FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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> [1/1] 【大空洞】の死闘

 

 特異点調査(ファーストオーダー)イベントの最終エリアは冬木市の山中深く、地下の大空洞であった。

 現時点までの調査イベント参加者は約3万人。まずまず悪くない数値だ。運営(カルデア)職員ロマニ・アーキマンはカルデアの作戦室の一画に据えられたモニタを見ながら状況の把握に努める。

 

 超抜級の魔術炉心『大聖杯』を秘匿していたこの地下空間には、余剰魔力が溢れている。現地で調達した魔力リソースは、そのままマスター(プレイヤー)の霊的リソースとして転換が可能だ。トーマス・エジソンが考案した魔力電力転換装置(コンバーター)の改良実用化により、発電所から届くエネルギーでマスターの疑似身体(アバター)やサーヴァントの損傷さえ復旧できる。

 

 つまり復活が可能なのだ。3万人の、死に戻りできる調査員。

 調査成果に対する報酬を設定されたゲーム感覚のプレイヤーたちは、運営(カルデア)の予想以上に良く働いてくれた。特異点で確認された無数の魔物たちの排除、そしてシャドウサーヴァントの撃退。

 一年半に渡るβ版『FGO』運営で保たれてきた『素材予算』を無視した多大な報酬は、人類未曾有の危機を「美味しいイベント」として参加者たちに認識させていた。困難を極める作戦すなわち無理ゲーは、熱意と物欲によって乗り越えられたと言えよう。

 

 そして到達する、最終エリア。

 

「ここまで辿り着いたという成果は認めよう。だが所詮……塵は、塵だな」

 

 そこで待ち受けていた者が黒き聖剣を振り下ろす。解き放たれる魔力の暴風。

 剣、槍、弓など思い思いの武器を構えて突撃するマスター(プレイヤー)たちが、文字通り塵のように消し飛んでいく。更に間髪入れず、後方に控えていたマスター(プレイヤー)たちが突っ込んでいって……再び消滅させられる。そしてまた次、更にまた次が。

 

 実力差は圧倒的。そこで繰り広げられているのは、ゲーム用語で言うところの『負けバトル』的な蹂躙劇だ。

 特異点の最後に待っていたのは本物のサーヴァントだった。真名【アルトリア・ペンドラゴン】。聖剣に選ばれし騎士王、超一級の英雄だ。

 

 だがもちろん、マスター(プレイヤー)たちも無策で突っ込んでいるわけではない。死に戻りが可能とは言え、現在の復活(リスポーン)地点は大空洞の外、それなりに距離のある【柳洞寺境内】なのである。移動時間を含めて復帰には時間がかかり、デスペナルティも考えれば安易な死は状況を悪化させるだけだ。

 それでも雲霞(うんか)の如く騎士王へと襲いかかり駆逐され続ける彼らの目的は、唯一つ。

 

《サークル確立に成功しました! これより戦闘行動に入ります!》

 

 不意にカルデアへの通信に飛び込んでくる少女の声。

 声の主は、カルデアから派遣された只一人の現地調査員マシュ・キリエライト。彼女の声は、運営(カルデア)のみならずゲームプレイヤー全員に伝えられている。マスター(プレイヤー)からは協力的NPCとして扱われているらしい。

 

「よゥし!」

 

 ロマニの背後でモニタを見守っていたエジソンDが吠えた。状況達成。ロマニはコンソールを叩き、マスター(プレイヤー)たちに作戦成功をアナウンスする。

 

【MISSION CLEAR!】

【緊急ミッション『マシュ・キリエライトを護衛せよ』を達成しました】

【ミッション達成により 召喚サークルの確立に成功しました ──魔力蒐集が開始されます】

 

 続けて、彼らに与える次の指示を。

 

【!WARNING!】【NEW MISSION】

【討伐ミッションが開始されました】

 

【討伐目標】

 

【SERVANT】【SABER】【アルトリア・ペンドラゴン】【Lv.???】

 

【敗北条件:プレイヤーの全滅】

 

GRAND BATTLE

【魔力リソース開放 制限時間 03:00:00】

復活(リスポーン)地点追加】【デスペナルティ軽減】【自動回復:Lv.1】【令呪解放:Lv.1】

 

 新設された召喚サークル経由でカルデア側から特異点に介入することにより、マスター(プレイヤー)に幾つかの強化(バフ)を与えることが可能になった。霊器構成に必要なエネルギーが有限である関係で普段は設定されているデスペナルティ等も、今このときばかりは出し惜しみ無しだ。

 そして令呪。真の意味でこれを使いこなせる適性者(マスター)は未だ現れていないが……やはり、出し惜しみをするべき時ではなかった。敵がどれほど強くとも、この戦いだけは負けられない。

 

 最終決戦に相応しいバフの嵐に、プレイヤーの士気が上がっていく。リアルタイム監視されているゲーム内掲示板が濁流めいた勢いでその流れを加速させた。約3万人のマスター(プレイヤー)の右手に、令呪の紅い輝きが宿る。雄叫びが戦場を震わせた。

 

「なるほど、それがお前たちの本領か。……来い、蹂躙してやろう」

 

 再び飛びかかっていくマスター(プレイヤー)たちを、騎士王の黒剣が斬り捌いていく。だが、先程までのような一方的な蹂躙ではない。β版をプレイするマスター(プレイヤー)数人~数十人で構成される小規模集団『クラン』による組織戦闘が本格的に開始されたからだ。一年半を共に過ごしたクランの結束は固く、息の合った動きで敵に挑んでいく。

 

『【ガンド】絶やすな! 動き止めないと死ぬぞ!』

『【応急手当】いけます! CT(チャージタイム)9!』

『NPCにバフ集めとけ! 【瞬間強化】【勝利への確信】【鉄の専心】……誰か【魔力放出】いける奴いるか!?』

 

 それぞれの役割に応じて様々な礼装(ソウビ)を纏ったマスター(プレイヤー)たち。ほぼ全員が魔術師ではない彼らだが、プリセット型の魔術礼装を使い分ける(=着替える)ことで数種類の決められた魔術だけなら使用可能になる。

 また、剣、槍、弓といったプレイヤー用の武器はサーヴァントに痛手を負わせるには力不足だが、足止めの役には立つ。バフを与えれば痛撃を加えることも期待出来た。

 

 戦術と武装、それらを一年半に渡って積み上げてきたマスター(プレイヤー)たち。

 ……だが、それでも届かない。

 

『【ダウン・スライド】間に合いません!』

 

「──鳴け。地に堕ちる時だ」

 

『『『【緊急回避】!』』』

『『『【オシリスの塵】!』』』

 

「──卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め! 【約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)】ッ!」

 

 敵サーヴァントの宝具解放。ただ一撃で、射線上のスキル等による回避手段を持たないマスター(プレイヤー)ほぼ全てが消滅した。運営(カルデア)サーバーに一時的な異常負荷が発生。演算速度低下。同時に動作遅延(ラグ)が発生し、動きを鈍らせたマスター(プレイヤー)たちが次々と狩られていく。戦線の立て直しには時間がかかるだろう。

 だが、それでもなお気焔を吐く者たちがいる。

 

「ステータスアップ。頑張ります……ッ!」

「さぁて、ここからだ!」

 

 カルデアが保有するデミ・サーヴァント、盾兵(シールダー)【マシュ・キリエライト】。そして、現地で協力関係を結んだ魔術師(キャスター)のサーヴァント【クー・フーリン】。生き残ったマスターたちが彼らにバフと回復を集め、戦況はサーヴァント対サーヴァントになりつつある。

 そして徐々に、マスターたちもこの戦闘に適応しつつあった。

 

『ウオォォォ【令呪ソード】!』

「っ……目障りだ!」

 

『えっ令呪使って殴るとバフらなくてもダメージ通るんですけど』

『マジか……もう回復に使っちまったよ、これ復活しないの?』

『しない。てか攻略まとめ読んできなよ、過去イベで配られた時の話あるから』

『一人一回使い切りとかワロタwww説明なしでこれとか運営本当糞だなwww』

『うちのクランでまだ令呪持ってる人ー、バフるからtellくださーい』

 

 令呪とはいわば巨大な魔力の塊だ。ゆえに、攻撃に乗せて打ち込めば強力な魔弾としての効果を発揮する。魔術師ではないプレイヤーたちは、魔力を属性のない純な魔力としてそのままぶつけるしかないが、それでも霊基によって構成されるサーヴァントにダメージを与えられる数少ない手段となりえた。

 

『令呪アタックいきま~す介護たのむー』

『おk』

『おk』

 

 令呪を温存していた者にバフが回り、スキルと令呪を打ち尽くした者が肉の盾となって敵への攻撃の機会を作り出す。たいてい一撃入れた直後に攻撃者は騎士王の反撃で死ぬが、先程マシュによって確立された召喚サークルを復活(リスポーン)地点として復活し、次なる攻撃者へのサポートに回っていく。

 

「しつこいぞ……そこだ!」

 

 しかし騎士王も、その戦術が易易と続くことを許しはしない。黒光の一閃が召喚サークルを薙ぎ払った。マシュが慌てて援護に入る。

 

『リスキルされるんですけお!!!』

『いきなり復活メタとか……そもそもこのボス硬すぎない!?』

『あー、これもしかして、後ろで光ってる【大聖杯】とかいうの壊さないと勝てない系?』

『一理ある』

『それな』

 

 背に護る大聖杯から魔力供給を受ける騎士王と、召喚サークル経由で延々と復活を繰り返すマスター(プレイヤー)たち。互いに決定打を打てないゆえに、状況は両者のパワーソースとなる拠点を守りつつ相手のそれを狙う戦いに変わりつつあった。

 

《召喚サークル、騎士王の攻撃を受けています! このままでは魔術構造が保ちません……!》

 

 マシュからカルデアへの通信。

 騎士王との戦闘をマスター(プレイヤー)に任せ、召喚サークルの前で防御に専念するようになったマシュだが、マスター(プレイヤー)の攻勢が途切れるたびに騎士王が突っ込んでくる。一対一に持ち込まれた場合、最優のセイバーたる騎士王に対して近接戦闘経験に乏しいマシュは劣勢を強いられる。後衛としてルーン魔術による援護射撃に回っているクー・フーリンがいなければ、既にサークルは破壊されていただろう。

 

「ロマニ! 召喚サークルを破壊させないで!」

 

 後ろでエジソンと並んで指示を出すカルデア所長オルガマリーの命令に従い、ロマニはアナウンスを打ち込む。

 

【!WARNING!】【NEW MISSION】

【緊急ミッション『召喚サークルを防衛せよ』が開始されました】

【成功条件:一定時間、召喚サークルの破壊を阻止する】

【失敗条件:召喚サークルの破壊】

 

 提示された作戦に応じて、サークルを包むようにマスター(プレイヤー)たちが集まり、陣形のようなものが作られていく。オルガマリーが大きく安堵の息を吐いた。だが、それを見越したかのように冷たい声が響く──

 

「──緩着だな、カルデアの魔術師(メイガス)ども」

 

「!?」

 

「この私を相手に拠点防衛だと? (もろ)すぎる……! 消え失せろ! 【約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)】!」

 

「駄目! 宝具──展開します!」

 

 黒の奔流がカルデア側のモニタを覆い尽くし……それが晴れたとき。召喚サークルは完全に破壊されていた。場に生き残ったマスター(プレイヤー)も数百といったところか。残りは遠く離れた復活地点へと転送されてしまい、戦線は完全に崩壊の様相だ。

 

【MISSION FAILED】

【『召喚サークルを防衛せよ』に失敗しました】

【召喚サークルの破壊により、地下大空洞の復活(リスポーン)地点が消失します】

 

「ウ……ァ」

 

 そして何より、マシュ・キリエライトが倒れ伏している。咄嗟に召喚サークルの前へ自身の宝具たる盾を展開した彼女は、しかし、黒き聖剣……対城宝具が放つ力に耐えきれなかったのだ。

 

「終わりだな」

 

「ま、まだ……ッ!」

 

「その意気だ、嬢ちゃん!」

 

 介錯せんとマシュへ近づく騎士王を、辛うじて駆けつけたクー・フーリンが迎撃する。

 その名も高きアイルランドの光の御子だ。光の剣クルージーンか呪槍ゲイボルグがあれば、あるいは単騎でも騎士王に拮抗し得ただろう。だが魔術師(キャスター)として召喚された今の彼の得物はドルイドの杖。騎士王伝説に名高き聖剣と打ち合うには、あまりに心(もと)ない得物であった。

 

 一方その戦いの後方には、負傷したマシュの救出を試みる生き残りのマスター(プレイヤー)の姿がある。

 

『おいリツカ死ぬぞ!?』

 

『ちょっと手伝ってよ、この子運ぶから!』

 

『マジかよ……【全体強化】。よし、死なないうちに距離取るぞ』

 

『OK!』

 

 攻撃力強化スキルは筋力パラメータに対しても補正を掛ける。マスター(プレイヤー)二人がかりで運び出されたマシュは、後方に退避していたマスター(プレイヤー)集団から回復スキルを受けて何とか持ち直した。スキルリチャージを待ってもう一度回復を受ければ戦線に復帰できるだろう。マシュは彼女を救出した【リツカ】というマスター(プレイヤー)と、互いに感謝の言葉を交わしている。

 

「本当に助かりました。ありがとうございます」

『こちらこそ、戦闘を任せきりにしてしまってすみません』

「いえ、気にしないでください。任務ですので」

『いや、ありがたいものはありがたいですよ。そちらこそ気にしないでください』

「いえ、そういうわけには」『いやいや』「いえいえ」『いやいやいや』「いえいえいえ」

 

 ……切りがない。ロマニは通信機の発信ボタンを押した。

 

《マシュ。会話の途中ですまないが、君の意見を聞かせてほしい。このまま騎士王とやりあって勝てる見込みはありそうかい?》

 

 負傷しながらもマスター(プレイヤー)との会話で僅かに笑みの戻っていたマシュの表情が、再び歪む。ロマニは心苦しさを覚えたが、確認しないわけにはいかなかった。

 

《……すみません。私とあのサーヴァントの戦闘能力を比較する限り、勝率は1%にも満たないと判断します》

 

《やはりそうか……》

 

《……》

 

 

 沈黙。

 

 現場で戦うマシュにも、それを指揮するカルデアにも、騎士王を倒す方策は立てられなかった。対サーヴァント戦闘自体は想定されていたし、事実シャドウサーヴァント達の打倒には成功していたのだが、最期に立ちはだかったアルトリア・ペンドラゴンと彼女の聖剣は、カルデアの予想を遥かに超えて圧倒的すぎたのである。

 

『……《ねえ、マシュさん黙っちゃったけど》』

 

『……《これってもしかして、俺らが何か提案しないと話が進まない感じのイベントか?》』

 

『……《ええ……? 一般プレイヤーに普通そんなの任せるかなあ》』

 

『……《とにかく何か言うだけ言ってみようぜ、リツカ。プレイヤーがNPCと協力すること自体がフラグになるのかも。ちょっと考えてみるわ》』

 

 カルデアとマシュの通信の影で非公開チャットを交わす救助者マスター(プレイヤー)二人。流石に会話内容は見えないようになっているが、非公開チャットを使用していることは運営から分かるように作られている。

 

『マシュさん、いいですか? 現状への対策なんですが……』

 

 そして彼らの提案が、戦局を新たに動かすことになった。

 




マスターに対してサーヴァントが多すぎる(原作)
→マスターだけが無闇矢鱈に多すぎる(二次創作)

戦闘でサーヴァントを頼れないなら自分で戦うしかないじゃんってバゼットさんも言ってたし……(言い訳)

※括弧等について

 ゲーム内会話:『』
 非公開チャット:《》
 アナウンスおよび固有名詞:【】
 現実およびサーヴァント会話:「」
 プレイヤー視点のときは、ゲーム内会話が基本「」になる予定です。

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