Fate/curious tale 緑の勇者と白い魔王 作:天々
今年も拙作を楽しんでいただければ幸いです。
ライダーは今日もまた梟に掴まれて空を飛んでいた。
理由は風宮市における魂喰い事件の調査のためである。
空を飛べるライダーであるならば、風宮市を一望して犯人の捜索に当たることが出来る。それ故にマスターであるフォリオから犯人の捜索と確保を指示されていた。
「ぽーよー?」
ふと、ライダーの視覚が街を彷徨う異形を捉えた。
街の一角にある比較的大きな公園。街の中にポツリと存在する緑の中に人ではない何かがいる。
もっと近くでそれを見るべくライダーは異形の真上へと移動した。
哀れな獲物を待ち伏せてでもいるのか、物陰から動かない異形の人影。
そうして、数分ほどその動向を眺めていたライダーを強烈な殺気が刺し貫いた。
「ぽよっ!?」
ライダーの身体を掴んでいた梟か慌ててその場からライダーを引き上げると、数瞬前にライダーがいた空間を黄金に輝く三叉の槍がえぐり穿った。
「ハァッ」
ライダーを強襲したのはランサーであった。黒い甲冑に身を包んだ槍兵は槍を突き出した格好のまま黒い飛竜にまたがって空を飛んでいる。
ランサーはライダーを両断すべく斬り上げによってライダーを追撃するが、梟は更にその右へと逃げ果せていた。
「ぽよっ!!」
更にライダーはその足で槍の穂先を横から叩きランサーの体勢を大きく乱すと、
「ぽぉ、よぉい!!」
梟から飛び出し、ランサーの頭蓋を蹴り砕くべく回し蹴りを見舞った。
「させるか!」
そのライダーの奇襲を、ランサーは石突を振るって振り払う。
蹴りと薙ぎ払いが激突し、体重の軽いライダーは吹き飛ばされるが、梟が飛び出しその身体をしっかりと掴んで受け止めた。追撃しようにも、ランサーもまた激突の衝撃と無理な反撃で体勢を整えられないでいる。
その結果ライダーはランサーの間合いからのがれ、奇襲によって乱れた体勢を整えることに成功していた。
「まだだっ」
飛竜を駆り、ランサーはライダーを屠らんとすべく再び強襲する。
風宮上空での衝突はまだ始まったばかりであった。
「クソッ、ランサーめ!!」
フォリオは焦っていた。現状の大きな不利に。
ライダー、英霊カービィは宝具『星を呑む者(ホールイーター)』により何かを吸い込んで取り込みむことで取り込んだもの因んだ超常の力、コピー能力を発現させることでこそその真価を発揮する英霊である。
故に、吸い込むものの無い空中ではその能力は大きく損なわれる。
宝具を使って迎撃するという手もあるが、未だ序盤戦である以上宝具の発動は避けるべきであり、またランサーもその隙を与えることのない猛攻でこちらを攻め立ててきている。
「英霊の真名が割れるとこんなに厄介になるものか……」
英霊の真名が分かりやすいというのは極めて不利なことである。何故なら英霊の真名がわかってしまえば、得意な戦術やその宝具まで分かってしまうからだ。
そして何分ライダーの正体は非常に分かりやすい。故にこの猛攻もライダーの真名を把握したランサーが、ライダーにコピー能力を使わせないために行っているものであると予想できた。
「いっそ、使うべきか…」
チラリ、とフォリオは己の右腕に目を向ける。
衣服の袖に包まれたその内には、彼の持つ令呪が鈍く輝いていた。
刺突が、斬り上げが、石突による打擲がライダーを打ちのめさんと迫る。
そのことごとくを乗騎を駆って回避しつつ、間隙を縫って反撃を試みるライダー。
しかし武器のリーチと破壊力はランサーに余裕を与え、逆にライダーからは余裕を奪う。
何せライダーはランサーの槍撃を掻い潜ら無ければならず、死と隣合わせのそれはライダーの精神力を少しずつ削っていく。その反面ランサーは時折ある反撃にさえ気を払えば攻め立てるだけでよいのである。
故にその均衡が破れるのは必然であった。
ランサーの刺突が、ついにライダーを支えていた梟を捉える。翼を穿たれ、苦しげな鳴き声を漏らして消えていく梟。その場に残るのは、紫紺に煌めく羽根のみである。
「ぽよおおおおおお」
苦し紛れか、乗騎を失って落下するライダーがランサーを呑み込まんとするよう大きく息を吸い込む。
しかし、そう簡単に飲み込まれるランサーでは無い。
吸い込み始めた当初こそバランスを崩したランサーであるが、すぐさま体勢を整えると吸い込みの勢いを逆用した渾身の一撃をライダーに向けて放つ。
そして赤色が夜空に舞い散った。
やめて!
ランサーの槍でライダーの身体を貫かれたら、契約してるマスターの敗退も決まっちゃう!
お願い、死なないでライダー!
あんたが今ここで倒れたら、あんたやマスターの願いはどうなっちゃうの?
宝具はまだ残ってる!ここを耐えれば、ランサーに勝てるんだから!