FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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1-2(前)

>>>> [1/4] 茶飲み話、終了。

 

 

「エフッ! エフッ! ……ッ、ぐ、ケフッ……」

 

 オルガが激しくむせ返っている。つい先程俺が開陳した必殺ネタのせいで麦茶が気管に入ってしまったのだろう。俺は己の衝動的な行動を反省し、彼女の背中を優しくさすってやった。

 

「く、ふぅ……、もういいわ、ありがとう」

 

 そうか、悪かったな。俺は詫びの言葉を入れて再び彼女の対面の席に収まる。オルガはジトリとした目で俺を見た。

 

「……自分で言っておいてなんだけど。貴方にお礼を言うのは違うわよね」

 

 そうかな? まあいいじゃないか。

 俺は言う。今のは俺の軽挙だ。つまり今の俺はアンタに対して借り一つとも言える。俺は貸し借りはちゃんとする男だ。アンタの抱えている事情はよく分からないが、要は厄介事ってことだろ? 俺は恩義に弱いが身内にも甘い。身内な上に借りのあるアンタなら倍率ドンってことだ……。さ、手伝ってやるから言ってみろよ。

 

「相変わらずペラペラと良く喋る男ね……まあ、『覚えている』って言うなら已む無しだわ」

 

 オルガはそう言うと、俺に左手を出すよう指示する。……左手?

 

「右手にはもう令呪があるでしょ。下手にいじると干渉しちゃうし」

 

「?」

 

「ああ、もう! いいから黙って出しなさいよ!」

 

 疑義失礼、御意のままに。俺は従った。

 オルガは俺の左手を手に取ると、その手の甲を白く細い指でトン、トン、トンと数回叩いた。叩かれたところがボンヤリと光り……消える。

 

「なにこれ」

 

「簡単な符牒。目印代わりにもなる」

 

「符牒……?」

 

「後日、まとめて事情を説明するわ。まとめてって言うのは、貴方みたいに記憶を保持できている可能性のあるマスター達、つまりレイシフト適性者のことなんだけど……ああ、分からないわね。その辺もちゃんと説明するわよ。ただ、今はこっちも調査書類とアカウント情報を照合して確認してる最中だから……野良の適性者もいるし……とにかく忙しいの」

 

 うん、忙しいことだけはよくわかった。オルガはため息を吐いた。

 

「本当はリツカに会いに来たんだけど。ま、結果的にはラッキーだったのかしらね」

 

「リツカもなのか?」

 

「そうよ。ギリギリ及第点の貴方と違って、彼は適性100%のスペシャル。一般人なのは頼りないけど、『FGO』を介して活動する分にはそこまで関係ないしね。まあ、それを言ったらレイシフト適性自体が本来あんまり関係ないはずなんだけど……これまでも、ずっとチェック自体はしていたの」

 

「……? あー、つまり、オルガ。うちのクランに入ったのは、最初からリツカ狙いだった?」

 

「言い方。純粋に能力を評してのことです。他意はありませんから」

 

 左様で。

 

「それに率直なところを言えば、彼だってついでの理由よ。わたしがプレイヤーとして活動できるクランを選ぶときに、追加の絞り込み条件をつけただけの話。貴方達が程よく緩くて助かってるわ。トップクランなんて所属するには、とてもじゃないけど時間が足りないもの」

 

 そうしてオルガが立ち上がるのを、俺は座ったまま見上げた。さっきとは逆の構図である。

 茶飲み話ほどの間に疑問を山ほどばら撒いてくれたレディは、そろそろお帰りの気分らしい。ちょうど俺の頭も未整理情報不確定情報の山でハングアップする頃合いだった。

 

「リツカが戻ったらtellして。ログインしてなくても分かるようにしてあるから。……ああ、もうこんな時間。少し長居しすぎたわ……じゃあ、失礼するわね」

 

「おう、またな」

 

「……あ!」

 

 立ち去りかけたオルガは、なぜか再び俺の前に座った。ん、まだ何か?

 

「言い忘れてたわ。貴方、掲示板経由でプレイヤーの動向に介入しようとしてるでしょ? それで自分の名前を出した」

 

 そうだな。そうでもしなきゃ信用されないからな。

 

「貴方の行動自体は構わない。()()()としてはむしろありがたいくらいだもの。……だから忠告。目立った行動をした以上は、『直前ログイン組』に気をつけなさい。目をつけられるわよ」

 

 直前ログイン組?

 

「エルが動いたの。『探偵』エル、知ってるでしょう? 彼は元々『FGO』の調査に送り込まれていた人間なのだけど、【ファーストオーダー】中にどうにかして状況を推察したんでしょうね。そして彼を送り込んだ者たちを『FGO』内へと緊急避難させた……それが直前ログイン組。

 プレイヤーとしては初心者だろうけど、中身は老獪な連中よ。キーワードは『協会』『教会』『時計塔』『魔術』。口外厳禁。もし出会ったなら、極力関わらないように」

 

 そんなことを言い残してオルガはもう一度立ち上がり、じゃあね、と告げて小屋を出ていった。

 ……ぐびり。俺は麦茶を飲む。作り置きしたのが、もう全部なくなっていた。

 

「……いや、直前ログイン組に気をつけろって言われてもな」

 

 うちのクランの奴ら、わりとイベ最終盤にログインしてたじゃねぇか。

 

 

>>>> [2/4] 思考を捨てよ、お外へ出よう

 

 

 自身の素性を含め大量の謎を残していった謎の美女オルガさんだったが、正直俺には意味不明な話の連続だったので、全面的に保留の案件だと言わざるをえない。

 

 そもそも、あんまり深入りしたくないんだよね。

 まあ、俺だって『FGO』が只のVRMMOゲームだなんて思っちゃいない。何か裏はあるんだろう。

 でも、どう考えてもおかしな技術を持ってるフィニス・カルデア社がわざわざ記憶操作とかして隠蔽してるんだろ? そんなネタへ下手に首突っ込んだら、ろくなことにならないのは目に見えている。インジェン社、アンブレラ社、サイバーダイン……超技術系大企業の悪しき象徴だ。そういうところをネズミみたいに嗅ぎ回るやつの末路は決まっているからな。

 

 ついでに言えば、俺の調子だって万全じゃない。さっきオルガに直前ログインがどうこう言われて初めて気づいたんだが、ログインって言葉には対義語があったはずだ。それが思い出せない。

 インの対を成すのはアウトだ。そこまでは分かるのに、その先を考えようとすると思考が混乱する。メニュー画面あたりで昔見た気もするけど、さっき調べてもそれっぽいものが見当たらなかったんだよな……。

 

 ……ま、思い出せないものを思い出そうとしても仕方ないか。これは俺が少年期から青年期にかけての学校教育で受けさせられた無数のテストから得た貴重な教訓だ。思い出せないものは思い出せない……空欄だって埋まらない……当然点数も上がらないってことさ。

 

 ていうか、放っといてもそのうち説明されるらしいしね。保留保留。

 

 

 

 そんなわけで、ただでさえゲーム自体の新機能・新要素絡みでやりたいことが多すぎて何から手を付けていいか分からなくなっていたところへ追加で懸念事項をブチ込まれた俺は、普通に思考停止を選び、とりあえずは麦茶を作り直すことにした。一番重要度の低い行動(アクション)だ。

 

 次に、小屋の床下を覗いて運営から配られたクラン設置アイテム『第五架空要素蒐集装置(オート・エーテル・ハーヴェスター)』の具合を確かめる。手のひらサイズのそれは今日も元気に緑色の光を放っていた。

 アイテム説明によれば、こいつは大気と大地からの魔力を蒐集して固形の魔力塊【マナプリズム】を生成する。マナプリズムは一定の手続きを踏むことで特殊な通貨として使うことが可能だ……うん、問題ないな。ついでに今日の分のマナプリズムを回収する。いいね。

 

 続けて、作業台から退かしたままの麦藁の束を見た。

 うーん、これはなあ。さっき、俺自身がオルガの忠告を受けて器用貧乏は良くないと認めたばかりだ。今後もキャスタークラスを選ぶかどうか分からない現状、ここで藁細工に勤しむのは限りなく趣味に近い行為と言えるだろう。残念だけど優先度的には後回しになる。

 

 じゃ、次は? 

 

 ……次は……

 

 ……うん。小屋で出来ることがなくなった。俺は外に出ることにした。

 




マナプリズムについて独自設定。毎日取れる。

◆超技術系の会社について
 インジェン社:『ジュラシックパーク』に登場する企業。恐竜を復活させた。
 アンブレラ社:『バイオハザード』に登場する企業。バイオハザードを引き起こした。
 サイバーダイン社:『ターミネーター』に登場する企業。後に人類に反逆するコンピュータ『スカイネット』の構築に関与。現実でロボットスーツHALを作っている方のサイバーダインとは別。

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