例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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吸魂鬼

「インペディメンタ!」

 

震える手をどうにか抑えて呪文を放つ。

しかし、目の前の化け物には何の効果も与えない。

ハリーを追い詰めるように、それはジリジリと近付いてくる。

 

「エクスペリアームス! …クソッ! こっち来るなよ!」

 

ハリーは思いつく限り全ての呪文を放った。

 

「インセンディオ!」

 

手が悴む。

先程の暑さはどこに行ったのか、冷たい雨が空を切り裂くように降ってきた。

 

頭が眩むほどの嫌な匂いが鼻についた。ガラガラという気味の悪い呼吸音が耳に障る。割れそうなほどの頭痛にハリーは思わず膝をついた。

 

カランという音で自分が杖を落としてしまったことに気付いた。

凄まじい悪寒と恐怖心にハリーは悶える。

 

目の前の化け物が--吸魂鬼が腐ったような灰色の腕をハリーへ伸ばした。

 

『やめて! ハリーだけは…! ハリーだけは…!』

 

視界がぐるぐると回る。

女性の声がした。悲痛な声だった。

 

『お願い…! ハリーだけは助けて! 私はどうなってもいいから…!』

 

この声を自分は知っている。体から力がどんどん抜けているのを感じた。

女性の--母さんの声が鮮明になっていく。

 

頭が朦朧として何も分からなかった。何かを拒否するように体が痙攣している。

 

いよいよ吸魂鬼がハリーに触れようとしたその時。

 

「「エクスペクト・パトローナム!!」」

 

自分の横を銀色の獣が二体通り過ぎた。

大型の犬と狐の風貌をしたそれはハリーを守るように躍り出て、吸魂鬼へと向かっていく。

 

ハリーは激しく咳き込んだ。どうやら自分は呼吸も禄に出来ていなかったらしい。

 

気づけば、自分を庇うように2人の男性が立っていた。

もう母親の声は聞こえない。

 

「ハリーー!!!」

 

吸魂鬼を追い払ったシリウスとセブルスがこちらに駆け寄る前に、ハリーは意識を手放した。

 

 

 

 

 

セブルスから伝言をもらったシャルロットは、すぐにメアリーに頼んで付き添い姿くらましをしてもらった。

 

曾祖母ダリアは高齢なのに加えて今年のこの異常な暑さですっかり体を弱め、シャルロットは夏休み中ずっと看病をしていた。

 

曾祖母は心配であるが、それと同じくらい目下の心配事はドラコだ。

しかし彼は全く自分に連絡を寄越してくれない。何度かふくろう便を出したが、帰ってきたのは一通。それも「迷惑だから連絡しないでくれ」のたった一言。

それが彼の本心でないのは分かっていたけれど、落ち込む気持ちは止められなかった。

 

そんな訳で、ハリーが吸魂鬼に襲われたと伝言を貰ったシャルロットは心配と不安な感情がカンストしそうになりながら、グリモールド・プレイスへ向かったわけだ。

 

「吸魂鬼に襲われたですって!?」

 

玄関に着いたシャルロットはメアリーを帰すと、鼻息荒くリビングへと入った。

 

「やあ、シャル。 可愛い顔が台無しだよ」

 

ホットチョコレートを啜りながらハリーは軽口を叩いた。

しかし、その顔は青白い。未だに手も小刻みに震えてる。

 

おそらくオーダーメイドなのだろう、ブラック家の家紋が刻印されたフカフカなソファで、ハリーの両脇にロンとハーマイオニーが寄り添うように座っていた。

 

「あら? ハーマイオニーとロンも来てたの?」

 

「ハァイ、シャル。 ええ。 魔法界のことが知りたくて…最近はロンの家にお邪魔してたの」

 

ロンがそれを肯定するよう頷く。

 

「おう、シャルも来てくれたのか」

 

有名ブランドの黒ローブを羽織りながら、そう言ったのはシリウスだ。

明らかに仕事モードな彼の格好にシャルロットは首を傾げる。今日は休みのはずだ。

それに答えるかのように、シリウスはテーブルに置かれた手紙を指さした。

 

「な、なにこれ…!?」

 

手紙に目を通したシャルロットは驚愕の声を上げた。

それもそのはず、それは未成年が学校外で魔法を使ったことによる退学通知だった。

 

「一方的すぎるわ! そもそもやむを得なく身を守る場合は未成年の魔法は許されているのであって--」

 

「ストップ、シャル。 さっき全く同じ説明をハーマイオニーがしたからカットで」

 

ハリーは未だ優れぬ顔色のまま、笑いながら言った。そして、そのまま言葉を続ける。

 

「退学はそりゃ嫌だけど…。 それよりまずいのは、パパとセブルスおじさんにも魔法省に出頭命令が出てるんだ。 2人が魔法を使ったのはマグル街だからね」

 

「大丈夫だって! 吸魂鬼がマグルの街に現れるなんて異常事態だぜ。 すぐ正当防衛が認められるよ」

 

ロンは楽観的に笑い、未だ青い顔をしたハリーの背中をバシバシ叩いた。

 

--そう。

魔法界において、マグルに発覚される恐れがある場所で魔法を使うのは違法だ。しかし、正当防衛のように必要に応じた場合確かにそれは認められる。

 

問題は、とシャルロットは一人思考を深める。

それが魔法省が認めた場合ということなのだ。

去年のファッジの一件がある。仮に魔法省の誰かが吸魂鬼をあやつっていたら?

つまり、今回の件が魔法省の誰かが意図的に起こした事件だとしたら…?

他の目撃者がいないこの状況は、かなり不利なのではないか。

 

ハーマイオニーと視線が重なった。

彼女もまた不安げに眉を下げた。彼女も同じことを考えていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

煙突飛行で魔法省に現れたシリウスは大臣の元に行く…と思いきや向かったのはとある執務室だった。

 

闇祓いは現場仕事や訓練が職務内容の殆どであるが、魔法省の仕事は所謂デスクワークが大多数を占める。そのため執務室は部署ごとに当然大部屋となるわけだが、シリウスが目指すそれが個室であることがその主の位の高さを示していた。

 

扉をノックする。「どうぞ」と甘ったるい声が聞こえた。

薄ピンクのレースがかかったドアノブに手をかけようとして--シリウスは嫌悪感から手を離し杖を使って開けた。

 

「あら、珍しい来客ね。 貴方が私を訪ねるなんて。 --いかがしました、シリウス? 確か貴方は出頭命令が出てたはず。 こんな所に来てる場合ではないでしょう?」

 

悪趣味としか言いようがないピンクに埋め尽くされたその部屋で、同じくフリフリのピンクに身を包んだその女は、にこやかな顔で小首を傾げた。

そして、弾んだ声で「お座りなさいな」と言った。

 

杖をひと振りして椅子を用意し、紅茶のセットを運び込む。

薔薇が所狭しと描かれたセンスの無いティーセットだ。見るからに安物のそれをシリウスは鼻で笑った。

 

「いや結構。 喉は乾いていないのでね」

 

「あらあら、それは残念ね」

 

目の前の女は大して残念そうでもなくあっさりと引く。瞬く間にシリウスの分の紅茶はどこかへ消え去った。

 

あくどい手段でのし上がってきた女だ。何を入れられてるか分かったものではない。

 

「面倒な駆け引きはなしにしようぜ。 何が望みだ、ドローレス?」

 

目の前の女--ドローレス・アンブリッジはガマガエルのようにニンマリと笑みを深くした。

自分用の紅茶を口に含み、唇を蛇のようにちょろりと舌を出して舐める。

 

「仰ってることが分かりませんわ。 それより、ご子息が未成年魔法を使って、退学通告されているとか? 残念ですわね。 貴方に似て将来有望だったでしょうに」

 

「とぼけるのは終わりだ。 おまえしかいないだろう。 あんな街中に吸魂鬼を向けるなんて…俺の息子を殺すつもりだったのか?」

 

ギラリと目に剣呑な光を見せるシリウスに、アンブリッジは思わず口に寄せたティーカップを戻した。

長年にわたり闇祓い局の局長として最前線を張り続けていたシリウスの殺気は、並大抵の迫力ではない。…とは言え、それで引いてくれる相手なら目の前の女もここまで成り上がっていないだろう。

 

「心外だわ。 何故私がそんなことをしなければならないの?」

 

「前から私のことを目障りに思っているのは分かっていたよ。 だが直接手出しは出来なかった…自分で言うのも何だが、私はファッジのお気に入りだったからな」

 

アンブリッジは笑みを浮かべたまま、ただ聞いている。

 

「転機となったのはこないだの一件。 私の息子がヴォルデモートを見たと証言したことだ。…ああ、その話の真偽をここで話すのは止めておこう。 私の息子はファッジの不興を買った。 それは同時に私への不興も意味する。 おまえはチャンスだと思い、吸魂鬼を差し向けた。 ここで私の息子を葬れば、魔法省はさそがし助かるだろうよ」

 

「ふふっ。 面白いお話ね。 仮に今の話が真実だったとしましょう。 私が証拠を残してるとお思い?」

 

「いや全く」

 

あっさりとしたその返答に虚をつかれたらしい。部屋に入って初めて、アンブリッジのどす黒い笑みは消えた。

 

「今回の件、結果はおまえから見たら失敗だろう。 確かに目撃者はいないから、息子は無実を晴らせない。 このまま退学となる。 だが、それだけだ。 ホグワーツを退学になっても、ブラック家の嫡男なら他の魔法学校に転入は出来る。 ダームストラングは好かないがな」

 

「私に息子の進路相談に来たの?」

 

アンブリッジが苛ついたように、指でデスクをとんとん刻んだ。連動して、真っピンクの部屋に飾られている写真の中の愛くるしい猫が、毛を逆立ててシリウスに威嚇した。

 

犬と猫って仲悪いよな。シリウスはそんなどうでもいいことを考えた。

 

「失礼、話が逸れたな。 さらに私と友人に出頭命令が出ているが、これも大したものではないだろう。 せいぜい訓告、悪くて罰金程度だろう」

 

「そうでしょうね」

 

客観的な事実に、あっさりとアンブリッジは返答した。

しかし、その瞳には警戒の色が濃い。目の前のこの男が何を言い出すのか読めないのだろう。

 

「取り引きをしないか。 おまえにとっても得はあるぞ、ドローレス」

 

漸くシリウスは核心に切り込んだ。

 

「聞くだけ聞いてあげましょう」

 

この場の主導権を握られたくないのか、挑発的にアンブリッジも返す。

 

「息子の退学を取り消せ」

 

アンブリッジは再び余裕を取り戻し、濃いグロスが引かれた唇で弧を描いた。なんだ、この男は結局息子の嘆願に来たのかと。

 

「おかしいわね。 それだと私に何の得もなくてよ」

 

「いや、あるさ。 もしそれを呑んでくれるなら、私は闇祓い局長の座を引こう。 言っていることが分かるか? 邪魔だった私が魔法省を辞めるということだ」

 

シリウスは--まるで今日は晴れてるね、夕方雨が降りそうだねと天気の話をするかのように--涼しい顔で言い切った。事も無げに。

 

一瞬の沈黙。

予想していなかった申し出にアンブリッジはぽかんと間抜けな顔になった。

そして、事の意味を理解するとたちまち獲物を前にした獣のように、彼女の小さな目がギラギラと輝いた。

 

「貴方が--魔法省を辞めると、そう言ったのかしら?」

 

「そうだ。 悪くない条件だろう…」

 

しかし、クックッと彼女はいやらしい笑い声を上げた。

 

「いいえ! 足りないわね。あなたが魔法省を辞めることと、そうね…もう1つよ。 同じく出頭命令が出てるセブルス・プリンスがホグワーツ教師を辞めることも条件。 それならハリー・ブラックの退学を取り消せるわ」

 

「はぁ? セブルスが…あいつがホグワーツ辞めておまえに何の得がある?」

 

今度はシリウスが予想外の言葉に、眉をくっと吊り上げた。

 

「それを貴方に教える義理まではないわ。 呑むの? 呑まないの?」

 

シリウスは押し黙った。

立場としてはアンブリッジの方が優位である。

 

「まあいいわ…。 ミスター・プリンスがいない状況ではすぐに結論も出せないでしょう。 数日以内に…」

 

「いや、その条件で呑もう」

 

シリウスがそう言うと、驚いたようにアンブリッジは目をパシパシと瞬かせた。やがて、再びニンマリと唇を三日月形に引き伸ばした。

 

「あらあら、貴方とプリンスはご学友だと聞いてたけれど。 息子を守ってもらったのに薄情なのね、ブラック局長。 --いいえ、もうミスター・ブラックと呼びましょうか?」

 

腹立つガマガエル女め、とシリウスは舌打ちをした。

こんな煽り方をされて躱せるほど、シリウスは大人ではなかった。

 

「ドローレス…いや、アンブリッジ上級次官。 一つだけ忠告してやる。 俺は血筋なんてどうでもいいと思ってる。 だが、純血だと周囲に嘘をつくのは品格に欠けるぜ。 じゃあな」

 

首まで真っ赤にしたアンブリッジが、何か言い募る前にピシャリと扉を鼻先で閉めてやった。

いい気味だ。シリウスは少しだけ胸がすいた。

 

歩きながら今後のことを考える。

自分が辞めるとなると、後釜は…普通に考えたら現在副長を務めるルーファス・スクリムジョールだろう。実力からしても申し分ない。

 

「でもあいつ…頭硬いんだよなあ。 大丈夫かなあ」

 

シリウスは先程の威勢とは打って変わって少々気弱な声を出した。

そして、不死鳥の騎士団が再結成した今、闇祓い局の局長という自身のポストは魔法省の内部を探るのに大きな役割を持つものであったのは自覚してる。

 

説教されそうな団員を数え…片手を超えたところでシリウスは数えるのを止めた。取り敢えず一番怖そうなダンブルドアはセブルスに任せよう。

 

 

 

 

 

「で、これは何のパーティーなのよ?」

 

「パパとセブルスおじさんの無職記念パーティー」

 

グリモールド・プレイス12番地。

夜更けまでパーティー…という名の大人たちの飲み会は続いている。

 

「ちなみにリーマスおじ様も今無職よ」

 

「そりゃ有難い情報をどうも」

 

シャルロットは、ベランダで夏の夜風に当たっていたハリーにファイアウィスキーの入ったグラスを手渡すと、隣りに座った。

風の中に潜む冷たさが、秋がもう近いこと--つまり夏休みの終わりを告げている。

 

「宿題は終わってるの? 今年はあまり手伝う時間なかったけど」

 

「今年はハーマイオニーが見てくれた」

 

ハリーはぺろっと舌を出しておどけた。

シャルロットはクスッと笑う。ハーマイオニーのことだ、きっと厳しく彼の学力向上に付き合ってくれたのだろう。

 

「ロンとハーマイオニーはさっき隠れ穴に帰ったわよ」

 

「あはは…。 気使わせちゃったかな?」

 

ハリーの吸魂鬼襲撃に伴いブラック邸にいたロンとハーマイオニーは、その後帰宅したシリウスからハリーの無罪と引き換えに、2人の大人が職を失ったことを聞いた。

ショックを受け静かになったリビングで、突然シリウスが「パーティーでもしよう。リーマスも呼べ」と言って…今に至る。

 

「落ち込んでる?」

 

ハリーはあまりに直球に聞いてくる幼馴染の顔を見上げて、力無く笑った。シャルロットのこういう所が好きだった。

アルコールのせいか僅かに頬に赤みが差しているシャルロットは、子どもっぽさが消えて写真で見た彼女の母親に益々似ていた。

 

「まあね。 僕の退学取り消しが、パパが闇祓い辞めてセブルスおじさんがホグワーツ辞めるんじゃ…吊り合わないよ」

 

「そう思うなら勉強を頑張りなさいよ。 今年はふくろうの年なんだから」

 

「シャルは恨んでないの? 僕のせいでセブルスおじさんホグワーツ辞めさせられたんだよ。 その--お母さんの入院費用だって…かかるでしょ?」

 

最後の言葉は思わずくぐもった。

しかし、シャルロットの返答はあっさりしたものだった。

 

「当の本人が何とも思ってないのに、何で私が恨まなきゃいけないのよ?」

 

ハリーは少し気が楽になって、グラスに口をつけた。

 

ハリーもシャルロットも分かってるのだ。

大人たちがどれだけ自分たちを愛しているのかを。ハリーの命が助かることに比べたら、職を失うことなんてそれこそ天気の話のように些細な問題なのだ。

 

「パパたちの絆って特別だよね。 言葉がいらないっていうか…繋がりあってるっていうか…。 家族の僕たちでも入り込めないって時ない?」

 

シャルロットもウイスキーを飲み進める。なかなかの量を彼女は飲んでいる。

 

部屋の中でシリウスの大きな笑い声が聞こえた。セブルスも屈託なく笑って彼の背中をバシバシ叩いてる。

そこには何の遺恨もない。

 

リーマスは先に潰れたのか、ボトルを抱えたままソファーで足を投げ出して寝ていた。どうやらシリウスが彼の顔に何やら落書きをしているらしい。

いい年こいてやってることは完全にティーンエイジャーだ。

 

「えぇ。 でも私は……私たち幼馴染の絆もそうだと思ってる」

 

「うん」

 

「今一番辛い思いしてるのはドラコよ」

 

「わかってる」

 

ハリーはポツリと言葉を返した。

シャルロットに倣ってウイスキーを呷る。喉の奥がカッと熱くなった。

 

「パパたちの絆が深いことは否定しないけど、でも一人それを永遠に失った人がいるでしょう。 私はドラコを絶対にそうはさせない」

 

「それは…幼馴染の絆ってより君の恋心じゃないの?」

 

ハリーがわざと意地悪なことを言ってみた。

すると、シャルロットはアハハッと彼女らしくなく快活に笑った。それがハリーの本心じゃないことなんて、言葉にしなくても分かっていた。

 

「馬鹿ね。 3年前のハリーが私にそうしてくれたように、私とドラコも貴方のために命賭けられるわ。 そんなの貴方が一番わかってるでしょう?」

 

「当然」

 

少し酔いが回っているのか、彼女にしては珍しく饒舌だった。

小っ恥ずかしいことを言ったのを自覚したのか、誤魔化すようにシャルロットは話を変えた。

 

「あーあ、早くドラコをどうにかしないと。 パパは無職だし、こうなったら何がなんでもマルフォイ家に嫁ぐしかないわよ! 玉の輿だわ!」

 

シャルロットの声は不自然なくらい明るかった。

彼女もまた表には出さないだけで、ドラコのことで深く傷ついているのだろう。

 

「君はおじいさんがマグルだもんなあ。 マルフォイ夫妻の説得は時間かかるかもね」

 

「そうよねぇ。 ナルシッサおば様もルシウスおじ様も私に良くしてくれるけど、どこかで線引かれてるのは気付いてるのよ」

 

「あの2人は特に強烈な純血主義だからね。 ナルシッサおばさんも僕がブラック姓名乗ってるのは、内心では許せないと思うよ」

 

シャルロットは、ダリア曾祖母の「貴族はいかなる時でも本心を見せてはならない」という教えを思い出した。自分は全く守れてないけれど。

 

それでも、ナルシッサやルシウスの見せてくれた優しさが全て嘘だとは思いたくなかった。

 

「まあ、ドラコとどうしても結婚したかったら既成事実つくるしかないんじゃない?」

 

「どういうことよ?」

 

「赤ちゃん作っちゃうのさ」

 

あっさりハリーは言った。

隣りでぷるぷると震えるシャルロットにも気付かず、ハリーはぺらぺらと言葉を続ける。

 

「マルフォイ家は一人っ子が多い家系だから、特に後継ぎ問題に敏感なんだ。 だから、例え血筋に思うとこがあっても子どもが出来ちゃったら--」

 

最後まで言いきらぬうちに、ハリーの頬に滅茶苦茶に痛いビンタが放たれた。

 

そして、どちらからともなくゲラゲラと大笑いした。

一頻り笑ったあと、ふとシャルロットは真面目な顔をした。

 

「今年からはあまり寮で話せなくなるわね」

 

「そうだね。 まあ、ふくろう便でも飛ばすよ。 ドラコのこと頼むね」

 

「…ええ。 そういえば、明日あたり学校から手紙届くかもね。 監督生、狙ってるのよ」

 

「へえ」

 

わざと興味無さそうにハリーは返した。

 

「セブルスおじさんは教えてくれないの? 今日辞めたとしても、もう監督生はとっくに決まってるだろ?」

 

「パパはそういうの厳しいの。 教師間の学校の情報は私にすら教えてくれないわ。 …なに? まさか貴方も狙ってた? ハリーはどうかしらねえ。 お世辞にも授業態度良くないでしょ?」

 

「確かに僕は真面目じゃないけど…。 でも僕以外にふさわしい人いる?」

 

「随分自分に自信がお在りのようで。 あなたが監督生になったら、グリフィンドールは終わりよ」

 

シャルロットは腕を組んで呆れたように息を吐いた。

 

「はあ? 君みたいな暴力女が監督生になったらスリザリンこそ終わりだよ」

 

まだピリピリと痛む頬を、これみよがしにさすりながらハリーは言った。





住んでるのがグリモールド・プレイスなので近くにフィッグおばさんも住んでません。そのため原作と異なり証人がいません。

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