FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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前回、飛行魔術に必要な【魔女の軟膏】について書くのをすっかり忘れていました。
で、後から追記改訂するよりは別にちゃんと挿話として話を作ったほうがいいかなって……そんな回です。


1-9

>> [1/2] マシュ・ふわふわ頭・シールダー

 

 

「【トーコ・トラベル】か……」

 

 召喚サークルへと死に戻され、芋を洗うが如き混雑ぶりでごった返しているファヴニール被害者友の会。その中から辛うじて俺が見つけ出した【ノーリッジ】所属プレイヤーの一人、ギリシャ彫刻じみた容貌にカールした金髪が特徴的なその男は、俺の持ちかけた話に表情をやや曇らせると眉根を寄せてそう言った。

 

「アニムスフィアも無茶なことを考える。……けど、まあこの状況では仕方ないのか。()()のお手を煩わせるのは望むところじゃないからな。僕を連れて行け」

 

 男は俺についてくる仕草を見せた。任務達成(ミッションコンプリート)

 俺はマシュさんのところへ向かって歩き出す。

 

 【ノーリッジ】は、エルの個人的知り合いだけで構成されたクランだと聞いている。エルを「先生」と呼ぶクラン員達が現実世界でどういう関係なのかは知らないが、ともあれ「先生」から俺たちのことは事前に聞いていたらしく、突然のよく分からない頼みも引き受けてくれるようだった。

 後ろの彼もどうやらオルガ同様に魔術チート持ちのようで、彼女の言葉をそのまま伝えた俺なんかよりもずっと話の内容を理解できているらしい。

 

 ……こういう関係、ちょっと気まずさがあるよね。

 彼はいわば知人の知人、それも俺にとってはゲーム内知人であるエルのリアル知人である。プレイヤー名は【BestPupil(ベストパピル)】……その意味するところは『一番弟子』だ。先生の前で弟子自らが敢えてBest(一番)を誇示していくスタイル、俺にはちょっと真似出来ないな。人間関係ギスりそう。

 

 俺はなんとなく視線をそらす。

 しかしその先で俺を待っていたらしきマシュさんが、心なしかジトッとした視線を俺に投げかけているのを感じて、再び視線を泳がせた。あ、ダメだ。マシュさんの方から近寄ってきた。

 ザリザリと音を立てながら歩いてくる彼女の右手には、いつもの大盾がある。

 ただひとつ違うのは、丸盾と十字架を組み合わせたその盾の下に伸びる接地部分が、一巻きの藁束で覆われていることだ。彼女が歩を進めるたび、しなやかに伸びた藁の茎が地面の小石を掃き出し土埃を上げる。……盾箒。

 

「あの。所長の提案された作戦については十分よく理解しましたが……やっぱり、ちゃんとした箒を作りませんか?」

 

 人探しから帰還した俺を迎えて、箒系シールダーに進化したマシュさんはそう言った。俺は首を横に振る。彼女の視線の温度がやや低下した。

 だって、しょうがないじゃないですか。俺は理路整然と弁明した。君の腕は右と左の合計2本ぽっきりで、その片方は盾、もう片方は(荷物)を引っ張っていくわけだから。君の腕がもう1本生えてくれでもしなきゃ、箒を持つだけの余分がないでしょう。

 

「貴方の脚に藁束を巻けばよいのでは?」

 

 ……。なるほど、一理あるアイディアだ。

 問題は、マシュさんが藁束ルックに身を包んだ人間存在(ヒューマンビーイング)を「箒」と認識してくれるかどうかだが、やってみる価値ならありますぜ。しかし、いそいそと藁束を取り出した俺を傍らに立つリツカが制止した。その顔には苦笑。

 

「マシュにしか頼めないんだ。オレは大丈夫だからさ」

 

 そしてリツカがそう言うと、マシュさんはやや不満げな調子で俺に向けた矛先を収めた。

 ……ああ。盾が云々というより、リツカの傍を離れるのがそもそも嫌だったのね。それはすまなかったな。気持ちはよく分かるぜ。ワカル。

 

「いえ、藁束付きの盾の外観も大変に不本意なのですが。率直に言って美的センスを疑います」

 

「……あ、はい。すみませんでした」

 

「──おい。その()を飛ばせばいいんだな? 術式の準備をするから無駄話を止めてくれ」

 

 一方、そんな俺達の様子を気にする風もなく俺の後ろに立っていた『一番弟子』氏はそう言って、マシュさんの周りで何やら作業をし始める。初対面の相手に軽く醜態を披露してしまった俺たちは、やや赤面して作業の成り行きを見守ることにしたのだった。

 

 

 

 

 ──オルガが提示した作戦はこうだ。

 

 【トーコ・トラベル】と呼ばれる飛行魔術(チート)を使うことでファヴニールまでの空路手段を確保する。必要なのは、魔術(チート)を使える女性と箒。道中の防衛を考えれば女性枠はマシュさん一択となり、箒の材料は俺が用意できる。

 だが、そこで問題が発生した。

 片手に大盾を持ち、もう片手で荷物……すなわち俺を牽引する場合、箒を手に持つことができないのである。そこで編み出された窮余の策が、盾と箒を一体化させてしまうというアイディアだ。いわゆるひとつの多機能化であり、将来的には小型ミサイル搭載による遠距離攻撃機能などを提案していきたいと思っている……!

 

「……なんというか、ドクターとはまた違った方向性で駄目な人ですよね」

 

 マシュさんがそう呟いた。賛同するようにリツカも頷く。ちょっと待て。俺はリツカの肩を抱き寄せた。

 なあリツカ、俺には異論があるぜ? お前がいつの間にかドクター・ロマン……ロマニ・アーキマン氏と知り合いになっていたのはこの際どうでもいい。俺の感じた恐怖をお前と共有できていないらしい悲しい現実についてもだ。運営付きのサーヴァントであるマシュさんと契約したお前は、俺なんかよりずっと運営に近い立ち位置だろうからな。

 だがな、この人畜無害に定評のある俺っちがあのロマニと並べられるのは納得がいかねえ。俺のこの右手を見ろ。触手一匹殺しきれず無様に愛剣を奪われちまった、空っぽの右手をよォ……!

 

「そういう、変に自分を下げるみたいな物言いが似てるかなあ」

 

 リツカはそう言って笑った。ついでに人畜無害は雑魚って意味じゃないよと訂正される。

 ぐぬぅ。俺は唸った。

 その隣で『一番弟子』氏も唸っている。どうやら作業が上手くいっていないらしい。

 

「ああ、もう! いつもと調子が違ってやりにくいったら……!」

 

 そんなことを溢しながら苛々と手を動かす彼の背後に、数人の男女が現れた。顔に覚えがある。【ノーリッジ】の連中だ。先頭に立つ女が言う。

 

「──はあ。戻ってこないと思って探しに来てみれば、お前は一体そこで何をしてるんだ。自称一番弟子が聞いて呆れるぞ」

 

「ひ、姫様!?」

 

「そこを退け。私がやろう」

 

「いえ、唯でさえ完調でない姫様にこれ以上負担をかけるわけには」

 

「魔術刻印を持ち込めなかったお前より調子が悪いということはないだろうよ」

 

 何やら口論しながら『一番弟子』氏を押しのけてマシュさんに近寄って来たその女は、一見して異様だった。

 姫様、という呼称が違和感なく受け入れられるような自然体の威圧感。強い意志を感じさせる鮮やかな青の瞳。加えて、育ちがいいのだろう、何気ない所作の一つ一つに俺たち庶民とは違うと思わせるだけの上品さを備えている。例えるなら──本当の貴族のお姫様ってのが現実にいたとしたら、それはこんな人間なのだろうという、そんな印象を与える女性だった。

 そんな『姫様』はマシュさんの身体を一瞥すると、面白くなさそうに口元をひん曲げた。

 

「なんだ、術式は粗方出来上がってるじゃないか。こういう即興芸は、お前じゃなくフラットの領分だと思っていたんだがな」

 

「……【トーコ・トラベル】は有名ですから。使ったことがなくても、やり方くらいは」

 

「なら、あとは細かい調整だけか。……ん? おい、【魔女の軟膏】は用意してあるのか?」

 

 マシュさんに施された仕事を品評していた『姫様』が、不意に振り向いてそんなことを言う。

 ……魔女の軟膏? なにそれ美味しくなさそう。

 

「おいおい、軟膏無しではせっかくの術式も片手落ちだろうに。アニムスフィア……お前に指示を出した奴は何も言っていないのか?」

 

 え、オルガ? ……あー、そういえば召喚サークル経由でアイテムが送られてきていたな。今は関係ないと思ってたんだけど。

 俺はそれを『姫様』に差し出した。彼女は手袋をはめた手でそれを受け取り、渋い顔で頷く。

 

「……蜂蜜酒(ミード)か。天体科(アニムスフィア)め、山篭りしている間にずいぶん雑食になったと見える」

 

 彼女の手にあるのは、黄金色に輝く液体を湛えたガラスの瓶だ。蜂蜜酒(ミード)。作戦終了後の祝勝会にでも供するのかと思っていたが、別の用途があったらしい。

 

「マシュと言ったな。酒は強い方か?」

 

「お酒ですか? ……経験はありませんが……」

 

「ふむ? まあいいだろう。軟膏の代わりだ、とりあえずグラス三杯分ほど飲んでみろ」

 

 そんな彼女の言葉にマシュさんは困ったような顔で瓶を開け、中の液体をぺろりと舐めるように口へと含む。そして、意を決したように目を瞑って瓶の中身を半分ほど一息で飲み干した。

 

「ッ──~~!? う、あ、せ、先輩……?」

 

 ふらり、とマシュさんの身体が傾ぐ。慌てて駆け寄ったリツカの腕に彼女はポスリと収まり、にへりと笑った。蕩けるような笑み、至福の表情である。

 

 ……俺はフレンドリストを開いた。

 

◆マシュ・キリエライト 【状態異常:酩酊】

 

 ……。

 

「あはは……。先輩、先輩の顔が二つに見えますよぅー」

 

 いつものクールな表情が欠片もない。一発で酩酊……。マシュさん、アルコール耐性弱っ!? 

 ああ、いや、むしろこの蜂蜜酒(ミード)が普通じゃないのか……?

 俺は胡乱に歪む表情を隠さぬまま、『姫様』に視線を送る。ありゃ一体どういうことですか。

 

「『姫様』ではない。ライネスだ」

 

 あ、はい。左様ですか。それでですね、ライネスお姫様。俺の記憶が確かなら、彼女にはこの後お空を飛んでもらうはずだと思ったんですが。

 

「そうだよ。そのための下準備だ。魔女の飛行はトリップしていることが前提条件だからな」

 

 ……なるほど。俺は納得した。そして一瞬後、その判断を思い直す。

 ……え、マジで!? 魔女って飲酒運転状態じゃないと空を飛べないの!?

 

「正気で空を飛ぶ馬鹿がどこに居る。()()()()()()()()からこそ、大地の(くびき)を逃れられるのさ」

 

「……先輩のお目々はどうしてそんなに蒼くて綺麗なんですかぁー?」

 

「そんなの決まってるじゃないか! マシュの綺麗な顔がよく見えるようにだよ!」

 

「は、はぅ……! で、では先輩のお耳は、いえ、お口は……!!!」

 

 ……まあ、確かに正気ではねぇ感じだな。

 というかリツカ、お前、素面でそれって大丈夫? なんだかノリが良すぎないか?

 

「そんなことないですよー! ほら先輩も飲みましょう? 甘くて美味しいですよー……」

 

 マシュさんがリツカの口に酒瓶を突っ込んだ。リツカの顔面が赤くなったり白くなったりする。

 ……あー、なんだ。これはゲームなので現実とは無関係。実際合法です。お酒は20歳になってから。

 

 

「ああ、良い酔いっぷりだな。これなら行けるだろう」

 

 そうして、リツカに抱きつくマシュさんを見ながらライネスは頷いた。ええ~……。

 

「まあ、心配する必要はないさ。乗り手がどんなにフワフワ頭の女でも、目的地には必ず辿り着く。それが【トーコ・トラベル】唯一の利点だからね」

 

 ライネスが説明するところでは、【トーコ・トラベル】ってのは要するに、あらかじめ設定した目的地からゴム紐で引っ張るみたいにして飛行者を運ぶ術式であるらしい。乗り手はとりあえず浮いてさえいれば、あとは勝手に目的地まで牽引されていく。

 

「……着地は」

 

「頑張れ」

 

 オゥ、クレイジィ……。なんだか寒気がしてきやがったぜ。

 おや? BestPupil氏、そのロープはなんだい? どうして俺の胴体をぐるぐる巻きにしてるのかな? ああ、荷物をまとめたい。なるほど。でもね……俺、これじゃあ動けなくない? え、サーヴァントへの指示は出せるから大丈夫? そっかー、そういう意味じゃないんだけどな―。

 

 金髪イケメン一番弟子は俺を荷物じみて厳重に梱包すると、余ったロープの先端をくるくるっと取っ手状にまとめてハッピートランス状態のマシュさんの片手へ握らせた。俺の寒気が倍増する。

 

「飛行先の座標はファヴニールだ。あれだけ大きければ間違いもないだろう。……地上に思い残すことはないな? 何があっても我々を恨まないと今この場で誓え」

 

 はいはい、イエスユアハイネス。

 ……あ、そうだ。そういえばこれって、マシュさんがトランスしてれば何度でも飛行できるの?

 

「術式を発動できる者がいればな。シンプルな術式だから、座標さえ設定しておけば可能だろう」

 

 ふぅん。じゃあさ、ついでに頼みたいことがあるんだけど……。

 

 

 

>> [2/2] 同じ空を見ている。

 

 

「アアアァァーァァァァ嗚呼亜アAA阿ッッ!?!?!」

 

 雲一つない抜けるような青空を引き裂くように、甲高い悲鳴を上げながら、新米魔女もどきのサーヴァントに吊られた荷物一号(プレイヤー)が飛んで行く。

 打ち上げ時に生じる、張り詰めたゴム紐を急に離したような瞬間的負荷が彼を殺してしまわないかどうかだけが懸念事項だったが、意外と上手くいったらしい。

 

 ライネスは大きく息を吐き、傍らに立つクラン員の女に、先だって預けていた眼帯を返すよう求めた。……痛覚制御が施されているはずなのに、ひどく目が痛む。

 

「大丈夫ですか?」

 

 心配する声に「気にするな」と答えて、ライネスは眼帯を強く自身の両目へと巻きつけた。

 視野情報が遮断されたことで生まれる暗黒だけが、辛うじて一時の癒やしを与えてくれるようだった。

 

 ……まったく。

 死ぬよりマシとは言え、我が兄はよくよく厄介事に恵まれるような星の下に生まれたらしい。

 アニムスフィアの提供する疑似身体(アバター)では簡易な身体特徴こそ複製可能であったが、魔術刻印やら魔眼やらについては一切『FGO』へは持ち込めなかったのだ。焔の如き炎色を呈するライネスの魔眼も、いまやその色合いは魔を宿さぬ生来の蒼空の青色へと変じていた。

 『FGO』へログインしろという兄からの警告も相当に時間的余裕のないもので、慣れぬ機械操作に追われる魔術師たちには対策を打つだけの時間さえなかったのである。

 

 魔眼も魔術刻印も、術者の脳髄へと接続される第二の神経系とも言うべきものだ。それを失った魔術師たちの多くは、感覚の一つを失ったが如き喪失感と力の喪失とに襲われている。例外があるとすれば、一年超をかけて疑似身体(アバター)を慣らしてきた熟練プレイヤーの魔術師、あるいはそもそもそんなものにあまり頼らぬ義兄(エルメロイII世)くらいのものか。

 

(……まあ、しかしだ。もし、万が一にも天体科(アニムスフィア)()()()を複製できていたとしたら)

 

 きっと、何をおいても。もしかしたら人類の危機さえ忘れて、ライネスたち魔術師は不遜なる贋作者(フェイカー)アニムスフィアを滅ぼすことに全力を尽くしていただろう。

 

 そんな暗い予想に思考を浸らせていると、暗黒の向こうから声がした。

 

「【ノーリッジ】の皆さんですよね? 【ワカメ王国(キングダム)】のCEO(セオ)といいます。先程はうちのクランメンバーがお世話になりました。それで、ご挨拶をと……あれ? その眼帯……」

 

 その最後の呼びかけは、ライネスへと向けたものだった。

 それから幾らかの会話を経て、ライネスは、『FGO』プレイヤーとして適応した元・魔眼持ちの先達と友誼を結ぶことになったのである。

 

 

◆◇◆

 

 

「マシュー! 頑張れよー!」

 

 大空に向かって大声でそんなことを叫んでいるリツカを、セオは急いで回収する。

 明らかに彼は酔っていた。

 どんな酒を飲まされたのか、ちょっと見ない間にベロンベロンの泥酔である。

 

「お酒の失敗は若者の特権ですよねー……あ、結構ガッシリしてる……」

 

 青年の細身の身体には意外と筋肉がついており、リツカより背の低いセオが彼を引っ張るのにはそれなりの労力が必要だった。

 

「リーダー、リツカ君連れてきましたよー」

 

「ああ? ……そこに寝かせとけよ」

 

 召喚サークルから少し離れたところで使い魔のワイバーンと一緒に立っているのが、【ワカメ王国(キングダム)】のリーダーだ。名前は言ってはいけないことになっている。

 

「ッたく。あのマシュって女にしてもアイツにしても、よくやるよなァ。あんなあからさまに怪獣じみたデカブツ、対策なしの初見プレイで勝てるわけないんだから、NPCなんか置いてさっさと逃げればいいのにさ」

 

「あ、意外。リーダーはむしろ自分から行きたがると思ってました」

 

「ハッ、ありえないね。そもそも僕はここの運営が嫌いなんだ。誰がわざわざ奴らの用意した負けイベに乗ってやるもんか」

 

 リーダーはそう言って鼻を鳴らす。彼が不満屋なのはいつものことだが、ここまで分かりやすいのも珍しい。

 セオは、【ワカメ王国(キングダム)】が積極的に攻略に寄与しない「まったり系」クランである理由を垣間見たような気がした。もっと上を目指せるはずのリーダーが、こんな中堅でくすぶっている訳も。

 運営の提供する大きなシナリオの流れに乗りたくない、という人は決して少なくはない。その原因の一つには、プレイヤーがVRという架空世界に束縛されぬ自由を見出すからだという。

 しかし、周りのプレイヤーたちを見る限り、それだけで説明できる話でもないように思うのだ。……いずれ職場に戻れたならば、一業界人としてきちんと検討してみたいテーマである。

 

「……リーダー。そう言えば聞いてなかったんですけど、【ファーストオーダー】、途中離脱したんですよね? どこに行ってたんです?」

 

 ──そんな話の流れだったせいだろうか。敢えて聞かずにいた問いを、柄にもなく彼へと投げかけてしまったのは。

 

「……それ、僕が言う必要ある?」

 

「無いですけど。なんだか気になって」

 

「ふぅん。……まぁ、いいか。【ファーストオーダー】の舞台になった街、あるだろ? F市。あれ、実は架空の都市じゃないんだよ。僕はサァ、昔そこに住んでたことがあるのさ。で、土地勘は残ってたから実家まで行ってみたんだけどね。……滅茶苦茶に燃えてたよ。思わず笑っちまった」

 

 そう言って、ハハ、と声を立ててみせる。

 セオも笑いを返そうとしたが、どうにも上手くいかないようだった。

 

「お前はどうなんだよ。【ファーストオーダー】には参加できないって言ってただろ。予定が変わったのか?」

 

「わたしですか? そうですね……」

 

 セオは、少し逡巡した。きっと信じてもらえないだろう事情を、どこまで共有するべきか。

 ……だけど、まあ。それを言ったらリーダーの実家の話だって同じようなものなんだろう。それを聞いてしまったからには、自分だけ隠すのもどうかと思われた。

 

 それに、どのみち。

 セオが事情を話すことで何が起きるのか、そんな「未来」なんて今の彼女には皆目検討もつかないのだから。

 

「──別に、信じなくていいんですけど。わたし、現実世界では未来が視えてたんですよ」

 

「……はァ?」

 

「ですよね。まあ、今は無理なので気にしないでください。目も、最初のうちは大変でしたけど今ではすっかり大丈夫ですし。

 ああ、聞きたいのはわたしが【ファーストオーダー】に参加した理由でしたよね? 簡単です。あの日、それ以外の未来が全く見えなくなっちゃったんですよ。『FGO』にログインしてゲームやってる以外の未来が、プッツリと」

 

「……ふーん」

 

 怪訝な表情で、リーダーはセオの話を呑み込んだ。

 セオも、なんだかいたたまれなくなって軽く寝息を立てるリツカの側から立ち上がる。視線を投げた先に【ノーリッジ】のプレイヤーたちの姿が見えた。さっきは彼らの世話になったみたいだし、少し挨拶してこようと考え歩き出す。

 

 ……正直なところ、セオにしてみればリーダーが彼女の話を信じていても、いなくても、どちらでもいいと思っている。ただ、ひとつだけ懸念すべきことがあるならば。セオは、あの日自分が視たゾッとするような虚無の暗黒を思い出す。未来の消失。それが意味するのは、一体……

 

 ──未来視能力者【瀬尾静音】。彼女は、条件さえ揃えば「世界の終わり」だって未来視することが出来るのである。

 




主人公をよそに、勝手に事態を把握し連帯していくプレイヤー。
主人公もちゃんと活躍しますよ。きっと。そのうち……。

蜂蜜酒(ミード):蜂蜜から作ったお酒。たぶんオルガ秘蔵の一本。

 人類最古の酒とされる蜂蜜酒は神話的にも出番が多い存在で、FGOでもメイヴの宝具として超すごい蜂蜜酒が設定されています。基本的に使用されない案件だとは思いますが。
 また、クトゥルフ神話に登場する空飛ぶ怪物『バイアクヘー』を呼ぶためには、黄金の蜂蜜酒が必要だとされていたり。……ウィキペディア先生によると、なんかアメリカではバイアクヘーに騎乗した円卓の騎士トリスタンが登場するアンソロジーが出てるらしいですね。
 クトゥルフ×円卓……6章のニトクリスかな?


◆【ノーリッジ(現代魔術科)】の愉快な仲間たち
BestPupil(ベストパピル)】/『一番弟子』:
スヴィン・グラシュエート。獣性魔術の使い手。エルメロイII世を崇敬しており、『プロフェッサー・カリスマ』というアダ名を広めた男でもある。いつか獣系サーヴァントたちと絡めようと思って出してみたはいいけれど、果たして作者に奴らをそれらしく描写できるかどうかが問題だ。具体的にはキャットとジャガー。

ライネス:
ライネス・エルメロイ・アーチゾルデ。Fate/Zeroに登場するディルムッドのマスター『ケイネス』の姪。ケイネス死後はエルメロイII世を義兄として迎えている。魔眼持ち。月霊髄液は持ち込めなかった。

フラット:
Fate/strange fakeではジャック・ザ・リッパーのマスターですが、本作における彼の役割は、全てが終わった後スヴィン君に自慢されて超悔しがる役です。こいつを下手に突っ込むとグランドオーダーじゃなくてフラットオーダーになっちゃいそうで。
エルは連絡取ろうとしたけどなんか普通に行方不明だったという設定。

グレイ:どうしよう……。

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