あれから逃げた先はHOTEL IKEDAYA。
私達は桂さんに用意された部屋でのんびりTVを見ていた。あんだけ危機に晒されたのに、緊張感がまるで無い。
TVではテロリストとして私達の姿がバッチリ映ってる。
新八くんは「どーしよ姉上に殺される」と青い顔で呟いてる。彼だけだよ常識人は。そして神楽ちゃん「テレビ出演、実家に電話しなきゃ」って言ってるけど、どうしてそんなに余裕なの?お姉さんに分けて欲しいわ。
そして私は(何勝手に撮ってんだよ!金とるぞゴラ)って心の中でテレビに向かって罵っている。実際は銀時たちと離れた壁の隅っこで体育座りをして微動だにしてないがな。仮面をかぶっていない私は人見知りなのです。
「そういえばパーカーさんの名前って知りませんよね」
「お互いに自己紹介もしてねぇな」
「暇だし今やるね!」
「「「じゃあ、お先にどうぞ」」」
こ、こいつら勝手すぎる。私にも心準備というものがあるのに。ヒッヒッフー・・・よし!落ち着いた。
「えーと自分の名前は月下 涙。歳は20。趣味は拷問器具を調べること。特技は人を追い詰めることかな。一応よろしく!」
「オイオイオイ!こいつ大丈夫なの!?怖いんですけど!?」
「銀さん!この人絶対に鬼畜野郎ですよ!なんか危ないことやってそう」
「そんな褒めないでよ。照れる」
「褒めてないですよ!?」
えっ鬼畜野郎って褒め言葉じゃないの?悪口?よく友達に言われる度に私喜んでたよ。これじゃただのドMじゃん。
「そうネ!それにフードもかぶってて怪しいアル。ボスならぬ裏ボス感を感じるネ!」
「そんなことないけどなー」
神楽ちゃんに言われて流石にフードかぶったままは失礼かなと思いフードをとった。
パサっ
「「「・・・・・・・・・」」」
えっ何この沈黙。さっきまで騒いでのが嘘みたいに静まり返った。顔をじーっと無言で凝視されてる。新手のいじめかこれ。耐えられないので何か喋ろうとしたが、先に沈黙を破ったのは神楽ちゃんだった。
「お前綺麗アルな」
ああ、“またか”。
「ありがとー」
私は褒められて嬉しそうな笑みを作った。頬を少し赤らめて、口角を少しあげて・・・はいできた。もう何年もやってるから自分を作ることは慣れたもんだ。
自分の顔は結構な美形だと自覚してる。それを有効活用しているのだ。誰もが騙されてくれる。
ほら、神楽ちゃんは私の作った笑顔を見て少し頬を赤らめてる。
騙している事について罪悪感は感じないしむしろホッとしてる。友達は「あんたは頭のネジが1本はずれてる」って言われたがその通りだと思った。
私は私の輪の中に入った人にしか信用しない。それは好きな漫画の主要キャラだとしてもだ。
いくら漫画の世界でもここの住人は生身の人間だ。自分の意思で動いてる。原作なんて私がいる時点で参考にならない。だから怖い。まだ凶暴な獣が沢山いる島で1人で暮らしている方がマシ。
それに私はトリップして、元の世界に帰れないとなぜか確信していて、ここでずっと過ごしていくのだなと切り替えは既に出来ている。
ただ問題なのは、ここでは誰も輪の中に入ってる人がいない事だ。
それは酷く不安にさせる。私はしょうもない構ってちゃんで拠り所がないと弱ってしまう脆いうさぎなのだ。
もし、いつまでも拠り所ができなかったらこの世界を壊してしまうかもしれない。だから早く大切な人を作らなければ。
けれど、そんなのこの世界で出来るだろうか?
今まで騙し騙されの生活をしてたからか簡単に人を信じられなくなってしまった。
だから、とりあえず笑顔で予防線をはらせてもらおう。
君達が本当に信用できる人なのか、大切な人になり得る存在なのか・・・疑い、探り、見極めさせてもらわなければ。
神楽ちゃんが喋り出したのをきっかけに、やっと銀時と新八くんの硬直が解けた。
「なんですかぁフードをかぶってたのは不細工なツラを隠してたわけじゃないんですねぇはいはいイケメン・・・爆発しろや!」
「はいはい銀さんうるさいですよ。自己紹介の続きしましょう。先ほどは失礼なこと言ってしまってすいません。僕、志村新八です」
「ワタシは神楽ヨ!よろしくネ!こいつはただのメガネだからメガネって呼べばいいネ!」
「僕の扱い酷いんですけどぉぉぉ!!」
「あははーメガっ間違えたぱっつんにかぐちゃんヨロシクね」
「今言いかけましたよね絶対に。あとなんですかそのあだ名」
「嫌だった?」
「いや、別に嫌ではないですけど・・・慣れてないだけで」
「そっかー良かった!かぐちゃんもこのあだ名で呼んでいい?」
「好きにするヨロシ」
信用できたら名前で呼ぶよ。頭の中ではちゃっかり呼んでるけどね。
「オイオイ俺は無視ですかぁ?何3人で仲良くなっちゃってんの」
「「「あっ」」」
「あって何!あって!!本当に忘れてたの!?銀さん泣くぞ泣いちゃうぞ!」
すっかり忘れてた。ほかの2人もそうみたいで、お前いたのかよって顔してる。銀時ってこの中で1番年上だけどこの子達に敬われてないよね。今もこいつうぜーって顔してるし。
「そ、そういえば銀さん!さっき会った桂さん、こんな状態の僕らをかくまってくれるなんて・・・銀さんの知り合いですよね?一体どーゆー人なんですか?」
新八くん、銀時が面倒くさくて話そらしたな。銀時は泣き真似をやめて新八くんの質問に答えた。
「んーーテロリスト」
「はィ!?」
おい、けろっと重要なこと言うなしこの天パ。新八くんの顔が引きつっている。まあ、分かってたけどね。
そしてここで・・・
「そんな言い方は止せ」
桂さんの登場だーー!いやーやっぱりさをさらさらロングのイケメンいいねぇ!どこかの天パとは大違いだ!
「この国を汚す害虫“天人”討ち払いもう一度侍の国を立て直す。我々が行うは国を護るがための攘夷だ。卑劣なテロなどと一緒にするな」
部屋に入りこんだのは桂さんと攘夷志士の方々。なるほど、確かに気迫がそこら辺の矮小な奴らとは違う。信念を持っている目をしてる。
「攘夷志士だって!?」
「なんじゃそらヨ」バリバリ
「攘夷とは二十年前の天人襲来の時に起きた外来人を排そうとする思想で高圧的に高圧的に開国を迫ってきた天人に危機感を感じ「あっ、かぐちゃん煎餅一枚頂戴」」
「ほらヨ」「ありがとう」
「お前らぁぁ人の話聞けやぁぁぁぁぁぁ!!」
「「えーだって話長いんだもん」」
「だもんじゃねぇぇぇ!!何可愛い子ぶってんですか!?可愛くないですから!むしろムカつきますから!」
「ぱっつん・・・そんなに叫んで喉潰れない?」
「誰のせいだぁぁぁぁぁ!!」
新八くんは叫んでむせた。それを哀れだと思ったのか銀時は新八くんの背中をさすってる。
目の前に攘夷志士がいる緊迫した状況の中、何処か間抜けなのは私のせいではないはずだ。うん。
誤魔化すために口笛を吹きながら、前に対峙してる攘夷志士を見やる。すると気まづそうに頭をかいてる男がいた。
「あれって・・・飛脚じゃないかな?」
銀時たちの視線が一斉に私の指さした方向に向いた。
「あっほんとネ!!あのゲジゲジ眉デジャヴ」
「ちょっ・・・どーゆー事ッスかゲジゲジさん!!」
「全部てめーの仕業か、桂」
「飛脚ーー!覚悟ーーー!!」
私はポケットから愛用の刀を出し、飛脚に切りかかる。
「ちょっとぉぉぉ!!何してんですかぁぁ!あんたは!とゆーか刀どっから出したの!?」
「涙!落ち着けヨ!!」
「離せーー!!こいつだけは我慢ならない!人を巻き込みやがって!3枚におろしてやる!!」
2人が暴れる私を拘束する。
くっそー2人とも力が強いからなかなか離れない。
「・・・銀時この腐った国を立て直すため再び俺と共に剣をとらんか。白夜叉と恐れられたお前の力、再び貸してくれ」
騒いでたらいつの間にか話が進んでたよおい。
桂さんは真剣な顔で銀時を見つめる。
対して銀時は面倒くさそうな顔してるけど。あっ、耳ほじってる。
そこから桂さんの熱弁は始まった。
ーー銀時がこの国を救おうとして戦った攘夷志士出会ったこと。
ーー白夜叉と敵だけでなく味方にも恐れられたこと。
新八くんは自分の上司の過去に驚いていたが、それと同時に納得してた。前々から銀時の強さに疑問を持っていたのだろう。
「・・・銀さんアンタ攘夷戦争に参加してたんですか」
「戦が終わると共に姿を消したがな」
沈黙している銀時の代わりに桂さんが答える。
「俺ァ派手な喧嘩は好きだが、テロだのなんだの陰気くせーのは嫌いなの・・・俺達の戦はもう終わったんだよヅラ」
「ヅラじゃない桂だァァ!!それに俺達の戦はまだ終わってなどいない」
桂さんはそう言って刀を銀時の前に突き出す。銀時がイラッ立っているのが分かる。それにしつこいからね。
「貴様の中にとてまだ残っていよう銀時・・・国を憂い共に戦った同志達の命を奪っていった幕「ネチネチとうるさいなー。お前は女か」っ!!なんだお前は」
突然会話に入った私に驚いたのか全員の視線が一斉に集まる。いやん、恥ずかしい!っじゃなくて!!
「こんにちはー桂さん。自分は月下 涙。この騒動に巻き込まれた哀れな一般人でーす」
桂さん、私は少し怒っているんですよね。
「さっきの話聞いてたら随分と身勝手な言い分じゃないかなー?そこの天パに自分の思想や理想押し付けてない?」
「何っ!貴様には関係なかろう」
「えー今ここにいる時点で関係あるよ!それにどうでもいいけどさー。こうやって国に住まう市民を巻き込んどいて攘夷もクソも無いよね。それに腐った国って言ってる時点で切り捨ててる事と同じだし。自分が国を立て直すってどんだけ偉いんですかー?何様のつもりですかー?あっそうかヅラ様か!お見逸れしましたー!」
私はわざとらしく相手を敬う動作をした。
アハハ、怒ってる怒ってる。私、人を煽るの上手いんだよね。
「貴様ぁぁぁ!我らを愚弄するつもりか!そこへなおれぇぇぇ!!」
「べー、やだよ!」
桂さんが剣に手を携えている。私を切る気満々だ。やれやれこれだから短気は。私は桂さんに近づいて耳元に口を寄せる。
「国なんてどうでもいい・・・大事な人を守れればそれで良いでしょ?」
桂さんは息をのんだ。
「貴様は一体・・・」
「まあ、自分の思想ですけどねー」
人は何かを守る為に戦うんだよ
次にとうとう真選組の登場です!!