FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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> [ 1/1 ] 一寸のマスターにも五分の意地

 

 体調回復! 俺は元気に戻った!

 

 しかし本当にこれはすごいぞ。あれだけ気分が悪かったのが一瞬で全快した。

 試作礼装【■■■■院制服】……俺は普段使っていないが、【オシリスの塵】の無敵状態付与もあるし、便利だなこの礼装。あとは名前があからさまに伏せ字なのだけ何とかしてくれればなー。【■■協会制服】と並んで名前が怪しい礼装なので、ちょっと使いたくない気持ちがある。

 

 ちなみにネットでは【かきょう院】だとネタ半分で予想されている。スキルがエジプトっぽいしな。花京院なら学ランだろって? 学ランは別にあるんだよ。【月の裏側の記憶】とかさ。ユーザーアンケートで決まった名前らしいけど、月の裏側ってなんだろうな。ポエム?

 

 俺が礼を言うと、治療を指示してくれたまとめ役らしき男が俺の枕元にかがみ込んだ。

 

「そんなに気分が悪かったなら、令呪を使えばよかっただろうによ」

 

「令呪を?」

 

「うちのクランの奴がリアルでちっと鬱っぽくなっててな。折角の大規模イベントだからって参加はしたんだが、色々厳しいみたいでよ。で、試しにさっき配られた令呪を使わせてみたんだが……即座に治ったってはしゃいでたぞ」

 

「ふーん……そういうのは考えつかなかったな」

 

「ま、さっき殺られたってんでログアウトしてリアルに戻ったら、元通りだったらしいがね」

 

こっち(ゲーム)のスキルで現実(リアル)の症状が治ったら怖ェよ」

 

「違いねぇ」

 

 そう言ってカラカラと笑う男は、そのむさい見た目もあって山賊か何かに見える。どういう趣旨のキャラクリなんだろうな。

 

「イヌイだ、ヨロシクな。さっきアルトリアと何話してたんだ?」

 

「あー、何と言えばいいのか……ま、こっちの素性に興味がある様子だったな」

 

 イヌイを名乗る男の質問に、俺は答えに窮する。何か考えを持って行動しているらしき風ではあるが、その肝心のアルトリアの考えが全く分からん。

 

 たぶん、「ちゃんと」考えているとは思うんだよ。

 この運営は異様に胡散臭いが、それ以上に持ってる技術が異常すぎる。『FGO』発売から一年半経って尚、後発のVRMMO作品なんて出ちゃいないし、大前提のVR技術自体が追いついてない。だからどんなに運営がアレでも難易度がクソゲー気味でも、プレイヤーたちはついていく。突き抜けた技術があるんだ。そしてそれは、多分AIについても同じなんだろう。

 

 そんな技術を持つ『フィニス・カルデア』とはどういう集団だ?

 

 ネットでも様々な予想がされている。

 曰く、「某大国の研究機関による、ゲームを装った大規模サンプリングである」「人類が肉体を捨て電脳存在になるための橋頭堡である」「サイバー国家実験の一環」「宇宙人が」「未来人が」「超能力者たちが」エトセトラ、エトセトラ。

 一部のオカルトワードに至っては、陰謀論を喚き散らす荒らしを誘引するということで、このゲームの関連コミュニティでは粗方NG設定されているほどだ。「神秘」とか「魔術」とかな。

 

 だが、そんなことは今はいい。むしろヤバイのは、イヌイがさっき話したこと。令呪を使えば、(ゲーム内に限って)現実の症状を緩和できるっていう件だ。

 

 これ、知ってるやつはどれくらいいる? ゲーム内で状態異常を起こしてもリアルへのフィードバックはされない……あったとしても非常に制限されている。同様にリアル肉体からゲームへの干渉も基本的に遮断されているが、精神症状だけは別だ。

 運営が何を思ってこんな仕様にしたのかは知らんが、「精神症状の緩和」なんて効果は使い道がありすぎる。知れば「活用」しようとする連中が大量に出ることだろう。それを見越した令呪の使い切り制か? にしては発見の経緯がちょっとイレギュラーに思えるが。

 

「……なあ、さっきの鬱っぽい奴の話。【イシスの雨】じゃ治らなかったのか?」

 

「ん? ああ。あのスキルはゲーム内でもらった状態異常しか治せないぜ。こっちもそれは知ってたから令呪にお願いしたってわけだ」

 

「お願い、ね……」

 

 願い? そうだ……。思えば、令呪は願いを叶える力として作用しているとも言える。

 回復したいときには回復を。攻撃したいときには攻撃の補助(バフ)を。移動したいときには目的地への到達(ワープ)を。

 「何にでも使える」んじゃない。「使いたいことに使える」んだ。重要なのは使い手の意思ってことか。だとしたら、さっき俺がマシュさんに令呪を使えなかったのは……俺の意思の問題か。

 

 寝転がっていた俺が立ち上がりかけた、そのとき。

 

 

 ……三度目だ。もう、さすがに予想がつく。

 

 意識が洞窟の一隅へ引き寄せられる。ヤバイものがそこにあると、第六感とかゲーマーの本能とかそういうものが警鐘を鳴らしている。果たしてその先では、あのアルトリアの剣が、またしても光を吸い込む如き暗黒オーラを纏っていた。例のビームだ。俺たちを射線に捉えている。

 リツカはどうした? マシュさんは……

 

「あああああああああッ!」

 

 高い雄叫びが上がった。

 マシュさんだ。大盾を地面に叩きつけ、絞り出すように叫んでいる。己を鼓舞するように。

 

「真名、偽装登録────宝具、展開します! 仮想宝具 【疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)】!」

 

 盾が輝き、蒼翠の光の結界を創り出す。

 だが、駄目だ。あれじゃあアルトリアの宝具は防げない。剣と盾、真っ向から打ち合わせた場合の(ランク)付けは、既に済んでしまっているのだから。

 俺は走り出そうとして、その瞬間に辛うじてマシュさんの影にいたリツカを視界に入れることに成功し、足を止めた。

 俺じゃ間に合わない。いや、「それ」は俺に出来る役じゃないと思ったからだ。

 でも同じくらい、リツカなら出来る気がした。

 

「リツカーーーーッ!」

 

 叫ぶ。リツカが振り向いた。アルトリアが口上を告げる。時間がない。

 

「───卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め……

「マシュさんを助けろ! 令呪にそう願えッ! 令【約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)】ッ!」」

 

 

 俺は、どこまで言えたのか。

 俺の声は、恐ろしく朗々と響き渡るその真名と、それが巻き起こした轟音に消し飛ばされた。三度、滅びの極光が放たれた。俺はそれを、ただ見ていることしかできなかった。

 

 ……黒の光の奔流は、まだ俺たちのところには届かない。マシュさんの盾がそれを押し留めているからだ。だが、このままでは負ける。先の激突のリプレイのように、マシュさんの盾が放つ光は徐々に弱まり、蒼い光の壁が黒に侵食されていく。これが本当にリプレイならば、黒が蒼を染め上げた瞬間、盾は破れてあのビームが俺たちを呑むだろう。当然その手前にいるマシュさんも。

 しかし、そうではない。

 これはリプレイではないのだ。なぜなら────そこには、リツカがいるのだから。

 

「令呪よ! オレはマシュさんを助けたい! 【マシュさんに、力を】!」

 

 大盾を構える少女の傍らに、黒髪の青年が立つ。くそっ。なんて絵になる野郎だ。これだからイケメンは……。マシュさんが驚いたようにリツカを見た。

 

「リツカさん!?」

 

「今までずっと、君はオレたちを助けてくれた! だから今度は、オレが君を助ける番だ!」

 

「え────は、はい! ふつつか者ですがっ。よ、よろしくお願いします……!」

 

 ……青春かよ。

 妙に初々しいやり取りの最後、マシュさんが返事をした瞬間。リツカの右手に刻まれた令呪の紋様が赤く輝き、光の軌線を描いてマシュさんへと吸い込まれていった。

 

『【パス】が通った!?』

 

 突然、声がする。誰だお前。

 

『まさか、この土壇場で【契約】に成功するマスターが現れるなんて……』

 

 辺りを見回すが、声の主が見当たらない。イヌイも困惑している。

 チッ、まあいい。【マスター】。【SERVANT】……サーヴァント。そして【契約】ね。そうか、やっぱりこれは、最初から令呪に想定されていた機能ってことなのか。説明されてないことばっかりだ。本当しっかりしろ運営。

 

「「ハアアアアアァッ!」」

 

 マシュとリツカ、二人の声が揃って聞こえる。リツカの声が苦しげだ。負担がかかっているのか? 自分にしか使えないはずの令呪をNPCに使う、そのための経路【パス】。パスを通すための【契約】。契約の代価に、リツカは何を差し出した? 俺は、何を差し出させた……?

 

 弱々しかった蒼い光が急激に膨らみ、黒光を逆に呑み込んでいく。何とか守りきれそうだ。……だが、守りきったとしてその先どうする? 盾は盾でしかない。そして俺たちマスターはそれ以下だ。

 

 ……くそっ……何も出来ずに見てるだけかよ……。

 

「いいや、そうでもないぜ」

 

「!?」

 

 悪態をついたその瞬間、再び、急に声をかけられる。今度は聞いたことのある声だ。振り向いた先に立っているのは、青白い外套を纏った男。

 

「お前、クー・フーリン……!」

 

「アンタ、一緒に戦うにはどうかと思ったが……その勘は悪くない。サーヴァントとマスター。【契約】するってことは、互いの命運を託し合うってことだ。弱ってる嬢ちゃんと【契約】したあの坊主は、今大量の魔力を持って行かれてる。アンタら風に言うなら一蓮托生ってやつだな」

 

 一蓮、托生……。

 

「それを俺に言ってどうするんだ」

 

「アンタは、令呪の使い道と【契約】の重みに気づいた。戦士としちゃあ論外だが、魔術師見習いとしてなら、ま、見れなくもないだろう。どうだ、オレと【契約】しないかい? 期間限定だが役に立つと思うぜ?」

 

「……お前は、何が出来る?」

 

「おう、それだよ。どうにも見せる機会がなくてな。オレの宝具……【焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)】。魔力消費やら何やら制約が多くてなかなか使えなかったんだが、火力は保証する」

 

クー・フーリンがニヤリと笑う。火力、ね。俺は頷いた。

 

「ああ──そういうことか。分かった。【契約】しよう」

 

「いいね、話が早いのは嫌いじゃないぜ! じゃ、一時契約だがヨロシクな!」

 

 俺とクー・フーリンは握手を交わした。攻撃宝具。最高のタイミングで最高の切り札を持ちかけてきたこのNPC英雄の存在は、どこまでシナリオ通りなんだろうな。分からないことばかりだが、今はリツカを助けるだけだ。あの盾が俺たちを守ってくれている、その間に。

 

「令呪を使用する! クー・フーリン! 【宝具を解放せよ】!」

 

「ッしゃあ!」

 

 クー・フーリンが杖を地面に突き立てる。

 宝具発動には必要な条件があるのだろう。それは魔力であり、発動に要する時間であり、そしてそれ以外にもきっと。俺の願いを受けた令呪は、その力の及ぶ限りにおいてそれらを代替する。

 右手に刻まれていた紅い令呪が、一際強く光った。

 

「ッ!?」

 

 身体に巨大なストローをぶっ刺されて中身を吸い出されるみたいな感覚。やべぇ。これ絶対ヤバイやつだ。止めるか? いや、これも「仕様」のはずだ……そもそも今更引き返すなんて。

 

「受け取れぇッ!」

 

 手の甲の令呪の光が不意に消え、クー・フーリンに吸い込まれていくのを見る。光の軌跡。【パス】とやらだ。クー・フーリンが獰猛な笑みを浮かべ、そして、大小様々な魔法陣が宙に描かれた──

 

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社───倒壊するは【焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)】!」

 

 

 

 

 ──それは、蒼翠の盾壁が漆黒の剣光を押し返した瞬間のことだった。

 

 アルトリアの足元の地面から、膨大な質量が突き上がった。巨大な、木で出来た手だ。

 木枝で編まれた巨人の手は驚愕するアルトリアを瞬く間に掌中に収め、続いて編み出される腕が伸びるに従い、天井へと向かって凄まじい勢いで上昇していく。肘、肩、上半身が次々と大地から生えてきた。

 

 ……そして、巨人がその全身を現す。

 その腕と同じく木枝で編まれた、人形というにはやや大雑把な造形。木製の網籠を思わせるそれの中身は空洞で、胴体部に取り付けられた金属製の扉らしきものが異彩を放っている。

 

 ウィッカーマン。供物となる生贄を内に収め、それを炎に焚べる人身御供の祭儀。

 『真・女神転生IV』で見た時には頭の部分に気持ち悪い顔が貼りついていたが、こっちのウィッカーマンは藁人形に近いみたいで何よりだ。だが悪趣味なことには変わりない。

 

 ウィッカーマンはアルトリアを握る方とは逆の手で、自らの胴の扉を開く。中は空……これから中身が入るんだから当然だ。ウィッカーマンはその図体に見合わぬ機敏な動きで、大きく腕を振りかぶると、その手の中のアルトリアを扉の内側へと投げ込んだ。

 そして炎上。熱気にむせる俺たちプレイヤーの前で、供物(アルトリア)ごと炎に包まれた巨人がその身を燃やし焦がしていく。火柱が天を衝いた。

 

「うっわ、趣味悪……」

 

「ウルセェよ」

 

 ウィッカーマンって要は生贄儀式の木組みだろ? 炎魔法なの? とか思っていた俺は甘かった。中に収めるべき供物が無ければウィッカーマンは成立しない。だから供物を収め儀式を完遂するべく、ウィッカーマン自身が自律行動する。手近な「生贄」を掴んで自分の中に放り込み、自分ごと燃やし尽くす。敵探知&拘束効果付きとは驚いたァ……。

 

 っていうかこれアレじゃねーか! 生贄が逃げたから追ってくる系の怪異だろ! 曲がりなりにも祭具だろうに、洒落にならないくらい怖い系のホラー存在として呼び出してんじゃねぇよ! 運営何考えてんだ!? ウィッカーマンってそういうんじゃねーから!

 

「だからウルセェって。他ならぬドルイドのオレがそう使ってるんだから問題ねーんだよ」

 

「歴史の真実とは何だったのか……」

 

「ま、それについてはオレもときどき同じことを思わないじゃないがね」

 

「……」

 

 クー・フーリンがそんなことを言いながら、絶賛炎上中のアルトリアを見やる。何か思うところがありそうな感じも受けるが、だんだん会話を続ける元気がなくなってきた。

 

 献血を受けた時の脱力感、分かるだろうか。個人差があるらしいが、俺はわりと強い方でさ。まあ、吸われてるな―っていう感覚が脱力感を増してるんだろうけど、とにかくそういうのをギュギュッと強めた感じの状態になっているわけだ。

 

 薪は轟々と燃え盛る──

 俺は刻々と消耗する──

 

 

 ……勝利演出を見るまでが、戦いだ。




 イヌイについて。
 VRMMOというネタの性質上プレイヤー側の登場人物を色々出していきたいのですが、オリキャラばっかり増やすのもどうかな……と思った結果、TYPE-MOON諸作品の登場人物をモデルにしたキャラクターを出してみることにしました(※そのキャラ本人がゲームをプレイしているわけではありません※)。

 なので本作品の登場人物は、大きく分けて
・完全オリキャラ(主人公など)
・型月人物をモデルにしたキャラ(イヌイなど)
・原作登場人物

 ということになります。ちなみに今回のモデルは、『月姫』『歌月十夜』より主人公・遠野志貴の友人の乾有彦くんですね。

 あと、原作キャラ本人がゲームプレイしているケースも出てくる予定です(そんなに数は多くありませんが(08/04追記)実際プロット書いてみたら意外といました)。そちらについては、出てきたときに作品中で分かるよう言及すると思います。よろしくお願いします。

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