FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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ダ・ヴィンチちゃんがカルデアに来なかったif世界。代わりにヤツが来た。


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>>> [1/3] カルデア召喚英霊第3号『トーマス・アルバ・エジソン』

 

 

「ワーッハッハッハッハ! この私を呼んだのは君かね? なに? 未来を観測する装置を開発した? 時空特異点に干渉する技術を開発中? ……フフフ、フハハ、ハハハハハ! よかろう、この私にすべて任せるが良い! この『世界一の発明家』、トーマス・アルバ・エジソンになぁ!」

 

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「──ラプラス! カルデアス! シバ! なるほど素晴らしい発明ではないか! 私も負けてはおれんな! この発明王の名にかけて、より素敵で素晴らしいファンタスティックな発明を成し遂げようではないか!」

 

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「なに? 当初想定されていたものと違う? ハハハ! そうだろう、そうだろう! この私が3日ほど徹夜して『概念改良』したのだからな! 全世界から選ばれたマスター適正者数十人によるレイシフト計画……アイディアは悪くないが、いささか非効率ではないかね? 技術は万人のためにあるべきものだ。では改善案(プラン)を発表しよう。諸君、注目!」

 

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「私は思うのだが……諸君らが考える『レイシフト適性者による特異点へのレイシフト』計画というのは、夜道を行くのに特別に夜目が効く人間を集めるようなものだ。しかし、技術の本道はそうではあるまい。夜の闇を怖れるならば、闇を照らせ! 特別な個人に頼るのではなく、万人に等しく光を与えるのだ! レイシフト適性に依存しないレイシフト技術! この私がそれを発明しようというのだよ! ヌワーッハッハッハッハッハ!」

 

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「ついでに言わせてもらえば……『令呪を3画持った数十人のマスター』よりも、『令呪を1画しか持たない3倍の人数のマスター』の方が強いのではないだろうか? むしろ令呪に割く魔力リソースで戦力増強を図るべきでは? 超高品質の一点ものより普通品質の量産品! 数こそ正義! 時代は大量生産だ! ……何だねロマニ君、変な顔をして……もっと私を賞賛してくれてかまわないぞ? ハーッハッハッハ!」

 

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「なに、令呪がないとサーヴァントが反逆する? それはマスターの生死に関わるか……由々しき問題だな……ムムム……」

 

「……ムム!? 閃いた、閃いたぞ! やはり私は天才だった! 常に前進する天才! 交流至上主義者などとはモノが違う! そう、『生きたマスターを使う必要など無い』のだ……!」

 

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「……つまり! 特異点に人形アバター(キャラクター)を送り込み、それを現代から操作すれば良い! ゲーミフィケーション! 最近では、我が祖国アメリカでも軍の無人機操縦に取り入れられていると聞く! これはデカい商売になるぞ……! 誰か! 特許出願の手続き準備を開始したまえ! 全世界分だ! ハリー! ハリー!!!」

 

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「レイシフト用に開発されていた『コフィン』の技術を使えば、限りなくリアルなゲーム体験が可能になる……! そうだ、時代はVRだ! 我々カルデアが特異点座標を特定し、そこに全世界のマスター(プレイヤー)たちがネット回線経由でレイシフト(ログイン)する! サーヴァントは私同様カルデアが契約し、適宜レイシフト先のマスターと仮契約させればいいだろう! こ れ だ!」

 

 

>>> [2/3] とあるβプレイヤーの述懐

 

 

 2014年1月1日、世界初のVRMMOゲーム『Fate/Grand ONLINE』はβ版としてリリースされた。

 

 事前公開のトレイラームービーでは、「既に全世界規模での展開を見越している」との強気な発言が運営会社のディレクター自らによってなされている。

 発言の内容はもとより、そのディレクターの姿が獅子頭のマスクを被ったマッチョ系不審人物にしか見えなかったことがSNS等を中心に大層話題を呼び、β版が先行公開された日本のユーザー達も少しお高めの専用機器を興味本位で購入したものだ。お年玉を狙いすましたかのような発売日設定には、お子様たちから怨嗟の声が上がりもしたが。

 

 そしてかくいう俺も、正月休みを利用してこのゲームを始めた一人である。

 と言っても、別に最新ゲーム機をすぐ揃えられるほど俺が裕福だったわけじゃない。年の瀬に友人と一緒に献血に行ったら、それが何だかすごくレアな血液だったらしく、提供協力への謝礼としてゲーム一式まるごと戴いたというだけの話だ。

 

 ……思い返してみると、すごく胡散臭いなこれ。

 そういえば献血担当者もなぜか外人ばかりだったし、渡された名刺に印刷された名前も【ハリー・茜沢・アンダーソン】。……怪しすぎて逆に大丈夫な気さえしてきた。本当にヤバイなら逆にもう少し隠すんじゃないか。

 

 ちなみに、超激レア献血を叩き出したのは一緒に行った友人の方だ。

 一応俺の血液も”そこそこ”価値があるらしいが、そこそこって。献血担当者が言っていいセリフじゃないだろ。まあ、「お連れ様」の俺にもついでみたいに高額ゲーム機をくれるっていうんだから、実際文句はない。というか赤十字社は一体いつからこんなに太っ腹になったんだろうね?

 俺は草葉の陰のデュナン氏へと感謝の祈りを捧げた。感謝と祈りは無料(タダ)なのでコスパが良い。『犠牲なき献身こそ真の奉仕』という名台詞を残したのは同デュナン氏のお知り合いのナイチンゲール女史だが、流石に偉人は良いことを言うものだ。

 

 

 ……さて。ゲームを開始しよう。

 専用ゲーム機『コフィン』(棺桶(コフィン)。いきなり最悪のネーミングだ)を身体に装着して電源を投入し、起動。何やら延々と表示される注意・警告・勧告・同意書・初期設定などを適当に捌いていくと、お楽しみのキャラクリが始まる。

 

 2014年に発売されたオンラインゲームとしては信じがたいことに、このゲームはプレイヤーの身体特徴をそっくりそのまま取り込んでプレイ開始することが可能だ。文字通りの分身が作れる。

 そりゃあもちろん、自分の身体と同じアバターを使うのが一番没入感を得られるだろうことは分かってるさ。でもそれって、個人情報ダダ漏れってレベルじゃないだろ? だから、無事それっぽくキャラクリを終えた後、「待機部屋」で待ち合わせた友人が到着したとき、俺は叫んだね。

 

《リツカお前そのまんまじゃねーか!?》

 

「あ、おまたせー……って、何の話?」

 

 ちなみに俺からの発言はいわゆる非公開チャット、ささやきとかtellとか呼ばれるやつだ。一方の友人【リツカ】……藤丸立香は、普通に公開チャットで返してきやがった。あとで直接違いを教えてやらねば。とりあえず俺も公開に切り替える。

 

「いや、これオンラインゲームなんだが、そのアバターと名前で大丈夫なのか? 色々と」

 

「…………ああ、確かに。うーん……でも、もう始めちゃったしなあ。あの長い初期設定をまたやり直すってのも……」

 

 むむむ、と今更ながらに悩む立香のアバターは、日本人らしい黒髪に日本人離れした碧眼が妙に映えるイケメンだ。……そういえばこいつ、リアル容姿が既にちょっとファンタジーっぽいな。案外そのままでも良いのかもしれん。

 周囲を見渡せば、同じく待機部屋に集った連中も現実の姿を美化したと思しきフォトショ系美形男女が多い。なんで分かるかって? 俺も男だからだよ。何にせよ、俺みたいにガッツリ作り込んでいるのはむしろ少数派のようだった。俺は急に気恥ずかしくなった。

 

「ま、まあ良いんじゃねぇか? 周りの連中もリアル容姿をちょっと弄ったくらいの感じみたいだし、この手のゲームって容姿の再設定可能だったりするし!」

 

 ししし!

 

 ……とまあ、そんなこんなで一緒にプレイ開始した俺たちは、この妙ちきりんなゲームに一年半ほど付き合うことになる(ちなみに容姿は再設定できなかった)。一年半。その間、このゲームはずっとβ版のままだった。初期こそ目新しさから相当数のユーザーがいたものの、徐々に興味本位の奴らは去り、良くも悪くも安定したゲーム環境が整ってきた。

 

 だが……そんなある日。このゲームは、突然その本性を現したのだ。

 

 西暦2015年7月31日。俺たちβプレイヤーは知ることになる。このゲームが提供するシナリオが、本当の意味で「未来を取り戻す物語」だったことを。

 

 

 

>>> [3/3] 本サービス開始!

 

 

「フハハハハ! 見たまえ、この売上額を! この資金で更にサーバーを増やし、電力供給元の発電所も増設案を作ることができる! そして余った分で超電導直流送電の技術開発に投資を……」

 

 豪華な執務室で、獅子頭の男が笑っている。

 

「いい加減にしなさい。『FGO』は既に十分な設備投資を受けています。これ以上は過剰です。……あと、我々の責務と関係ない直流への技術投資は、横領と判断しますので」

 

 それをピシャリと(たしな)めたのは、獅子頭の男の対面に座す銀髪の女性だ。

 執務室に据え付けられた、見るからに高級なソファへ腰を下ろした彼女は、両脇にサーモンピンクの髪をした柔和な印象の男性と、緑一色のコーディネートに身を包んだスーツにシルクハット姿の男性をそれぞれ控えさせている。

 年の頃は20代半ばといったところか。端正な容貌に浮かべた剣呑な表情が印象的な女性だ。名を、オルガマリー・アニムスフィア。獅子頭の男が所属する組織『カルデア』の所長を務める人物である。獅子頭の男にとっては直属の上司に相当していた。

 

「貴方の甘言に乗って数年。確かに『FGO』に参加したマスター(プレイヤー)の練度は予想を越えて上がっています。それに対して、別口で行っていたレイシフト適性者のスカウト成果は(かんば)しくない。ええ、認めましょう。貴方は確かに天才だった。そして、ゆえに……サーヴァント、エジソン。カルデアが『ゲーム』の運営を終えて、本来の計画を進める時が来たのです」

 

「本来の? それは……つまり、本物の特異点調査を行うということかね?」

 

「ええ。状況は既に逼迫(ひっぱく)しています。レフ、資料を」

 

 レフと呼ばれた緑服の男が、獅子頭の男エジソンに分厚いA4紙の束を差し出す。エジソンはそれを恐るべき勢いでめくり、最後のページまで目を通し終えると、獣めいて低く唸った。

 

「突然未来が観測不可能になり、特異点が2004年日本の地方都市に現れた……フゥム」

 

「調査は、グリニッジ標準時で7月31日の正午開始とします。マスター(プレイヤー)たちに通知し、参加を呼びかけなさい。ゲーム内通貨や素材であれば、参加報酬を用意しても構いません。ただし、現地でのミッション作成はこちらで行い、その指示には極力従ってもらう旨、確実に伝えておくように」

 

「まあ、通知はするがね。しかし彼らに言うことを聞かせるのは難しいぞ」

 

「それをするのがディレクターの仕事でしょう? それとも、かの高名な経営者であるエジソン社長は、その程度のことで音を上げるのかしら?」

 

「ぬぅ……それを言われるとな」

 

 プライドをくすぐられたエジソンがぐぬぬと喉を鳴らすのを見て、オルガマリーは席を立つ。言いたいことは全て言い終えた、という顔だ。彼女はスタスタと執務室の出口へ歩き、扉の前でもう一度振り返って言った。

 

「では、後は任せます。ふん、プレイヤーたちも喜ぶでしょうよ。あれだけ散々イベントが無いイベントが無いと我々運営(カルデア)揶揄(やゆ)してきたのですから。待望のメインシナリオ、待望の大規模イベントです。文句は言わせません」

 

「どんな揶揄をされたか知らんが、なにか根に持ってないか……?」

 

「ッ……誰も根になど持っていません! わたしが以前たまたま好意で運営ツイッターに投稿した犬っぽい珍生物の写真へのリプライ欄が、有象無象の罵倒や写真と関係ないゲームへの要望コメントで埋め尽くされたことなど! 一切! 全く! 気にしていませんから!」

 

「ああ、フォウ君か。今もカルデアにいるのだろう? 彼は可愛いよな。写真があるなら見せてくれないかね?」

 

「それで貴方に褒められてもしょうがないでしょう!? まったく! これで失礼するわ!」

 

 フン! と鼻を鳴らしてオルガマリーは部屋を出ていった。同伴者たちが後に続く。

 一人残されたエジソンは、先程の書類束をもう一度読み直すことにした。頭脳明晰なるエジソンの脳裏に、調査(イベント)当日までにやるべきことが様々にリストアップされ始める。彼はそれを更に重要度別でランク分けし、適切な担当者を考え仕事を割り振っていく。仕事量的には、5徹といったところか。

 

「我が『FGO』事業も新展開を迎えるか。フフフ、楽しくなってきたぞぉ……!」

 

 そう言って一人笑うエジソンは、実のところ、ただの獅子頭の怪人ではない。かの有名な発明家にして経営者と同じ名前を持つその怪人は、まさにエジソン()()であるのだから。

 

 だが、なぜ米国人エジソンがライオンマンと化しているのか? 彼の雇用主であるオルガマリーなどは特に変身に至った事情をひどく知りたがっていたが、エジソンがそれに答えることはなかった。そもそも、エジソン自身もいまいち分かっていないのである。召喚に際して何か色々あったのかもしれないが、彼はそういった事情も、異変そのものさえ問題とはしなかった。

 

 なぜなら、姿かたちが多少変われどエジソンはエジソンであったからだ。

 発明王とも称された偉大な頭脳がある限り、彼は彼であり続ける。より優れ秀でるよう改善されたモノを考案し、大量生産して、世界へと広める。召喚からこれまでの彼の営みは、生前のそれと本質的に変わらなかったのだ。……そして、これからも。

 

「まずはイベント名だな! β版を超える、本サービス一発目に相応しい名前! グランドオーダー最初の戦い……『ファーストオーダー』? いいぞ、なぜかやたらとしっくり来る! 流石は私、これで行くとしよう! ハハハハハ! ハーッハッハッハッハ!」

 

 




だいたい次回までがカルデア視点。次々回(β-3)からプレイヤー側の話です。

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