の姿はブレる。

まるで蜃気楼のように姿は朧げに映り、動きはコマ送りのようにしか見えない。

 

 

剣鶴舞踏(けんかくぶとう)

 

 

 残心を確認できた時には、既にオークは赤に塗れていた。

恐らく、奴らにも何が起こったか理解できなかっただろう。

救われたこの冒険者である者の目から見ても理解できなかったのだから。

 

 

「えっと、だいじょうぶ?」

 

「あ、あぁ。

助かった、ありがとう。」

 

 

 少年は息一つ乱さずに女性に向き直り、手を差し伸べる。

フードを目深に被った女性は、困惑しつつも平静を取り戻し自力で立ち上がる。

背丈と同じくらいの長さの杖を携え、身体の線を覆い隠すほどのローブを身に纏う。

状況から察するに、一人では手に余る数に囲まれてしまったように思える。

ダンジョンでは主に複数人で潜るのが常識とされている。

規格外のラジエルならいざ知らず、女性一人でここまで来るのはあまりにも不自然だった。

 

 

「おねーさん一人なの?」

 

「あぁ、今はな。

モンスターの大群に襲われ、撤退しているうちに仲間とはぐれてしまったんだ。

そういう君こそ一人なのか?」

 

「うん、上層までっていう約束ならいーよって言われてね。

俺はラジエル・クロヴィスだよ。

よろしくね。」

 

「すまない、申し送れた」

 

 

 謝罪を述べると、女性はフードを取り、その素顔を顕わにさせる。

薄緑色のロングヘアー、男性顔負けのキリッと引き締められた瞳。

誰に対しても物怖じしない佇まいと、特徴的な耳の形状。

妖精に相応しい美貌を持つ女性は軽くお辞儀をしつつ答えた。

 

 

「私はリヴェリア・リヨス・アールヴ。

見ての通りエルフ族だ。

所属はロキ・ファミリア。

こちらこそよろしく頼む」

 

「うんよろしく。

……あ、そっか、自分のファミリアも言わないといけないんだよね。

俺はアテナ・ファミリアに入ってるんだ」

 

 

 女性の名はリヴェリア。

自分の所属ファミリアを伝えたところで簡単な自己紹介は終了した。

 

 

「ラジエル、君は一体どうやってここまで来た?

見たところ何の武器も持っていないようなんだが……」

 

「さっき言ったとーり一人でだよ?

武器は俺には必要ないからね」

 

「な……なんだと?

子どもの身でここまで一人で!?

しかも武器も持たずにこのダンジョンに潜るだと!?

嘘なら嘘と言え!

子どもといえど、このダンジョンでつまらん冗談は許さんぞ!」

 

「ほんとー……なんだけど」

 

「嘘じゃ……ないだと?

ラジエル、もう一つ聞く。

君は冒険者になってどれほど経つ?」

 

「えと、いっしゅーかん……ぐらい?」

 

「馬鹿者!!!」

 

 

 少年の答えを聞いた途端、リヴェリアは激昂した。

モンスターを呼び寄せてしまうほどの声量を響かせて、ラジエルを叱り飛ばした。

口をポカンと空けて、呆けている少年のことなどお構いなしにリヴェリアは思いつく限りの言葉を羅列していった。

 

 

「信じられん!

ここは十一階層だぞ!?

冒険者になって一週間しか経っていない者が来るべきところではない!

バカという次元を通り越している!

いや、一週通り越して結局バカだ!

このダンジョンがどれほど危険なところか十分に教えてもらっただろう!?

うちの団員といいお前といい、どうして冒険者にはこうバカが多い……!

同じ冒険者として恥ずかしくて仕方ない!

いいか!

ダンジョンでは、いつ何が起きるか誰にも分からない!

回復薬や状態異常用の解毒薬は大袈裟というほど持っておくのが基本だ!

なのになんだその貧相な装備は!?

そんな不十分な装備ではすぐに命を落とすことを分かっているのか!

揃えるほど余裕がないのならきちんと段階を踏んで余裕を作れ!

あとラジエル!

武器が必要ないと言ったな?

子どもが意味のない意地を張るんじゃない!

そうじゃないにしても護身用のナイフも持ってきていないなど笑い話にもならん!

モンスターに囲まれたら一体どうするつもりだったんだ!?

曲がりなりにも冒険者を目指すくらいなら、それ相応の心得をしっかりと学んでおけこの大馬鹿者!!」

 

「…………」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 彼女は一息に叱責を吐き出した。

一度たりとも噛まずに言い切る辺り、相当弁の立つ者だ。

どうやら身内に少年と似たようなことをする輩を抱え込んでいるようだ。

言葉に苦労が滲み出ている辺り、かなりの苦労者でもあるらしい。

常日頃から言わされているとなれば、さぞ頭痛が絶えないだろう。

何より、ラジエルが呆けたことに関してはもちろん意味がある。

この街に来て、初めて叱られた(・・・・)のだ。

 

 

「ハァハァ……分かったか?

分かったのなら返事!」

 

「は、はい、ごめんなさい……」

 

「ふぅ……全く。

こんなところで他のファミリアの子どもを叱ることになるとは……。

まぁ、君には助けてもらった借りもあるしここまでにしておこう。

どうやったかは全く分からなかったが……。

それより、地上に戻った時は覚悟しておけ。

そのフワついた頭にみっちりと知識を詰め込んでやるからな」

 

「う、うん」

 

 

 新鮮な感覚にどういった反応をしていいのか分からなくなったラジエルは、とりあえず素直に従うことにした。

少年の心境は複雑だった。

叱られたのに、胸の辺りに温かい気持ちが溢れる。

リヴェリアは悪意をもってこちらに対して怒りを顕わにしたのではない。

むしろその真逆。

少年を心底案じたからこそ厳しい言葉をぶつけた。

つい先程会ったばかりのラジエルに対して、正面から向き合ってくれたのだ。

叱っている最中も、彼女は真っ直ぐに目を合わせながら真摯に想いをぶつけてくれた。

人は本来、接点のない者に対しては無関心である。

何故なら、その者に対する思い入れが存在しないからだ。

縁もゆかりもない、ましてや話したことのない相手には進んで感情など示さない。

示すは怒りや侮蔑といった黒い感情が大半を占めるだろう。

だが、中には縁もない者に対して真っ直ぐに気持ちをぶつける者も存在する。

例えそれが、一時の感情の昂ぶり故のものであったとしても、言葉を投げかけたいという気持ちに嘘は混じっていないのだから。

 

 

「……っ!

流石にあれだけ怒鳴り散らしていれば寄って来るか……。

ラジエル、私の後ろから離れるな」

 

「むー?」

 

 

 そんな二人に忍び寄る影が多数。

キラーアントにシルバーバック、オークやバトルボアなどのモンスターたちが迫り来ていた。

余程声が響いたのだろう。

それ以外のモンスターの影も多数見受けられた。

一般の冒険者からすれば絶望的状況。

退路は徐々に狭められ、一分もしないうちに囲まれてしまうだろう。

しかし、目の前のエルフは動じない。

ラジエルも薄々は勘付いていた。

 

 

 彼女はかなりの使い手であると。

 

 

 相応の場数を踏んできたのだろう。

追い込まれているにも関わらず、彼女は慌てふためくことなく、冷静に状況を分析する。

敵の位置を正確に把握。

危険度の高い個体を選別。

自身の持つ手札を確認。

打開策を冷静に模索。

的確に作戦を構築。

活路を見出す方法を選択する。

 

 

「フッ、この程度なら呪文一つで事足りる。

ラジエル、よく見ておけ。

君の見たことのない力の一端を見せよう。

やや魔力が不足しているが、この程度の数なら問題ない」

 

 

 一瞬で解析を終わらせたリヴェリアは不敵に笑った。

杖を握る手に力が篭る。

どうやらこの状況を一気に覆す手段を見つけ出したらしい。

ラジエルの見る一点は、目の前のエルフだけ。

周りの雑魚には一瞥もくれなく、ただ彼女の動きのみに注視した。

低級モンスターでは成長の糧にならない。

ならば、自分より冒険者として経験の深い者の動きを見たほうがよっぽど有意義だ。

リヴェリアは杖を前に突き出し、静かに言霊を紡ぎ出す。

 

 

『間もなく、焔は放たれる』

 

 

 それは、あまりにも身近に感じたことのあるものだった。

紡がれていく言葉は早く、常人ならば聞き取れないほどの速度。

迅速に、的確に、確実に紡いでいく。

詠唱が積み重ねられていくにつれて、リヴェリアを纏う魔力は膨れ上がっていく。

 

 

『忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。

開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む』

 

 

 肌で感じるは強烈な熱気。

触れるもの全てを燃やし尽くさんと牙を剥く破壊の力。

少年は知っている。

この熱が生み出した光景を。

猛威を振るったその有様を。

全てを焼き尽くした暴力を。

 

 

『至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火。

汝は業火の化身なり。

大いなる戦乱に幕引きを』

 

 

 久しく感じていなかったあの熱を、今一度体感する。

リヴェリアが映る光景には、あの時の自分が重なって見える。

幻想だ、幻覚だ、幻影だ。

だが、あの炎を見ると、自然と胸が疼く。

表情は一切動かないのに、胸の高鳴りは一向に止まらない。

忘れたいと思っていた。

忘れてはいけないとも思っていた。

あの日をなかったことに出来ないように、あの光景だけは忘れてはいけなかった。

忘れるはずがないのに。

消えるはずがないのに。

自分の心が自分勝手に躍動する。

自分は一体、何を感じているのだろうか。

 

 

『焼き尽くせ、スルトの剣───我が名はアールヴ』

 

 

 ただ一つだけ分かったことがあった。

 

 

『レア・ラーヴァテイン!』

 

 

 炎こそが、自分にとっての始まりなのだ。

 

 

「改めて自己紹介しよう。

私はリヴェリア・リヨス・アールヴ。

ロキ・ファミリア所属にして魔法支援担当を受け持つ、Lv.3だ」

 

_______________________________________

 

 

 

 ダンジョン内に響き渡るは無数の断末魔。

紅蓮の炎に焼かれ、成す術もなく倒れ伏していく。

あれだけいた大群は、物の見事に灰塵の山に成り果てた。

エルフが用いたものは魔法。

人の身で奇跡を発現させる特別な力。

その詠唱が長ければ長いほど威力が高く、消費する魔力も多い。

詠唱に集中することで、自身を無防備にしてしまう。

加えて、魔力の配分量を誤れば精神疲弊(マインドダウン)を引き起こし、目眩などの症状を引き起こすうえに身体の動きが鈍る。

確かに消費する魔力は確かに多く、唱えるまでに多くの危険を伴うが、その見返りもまた大きい。

一度解き放てば戦況を覆すほどの可能性を秘めており、仲間の危機を救うことができる。

その上、魔法を発現する者は少ないため、魔法所持者はそれだけで重宝される。

 

 

「ハァ……。

どうだ、ラジエル。

これが魔法というものだ」

 

「すごいね。

リヴェイア一人で倒しちゃった」

 

「リヴェリアだ。

まぁ……その舌っ足らずも後々治すとしよう。

今は君の保護が最優先事項だからな」

 

「でもリヴェふらふらだよ?

休んだほーがいいよ?」

 

「リヴェリアだ。

勝手に訳すんじゃない。

問題ない、上層なら確実に守り通して見せるとも」

 

「さっきダンジョンは何が起きるかわからないって、リア言った」

 

「リヴェリアだ!

勝手に訳すなと言っただろう!?

変に可愛くアレンジしてもダメだ!

はぁ……そうだったな。

確かに私はそう言った。

格好付けた手前申し訳ないが、少し休んでもいいだろうか?」

 

「うん、でもその前にあっち行こ?

たぶん、ここあぶない」

 

「ここら一帯を焼き尽くしたから大丈夫だとは思うが……。

そうだな、何かしら匂いを嗅ぎつけてくる奴らもいないとは限らない。

場所を変えようか」

 

「手、いる?」

 

「だいじょう……いや、借りよう。

ありがとう、ラジエル」

 

「んーん、こちらこそありがとう」

 

 

 リヴェリアは、一瞬ラジエルの手を掴むことを躊躇ったが、素直に好意に甘えることにした。

肌の接触を嫌うエルフ族の一人であるリヴェリアだが、ラジエルには嫌悪感を示さなかった。

何故だか、自然と掴めるような気がしたのだ。

少年には邪な感情が存在しない。

例え絶世の美貌を持つ相手であろうと、醜悪な身なりをした相手であろうとも対応に差はない。

感情の希薄さは、それらを平等の位置に引き上げた。

視線に敏感なエルフは、そういった劣情を秘めた者には近づこうとしない。

例え必死で隠そうとも、的確に見抜いてしまう。

故に、少年にはそんな警戒は自然に解けた。

それこそまるで、草木などの自然に触れ合うかのような感覚だったからだ。

むしろ、触れたリヴェリア側が安心する。

これこそ、平等に接することができる存在だと。

 

 

「この辺りでいっか。

周りには何も感じないし、だいじょぶだよ」

 

「そんなことが分かるのか?」

 

「うん、まちに来る前は山にいたから。

どーぶつの気はすぐ分かる」

 

「そうだったのか……。

なら、その山ではどうやって生活していた?」

 

「ししょーと二人でくらしてたよ。

えものをつかまえて、しゅぎょーして、寝るの。

十年ぐらいそーしてきた」

 

「じゅ、十年?

それに、修行って……」

 

「この体だけで戦う戦い方。

リアに会うまで、俺ずっとモンスターたおしてきたんだよ?」

 

「……本当なのか?

本当に君は素手でここまで来たのか?

いや、初めて会った時からそうだったんだろうが、納得や理解なんてものが出来るはずもなくてだな……。

ましてや君は子どもだ。

いくら鍛錬を長年積んだからといって、成熟していない体で戦場に繰り出すのは余りにも危険だ」

 

 

 リヴェリアの意見は最もだ。

こちらを気遣う気持ちが十二分に感じられる。

だが、今の今まで、拳を振るって生き抜いてきたことは確かだ。

そういった言葉も随分と投げ掛けられてきた。

それに、少年には戦い以外生きる術がないのだ。

 

 

「っ!?」

 

「む?」

 

 

 大地が鳴動する。

ダンジョンは、不規則に地震を引き起こすことがある。

基本的にはただの地震で終わることが多い。

だが、この揺れは時として思わぬ副産物を生み出す。

全くの予想外のモンスターが現れたとしても、全くもって不思議ではない。

 

ダンジョンでは、何が起きるか分からないのだから。

 

 

「イ、インファント・ドラゴンだと!?」

 




 
いらっしゃい、あずき屋でございます。
長らく時間を空けまして申し訳ない。
少しばかり忙しかった、構想がまとまらない等の理由から投稿が遅れました。
誤字脱字、ミスがあると思われます。
気づいた方はご指摘お願いします。

 新しい登場人物はみんなのママことリヴェリアさんにしました。
え?女性しか出てきてないって?
気にしない気にしない。
みんな女の子大好きだから何の問題もありませんとも。
まぁ、彼女を出した理由はご覧の通りです。
フラグのようなものをいくつか立てておきました。
皆様、それぞれの想像で構いません。
自分なりのイメージを持ってください。
それで楽しんでいただけたら、私は嬉しいです。
見逃せないミス等は言ってください。
感想もお待ちしていますので、ご気軽にどうぞ。


 ではでは、また次のページでお会いしましょう。


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