Fate/curious tale 緑の勇者と白い魔王   作:天々

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遅くなりましたー


十話 招集

 美奈の部屋を訪れて一晩が経った朝、魔力による振動が正裕の耳朶を叩いた。

 

「教会からの連絡だ」

 

 教会から上げられた魔力信号弾を感知して、正裕は自分が拠点として使っているマンションの一室から協会の方角を眺めた。魔力信号弾は魔術師の連絡手段としては一般的なものであり、魔力を知覚してなければわからない信号弾を上げて魔術師に対して連絡を取るというものだ。信号弾の色や回数によって内容を伝えるものであり、その性質上細かい内容は送れないし特定の個人のみに情報を送るということもできない。しかし、聖杯戦争のような状況下でお互いの顔も知らない魔術師への告知手段としては有用であった。

 

「緊急招集、か」

 

「どうしたの、マスター」

 

 正裕が信号弾の内容について呟いていると、その脇にキャスターが実体化して正裕に現況を尋ねた。

 

「ああ、教会からの招集だな。どうやらこちらの言うことを信じたらしい」

 

 美奈の部屋から退出した後、正裕はすぐに聖杯戦争の監督を行っている教会へと使い魔を飛ばした。用件は勿論魂喰いを行っている容疑者についての報告である。そんな状況での緊急招集ともなれば、用件は魂喰いのことであると想像がつく。

 

 正裕は窓から離れ、使い魔を用意するべく精神を集中させた。

 街にはいくつかの情報収集用使い魔を放っていたが、その中の一つに教会への移動を指示させる。

 直接行けば他の参加者に余計な情報を晒す上に襲われる可能性もある以上、使い魔を代理に送るのが常道であった。

 

 風宮教会。

 風宮市の北東にある風切山、その麓に位置する風宮教会は聖堂教会に所属する教会の一つであり、今回の聖杯戦争の監督を任された教会である。

 

 今その礼拝堂では教会を任された神父が祭壇に立ち、そして魔術師より放たれた使い魔六体信徒席に集まっていた。

 聖杯戦争の参加者は七名。使い魔が一体足りない計算である。

 

(さて、どう考えるべきか)

 

 これまでの間に幾つか小競り合いがあったのは神父も承知している。しかしそこでサーヴァントが脱落したという報告は無く、サーヴァントはまだ7体いるはずである。

 そうなると一体足りないのはマスターに使い魔を放つだけの力量がないのか、信号弾を知らないのか、あるいはその両方といったところであろうか。

 

 信号弾を上げてからもう4時間近く経つ。流石にこれ以上開始を延ばしてももはや来るまいと、情報を告知しようとしたところで礼拝堂の扉が開いた。

 入ってきたのは一匹の蝙蝠である。どうやらこれで全員揃ったらしいと神父は胸を撫で下ろした。

 

「さて、全員揃った様だな。ようこそ、風宮教会に。ご足労いただき感謝する。手狭な東屋ではあるが存分にくつろいでいただきたい」

 

 新婦の口から転び出た一見丁寧なそれはその実痛烈な皮肉であった。風宮教会は東屋とは呼ぶべくもないだけの格と規模があったし、この場に来ているのは皆使い魔であり足を運んだ魔術師など一人もいない。

 

「さて、これより監督役からの伝達事項を伝える。心して聞いて欲しい」

 

 そう前置きして、神父は本題を切り出した。

 

「いま、風宮市で意識不明者が幾人も出ている事件は知っているだろうか。あれの下手人が諸君らマスターの一人であるという疑いがある。理由は、まあ魂喰いであろうな。もし、この蛮行を見逃せば聖杯戦争の運行にも支障が出かねないことは魔術師諸君は重々承知しているだろう」

 

 神父はそこで言葉を区切ると、祭壇に置かれた机をばしんと叩いた。

 静まり返った礼拝堂内部を振動が満たす。

 

「故に教会の監督役として汝らに告げる。魂喰いを行っている者は即刻それを中止せよ。そして、もし魂喰いを行っている者を突き止めそれを討ったマスターには相応の報酬を出すことをここに誓おうではないか。さて話は以上だが質問はないか?」

 

 そう言って神父は礼拝堂を見回した。そこには使い魔しかおらず、まともに会話できそうな者はいない。

 

「なさそうだな、ではここで解散とする」

 

 それを聞いた使い魔たちはあるものは飛び立ち、あるものは床を這うなどして礼拝堂を後にしようとする。しかし、そんな彼らを神父の一言が遮った。

 

「ああ、そうだ。こちらでも下手人の情報はある程度掴んでいる。魂喰いをやめぬ様なら調査の上こちらでも告知するつもりであるのでそのつもりでいることだ」 


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