> [1/1] 【大空洞】の死闘
現時点までの調査イベント参加者は約3万人。まずまず悪くない数値だ。
超抜級の魔術炉心『大聖杯』を秘匿していたこの地下空間には、余剰魔力が溢れている。現地で調達した魔力リソースは、そのまま
つまり復活が可能なのだ。3万人の、死に戻りできる調査員。
調査成果に対する報酬を設定されたゲーム感覚のプレイヤーたちは、
一年半に渡るβ版『FGO』運営で保たれてきた『素材予算』を無視した多大な報酬は、人類未曾有の危機を「美味しいイベント」として参加者たちに認識させていた。困難を極める作戦すなわち無理ゲーは、熱意と物欲によって乗り越えられたと言えよう。
そして到達する、最終エリア。
「ここまで辿り着いたという成果は認めよう。だが所詮……塵は、塵だな」
そこで待ち受けていた者が黒き聖剣を振り下ろす。解き放たれる魔力の暴風。
剣、槍、弓など思い思いの武器を構えて突撃する
実力差は圧倒的。そこで繰り広げられているのは、ゲーム用語で言うところの『負けバトル』的な蹂躙劇だ。
特異点の最後に待っていたのは本物のサーヴァントだった。真名【アルトリア・ペンドラゴン】。聖剣に選ばれし騎士王、超一級の英雄だ。
だがもちろん、
それでも
《サークル確立に成功しました! これより戦闘行動に入ります!》
不意にカルデアへの通信に飛び込んでくる少女の声。
声の主は、カルデアから派遣された只一人の現地調査員マシュ・キリエライト。彼女の声は、
「よゥし!」
ロマニの背後でモニタを見守っていたエジソンDが吠えた。状況達成。ロマニはコンソールを叩き、
【MISSION CLEAR!】
【緊急ミッション『マシュ・キリエライトを護衛せよ』を達成しました】
【ミッション達成により 召喚サークルの確立に成功しました ──魔力蒐集が開始されます】
続けて、彼らに与える次の指示を。
【!WARNING!】【NEW MISSION】
【討伐ミッションが開始されました】
【討伐目標】
【SERVANT】【SABER】【アルトリア・ペンドラゴン】【Lv.???】
【敗北条件:プレイヤーの全滅】
【 GRAND BATTLE 】
【魔力リソース開放 制限時間 03:00:00】
【
新設された召喚サークル経由でカルデア側から特異点に介入することにより、
そして令呪。真の意味でこれを使いこなせる
最終決戦に相応しいバフの嵐に、プレイヤーの士気が上がっていく。リアルタイム監視されているゲーム内掲示板が濁流めいた勢いでその流れを加速させた。約3万人の
「なるほど、それがお前たちの本領か。……来い、蹂躙してやろう」
再び飛びかかっていく
『【ガンド】絶やすな! 動き止めないと死ぬぞ!』
『【応急手当】いけます!
『NPCにバフ集めとけ! 【瞬間強化】【勝利への確信】【鉄の専心】……誰か【魔力放出】いける奴いるか!?』
それぞれの役割に応じて様々な
また、剣、槍、弓といったプレイヤー用の武器はサーヴァントに痛手を負わせるには力不足だが、足止めの役には立つ。バフを与えれば痛撃を加えることも期待出来た。
戦術と武装、それらを一年半に渡って積み上げてきた
……だが、それでも届かない。
『【ダウン・スライド】間に合いません!』
「──鳴け。地に堕ちる時だ」
『『『【緊急回避】!』』』
『『『【オシリスの塵】!』』』
「──卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め! 【
敵サーヴァントの宝具解放。ただ一撃で、射線上のスキル等による回避手段を持たない
だが、それでもなお気焔を吐く者たちがいる。
「ステータスアップ。頑張ります……ッ!」
「さぁて、ここからだ!」
カルデアが保有するデミ・サーヴァント、
そして徐々に、マスターたちもこの戦闘に適応しつつあった。
『ウオォォォ【令呪ソード】!』
「っ……目障りだ!」
『えっ令呪使って殴るとバフらなくてもダメージ通るんですけど』
『マジか……もう回復に使っちまったよ、これ復活しないの?』
『しない。てか攻略まとめ読んできなよ、過去イベで配られた時の話あるから』
『一人一回使い切りとかワロタwww説明なしでこれとか運営本当糞だなwww』
『うちのクランでまだ令呪持ってる人ー、バフるからtellくださーい』
令呪とはいわば巨大な魔力の塊だ。ゆえに、攻撃に乗せて打ち込めば強力な魔弾としての効果を発揮する。魔術師ではないプレイヤーたちは、魔力を属性のない純な魔力としてそのままぶつけるしかないが、それでも霊基によって構成されるサーヴァントにダメージを与えられる数少ない手段となりえた。
『令呪アタックいきま~す介護たのむー』
『おk』
『おk』
令呪を温存していた者にバフが回り、スキルと令呪を打ち尽くした者が肉の盾となって敵への攻撃の機会を作り出す。たいてい一撃入れた直後に攻撃者は騎士王の反撃で死ぬが、先程マシュによって確立された召喚サークルを
「しつこいぞ……そこだ!」
しかし騎士王も、その戦術が易易と続くことを許しはしない。黒光の一閃が召喚サークルを薙ぎ払った。マシュが慌てて援護に入る。
『リスキルされるんですけお!!!』
『いきなり復活メタとか……そもそもこのボス硬すぎない!?』
『あー、これもしかして、後ろで光ってる【大聖杯】とかいうの壊さないと勝てない系?』
『一理ある』
『それな』
背に護る大聖杯から魔力供給を受ける騎士王と、召喚サークル経由で延々と復活を繰り返す
《召喚サークル、騎士王の攻撃を受けています! このままでは魔術構造が保ちません……!》
マシュからカルデアへの通信。
騎士王との戦闘を
「ロマニ! 召喚サークルを破壊させないで!」
後ろでエジソンと並んで指示を出すカルデア所長オルガマリーの命令に従い、ロマニはアナウンスを打ち込む。
【!WARNING!】【NEW MISSION】
【緊急ミッション『召喚サークルを防衛せよ』が開始されました】
【成功条件:一定時間、召喚サークルの破壊を阻止する】
【失敗条件:召喚サークルの破壊】
提示された作戦に応じて、サークルを包むように
「──緩着だな、カルデアの
「!?」
「この私を相手に拠点防衛だと?
「駄目! 宝具──展開します!」
黒の奔流がカルデア側のモニタを覆い尽くし……それが晴れたとき。召喚サークルは完全に破壊されていた。場に生き残った
【MISSION FAILED】
【『召喚サークルを防衛せよ』に失敗しました】
【召喚サークルの破壊により、地下大空洞の
「ウ……ァ」
そして何より、マシュ・キリエライトが倒れ伏している。咄嗟に召喚サークルの前へ自身の宝具たる盾を展開した彼女は、しかし、黒き聖剣……対城宝具が放つ力に耐えきれなかったのだ。
「終わりだな」
「ま、まだ……ッ!」
「その意気だ、嬢ちゃん!」
介錯せんとマシュへ近づく騎士王を、辛うじて駆けつけたクー・フーリンが迎撃する。
その名も高きアイルランドの光の御子だ。光の剣クルージーンか呪槍ゲイボルグがあれば、あるいは単騎でも騎士王に拮抗し得ただろう。だが
一方その戦いの後方には、負傷したマシュの救出を試みる生き残りの
『おいリツカ死ぬぞ!?』
『ちょっと手伝ってよ、この子運ぶから!』
『マジかよ……【全体強化】。よし、死なないうちに距離取るぞ』
『OK!』
攻撃力強化スキルは筋力パラメータに対しても補正を掛ける。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
『こちらこそ、戦闘を任せきりにしてしまってすみません』
「いえ、気にしないでください。任務ですので」
『いや、ありがたいものはありがたいですよ。そちらこそ気にしないでください』
「いえ、そういうわけには」『いやいや』「いえいえ」『いやいやいや』「いえいえいえ」
……切りがない。ロマニは通信機の発信ボタンを押した。
《マシュ。会話の途中ですまないが、君の意見を聞かせてほしい。このまま騎士王とやりあって勝てる見込みはありそうかい?》
負傷しながらも
《……すみません。私とあのサーヴァントの戦闘能力を比較する限り、勝率は1%にも満たないと判断します》
《やはりそうか……》
《……》
沈黙。
現場で戦うマシュにも、それを指揮するカルデアにも、騎士王を倒す方策は立てられなかった。対サーヴァント戦闘自体は想定されていたし、事実シャドウサーヴァント達の打倒には成功していたのだが、最期に立ちはだかったアルトリア・ペンドラゴンと彼女の聖剣は、カルデアの予想を遥かに超えて圧倒的すぎたのである。
『……《ねえ、マシュさん黙っちゃったけど》』
『……《これってもしかして、俺らが何か提案しないと話が進まない感じのイベントか?》』
『……《ええ……? 一般プレイヤーに普通そんなの任せるかなあ》』
『……《とにかく何か言うだけ言ってみようぜ、リツカ。プレイヤーがNPCと協力すること自体がフラグになるのかも。ちょっと考えてみるわ》』
カルデアとマシュの通信の影で非公開チャットを交わす救助者
『マシュさん、いいですか? 現状への対策なんですが……』
そして彼らの提案が、戦局を新たに動かすことになった。
マスターに対してサーヴァントが多すぎる(原作)
→マスターだけが無闇矢鱈に多すぎる(二次創作)
戦闘でサーヴァントを頼れないなら自分で戦うしかないじゃんってバゼットさんも言ってたし……(言い訳)
※括弧等について
ゲーム内会話:『』
非公開チャット:《》
アナウンスおよび固有名詞:【】
現実およびサーヴァント会話:「」
プレイヤー視点のときは、ゲーム内会話が基本「」になる予定です。