Fate/curious tale 緑の勇者と白い魔王 作:天々
まあ二章って言うほど話が進んでるわけでもないですけどね。
まだまだ聖杯戦争も序盤ですが末永くお付き合いください。
しばらく説明回が続きます。
一話 魔術師
「さて、まずは何から話そうか」
駅前のビジネスホテルの一室で、正裕と美奈は向かい合って座っていた。間にあるミニテーブルには、それぞれペットボトル飲料が置かれている。そしてサーヴァント二人はそれぞれのマスターの後ろに控えていた。
アサシンの撤退後、正裕達は話し合う場として駅前のホテルに部屋を取り、そこで今後の話をすることになった。アーチャーが正裕の抑えていた仮の拠点に行くことも美奈の部屋に案内する事も拒んだ為である。まあ相手の拠点に足を運ぶのも、自分の拠点に足を運ばれるのもどちらにも障りがあるのは正裕としても承知しているので特に言い争う事もなく、適当な場所を別に用意することになった。それが今いるビジネスホテルの一室である。ちなみに部屋はダブルだが、お二人様としては安いから選択しただけであり決してよこしまな思惑があるわけではない。使うつもりが無いがゆえの選択であった。
ちなみに正裕はもうローブを脱いでいる。容姿を隠していたのはあの場で他の陣営に姿を晒すのを避けるためであり、アーチャーが使い魔を追い払った以上隠蔽は不要だったからだ。
「まずそうだな、自己紹介からしようか。俺は小野正裕、魔術師だ」
「私は白山美奈、大学生です」
「さて、美奈さんは魔術師じゃないんだよな?」
自己紹介が済むと、正裕はすぐに本題を切り出した。
「はい」
そう言って美奈はコクリと頷く。
「じゃあ魔術師についてからかな…。魔術師っていうのは魔術っていう神秘を扱う人間だと思ってくれれば間違いないかな。西洋の魔術だろうが、陰陽師だろうが、お坊さんだろうがそれが本物の神秘をこうしできるならそれは全部魔術師になる。その辺りは想像できるか?」
「えーと、マンガとかに出てくる魔法使いみたいな感じですよね?」
問われて尋ね返す美奈に、「あーそうか」と正裕は頭痛をこらえるように額を抑えた。
「まあそのイメージで大体合ってるんだけどさ、魔法って言う表現だけは避けてくれ」
「魔法だとだめなんですか?」
そう言って小首を傾げる美奈。
「魔術師の間だと魔術と魔法は違うものなんだよ。難しい説明は避けるけど魔術は他の手段でも同じ結果を出せるもの、魔法っていうのは他の手段とかだと同じ結果すら出せないものって言う感じだな。魔法っていうのは普通の魔術師じゃ使えないものなんだ」
「ええと…?同じ結果?」
説明がよく分からず、困惑を表情に浮かべる美奈。
「そうだな…、例えばライターがあれば火をつけれるよな?」
「はい」
コクリと頷く美奈。
「魔術はライターとか無くても火が起こせる。でもそれは結果としては火を出していることには変わりないだろ?」
「ん?えーと、確かにそうなるのかな?」
話を聞きながら美奈は顔を顰めた。
「こういう、過程は違うけども結果自体は他の手段でも同じものが出せるものが魔術。死者の蘇生とか時間旅行みたいな他の手段では実現不可能な事ができるのが魔法って言うことになる」
「んー、つまり不可能を可能にできるのが魔法で、可能なことを魔術で行っているのが魔術って言うこと?」
正裕の説明を聞いてようやく納得がいったのか、ぱん、と手を打ちながら自らの解釈を告げる美奈。
「そう、そういうこと」
それを聞いて「理解してくれたか」と正裕は胸をなでおろした。
「ちなみに」
と、正裕は更に注釈を加える。
「この魔法を使える人は世界に何人もいない。だから絶対に魔法使いという表現は避けてほしい。そんな言葉を言うやつは素人だと思われて付け込まれるからな」
「分かりました」
正裕の忠告をうけ美奈は真剣そのものの面持ちで頷く。
「あと魔術師には一つ絶対に守ってもらわないといけないことがある。それは、神秘の隠匿だ」
「魔術の存在をバラしちゃいけないってこと?」
「ああ」
美奈の問いに正裕は頷き、肯定する。
「正確に言えば魔術以外でも神秘全般。例えば幻想種…幻獣とか妖怪とかそういうのかな、の存在とかも明かしたらいけないし、聖杯戦争が行われてるということがバレるようなことをしてもいけない」
「え、でもさっきの変態は街中で襲ってきたけど…」
あれはバレないのか、と美奈はその疑問を正裕にぶつけた。
「あそこには人払いの結界が張ってあったからな。魔術の素養が無いやつが迷い込まないようにされてたんだよ。そういうのが使え無いと魔術師として活動するのは難しいし、聖杯戦争なんて以ての外だ」
その答えに美奈はなるほど、と納得した。二人の男性が武器を使って殺し合いをしていたのだ。金属音などギャンギャンいっているのに通報もなかったのは明らかに異常であった。
と、そこまで考えてふと彼女は思い出す。
「あ、そういえば私。なんか変な怪物に襲われたときに誰も助けに来なかったんだけどそういうのも結界でできるんですか?」
そうアーチャーに助けられたあの日、助けを呼んでも誰も自分に気づかなったときのことを。
「できるはずだ。ああ、怪物とやらに襲われたのがきっかけでサーヴァントを召喚できたのか」
納得してぽん、と手を打つ正裕。
「どうしてわかったんですか?」
「魔術を知らないのにその怪物とやらをどうにかできるわけ無いだろ。となるとサーヴァントを召喚して助かったとしか考えられない。もしサーヴァントがいるなら、助けを呼ばなくてもサーヴァントに守らせればいいんだからそれ以前には召喚してるわけがないだろ?」
それはぐうの音も出ないほどの正論であった。
「で、神秘の隠匿なんだがな。これをやらないと魔術協会の奴らに殺される事になる。目撃者の方はまあ記憶操作程度で済むことも多いけど場合によっては消されてもおかしくはないな。酷いときには小さな島に住んでた人を皆殺しにしたとか」
そのあまりにも恐ろしい話を聞いて、美奈はぞくりと背筋を震わせる。
「その、魔術協会っていうのは何なんですか?」
おそるおそると美奈が尋ねる。
「魔術師の共同体だよ。この協会が一番に掲げているのが神秘の隠匿だ。一応所属は自由ってことになるけど、これに関しては所属してようが何だろうが破れば平気で始末しにかかる。それこそ人殺しも辞さない。だからまあ魔術とかについて下手にバラすのはやめておいたほうがいい。周りの人間が死ぬだけだからな」
「う、うん」
いよいよ身体を震わせながら、美奈はぎこちなく頷いた。
「大丈夫か?」
青褪めた顔を俯かせながら身体を震わせている美奈に気遣いの言葉をかけながら、しかし正裕の心中は穏やかではなかった。
(やばい、脅かしすぎた)
今まで平和な日本で危険とも縁遠い中で暮らしていた女性である。そんな相手に、伝えなくてはいけないとはいえ、こんな事を言えば、まあこうなると言うのは当たり前のことであった。
「あー、一旦休憩入れるか。ちょっと外のコンビニで何か買ってくるよ」
気まずげに頭を掻きながら、そう言って正裕は部屋を出た。その後ろに控えていたキャスターも霊体化によって姿を隠して後を追う。
「マスター、大丈夫か?」
気遣わしげに美奈へと声をかけるアーチャー。
「ごめんなさい、少しそっとしておいて」
そんなアーチャーに申し訳なさを感じつつも、美奈はひとり椅子の上で体を震わせていた。
「戻ったぞ」
30分後、右手に下げたコンビニのレジ袋を掲げながら、正裕が部屋に戻ってきた。その袋は大きく膨らんでおり、また左手にも同じような袋があることを見るとかなり買い込んできたようである。
「おかえりなさい」
戻ってきた頃に大分持ち直していた美奈がそう言って、椅子から軽く腰を上げて正裕を迎える。
「ただいま、っと」
テーブルまで近づいて美奈にそう返すと、正裕は手に持ったビニール袋をテーブルの上においた。
「甘い物買ってきたから好きなのを選んでくれ」
そう言いつつ、正裕はビニール袋を漁って中から色々なコンビニスイーツを取り出す。プリンやミニケーキ・コーヒーゼリーと言った洋菓子から、饅頭や大福・どら焼きなどの和菓子までミニテーブルの隙間にどんどん置かれていく。
「あ、ありがとうございます」
ぺこりと頭ををさげた後、美奈は少し楽しそうにお菓子を物色する。
「アーチャーもどうだ?サーヴァントでも食事はできるだろ?」
正裕はそう言ってアーチャーに薦めるが、アーチャーは渋い顔をして、「毒とか入ってないだろうな」と呟いた。
その言葉を聞いた美奈はピタリと動きを止め、楽しそうにしていた顔からさあっ、と血の気が引き笑顔が引きつる。
「毒…」
美奈は恐ろしい物を見るような目で、手にしていたシュークリームをまじまじと見つめた。と、シュークリームが手元から唐突にひったくられる。
美奈からシュークリームをひったくった犯人、正裕は無言のままシュークリームを開封するとそれを一口で頬張り、モグモグと咀嚼する。それをミニテーブルに置いたままにしていた自分用のペットボトル飲料で流し込むと、ぷはっと息をついて口元を拭う。
「これで、良いのか?」
じろりとアーチャーを睨みつける正裕。アーチャーはその渋面を崩さないまま、正裕を睨み返す。
「悪いな、心配性なんだ」
そう言ってアーチャーはどら焼きを手に取ると、包装を手早く剥ぎ取って齧り付いた。
「うん、大丈夫そうだ」
「納得して貰えてよかったよ」
咀嚼したのち少し表情を緩めてそう漏らすアーチャーを見て、正裕は安堵する。
「じゃあ美奈さんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
正裕に勧められ、先程大福を取られた時の格好のまま様子をうかがっていた美奈はおずおずとテーブルに手を伸ばした。
「じゃあ、これを貰いますね」
美奈はプリンを手に取ると正裕に軽く会釈をした。
「どうぞ」
そう正裕が勧めると美奈はプリンとプラスチックのスプーンを開封し、「いただきます」と言ったのち中身を掬って食べ始めた。
「キャスターも食べるか?」
そう言って正裕は己の従者にも相伴を勧める。
「ありがとう、マスター」
キャスターはそう笑顔で答えると、興味深そうにテーブルを物色し、大福を手に取った。
「これは何?」
手の中のものを見せながらキャスターは正裕に尋ねる。
「大福だな。皮がもちもちしていて中に甘い餡が入ってる。日本の伝統的なお菓子だ」
「へえ」
説明を聞いて興味深そうに大福を眺めると、キャスターはその包装に戸惑いながらラッピングを剥がして取り出した大福に齧り付いた。
「うん、面白いねこれ」
感心したような声を出すキャスター。
どうやらお気に召したらしく、笑顔で食べ進めていくキャスターであった。
説明回、そしてなぜかお菓子回。
キャラの動くままに書いていたらこんな事になっていた…な、何を言ってるのか(ry
しばらくはキャスター陣営とアーチャー陣営の話が続きます。
説明回だるい…。