Fate/curious tale 緑の勇者と白い魔王 作:天々
元は二話分なのでやや多め
ここからしばらくは不定期になるかんじです
2017/7/30一部台詞を修正、ステータス表の追加
8/8上着を修正
2017/09/15魔王についての一文を追加。間隔調整。
夜の住宅街を白山美奈(しらやまみな)は走る。息を切らせ身に纏う衣服の乱れも気に止めず、止まりそうになる両脚を酷使しながら。
彼女を追うのは異形の怪物である。血走った紅い瞳、月光を浴びててらてらと光る鱗の生えた肌。
それが爬虫類然とした見た目であるのならばリザードマンと呼ぶのにふさわしいだろう。
しかしそのシルエットは人間のそれであり、にも関わらず手足を地面について四つ足で迫り来るのであった。
(どうして、どうして……)
助けは呼んだのだ、悲鳴はあげたのだ。
しかし周りからの反応はなく、助けは来ない。そもそも家の電気は一軒残らず消えていて、人気と言うものがない。時間はまだ夜の八時ほどだというのに。
(助けて、誰か助けて)
走りながら彼女は必死に願う。自分を助けてくれる存在を、この悪夢のような状況から自分を救ってくれる何かを。
しかしそんな存在は現れること無く、逃走劇は終わりを告げた。
「きゃあぁぁ」
酷使した脚に限界が訪れ、彼女は前のめりに転んだ。
地面に打ち付けられた体は盛大に痛めつけられ、立ち上がる気力と体力を根こそぎ奪われる。
「う……、ぐぅ……」
それでも後ろを確認するべく、痛みをこらえながら仰向けに体をひっくり返した美奈の瞳には――
絶望が、映っていた。
獲物を前にして狂喜に輝くふたつの眼。口蓋から溢れ出る長く伸びた舌。肉食獣の如く尖った牙。ペタペタと足音をたてながら迫る異形の怪物。
「ぁ……、あ……」
今から自分は食べられる。抵抗むなしくこれに捕食される。その確信と恐怖に彼女は言葉にならぬ声を漏らす。
その様子を眺め、怪物はにたにたと笑っていた。
「誰か……誰か……」
救いを求める。
「神様仏様神様仏様神様仏様……」
助けを求める言葉を震えた口で呟きながら彼女は考える。
(もし自分を救ってくれるなら――)
例え悪魔でも、魔王でも構わない。
そう念じたとき変化は訪れた。
彼女の目の前、化け物との間に立ちはだかるかのように突風が渦巻き、まばゆい輝きが迸る。
そのあまりの勢いに彼女は後ろに吹き飛ばされた。
風と光は十秒ほど荒れ狂った後、ゆっくりと勢いを失い収まっていく。
「な、何……?」
吹き飛ばされたあと、どうにか顔をあげた彼女が見たものは白いコートを羽織った銀髪の青年の背中だった。
彼は美奈に振り返ることも無く手にしたナイフを一閃させると、異形の化け物を縦一文字に切り裂いた。
「うぎょぉおおぉおぉお」
奇怪な断末魔をあげて怪物が地面に沈むと、それはゆっくりと美奈へと振り向いた。
「はじめまして、俺はアーチャーのサーヴァントだ。貴女が俺を呼んだマスターか?」
微笑みながら尋ねる青年を前にして、白山美奈は意識を手放した。
それが、魔王と呼ばれた彼と白山美奈のはじめての出会いであった。
「んっ」
美奈は自室のベッドでぼんやりと目を覚ました。
服は普段着のままであり、着替えずに寝たせいか妙に汗臭い。
外は暗くなっており、あわてて携帯電話で時間を確認しようとしたが見当たらない。
昨日はどこに置いたものか、と思い返そうとした所で彼女はようやく昨夜の奇怪な出来事を思い出した。
「ようやく起きたのかマスター」
「うわぁっ!?」
室内に突然響いた声に、美奈は驚き、悲鳴を上げる。慌てて室内を見渡すとそこには昨晩美奈を助けた青年が壁を背にして立っていた。そんな彼女を見て青年は片手を顔の辺りに持ち上げて軽く頭を下げ申し訳なさそうに詫びた。
「驚かせてごめん。それで昨日はちゃんと確認が取れなかったんだけど、貴女が俺を呼び出したマスターってことでいいのかな?」
「ますたー?私が貴方の?」
美奈には青年の質問が理解できなかった。
呼び出したとはいうものの彼女には青年との面識は無かったし、ますたー、これは多分masterつまりご主人様のことであろう、何て言うものになった覚えはない。
「えーと、もしかして」
あからさまに戸惑う美奈を見て、青年はバツが悪そうに頬を掻いて尋ねた。
「聖杯戦争って知らないか?」
「何それ」
間髪入れずに返した美奈の返答に、青年はがっくりと肩を落とした。
「嘘だろ……」
「えっと……」
青年のあまりの落胆ぶりに美奈は何か申し訳ないような気持ちになる。もっとも美奈自身が悪いわけでは無いのだが。
「じゃあ貴女は魔術師だったりするのか?」
「残念だけど…」
残念ながら美奈は一般人であった。
「うーん……」
今度の回答も期待に添えるものではなかったらしく、青年はいよいよ頭を抱え始めた。
「うん、分かったマスター、まずは落ち着いて聞いてほしい」
(落ち着いてないのは貴方でしょう)
宥めるように掌を前に押し出しながら言う青年の言葉に美奈は心の中で突っ込んだ。口に出したら可愛そうだと思ったのである。
「まず君が巻き込まれたのは聖杯戦争という魔術師の戦いだ」
「は?」
青年の言葉を美奈はよく理解できなかった。
「えーっと、ちょっと待って」
俯いて目頭を抑えながら、美奈は青年の言葉を制止する。
「魔術師って本当に?」
「ああ」
美奈の疑問を、青年は事も無げに肯定した。まるでそれが常識で当然のことであるかのように。
「いやいやいやいや」
「じゃあ、あの怪物はどう説明するんだ?」
「うっ」
美奈の否定の言葉は、しかし青年の指摘によって呻きと共に押し込められた。
昨夜彼女を襲った異形の怪物、その存在を彼女は説明できないが故に。
「魔術っていうのは存在する。昔の俺も信じられなかったんだけどね」
「そう、何でしょうね」
少し懐かしそうに言う青年の言葉に、美奈は同意で返した。まだ納得はしていなかったが。
「話を戻すよ。君が巻き込まれたのは聖杯戦争。魔術師達による聖杯を巡る殺し合いだ」
「ころっ!?」
「殺し合いだ」
驚きに目を丸くする美奈へ、青年は念を押すように同じ言葉を二度繰り返す。
「聖杯っていうのはなんでも願いを叶えてくれる道具のことさ。そしてこの聖杯戦争の特別な点として、魔術師達は1人につき一体ずつ、サーヴァントと呼ばれる使い魔を召喚して使役する事だ」
「サー、ヴァント…?」
「そう、サーヴァントだ」
恐る恐る尋ねる美奈へ、青年は頷きと共に言葉を返した。
「サーヴァントって言うのはかつて英雄であったもの達の事だ。生前様々な偉業を打ちたてた者たちは英霊として祀り上げられる。そういったかつての英雄たちを召喚し、殺し合うのが聖杯戦争だ」
青年の言葉を美奈はあ然としながら聞いていた。
「さっき俺が言ったマスターっていうのはサーヴァントを使役する魔術師の事さ。そしてそれは聖杯戦争の参加者と言うことでもある。つまり…殺し合いの当事者だ。そしてそれは、俺というサーヴァントを召喚した貴女のことでもある」
冷淡に告げられた最後の言葉に美奈は困惑を禁じ得なかった。
(私が…?殺し合いの当事者…?何で…?そもそも私が魔術師ってこと…)
そこまで考えて、美奈はハッと顔を上げた。
「待ってよ!私は魔術師なんかじゃない!だからマスター何てそんなのなる訳がないでしょう!?」
必死に、青年に縋りつきながら叫ぶ彼女の言葉を、青年は首を振って遮った。
「残念だけど貴女はマスターだ。魔力が貴女から流れてくるのを感じるし、あの場で俺を呼び出したのは貴女以外には考えられない。貴女は確かに魔術師じゃない…魔術師じゃなかったのかも知れないけど、危機的状況で才能が開花する魔術師はいないわけじゃないしね」
「そんな…」
青年から手を放し美奈はへなへなと床にへたり込む。
青年はそんな彼女の姿を見つめながらしばらくの間無言で何かを考え込み、やがて何かを決意したかのように頷いて告げた。
「ひとつだけ、方法が無くもない」
与えられた救いの言葉に、美奈はぱっと顔を上げた。
「本当に!?」
青年を問いただすその顔は喜びを越えて狂喜に染まっていた。その顔を見て、青年は覚悟を決めたかのようにゆっくりと解決策を述べた。
「ああ、俺を殺せばいい」
「え…?」
その、解決策のあまりの突拍子の無さと残酷さに彼女はポカンとだらしなく口を開いたまま硬直していた。
「言っただろ。俺というサーヴァントを召喚したマスターだから貴女は聖杯戦争の参加者なんだって。なら話は簡単だ。俺がいなければ貴女はマスターじゃなくなるんだから」
「でもそれであなたは良いの?」
震えながら尋ねる美奈の言葉を青年はこくりと頷いて肯定した。
「サーヴァントって言うのは結局一度死んだ人間だからね、本来の形に戻るだけ…?!」
そこまで言って、青年は驚愕の表情と共にあさっての方向に振り向いた。美奈の住むワンルームマンションの、入り口のある方向へと。
「どうしたの…?」
「敵だ…たぶん昨日のやつの仲間だ…」
怪訝そうに尋ねる美奈へ青年は真剣な面持ちで答える。
「昨日のって…」
昨晩追いかけられた怪物の姿を思い出して、美奈は震え上がる。
「この気配だとサーヴァントもいるはずだ、ここじゃまずいな…。逃げるよマスター!」
「え、ちょっ…!」
そう言うやいなや青年は美奈を肩に担ぐと、部屋の窓をガラリと開けてベランダへと飛び出した。美奈の抗議の声はスルーして。
「飛ぶよ。落ちないように気を付けて」
「え、飛ぶってココ2階…きゃっ」
美奈の言葉は相変わらず無視して、青年はベランダから飛び出した。二階にあるベランダから。
青年は美奈を抱えたまま対面にある家の屋根へと跳躍、着地するとそのまま次々に家々の屋根を飛び移っていった。
「え、ちょ、え、え、え〜〜?」
浮遊感、人間離れした速度、後ろ向きに抱えられたが故に後ろから前へと流れていく景色。それらに翻弄され困惑したまま美奈は青年に担がれていく。
そのまま跳躍を繰り返した末に青年が辿り着いたのは、家から少し離れたところにある小さな公園であった。
「よし、ここなら大丈夫そうだ」
公園の中央に着地して美奈を降ろすと、青年はいま自分たちが来た方向へ振り向いて言った。
「付いて来てるんだろ?思う存分やり合おうじゃないか」
返事はなく、ただ夜闇に言葉は消え行くのみである。誰もいないじゃないか、と美奈が青年に抗議しようと思った矢先、それは闇から染み出すように姿を表した。
現れたのは一人の屈強な男であった。
筋骨隆々とした巨体、きらびやかな装飾を施された宝剣と盾。毛皮で縁取りされた赤い――目出しのされたマントを頭から被り、下はビキニパンツ一丁。
その姿はまごうことなき変態であった。
「あれ、サーヴァントなのよね…?」
「あ、ああそうみたい、だけど…」
それを見た二人はドン引きであった。
「ああいうのが英雄なの…?」
「このような変態と一緒にされるのは誠に遺憾である」
「あ、ごめんなさい…」
思わず漏れた感想に対する青年の抗議に、美奈は素直に謝罪した。あんな変態と一緒にされるのは誰だって嫌であろう。
「ぐひゃはははははは」
そのやり取りに怒ったのかどうか、目の前の男は狂声を上げながら剣を振りかざして美奈達に襲い掛かってくる。
「マスターは下がってて」
青年は美奈を庇う様に前に出ると、どこからか取り出したナイフを手に男へ向けて駆け出した。
【CLASS】アーチャー
【マスター】白山美奈
【真名】?
【身長・体重】175㎝・71kg
【イメージカラー】白
【属性】混沌・善
【性別】男性
【特技】料理
【好きなもの】平穏
【嫌いなもの】運命
【天敵】?
【ステータス】 筋力C 耐久C 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具A
『保有スキル』
<クラス保有スキル>
・単独行動(B)
・対魔力(C)
<固有スキル>
・専科百般(D)
・???
【解説】
・単独行動
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
・対魔力
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
・専科百般
生前の戦いにおいて身につけた諸々の武器の技能。
その殆どがEランクとなる広く浅い習得である。
護身程度の武器術であるが、例外的にナイフに関してはCランク程度の習熟度となる。
・???
アーチャーの持つ特殊スキル。
詳細不明。
<所有宝具>
不明
ランク:?
種別:?
レンジ:?
最大補足:?
由来:?
詳細不明
不明
ランク:?
種別:?
レンジ:?
最大補足:?
由来:?
詳細不明