Fate/curious tale 緑の勇者と白い魔王 作:天々
マスター達の呼び出しがあった夜、セイバーのマスターである辰尾勇馬はセイバーとキャスターを偵察に出していた。
目的は魂喰いの下手人の捜索である。
『マスター、奇妙なバケモノがいるがどうする?』
繁華街に送ったセイバーから念話による報告を受け、勇馬は考え込む様に顎へと手をやり、己の使い魔へ問いかける。
「そいつの特徴は?」
『姿は人型だな。大きさは成人男性くらい。もっとも、全身が鱗に包まれているがな』
間をおかず帰ってきた返答に、勇馬は「ほう」と感心したかのように息を漏らす。
『…どうかしたか?』
勇馬の奇妙な反応に違和感を覚えたセイバーが己の主へと尋ねる。
「何、教会からの報告通りの姿だったからな。少し驚いただけだ」
教会に対して匿名で入っていたという報告、そこには魂喰いをしているであろう陣営とその使い魔について書かれていた。未確認であるが故に先程の会合では告知されなかったそれは、土地の管理者である勇馬にだけは知らされていたのである。
しかし、勇馬はその情報を虚偽によるものと見ていた。
そも聖杯戦争においてすべてのマスターは敵であり、虚偽の報告による妨害など想定してしかるべきだ。
(情報が正確だったのか、それともバーサーカー陣営を陥れるための工作か…。考えても詮方ないことか)
勇馬は思案し、それが答えが出ない事柄であると結論づけてかぶりを振る。
「そいつを見張れ、キャスターを合流させるから連携して事に当たるんだ。分かったな」
情報が正確にしろ、何某かの謀があるにしろその使い魔を見張っていればなにか掴めるだろう。そう考えた勇馬はセイバーへと指示を飛ばした。
『いいのか?そうなるとマスターの護りが薄くなるが…』
指示を受けたセイバーはマスターへと問を返した。
現在、キャスターは勇馬の護衛に当たっている。
そのキャスターを使い魔の監視に回せば勇馬を守る者はなく、サーヴァントに襲われれば命を落としてしまう事になるだろう。
「いや、やってくれ」
しかし、勇馬はその進言を却下した。
魔術師の拠点たる工房には様々な魔術的な罠や守護が敷かれており、それはサーヴァントとといえど無抵抗にすり抜けることは出来ない。
ましてや勇馬は風宮に代々居を構える土着の魔術師であり、その邸宅は長い時間をかけて魔術的な要塞と化している。
だが勇馬の決断を最も強く決定づけたのは工房への信頼ではなく、その誇りだ。
辰尾勇馬は風宮の管理者の一族である。
土地の霊脈を管理し、その土地で起きた怪異を律する、神秘を治める魔術師。そういった魔術師は管理者と呼ばれる。
そして、それを継ぐものとして生まれ育った勇馬は土地を荒らすものを許容する訳にはいかなかった。
無辜の人々を襲うバーサーカーへの義憤ではない。この土地を長らく治めてきた管理者の末裔として余所の魔術師に好き勝手をさせてはならない、という使命感。
それが勇馬の決断を後押しした。
『了解した』
セイバーはその決断を尊重し、それ以上の反論はしなかった。
「というわけだ、頼んだぞキャスター」
勇馬は振り返ることなく己の背後に居るだろう魔術師の英霊へと指示を出す。
「了解だよ、マスター」
了承のみを残して、黒いキャスターの気配はその場より去るのであった。
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