魔法科高校の劣等生<The Legend of Amazons>   作:kakki-az

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お待たせしました、第二十話です。
今回はタイトルの通り知ってる人には分かるあの人が出ます。
それではどうぞ!!


第二十話《小町》

新入部員勧誘週間 四日目

 

 

千翼は達也と一緒に走っていた。

二年生同士のけんかが起きたと通報があり、千翼は現場に向かう途中で達也と合流したのだ。

二人が現場に向かっている途中、植木の陰で魔法が二人に向けて放たれようとしていた。

正確に対する移動魔法であるが達也はそれを察知し、慌てもせず事務的に魔法の種類に合わせたキャスト・ジャミングもどきを発動した。サイオンの波が広がり、魔法式が未発のまま霧散する。千翼も気付き急カーブを切る。

千翼はCADを起動しようとしたが、植木の陰にいた相手はその場から肉体のみでは不可能な速度で逃げ出した。

 

(速い!)

 

おそらく移動魔法と慣性中和魔法の併用による高速走行を前もって準備していたのだろう、犯人の速度が速く逮捕を断念した。

二人が得た手掛かりは長身で細身な犯人の後ろ姿、高速走行に振り回されない鍛え抜かれた筋力、そして犯人の右手に着けていた赤青白(トリコロール)のリストバンドだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

―三日後

 

一週間にも及んだ新入部員勧誘週間が終了し、風紀委員の仕事も少し落ち着いてきた頃。

 

「千翼くん、今日も委員会に行くの?」

 

帰りの支度中の千翼に、雫が訊ねる。

 

「今日は非番だ。やっとゆっくりできる」

「千翼くん、大活躍だったもんね」

 

そこへほのかが深雪と一緒にやって来る。

 

「千翼くんと達也さんは今すごい有名人だもん。魔法を使わないで並み居る魔法競技者を連破していった謎の一年生コンビって」

「『謎の』って・・・それ主に達也だろ、なんで俺も?」

「千翼くんと達也さん一緒になってるところを何度も目撃しているから」

「それでコンビか・・・・・」

 

千翼は深くため息をついた。

 

「でも、ほのかと雫にとっては喜ばしいことじゃない」

「それで言ったら深雪もでしょ」

「ええ、お兄様の力を持ってすれば当然なのだけど」

 

深雪は頬を赤くし、ぽわわっとした雰囲気になっていた。ちなみにほのかと雫、深雪はお互い名前で呼び合うようになった。

勧誘週間二日目の時に、深雪が名前で呼びましょうと行ったことがきっかけだった。

ほのかは名前でを呼ばれてうれしさのあまり気絶しかかったが、今ではちゃんと深雪を名前で読んでいる。

もちろん雫も。

 

「・・・千翼くん。あなたに聞きたいことがあるのですが」

 

今まで幸せオーラを出しまくっていた深雪が真剣な顔になった。

 

「なんだ?」

「お兄様は魔法による攻撃を受けられましたね?」

 

それを聞いてほのかと雫は驚愕していたが、千翼は黙っていた。

勧誘週間中にわざと騒ぎを起こし、達也が仲裁に入ったところで、誤爆に見せかけた魔法攻撃を浴びせるということが何度もあった。

しかし、そのたびに千翼が騒ぎを起こした犯人を取り押さえたので知っていたのだ。

 

「・・・そうだよ」

 

千翼は隠すことなく答えた。

 

「そのことは達也から聞いたのか?」

「いえ、妹の直感です」

「・・・直感で分かるものなの?」

「どちらかと言えば『女の勘』だと思う」

「俺としては誤爆を受けてよく無事でいられたなって思ってるけど、携帯制限も復活したんだ大丈夫だと思うぞ」

「・・・だと、いいですけど」

 

この後、深雪は生徒会の仕事があるので先に教室を出た。支度を終えた千翼はほのかと雫と一緒にバイアスロン部へ向かった。

 

 

 

 

 

「鷹山君」

 

その道中、突然、声を掛けられ千翼たちは立ち止まり振り返ると、セミロングの髪をポニーテールにした美少女が立っていた。

 

「初めまして」

「・・・初めまして。あなたは・・・?」

「2-Eの壬生 紗耶香です」

 

どこかで聞いた名前だなと思った千翼は、Einebriceで達也から聞いた話を思い出した。

 

「もしかして、剣道部の?」

「やっぱり、司波君から聞いていたのね」

「ええ、まあ・・・」

「実はそれについて司波君にお礼が言いたいなって思って、鷹山君は司波君と仲がいいみたいだから連絡してくれないかな」

「別にいいですけど、なんで俺に?」

「鷹山君にもお話したいことがあるの、一緒にどうかな?」

 

千翼はほのかと雫の方を向くと、二人は一緒に頷いていた。

 

「わかりました。達也に連絡してみます」

「ありがとう、鷹山君」

 

千翼は最っ早く達也に連絡して、紗耶香の事を話した。

 

「十五分後に学内のカフェに合流するそうです」

「わかったわ。今から行きましょう」

「はい。じゃあ、ほのか、雫、五十嵐部長に伝えてといて」

「う、うん」

「わかった」

 

千翼は紗耶香と一緒にカフェへと向かった。

 

 

 

 

 

「・・・・・」

「ほのか、行こう。・・・ほのか?」

「・・・・・えっ?な、何?」

「・・・ほのか。別にあの人は千翼くんに告白しようってわけじゃないから」

「こっ!?べ、別に私は!!」

「ほのか、慌てすぎ」

「雫がそういうこと言うからでしょ!!」

 

 

 

 

 

―十五分後

 

千翼が学内カフェの前で待っていると時間通りに達也がやって来た。

 

「別に待つ必要はなかったんだが」

「それじゃあ、達也が気付かないだろ?壬生先輩もう座ってるから行こう」

「ああ」

 

二人は紗耶香が座っているテーブルに向かう。

そこにはジュースを購入して、飲んでいる紗耶香の姿があった。

紗耶香も千翼たちの存在に気付き、キョトンとした表情がみるみる赤く染まっていく。

 

「えーっと・・・好きなんですか、ジュース(それ)?」

「うっ・・・・・良いじゃない、甘い物が好きでも!どうせあたしは子供っぽいです!」

 

千翼の質問にいきなり拗ねられてしまった。

 

「えっと・・・、達也、座ろうか」

「そうだな」

 

千翼と達也は紗耶香と向かい合わせで座る。

 

「・・・・・おほん。気を取り直して、っと・・・・・」

 

さっきまで拗ねていた紗耶香は、すぐに二人に向き合う。

 

「改めて、先週はありがとうございました。司波君のおかげで大事に至らずに済みました」

「礼には及びません。あれは仕事でやったことですから」

「ううん、それでも穏便に済んだのは、司波君がお咎め無しを主張してくれたからでしょ?」

「実際に騒ぎ立てる程のことではありませんでしたからね。壬生先輩と桐原先輩以外怪我人も出なかったことですし。その後の乱闘は剣術部の暴走ですから、少なくとも剣道部が咎められることではありません」

「あれこそ、相手が司波君だったから大問題にならずに済んだようなものよ。他の人だったら怪我人は免れなかったわ。その点あたしは桐原君に怪我をさせちゃったけど・・・・・武道をやっていれば、あの程度よくあることだわ。自分の強さをアピールしたいという気持ちを抑えられない時期が必ずと言って良いくらいある。司波君たちにも覚えがない?」

「そうですね。分かります」

「・・・・・俺も」

 

千翼と達也は答えたが、二人はそういう意識はなかった。

単純に強さを見せつけるという衝動に縁がなかった。千翼に至ってはアマゾンを狩るために戦闘技術を教えられたのだから。

 

「そうでしょ?大袈裟に騒ぎ立てる必要なんてないのよ。それなのに、あのくらいのことを問題にしたがる人が多いの。風紀委員の自分の点数稼ぎの為にね」

「・・・・・俺達も一応、委員会のメンバーなんで・・・・・。すみません」

「すみません」

 

頭を下げる千翼たち。それを見て、紗耶香は慌てて釈明を始めた。

 

「ご、ごめん!そんなつもりじゃないのよ。あたしが言いたいのは、二人はそんな連中と違ってて、風紀委員の悪口が言いたかったんじゃなくて、そりゃああのい連中は嫌いだけど、って、あれ?」

 

ゲシュタルト崩壊を起こしてしまった紗耶香を、達也は無表情に観察している。・・・・・目が笑っていたが。

既に意味をなさなくなっていた単語の羅列は、遂には声にすらならずになっていた紗耶香は、恥ずかしげに俯いた。

 

「・・・・・なあ、達也は女の子をいじめるのが趣味か?」

「そんな特殊な性癖は持ち合わせていない」

「・・・・・それはいいけど。壬生先輩、話というのは?」

「単刀直入に言います。司波君、鷹山君、剣道部に入りませんか?」

 

紗耶香はようやく、本来の用件を切り出した。だが、二人の答えは決まっていた。

 

「折角ですが、お断りします」

「俺も断ります」

「・・・・・理由を聞かせてもらってもいい?」

「千翼は既に他の部に入っています。それに俺の徒手格闘術と剣道は全く異なる系統のはず、それが分からない壬生先輩ではないはずですが?」

 

それを聞いた彼女はため息をつくと、観念した顔で口を開いた。

 

「魔法科高校では魔法の成績が優先される・・・・・そう納得して入学したけど、それだけで全部決められるのはおかしいと思わない?授業で差別されるのは仕方ない。でも、高校生活ってそれだけじゃないはずよ。クラブ活動まで魔法の腕が優先なんて間違ってる」

 

千翼たちがこの一週間で見てきた限りでは、そういった事実はなかった。

確かに魔法競技系のクラブは、学校側からバックアップを受けているがそれは魔法科高校としての名前を上げるための宣伝の一環であって学校経営の観点から行われていることである。

千翼は紗耶香が「優遇されていない」と「冷遇されている」ことの区別がついていないと思った。

しかし―

 

「魔法が上手く使えないからって、あたし剣まで侮られるのは耐えられない。魔法だけであたしの全てを否定させはしない」

 

思いがけない強い口調。そこに込められている感情は信念を超えて妄執(もうしゅう)に近いものがあると二人は感じていた。

 

「あたしたちは、今年中に非魔法競技系クラブで部活連とは別の組織を作って、学校側にあたしたちの考えを伝えるつもり。そのために二人にも協力してもらいたいの」

「なるほど・・・・・」

 

達也は笑っていた。

 

「・・・・・バカにするの」

「いえ、自分の思い違いが可笑しかっただけです。先輩のことはただの剣道美少女と思っていたんですから」

「美少女・・・・・///」

 

紗耶香は顔を赤らめてそわそわと挙動不審になっていたが、達也は気付いていない様子。

 

「壬生先輩」

 

そこへ千翼が紗耶香に声を掛ける。真剣な顔で。

 

「な、何かしら、鷹山君」

 

紗耶香の応える声が、多少ひっくり返っていたが、千翼は気にせずに質問した。

 

「先輩は先輩の考えを学校に伝えたとして、それからどうするつもりですか?」

「・・・・・えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

See You The

NEXT TARGET




なんだかんだでもう二十話目に突入しました。
皆さんこれからもよろしくお願いします。

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